No.439 ピンクリボンのお宿ネットワーク、第5回総会 情報発信を加速

ピンクリボンのお宿ネットワーク
第5回総会 情報発信を加速

 ピンクリボンのお宿ネットワーク(会長=畠ひで子・匠のこころ吉川屋女将、事務局=旅行新聞新社)は7月26日、東京都港区の東京會舘で2016年度通常総会を開いた。同ネットワークは、今後も会員宿泊施設や企業団体、医療機関と一丸となって、情報発信に尽力していく。10月には、2017年版の「ピンクリボンのお宿」冊子を発行する予定で、新規掲載旅館から特典クーポンまで、内容が一層拡充される。総会後には、加賀屋の指江香里客室部リーダーが講演を行った。

【謝 谷楓】

 
 
 
 
 畠ひで子会長は「今年の3月にホームページをリニューアルし、情報発信に尽力してきた。今後も、全国の宿泊施設や医療機関、乳がん患者団体と連携して勉強会などを行っていきたい」と語り、活動の理念を広める決意を表明した。乳がん患者・経験者にとって、より快適な宿泊と入浴環境を求め、実現するために理解を広げる活動にも力を入れる構え。

 来賓の橋本尚英厚生労働省健康局がん・疾病対策課主査は、「乳がんは日本人女性にとってもっとも罹患頻度の高い病気で、重要な課題の1つ。同ネットワークの活動は、がん患者・経験者に対し、生活の質の向上を促すもの。厚生労働省は、皆様の活動を心強く思っている」と激励した。

 同じく来賓の針谷了日本旅館協会会長は「企業の社会的責任(CSR)が叫ばれて久しいが、ピンクリボンのお宿ネットワークの活動はそのお手本となるもの。また、インバウンドの増加が顕著ななか、日本の魅力を探しにいらっしゃる海外の方は後をたたない。これからも、皆様には、インバウンドの増加やおもてなしに貢献していただきたい」と、同ネットワークへの期待を熱く語った。 

 役員改選では、全会一致で、畠会長をはじめ全役員の再任を決定した。

 来賓は、橋本尚英厚生労働省健康局がん・疾病対策課主査と針谷了日本旅館協会会長、大山正雄日本温泉協会会長、大堀千比呂日本政府観光局インバウンド戦略部受入対策グループマネージャー、菊池辰弥全国旅行業協会経営調査部部長。

 また、首都圏を対象に個人旅行の造成に取り組むJTBガイアレックの大根田朱里氏から、「次期の商品造成に向け、会員施設の皆様と相談しながら、同ネットワークに関する商品情報のPRを行っていきたい」との説明があった。

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指江香里リーダー
指江香里リーダー

 総会後に、加賀屋客室部の指江香里リーダーは、「女性アカデミー・気づきと行動」と題し講演を行った。主体となって勉強会を開催してきた指江リーダーと社員らが、自身らの取り組みから獲得したものとは何か。

女性アカデミーを創設

 加賀屋の「女性アカデミー」は、女性の視点を大切にした勉強会で、将来の管理職候補育成を目的にしたもの。

 「2012年にピンクリボンのお宿ネットワークの設立総会に参加した理由は、アレルギー体質だった子供を育てた経験と、社内に乳がん経験者がいたこと」だと語る指江リーダーは、これら経験と同ネットワークへの参加を通じて、ユニバーサルツーリズムへの関心を高めていくことになる。

 加賀屋では、個別の仕切りがある大浴場の洗い場や、露天風呂付客室など、目に見えて分かりやすいハード面での取り組みが多かった。そのため、翌年の第2回総会で、乳がん経験者対象の全館貸切プランなど、できることから始めている会員施設の存在を知り、「ソフト面での取り組みの大切さに思い至った」という。

