普段公開されていない久里浜工場で「本物」に触れる 久里浜工場見学&乗務員体験ツアー開催へ(京急グループ)

2022年7月5日(火) 配信

工場見学(イメージ)

 京急グループの京急アドエンタープライズは7月16日(土)と8月6日(土)の2回、普段公開されていない久里浜工場で「本物」に触れる「京急 楽・宴ツアー 久里浜工場見学&乗務員体験ツアー」を行う。工場見学と研修センター見学、乗務員体験、車両撮影会が楽しめるツアー。

 久里浜工場内にある京急職員も使う研修施設では,実際に行われている車両点検の内容など,普段知ることのできない情報満載の特別講義を受けることができるほか,実際の研修にも使用する機器を操作するなど,京急社員になったような気分で楽しみながら電車について学べる。

 担当者は「電車好きの子供も満足できる内容になっていて,夏の思い出作りにはもちろん,夏休みの自由研究にもぴったりなツアーです」とPRする。

ワンストップ支援センター開設 Web相談や専門家派遣も(東京観光財団)

2022年7月5日(火) 配信 

東京観光産業ワンストップ支援センターHPより

 東京都と東京観光財団(金子眞吾理事長、東京都新宿区)は7月8日(金)から、観光事業者向けの経営相談や、各種支援メニューの一元的な紹介を行う窓口「東京観光産業ワンストップ支援センター」を開設する。総合相談窓口を財団内に設置するほか、Webサイトの開設、専門家派遣サービスを行い、観光事業者を支援する。

 支援センターは、Webサイトの相談フォームか、電話から利用が可能。来所しての相談を希望の場合は事前予約が必要となる。

 電話相談は午前9時~正午、午後1~5時まで。平日のみ。

 専門家派遣サービスでは、観光事業者からの相談に対し、必要に応じてアドバイザー(専門家)を派遣し、生産性の向上や、新商品・サービスの開発など、経営に関するアドバイスを行う。1社当たり5回まで受け付ける。料金は無料。

 同日にWebサイトも公開し、補助金や支援事業、セミナーなどの支援メニュー情報を発信する。ユーザー登録を行うことで、Web上での経営相談や専門家派遣の利用が可能となる。

NAA、約2年ぶり100万人超 留学生や制限ないGWで

2022年7月5日(火) 配信

田村明比古社長

 成田国際空港(NAA、田村明比古社長)が6月30日(木)に発表した2022年5月の旅客数は前年同月比69%減の111万2410人と20年3月以来、2年2カ月ぶりに100万人を超えた。国際線は海外からの留学生や日本からのビジネス渡航が増えた。国内線は3年ぶりの行動制限のないゴールデンウイーク中、利用客が増加した。

 国際線旅客数は同413%の増の58万2301人。このうち、日本人は同399%増の13万3528人、外国人は同328%増の15万9763人。

 乗り継ぎで利用する通過客は同484%増の28万9010人と大幅に増加した。コロナ禍前の19年同月比では10%減となった。水際措置が緩和された東南アジア各国から、北米などへの乗換客が増えた。

 国内線旅客数は同145%増の53万109人。19年同月比では18%減だった。

 航空発着回数は、前年同月比31%増の1万3164回。国際線旅客便は同49%増の5162回。貨物便は同19%減の3496回。

 田村社長は6月10日(金)から訪日客の受け入れが再開されたことに触れ、「(コロナ禍からの回復に向けた)大きな1歩として、さらなる需要回復に期待を寄せている」と語った。

訪日断念する人増 G7並み措置を」

 6月1(木)~25日(土)までの国内線発着回数は前年同期比159%増の3153回。19年同期比では同13%減。

 田村社長は「航空各社が夏休みに掛けて増便する」と今後も回復基調を維持できる見通しを示した。

 国際線発着回数は、前年同期比51%増の4446回、出国旅客数は同273%増の13万2300人。

 田村社長は旅行や航空会社に行ったヒアリングの結果として、「複雑なガイドラインやビザの発給に時間が掛かり、訪日を諦める外国人が増加している」と話した。そのうえで、「入国者数の上限の緩和や出国前検査の実施などを緩和し、G7並みの措置を講じてほしい」と述べた。

全国宿泊業業績調査 19年比で約半分の売上高消失(東京商工リサーチ)

