鹿教湯温泉の長期滞在プラン ― 移住の前に旅館で3週間“暮らす”

 古民家や、マンションの空き室など外国人観光客が宿泊できるようにする大胆な規制緩和の流れが築かれつつある。旅館業法に縛られた既存の宿泊施設には、厳しい環境になるだろう。

 官民挙げて観光立国推進に向けて進んでいるが、本来、観光産業の中核を担うはずの旅館が窮地に立たされ、観光産業に新規参入したネットエージェントや、不動産業が大きな利益を持っていく構図にならなければいいが、と危惧している。

 そんななか、長野県上田市の鹿教湯温泉旅館組合は、「旅館で長期滞在を」と、21泊で9万9800円の滞在型プランをこの夏から売り出す。スタート時には同温泉の宿泊施設23軒のうち、12軒が参画する。料金のなかには消費税や、自治会費も含まれている。大きな特徴は1人の料金ではなく、1部屋当たりの料金なので、リタイアした夫婦や、40代を中心とした家族連れで連泊すると、割安感が大きい。元々湯治客が多い温泉地で、鹿教湯病院やクアハウスもあり、長期間療養客を受け入れてきた下地はあった。

 食事代は含まれていないので、料理をオプションで付けてもいいし、蕎麦屋さんなど温泉地内にある4軒の食事処や、近隣の大型旅館・ホテルのレストランを利用することもできる。コンビニエンスストアから旅館への出前サービスを利用してもいい。自炊できる施設も参画している。21泊でなくても、例えば7泊8日では3万5千円(消費税込み)と、1泊当たり5千円という計算だ。

 このプランのキャッチフレーズは「信州お試し移住」。本格的な移住の前に「温泉地で3週間“お試し”で暮らしてみては?」というものだ。滞在中にはアウトドアや農業体験、アート&クラフト作家との交流などのプログラムを用意する。同温泉の斎藤ホテルでは、旅行業登録を持ち、上高地や軽井沢への日帰りバスツアーを3千円台で実施しており、これらツアーに参加することも可能だ。

 また、上田市内に本格的に移住を考える人には、仕事や不動産を案内するサービスも行う。 どの自治体も、移住者や観光客を誘致したいが、いきなり移住ではハードルが高いため、まずは温泉地で長期滞在してもらうというのは、自治体にとっても一石二鳥の取り組みである。

 外国人観光客の増大、これにともなう古民家やマンションなどの長期滞在者受け入れの動きのなかで、温泉地における長期滞在への取り組みは喫緊の課題であり、鹿教湯温泉が先鞭をつけるかたちとなった。

 長期滞在プランに参画しない宿の理由として、料金的に折り合いがつかなかった旅館もあるという。また、宿のポリシーとして長期滞在客よりも1泊2食プランを中心に経営したいという宿もあると聞く。これは当然のことだ。一つの温泉地に色々なスタイルの宿があってしかるべきだと思うし、多様性こそが、温泉地を一層魅力的にする。長期滞在客を受け入れるうえで、今後、鹿教湯温泉ではさまざまな課題も見つかってくるだろう。旅行者の目線から言えば、3週間も同一温泉地に滞在するのであれば、参画旅館のお風呂を幾つか入れるようなサービスや、滞在中、宿も何軒か選択できるような柔軟性があれば、なおうれしい。まだ生まれたばかりの企画であり、今後どのように進化していくのか楽しみだ。

(編集長・増田 剛)

No.376 広域中核観光圏を目指す「中部」 - 観光トライアングルの形成へ

“広域中核観光圏を目指す「中部」
観光トライアングルの形成へ

 中部広域観光推進協議会(会長=三田敏雄・中部経済連合会会長)は14年2月、「中部の観光ビジョンⅡ~広域中核観光圏を目指して」を策定。中部の観光振興と観光客誘致活動を効果的に推進していくアクションプランを示すもので、2014―18年までの5年間を計画期間とし、「観光トライアングル」の形成など新たな提案もしている。同ビジョン策定の事務局を務める日本観光振興協会中部支部長の須田寛氏(東海旅客鉄道相談役)に中部観光の課題や今後の展望について聞いた。

