No.451 「日本の伝統色風景百選」100回記念、色を使った仕掛けづくり

「日本の伝統色風景百選」100回記念
色を使った仕掛けづくり

 2008年の9月11日号から本紙にて連載を開始した、カラーセラピストの石井亜由美さんによるコラム「日本の伝統色風景百選」が、昨年12月11・21日合併号で連載回数100回を達成。これを記念して昨年12月14日に、北九州市東京事務所とのコラボ企画として、同事務所「ひまわりテラス」で公開インタビューを行った。観光地における色彩の活用法や、自分に似合う色を知る「パーソナルカラー」など、色を使った仕掛けづくりのコツを聞いた。

【聞き手=増田 剛編集長、構成=松本 彩】

 
 
 
 ――石井さんは、全国さまざまな場所を回られていますが、今まで訪れた中で、色を上手く活用してPRを行っているなと感じた場所は。

 色は人の心理にさまざまな影響を与えると言われています。例えば、奈良県で2005年に「青色防犯灯」を設置したところ、青色防犯灯が防犯効果や自殺防止に効果があるとされ、全国各地の駅のホームなどに設置されるようになりました。青色には人の欲望を抑え、理性を取り戻す力があるとされています。色が持つ力については、1970年代ごろから、世界各国のみならず日本でも注目されるようになりました。

 観光分野で、「色でまちおこしをしているところはどこですか」と聞かれ、ぱっと思い浮かぶのは、“デニムブルー”でまちおこしをしている、岡山県倉敷市の児島地域です。児島は日本デニムの発祥の地として知られていて、駅構内の自動販売機や、児島地域を走るタクシーなど町全体がデニムブルーで統一されています。駅の窓ガラスにもデニムのフィルムが貼られているので、誰が訪れても「この町はデニムで統一されているんだ」と感じることができます。食べ物から交通機関まで、あらゆるところにデニムブルーを活用して、観光客の人たちに町の魅力や、存在感を伝えている分かりやすい事例です。

 ――児島以外にも色でまちおこしをしているところはありますか。

 青で統一している町は、全国で一番多いのではないかと思います。埼玉県入間市にあるジョンソンタウンも、ジョンソンブルーで統一されています。また、千葉県銚子市は、マリンブルーでまちを統一しています。

 ――海外でも色を使った取り組みは行われていますか。

 アメリカ・フロリダ州のマイアミビーチにトロピカルデコというまちがあります。そのまちでは、お店や住宅などすべてにパステルカラーが用いられています。昔からある有名なまちで、パステルカラーでポップな雰囲気を表現しています。

 ――北九州市は、工場からの大気汚染の影響で、以前は「灰色」の印象が持たれていました。現在は、環境改善がなされ、イメージカラーに緑が使用されています。北九州市のイメージカラーについて、どのように感じますか。

 緑は虹の七色の真ん中にある色で、調和やバランスといった意味を持っています。休息を与える代表色の1つです。緑には一瞬にして人を癒す力があるので、誰にでも嫌われにくい色です。そのためお年寄りから、小さな子供まで、見て気持ちが良いと感じてもらえる色です。

 緑でも深緑もあれば、薄い緑もありますが、北九州市のイメージカラーには黄緑色が使われています。この黄緑色というのは、若々しさを象徴する色で、発展・成長という意味があります。北九州市の魅力がこの先どんどん広まって、発展していくという意味も込められているように感じるので、すごくいいと思います。

 現在、北九州市のイメージカラーは緑色の一色のみですが、そこで、複合的な魅力をより広く発信したいのであれば、もう1つサブカラーとして、2番目に伝えたい色を小さい面積でどこかに取り入れると、北九州市の魅力をPRするうえで有効的です。…

 

※ 詳細は本紙1659号または2月7日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

印象に残る道 ― 古い道をゆっくりと走る旅の魅力

 明確な目的地がある旅ではなく、「行き先はどこでもいいが、どこかに行きたい」という、体の奥がもやもやっとする感じに背中を押され家を出る場合がある。このような行き先が定まらない旅では、旅の過程が意味を持ってくる。

