「観光革命」地球規模の構造的変化(216)「新しい時代の始まり」

2019年11月5日(火) 配信

(画像はイメージ)

 10月22日に天皇陛下の即位を国内外に宣言する「即位礼正殿の儀」が皇居内で行われた。正殿の儀には、国内外の約2千人の要人が参列した。陛下は「国民の幸せと世界の平和を常に願い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、日本国および日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすことを誓う」というお言葉を述べた。

 新しい時代の始まりとなった今年10月には悲喜交々な出来事が相次いだ。10月1日には世界経済の先行きが不安定化しているなかで消費税増税が実施された。消費税率の10%への引き上げによって個人消費は数兆円規模で失われると予想されており、庶民生活にマイナスのインパクトを与えている。旅行業界では、日本人による旅行需要のさらなる減少が危惧されている。

 10月9日には旭化成名誉フェローで名城大教授の吉野彰氏へのノーベル化学賞の授与が発表され、日本中が沸き立った。スマートフォンなどに広く使われるリチウムイオン電池を開発し、情報化社会を支えると共に地球温暖化の解決につながる成果として高く評価されている。日本人のノーベル賞受賞者は27人目で、21世紀に入ってからでは19人目でほぼ毎年のように日本人研究者がノーベル賞を受賞している。

 日本で開催されているラグビーW杯では10月13日に日本がスコットランドに快勝し、初のベスト8入りとなる歴史的快挙を成し遂げた。残念ながら決勝トーナメントの南アフリカ戦に敗れたが、テレビ視聴率が50%を超えるなど日本中が日本チームの快挙を大喜びした。ラグビーW杯観戦のために世界中から多くのビジターが来日し、各地で観光交流が行われ、大きな成果を挙げた。来年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会を控え、多くの国民がスポーツツーリズムのすばらしさを理解できたことは効果的であった。

 ところが10月中旬に東日本を縦断した台風19号による記録的豪雨で80人以上が犠牲になり、13都県の5千人以上が避難生活を余儀なくされた。世界気象機関(WMO)は気候変動の影響による「気候劇症化」や「気象凶暴化」について警告を発している。旅行産業は異常気象の影響を受けやすい分野なので、さまざまな機会を通して、地球温暖化防止に関する社会的アピールを繰り返し行うべきだ。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(106)楽しみながら創造するおもてなし 「根っこさえ共有できていれば」

2019年11月4日(月配信

2018年7月3日に行われた日本ご当地タクシー協会発足イベントのようす。後列左が西川氏

 福島県白河市で9月28、29日に開かれた日本ご当地キャラクター協会主催の「しらかわキャラ市」に、当社が事務局を務める「日本ご当地タクシー協会」も参加しました。日本各地から加盟のご当地タクシーやタクシーの屋根に載せる「おもしろ行灯」を会場で展示しました。

 そこで、各地から駆け付けたタクシードライバーの行動に感動しました。初参加で、どのような催しをするのか、各ブースでできることは何なのか。事前連絡で理解はしていましたが、やはり全体の雰囲気を壊さないよう気を付けていました。

 当日までに決定していたのは加盟タクシーを紹介した「ご当地タクシーカード」の発表と、プレゼント抽選だけ。それ以外の細かいことは現場で考えようと乗り込みました。

 開催前に会場全体を歩き、ブースの設営が終わるころには、雰囲気も掴むことができました。早速、ブースへの誘導を促すため、用意してきたポスターを段ボールに貼り、パネルを作りました。

 ちょうどパネルを作り終えたころ、会場に到着したタクシーのドライバーが、そのパネルを見つけるなり、躊躇なく背負って来場者にチラシを配り始めたのです。誰に頼もうか、役割分担表を作らないといけないと考えていたので、この自主的な行動には頭の下がる想いでした。

 もう1つ用意したのが、各地から参加した「おもしろ行灯が載ったタクシー」や展示した「おもしろ行灯」と写真を撮ってください、というポップでした。

 イベントが始まると、ポップを見た子供連れのお母さんが、車の前に子供を立たせて写真を撮り始めました。その瞬間です。タクシーの脇にいたドライバーが「乗ってみますか。運転席に」と声を掛けたのです。

