test

「女将のこえ213」山根 みよさん、伯翠庵(福岡県北九州市)

2018年8月26(日) 配信

山根みよさん 伯翠庵

どんな世界でも私らしく

 日本の港で最も門司が栄えていた昭和の半ば、伯翠庵はかつて桜の公園だった小高い丘に開業した。街中からほんの5分で着ける別天地だ。 

 みよさんは家業を継いだ3代目。裏山の木々は季節ごとに風情を魅せ、海に沈む夕景は見飽きることがないという。

 山を走り回って育った自然児は、「今度は空を体感したい」と全日空で客室乗務員になり、その後、医師と結婚して専業主婦に。夫の医療研究のため、7年をアメリカで過ごし、5人家族となって2011年に伯翠庵に戻ってきた。

 みよさんは、実母で女将の久米洋子さんと、「まさか私が継ぐことになるとはね」といまだに話すという。「思ってもみないことでしたが、姉には東京の暮らしがありますし、誰かが継がなければ大好きな場所がなくなってしまう。10年先のことを考えたとき、私がやるしかないと思いました」

 同じサービス業でも飛行機と旅館は異なる。「調理補助で身に染みた冬の水の冷たさ、施設が点在する環境で温かいものを温かく届ける大変さ。一つひとつの仕事をみんなと一緒に体で覚えるようにしてきました」

 2年目に火曜定休を打ち出した。「私もみんなも疲れていると感じたんです。いいサービスのためにも休日は必要。アメリカでは1カ月間のクリスマス休暇は普通のことですし、それがよりよい仕事や生活につながっていましたので抵抗はありませんでした」

 暮らしたのはノースカロライナとメリーランド。雄大な自然を上回って印象的だったのは人の温かさだった。
「何の差別もなく、子供も私もみんな現地の方々と仲良しでした。鍵もかけずに互いの家を出入りしていたんですよ。何を大切に生きるのか、心の在り方を教わりました」

 このとき出会った年配の女性は、伯翠庵まで会いに来てくれた。「あなたなら世界のどこでもやっていける」と太鼓判を押してくれたアメリカの母だ。

 その世界とは、近くて遠かった旅館だった。伯翠庵で働き始めて7年。数年後には世代交代を控える今、みよさんは思う。「働いている人の空気感が何より大事。『今日はよかったね!』と、みんなで接客を喜べる日は、空気感もよかったはずです。そんな日を増やすために、システム化や学びの場や意思疎通、国内外への情報発信と、やることは山積みです」

 「小川のせせらぎ、吹き抜ける風、鳥の声、スタッフの温かさ。食事と併せて五感も楽しんでいただける私らしい宿を目指します」。

(ジャーナリスト 瀬戸川 礼子)

住所:福岡県北九州市門司区長谷2-13-33▽電話:093-321-0229▽客室数:5室(25人収容)、一人利用不可▽創業:1962(昭和37)年▽料金:1泊2食付1万6632円~▽3000坪の敷地に結婚式場、宴会場、客室、茶室が点在する。料亭を主体に営業。昼3500円~、夜5000円~。火曜定休。

コラムニスト紹介

ジャーナリスト 瀬戸川 礼子 氏
ジャーナリスト・中小企業診断士。多様な業種の取材を通じ、「幸せのコツ」は同じと確信。働きがい、リーダーシップ、感動経営を軸に取材、講演、コンサルを行なう。著書『女将さんのこころ』、『いい会社のよきリーダーが大切にしている7つのこと」等。

いいね・フォローして最新記事をチェック

コメント受付中
この記事への意見や感想をどうぞ!

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE
TOP

旅行新聞ホームページ掲載の記事・写真などのコンテンツ、出版物等の著作物の無断転載を禁じます。