VJC10年、観光庁発足5年の節目、ビザ緩和の東南アジアに焦点

久保 成人(くぼ・しげと)観光庁長官

 8月1日に4代目となる観光庁長官に就任した久保成人長官は、8月21日の会見で、ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)が始動して10年、観光庁が発足して5年になる今年について、首相をトップとする観光立国推進閣僚会議やそこで出されたアクションプログラムを挙げ、「観光が、政府が本気で取り組む成長戦略の重要な柱の1つになった節目の年」と語った。

 上半期の訪日外客数が前年比22・8%の495万人となり、13年目標の1千万人達成が見え、さらにその先には「20年に2千万人」を掲げるインバウンド政策について、久保長官は(1)訪日需要の掘り起こし(2)訪日の決定と実行(3)出入国手続き(4)訪日満足度――の4つに分け方針を語った。

 訪日需要の掘り起こしでは、焦点をしぼった訪日プロモーションの重要性を強調。「ビザ緩和が追い風となる東南アジアに集中プロモーションをかける」と話した。今後のビザ緩和については、7月の緩和時に含まれなかったミャンマー、ラオス、カンボジアを次なるターゲットに見据え「議論に参加していきたい」とした。尖閣問題以降落ち込む中国については、個人旅行は回復してきているとし、「FITにターゲットを絞ったプロモーションを行っていく」という。

 出入国手続きについては、クルーズ船観光を例に挙げ、「出入国手続きなど出入り口のスムーズ化が重要」と語った。また、訪日客の満足度については、課題点として、道路・交通・観光施設などでの多言語化、免税、ムスリムの受入環境整備強化、観光地域づくりなどを挙げた。

 旅行業に関わる現行制度の見直しなど、4月に出された観光産業政策検討会の提言については、「広範な議論が必要なので、9月中に有識者会議を開き議論を深め、制度的見直しが必要なものは見直していく」と語った。また、旅行業、宿泊業など関係業界について「現場で働いている方がいるから観光が成り立つ。現場の声を謙虚に聞いていきたい」と述べた。

【特集No.349】日田市豆田町 ホテル風早 レストラン・宿泊・宴会を連携

2013年9月1日(日) 配信

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している宿がある。なぜ、支持されるのか、その理由を探っていく「いい旅館にしよう!」プロジェクトのシリーズ第15弾は、大分県日田市豆田町で「ホテル風早」を経営する武内眞司社長が登場。工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏との対談で、レストラン、宿泊、バンケット(宴会場)の3部門をバランス良く経営する武内社長の緻密な経営手法について語り合った。

【増田 剛】

 内藤:「ちょっと良い日常」をテーマに、敷地内のレストラン・宿泊・バンケット事業を上手く連携させて、安定した経営をされている武内社長のこれまでの経緯からお話し下さい。

 武内:東京の大学を卒業後、福岡のホテルで5年ほど働いたあと、27歳のときに日田市に帰り、100年続いていた家業の本屋を継ぎました。そのころ、「少年ジャンプ」という雑誌を車に積んでこの辺り(豆田町)を配達していました。当時は寂れた町でしたが、雛人形でまちを活性化しようという時期でもありました。「私もここで何かをやりたいなぁ」と考えていたときに古い酒蔵が目に止まり、「これをレストランにしよう」と思い立ち、1988年に約4千万円を投資してこの酒蔵を改装し、レストラン「欧風懐石 秋子想(ときこそう)」を創業しました。

 本格的な投資に心配の声もありましたが、私は「ハレの日は、ちゃんとしたレストランで食事をする時代が来るのではないか」と考え、チャレンジすることにしました。誕生日や結婚記念日のお客様をターゲットに、東京會舘にいた経験を持つ調理スタッフを雇い客単価4千円を想定したレストランを開業したのです。日田で「本格的なフレンチレストラン」というのも経営的には難しいと考え、お箸で食べる和洋折衷の料理を提供しました。バブル後期で、福岡のお客様も多数いらして下さいました。「レストランは3年もせずに潰れて、きっと本屋に戻ってくるだろう」と父は思っていたようです。本屋は姉が2年くらいやってくれました。

 内藤:初期投資の4千万円はどのくらいで返済されたのですか。

 武内:約6年で返済しました。そのときに「サービス業は儲かるものだな」と思いました。というのは、本は出版社が値段を決め、不景気でも好景気と同じ値段で売らなければならない。これでは本屋は儲からない。レストランなら不況時には材料を変えたり工夫して値段を安くすることもできる。「自分で値付けができるのが一番いい商売だ」と思いました。