 先日、久しぶりに映画『イージー・ライダー』を観た。ピーター・フォンダとデニス・ホッパーがハーレーダビッドソンに乗って、カリフォルニアからニューオーリンズの謝肉祭を目指して、自由気ままな旅をする物語だ。彼らが身に纏った“自由”の空気が、“自由”なはずのアメリカの行く先々で、さまざまなトラブルを招き、衝撃的なラストシーンを迎える。この映画の旅も、目的地は“謝肉祭”であるが、旅の過程こそが、大きな意味を持っている。

 私は「イージー・ライダー」に限らず、フェデリコ・フェリーニや、ヴィム・ヴェンダースらのモノクロームのロードムービーを暗い部屋で静かに酒を飲みながら眺めるのが好きだ。まったき自由と引き換えに憂鬱な旅が続く気分に、どこか共感してしまうのだろう。

 実際、自分自身の旅を振り返ってみても、目的地が定まらない旅を何度もしてきた。目的地を決めない「自由さ」を、旅の中に残しておきたいという心理が強く働いているせいだろうと思う。

 鉄道を利用する旅では、出発時間と到着時間が明確に定まっている。乗換があれば、走ってホームを渡らなければならない“縛り”がある。それは、それで楽しい旅である。

 しかし、クルマやオートバイでの旅は、宿さえ決まっていなければ、基本的に自由である。その代わり、1つの分かれ道ごとに、どの道を行くか、決断をしなければならない。あるいは、決断をしないことを決断しなければならない。

 そのような旅においては、旅行者が見つめる先には、道しかない。そして、その道に沿って広がる景色が、流れ去る。

 これまで多くの道を旅の途中に走ってきた。

 なかでも印象に残っている道が幾つかある。青森県の陸奥湾沿いの国道279号線は、下北半島の恐山を目指して走った。少し寂れているが、北へ、北へと続く一本道の感じがいい。

 また、同じく青森県の鰺ヶ沢や千畳敷海岸、深浦、不老ふ死温泉、秋田県へと続く国道101号線も、青い日本海を眺めながら走ると、寂しくなるくらいに美しい。沖縄県も離島を含め、クルマを走らせたくなる道がたくさんある。

 北海道の天塩から稚内までの道道106号線は、ライダーの聖地といわれている。日本海沿いにサロベツ原野の中を、直線で約68㌔続く道である。利尻富士も見えるという。まだ、走ったことがないが、いつかこの道をオートバイで走ってみたいと思っている。

 旅が終わったあとで、いつまでも印象に残っている道は、信号のない道である。そして、それらの道は真新しいバイパスではなく、古くからある道だ。

 現代の旅は、航空路線や新幹線、高速道路が次々につながることで、快適で早く目的地に辿り着けるようになった。本当に便利になったと思う。一方で、だからこそ、便利ではない旅にも憧れる気持ちも湧いてくる。古い道をゆっくりと走る旅の魅力も、まだ十分に発信されていない。

(編集長・増田 剛)

体力づくりの年に、JFと本部事務所を一体化(JNTO)

松山良一理事長
松山良一理事長

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)は1月26日、事務局を移転したばかりの四谷国際ビル(東京都新宿区)で記者会見を開き、国際交流基金(JF)との本部事務所一体化や、新しいロゴとタグラインなどについて紹介した。松山理事長は、「今年は、2020年のインバウンド4千万人と、旅行消費額8兆円達成に向け、体力づくりを行う年になる」と抱負を述べた。

 また、「歴史や文化など、訪日外国人観光客の関心が体験へと移りつつある。連携を一層強化していきたい」と、文化交流を担う国際交流基金と、本部事務所を共有するメリットについても強調した。

 新たなロゴと、タグライン“日本の魅力を、日本のチカラに。”については、「コーポレートアイデンティティーの柱にしていきたい」という。

 統合型リゾート(IR)整備推進法案に対して、懸念事項はあるものの、「国際会議など、1万人超の大規模会議を誘致できる施設があれば、日本の魅力はさら高まるはずだ」と、個人の見解を示した。