 それは、集まった人たちを笑顔にする言葉になりました。それをきっかけに、お母さんとワクワクした笑顔の子供たちで、たちまち順番待ちが出るほどの人気のコーナーに。

 私が「以前から考えていたのですか」と聞くと、「思わず出ちゃいました」と笑顔で話すドライバーを、本当に誇りに感じたのです。

 そのコーナーの感動風景は、子供たちを順番に抱き上げ、運転席に安全に座らせようとドライバーの行動でした。「レバーに足を引っ掛ける子供がいて危ないと感じた」ということでした。「しかし、腰に来ました」と笑顔で言うドライバーは輝いて見えました。

 行動は伝えて実行してもらうのではなく、各人がその場で考えて「考動」する。根っこさえしっかりと共有できていれば、咲かせる花はそれぞれが意思を持って美しく咲かせることができる。

 最幸のおもてなしが実行できた2日間となりました。

コラムニスト紹介

西川丈次氏

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。

熊本城、復旧工事が一部完了 大天守外観 特別公開へ

2019年11月2日(土) 配信

熊本城天守閣大天守(写真=熊本城総合事務所提供)

 2016年4月の熊本地震で大きな被害を受けた熊本城(熊本県熊本市)の復旧工事が一部完了し、シンボルである天守閣の大天守外観の特別公開が10月5日から始まった。

 震災から約3年半経過しての公開で、これまで立ち入り規制されていた区域の一部に入城し、白漆喰に縁どられた天守閣の雄姿が、間近に見られるようになった。

 特別公開では、二の丸広場を起点に西出丸から工事用スロープを通り、平左衛門丸の一部や天守閣前広場の一部に至るルート。今年度は工事がない日・祝日だけの50日間公開される。

 また、来春からは本丸御殿から南へ抜けるルートを設定し、被災状況や復旧状況を見学できるようにする。平日見学もできるという。

 さらに21年春からは大天守、小天守の全体が完全復旧し、内部も公開される予定。

 見学時間は午前9時―午後5時まで。入城料は大人500円、小中生200円。

 問い合わせ=熊本城総合事務所 ☎096(352)5900。

イケバス、池袋を時速19㌔で運行 車窓から流れる街並み楽しむ ウィラー

2019年11月1日(金) 配信

イケバスの外観

 東京・池袋の街を真っ赤な電気バスが時速約19㌔で走る――。バスの名称は「IKEBUS(イケバス)」。区民からの公募で決めた。ただの移動手段ではく、車窓からゆっくりと流れる池袋の街並みを楽しめる。運行を担うウィラー(村瀨茂高社長)は、街に点在する魅力あるスポットをつなぐ、新たな都市型交通として提供するカタチだ。11月下旬には、定期運行をスタートする見通し。

 イケバスは電気バスなので、排気ガスはゼロと環境にも配慮し、非常時には電源としても機能する。1回の充電で約60㌔走る。定員は運転手含めて22人(うち座席17席)と一般的なバスよりも小ぢんまりとしている。

イケバスの内装

 車両やバス停、制服などのトータルデザインは、数多くの鉄道車両などを手掛ける水戸岡鋭治氏によるもの。真っ赤な車両は、街のシンボルとしての役割を担う。

 定期運行では曜日を問わず20分間隔で走らせ、「動く歩道」(同社)のように簡単に乗り降りできるという。池袋の街を回遊するための移動装置として、街中の移動をサポートしていく考え。

 1回の料金は大人200円で、子供100円(高齢者・障害者も同額)となる。このほか3時間券(大人300円、子供100円)や、1日券(大人500円、子供100円)などの券も用意する。3時間5万円から、貸し切りでの運行にも対応する。

イケバス運行ルート

 池袋駅の東口と西口を発着する2ルートを今回は設定した。うち東口からのルートは、中池袋公園と池袋西口公園、南池袋公園、造幣局地区防災公園(仮称)の4つの公園をつなぐ。

