観光業の構造的な弱点克服へ 21年度を振り返る(観光庁長官会見)

2022年3月23日(水) 配信

観光庁の和田浩一長官は3月18日(金)に会見を開いた

 観光庁の和田浩一長官は3月18日(金)に開いた会見で、2021年度の振り返りを行った。「観光関係者は未だ厳しい状況から抜け出せていない。来年度は、引き続き雇調金などの支援策や観光需要の喚起を行っていく。コロナ禍で見つかった観光業の構造的な弱点を克服するための取り組みを推進する」と語った。観光庁はGo Toトラベル事業の再開について、「時期が来たら迅速に再開できるよう準備を進める」考えだ。

 

 政府は4月1日(金)から、地域観光事業支援(県民割)の割引対象を、地域ブロックへ拡大することを決定した。18都道府県でのまん延防止等重点措置が3月21日(月)に解除することを受け、3月16日(水)の会見で岸田文雄首相は、「県民割拡大後の感染状況を見極めたうえで、Go Toの再開時期を探る」方針を示した。

 また、和田長官は、Go To事業に割り当てられた予算のうち、今年度内に支出できないとして2022年度に繰り越せない額がおおよそ7200億円と報告。

 「既にGo To再開に向けての予算は確保している。具体的な再開時期は未定だが、適切な時期が来たならば速やかに再開する」と準備を進めている旨を話した。

 

観光地再生・商品造成 事業公募を受付中

 観光庁は3月から、21年度経済対策で確保した予算を充当した事業である「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業」と「地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業」の公募を始めた。

 観光地の顔となる宿泊施設を中心とした観光地再生・高付加価値化について、地域計画の作成や、同計画に基づく改修事業などを強力に支援する。公募は4月18日(月)まで。

 稼げる看板商品の創出は、一般型と、文化財や日本遺産を活用した文化資源連携型の2種類型を補助対象事業として設定。商品作りから販路開拓まで一貫した支援を行うとして、800~1000件程度の採用を想定している。公募は4月15日(金)まで。

 

ロシアの侵攻問題 市場の回復遅れ懸念

 また、ロシアの侵攻問題については、「ロシアからの訪日旅行者数の伸び率が高いということで、15年に訪日プロモーション重点市場に追加し、さらなる旅行者の増加を目指していた。観光分野の共同活動プログラムに基づき、2国間の相互交流を促進し、両国の発展や友好関係の強化をはかろうとしてきた」と振り返る。

 しかし、新型コロナの感染拡大で交流が途絶えている状況と併せて、ロシア・ウクライナ侵攻により、当面は往来ができない状況と見ているとしたうえで、「現在でも欧州線の運休や燃油費の高騰など起きている。中期的な目線から、ポストコロナの国際観光市場の回復の遅れが懸念される」とし、引き続き諸情勢を注視する意向を示した。

【PR】「Agoda」×「花もみじ」(北海道定山渓温泉) 観光業界の回復に向け、戦略的支援を

2022年3月23日(水) 配信

アゴダロゴマーク

 ホテルや航空券、アクティビティー予約を提供するグローバル旅行プラットフォーム「Agoda(アゴダ)」はコロナ禍においても、日本国内の旅行需要を捉えるために、宿泊施設それぞれに最適なサービスを提供している。本紙はこのほど、アゴダ北アジア統括アソシエイト・バイスプレジデントの大尾嘉宏人氏と、北海道・定山渓温泉の「花もみじ」マネージングディレクター兼鹿の湯グループ専務取締役の金川浩幸氏の対談を実施。アゴダのサポート体制やコロナ禍での取り組み、今後の展望を聞いた。

日本の旅館ホテルに特化した新プラン

Agoda北アジア統括アソシエイト・バイスプレジデント 大尾嘉 宏人 氏

 ――アゴダのキーとなるセールスポイントを教えてください。

 大尾嘉:アゴダは各国ごとに即したサービスを提供するグローバル企業です。ユーザー(消費者)へのアプローチ機能として昨年、日本の旅館・ホテル向けに料金プランをカスタマイズできるシステムを導入しました。客室在庫や宿泊プランを、フレキシブルに組み合わせられる機能です。部屋タイプや夕朝食の有無、滞在時間などを柔軟に組み変えたプランを掲載できます。このプランを導入され、予約数を伸ばした旅館・ホテルも多いです。

 また、アプリやWebサイトから、ユーザーが志向に合った旅館・ホテルを簡単に見つけられるようサポートしています。どのような価格で何ができるのか。的確にマッチするよう、表示をパーソナライズ(ユーザー一人ひとりの属性や購買・行動履歴に基づいて最適な情報を提供する仕組み)させ、潜在顧客にもリーチします。旅館・ホテルと日本国内のユーザーが上手くマッチングすることで、予約数を伸ばしつつ、各施設に合ったユーザーの送客をサポートしています。