2022年7月4日(月) 配信

東京商工リサーチは全国宿泊業業績調査の結果を発表した

 東京商工リサーチはこのほど、全国宿泊業業績調査を行った。国内の宿泊業4983社の2021年決算(1~12月期)の売上高合計は2兆1813億8600万円となり、20年の3兆3509億6100万円から34・9%減と大幅に減収した。コロナ前の19年比では45・5%減となり、およそ半分が消失したことが分かった。

 21年決算で判明した1568社の最終損益は、合計で4808億5500万円の大幅赤字だった。赤字企業率はコロナ禍以降急激に増加し、19年は23・7%、20年は51・5%、21年は58・0%と年々深刻さを増している状況だ。21年期の売上高上位10社のうち、8社が赤字となり、会社の規模を問わず業界全体が厳しい経営環境に晒された。

 売上高別では、4983社のうち、小・零細事業者は2968社と構成比59・5%を占め、10億円以上は328社と構成比6・5%に留まった。同社は、「宿泊業の多くは中小・零細事業者。付加価値の創造力が乏しく、売上減が収益を直撃する構図から抜け出せていない」と分析。今後、資源高や原材料コスト高、人件費の上昇などが「経営悪化に直結する」と危惧している。

 一方で、まん延防止等重点措置の全国的な解除や、水際対策緩和で訪日客の受入再開、7月からの全国旅行支援など、夏以降の観光シーズンは客足の回復が期待されている。

 観光産業や地域の経済活性化が注目されるなか、同社は、「急な客足の回復は隠れていた人手不足の顕在化だけではなく、資源高や食材などの高騰で、経営の大きな負担となる可能性もある」と指摘。

 「労働集約型である宿泊業は、人の手を必要とする業務も多いため、中小・零細企業が労働力不足を補うには手元の資金の充実が課題となる」とし、「アフターコロナに向け、宿泊事業者と求職者のマッチングなど、次のステップを見据えることが大事」とさらなる支援策の必要性を訴えた。

「笑う旅には福来たる」CP始まる 国内旅行の需要回復狙う(JATA)

2022年7月4日(月) 配信

キャンペーンロゴ(CPサイトより)

 日本旅行業協会(JATA、髙橋広行会長)は7月1日(金)~9月30日(金)に、「笑う旅には福来たる」キャンペーン第2期をスタートした。同CPでは、国内旅行の需要回復を目指し、次回の旅行で利用できるクーポンが当たる。第2期は、新たに近畿日本鉄道を加えた、日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)、JR6社などの交通事業者と協業し、さまざまな商品が当たるCPを展開する。

 「ひとつめの福 次回割コース」、「ふたつめの福 インスタグラムコース」、「3つめの福 JAL・ANA利用でチャンス拡大」、「4つめの福 JR利用でチャンス拡大」、「5つめの福 近鉄利用でチャンス拡大」──の5コースを用意した。期間内に旅行した人は、次回から使える最大3万円の旅行クーポンや、プレゼントなどが当たる各コースに応募できる。

 CPサイトでは、各省庁で取り組んでいるテーマ別観光情報や、全国の地方自治体・DMO・観光協会などで取り組んでいる旅行者向けCP情報なども紹介し、ツーリズム産業全体でのプラットフォーム形成を目指していく。

 JATAは、「同CPをフックにして旅行需要喚起や地域活性化をはかり、旅行者へ有益な情報提供を行うことで、BtoCとしての機能充実も目指していく」考えだ。

予約取扱額が回復、コロナ禍前の水準までに(じゃらんフォーラム)

2022年7月4日(月)配信

じゃらんフォーラムのようす

 リクルート(北村吉弘社長)は6月15日(水)、「じゃらんフォーラム2022(東京会場)」をグランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)で開催した。「旅でつながる、未来につなげる」をテーマに、今後のリクルート関連事業や旅行事業の取り組みなどを紹介した。

 旅行Division長の宮本賢一郎氏は、コロナ禍でのじゃらんnet予約取扱額について説明。2020年度はGo Toトラベル事業による変動を大きく受けて21年度前半が非常に厳しい状態となったが、21年末ごろには19年度比100%前後まで回復したと述べた。回復要因として、期間限定の大型セール「じゃらんスペシャルウィーク」、「オンライン決済特集」の2点を挙げた。オンライン決済は10%のポイントを付与するキャンペーンで、オンライン決済比率が10ポイント以上増加したという。