イケバスから手を振る高野区長
出発式のようす

 運行に先立ち、「イケバスの出発式」が11月1日、東京・中池袋公園で開かれた。高野之夫豊島区長は「イケバスで街が変わる」と運行の開始に期待を込めた。

 村瀨氏は運行に対し「早いだけが移動の魅力ではない。のんびりした移動も楽しんでもらいたい。国内外のお客に乗ってもらい、交流する場にもなれば」と語った。

テープカットのようす。(右端から)村瀨氏、水戸岡氏、高野区長

 現在イケバスは7台あるが、来年3月ごろにはさらに3台追加される見通し。なお、7台うち一台の車体は、高野区長の思いから黄色一色となっている。

1台しかない黄色いイケバス

HIS、創業40周年目迎えロゴ一新 真のユニバーサルデザインで世界をつなぐ

2019年11月1日(金) 配信

右側が新たなロゴ

 エイチ・アイ・エス(HIS)は11日1日から、創業40周年目を迎えた。新たな挑戦への決意を込め、コーポレートロゴを10年ぶりに一新した。

 1980年から、「若者をもっと海外へ」という想いのもと、起業した。団体旅行が主流だった時代に、格安航空券の販売を通じて、個人客の海外自由旅行の市場開拓を進めてきた。

 現在、日本における旅行市場は、国内旅行市場が全体の8割を占め、海外旅行出国者数は鈍化傾向にある。HISは、「日本人の海外旅行市場の停滞感を打破できるよう挑戦していく」と力を込めた。

 「人々が海外に旅に出ることで、世界を知り、違いを知る。旅行者が日本国内の課題、また世界の課題に気づき、個々の生活を見直し、企業がビジネスを変えるだけの力が、旅にはある」(同社)。

【哲学的デザインについて】

真のユニバーサルデザインで

 「HIS」の文字の背面に、四角と円のシンプルなモチーフを配した。誰もが親しみやすいカタチだけでも、HISが連想されるように、また世界中のありとあらゆる人が、そのカタチを見れば、安心できる・ワクワクできるように、との願いを込めた。

 「例えば、世界には約8億人以上も文字を読むことができない人がいる。識字率の高い国でも、小さな子供は文字を読めない。我われは企業理念を貫き、真のユニバーサルデザインで世界をつないでいきたい。そんな想いも新たなロゴには練り込まれている」(同)。

【ロゴデザイン】

小沼 敏郎(Toshiro Konuma)氏

マルチクリエイター / ビジネスプロデューサー / 作家

ROWMAN , Konuma & Co., Ltd ,  TOKYO MIDTOWN HIBIYA BASEQ

パーク ハイアット 京都、老舗料亭「山荘 京大和」の敷地内にオープン

11月1日(金) 配信

パーク ハイアット 京都の客室「ビューデラックスキング」

 ハイアット ホテルズ コーポレーションは10月30日(水)、日本で25年ぶり2軒目となる「パーク ハイアット」ブランドホテル「パーク ハイアット 京都」をオープンした。ホテルは、老舗料亭「山荘 京大和」の敷地内にあり、同日「山荘 京大和」もリニューアルオープンした。

 ホテルはスイートを含む全70の客室と、料飲施設4カ所、宴会場1カ所、スパ、フィットネスセンターを完備。運営するハイアット、アジアパシフィック担当グループプレジデントのデイビッド・ユデル氏は、「お客様には京都の素晴らしい文化に浸り、洗練された日本のおもてなしを体験し、インスピレーションを感じていただけたら幸いです」とコメントした。

 「山荘 京大和」の敷地内には、江戸時代から続く茶室「送陽亭」などが残されている。運営する京大和は今回のホテルの開業に合わせ、建物を保存、復元する形で耐震補修を実施。阪口順子代表取締役は、「先人の遺したかけがえのないものを受け継ぎつつ、新たなこころみを加えてみな様をお迎えしいです」と語った。

幕末の頃、桂小五郎、井上馨、久坂玄端らが集まり会合を開いたと伝わる山荘 京大和の保護建造物「送陽亭」

 なお、ホテルと料亭の開発は竹中工務店が担当した。

NearMe、成田空港と都内を結ぶ定額シャトル 15区に拡大

2019年11月1日(金)配信

サービス内容イメージ

 NearMe(髙原幸一郎社長、東京都千代田区)は2019年10月30日(水)、成田空港~都内間を送迎する旅行者向けシャトルバスサービスの対象エリアを拡大した。これまでの新宿区、渋谷区、世田谷区、港区、台東区、墨田区、千代田区、中央区、文京区の9区に加え、江東区、品川区、目黒区、大田区、豊島区、江戸川区の6区を発着する相乗りサービスとなった。料金は利用1回につき定額3,980円。