【増田 剛】

 
 
 
日本観光の中核地域に、昇龍道とエメラルドルート結ぶ

 中部広域観光協議会は2005年に開催された日本国際博覧会(愛知万博)後に、永く広く観光を通じてその効果を持続させるべく設立されました。また、博覧会の剰余金を観光関係事業に還元することになり、そのための広域観光推進の受け皿づくりも必要となったため、その設立を急ぎ、同年10月に中部9県が集まって協議会を作りました。中部(東海・北陸・信州)の各県や経済団体・観光団体などに会員として参加していただいています。民間組織ですが、自治体も大きな役割を果たし、現在、主としてインバウンド誘客に取り組んでいます。

 12年3月に立ち上げた「昇龍道プロジェクト」は、能登半島から紀伊半島までの観光ルートを設定し、中華圏をメインターゲットにインバウンド推進に取り組んできましたが、その後はマレーシアやシンガポール、台湾なども加えて、さらに幅広く近隣諸国からの観光客を呼ぶことにも取り組んでいます。

 さらに…

 

※ 詳細は本紙1551号または7月17日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

業界の地位向上を、マーケット変化へ対応

田川博己新会長
田川博己新会長

JATA・田川博己新会長 会見

 6月の総会で日本旅行業協会(JATA)の会長に就任した田川博己新会長は7月2日、会見を開き、業界が抱える課題への対応などについて考えを述べた。田川会長は2年間、副会長として取り組んできたことを踏まえ、「中小や地方の会社の声を十分に聞き、とくに激動するマーケットの変化に迅速に対応して、旅行業界全体の底上げと地位向上に取り組んでいきたい」と意気込んだ。

 冒頭、国内のツーリズム産業の雇用は6・2%と世界基準の8―9%に比べ低いことをあげ、「これからの日本の発展のなかでツーリズム産業に就く人を増やしていきたい」と語った。また、「裾野が広い産業だが、最近はビジネスパートナーとして多種多様な産業との連携が行われており、そこから新しい価値やサービスが生まれている。その段階で旅行業の果たす役割が大きくなっており、そのなかでも、JATAの役割は大きい」と今後の方向性の大枠を述べた。

 そのうえで、旅行業が抱える課題とそれに対する施策について言及。市場変化への対応は、規制緩和に限らず、環境整備に向けて、何が必要なのかを検討する。また、産業間の競争を勝ち抜くためにも優秀な人材の確保と育成に向けた取り組みを加速する。今夏は、100人を超える学生のインターンシップを受け入れる。「観光系学部が増えたが、実務的な授業が多く、産業全体の意義が十分に伝えられていない。その役割を担い、JATAの人材でできることを組織的に行いたい」。

 地域経済の活性化に向けてはJATAの本部と支部の連携強化もはかる。とくに、都道府県別の地区の活動を重要視。「JATAと各県の知事との関係づくりをしていきたい」とした。

 このほか、休暇制度など需要創造につながる提言や、観光大国に向けたツーウェイツーリズムの推進、ツーリズムEXPOジャパンなどを注力すべき項目として挙げた。

旅先では空白の時間を

 まとまった休みが取れる夏は長距離旅行に行くように意識している。慌ただしくならないよう計画しているつもりでも、結局は時間に追われてしまう。帰りの飛行機の本当にギリギリで空港に滑り込んだこともあった。

 昨夏は北海道を巡り、復路の旭川空港へは余裕を持って到着できそうだった。レンタカーの助手席で旅の終わりを憂いていると、目に飛び込んできたのは「三浦綾子記念文学館」の文字。思わず「寄って!」と叫んでいた。文学少女だったわけではないが、高校生のころ読んだ「塩狩峠」と「氷点」は私の心を大きく揺さぶった。その衝撃が一気に蘇ったのだ。文学館では作者の人となりや作品の背景となる自然が垣間見られて、北海道の旅の最後の最後にとても満足した気持ちになれた。