 日田市出身のジャーナリスト・故筑紫哲也さんが地元で市民大学「自由の森大学」を始めてから、うちのレストランに来られるようになり、「東京から有名な講師を呼んだ時に大型旅館しかない。落ち着いてリラックスできる宿をやらないか」と言われました。1996年のことで、景気も悪くなっていましたが、ホテル風早開業へ新たに400坪の敷地を購入しました。初期投資は約2億7千万円でした。筑紫さんが背中を押してくれなければ、私は旅館経営に進出してなかったと思います。

 さらに、2010年に1億3千万円ほど投資をして、レストラン「秋子想」と、ホテル風早に隣接する土地に宴会用施設「アプロディール 紙音(SION)」を建てました。現在は全体で900坪余りあります。

 偶然の結果ですが、今はレストラン・宿泊・バンケットの「3本の矢」の有難味をとても感じています。どれか一つの売上げが落ちたとしても、慌てずにじっくりと作戦を練る余裕があります。自然災害など不確定要素も多く、宿だけの経営でしたら大変だったのではと思います。披露宴のときには厨房の4人で100人規模の宴会はこなしますし、接客サービスは派遣で対応しています。

 忙しいときには「能力の120―130%を出してくれたら4人だけど5人と同じこと」と常日頃から言っています。

 内藤:従業員の定年は88歳というのは本当ですか。

 武内:そうですね。88歳が目標です。でも体力的な理由で70代で辞められる人が多いですが、スタッフの米寿のお祝いをしてあげるのが夢なんです。60歳を過ぎて安心して楽しく働ける職場は多くありません。サービス業ではそういう場所を提供することも大切だと思っています。

 武内:レストラン「秋子想」のランチは、今夏の猛暑などの例外を除き、基本的には2100円以下の料金設定はしていません。スタッフには「2100円のお客様がいずれバンケット(宴会)につながるので、お客様が少なくていい」と言っています。

 というのも、2010年に新しい宴会場の開業と同時に、1千円でランチを提供したのですが、若い人が大挙して来ましたが、少し経つと足が遠のいてしまいました。近くで850円でやっているところがあったのです。それで「この価格競争のマーケットに入るのはやめよう、うちにしかできないことをやろう」と方針を明確化しました。「安いランチを提供してもバンケットにつながらない」と学習したのです。また、1千円のランチには1日に60―70人の来客があったのですが、経営が成り立たなくなってきました。エアコン代、トイレの水代などを含めると1千円のランチでは元を取れないのです。それよりも光熱費が3分の1で済むレストラン「秋子想」で少し高めのランチを提供した方がいいと考えたのです。宴会場は結婚式などの予約が入った時だけ開けるようにしました。

 現在、レストランの客単価はランチとディナーを合わせて平均2800円、2人で5600円。ディナーだけでは約4500円です。ホテル風早も1人1泊2食付きで約1万5千円、夫婦2人で3万円。時代の金銭感覚に適した料金設定を常に心がけています。

 内藤:ホテル風早は、最初から6部屋の予定だったのですか。

 武内:当初は8―9部屋の計画でしたが、スタッフ1人当たりの目が届くお客様は5人が限度と考えました。20人くらいまでならお客様が元気かどうか、顔色で把握できると思ったので、結局6部屋にしました。

 内藤:レストラン・宿泊・バンケット事業の3つに分けているのはシティホテルのやり方と同じ。ただ、シティホテルとホテル風早の違いは、宴会場やレストランが館内にあるか、外にあるかということです。

 武内:宴会場に改装した蔵と、レストランに改装した蔵が偶然にも少し離れていたからですが、経営的には良かったですね。シティホテルは館内ですべてをやろうとするので、大変だと思います。ホテル風早は1泊朝食付が基本なので、宿泊客は夕食時に外に出かけて食べられる方も多いようです。宿だけで「起承転結」を完結するのは大変だと思っています。レストランも宴会場もホテルから少し離れているので、お客様がいないときは、完全に閉めて、兼務するスタッフも一つに集中することができます。

 内藤:シティホテルの経営が厳しくなったのは、バンケットは1口100―200万円、一方、宿泊は1人1―2万円の売上。そうすると、パーティー中心の営業になり、宿泊は「宴会のついで」という考え方となっていったからです。

 武内:うちはそれぞれ別棟ですので、独立採算とまではいかないですが、ある程度ホテルやレストラン、バンケット事業は独立しています。

 内藤:個別採算で収支が見えるということですね。武内社長のお話を聞いていますと、「偶然の結果」という言葉になるのですが、試行錯誤を相当に繰り返し、お客の求めているものを探し求めたということですね。