 今回エリアを拡大した「エアポートシャトル」は、独自のAIを利用し搭乗する飛行機に合わせて、都内の希望場所からの最短ルートでの乗車が可能となる。乗車人数は最大9人。既存の交通機関を補完し、バスより小回りが利き、1人でタクシーを利用するよりお得に空港から都内間の送迎を行える。空港~都内間の交通網での混雑解消はもちろん、楽しく快適な移動体験の提供を心掛けている。

サービス利用画面イメージ

次世代のスマートシャトル「エアポートシャトル」概要

 成田空港~都内15区を、ドアtoドアで結ぶ「エアポートシャトル」。独自AIを活用し、最も適したルートで最大9人をピックアップする。空港~ホテル間の移動を大型バスでなく、1人乗りのタクシーでもない新しい形を取り入れ、時間やお金を掛けず、ストレスレスで快適な移動体験の提供をはかる。車内はWi-fiも完備する。

利用方法:オンラインによる事前予約制(予約は2日前まで)

 ※QRコードを読み込んで申込みが可能

 ※多言語対応(現状日本語と英語、今後は5カ国語対応予定)

 ※オンライン決済が可能でチケット不要、飛行機遅延に伴う料金請求はなし

発着点:成田空港第1、第2、第3ターミナル

 千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、墨田区、江東区、品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区、豊島区、江戸川区内の指定場所

 ※ホテル→空港便の場合、希望のホテルからピックアップする

費用:1回3,980円/人(税込) ※乗車場所や区間問わず定額

関連サイトURL

エアポートシャトルURL:

NearMe WEBサイト(タクシー相乗りアプリ「nearMe.」):

トラベルコ、海外航空券でTRAVELIST by CROOZと連携 予約サイト・価格の選択肢が拡大

2019年11月1日(金) 配信

海外航空券比較 検索結果一覧ページの一例

 トラベルコを運営するオープンドア(関根大介社長、東京都港区)はこのほど、海外航空券比較サービスで、CROOZ TRAVEL( 福元健之社長、東京都渋谷区)の運営する旅行サイト「TRAVELIST by CROOZ」との連携を始めた。

 これにより、同社が扱う海外航空券をトラベルコ内で検索・比較できるようなり、掲載する予約サイトが増加した。利用者は予約先サイトや価格面で、これまでより多くの選択肢から海外航空券を選ぶことができるようになった。

TRAVELIST by CROOZとは

 ファストファッション通販サイト「SHOPLIST.com by CROOZ」の運営など幅広い事業を手がける東証JASDAQ上場のクルーズの連結子会社であるCROOZ TRAVELが運営している。「手軽で分かり易く、簡単に」をコンセプトにした格安航空券の比較・購入が可能なオンライン販売サイトとなっている。

トリプラ、多言語AIサービスを「氣多大社」に提供 石川県

2019年11月1日(金)配信

左:公式ホームページ右下にアイコン設置、右:「triplaチャットボット」利用画面(英語)

 旅行業界向けIT・AIサービスを展開するtripla(トリプラ、東京都中央区)は2019年10月31日(木)、開発・展開する多言語AIサービス「triplaチャットボット」を、能登國一之宮 氣多大社(石川県羽咋市)の公式ホームページに提供した。同社が神社・仏閣へサービスを展開する事例は初めて。増加傾向だった訪日外国人観光客の問い合わせに、5言語で対応できるようになった。

神事を公式HPやSNSなどで発信し、外国人観光客が増加

 氣多大社は創建2100年を越える神社で、縁結びの神様を祀る恋愛成就の社として知られている。毎月1日開催の縁結び祈願「ついたち結び」や能登伝統の「平国祭」、氣多大社を崇敬した加賀藩主・前田利家と妻・まつにちなんだ「結婚式」など、1年を通じてさまざまな神事が実施される。そのようすは公式ホームページやSNSなどで発信しており、近年、外国人観光客の参拝が増えているという。

