人と物 「かけもち」へ、貨客混載で手ぶら観光も

 貨客混載の動きが本格化する。これまでバスは人、トラックは荷物の運送に特化してきた。ただ運送業界の危機的な人手不足などを踏まえ、9月1日から規制を緩和。国は一定条件下でバスは荷物を、トラックは人の運送を「かけもち」できるようにした。生産性の向上とともに、過疎地域における人や物の流れを効率化。観光の観点からも手ぶら観光の推進などに期待がかかる。貨客混載を呼び水に地域の人流・物流の再起を目指す。

 ヤマト運輸と宮崎交通では早くから取り組んできた。2015年10月から宮崎県の西都市―西米良村、16年6月から延岡市―高千穂町、日向市―諸塚村とエリアを広げ、3路線で人と物を運ぶ貨客混載のサービスを提供している。

 物流を効率化することで、ドライバーの地域滞在時間も増え、集荷の締切時間が延びる。地域住民へのサービス向上につながり「お客様からも好評いただいている」(ヤマト運送)という。

 一方、訪日外国人の受入体制の整備に向けた実験も進む。

 中部運輸局と北陸信越運輸局は8月28日、貨客混載を活用した手ぶら観光サービスの実証実験を開始した。外国人旅行者に人気の高山の古い町や、上高地、松本城などが多くある高山―松本間を走る高速バスで行う。

 これまでは「コインロッカーなどが不足し、大きな荷物を持っての移動が大きな負担になっていた」(中部運輸局)と、旺盛な訪日外国人旅行者に対応しきれていなかった。

 実験では高山・松本内のホテルで荷物を受け付ける。その後、バスの車庫で積み替えを行って、貨客混載で輸送する。到着地の車庫で荷物を積み替えて、ホテルに届ける。

 外国人旅行者は荷物を預けたまま手ぶらで観光でき、ホテルに着けば荷物を受け取ることができる。従来、手荷物は翌日配送だったが、当日配送が可能となる。

 今後は他地域や他区間のサービス導入を進めていく予定。さらに宿泊施設間の配送だけではなく「バスターミナルや、手ぶら観光カウンターでの取り扱いも視野に検討する」(同局)としている。

 現在、人口減少に伴う輸送需要の減少が著しい。日本バス協会によれば15年で全国の2千を超える乗合バス事業者のうち、7割が赤字となっている。

 過疎地域などで人流・物流サービスの持続可能性の確保が求められるなか、規制緩和で市場に活気を取り戻す。

【平綿 裕一】

抜き打ちで覆面調査、法令違反は国が監査へ

 国土交通省はこのほど、貸切バス事業者に抜き打ちで覆面の添乗調査を行うと発表した。現場でなければ分からない法令遵守状況を把握する。法令違反の疑いがあれば後日国が監査する。これまで営業所や街頭監査をしていたが、さらなる輸送の安全確保状況の確認を徹底していく。日ごろの業務から未然に事故につながる原因を摘み取る。

 調査対象者は貸切バス事業者で「無通告により実施する」(同省)としている。実施は随時行っていく考え。調査項目は(1)休憩時間の確保(2)シートベルトの装着(3)交換運転手の配置(4)危険運転の有無(5)車内及び車外表示――などと公表している。

「ひよっこ」パワースポット

 茨城・県北エリアを舞台としたNHK連続テレビ小説「ひよっこ」の最終回が9月末に放送される。放送に先駆けて今夏、日立市にある県内有数のパワースポットとして名高い「御岩神社」を参拝してきた。工業都市の印象が強い日立市だが、県北らしい自然豊かな景色と荘厳とした雰囲気は一見の価値がある。

 御岩神社は鳥居から一歩足を踏み入れると、まずは空気感が変わるのが感じられる。参道には、背の高い木々が空を覆い隠すほど立ち並び、樹齢600年といわれる神木・三本杉が出迎える。地面や岩に広がる苔の絨毯、参道と拝殿を結ぶ朱色の橋、森林の合間をのぞく白光と写真映えする環境もそろっている。

 県内でも今後に期待の観光名所。まだ人の少ない「ひよっこ」なこの時期にぜひ訪れてほしい。

【長谷川 貴人】

日旅との連携合意、店舗と外販譲渡し誘客へ(京急電鉄)

 京浜急行電鉄(原田一之社長、東京都港区)と日本旅行(堀坂明弘社長、東京都中央区)は9月1日、京急線沿線の誘客拡大に向け事業連携することで合意した。これにより、京急電鉄100%子会社の京急観光(木村健社長、東京都大田区)が同沿線に展開する6店舗と、法人・団体営業など外販事業を、来年2月28日に旅行業大手の日本旅行に譲渡する。譲渡価格などは今後協議していく。