旅行Division長の宮本賢一郎氏

 宮本氏は今後数年間のじゃらんの方針として、「総旅行回数の増加による地域貢献を起点に、総地域消費額を増やすことに注力したい」と強調。宿泊予約から旅行予約サービスへの進化を目指し、旅行を通じた地域の消費活性化をはかる。総地域消費額の増加に向けたキーワードとして、①じゃらん版観光DX②デジタル消費の増加③現場を知り、データを生かす提案を行う――の3つを挙げた。

 じゃらん版観光DXでは、情報収集から予約、現地のアクション、消費までの利用客の動きをすべて可視化できるデジタル消費データを、地域や宿泊施設などに提供。いつでも必要な観光サービスや情報に簡単にアクセスでき、じゃらんのウェブ上でワンストップに手配・利用できる観光サービスを提供する。これらを実現することで、利用客の旅行満足度を高め、消費の活性化につなげていくことを目指す。

 同社は昨年度、神奈川県・箱根町や新潟県妙高市、山梨県富士吉田市と観光DXを目的とした包括連携協定を締結。今年度は具体的な取り組みに着手し、検証を行う。

 具体例として、①宿泊施設や飲食店、土産屋などに「Airペイ」を導入②宿泊や遊び体験のデータを地域事業者に共有③該当地域予約者に宿泊場所周辺の観光情報などを配信してアクションを促進する――などの実証実験を開始していく。宮本氏は「地域消費の増加に有効と判断できた場合、全国への展開をスピーディーに進めていきたい」考えを語った。

 そのほか、宿泊施設向けに最大36種類のキャッシュレス決済や、月3―6回の入金に対応する「Airペイ」特別プランを開始。さらに、宿泊施設向けの収益管理システム「レベニューアシスタント」の機能を改善するなど行った。

「街のデッサン(255)」 「人生、知を学ぶ遍歴」、泉眞也先生の想念の渦に溺れて

2022年7月3日(日) 配信

人々を魅了する泉眞也先生の話

 人生の中で、自己の叡智や知識をどう磨いていくかは創造的生い先の鍵となる。私自身は4つの遍歴を積んできたと考えている。

 まずは宇沢弘文先生が主張する「制度資本」としての国家的な教育体制だ。すなわち小学校から大学までの教育機関で、この資本の品質が国家の存亡を決定する。しかし、制度はしばしば画一化する。そこで、その人の個性や独自性は読書からの成果が大きい。書籍は独自の選択眼に拠るから固有の知を増殖させる。同時に大切なのは物事の現場である。現場が課題、問題を生み出すから、洞察する実践知は現場がその涵養の場となるが、基盤的なエピステーメ(本質知)は、やはり人間から直接学ぶことしかない。叡智の学びの遍歴は、「真の師匠は、自分で決める」が最終段階となろう。イタリア最古のボローニャ大学では、もともと市民が人品を選び講師として招聘したとするから、大学の原型は本来学び手(生徒)主導であった。

 例えば私は、文章術は大宅壮一の高弟で政治評論家であった草柳大蔵先生から指導を受け、経済学・経営学は「ベンチャービジネス概念」の生みの親、中村秀一郎教授と清成忠男教授から、歴史学は中世西洋史の木村尚三郎教授から学び、博覧会学とイベント学は泉眞也先生から教示された。それらは、雑誌の対談やシンポジウムのパネラーなどを務めた際に縁をいただいて私淑することになった。勝手に私からかばん持ちになって、“一人生徒”の立場を得ていたのだ。

 師匠の1人(むろん私が勝手に自得する)泉眞也先生が、今年1月2日にこの世をおさらばなされた。泉先生は、日本の近代に開催された万博、海洋博、科学技術博、愛・地球博などのほとんどに関わっており、博覧会という人類文明の叡智の開示と進歩に大きな業績を残した。「全国ファッションタウン推進協議会」の会長も務めていて、委員の私も随分お世話になり厳しい訓戒も受けた。日本人のプレゼンテーション下手は通念になっているが、泉先生はその自己表現や情報伝達において、驚異の力を発揮された。演壇でのプレゼンの姿は、観客を魅了し話術に恍惚となった。
 一人生徒の私も、名前の通り“いずみ”の如く先生の頭脳から生み出された構想や概念、ワードで渦巻く想念に溺れそうだった。5月に「泉眞也先生に感謝する会」が開かれた。会場の150人の出席者がその知の濁流の凄まじい流れを、先生の笑顔の溢れる写真パネルの前の私だけでなく、一人生徒として追憶する姿を大勢見る思いがした。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