 旅先での思わぬ出会い。これこそ旅の醍醐味だろう。今年の旅も空白の時間を作りたい。

【飯塚 小牧】

新社長に藤本隆明氏、農協観光

藤本隆明社長
藤本隆明社長

 農協観光の新社長に6月26日付で、全国農協観光協会代表理事専務の藤本隆明氏が就任した。

 藤本 隆明氏(ふじもと・たかあき)1978年全国農協観光協会入会。1997年、農協観光徳島支店長、99年、事業開発部JA組織対策課長、2006年、経営企画部長、08年、常務取締役などを歴任。12年、全国農協観光協会専務理事、13年全国農協観光協会代表理事専務。
 
 
 

無料コーヒー

 兵庫県淡路島の津名一宮インターすぐの「たこせんべいの里」。多種多彩なせんべいを販売する土産物店だが、店内の一角に観葉植物を吊り下げた広い休憩コーナーがある。入店した客はまず、ここに向かう。コーヒーやお茶などが無料で飲めるからだ。

 2001年のオープン以来、無料提供を続け13年が経過する。現場責任者は「経費は相当かかるが、同じサービスをいかに継続するかが大切」と話す。

 コーヒーが無料で飲めるだけではない。店内のすべてのスタッフの愛想がとても良く、「こんにちは!」と笑顔をふりまいている。

 平日でも観光バスでにぎわっている理由がよくわかった。当たり前のことを当たり前にする。それが「また来たい」につながる。

【土橋 孝秀】

CtoCで観光を売買、こぼれた魅力をWebで配信(TRIP)

観光販売システムズ林課長(左)とTRIP吉原社長
観光販売システムズ林課長(左)とTRIP吉原社長

 Web制作会社のLIG(岩上貴洋社長、東京都台東区)副社長の吉原豪氏は100%出資子会社TRIPを設立。Web上で観光商品の売買が可能なサイト「TRIP」を開発し、事業者と旅行者をつないでいる。旅行業法などの専門部分を三重交通グループの観光販売システムズ(小高直弘社長、愛知県名古屋市)がサポートする。事業発起人の吉原氏と観光販売システムズ観光マーケティング事業部行政・観光企画課課長の林光太朗氏に今後の展開などを聞いた。
【丁田 徹也】

 ――事業をはじめたきっかけは。

■吉原:はじめは林さんと着地型旅行商品を扱うサイトを作っていました。当時の提案会で大きな話題になっていたのが「商品化したくてもできないものがたくさんある」ということでした。

 旅行会社は「旅行商品」を取り扱うので、単価が低いものや設定日が不定期など、販売条件に合わない小規模な商品は取り扱えず、小さな事業者はパンフレットを作って道の駅に置くくらいしかできませんでした。そこで、CtoC(消費者間取引)で、誰でも売買ができるプラットフォーム「TRIP」を開発しました。

 さらに元を辿ると私と林さんは幼馴染で、長野県の野尻湖付近で過ごしてきました。私の家は、夏はラフティング、冬はスノーシューなどアウトドアスクールを経営しており、冬は大変なにぎわいでしたが、スキーブームが去ると客足が驚くほど遠のきました。当時は30分並んだリフトが今ではガラガラです。

■林:バブル期の非常に良い観光時代を見てきたので、2人が大人になって閑散とした野尻湖を見たときは衝撃で、「これはなんとかしたいな」と酒を飲みながら話していました。これがこの事業に対する根本的な想いにつながります。

■吉原:そういった意味では、まず長野を「TRIP」のモデルケースにしたいですね。一つの地域で特定の成功事例を作らないと事業が広まらないということもありますし、自治体と連携して作り上げていきたいです。

■林:サービスはまだ始まったばかりですが、興味を持っていただいている自治体は多くありますし、Webサービスなので全国に広げていけます。また、全国の自治体が抱えている「販路」という課題をクリアできると思います。多くの自治体は、旅行商品を造成しても販売するチャンネルを持っていません。地域には魅力的な体験が多くあるのに旅行会社の条件が合わなければ取り扱われません。ここで「TRIP」を利用していただくのです。これまでとりこぼされていた魅力を拾っていけるので需要も高いと思っています。観光販売システムズとしても旅行会社が扱う商品とは住み分けができているので販路が拡大できます。