 ソフト面での取り組みは社員らに対し、意識の変化や、知識の獲得を求めることになる。しかし、すぐには成果を得づらく、継続的な教育も必要不可欠。

 どうすれば良いのかと途方にくれているなか、役員から「女性のための勉強会を始めてみないか」と声をかけられた。同時期に、政府が女性の活躍推進を成長戦略の1つとして掲げたことも後押しとなり、勉強会を始めることとなった。これが「女性アカデミー」創設の第一歩になったのだという。…

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※ 詳細は本紙1639号または9月7日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

連結子会社化も検討、海外取扱高2倍の2700億円へ、HISとミキグループ

HISの平林朗社長(左)と、ミキグループの檀原徹典グループCEO
HISの平林朗社長(左)と、ミキグループの檀原徹典グループCEO

 エイチ・アイ・エス(HIS)とGroup MIKI Holdings Limited(ミキグループ)は7月22日に東京都内で、これまでの提携関係を一層強化し、「連結子会社化」も視野に、両社が本格的な検討段階に入ることで合意したと発表。5年後までに海外取扱高を現状から2倍の2700億円にするとの目標を掲げた。

 アジア諸国の経済成長による観光市場の増大が著しいなか、海外個人旅行(FIT)化が進み、海外のオンライン旅行会社(OTA)の脅威が顕著となっている。ミキグループの檀原徹典CEOは、「我われが成長性を求めるならば、アジアに軸足を置かなければならない」と話した。

 ただ、すでにアジア市場には海外OTAが大きなシェアを占め、旅行会社に依存しないFITらへの直販が加速している。そのため、旅行会社は必要とする航空座席数などが獲得できないといった課題も出ている。

 これらを背景に、日本の旅行会社が主導的に対面販売を行っている現状では、海外OTAの勢いに対抗できないと危惧し、両社は提携強化の検討を始めた。

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 両社は日本市場ではなく、世界市場に力点を置く。HISは強みを持つアジア方面と欧州以外の全方面、ミキグループは得意としている欧州方面を互いに補完する。また、販売チャンネルを、HISがBtoC 、ミキグループがBtoBと分けることで、それぞれの領域の強みを有効活用し、協業していく。

 HISの世界各国の拠点とミキグループの欧州を加え、両社が1つの手法、コンセプトによって世界で通用するアクティビティを創り出す。檀原CEOは「我われは現地でなにかを探し、経験、体験することを主軸に置き、旅の提供をする。日本で培ってきた旅の造成力が強みだ。この既存のOTAにないアクティビティなどを中心として、オンライン事業も展開する」とし、海外OTAに対抗していく構えだ。

 オンライン事業では、両社の持つ商材や販売チャンネル、システムなどの経営資源を統合し、相乗効果を見込む。旅ナカ需要の対応を含む次世代システムの構築も検討していく。

 さらに、これまで欧州専用のランドオペレーターだったミキグループは、HISの「SKY hub 事業」との提携強化により、両社で世界の地域を手配できるランドオペレーターを目指していく。

 現在、欧州からアジア、アジアから欧州への旅行など、“海外to海外”の日本を除く海外事業は非常に伸張傾向にある分野。両社の海外取扱額を合算すると1100億円前後になり、世界トップクラスの規模となる。HISの平林朗社長は、「この分野の伸び率を考えれば、5年後は倍になる。これをただ倍にするだけでは面白くない。2社で協業するからには倍以上の数値を目指す」と強調。5年後までに海外取扱額の目標額を2700億円とした。

 HISは、持分適用関連会社として、ミキグループの株式を46・67%(譲受手続き中を含む)を所有している。子会社化が現実的な数値だ。平林社長は50%を超えた時点で子会社化するか否かの具体的な言及は避けたが、「半年や1年で結論を出さなければならない。それくらいのスピード感をもっている」と述べた。