新しいロゴマーク
新しいロゴマーク

出展受付始まる、ツーリズムEXPOジャパン2017

 日本旅行業協会(JATA、田川博己会長)は1月19日の定例会見で、ツーリズムEXPOジャパン2017の出展受付の開始や、JATA合同インターンシップなどの取り組みについて説明した。2月に設立予定の「アウトバウンド促進協議会」にも注目が集まった。

 日本政府観光局(JNTO)も主催に加わるツーリズムEXPOジャパンは、9月21ー24日に東京ビッグサイト(東京・有明)での開催を予定する。「“展示会”から“展示商談会”」をテーマに、BtoBのマッチング強化に力を入れる構え。2日目以降の展示会場での商談会(展示商談会)でも、アポイントメント制を導入し、ビジネスチャンスのさらなる創出をはかる。

 また、「キーパーソンリスト」を用意することで、出展者とバイヤーは事前に参加企業や団体などの情報を確認できる。越智良典理事・事務局長は、「BtoCとしてイベントは成功している。今年は、BtoBの面にも一層力を入れ、業界関係者のビジネスに貢献していきたい」と語る。

 日本海外ツアーオペレーター(OTOA)会員らを対象とした商談会も実施する予定だ。

 JATA合同インターンシップは、2月13ー23日に実施予定で、17大学45人が参加する。矢嶋敏朗広報室長は、「旅行業を第一志望とする学生に絞って実施する。学生と企業双方にとって価値のあるインターンシップを実現するのが目的だ」と説明し、学生と企業の主体性を重視した取り組みとなる模様だ。なお、過去の参加者のなかには、大手に限らず、中小規模の分野に特化した旅行会社へ就職を果たした例もあるという。

 業界全体が一丸となって、海外旅行の復活を目指す今年。2月には「アウトバウンド促進協議会」を控えるなど、活発な活動を展開する。同協議会について越智理事・事務局長は、「需要喚起を中心に活動を進めていくことになるだろう」と語り、会の目的を明らかにした。注目度が高く、各国の大使館関係者も期待を寄せる。

 極東ロシアについて、飯田祐二海外旅行推進部副部長が、「極東ロシアワーキンググループ」の取り組みを紹介。ワールド航空サービス(松本佳晴社長)が座長となり、旅行会社や航空会社だけでなく、在日ロシア大使館も加わって、送客の拡大を狙う。

 1月14日にオーストラリアのシドニーで行われた「日豪観光セミナー」についても報告が行われた。安倍晋三首相や、JNTOの松山良一理事長、JATAの田川会長らが現地を訪れ、双方向交流の維持・発展を中心に発言した。

スキーリフトで天日干し

 魚沼産コシヒカリの生産地として有名な新潟県南魚沼市の石打丸山スキー場では、秋の収穫期に、オフシーズンで使用しないスキーリフトを活用した魚沼産コシヒカリの天日干しを行っている。天日干しをした米は「天空米」の名称で販売されている。

 リフトで天日干しをすることで、従来に比べて少ない人数で、短時間に多くの米を処理することができる。リフトはスピードや方向も自由にコントロールができるため、風や太陽に当てる角度と、時間の調整も可能。リフトに米を吊るしたまま格納庫に収容することもできるため、日没前にすべての米を屋内に収納、突然の雨や夜露に晒さずに干すことができる。

 県観光協会ホームページのライブラリで天空米の動画を公開しているが、今秋は現地で見たい。

【長谷川 貴人】

るるぶトラベルで宿泊予約、スタンプ帳特典も(日本秘湯を守る会)

日本秘湯を守る会・佐藤好億代表理事(中央左)と ⅰ.JTBの鈴木雅己社長(中央右)
日本秘湯を守る会・佐藤好億代表理事(中央左)と
ⅰ.JTBの鈴木雅己社長(中央右)