 武内:4千円のレストランにお客様がいなかった最初の1年間はかき氷やパフェを売ったり、何でも試みました。

 内藤:レストラン開店当時の商圏は、博多を中心に福岡県をターゲットにしていると伺いましたが、観光客中心の遠方商圏はどうしてもさまざまな影響を受けるので、2011年に地元客を商圏のターゲットとされたのですよね。今はどうですか。

 武内:当時は観光客8に対して地元客2の割合でしたが、今は半々で推移しています。もし、若い人が宿を経営すると言ったら、「パーティー部門は必ず持ちなさい」と推奨したいですね。私も手掛ける前には全然分からなかったのですが、「人口7万人ほどの日田市内で40―50人のパーティーや宴会がこれだけ多いのか」と驚きました。今年4―6月の披露宴だけでの売上が想定以上にありました。ほかにも会社や組織で利用する歓迎会や送別会などさまざまなイベントがあり、そのようなマーケットの存在を知ったことが大きな収穫でした。ほとんど営業もせず、地元の新聞に小さなスペースですが「おいしい 結婚式」と継続的に掲載することで、「料理がおいしい披露宴会場」というイメージが刷り込まれていったのかなと思っています。

 ホテル風早は1泊朝食付きで1万3千円。この料金でキャッシュフローが出るように歯ブラシもトイレットペーパーも熟慮のうえ選んでいます。分かってくださるお客様は何もおっしゃらないのですが、「どうしてトイレットペーパーは二重ではないの?」など言われることもあります。私たちは宿を存続させるために、宿泊料金と備品の整合性までとても緻密に計算しています。今度は「トイレットペーパー持ち込み可」と書こうかなと思っています(笑)。

 そんな、緻密な計算がないかぎり、永続的な経営はできません。経営は結果ではなく、予測ですから。昨年は修理代などマイナス要素も計算に入れ、予測した数値と20―30万円しか違いませんでした。情緒的な宿ですが、経営は情緒ではできないのです。

 内藤:経営上で管理している数字で最も注意している点は何ですか。

 武内:光熱費です。一番無駄なのは、誰もいない空間に電気のスイッチが入っていることです。光熱費を切り詰めることができたら、人件費に回せます。

 ある旅館に行ったとき、カビ臭い匂いがしたので仲居さんに聞くと、エアコンのフィルターを掃除していないとのこと。これは経営者として失格だと思います。地道ですが、キャッシュフローが出るのはそんな小さな部分だと思います。お客様がバンケットから帰られると、白熱球→蛍光灯→LED」と消す順番をスタッフにも指示しています。

 その一方で、仕入業者には20数年間、1円単位まで値切ったことはありません。支払いも遅滞しない。これは一貫しています。その代り、業者に落ち度があれば「ここが悪い。もし直らなければ替えます」とはっきりと言います。

 内藤:光熱費を含めた仕入を緻密に管理していくことに加え、働き方もきっちりと管理されています。たとえば、バンケットでメインの肉料理が出た時点でスタッフ同士が連絡を取り合い、切っていた客室のエアコンを作動させています。

 武内:お客様に節約をさせるわけにはいかないので、私たちがお客様の目に見えないところで節約するシステムをつくるしかないのです。

 内藤:一方で洗面台にあるタオルはガーゼの生地で、真っ白で柔らかい。今は宿泊施設の糊づけが強すぎるきらいがありますが、ホテル風早ではシーツの糊づけを薄くしているので、自然な肌触りがすごく心地いい。

 武内:普通のリネン業者に出せば安いのですが、シーツの納入業者が「これは良いシーツなのでコストが少しかかりますがクリーニング業者に出してほしい」と言われましたので、15年間ずっとクリーニング業者にお願いしています。

 宿には亭主の魂のようなものがあり、ホンモノを見ている人たちに訴えかけられる宿づくりをしていきたいなと思います。亭主の魂の部分にお客様が気づかれたときが、宿をやっていて一番楽しい瞬間ですね。

 内藤:清掃はどうされていますか。

 武内:外注業者を入れていますが、うちのスタッフが最終的な仕上げを行います。清掃業者は清掃の専門家ですが、シーツの皺をパリっと伸ばすなど「もてなし」部門は専門家である自分たちの仕事だと思います。

 それと、ホテル風早では、タクシー業者は1社しか呼びません。あるとき、私がお客様の荷物をタクシーのトランクに入れたとき、運転手を見たら何もせずにただ突っ立っていたのです。すぐにタクシー会社に電話して「うちがお宅のタクシーを呼んだということは、駅にお客様を送り届けるまではホテル風早の運転手であり、うちのスタッフの一員だと思ってください」と伝えました。私たちは玄関から先は見送ることができません。お客様がタクシーを呼んだ場合、降車するまでの時間すべてがホテルのサービスだと認識しています。「ありがとうございます」だけではなく「また日田にいらしてください」と優しく話しかけるような“おもてなし”の教育もしてもらっています。地域の総合力が必要だと思っています。