滞在型に対応 ― 「2泊3日」を想定した食の研究を

 多くの旅館は現在も、1泊2食のスタイルが基本である。

 最近は、訪日外国人客の増加やビジネス出張利用など、さまざまなニーズに対応するために「素泊まりプラン」や、「1泊朝食プラン」なども比較的多く目にするようになった。都市部や、大規模な温泉地に立地する宿と、山の奥の1軒宿や、寂れた温泉街にある宿では、立地条件も異なり、一概には言えないが、滞在型を考えるうえで、旅行者の食事をどうするかを、まず考えなければならない。

 「1泊2食」が主流のため、朝10時を過ぎると、旅館や温泉街は閑散とする。昼間に温泉街で美味しいランチでも食べようと思っても、そう簡単には見つからない。多くの温泉街は、夕方4時から翌朝10時までの旅行者の滞在しか想定されていないため、温泉街から少し離れたとこにあるドライブインや、道の駅などに行かなければならない。滞在客にとっては、とてもさびしい状況である。

 “滞在型”への移行はさまざまなところで議論されているが、いきなり長期滞在プランは難しい。しかし、条件がそろえば、可能な宿から「2泊3日」プランを、「1泊2食」と並ぶ基本プランとして売り出すのはどうだろうか。少し時間に余裕があれば、「2泊くらいは、温泉に浸かって、ゆったりとしたいなぁ」と思うのが人情だ。

 2泊となれば、問題となるのが、1泊した後の昼間の過ごし方だ。オプショナルツアーに参加して近隣の観光地を巡るというのも一つの手であるが、旅館内、もっといえば、温泉地内にゆったりとできる空間や食事ができる一定レベルのレストランがあると、ベストである。

 旅館で夕食と朝食をとった後の昼食は、軽めの方がいい。例えば、山で採れたキノコのピザを庭の片隅で焼き、冷えた白葡萄酒や地ビール、紅茶などを提供するのもいいし、前夜の夕食で余った牛肉や、魚介類を混ぜた賄い風のカレーや、サンドイッチなどを用意するのもいい。

 宿泊客がくつろぐ空間も必要になる。自然豊かな環境であれば、テラスや東屋で、軽食やランチを食べてもらう。読書や、うたたねができる空間もほしい。そのように、少しずつでも滞在できる環境を整えていけば、やがて食材のロスの減少や、夕食の分量などの見直しにもつながっていくはずだ。

 日本の西洋料理界を牽引してきた「ひらまつ」が今年7月、三重県・賢島に直営ホテルをオープンし、予約も順調という。10月には静岡県・熱海に「西洋旅館」を開業する。フランスなどで呼ばれる“オーベルジュ”とも異なる、日本旅館のおもてなしを加える。“スモールラグジュアリー”をコンセプトとし、富裕層に「高級な食材を使った美味しい料理と、豊かな滞在時間と空間」を堪能してもらおうとしている。新しいカテゴリーの旅館として支持を得ると思う。

 外国人旅行者の増加により、受入側の意識やスタイルも急速に変化している。一方、日本人の旅のスタイルやニーズも、目立たないが時代とともに少しずつ変化している。

 従来型の画一的な旅館料理には、おそらくお客は飽きている。「2泊3日滞在してもらう」ことを想定した受入れのオペレーションや、料理のバリエーションの研究を急ぐべきである。新たな宿泊モデルが迫りつつある。

(編集長・増田 剛)

“ブッキングサイト”から“マッチングサイト”へ、OTA市場で差別化はかる(楽天トラベル)

企業理念を説明する山本事業長
企業理念を説明する山本事業長

 楽天トラベルは8月8日、各報道機関を対象に、トラベル事業の概要や企業理念の説明会を催した。

 山本考伸トラベル事業長は冒頭、「重要なことは、他のオンライン旅行会社(OTA)と差別化をはかること。宿泊施設自らが、ユーザーに情報を届けることができるプラットフォームを目指している。楽天トラベルで検索すれば、自分に最適の宿に出会える“ブッキングサイト”から“マッチングサイト”への転換をはかっていきたい」と語った。楽天グループの企業理念「人々と社会をエンパワーメントする」ことを実現するとともに、OTA市場でのさらなる躍進を目指す考え。