 品川駅や羽田空港を結ぶ京急グループは、国内外の多くの人が交流する「玄関口」の役割を担う。とりわけ急増する訪日外国人の需要の取り込みを、大きな事業の柱に据える。インバウンドを含む地方創生事業などに幅広いノウハウを持つ日本旅行との連携で、観光活性化による交流人口のさらなる増加や、訪日外国人へのサービス拡充を目指す。

 一方、日本旅行は神奈川県の横浜や三浦半島など、京急線沿線が持つ豊富な観光素材を活用し、魅力的な旅行商品を積極的に企画する。販売や誘客プロモーションも強化していく。

 また、同社の強みである西日本エリアなどの多彩な商品を、京急沿線の顧客に提案することで「観光による双方向の交流人口の拡大につなげていきたい」考えだ。

免税手続きを簡素化、2018年度税制改正要望(1面関連)

 観光庁は2018年度税制改正要望に、訪日外国人旅行者を対象とした免税手続きの簡素化に関する要望を盛り込んだ。現行では、化粧品や食品などの「消耗品」と、家電製品などの「一般物品」とに分類し、それぞれの下限額が5千円に設定されている。旅行者から「判別が難しい」という声が挙げられたことから、18年度税制改正要望で「合算で5千円を下限額とすること」を要望した。

 現在、訪日外国人旅行者が免税手続きを行う場合、消耗品と一般物品とを分けて、別々の申請書を作成する必要がある。しかし、「使い捨て電池は消耗品で、充電式電池は何回でも利用できるため一般物品」など、瞬時に判断しづらい商品も多く、手続きが煩雑化する問題が出てきていた。今回の要望で、合算での申請が認められれば、申請書が1枚で済み事務負担が軽減される。免税店からは「訪日外国人観光客の〝買い増し〟につながる」といった期待の声が多数寄せられている。

 なお、免税対象要件について、一般物品も特殊包装を行うことなどを条件に、一般物品と消耗品の合算を認める措置を講ずるとしている。

 政府は20年までに地方部での免税店数を2万店規模まで拡大させることを目標に据える。ただ爆買いの波が落ち着いたことなどから、増加率が伸び悩んでいる現状。今回の要望が認められ、手続きが簡素化されることで、免税店の出店率向上をはかり、消費額拡大につなげたい狙いだ。

教育旅行4割が民泊、〝安心・安全〟の体制強化へ(沖縄県)

民泊のほか、施設の魅力などもPR
糸数勝課長

訪れる学校の約4割が民泊を体験する沖縄県では、安心・安全で教育的価値の高い「教育旅行民泊ブランド」の構築に取り組んでいる。

沖縄県と沖縄観光コンベンションビューローは8月8日、首都圏で毎年開催している修学旅行フェアで、学校関係者や旅行会社、修学旅行関係団体などに、改めて民泊に関わる取り組みを説明。沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課の糸数勝課長は「教育旅行民泊」の利点として、「子供たちの人間関係が希薄だといわれるなか、家主と寝食をともにし、コミュニケーション力や社会性を育める点が評価されている」と語る。同県は今年5月に取扱指針を策定。受入団体を中心に、登録受け入れ民家の体制強化を進めている。

しかし、依然として保護者からは安全面を心配する問い合わせが多い。各ブースでも受け入れ団体関係者が、事例を踏まえながら、安全性を強調した。

「教育旅行民泊」は、家主など生徒を管理監督できる人が同じ建物内に就寝するので、緊急時にも対応できる。

受け入れ民家は、旅館業法に基づく簡易宿泊所営業許可の取得など関係法令の遵守を行う。救急救命講習などの各種研修の受講も課せられている。また、家業体験など地域特性を生かした体験学習の提供も必須となる。対して、民泊受け入れの窓口になる受入団体は、コーディネーターの配置や、受け入れ民家向け講習の実施などを行う。

「エリア完結型」で充実した学習機会を

従来の沖縄修学旅行は、南部―中部―北部地域を周遊する旅程を組むことが一般的だが、移動時間が長く、コストがかさむという。

これに対して糸満市や那覇市、南城市などの観光協会は、「南部地域完結型修学旅行プラン」を提案。移動時間と費用を約3分の1に抑え、充実した旅程を組めると参加者らに説明した。

南部地区は、18キロ圏内に世界遺産「首里城」や「斎場御獄」「ひめゆり平和祈念資料館」などの観光施設が集中していて、平和・文化学習を効率的に行える。現地ガイドと一緒に回るツアーも豊富で、地域住民らとの体験型交流を通じ、生徒の生きる力を育めるのが強み。

レンタカー事故防げ、外国人にピンポイント対策(国交省)