 ⅰ.JTB(鈴木雅己社長)が運営する旅行予約サイト「るるぶトラベル」で、「日本秘湯を守る会」(佐藤好億代表理事、191会員)の宿泊予約や、スタンプ特典も受けられるようになる。

 1月17日、日本秘湯を守る会とJTBは、同会公式ウェブサイトと、「るるぶトラベル」のシステム連携に関する協定書を締結した。これにより、(1)日本秘湯を守る会公式ウェブサイト(2)会員宿への電話予約(3)朝日旅行での店頭・電話予約――のみだったスタンプ特典も受けられるようになる。

 スタンプ特典は、会員宿に宿泊するとスタンプ帳にスタンプが1つ押される。10個貯まると、宿泊した会員宿の中から希望する宿に、無料でもう1泊できる。秘湯を好む旅行者に人気が高く、2016年度は約1万2千人が特典を利用して宿泊している。現在スタンプ帳を持っている人は約50万人といわれる。また、本秘湯を守る会のホームページからの予約は年間約6―7億円。今回の連携で、近いうちに10億円を狙う。

 日本秘湯を守る会は、「日本の温泉の良さと、自然環境を守る」という理念を共有している。191の会員宿はそれぞれリピーターを大切にし、集客の柱としているが、「るるぶトラベル」と連携することで新たな顧客の取り込みを期待する。るるぶトラベルの利用者は20代、30代、40代が70%を占めており、若い世代の秘湯ファンを取り込みたい考えだ。

 これまで会員宿とともに理念を共有してきた朝日旅行(鶴田隆志社長)の紹介もあり、JTBと協議を続けてきた。佐藤代表理事は「るるぶトラベルの力を借りながら、お互いに個性的な旅づくりができたらいいと思う。新たなステップを踏み出す努力を仲間とともにしなければ、山の宿が残るのは難しい」と語った。新たな顧客ターゲットとしては、増加する訪日外国人観光客も視野に入れている。

 一方、ⅰ.JTBも、同会の会員宿を「るるぶトラベル」で紹介することで、顧客満足を高められるメリットがある。

 両者は今後、販売する宿泊プランの料金や、在庫などを共通化し、客室の効率的な販売を進めていく。システムを整え、るるぶトラベルでの発売時期は9―10月を予定している。

宿泊約款の更新を、トラブル回避へアドバイス、三浦雅生弁護士

三浦雅生氏
三浦雅生氏

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の女性経営者の会(JKK、岡本尚子会長)が1月11日に開いた定例会議で、弁護士の三浦雅生氏が「クレーマー対策としての宿泊約款の活用」について講演した(既報)。三浦氏は「旅館業法などに個別規制する条文がない」ことを挙げ、「宿泊約款は自由に更新できる」と主張。自身が作成した「モデル宿泊約款改正試案」をもとに、「価格誤表示」や「クレーマー対策」など身近に起こりうるトラブルへの対応を講義した。

【後藤 文昭】

 価格誤表示は、理由があれば無効

 インターネット上で「価格の誤表示」によるトラブルがたびたび話題になる。民法上では、販売者が価格を誤って表示した場合原則契約は無効になると定めている。また、消費者が価格を書き間違えて提示していると知りながら商品を購入したり、契約を結んだりした場合も無効にできる。しかし商売に携る人間が一番重要な価格を間違うことはありえないとの判断から、「事業者に故意や重大な過失があった」としてほとんどのケースで契約を有効にされる。これを踏まえ三浦氏は「消費者が事情を知っていたか(悪意)は立証困難」だとし、その負担を軽減するための条文作成を提案。「当該料金が、その前後の期日の宿泊料金より著しく低廉な場合は、特別、限定、キャンペーンなどの理由表示や案内がない場合は(宿泊契約を)無効とする」と記載することでトラブルを回避できるとした。