 国内営業を統括する羽室文博副事業長は、「楽天トラベルでは、宿泊施設が主体的かつリアルタイムに価格を決められる仕組みをつくってきた」と語り、宿泊施設自らが集客に取り組むという、旅行会社の送客に頼る従来のビジネスモデルからのパラダイムシフトを実現してきたことを強調した。 パートナーである宿泊施設の事業効率化に対してもソリューションを提供しており、電話での予約対応代行を、日本語と英語、中国語で行っている。決済サービスの利便性向上もはかっており、キャンセル料徴収の確かな仕組みづくりや、カード決済手数料の引き下げを行っている。DMOの取り組みにも積極的で、「せとうち観光推進機構」への職員の派遣を実施しているという。

 フェイスブックなどSNSが普及するなか、OTAに頼らず、インターネットを利用したマーケティングや集客を行う宿泊施設が増加する傾向に対して、山本事業長は「“ブッキングサイト”から“マッチングサイト”へという言葉が示すように、楽天トラベルを使えばユーザーにぴったりな宿に出会えることを目指している。そのため、システムのバリアがなくなるにつれて、楽天トラベルはマッチングサイトとしての価値をより高めていくことになる」と展望を語り、同事業のビジネスモデルに対し自信を示した。

 なお、高野芳行副事業長からはインバウンド戦略について、国際事業とアクティビティ事業などについては、幅屋太国際営業部長と安田博祐国内トランスポート・アクティビティ事業部長から説明が行われた。

“着地型”の人材育成へ、商品企画で実際に販売も(愛知県)

講義内容
講義内容

 愛知県は9月14日に、名古屋市・岡崎市の2会場で「着地型旅行商品コーディネーター育成講座」を開く。受講生の募集は9月5日まで。全6回の講座で、現地視察時の昼食代などを除き無料で受講できる。講義内容は、旅行業界の商慣習から商品造成、仕入、販売まで、基礎知識の座学と、先進事例紹介で構成されている。商品企画も行われ、いくつかの企画案は実際に販売する機会が得られる。

 同講座は、地域の人材が自律的に「商品造成、仕入、販売」ができるように支援するもの。また、2018年の秋に同県で予定されている「JRデスティネーションキャンペーン(DC)」や、27年度のリニア中央新幹線開業も見据えている。全国から集まる観光客に同県内全域を周遊してもらうため、魅力的な着地型旅行商品を造成し、「観光県―あいち」を目指していく。

 愛知県振興部観光局観光振興課 電話:052(954)6354。
http://www.pref.aichi.jp/soshiki/kanko/coordinator.html」。

鉄道とバス会社がタッグ

 鳥取県若桜町で9月24日、SLやボンネットバス、UDタクシーなど珍しい乗り物が集合する「鳥取・若桜谷のりものまつり」が開かれる。日本交通、日ノ丸自動車、若桜鉄道がタッグを組み、開催にこぎつけた。

 日本交通と日ノ丸自動車は山陰と京阪神を結ぶ高速バスでライバル関係にあり、日本交通と若桜鉄道も若桜谷エリアの輸送で競合する。そのライバル3社が垣根を越えて結集したのは、人口減少とマイカー普及に伴う、公共交通機関の存廃への危機感からだ。

 複数のバス・鉄道会社が共同イベントを開くのは西日本初という。「バスに乗ったことがない子供が多い。公共交通に親しむきっかけにしたい」と3社の幹部は口をそろえる。今後も連携を強化し、地域活性化に取り組む考えだ。

【土橋 孝秀】

外国人の雇用拡大へ、生産性向上・人材確保が鍵(田村長官)

 田村明比古観光庁長官は8月17日に開いた会見で、「外国人スタッフの雇用拡大に向けて人材確保と生産性向上を我われ観光庁もしっかり検討し、バックアップしていきたい」との見解を示した。