 内藤:ホテル風早は朝食にもこだわっています。私が最初に訪れた理由の一つに炊き立てのご飯を出されていたからです。

 武内:「ひた天領米」というお米を、地元・日田の水で炊いています。たとえば朝食が8時30分のお客様には8時20分に炊き上がるように30分ごとに設定して、炊き立てのご飯と、でき立ての味噌汁をお出ししています。朝食バイキングのホテルもありますが、ご飯と味噌汁が雑に扱われていることが多いのが残念です。ある有名ホテルに行ったとき、卵料理のところには、注文すれば「スクランブルエッグ」や「目玉焼き」を作ってくれるスタッフがいるのに、ご飯と味噌汁のところには誰もいない。私だったら絶対に「でき立ての味噌汁コーナー」を設置してスタッフを付けて、その場で具のリクエストを受けてから作るようにします。日本人にとって朝は、美味しいご飯と味噌汁以上の御馳走はないと信じています。

 東京のカレー屋さんに入ったときに、1升炊きの炊飯器が10個くらい並んで30分ごとに炊き上がる工夫をしているのを目にして、「このカレー屋さんは本物だ」と思いました。どんなに美味しい料理を出してもご飯が美味しくなければ台無しです。この基本だけは外さないようにしています。

 内藤:数年前まで多くの旅館では「ご飯は大釜で炊かないと美味しくない」と言っていました。でも、実際に電機メーカーで大釜、小釜、家庭用、業務用、ガス、電気などを試してみたのですが、家庭用の電気炊飯器が一番美味しかったのです。電機メーカーも細かく温度制御できる部分を強調していました。ガスは細かな温度コントロールができないし、釜は火力が下からだけなので、どうしても炊きムラができてしまうのです。武内社長がおっしゃるように炊き立てが一番美味しく、1升炊くより5合、5合よりも3合の方が美味しく炊けるので、できるだけ小まめに炊いた方がより美味しくなります。私もさまざまな場所でこの話をしており、今では家庭用の電気炊飯器でご飯を炊く旅館が増えてきました。どこの旅館も炊く回数を減らしたいという、ある意味で手抜きをしていたのです。

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 内藤:現在、小さい旅館の新しいビジネスモデルは出始めていますが、大きい旅館のビジネスモデルがどうあるべきかを、もっと議論されるべきだと思います。雇用や経済効果は大きい方が地域にとってはいいのですから。

 武内:その意味でいうと、私は100人以上収容できる大きな宿を経営するのがこれからの夢です。そして、全室シングルにします。というのは、これからの時代、シングルルームの方がさまざまなマーケットに合致しているのではないかと思うのです。セミダブルのベッドがあるシングルユースの宿を経営したいですね。パブリックスペースを豪華にして、シンプルかつエレガンスにする。ビジネスホテルや、温泉旅館ホテルとは違うジャンルの需要が絶対にあると思うのです。客単価の想定は、1泊朝食付きで1万円です。

 内藤:面白いアイデアだと思います。一般論として、1人旅が増えてきたと色々なところで耳にしますが、今でも1人旅を拒む宿がありますが、いつまで拒否し続けられるかというのが旅館業界で議論されています。

 武内:うちなんかは部屋が空いていたら1人客をすぐに入れます。部屋も広々としてお客様に喜ばれます。

 内藤:この10年を見ていると、宿泊特化型のビジネスホテルチェーンが一世風靡しました。シティホテルの余分な部分を削ぎ落してすごくいいビジネスモデルだったと思うのです。「寝る」という機能を徹底的に追求した、巨大なイノベーションを起こしました。彼らが作ったマーケットはすごく大きいですが、一方で少し飽きられてきたなと感じるところもあります。たとえば、朝のチェックアウト時の手間がないのはとても便利なのだけど、なんとなく黙って出て行くのは寂しい、触れ合いがほしいと感じる人が増えているようです。一方で、最近「シティホテル回帰」という流れもあります。かつてのシティホテルのように「何でもあります」ではなく、非常に心地良い宿泊特化型のホテルが出てきています。

 武内:それは私が考えているシングルユースの宿泊施設像に近いですね。泊まって明日への希望が湧いてくるような宿が理想です。

 家業の本屋も、曾祖父の時代から100年続いていたにも関わらず私の代で閉じてしまったので、「もう一度宿で100年企業を目指したい」という強い気持ちがあります。ですから、何百年と続く老舗旅館はすごいなと思います。私は日田に根差して、子々孫々の代まで地域に密着した宿を経営していきたいですね。でも、浅学非才の私が25年間、経営判断で大きなミスをしなかったのは、神仏の御加護としかいいようがないと思っています。