 正当な理由があれば宿泊は拒める

 「クレーマー」の存在が問題になっているが、現在の旅館業法では特別な場合を除いては「宿泊を拒めない」とされている。三浦氏は各都道府県が定める「旅館業法施行条例」には宿泊拒否の事由が明記されているため、「正当な理由」があれば違法にはならないことを紹介。宿泊拒否事由を新設し、合理的な理由のない苦情、要求を申し立てる宿泊客に対しては「平穏な秩序を乱す恐れが認められる」とし、「宿泊契約の締結を拒否できるようにするべき」と提案した。

 寄託物は範囲を限定して預かる

 旅館やホテルのクロークやロビーに荷物を預ける人は多い。その際の紛失や破損などのトラブル対策として約款に「不可抗力である場合を除き、当ホテル(館)が損害を賠償します」という条文が記載されている。しかし三浦氏はこの条文にある「不可抗力」が天災などの場合のみを指す言葉で従業員の過失などは含まれないと指摘し、「寄託物の範囲を限定するべき」と警告。想定外の事態に備え「○○万円以上の現金または時価○○万円以上の物品は預かれない」と定めておくように勧めた。

 約款翻訳は実施しなくても問題ない

 約款を有効にするためには、ホームページ上への掲載と、フロント前の掲示が必要用件になる。インバウンド対策で外国語のページを作成している会員からの、「約款も翻訳するべきか」との質問に対し、三浦氏は「最高裁判所の判例で約款が存在すれば問題ないと示された」とし「必要ない」と回答した。

松園教授が最終講義、国際観光学部へ道筋(東洋大学)

松園俊志氏(最終講義で)
松園俊志氏(最終講義で)

 東洋大学国際地域学部国際観光学科の松園俊志教授は1月21日、白山キャンパスで最終講義を行った。

 同大の観光学教育は、日本の観光学部・学科で最も長い歴史を持つ。短大観光学部が創設されたのは東京オリンピックの前年の1963年。松園氏は短大観光学部の黎明期から48年間にわたり教鞭をとり、3月に定年退職を迎える。

 東洋大学は今年4月、国際観光学部が新設されるが松園氏は学部化を強力に推進してきた。また、日本国際観光学会の会長を長く務めるなど、日本の観光学教育の“生き字引”的な存在。最終講義「観光学概論:日本の観光学教育の潮流」には学生のほか、観光関係者ら多数が会場を埋め尽くし、耳を傾けた。

 松園氏は、フランス有給休暇制度の研究で培った知見をもとに、大手ゼネコンと組んだ日本の「リゾート法」が、「その後の日本の観光文化や観光産業に大きな被害を与えた」と批判。さらに、日本のサステナブル・ツーリズムの第一人者と評する同大・島川崇教授と、「サステナブル・ツーリズムをどう定着させるかを研究してきた」とし、「2017年は国連のサステナブル・ツーリズムの国際年に当たる。東洋大学国際観光学部は、その理念を教育に積極的に組み入れる代表格になれる」と締めくくった。学生たちには「海外に出ることで日本を冷静に見ることができる。語学を鍛えて留学し、海外で単位を取ることが大事。また、たくさんの本を読むことで人間が豊かになる」とアドバイスした。

 翌22日には、東京都文京区のホテル椿山荘東京で「感謝の集い」も開かれた。

“今しか見られない”熊本の姿、「防災教育」柱にPRへ

熊本国際観光コンベンション協会 観光コンベンション課 黒木  三奈子課長
熊本国際観光コンベンション協会
観光コンベンション課
黒木 三奈子課長

 昨年4月に発生した熊本地震から8カ月が経過した12月2―3日、熊本市内を取材した。今回の地震は、熊本市内に大きな被害をもたらした。観光面でも風評被害などがあり、観光客数の回復に苦戦。7月に始まった「九州ふっこう割」は九州全体の観光客数の回復に効果を上げたが、終了後の反動減などへの不安も大きい。熊本には「今しか見られない姿」がある。熊本空港の震災後の歩みや観光施設の状況、関係者の思いなどをまとめた。