 ――カスタマイズ料金プランについて詳しく教えてください。

 大尾嘉:例えばユーザーニーズとして「もっと長時間滞在したい」や「早くチェックインしたい」、さらに「料理メニューや写真を見て決めたい」などがあります。このようなニーズに対して、フレキシブルかつ豊富に宿泊プランを設定することで、「旅マエ」に必要な情報がユーザーに伝わります。さまざまな要望に対して、丁寧に応えられる仕組みを提供しています。

 ――宿泊施設へのサポート体制はいかがですか。

 大尾嘉:機能面では、アゴダのプラットフォームは旅館・ホテルにとって非常に使いやすいものとなっています。販売価格や客室在庫、売上、予約状況などを旅館・ホテルの担当者が自由に操作し、的確に把握できる管理システムを提供しています。

 また、日本国内6拠点のうち5カ所に事業所を設け、アゴダに新規参画する際は、必要な事務手続きを代行するなど、テクノロジーを不得意とする方にも安心できるサービスを提供しています。これにより登録完了後は、即座に客室在庫を販売いただけます。各地域にいる専任のアカウントマネージャーがしっかり旅館・ホテルをサポートすることは、これからも粛々と取り組んでまいります。

「花もみじ」マネージングディレクター 兼 鹿の湯グループ専務取締役
金川 浩幸 氏

 ――アゴダのプラットフォームを利用したきっかけは。どのようなことに役立ちましたか。

 金川:利用前の鹿の湯グループは、FIT(海外個人旅行)に未対応でした。温泉街にある宿と話すなかで、アゴダ含め数社のグローバルOTA(外資系オンライン旅行会社)により、海外からの宿泊が増えていると耳にしたのが始まりです。つまり、FITを取り込む1つの手段としてアゴダを採用しました。恐らく地方の大手旅館・ホテルはこのパターンが多いと思います。

 実際に運用すると、とくに集客面で、韓国からの宿泊客が急増しました。韓国のFITマーケットに向け、プロモーションに取り組むさなかでしたが、アゴダ経由の韓国人宿泊客が爆発的に増えました。今はコロナ禍でインバウンドの動きは止まっていますが、当時は、インバウンド全体のうち韓国人宿泊客の割合は40%弱、月間約5千人を記録しました。

 大尾嘉:アゴダはブッキング・ホールディングスグループの中で、アジアで強いブランド力と高い評価を得ています。日本は、韓国だけでなく中国やタイ、ベトナム、台湾などインバウンド旅行客に最も人気のある旅行先です。コロナが収束すれば、旅行業界および訪日旅行は急激に回復すると確信しています。これは同時にアゴダが強みを発揮できるときでもあります。

ビッグデータを活用し、コロナ禍も好調(大尾嘉氏)

 ――コロナ禍で事業の方向転換はありましたか。

 金川:定山渓温泉には、宿泊施設が20軒ほどありますが、営業しているのが2施設くらいのときもありました。それほど感染症拡大による影響は大きかったです。当初は未知のウイルス蔓延に、旅行など考えてもらえず、集客に向け試行錯誤が続きました。

 ただ、花もみじは、比較的コロナ禍に即した個人対応ができました。例えば個室での夕食や露天風呂付き客室がない代わりに貸切風呂を提供するなどです。プライベート空間の提供をしっかり打ち出しました。

 その後、国のGo To事業が始まりトラベルバブルを経験しましたが、この流れに乗じないように気を引き締めました。事業が最終的にどこまで続くのか、わからなかったからです。コロナ禍でも、Go To事業が終わったあとでも、リピートしてもらえることが、私共にとって大切だと考えます。このほか、館内各所に相当な設備投資を行いました。 

 ――コロナ禍で旅行者の行動は変わりましたか。観光需要回復に向けての取り組みは。

 大尾嘉:最も大きな変化は、海外旅行に行けなくなり、国内旅行にシフトしたことです。行動が制限されても、旅行をしたいという思いは依然高く、とくに国内旅行における変化は、マイクロツーリズムの台頭です。自宅から車で1、2時間掛けて行けるような近場旅行のことで、宿泊が旅行の手段というよりも、泊まること自体が目的に変わりました。旅館・ホテルを訪れ、そこでの体験を楽しむようなユーザーが増えています。この変化を受け、アゴダはカスタマイズプランを開発し、より宿泊滞在時のイメージや魅力が旅行者に伝わるよう改善しました。

 実際に私共のサイトでみても、2019年と21年の第4四半期を比べると、旅館というキーワードでの検索が約2倍に増えています。さらに、温泉地という言葉で探す人は3倍近くになりました。自粛疲れもあると思いますが、日本国内で温泉や旅館への関心が高まっています。