 内藤:いや、武内社長の凄みは、お客を見ながら微妙に修正し続けているところです。失敗しそうになると別の道に修正する力を持っているので、結果的に大きな失敗はないのだと思います。

※ 詳細は本紙1514号または9月3日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

心機一転「本社移転」 ― 観光業界のコミュニティーの中心に

 心機一転。本紙「旅行新聞」の東京本社が9月2日から、新しい事務所で営業をスタートする。この原稿を書いている8月下旬現在、慌ただしい移転準備の真っ只中なのである。

 旧事務所から横丁の角を曲がった新事務所まで歩くと、駐輪自転車が邪魔で少し大回りしたものの203歩だった。心機一転には違いないが、同僚の顔ぶれも、利用する最寄りの地下鉄駅も、昼メシを食べる店も、たぶん以前と変わらない。それにしても引っ越しとは身辺整理であると再認識した。机の周りに積み重なった資料の山は、ほぼすべて捨てた。「今まであったことすら気づかなかったのだから、これからも同じように重要ではないはずだ」との信念によるものだ。それに、今は紙のみの資料はほとんど存在しない。何らかのかたちで、パソコンの中にデータとして残っている。

 先日、本紙と提携関係にある台湾「旅奇週刊」の記者とイタリアンレストランで会食した。そのときに、日本では営業マンが商談などの際に初対面の相手に取り出す会社概要(パンフレット)が、台湾ではほどんど使われないという話をしながら、台湾は、随分ペーパーレス化が進んでいることを知った。新聞社としては複雑な思いだが、日本でもペーパーレス化はどんどん進行していくはずである。

 そして、IT化が可能にしたペーパーレス化を、さらに突き詰めていくと、「事務所もいらないのではないか」という考えに至る。つまり「オフィスレス」である。記者はノートパソコン1台あれば、原稿はどこでも書けるので仕事場は選ばない。職種にもよるが、部分的にオフィスレス化が進んでいくことが予想される。IT社会によって便利になる一方で、文明の利器の囚人にならぬようにしたい。時間的、空間的にも、より自由になれることを望んでいるが、人間は自らが発明した道具に縛られていく動物でもあるからだ。

 そして今夏は、猛暑や、「経験したことのない大雨」が頻発した。大荒れの8月が終わり、9月1日は「防災の日」。大地震や大型台風、集中豪雨など、近年凶暴化しつつある自然災害への備えが必要である。

 例えば首都圏で大災害が発生した際、危険度の極めて高い都心にスシ詰め状態の満員電車が一斉に向かうのは、防災や危機管理の考えとは真逆の行動のはずである。新型インフルエンザなど、国家的危機の“パンデミック”が発生した際も同じである。データ通信によって、危険地域から分散して個人が仕事ができる環境整備も必要だ。

 近い将来、この国でオフィスレス化が拡大したとしても、人々は個々に分散していく一方向ではなく、自発的に集合できる空間を今以上に求めるのではないか。旅行会社で上手くこのコミュニティーを取り入れているのがクラブツーリズムである。定年後、会社という“居場所”を失った世代にも、新しい自発的なコミュニティーの場を提供している。今後、さらに細分化していくであろうコミュニティーの場に、旅行会社や観光産業がどのように深く関わり合っていけるかが勝負になる。

 旅行新聞は今秋から、台湾「旅奇週刊」の紙面を月1回のペースで掲載していく。また、宿泊業界で最大の関心事である「耐震問題」の連載もスタートさせる。本紙が観光業界の自発的なコミュニティーの中心となれるよう、紙面づくりに努めていきたい。

(編集長・増田 剛) 

高速路線バス運行へ、ISO39001認証取得(ウィラー)

ISO39001の認証式

 ウィラーエクスプレスジャパン(村瀬茂高社長)は7月31日から、高速バス「WILLER EXPRESS」を高速路線バスとして運行を開始した。また同日、高速路線バス業界で初めて、道路交通安全マネジメントシステム・ISO39001の認証を取得し、新たなスタートを切った。

 東京・新宿の同社バスターミナルで開いた開業式で、村瀬社長は「本日から高速ツアーバスと高速路線バスが1つになり、新たな高速バスが始まる。今後も顧客主義で今まで以上に快適で便利なバスを提供していく。価値の創造で新たな市場をつくり、業界の発展に寄与していきたい」とあいさつ。また、安全についてはISO39001をもとに徹底的に追求するとし、「顧客サービスと安全の確保を同時に確立する」と強調した。

