2024年4月1日(月) 配信

「古窯ホールディングス」(山形県上山市)は、旅行新聞新社が取材活動などを通じて観光業界の取り組みのなかから、創意工夫の見られるものを独自に選び表彰する「日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー2023」(2023年12月1日発表)のグランプリを受賞した。旅館業のほか、事業の多角化で地元・山形の観光や関係人口の創出を目指す点が評価された。「今日、この瞬間に、最高の山形を。」を軸に、事業創出や人材育成などに取り組む佐藤太一代表取締役専務と、ブランドデザイン室の木幡純一室長に話を聞いた。
【馬場 遥】
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□〝フレッシャーズキャンプ〟 次世代の人材育成に取り組む
佐藤:古窯は1964(昭和26)年、招雲閣別館という客室数7部屋の自炊旅館から営業を始めました。60(昭和35)年に館内の敷地から1300年前の須恵器の窯跡が見つかったことから、「古窯」に社名を変更しました。
2007年には山形県・黒沢温泉の厚生年金保養所を取得し、翌年に36室を備える「悠湯の郷ゆさ」を、16年にはかみのやま温泉にある民間企業保養所を入札取得して、14室の「おやど森の音」を開業しました。ゆさは地元を中心とした全世代・ファミリー層、森の音は30代を主なターゲットとした小規模旅館を展開しています。
また、19年には創業350年の歴史を誇る山形県・あつみ温泉の老舗旅館「萬国屋」の事業を継承しました。
──18年に古窯グループが設立してから、旅館業に限らずレストラン業やグランピング施設運営など、事業の多角化を推進しています。
佐藤:ホールディングス設立と同年に「山形プリン」を開業するなど旅館業以外のスイーツ専門店やEC事業、グランピング事業などを展開しています。
新しい事業は私がきっかけを作り、社内メンバーが具体的なイメージを膨らませて作っています。
考え出すアイデアや我われの軸として常にあるのは、「今日、この瞬間に、最高の山形を。」という経営理念と、古窯グループの存在意義である「山形が誇る農村文化の良さを日本中に広げる」というグループミッションです。
これらの言葉は、30─40代の若手幹部が経営合宿を開き、自分たちの納得のいく言葉を半年間くらい掛けて探し出したものなので、結束力は強いと思います。
山形の経済を回していきたいという想いももちろんありますが、一番は何よりも人材を育てたい想いが強いです。これまでに先代から培った旅館業での学びを礎に、さまざまな事業を展開しています。
──グランピング施設「yamagata glam(ヤマガタグラム)」や「おふろcafe yusa」など、若者向けの展開について。
佐藤:30年ほど前に購入したまま手付かずだった最上川沿いの土地を活用し、20年12月にグランピング施設を開業しました。翌年の11月には、村山市と連携協定を結び、村山市の中心施設である多目的温泉保養館「クアハウス碁点」とのさらなる連携強化を通して、観光産業を発展させることを目指しています。
「アイデア」という事業の種は私が作っていますが、若い層に刺さるようなコンセプト作りは現場で生まれています。グランピング施設やおふろcafeなどは、どういったファクトが入ると若い世代に興味を持っていただけるのか、若い社員で構成されたチームでプロジェクト案を出してもらっています。
木幡:東北・福島出身の若手映像アーティストとタイアップした地方創生プロジェクトを立ち上げ、古窯創業70周年記念映像を制作するなど、山形のファンをつくるための魅力づくりや発信を積極的に行っています。
若い人たちに訴求力があるコンテンツを発信することは、長い目でみれば顧客育成につながります。若いころに古窯グループのコンテンツに触れて、旅館の古窯を知ってもらい、いつかこういうところに泊まってみたいなぁと思っていただけるような、我われだけでなく、お客様も10年、20年成長していくものですので、そういった側面は大事に考えています。
──新しい人材を採用するときに重視していることは。
佐藤:やはり、先ほどの経営理念・グループミッションに共感していただけるかどうかが一番大切です。常にここを念頭にして事業を展開していますので、そもそも考え方が合わなかったり、何か違うなと思ってしまったりすると、人は長続きしません。