 また、コロナ禍でアゴダは3つの企画をリリースしました。1つ目は「Easy Cancel(イージー・キャンセル)」です。コロナ禍による急な旅行制限に対応できるように、宿泊プランの変更・キャンセルを簡単にしたいユーザー側のニーズに対応した仕組みです。施設側から見ると負担ともとれますが、導入した宿の予約数は大幅に増えています。この事実をお伝えすることで、選択いただくケースは多いです。2つ目は「Hygiene Plus(ハイジーン=衛生・プラス)」です。これにより、ユーザーは健康と安全に関する規約のチェックリストを持つ宿泊施設をじん速に識別できるようになりました。最後は「Beds Network(ベッズ・ネットワーク)」です。ブッキング・ホールディングスが誇る世界最大級の提携アフィリエイトパートナーや、ホールセラーに販路を拡大できるプログラムです。煩雑な手続きや追加コストなしで、宿泊施設のB2B業務を効率化します。

コロナ禍の旅行需要に応えるため、3つのサービスを開始

 ――現状はいかがですか。

 大尾嘉:2021年の国内予約数は、コロナ禍前の19年を上回りました。伸び率も、日本のマーケットや産業の平均と比べ、はるかに高いです。コロナ禍の日本においても、アゴダは国内予約数を伸ばしています。

 その要因は、さまざまありますが、まず1つは、予約検索のパーソナライズ化です。旅行客の過去の検索行動やアゴダが持つマーケティング・インテリジェンス(市場戦略情報)で集積された情報に基づき、最適な検索結果を表示しています。例えば、北海道の花もみじ様と親和性があるユーザーと判断したら、アゴダのプラットフォームをはじめ、外部のアフィリエイトやサイト上で、宣伝・誘導します。この仕組みを、日本国内のさまざまな旅館・ホテルに提供したため、インバウンドを失った一方で国内の予約数が増加しました。

 2つ目は、日本の旅館・ホテル向けカスタマイズプランの導入です。これにより、特定ユーザーに向けた、マーケティングやクーポンキャンペーンも展開できました。

 ――日本市場拡大に向けての取り組みは。

 大尾嘉:コロナ禍を経て、旅行も様変わりしました。日本のユーザーニーズを捉え、さらに旅館・ホテルの要望もしっかり理解しながらより最適化していきます。テクノロジー会社として情報技術を生かし、客室稼働を上げるとともに、その魅力を全国に伝えていきます。

 アゴダは日本国内で約150人の社員を雇用していますが、今年末までにチームを大幅に増強する計画で、旅館・ホテルのサポート体制をより強固にしていきます。

提案から企画も、密な連携を期待(金川氏)

 ――今後どのようなサポートを期待しますか。

 金川:アゴダからは、他の海外OTAと比べ、頻繁にコンタクトいただきます。このやりとりが、企画にも生きています。海外で圧倒的なシェアを誇りながらも、国内の契約施設向けサービスを充実させている点を評価しています。マイクロツーリズムという観点では、札幌中心部からも近いので、市内のお客様をしっかり送客いただいています。今後も密な連携を期待しています。

 大尾嘉:アゴダの強みの1つは、旅館・ホテルへ赴き、提案し続けることです。それはやみくもに訪問するのではなく、データを基に改善提案を行うことです。さまざまな事例を踏まえ、戦略的に提案するよう心掛けています。

 金川:今は間違いなくコロナ禍前より友好な関係にあります。色々な提案をいただきますが、国内OTAとはまた違うフィードバックなので、とても新鮮です。
 グローバルOTAの管理画面は、国内OTAとは異なり、慣れないうちは使いづらい部分もあります。海外のお客様をより多く取り込みたいのであれば、アゴダのプラットフォームに合わせていくという視点も大切だと感じています。

 大尾嘉:ご指摘を一つひとつクリアしていこうと進めています。グローバルというと共通した基準、すなわち標準的なものをつくり、全部を同じにするイメージがありますが、アゴダには国ごとにそれを適用し、順応させていくというマインドがあります。その結果、海外旅行を予約する際に、アゴダを使っていたという旅行客が、国内旅行にもアゴダを利用してくれるようになり、需要はますます増えています。今後も引き続き、しっかりと日本のニーズに応えられるように改善していきます。

 ――最後にアゴダの今後の展望をお願いします。

 大尾嘉:国ごとに宿泊施設の選び方は異なり、日本のユーザーにも特有のものがあります。その需要を見極め、グローバルOTAにしかできないデジタルマーケティングを提供し続けます。テクノロジーは常に進化しますが、社内には総勢1千人以上のエンジニアが在籍し、日本国内のユーザーや旅館・ホテルに適応したサービスやサポートを提供します。
 インバウンドは必ず戻るので、日本国内の旅館・ホテルを世界のユーザーに、どのようにアピールするのかも課題です。海外のユーザーニーズを的確にとらえ、日本という国や四季折々の魅力的な観光地を、世界にしっかり発信して行きます。

 ――ありがとうございました。

ホテル・旅館予約サイト「Agoda」とは

Agodaご登録に関する問い合わせ

電話番号:03-6634-5058

新規参画申し込みフォームはこちら(アゴダ社サイトへのリンクです)