 今後の展望はグループミッションの「世界中の人の移動にバリューイノベーションを起こす」を紹介したうえで、「2地点間の移動だけではなく、観光交通インフラを構築したい。バスとバスを乗り継いで日本を移動できるような高速バスネットワークを作るため、乗り継ぎのビジネスモデルを研究していく」と語った。

 WILLE EXPRESSはグループ路線9社、共同運行会社1社、運行委託会社13社で、全国22路線201便を運行するが、開業式にはグループ7社の代表が登壇。共同作業で「安全第一顧客主義」と書き初めし、安全運行に邁進することを誓った。

 また、ISO39001の認証式も行い、審査団体の日本海事協会から村瀬社長に認証が手渡された。

新宿で「エイサー」、今年で12回目

新宿駅周辺が「エイサー」一色に

 東京・新宿駅周辺が沖縄の伝統芸能「エイサー」で埋め尽くされる「2013新宿エイサー」が、7月27日に行われた。新宿の各商店街組合が実行委員会を組織、沖縄観光コンベンションビューローなどが後援。今年で12回目。

 当日は首都圏や沖縄からのエイサー連25団体が新宿通りや新宿駅を埋め尽くし、沖縄の伝統衣装で、勇壮な演舞を披露した。また、宮城県の仙台すずめ踊り連盟が特別招待され、東日本大震災からの復興を目指す力強い踊りを披露した。

 オープニングセレモニーには高良倉吉沖縄県副知事、上原良幸沖縄観光コンベンションビューロー会長も駆けつけた。「エイサーが日本最大の街・新宿で行われるのはうれしく、誇りに思う。演舞の力強さ、団結力を感じていただき、ぜひとも沖縄に旅行に来ていただきたい」(高良副知事)、「エイサーが全国区になったきっかけが新宿エイサーだと思う。今日1日楽しんでいただき、エイサーを生んだ自然・文化に触れにぜひ沖縄に来てほしい」(上原会長)とあいさつした。

 なお、新宿エイサーの関連イベントとして伊勢丹新宿店で、7月24―29日まで「めんそーれー 大沖縄展」も開かれた。

まだまだ使える、東北観光パスポート

 東北6県をお得に旅することができる「東北パスポート」(発行・東北観光推進機構)が好評配布中だ。宿泊・観光施設、飲食店や道の駅など、東北の730以上の施設で割引などお得なサービスを利用できる。

 パスポートは3月末まで開かれた「東北観光博」に向けて作られ9万部以上配布されたが、好評により配布を継続。デザインを一新してカードサイズとしたことで携帯性が向上した。有効期間は来年3月31日まで。東北各地の観光案内所などで配布している。サービス加盟店の募集も継続し、今後も新たなサービスが登場する予定だ。

 問い合わせ=東北パスポート事務局(ジェイアール東日本企画 仙台支店内) 電話:022(265)4443。

岩手で「学ぶ防災」

田老の防潮堤で津波の被害を視察

全国商工会議所観光振興大会の分科会

 日本商工会議所は全国商工会議所観光振興大会前の7月4―5日、岩手県内で分科会を実施した。分科会は東日本大震災で被害が大きかった大船渡、釜石、宮古、久慈、気仙沼の5つのコースに分けて行われ、商工会議所会員と観光産業関係者らが参加した。宮古コースの「三陸鉄道と観光船から見る復興地と、そこに暮らす人々とふれあう」を紹介する。

【内川 久季】

 1日目は盛岡駅から出発し、宮古駅、田老地区、浄土ヶ浜園を巡り、2日目は浄土ヶ浜、宮古市魚菜市場などを視察した。

 集合場所の盛岡駅は、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」人気の影響からか多くの観光客が行き交う姿もあり、震災の影響は見てとれなかった。

 盛岡駅から宮古駅まではバスで移動し、車内では震災当時の宮古市や宮古商工会議所、会員の被災状況などが説明され、宮古・田老地区の津波の映像も上映された。

(1番上)落ちないにゃんこ

 三陸鉄道の宮古駅のホームに着くと、猫のマスコットが駅の梁に片手でぶら下がっていた。震災時も微妙なバランスを保ち落ちなかったことから受験生の間で「絶対落ちない」と話題となり、昨年6月には「落ちないにゃんこ神社」がホーム上に設置され、観光客たちから人気を博していた。

 三陸鉄道は、津波により線路や駅舎が流されるなど甚大な被害を受け、一時は全線不通となったが、震災5日後に北リアス線の久慈―陸中野田区間が復旧し、現在は一部区間を除いて運転を再開している。また、不通区間も来年春には復旧し、全線再開する予定だ。