 ユニークな取り組みを行う氣多大社に対して、IT・AIを活用したサービス品質向上を目的に、トリプラが同神社の公式ホームページに「triplaチャットボット」を提供。外国人観光客はAIとのチャットを通じ、由緒や年中祭事のスケジュール、参拝方法、外国人も申し込める婚礼案内などの情報を、日本語や英語、韓国語、中国繁体字、中国簡体字の5言語で問い合わせができるようになった。

 トリプラは「triplaチャットボット」を通じ、氣多大社と外国人観光客の円滑なコミュニケーションを担い、氣多大社の業務効率化と顧客満足度向上に貢献すると同時に外国人観光客のさらなる誘致のサポートをはかるとする。

「能登國一之宮 氣多大社」概要

所在地:石川県羽咋市寺家町ク1-1

HIS、日本産の「食」 世界へ 商社事業開始 売上げ8千億円目指す

2019年11月1日(金) 配信

10月31日に開かれた締結式のようす。(左から3番目)澤田会長兼社長と(同4番目)鈴木知事

 エイチ・アイ・エス(HIS)は国内の農林水産物などを、世界の食市場に売り込む新たな商社事業を始めた。HISが持つ海外約270拠点を生かし、現地国での販路開拓や拡大、販売などを進める。

 第一歩として10月31日、三重県と「食の海外展開に係る戦略的連携協定」を結んだ。同県の「茶」をアゼルバイジャンの大手製菓メーカーが作る抹茶チョコレートの原料用に輸出する。初年度の売り上げは8千億円を目指す。

 世界の食関連市場は伸びている。農林水産省によると、世界の飲食料市場規模は2015年に890兆円だったが、30年に1・5倍の1360兆円になるという。海外における日本食レストラン数は10年から17年までで、3・8倍に伸びた。日本食への関心も高まっている。

 「我われにとっても大きなビジネスチャンス」。HISの澤田秀雄会長兼社長は同日に開かれた会見で、取り組みに期待を込めた。「日本の素晴らしい食材を、全世界に送れるようにしたい」――。1年目は3品目を3カ国に、5年後には10品目、30カ国に売り出す見通し。

 まずは三重県との連携に力を入れる。「伊勢茶」と「みかん」を戦略商材に設定。共通のロゴマークも策定し、海外でのブランド力向上もはかる。

三重県産のお茶

 茶に関してはすでに販路がある。アゼルバイジャンで100%日本産抹茶チョコレートを製造。ロシア・CIS諸国、トルコなど10数カ国に転送販売していく。健康食品などを扱う現地メーカーでは、日本茶の商品が売り出される。

 みかんは、今後、「みかんの木グローバルオーナー制度」を計画している。海外の個人・法人向けに、収穫される果実やその加工品を提供する。制度により、一定の収穫量に対して売り上げを保証し、みかん農園を支援していく。

三重県産のみかん

 鈴木英敬三重県知事は会見で、「お茶とみかんは県で輸出に取り組んでいる重要品目になる。産地の人々も意欲をもって挑戦している。(HISの)現地のネットワークによって、スピード感を持って量的にも拡大できる」と語った。

 一方、HISが取り組むのは世界の食市場に日本産の食材を売り込むためだけではない。

 国内の農林水産物の生産や加工、販売体制は現状、構造上の課題がある。生産人口の高齢化や減少が進んでいるが、根っこの流通システムは「国内向け」に偏っているという。

 輸出先の求める規模での生産や価格設定を行うことが難しい状況にある。そもそもグローバル展開に関するノウハウを持つ担い手が不足している。

 HISでは、本業の旅行業で培った独自のネットワークを世界各地で確立している。世界69カ国164都市264拠点(31日時点)の海外店舗網があり、現地のレストランやホテルなどはもちろん、さまざまな業種との接点がある。

 これら独自のネットワークを生かし、販路開拓や営業、ニーズ調査、マーケティング、販売などを担っていく。世界市場を見据えた国内の生産・加工・出荷を可能にすることで、現行のシステムを変えていく狙い。「腕の見せどころ」(HIS)。

 このほか、輸出国などで食から日本自体に興味を持った人に対し、訪日旅行ツアーを提供するなど、循環的な仕組みづくりも進めていく。