ミッションへのコミットメントはモチベーションに強く関わってきます。
会社は大きな船であり、我われが目指す方向と同じ方向を向いていて、船へ一緒に乗ってくれる人が望ましいですね。
──グループ全体でレベルの高いサービスを提供するために、人材育成や働く環境づくりなどに取り組んでいらっしゃいます。このなかの「フレッシャーズキャンプ」という取り組みについて。
木幡:入社2、3年目の社員を対象に、未来のグループ人材を育成するための研修プログラムとして「フレッシャーズキャンプ」を行っています。年間全9回にわたって研修を行い、所属・部門を横断しながら学びの機会を提供し、自立自走できる人材育成を目指しています。
キャリアオーナーシップや、チームワーク、マーケティング、ブランディング、収益構造などを学んだうえで、新規事業企画を作成し、役員の前でプレゼンを行うことをゴールとしています。
佐藤:5カ年の事業計画を立て、キャッシュフローやシミュレーションの結果を見たうえで、本当に良い企画は会社の方で採用することとしています。
この形式は、グループミッションなどを生み出した幹部層の経営合宿をもとにして構成しており、フレッシャーズキャンプでは、新しいことを始めるにあたって大事な「プロセス」を学んでもらっています。
──新しいアイデアが生まれる土壌づくりに努められているのですね。
木幡:現在5期目で、これまで15個の新規事業提案がありました。まだ採用に至った事業計画はありませんが、山形のアクティビティ体験をチケット化したギフトECや、託児所の運営など、よく考えられた企画を発案してくれていると思います。
──社風改革で取り組んだことについて。
佐藤:上から指示されたことをきっちりこなすトップダウンから、社員がやりたいことや目指したいことを主張し、会社がそれを支えるための体制を整えるボトムアップへ変革することに最も力を入れてきました。
HDを設立する前から取り組んできたことですが、やはり大変でしたね。創業も築く難しさがありますが、社風改革は、既に根付いていたものから新しいものへ変えていく大きな動きですから、苦労が山積みでした。
おかげさまで、今はとてもいいカタチで機能しています。
また、人材を育てるという観点からも、社風改革は必要でした。
「山形」で就職先を探すときに、真っ先に選ばれる企業でありたいと考えています。
これは、魅力的な旅館経営を行っていくことと同時に、さまざまな場所で働く意欲のある人たちが、旅館だけではなく数ある働く場のなかから「古窯グループ」を選んでくれるような企業体であり続けたいと考えているからです。
時代が大きく変わるなかで、AI革命というのは今までの革命の中で一番インパクトの大きいものになるでしょう。そのなかで、数年前と変わらないやり方や感覚で続けていけるかといえば、やはり難しいのではないでしょうか。
本気で経営して、本気で改革しないといけない。一般企業と比較されて、それでも古窯を選んでもらいたい。そして、次の事業長など未来を担う人材を育てていく。
率先して改革を進めていくことで、業界の未来を拓きたいと思っています。
木幡:最近の若手社員では、古窯(旅館)で経営などに携わりたいと意志を伝えてくれたり、海外の事業所への赴任があればぜひ行かせてほしいと手を挙げてくれたり、積極性を強く感じることがあります。
今まではこういった言葉が社員の中から出てくることがなかったので、「社風が変わってきている」と如実に感じています。
佐藤:意欲があり、積極的な人材に対してきちんとレールを敷いてあげて、仕組みを整えることが幹部の務めです。
今私がやっていること、今古窯グループがやっていること、その多角化の先で山形県の関係人口や雇用の創出を生み出していきたいという想いを胸に、ただ実直にやっていくしかないと考えています。この想いに共感していただける企業や団体と協業していくことで、また新しいことができると思います。
これから先の山形を良くしたい、という想いを抱いてやってくる人材が増えています。そういったメンバーが増えることで山形になくてはならない企業へ成長することを目指します。
【本紙1935号または4月5日(金)以降日経テレコン21でもお読みいただけます。】