 田村長官は、外国人技能実習制度に関し「専門知識を必要としない、単純労働のための受け入れではなく、日本でしか得られない技能を習得してほしい。実習生が帰国したあとで、その技能を活かしてもらうことが制度の目的」と説明し、そのための受入体制を宿泊業界がつくらないといけないと語った。

 また制度の活用に向けては「体制整備を業界で検討することに対して、観光庁も支援をしていく」とした。

 人材確保のためには、観光産業が女性や高齢者を含め、さまざまな人が働く魅力的な産業になる必要があると述べ、そのために、ICTや、オートメーション技術なども含めた、生産性向上の努力も必要になると改めて強調した。

 また田村長官は「人材確保に関しては観光庁だけではなく、各省庁と連携をはかりながら、生産性向上の努力に対する、予算や融資、税制面などへの来年度要求も含めた支援も検討していきたい。観光庁としても人材確保や生産性向上についてしっかりと検討し、バックアップしていきたい」と語った。

生産性向上へ ネット講座、10月開講、講師は内藤耕氏(観光庁)

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内藤耕氏
内藤耕氏

 観光庁は、宿泊業や観光関連のサービス業の生産性向上をはかるため、昨年度に引き続きインターネットを利用したオンライン講座を開講する。現在受講登録を受け付けており、10月19日から4週にわたって、宿泊、運輸、小売などの事業者の先進事例を映像によって紹介し、講師による解説を行っていく。講師は、本紙の人気対談シリーズ「いい旅館にしよう!」などにも登場する、サービス産業革新推進機構代表理事で、工学博士の内藤耕氏。

 講義は、大規模公開オンライン講座(MOOC)サイト「gacco」上で行う。

 「gacco」とは、Web上で誰もが無料で参加し、学べる大学講座で、受講登録を行えば、パソコンのみならず、スマートフォンやタブレットからでも好きな時間に受講することができる。

 また、掲示板で同講座を受講する仲間たちと、意見交換することもできるため、最後までモチベーションを高く保つことができる。

 各週の講義内容は、1週目が「『サービス労働生産性』とは これからのサービス産業/科学的アプローチの導入」、2週目が「『早くやる』から『すぐできる』へ オーダーへの対応/実践:出来立て料理の提供」、3週目が「『できる』から『必要』だからへ 顧客理解と労働生産性/観察(えちぜん鉄道)」、4週目が「労働生産性の見える化 財務会計の基本(経費と投資、発生主義会計)/損益計算書と貸借対照表」。

 講義はネットで受講しやすいよう1本あたり10分程度にまとめられており、各週10講座分の動画が公開され、講座回数は計40講座となる。

 なお、規定の修了条件を満たした受講者には、観光庁長官名の同講座の修了証が授与される。

 昨年度のオンライン講座は「旅館経営教室」として開講。旅館の生産性向上や、収益力の強化などをテーマに前編・後編の2部構成で全20本の動画を公開した。

 実際に講座を受講した受講者からは、「働き方改革を行ったことで、週休2日制を導入することができた」、「部下を指導する際に、自分の発言に自信を持てるようになった」などの意見が挙がった。最終的に受講者は他業種にわたり3200人に上った。

 同講座の受講登録は、観光庁オンライン講座ページ(http://gacco.org/kankocho/slp)から。

「ふるさとオンリーワンのまち」第7号認定、嬬恋村の“キャベツ”と観光

嬬恋村の熊川栄村長(右)と、津田令子理事長(嬬恋村役場)
嬬恋村の熊川栄村長(右)と、津田令子理事長(嬬恋村役場)