 田老地区では、宮古観光協会の「学ぶ防災」のガイドたちが田老の防潮堤と、たろう観光ホテルを案内した。

 田老は、昔から津波被害に数多くあってきたが、子供たちへの防災教育や年1回の避難訓練、巨大な防潮堤の建設など「防災の町」として有名だった。しかし、予測を超えた大津波は全長2433メートル、海面高さ10メートルの防潮堤を乗り越え、田老の町を飲み込んだ。この津波で、地区人口4434人のうち、死亡・行方不明者は約200人となった。「立派な防潮堤があるという安心感から、津波から逃げ遅れた人もいる」というガイドの話は印象的で、「自分で自分の命を守る意識」がいかに大切かを再認識させられた。

1、2階部分が抜けたたろう観光ホテル

 たろう観光ホテルは、6階建ての建物だが、津波被害で1―2階のフロアはすべて抜け落ち、外壁は鉄骨がむき出しの状態となっている。4階以上の部分は営業当時のままの姿で残っており、現在は6階の客室で津波の映像の上映会場として使用されている。この映像は、同ホテルの松本勇毅社長が撮影したもので、「現地(たろう観光ホテル)に来て、当時のようすを体感してほしい」という社長自身の思いからマスコミには公開せず、同ホテルのみで上映している。映像を見終わった参加者は、撮影場所となった6階の客室の窓から田老の町を見下ろした。

 グリーンピア三陸みやこ(岩手県宮古市)の敷地内に「たろちゃんハウス」と名付けられた商店街がある。同商店街は、2011年9月にオープンした3棟2階建ての仮設店舗。飲食物の販売店や、雑貨や家電などの物品販売店、理容室、学習塾など22の店舗が入っている。主な利用者は同じ敷地内にある仮設住宅の住人や近隣住人で、観光客の数は少ない。今後は、田老に「学ぶ防災」で訪れた人たちや、観光客への利用にも力を入れていくという。

浄土ヶ浜で開かれた交流会

 浄土ヶ浜園では、宮古商工会議所の花坂康太郎会頭をはじめ多くの人が集まり交流会が行われ、美しい景観のなかで三陸の新鮮な魚介類が振る舞われた。

 2日目は、大津波から1隻だけ残った観光船で海へ出発し、被災地域を展望。宮古市魚菜市場では、市民や観光客に人気の商業スポットを視察した。

 そのほかのコースは次の通り。

 大船渡コースは、震災直後から市民に親しまれた「奇跡の一本松」を見学。大船渡市中心商店街では、仮設商店街などを訪れ、地元の人たちとの交流を深めた。

 釜石コースは、鵜住居地域の小中学生が自らの判断で高台まで避難し、津波から逃れた「釜石の奇跡」を現地で紹介し、避難行動を学んだ。

 久慈コースは、「あまちゃん」の主要ロケ地として活気を取り戻しつつある現場を訪れ、小袖海岸などを視察した。

 気仙沼コースは、気仙沼港から内陸800メートルの陸地に打ち上げられた巨大漁船を見学し、津波による被害の大きさを目の当たりにした。

「1年1度は長旅へ」、1ウィークバカンスCP開始(日観振)

キャンペーンキャラの「たび坊」

 日本観光振興協会は7月19日から、長期連続休暇の取得促進と国内観光旅行の振興をはかるため、2013年度「1ウィークバカンス」キャンペーンを開始した。「『1年1度は長旅へ』~長期連続休暇でいつもと違う『長旅』に出かけよう!!~」をキャッチフレーズに、来年3月31日まで展開する。

 具体的な取り組みは、昨年好評だった「旅行川柳コンテスト」の第3回を実施する。国内旅行のさらなる振興と1ウィークバカンスを身近に感じてもらうことが狙い。優秀作品には、同CPに賛同している企業が提供する旅行券や航空券などが贈られる。川柳の募集期間は8月20日から9月30日までの予定。

 また、1ウィークバカンスの魅力や対応旅行商品などを紹介する専用のCPウェブサイト(http://1wv.jp )を開設しているほか、全国の主要駅などにCPポスターを掲出し、広く発信する。ホームページやポスターには昨年、公募で名前が決定したマスコットキャラクターの「たび坊」が登場してPRする。

 CPには31の企業・団体が賛同。各社は長期滞在や連泊などに対応した商品を展開している。

業界人必聴!!、「業界日セミナー」参加募る(JATA旅博2013)