3月26日から佐倉チューリップフェスタ2022が開催

2022年3月22日(火) 配信

55万本のチューリップ畑が広がる

 千葉県佐倉市と佐倉市観光協会は3月26日(土)から、印旛沼湖畔の佐倉ふるさと広場で「佐倉チューリップフェスタ2022」を開く。今年は、昨年よりも多い約80種類55万本のチューリップがオランダ風車を背景に咲き誇る。4月17日(日)まで。

 期間中は、チューリップの掘り取り販売や観光船による印旛沼遊覧、ストリートオルガンの演奏、風車まつりなど各種イベントを企画している。インスタグラムフォトコンテスト「春のふぉとこんてすと」は、3月19日~5月8日に撮影して投稿した写真が対象。佐倉市観光協会のインスタアカウントをフォローし、「#春ふぉと佐倉2022」をつけて投稿する。会場の佐倉ふるさと広場には、花言葉にちなんだインスタスポットも登場するという。

 

JALとANAが国交省バリアフリー化推進功労者大臣表彰を共同受賞

2022年3月22日(火) 配信

2社合同で8空港と意見交換会を実施

 日本航空(JAL、赤坂祐二社長)と全日本空輸(ANA、平子裕志社長)は、3月17日(木)、第15回「国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰」を共同受賞した。同表彰は2007年度に創設。国土交通分野におけるバリアフリー化の推進に多大な貢献が認められた個人または団体を表彰し、バリアフリー化に関する優れた取り組みを広く普及・奨励することを目指す。

 JALとANAは、コロナ禍でもすべての搭乗客に安全・安心に旅行してもらえるよう、障害者参画のもと、さまざまな当事者ニーズに寄り添った接遇ガイドラインを策定。21年5月から、国内主要8大空港の空港ビルや空港運営会社の理解促進に向け、接遇ガイドライン座学や案内の実演、意見交換会を実施してきた。ANAは16年度、JALは17年度に各社単体で表彰を受けているが、共同での受賞は今回が初めて。会社の垣根を超え共同で航空業界におけるバリアフリー化の推進に取り組んだことが高く評価された。

〈観光最前線〉昭和40年男

2022年3月21日(月) 配信

昭和40年男VOL.43

 雑誌に影響されたのだろうか、最近とにかく懐かしいものに目がいってしまう。

 人造人間キカイダー、ロボット刑事、プロレススーパースター列伝、マカロニほうれん荘、ブラック・ジャック、エコエコアザラク、魔太郎がくる、包丁人味平、トイレット博士、ドーベルマン刑事、1・2の三四郎、リングにかけろ、熱中時代刑事編、池中玄太80㌔、俺たちは天使だ、さらば国分寺書店のオババ、川口浩探検シリーズ、加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ、天知茂の「江戸川乱歩の美女シリーズ」、花王名人劇場、うしろの百太郎、空手バカ一代、霊感ヤマカン第六感、蘇える金狼、野獣死すべし、あのねのね、ツービート、横浜銀蝿、アグネス・ラム。

 8割以上理解できた人には「昭和40年男」の称号を贈呈したい。

【古沢 克昌】

【対談】金沢大学・山崎光悦学長 × 加賀屋・小田禎彦相談役 観光ビジネスを担う人材育成へ

2022年3月20日(日) 配信

金沢大学 山崎光悦学長(左)と加賀屋 小田禎彦相談役

 金沢大学(山崎光悦学長)は2021年3月、立教大学と観光産業分野の中核人材育成に向けて連携・協力協定を結んだ。仲介役を果たしたのが加賀屋の小田禎彦相談役。昨年9月には小田氏は金沢大学から名誉博士号を授与された。金沢大学は今年4月、融合学域に「観光デザイン学類」を創設し、新たな観光価値をデザインできる人材育成に取り組む。長年人材育成に取り組んできた小田相談役と、山崎学長が観光ビジネスを担う人材育成や地域の活性化について語り合った。

    【司会進行=本紙社長・石井 貞德、構成=増田 剛】

 ――小田相談役が仲介役となって、金沢大学と立教大学が「観光」というキーワードでコラボレーションして、地域活性化していく取り組みが始まりました。

 小田:大したお役にも立てなかったのですが、私は立教大学のOBとして、地元の金沢大学とのご縁で、両大学が「観光」によって結ばれたことは、大変ありがたく、うれしいことです。
 我われ観光業界はこれまでどちらかと言えば物見遊山的な、製造業などと比較しても正当に価値が認められない時代もありました。そういう意味でも、観光業に携わる人たちが、地域の活性化や社会的、経済的にも大きな貢献を果たしている役割を自覚して、「地域全体、さまざまな産業に波及効果を与えうる産業である」と胸を張れるように、全力で奉仕していきたいと考えています。
 金沢大学から名誉博士という大変光栄な称号をいただき、これから具体的に、どのように進めていけば社会のお役に立てるのか、コロナ禍の難しく激変の時代ですが、ひたすら考えています。