 

「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(209)」市民塾と観光まちづくり (埼玉県越谷市)

2022年7月3日(日) 配信

藍染め体験と、こしがや「まち未来創造塾」

 「観光まちづくり」という何とも曖昧な用語は、いつごろから使われ始めたのだろうか。

 その初出はともかく、2000年前後から頻繁に聞かれるようになった。

 その端緒の1つは、旧運輸省観光部による「観光まちづくり研究会」(西村幸夫氏主査・現國學院大學観光まちづくり学部長)あたりからであろうか。

 この研究会でとりまとめた「観光まちづくりハンドブック」がきっかけとなり、2000年12月の国の観光政策審議会答申でも、重要施策の1つとして「観光まちづくり」が位置付けられた。

 このハンドブックでは、観光まちづくりを「地域が主体となって、自然、文化、歴史、産業、人材など、地域のあらゆる資源を生かすことによって、交流を振興し、活力あふれるまちを実現するための活動」と定義している。

 これら活動の主体は地域であり市民である。地域づくりにとって、担い手づくりこそが、最重点課題である。こんな背景のもと、筆者も各地で観光まちづくりの「塾」を相次いで開校した。

 その端緒とも言えるのが、地元、埼玉県越谷市で15年に開校した「まち未来創造塾」である。本年5月には、第7期塾もスタートし、既に累積で140人を超える塾生たちが、地域の各分野で活躍している。

水辺活用のシンボル「レイクタウン(大相模調節池)」

 越谷市は、いわゆる「観光地」ではない。しかし、洪水調整用に拓いた周囲6㌔㍍のレイクの畔には、東洋一の大型商業施設のイオンレイクタウンが立地し、その集客数は年間5000万人を超える。数だけみれば近隣の日光や箱根などをはるかに上回る。

 しかし、問題は数ではない。首都圏のベッドタウンとして発展し、今や35万人の中核市となった半面で、地域理解や愛着の欠如、急速に進む人口高齢化、日光街道の宿場町として栄えた江戸時代からの人形、箪笥、鎧甲甲冑、染色(繊維)、せんべいなどの伝統産業の衰退など、多くの課題を抱えている。地域に残る多様な資源を磨き、新たな産業を創出し、住み続けたいと思える地域づくりの推進が何よりの課題である。

 未来塾は、新たな官民連携の実験場でもある。道路や都市計画などのハード事業は行政計画によるところが大きいが、観光まちづくりは市民・事業者などの担い手がいなければ、推進できない。

 越谷で3年前から始まった「技博」は、地域の多様な主体がもつ身近な「技」を資源として、150以上の市民団体が参加・交流する大きな事業に育ちつつある。

 これからは、こうした地域の多様な担い手が、自ら事業を育てるとともに、観光振興計画など、地域ビジョンを策定・共有し、行政に提言することもあり得る。これからの新たな官民連携の担い手としての塾の役割でもある。官民連携の実験手法としても期待したい。

(日本観光振興協会総合研究所顧問 丁野 朗)

「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(138)出逢う前に感動を創る手間の価値 一手間の価値を高める

2022年7月3日(日) 配信

 

 出張の際に、ポータルサイトを経由して宿泊予約したとき、自動返信で予約確認メールが入ります。わずかですが、予約ホテルからもお礼メールが入ることがあります。この手間を、私は素晴らしい取り組みだと思い、間違いなく記憶に残ります。

 多くの予約に、「そんな手間は掛けられない」という声もありますが、ほかのホテルが実行していないその行動は、宿泊前から「わくわく感」を創り出すものです。予約キャンセルも躊躇してしまいます。

 予定の変更でキャンセルするときも、「次は宿泊しよう」という気持ちになります。お客様と出逢ってからサービスを始めるのでなく、出逢う前から始めるおもてなし行動は、同じサービスの提供でも、まったく違う好印象をお客様に提供し、キャンセルになっても、次につながる「創客」効果を生むのです。