【後藤 文昭】

「熊本観光の展望」語る

 熊本国際観光コンベンション協会は、観光客と教育旅行誘致や、さまざまな情報発信などを担っている。観光コンベンション課の黒木三奈子課長に、熊本の観光について聞いた。

 ――現在の観光施設の状況は。

 震災によって多くの施設が被害を受け、立ち入り制限、休館している施設もあり、観光施設として回れるところが震災前より少ない状況です。

 ――熊本城には多くの人が訪れています。

 熊本城は5月12日から二の丸広場が、6月8日から加藤清正神社が一般に開放され、外周からその姿を見学できるようになりました。そこでパンフレットを作成し、「ダメージは受けていますが、今のこの姿を見てください」とPRを始めました。石垣が崩れている姿は、驚きや学びにつながります。市内に住んでいる私たちも石垣の中を初めて見て内部構造を知りました。今しか見られない、学べないからこそ、観光客にもぜひ見ていただきたいです。

 ――そのほか、今だからこそ見てほしいものは。

 熊本城の周りの飲食店や土産物屋などが「日常を取り戻している」部分を見て、そして地震に負けず頑張っている熊本の「人」に会ってほしいです。

 例えば、中心部の飲食店では地震発生後約1週間程度でガスが復旧して、営業を再開できたところも多かったです。しかし、ニュースなどで熊本の被災状況を見た県外の方が「しばらくは行かれないだろう」と思われたのか、当初は「ここが熊本の繁華街か」と思うくらい閑散としていました。

 ――風評被害の影響は大きかったですか。

 首都圏の人たちに「行ったらダメなのでは」と思われていたみたいです。地震発生直後の映像はニュースで流れるのに、復興のようすや今の日常などの映像が流されないのはもどかしく感じます。復興していく姿も、報道してほしいですね。

 ――10月には初めて阿蘇に沖縄からの修学旅行生が訪れたようですが。

 修学旅行は保護者や教職員が決める部分が大きいです。子供たちが「行きたい」といっても、親は「余震もあり、また大きな地震が来るかもしれない場所になぜ行かせるのか」と心配します。

 私たちは毎年数回、各地で誘致キャラバンを行います。今年は地震もあって夏までは実施できませんでしたが、9月は沖縄で行いました。そのときに沖縄の中部・南部の中学校を回り、先生方から「防災教育という観点から子供たちに見せたい」というようなお話をいただきました。そのことも今回の結果につながったのではないかと思います。

 ――防災教育とは。

 修学旅行には学習の素材が必要で、熊本市内だと今までは歴史学習でした。今後はそこにカギとなる「防災教育」を加えたPRを計画しています。そのために、東日本大震災のときのように実際に被害に遭われた方に「語り部」になっていただく仕組みづくりを始めたいと思っています。またその際は、震災体験だけではなく「身の守り方」など地震への備え方なども教えていきたいです。

 ――12月にはふっこう割が終了します。

 1―3月は閑散期のため、不安もあります。また、首都圏からのお客様の戻りが遅いので、プロモーションの展開を考えています。移動距離が長ければそれだけ泊数が伸び、滞在時間が長くなるので、消費も多くなります。このため、首都圏や関西方面からの観光客の戻りが重要になります。飲食店や土産物屋で利用できるクーポンブックを作る計画も進んでいます。

 ――ありがとうございました。

熊本市内65カ所の施設で利用可能、クーポン付プラン販売(楽天トラベル)

印象的な表紙が目をひく おしゃれなクーポン
印象的な表紙が目をひく
おしゃれなクーポン

 楽天トラベルはこのほど、「くまもと うまかクーポン付き宿泊プラン」の販売を開始。熊本国際観光コンベンション協会が企画した。熊本市内65カ所の土産物施設、飲食店で使える3千円分のクーポン券を収録している。有効期限は3月31日まで。エリア紹介や詳細な地図、施設情報などがコンパクトにまとめられている。

 地震発生から9カ月が経過した現在も、宿泊者数や観光客数の回復に苦戦。結果、市内の多くの飲食店や土産物屋の利用者も少ない。そこで宿泊プラン利用者にクーポンを配布し、長期滞在につなげる仕組みをつくった。