 ――名誉博士号を小田相談役に授与した経緯につきまして。

 山崎:小田相談役の講義をこれまで2度ほど拝聴する機会があり、大変感銘を受けました。
 私自身は工学部出身で機械工学が専門です。「地域の産業を担うのはものづくり」との矜持を抱きつつ、時代が大きく変わるなかで、ものづくりに従事する人の比率はそれほど高くありません。北陸、あるいは石川県、金沢市を見ても、サービス産業の従事者が7割ほどを占め、圧倒的に多いのが現状です。
 そのようななか、金沢大学の改革の中核として、今年4月に融合学域「観光デザイン学類(学科に相当)」を創設します。新たな観光価値をデザインし、観光ビジネスを牽引する人材を育成・輩出することが目的です。
 文部科学省が進める「トビタテ! 留学JAPAN日本代表プログラム」のなかに、地域人材育成プログラムという柱があります。石川県内の大学や高等教育機関が連携して、学生たちに海外留学をさせるという取り組みを5、6年前から実施しており、加賀屋さんにも支援をいただいています。
 そのご縁もあり、地域創造学類の中の観光学・文化継承コースの学生(2年生)15人中5人が本日、加賀屋さんで研修を受けています。地域への定着度なども重視しながら、人材育成のプログラムをさらに充実し、人数の拡大をしていきたいと考えています。
 小田相談役のお話にもありましたが、昨年3月に立教大学と、観光産業分野をはじめとする中核人材育成のため連携・協力協定を締結しました。この仲人役を小田相談役に担っていただき、感謝しています。
 観光に関わるビジネスが今後、日本の成長産業の柱にならなければならないと思っています。その意味でも小田相談役には先導役として、ホスピタリティの真髄について教えを請いたいと思い、昨年9月に本学において、観光業界では初めて名誉博士の称号をお受けいただきました。

 小田:振り返ってみますと、立教大学在学中はホテル研究会に入って、さまざまな経験をさせていただきました。自宅が旅館で両親の苦労も見てきていましたので、「大学を卒業したら旅館の跡継ぎをするのだ」という思いを強く持って、60年間旅館業にどっぷりと浸かってきました。
 旅館業と併せて、石川県観光連盟の理事を21年、理事長を8年間務めました。なかでも2015年3月14日に開業した北陸新幹線が「北陸活性化の千載一遇のチャンス」と、知事からも命を託されました。
 観光客を受け入れる方々のサービス向上や、人材育成のセミナーだけでなく、県民の皆様にも受け入れる意識の向上へのご理解を深めていただきました。
 地域一帯でウェルカム運動を展開した結果、アンケート調査で86・3%が「北陸を訪れてよかった」と回答されまして、知事からも感謝されたことで自信や誇りを感じることができました。
 観光事業が北陸にもたらした力が相当に大きかったことを県民の皆様にもご理解をいただきました。
 金沢大学も「観光によってもっと北陸を活性化していける」とのお考えのなかで、今回のような評価をいただけたのだと捉えています。高齢ではありますが、何とか一肌脱いで地域が元気になるように、お引き受けし決意をしているところであります。

対談は2月23日、石川県・和倉温泉「加賀屋別邸 松乃碧」で行われた

 ――立教大学との連携について。

 山崎:観光デザイン学類を創設する以前に、日本における観光分野の人材育成や歴史などを調べたところ、観光教育の草分け的な存在であり、知の蓄積の大きな立教大学には学ぶべきものがたくさんあると感じております。

 小田:国立大学の金沢大学に、我われの観光産業の重要性を認めていただいたことはとてもうれしく思いました。

 山崎:地方にある国立大学は、医学部、工学部、法学部、経済学部などが同じようにあって「金太郎飴」と揶揄されることもありました。金沢大学も以前から「特色のある大学にしていこう」という議論が行われていました。その一つが「観光デザイン学類」の創設です。そのほかにも、能登町には魚の養殖に関することを学び研究できるコースを設置しています。
 近年、どの大学もさまざまな特色を出しているなかで、本学はホスピタリティや観光デザインの分野でも第一歩を踏み出したところです。
 これまでは、人文系と理工系、生命系の3学域しかありませんでしたが、今年度から文理融合した「融合学域(学部に相当)」をスタートさせました。
 文系と理系の学生を半分ずつ集めて、アントレプレナー(起業家)教育を軸とした新しい教育を始めました。観光デザインにも通じるところが大いにあります。
 これをベースに2つ目として、人文系の知識やスキルを3分の2、残り3分の1は理工系の知識やスキルを教え込んだ学生を育てていこうとしているのが観光デザイン学類です。
 これからの観光はホスピタリティの真の理解と、数理データサイエンスが必要で、人の動きや経済活動などデータに基づいて分析し、ビジネスを展開することがとても大事になってきます。金融や不動産も絡めた幅広い視点から地域活性化に取り組む人材を育て、新しい価値を生み出していくことがミッションだと考えます。