 国土交通省は急増する訪日外国人のレンタカー利用による事故を未然に防ぐ取り組みを始める。道路側のアンテナと通信できるETC2・0で急ブレーキデータなどを収集し、外国人特有の事故危険箇所を特定。多言注意看板などでピンポイント事故対策をはかる。レンタカー事業者や観光部局、警察らと連携して今秋から順次開始する。

 背景に外国人レンタカー利用と事故件数の増加がある。国交省によると、外国人レンタカー利用は2011―15年の5年間で約4倍に増え、70万人を突破。一方沖縄県では外国人レンタカーの事故件数は14―16年で約3倍と急増し、1万件近くに上る。

 ピンポイント事故対策の肝となるデータ収集は、沖縄は17年5月から、九州は16年9月から開始。外国人が運転した際の急ブレーキデータは計86台となった。

 今後は訪日外国人観光客のレンタカー利用が多い地域を5地域ほど選定。秋ごろに、カラー舗装やピクトグラムを活用した標識、多言語パンフレット・注意看板など、事故危険箇所にピンポイントの事故対策を打つ。

急増する利用者と事故件数

情熱もつ旅人応援、需要変化に対応、CPも(ブッキング・ドットコム)

(左から)チェナー氏、若槻さん、FUJIWARAの2人

 ブッキング・ドットコム・ジャパンは8月29日に、「情熱トラベラープロジェクト」を始めた。旅先などが決まったパッケージ旅行でなく、情熱をもち旅する人を応援する。この一環で宿泊券が当たるキャンペーンやアワードも発表した。

 「情熱をもって旅行する醍醐味や楽しさをより多くの人に広めたい」。ブッキング・ドットコムのロバート・チェナー営業部長は、同日に開いた会見で同プロジェクトの意義を語った。

 プロジェクトの告知も兼ねてCPを同日に開始。SNS(交流サイト)のインスタグラムとツイッターで、指定のハッシュタグ(「♯Booking情熱トラベラー」など)を付けた投稿を募る。投稿には実現したい情熱の内容、泊まりたい施設の名称・画像を一緒に載せてもらう。抽選で国内外の宿泊施設3泊4日分の宿泊券をプレゼントする。

 プロジェクトの情報発信も工夫する。食やファッション、写真、芸術の各専門分野で活躍する4人の「情熱トラベラー」を登用。4人は自身の情熱を実現するためさまざまな国を旅する。このようすを10月以降、ユーチューブ(動画サイト)などで観られるようにする。旅への意欲を喚起する狙いだ。

 同日の会見では「情熱トラベラーアワード」を発表。タレントの若槻千夏さんが受賞した。古着の買い付けなどで、海外に情熱をもって旅をした点などを評価したという。

 若槻さんは「海外を1人で旅をする経験で得るものはたくさんある。旅は人を成長させるもの」と述べた。受賞後はお笑い芸人のFUJIWARAの2人も登壇し、会場を盛り上げた。

 近年、LCC(格安航空会社)が多く就航し、とくに海外の1人旅は増え、需要も変化している。

 国土交通省によると、航空会社112社の17年国際定期便の夏季スケジュールでは、16年冬季比で週当たり84便増。全旅客便数に占めるLCC比率が23・6%で、過去3年6期の平均成長率は約17%と大きく伸びている。日本人出国者数も17年に入り、7月までで4月以外は前年を超えている。これに伴う1人旅増加のニーズを取り込むため「今後もこのプロジェクトを第2弾、3弾と続けていく」(広報部)と話す。

ホテル観洋が大賞、語り部バスの取組評価(ジャパン・ツーリズム・アワード)

語り部バスの案内風景

 ツーリズムEXPOジャパン推進室はこのほど、第3回ジャパン・ツーリズム・アワードの各賞を発表した。大賞は国内・訪日領域から、宮城県・南三陸ホテル観洋(阿部長商店)の「『震災を風化させないための語り部バス』による地域交流活性化の取り組み」が受賞した。阿部憲子女将は「私たちの思いを今後も発信していくための大きな励みになった」とし、「大賞受賞の栄誉を胸に一層地域の発展に努めたい」と喜びを語った。 

 同賞は「持続可能な観光への取り組み」をテーマに募集。取り組みの持続性や発展性を重視しており、連続応募や連続受賞できるのが特徴。今回は昨年の158件を大幅に上回る239件の応募があった。カテゴリーは国内・訪日領域と海外領域、UNWTO(国連世界観光機関)部門の3つ。領域内に各部門が設定されており、今年から「メディア部門」を新設した。