 同協会の観光コンベンション課の黒木三奈子課長は「(滞在時間を長くして)ゆっくりお土産を買う、おいしいものを味わう時間を楽しんでもらいたい」と利用者への思いを語った。

「貴重な歴史を後世に」、震災後8カ月の思いと歩み

―阿蘇くまもと空港

 阿蘇くまもと空港には「国内線旅客ターミナルビル」と、「国際線旅客ターミナルビル」、「貨物ビル(2棟)」がある。そのなかで最も大きな被害を受けたのが、「国内線旅客ターミナルビル」だ。1971年に完成した同ビルは、現在までに4回の増改築がなされ、2012年までに耐震補強も終えていた。しかし今回の地震が想定以上の揺れを引き起こし、天井幕崩壊や壁面の亀裂などを発生させた。とくに損傷の大きかったのが建物のつなぎ目部分で、現在も利用客の移動を制限しなければならない状況となっている。復旧工事は、1月下旬に終了し、一部テナントの工事も2月9日に終了する。また休業中のレストランは、2月下旬に再開する。

 一方空港施設は、滑走路や誘導路、レーダー施設、通信施設などへの大きな被害はなかった。これは、震央から直線距離で約6キロの距離にありながら、「硬い岩盤上にあったから」という。

阿蘇くまもと空港の外観
阿蘇くまもと空港の外観

 震災発生後熊本空港ビルディングは、空港ビルの閉鎖と午前4時45分以降の便の全便欠航を決定。大成建設と九電工が国内線ターミナルの緊急安全点検を開始。早期運行開始に向け、航空機乗降のための動線と機能を確保する作業などを進めた。地震発生から3日後の4月19日午前7時40分には、ターミナル内を使用しない運用方法で到着便の運航が再開。同日午後3時に国内線ターミナルを一部再開し、同時に出発便の運行も開始された。その後も損傷した搭乗口の修復などを進め、6月2日には震災前と同じ規模(出発・到着それぞれ1日最大38便)の運航が再開された。

 同時に空港は全国からの救援物資の受け入れや消防、警察ヘリなどの拠点としてもフル稼働していた。これも空港施設への被害が少なく、県が整備した防災エプロンなどが最大限に活用できたからだ。例えばジェットスター・ジャパンは本震があった16日にはすでに千葉県成田市からの要請を受け、支援物資(1794トン)を成田―福岡便で空輸できていた。

 空港職員は当時を振り返り、「線で結ぶ鉄道網や道路網の復旧が難しい状況で、点と点を結ぶ空港を早く復旧させたいという期待に応えられたことが今後に向けての大きな自信になった」と語る。

漱石も暮らした大江の家
漱石も暮らした大江の家

―夏目漱石第3旧居

 1896年、夏目漱石は英語教師として熊本に赴任。2016年は、それから120年目の記念年に当たる。漱石はイギリス留学までの4年3カ月を市内で過ごし、その間6回引っ越している。漱石が暮らした家で現存しているのは、一番気に入っていた大江の家、長女筆子が産まれた内坪井町の家、留学までの3カ月を過ごした北千反畑町の家の3棟。内坪井町の家は「夏目漱石内坪井旧居」として公開し、館内には漱石の熊本での活動が分かる資料を多数展示していた。しかし震災によって現在は内部への立ち入りができず、庭園のみの公開となっている。

 熊本市は5月10日から「夏目漱石第3旧居(大江の家)」内部を特別公開した。旧居は今回の地震で壁にヒビが入るなどの被害はあったが、公開に支障が出るような損壊は発生しなかった。震災からわりと早い時期での公開決定には「イベントはすべて中止になってしまったが、記念の年に多くの人に漱石を感じてほしいという思いもあったのではないか」と現地ガイドはいう。館内では 「夏目漱石内坪井旧居」内で展示していた漱石関係の資料を公開。あわせて「熊本洋学校教師ジェーンズ邸」の資料も展示している。これは、ジェーンズ邸が今回の地震で倒壊してしまい、資料公開ができなくなってしまったための措置だ。同邸宅は熊本で最初の西洋建築で、日本赤十字社の前身「博愛社」が誕生した場所でもある。「(2つの熊本の)貴重な歴史を伝えていくために、今後も資料の拡充をはかっていく」という。11月の公開日は25日間あり、660人が訪れた。中には海外から来た漱石ファンも多く含まれているといい、取材時にも2人の外国人観光客が熱心に見学していた。