昨年のセミナーのようす

 日本旅行業協会(JATA)は9月12―15日、東京ビッグサイトで「JATA旅博2013」を開催する。このうち、13日は業界日として設定し、旅行業界のさまざまな職域で役立つ業界人必聴の「業界日セミナー」を展開する。旅行業関係者の入場料は無料。

 業界日セミナーは、日常業務にすぐに役立つ最新情報を多彩な講師陣が発信・解説する。今年は、ITセミナーや苦情対策セミナーのほか、世界文化遺産登録で注目が集まる富士山観光の可能性や問題点、人気上昇中のデスティネーション紹介など17のテーマを設定。営業や企画、カウンター、総務などすべての職業領域の現場に対応する話題を盛り込んだ。

 このなかで、メインステージEastで行う「ツアーコンダクター・オブ・ザ・イヤー2013表彰式&添乗シンポジウム」は、日本添乗サービス協会(TCSA)が12年度にツアーコンダクターの模範として多大な貢献をした人を表彰する。“ナニワのカリスマ添乗員”の日本旅行・平田進也氏が添乗員の本音を語るプログラムも設定する。定員は200人。

 また、メインステージWestでは、「四位一体(地域+空港+航空会社+旅行会社)の地域ツーリズム」と題したセミナーを行う。LCCの参入など空港、航空ビジネスを巡る状況の急速な変化や、インバウンド誘致など今後の市場を見据えて地域が動き出すなかで、地域と空港、航空会社、旅行会社の4者はどのような協働ができるのかを討論する。定員は200人。

 今年話題のセミナーは「富士山の現状と課題について―合力の取り組み―」。世界文化遺産登録で、日本の山から世界の山になった富士山にさまざまな来訪者が訪れるなか、今後の対策などを現地エコツアーガイドの視点を通じて伝える。定員は100人。

 デスティネーションセミナーの注目は、「未知の国 トルクメニスタン」。カスピ海の東に位置する国で、今までほとんど観光情報がなかったが、今年初めてブース出展が決定した。このタイミングに合わせて観光大臣も来日し、現地観光事情を紹介する。定員は60人。

 業界日セミナーの開催時間は午前11時から午後6時。会場は東京ビッグサイト東1・2・3・6ホールに設置したメインステージWest/EastとセミナールームA―C、G―H、J―K。事前登録は、旅博公式ウェブサイト業界向けページ(https://www.b.tabihaku.jp/form/prior )から。なお、同日は有料プログラムの「国際観光フォーラム2013」も開催しており、8月23日まで参加者を募集している。

訪日上半期22・8%増、6月は4月に続く90万人超(JNTO)

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)がこのほど発表した6月の訪日外客数推計値は、前年同月比31・9%増の90万1100人。4月に続いて90万人を突破し、単月ベースで過去2番目、6月として過去最高となった。また、13年上半期(1―6月)の累計は同22・8%増の495万4600人となった。

 6月は訪日旅行の閑散期であるが、円高の緩和により生じた旅行費用面での割安感により大きな伸びを示した。市場別では、唯一マイナスとなった中国を除く、ほとんどの国で2ケタ台の増加。台湾、香港が単月として過去最高を記録したほか、韓国、タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、インド、フランスが6月として過去最高を更新した。

 また、上半期の累計では台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、インド、オーストラリア、フランスが過去最高を記録している。

 市場別にみると、韓国は同39・0%増の21万1500人で、6月として過去最高を記録。訪韓日本人の減少で、韓国発航空券のプロモーション運賃が設定され、訪日旅行への誘因となった。上半期累計では同38・4%増の132万200人。

 中国は、同21・4%減の9万9千人と、依然として団体旅行を中心に減少が続くが、マイナス幅は徐々に少なくなってきている。上半期累計では同27・0%減の53万6200人。

 単月として過去最高を更新した台湾は、同80・6%増の22万7千人となった。需要が高いため航空券やホテルなどの仕入れ価格が高く、ツアー料金が値上がり傾向だが、引き続き訪日旅行数は増加中。上半期累計では同49・4%増の102万9700人。

 香港は、同69・0%増の7万4700人。都市圏へのショッピング目的の旅行者が多く、単月として過去最高を更新した。上半期累計では43・1%増の33万6100人。そのほかでは、タイが同50・6%増の2万500人と、12年4月以降、15カ月連続で各月の過去最高を更新中だ。シンガポールは同64・2%増の2万1700人、マレーシアは同16・0%増の9800人、ベトナムは同78・5%増の6300人、インドは同24・6%増の7千人とそれぞれ6月として過去最高を更新。放射能の影響の強かったフランスも同31・5%増の1万1400人と、6月として過去最高を記録し好調となった。

 なお、出国日本人数は同11・9%減の130万6千人と、5カ月連続で前年同月を下回った。