 NPO法人ふるさとオンリーワンのまち(津田令子理事長)は2011年の発足以来、独特の風土や伝統文化、産物、無形のおもてなしなどユニークな観光資源を、「ふるさとオンリーワンのまち」として認定している。7月29日には、群馬県吾妻郡嬬恋村(熊川栄村長)を訪れ、「嬬恋村におけるキャベツを活かした農業と観光の共存によるコミュニティづくり」の取り組みを第7号認定とし、津田理事長が熊川村長に認定証を授与した。

 認定式で津田理事長は「日本各地には、すばらしい観光資源があるが、まだまだ知られていないものもたくさんある。これらを発掘し、大いに広報していくことが私たちの大きな役割。個人的にも嬬恋村との付き合いは長く、『キャベツ大使』を務めていることもあり、100回以上通っている」とあいさつ。さらに、「嬬恋村は、広大な高原に広がる美しいキャベツ畑で、さまざまな観光との関わり合いのあるイベントを繰り広げ、地域おこしをされている。これほどまでに農産物(キャベツ)と観光が共存しているまちは全国にも珍しく、その取り組みはユニークかつ開明的」と語った。

 嬬恋村は、群馬県の西端、本白根山と四阿山、浅間山などの名峰に囲まれた337平方キロにおよぶ広大な高原に位置し、人口は約1万人。この冷涼な気候によって、豊かな高原野菜を産している。

広大な高原に延々と続くキャベツ畑
広大な高原に延々と続くキャベツ畑
全国的に有名な「嬬恋高原キャベツ」
全国的に有名な「嬬恋高原キャベツ」

 とりわけ有名なのは、「嬬恋高原キャベツ」で、夏秋期の京浜市場の占有率は70%を超え、名実ともに“日本一の生産地”である。

 水野洋蔵理事は第7号「ふるさとオンリーワンのまち」認定の理由として、「浅間山を背景とした一面のキャベツ畑は、緑のじゅうたんのように美しく、この景観はほかに類を見ない」と説明。さらに、「キャベツを中心とした地域おこしのイベントを盛んに実施されている点が高く評価された」と強調した。主なものに、今年9回目を迎えた「嬬恋高原キャベツマラソン」や、「キャべチュー」「嬬恋村キャベツラリー」などがある。

キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ“キャべチュー”の聖地「愛妻の丘」
キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ“キャべチュー”の聖地「愛妻の丘」

 愛妻家の聖地

 「嬬恋村」という美しい村名は、1889(明治22)年に村が発足した際に命名された。その由来は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東国征伐の折り、碓日坂(現・鳥居峠)で妻の弟橘姫(おとたちばなひめ)を追慕して「吾妻はや(わが妻よ)」と嘆いた故事に因んでいる。

 この妻恋いの故事を知った「日本愛妻家協会」が、キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ“キャべチュー”というイベントを発案し、毎年9月に実施している。国内だけでなく欧米のメディアも発信し、海外でも注目を集めている。「これらの活動は、熊川村長のリーダーシップが大きい。全国を飛び回って、嬬恋のキャベツをお土産に『いかに美味しく、健康に良いか』をPRし、嬬恋高原キャベツのブランド化に大きく貢献されている」と津田理事長は話す。

 今回の認定を受けて、熊川村長は「嬬恋村を代表して感謝とお礼を申し上げたい。嬬恋高原キャベツは毎年約2400万ケース分、売上ベースで約250億円まで成長した。生産者をはじめ、全村挙げて一致協力して、1つの村で、一つの品目を基幹産業として育て上げてきた」と報告。また、「『嬬恋村』という地名の由来を活かした、お金をかけない地域おこしにも取り組んできた。キャベツマラソンは人口1万人の村で500人以上がボランティアとして、ホスピタリティの精神で盛り上げている。参加者にはキャベツをプレゼントして、とても喜ばれている」と語った。「嬬恋村の原点は“キャベツ”。今後も観光とリンクしながら第一次産業をしっかりと育て、近隣市町村とも協力して広域観光を進めていきたい」と謝辞を述べた。