 ――人材育成は小田相談役もライフワークとして、長い間取り組まれてこられました。

 小田:立教大学の野田和夫さんとともに、米国の大型レジャー施設の研修に誘われたことがありました。
 そのときに、「もっと地元の若者に世界を見せていく必要がある」と感じて、青年会議所の若者を20人ずつ20班、加賀屋の社員20人ずつ20班、社員には1人10万円ずつ負担していただき、米国でさまざまな研修を行ってきました。
 ピーター・ドラッガー教授が登壇する大学院や、カリフォルニア大学バークレー校でルイス・バックリン教授の授業を受けさせたりもしました。
 また、当時JTB社長だった田川博己さんにもご支援をいただき、旅館・ホテル経営者の若い後継者を募って、20人ずつ10班ほどの研修も行いました。振り返ってみると30年間で1千人、5億円を投資したことになります。
 私も若かったので「一生懸命勉強しろ」と荒っぽいことも言いました。リッツカールトンに宿泊して世界一流のサービスを実際に体験したり、七尾市と姉妹提携しているカリフォルニア州のモントレーや、カーメル・バイ・ザ・シーなどの町で交流を実施したりしてきました。
 また、ジュニアウイングス・イン・アメリカといったかたちで、中学生をモントレーの家族に預かってもらう取り組みも地元の青年会議所のプログラムとして20年間実施してきました。子供たちは2週間程度の滞在が終わり、帰るときにモントレーの家族が親切で「帰りたくない」と泣き出して、「英語を勉強してもう一度モントレーに行くのだ」と世界に目を向ける大きなきっかけづくりにもなりました。
 地方の若者に海外での体験をしてもらうことを続けてきましたが、金沢大学の学生にも海外から金沢や、能登を見るという視点も養ってほしいと考えています。
 学びの大切さを感じるなかで、インターンシップというかたちで金沢大学の学生にお返しをしていくことが、地域活性化の人づくりの面で寄与できるのではないかと考えています。

 山崎:金沢大学の1丁目1番地は「地方創生」です。他大学にはない観光デザインや、観光ビジネス、そこに加賀屋さんのお力も借りて、ホスピタリティや、おもてなしを学生に学んでもらいたい。まずは地域に定着し、一部は世界に羽ばたくようなグローバルな人材を育成したいですね。

 ――旅館業に若く優秀な人材が多く集まらない現状について。

 小田:大きな要因としては、“たすき掛け”や“中抜け”など勤務時間の不規則さがあると思います。働き方改革のなかで、いかに時代に即したかたちにしていくかが問われています。
 旅館業の勤務時間を一番難しくしているのは、夕食と朝食を提供するなかで、時間が離れすぎているという点です。2度のピークに人が必要なため、働き方改革のなかでルーティンワークを真剣に見直しながら、生産性を上げ、もっと良い待遇にしていくことが最優先課題となっています。
 例えば、朝食の3時間勤務のあと、グループや提携する製造業で午後5時間勤務するなどの試みを考えています。
 旅館・ホテルで長年従事する人材は、消耗品ではなく、「リタイア後の生涯を通じての人づくり」についても考えていかなければならないと痛感しています。

 山崎:私のモットーは「生涯現役」です。大学も65歳になると教員は定年になりますが、定年後もノウハウを持っていらっしゃるので、生涯を通じて学び直す「リカレントスクール」などさまざまな機会で講師としてお話をいただいたり、インターンシップのお世話をしていただいたりしています。
 ボランティアを含め、生きがいや社会貢献のための活躍の場を作っていくことが大事だと思っています。生涯現役とはそういうことだと思います。

 ――ありがとうございました。

「ZOOM JAPON(ズーム・ジャポン)(3月号)」

2022年3月19日(土) 配信

http://zoomjapon.info

特集&主な内容

 本誌は毎年パリで開催される国際旅行博にも併せて、3月号では日本の都道府県の一つを特集しています。国際旅行博はコロナ禍のため、2019年以来の開催になりました。今年は、本土復帰50周年を迎えた沖縄特集です。玉城デニー沖縄県知事の独占インタビューをはじめ、日本で唯一の女性編集局長がいる沖縄タイムスの紹介、また琉球新報の松本剛編集局長のインタビューもあります。カナダ在住で沖縄についての著作もあるジャーナリスト、乗松聡子さんには、沖縄が抱えている問題についてお話を伺いました。文化面では、現在は観光に利用されている伝統的な木造舟サバニや、戦後から伝統的泡盛を作っている石川酒造所を取材しました。旅行ページでは、本誌ライターが国道58号線を軸に沖縄本島を縦断した旅を語っています。