◇  ◇

人々が行きかうアーケード
人々が行きかうアーケード

 「崩れた建物の写真をたくさんの人が撮りに来るのを見て、とても辛かった」と、地元の人が話していたのが忘れられない。熊本市内のアーケードは多くの人でにぎわい、水前寺成趣園には紅葉を楽しむ観光客もいた。それらの情報はなぜ発信されず、多くの人に注目もされないのだろうか。阿蘇地域など被災した傷が癒えていない地域も多いが、多くの地域は日常を取り戻している。今しか見られない熊本がある。復興が進むよう、多くの人に現地に足を運んでもらいたい。

石垣内部の構造もよく見ることができる
石垣内部の構造もよく見ることができる

十勝バスの事例紹介、2次交通のプログラムを(観光ビジネスコンサルタンツ)

西川丈次氏が講演
西川丈次氏が講演

 観光ビジネスコンサルタンツの西川丈次代表は昨年12月19日に神奈川県横浜市で、十勝バス(野村文吾代表、北海道帯広市)の成功事例などを紹介する説明会を開いた。十勝バスは2011年、40年ぶりに利用者が増加し、以後順調に業績を伸ばしている。西川氏は着地型観光の課題に2次交通を挙げ、十勝バスの事例を取り入れたプログラムなどを紹介。参加者らに利用を呼びかけた。

 野村代表は代表就任後、業績改善を目指してきた。段階的に合理化をはかり人件費は6割削減した。ただ「会社を続け地域の足は守れたが、抜本的な問題の解決に至らなかった」と話した。改善に向けては営業強化を実施。エリアを絞って路線周辺の戸別訪問を行ったほか、小学校で「バスの乗り方教室」を開き啓発活動も行った。

 新たな商品造成にも力も注いだ。顧客らの声に耳を傾け完成したのが「日帰り路線バスパック」。路線バス沿線上の施設を組み合わせただけの商品だが、顧客は観光や用事を足す目的で利用する一方、バス会社は「固定経費」で実施可能な商品構成だ。「観光交通と生活交通の一体化で、生活交通を支えられる」とし、地方バス事業者が目指すべき姿だと強調した。

 次に登壇した西川代表は、これらの取り組みを分析した結果(1)商品力(2)販促力(営業力)(3)人間力(接客)――の計3つの力の必要性を説いた。このうえで事業目的を「創客」に置くべきだと強調。顧客を創り続けて、利益が付いてくるという正しいやり方、順番で行うことを参加者らに訴えた。

 商品力は路線バスのどこで乗降しても良い「自由度」を生かし、販促力で顧客へ周知する。人間力でリピーターやSNS(交流サイト)の口コミなどを増やすことなどが重要だと説明。「リピーターは人にしかリピートしない」と述べ、リピーター創客が最終的に売上を恒常的に高めるために必要だと語った。

 ビジネスコンサルタンツではこれら十勝バスの取り組みを分析した「手引書」をバス事業者に提供し、実務コンサルティングも行っている。

 最後にIoT型ソリューションを提供するユニ・トランド(高野元社長、東京都品川区)が登壇。目的地検索型のバス路線検索サービス「もくいく」や、バスの現在の位置情報が分かる「バスロケ」などを開発している。さらに乗降センサーとバス位置情報サービスを合わせ、即時に乗車人数を把握できるサービスも開始した。

 路線毎の実態の可視化することで、ダイヤ最適化や経営改善に寄与していく考えだ。

十勝バス・野村文吾代表の説明も熱が入る
十勝バス・野村文吾代表の説明も熱が入る