 認定式後、嬬恋郷土資料館や、同村内の人気観光スポット「嬬恋・鹿沢ゆり園」、「愛妻の丘」の視察も行った。

認定式後に記念撮影
認定式後に記念撮影

 「ふるさとオンリーワンのまち」の第1―6号認定は次の通り。

 【第1号】千葉県鎌ヶ谷市―「分水嶺モニュメント『雨の三叉路』」(2012年9月12日)
 【第2号】静岡県御前崎市観光協会―「地形を生かしたまちづくり~海と風と波と~」(13年11月9日)
 【第3号】「堂者引き」日光殿堂協同組合―「『堂者引き』世界遺産“日光の社寺”文化的景観の構成要素としての観光ガイド」(14年5月19日)
 【第4号】「界隈を勝手に応援する協議会」連合会―「『料亭・芸妓・日本食類』総合文化保護・育成」(14年5月29日)
 【第5号】長野県・飯島町観光協会―「『ふたつのアルプスが見えるまち』南信州・飯島町がもたらす自然の恵みを活かしたまちづくり」(14年11月9日)
 【第6号】NPO法人かやぶき集落荻ノ島(春日俊雄理事長)―「荻ノ島集落における茅葺集落の保存・活用のための取り組み」(15年9月4日)

石勝線廃線、夕張市がJR北に提案、持続可能な交通体系整備へ

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 北海道旅客鉄道(JR北海道)は8月17日、石勝線(新夕張―夕張間)の鉄道事業廃止を発表した。今回の廃止は、夕張市側から要望されたもので、同市の提案が、JR北海道の「各々の地域に合った交通体系を相談したい」という考えと合致。社内検討の結果、今回の結論に至った。なお、廃線の時期は未定。夕張市としては急な会談だったため、地元住民の理解を得ることが大きな課題になる。

 夕張市の鈴木直道市長は8月8日、札幌市内のJR北海道本社で、同社の島田修社長に「JR北海道とともに、知恵を出し合いながら、地域公共交通のモデルをつくりたい」と、石勝線の廃線を提案・要請した。そのなかで鈴木市長は、(1)市の進める複合施設や交通結節点整備への協力(2)JR北海道が所有する施設の使用協力(3)JR北海道社員の夕張派遣――を求めた。その後の会見で廃線の時期に関して、「市の複合施設使用開始の2019年になるのではないか」との見解を示した。

 石勝線は、1892年に夕張炭山で産出される石炭の輸送を担うために開業した。室蘭港への石炭輸送により活況を呈したが、石炭産業の衰退などにより、鉄道需要が減少。その後もモータリゼーションの進展や、高校の閉校など線区を取り巻く環境の変化から、利用者が減少を続け、地域における鉄道の利用も限られたものとなった。

 また同線区には使用開始から100年近く経過した橋梁とトンネルがある。現状では列車の運行に支障はないが、運行維持のためには、これら土木構造物の老朽更新などの対策に大きな費用がかかる。

 JR北海道が発足した1987年度の輸送密度は1129人だったが、2015年度には10分の1の118人に減少。14年度の収支状況も、営業収入1400万円に対し、経費が約2億円、差し引き年間約1億8千万円の赤字になっている。また、当線区には路線バスが並行して走っており、鉄道が1日上下10本に対し、路線バスは、新夕張―南清水沢間で上下11本、南清水沢―夕張間で上下20本運行と、路線バスが重要な生活の足となっている。

 市長は会見の中で、「自治体がJRの動きを待ち、JRはなかなか方針を出さない。北海道もJRがどう動くのか、自治体とどう協議するのか、傍観している。時だけが過ぎるなかで、1番大変な想いをするのは市民であり、道民である」との思いから、「交通手段を守るためには、具体的にどうしていくのかということを、みんながそれぞれ知恵を出して考えなければならない」と述べた。

 12月には留萌線の廃止も予定されている。今回の決定が市民であり、道民の交通手段を守るための先例になることを期待したい。

【後藤 文昭】