〈フランスの様子〉フランスの春の嵐

3月5日、パリでのウクライナ支援のデモを伝える民放TF1の夜のニュース。「デモ:青と黄に染まるフランス」

 フランスのメディアではウクライナ関連の話題が完全にコロナウイルスの話題から置き換わった。◆幸いにも、フランスではワクチンパスの活用と順調に進む追加ワクチン接種で、オミクロン株の波も収束に向かっており、3月14日からは公共交通機関など以外でのマスク着用義務もワクチンパスの運用も解除され、日常がほぼ再開する。◆感染症は完全に制御できた訳ではないが、ワクチン接種とワクチンパスというツールを既に使いこなすフランスでは、状況次第ではこのツールを再稼働すればよいだけの状態のようだ。◆そして、フランスでは5年に一度の大統領選挙が4月10日に第1次投票を迎え、ぎりぎりで再出馬を表明した現大統領のマクロン氏を含め12人の候補者がそろった。◆現大統領は、緊迫する国際情勢を理由に、第2次投票の決選投票までは他の候補者とは討論などはしないとし、異例の大統領選挙戦となっている。ただ、世論調査でも現大統領の再選もほぼ確実とされている。◆この春のフランスは不安定に見えるが、冬のバカンスシーズンを終えて観光業界はわりと好調で、3月9日からは夏のバカンスの鉄道予約もいつも通りに始まった。

ズーム・ジャポン日本窓口 
樫尾 岳-氏

フランスの日本専門情報誌「ZOOM JAPON」への問い合わせ=電話:03(3834)2718〈旬刊旅行新聞 編集部〉

富山県内最大級の天然温泉施設を運営「ゆらら」 負債は8億4662万円

2022年3月18日(金) 配信

 富山県内最大級の天然温泉施設を運営する「ゆらら」(相澤行広社長、富山県砺波市)は3月4日(金)、富山地裁から破産手続き開始決定を受けた。帝国データバンクによると、負債は約8億4662万円。

 同社は、富山県の有力建設業者「相澤建設」の事業多角化の一環で、2005(平成17)年11月に設立。翌12月にオープンした天然温泉施設「湯来楽 砺波店」の運営を手掛けていた。露天風呂やサウナ、腰掛け湯などバリエーション豊富な県内最大級の設備を有し、アクセスの良さからも一定の集客を得て、06年11月期には年間収入高約5億2900万円を計上していた。

 19年6月にはフランチャイズに加盟して焼肉店の経営に参入。その後、2店舗に増やしていたが、本業である温泉施設は同業者との競合が激しく、同年11月期の年間収入高は約3億4900万円に落ち込んだ。

 その後、新型コロナウイルス感染拡大の影響で来客数は減少し、温泉施設や焼肉店の投資に伴う借入金が重荷となっていた。こうしたなか、相澤建設が21年4月に自己破産を申請。「ゆらら」は事業を継続していたが、コロナ禍が長引くなか金融債務返済の見通しが立たず、今年1月20日付で温泉施設を休業していた。

【特集No.606】 鼎談 地域ファンの作り方 地域と観光客“相思相愛”の関係を

2022年3月18日 (金)配信

 アフターコロナの観光は、「テーマ」のある旅が好まれると予想されている。一方で、その地域ならではの魅力の発掘、発信を多くの自治体が十全に行えていないという指摘もある。カギを握るのは、「シティプロモーション」。市長自らが先頭に立ちシティプロモーションの陣頭指揮を執る長崎県島原市の古川隆三郎市長と、全国で地域活性に取り組むロケツーリズム協議会の藤崎愼一会長が、観光庁観光地域振興部観光資源課の星明彦課長と「地域のファンづくり」、「地域ブランドの生かし方」について話し合った。

 ――新型コロナウイルス感染症の収束が見通せないなか、疲弊する地域経済の立て直しが喫緊の課題になっています。このような状況のなか、観光庁は「稼げる地域づくり」を目的に掲げ、「第2のふるさとづくりプロジェクト」を進めています。始めにこの政策について教えてください。
 

 星:「第2のふるさとづくりプロジェクト」は、観光庁が進めている施策の柱の1つです。

 コロナ禍で旅をする人、大都市圏に住む人のマインドが変化し、「自分だけの旅」を求める動きが顕著になりつつあります。これに加え、リモートワークを通じ、今一度自分自身の生き方や暮らし方、仕事との関わり方を見直し、本当に自分にとって必要なこと、家族にとって大切なことを求めて東京から地方に出ていく人も増えています。

 コロナ禍から立ち直るにあたっては、こうした需要に応える旅のスタイルの提示と、それに即した宿や交通手段などを地域に実装し、何度もその地域を「ふるさと」に帰るように訪ねるファンづくりが必要と考え、仕組みづくりのための支援を進めています。

 ――「自分だけの旅」というキーワードが出てきました。島原市では「ロケ」や「ジオ」などさまざまな切り口でシティプロモーションを展開しています。

 古川:島原市は歴史ある城下町で、海や山、温泉、グルメなど人を惹きつけるさまざまな素材を持っています。しかし、これまで本市ではテレビ番組や映画のロケを多く受け入れておりましたが、ロケ後の有効活用ができていませんでした。