 国内・訪日旅行領域の優秀賞はビジネス部門でパークホテル東京の「アーティスト・イン・ホテル プロジェクト」が受賞。地域部門は大歩危・祖谷いってみる会(徳島県)の「秘境山間地のインバウンドへの取り組み」と、田舎館村むらおこし推進協議会(青森県)の「田んぼアート」が選ばれた。審査委員会特別賞は東北6県と東北観光推進機構の「デジタルコンテンツプロモーション」。また、ビジネス部門と地域部門で部門賞をそれぞれ19点のほか、奨励賞や努力賞数点を選出した。メディア部門は九州朝日放送の「『福岡恋愛白書』海外番販の取り組み」など計7点が選ばれた。

 海外領域の優秀賞はJTBワールドバケーションズの「ハワイにおける顧客利便性の圧倒的拡大を目的とした『’OLI’OLI』 ブランドの確立とマーケットニーズに正対した独自のインフラ・サービスの継続的開発」。審査委員会特別賞は日本放送協会の「BSプレミアム『世界ふれあい街歩き』」が受賞した。

 UNWTO部門賞は全国産業観光推進協議会の「『産業』が『観光』になる~全国産業観光推進協議会の取組み~」が受賞した。

【谷中散策ツアー同行】訪日客へ着地型提供、地域ならではの体験を

スタートはJR日暮里駅。一番左が、ガイドを務める野澤雅春氏

 2017年5月、訪日外国人旅行者(インバウンド)数は過去最速で1千万人を突破した。拡大が続くインバウンド市場ではどのようなビジネスが展開されているのか。着地型観光サービスを提供する、ベンチャー旅行会社、トリップデザイナー(坂元壮代表、東京都台東区)の「谷中散策ツアー」に同行。ツアー内容や造成理念といった、受入方法の具体例を紹介する。ツアー参加者は米国からの旅行者4人。通訳案内士である野澤雅春氏がガイドを務め、谷中と根津(ともに東京都台東区)を案内してくれた。
【謝 谷楓】

 ■コンテンツ重視のベンチャー旅行会社

 「手配をしているという意識はない」と力を込めるトリップデザイナーの坂元代表。インバウンドビジネス拡大に注力するやまとごころ(村山慶輔代表)主催のセミナーへの参加を重ね、2016年に同社を設立した。業務内容は、訪日旅行者向けの着地型観光サービス。地域を深く掘り下げるオプショナルツアーの造成と販売、ガイドを担う。約60人のガイドが全国でサービスを展開する。

 重視しているのは、地域ならではの体験と、日本特有の文化や歴史を感じられるコンテンツ。造成時には、海外で発行されるガイドブックを参考にするほか、ツアー参加者やSNS(交流サイト)での口コミも重視する。「外国人旅行者の気に入るポイントはどこかを意識するなど、工夫を欠かさないよう心がけている」と、坂元代表は強調する。販売は、自社Webサイト「OMAKASE」と、海外旅行代理店を通じて行う。

真剣な表情で聴き入る参加者

 ■ニーズに合ったコンテンツを用意

 同行した「谷中散策ツアー」の価格は約9千円。代理店経由でも価格はほとんど変わらない。午前9時に待ち合わせ場所・JR日暮里駅に向かうと、ガイドの野澤氏が笑顔で出迎えてくれた。英国駐在経歴を持つ同氏は、流麗なブリティッシュイングリッシュで、既着の参加者らと談話しているようす。業務時、大切にしていることはという質問に対し、「ともすると、一方的なレクチャーになりがち。参加者の性質を理解したうえで、質問のしやすい環境づくりが何よりも大切だ」と答える野澤氏。参加者の性格やニーズの把握も、談話を通じ行う。

 今回の参加者の特徴は、歴史と文化に関心が高い点。当日は、「谷中銀座」といった観光スポットと比べ、「谷中霊園」や「天王寺」「根津神社」といった日本の伝統・慣習に触れる機会の多いスポットでの滞在時間が長かった。野澤氏は、同じツアーコースを辿るにしても、参加者の趣味嗜好を把握したうえで、時間管理をすることが大切だと教えてくれた。「卒塔婆」や「神仏習合」「天皇退位」「鎖国」など、比較的ディープな話題を取り上げていたのが印象的。参加者の真剣な表情を見ると、一人ひとりのニーズを満たすガイドに徹していることが良く分かる。

根津神社では、手水舎にも立ち寄り、身を清めた

 ■受入体制の整備担う

 来訪先の国・地域によって、興味関心はさまざま。同社では研修会を開き、ニーズを受けとめるガイドテクニックのさらなる向上を目指す。

 20年の訪日客4千万人を目指し、海外での周知活動が加速するなか、国内での受入体制整備も疎かにできない。観光ガイドを担う同社は、具体的な受け皿のとして機能しており、存在感が高まりそうだ。