 先日は、飲食店をポータルサイトで予約しました。驚いたことに、携帯電話に店から予約へのお礼が入ったのです。

 予約してキャンセル連絡もなく、当日に利用しない人が多く、無断キャンセルにより大きな被害が出たという報道を観るたびに、当たり前のことを当たり前にできない人がいることに悲しい想いをしたものです。

 だから、予約と同時に100%のキャンセル料が発生する飲食店も増えています。連絡もなく利用しなければ、当日の売上だけでなく、用意した食材も無駄になります。さらに、その日に利用したいお客様の予約も取れません。

 キャンセルをきちんとしてくれたら、その席のリセールもできるのです。こうした身勝手な無断キャンセルは許してはならないのですが、同時に考えることが、はたして受け手側にはこうした厳しい対応の仕方しかないのだろうかということです。

 私の場合は予定が変更となり、その飲食店の予約をキャンセルしなければならなくなりました。しかし、飲食店から予約お礼の電話までいただいていたこともあり、サイトでキャンセルするだけではなく、電話でお詫びと共に別日にでも伺いたいと思い、行けそうな日の空席を確認しました。

 残念ながら、どの日も空席がなく予約は取れなかったのですが、そのときの会話に非常に感動しました。「どの日も空席がなく、ご予約をお受けできず、西川様本当に申し訳ありません。是非ともお逢いしたいので、また別日にお越しいただける日ができましたらご連絡ください。楽しみにお待ちしております」。

 掛けた手間の価値をさらに高めるこの言葉に、まだ体験もしていないにもかかわらず、すっかりファンになってしまったのです。

 

コラムニスト紹介

西川丈次氏

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。

 

 

 

「観光人文学への遡航(24)」 利他性のジレンマ 福祉から宗教へ②

2022年7月2日(土) 配信

 相互信頼関係でよく出てくる「利他性」というキーワードこそが、人を苦しめている原因になっているのではないかとの仮説のもと、福祉と宗教にその解を求めて考究を深めている。

 

 なぜそもそも人は利他的な行動をとるのか。そこには、純粋にその相手が喜んでくれてそれで終わりではなく、その自分の行為によって、相手から「感謝してもらいたい」「自分を評価してもらいたい」といった期待が後ろに控えていることが少なくない。

 

 現代社会は、激烈な競争下にさらされている。子供のときから、勉学で身を立てようとしても、またはスポーツや芸術で身を立てようとしても、競争を勝ち抜いていかなければならない。

 

 競争に勝った人間は、競争に負けた人間を見下し、自分の軍門に下るように振る舞う。しかし、競争に勝ったと思ったのも束の間、また新たなステージで競争が始まり、そこで勝ち抜いていかなければ、人から見下される立場へと転落してしまう。

 

 常に競争に勝たないといけないという強迫観念にさいなまれ、不安と隣り合わせにいる。だから、現代社会に生きる人間はひとときも気が休まる瞬間がない。

 

 相手から「感謝してもらいたい」「自分を評価してもらいたい」という気持ちから生まれる行動は、結局、自分の不安を除去するための目的でしかない。

 

 神道では、天つ神の「清らかな心」と一体となることを説く。天皇陛下も三種の神器を持つことで、天上界から降臨してきたその当時の神々の想いと一体となり、常に国民とともにあり、国民の平和と安寧を祈る。私たち国民も天皇陛下とともにあり、そして、ひいては天つ神とともにある。

 

 さらに、神道は「一貫のいのち」ということを伝えている。すなわち、清らかな天つ神と自分が一体となって1つのいのちでつながっている。そうだとすれば、他人から評価してもらいたいとか認められたいなんて考えは、まったく必要ないことに気づく。その境地に至れば、相手を喜ばせたいとか、相手に感動を与えたいと考えるよりも、相手とも一体だから、もっと淡々としたものになるはずである。自分の心の中の芯の部分には天つ神と同じく異心のない清らかな心があるのだから、それを引き出すために、異心を祓って祓っていくのである。

 

 自分の中にも既に天つ神が存在すると考えれば、不安などどこかに吹き飛んでいく。

 

 結局、利他という言葉は、利がどちらにあるかということを考えている時点でもう利己的である。利他はアピールがつきものである。神と自分が一体関係であれば、アピールさえもする必要はない。

 

 人知れず正しい道を歩み、認められずとも淡々と生きていくことをよしとできなければ、まだ利己の心が残っている。

 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。