 そこで2019年度からロケツーリズム協議会へ参画し、シティプロモーションを強化しています。21年度はロケ実績が18件、広告換算効果約15億5千万円(市独自の試算)、宿泊費や交通費などの直接経済効果も約460万円という成果を上げることができました。

 島原という言葉と風景が、映像作品やSNSを通じ拡散され、関心を持っていただけていることはさまざま数字からも見ることができます。例えば、番組で紹介された島原の特産品、農水産物などを返礼品としたふるさと納税は、ふるさとプレミアムの全国自治体ランキングで5位、納税額も過去最高額となり10億円を突破しています。

 また、映像作品に取り上げられることで町の魅力が再認識され、住民の地域に対する誇りを生むきっかけにもなっています。そういった面でも「映像作品」に取り上げられることはありがたいです。

 ――その地域ならではの魅力に気付いていない地域、うまく活用できていない地域は多いと思います。各地で地域活性に取り組まれている藤崎会長は、こうした現状をどう見られていますか。

 藤崎:いくら地域に魅力的な素材があったとしても、それを有名にする、また継続的に人を呼び続けるということは簡単なことではありません。私がかつて所属していたリクルートが「市場を分析し、誰に向けてという視点で地域に貢献する」ために調査研究機関じゃらん総合研究所(現在のじゃらんリサーチセンター)を05年に立ち上げたように、大事なのは「誰に向けて」という視点です。それに加え、「どう発信するか」、ここも疎かにしてはいけないところです。

【全文は、本紙1864号または3月28日(月)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】

〈旬刊旅行新聞3月21日号コラム〉激動期に入った―― 平和は能動的に築かなければ存在しない

2022年3月18日(金) 配信

 新型コロナウイルス感染拡大対策として18都道府県に適用中の「まん延防止等重点措置」が3月21日をもって全面解除される見通しである。

 

 3月15日、斉藤鉄夫国土交通大臣は4月から「県民割」を近畿や東北など地域ブロックに拡大するようなステップを踏み、感染状況を見極めたうえで、Go Toトラベルを再開していく見解を示した。コロナ禍の停滞ムードから抜け出す契機にしたいところであるが、事態はそう簡単にはいかない。

 

 

 2月下旬からロシアのウクライナへの軍事侵攻により、国際情勢は一気に緊迫化している。日々、戦火を交える映像や情報が流される。原発への攻撃や市街戦の激化、米国や英国、EU、日本などによる経済制裁に対する、ロシア側からの報復などのニュースも伝わってくる。

 

 貨物を含む航空機はロシア領空を迂回するため、ノルウェー産サーモンやウニなどの輸入にも影響が表れ、小麦や蕎麦などの価格高騰も予想される。併せて、既に高止まりしていた原油の高騰も当面続くことが見込まれ、日本の経済も大きな打撃を受けることは間違いない。

 

 

 暗雲垂れ込める状況ばかりだが、百年単位で歴史を眺めると、激動期に入ってしまったことを実感する。

 

 前世紀(20世紀)をみると、1904年日露戦争、14年には第一次世界大戦が始まった。18年からスペイン風邪(パンデミック)、23年9月1日に関東大震災、29年10月24日(暗黒の木曜日)から世界大恐慌、37年日中戦争、39年ドイツによるポーランド侵攻、さらに41年から独ソ戦、太平洋戦争など、第二次世界大戦が45年まで続く。

 

 21世紀初頭は2001年9・11米国同時多発テロ、08年リーマン・ショック、11年3月11日に東日本大震災、19年末から新型コロナウイルス(パンデミック)、22年ロシアのウクライナ侵攻と続く。リスクとしては、世界的なロシアへの経済制裁が引き金となっての金融危機や、戦火拡大という、最悪のケースの想定も必要だ。

 

 

 1990年8月のイラク軍によるクウェート侵攻から湾岸戦争が勃発した。同年11月にイラクへの武力行使容認決議を米ソが一致して可決。冷戦終結の象徴的な出来事となった。

 

 日本は人的貢献の代わりに、35カ国が参加した多国籍軍に135億㌦(約1兆7500億円)の財政支援を行った。当時バブル経済の絶頂期にあり、世界第2の経済大国(金満国家)であった日本は、巨額な資金的な支援を行ったにも関わらず、国際社会から「お金だけか」という誹りも受けた。

 

 91年のソビエト連邦崩壊への過程にあり、唯一の超大国・米国は世界の警察官を自認し、英国、フランスなどのプレゼンスは現在よりも強大で、当時の日本は経済大国でありながら、「どこかの国が平和への道筋をつけてくれるだろう」と他人事で、やり過ごすだけだった。

 

 しかし、あれから30年が経過した。中国の台頭の一方、米国や英国、フランスなどの相対的な国力低下を鑑みて、日本は好むと好まざるとに関わらず、国際社会の表舞台で一定の役割を果たさなければならない立場となった。平和というものは受動的に与えられるものではなく、能動的に築き上げなければ、「そもそもこの世には存在しない」という覚悟を持たなければならない。

 

(編集長・増田 剛)