 ――協業で得たメリットは。

■林:インターネットの進化はとても早く、Webに詳しくない我われ観光事業者が、目の前にある希望を形にしようとしてもできなかったので、Web制作をプロに任せられたことが大きいです。観光のコンサルティングはWeb事業で商売をすることではなく、観光商品が売れるということが重要なので私たちが持ってないルートで売れても地域に潤いが出れば良いのです。

■吉原:Web制作側から見ても、サイトをWeb側だけで作るのか、観光事業者と共同で作っていくかで、でき栄えは大きく変わります。とくに地方自治体と組む場合は雲泥の差だと思います。ただ、観光に関してはノウハウもコネもないので、観光販売システムズさんと提携することはとても大きかったです。

 ――今後の展開を教えてください。

■吉原:他業種との協業をはかっていきます。例えば、販売用の写真をカッコよく撮れるプロの写真家やモデルを派遣できるように映像会社と連携します。訪日インバウンドの増加も期待されます。多言語対応にして利用しやすいものにしたいので、翻訳会社とも連携できると良いですね。

■林:学生が地域とコラボした商品など斬新なメニューも多く盛り込んでいきたいです。

■吉原:メニューは5月9日現在で80くらいですが、1万を目標にしています。サービスの価値やインパクトが生まれるのはこの段階からだと考えています。また、Webサービスのスピード感からすると1年以内の達成が目安です。すべての商品を一から開発しているわけではないので決して不可能な話ではありません。

 野尻湖の変化を見てきた我われの至上命題に「地域活性化・地方への送客」があります。これからはWebの展開だけでなく、「TRIP」を使った体験商品の販売戦略を地域と一緒に考えます。Webと観光のプロがいるので両者の利点を最大限に活かしたコンテンツで盛り上げていきます。地元の声も直接聞きたいので、お声かけいただければお伺いするという姿勢で事業に臨みます。

京都が世界1位に、東南アジアが近年人気(ワールドベストシティ)

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 世界で最も影響力を持つ旅行雑誌の1つ「Travel+Leisure」誌がこのほど行った読者投票「ワールドベストアワード2014」の「ワールドベストシティ」ランキングで、京都が1位に選ばれた。

 京都は12年に初めてベスト10入りし、13年は5位だった。京都以下は、チャールストン(アメリカ)、フィレンツェ(イタリア)、シェムリアップ(カンボジア)、ローマ(イタリア)、イスタンブール(トルコ)、セビリア(スペイン)、バルセロナ(スペイン)、メキシコシティ(メキシコ)、ニューオリンズ(アメリカ)の順。

 インバウンドのライバルとなるアジア地区では1位の京都に次ぎ、2位シェムリアップ(カンボジア)、3位バンコク(タイ)、4位東京(日本)、5位香港(中国)、6位上海(中国)、7位ハノイ(ベトナム)、8位西安(中国)、9位北京(中国)、10位シンガポールと続く。シェムリアップはアジア地区で12、13年4位、今年が2位と近年注目を集め、ハノイは13年に初めてトップ10に入り、今年7位となった。

 同誌は100万部近い売上を誇るアメリカの月刊旅行雑誌で、アメリカンエクスプレスカードの会員を中心とした北米の富裕層が主な読者で、世界的に強い影響力を持つといわれる。「ワールドベストアワード」は同誌で1995年から始まった読者投票ランキングで、世界の観光都市やホテル、クルーズ、旅行会社、航空会社などのカテゴリに分かれる。ベストシティの採点ポイントは、風景・旧跡・名所、文化・芸術、レストラン・食べ物、人、価値の5つ。

若者旅行応援を表彰、“今しかできない旅がある”(観光庁)

 観光庁はこのほど、若者旅行振興に取り組む機運を高め全国に情報発信することを目的に第2回「今しかできない旅がある」若者旅行を応援する取り組み表彰を発表した。

 受賞取り組みは次の通り。

【観光庁長官賞】社会問題発信型のプラットフォーム:リディラバのスタディツアー(一般社団法人リディラバ、株式会社Ridilover)
【奨励賞】若旅inやまぐち 山口県内オンリーワン企業訪問と観光魅力発見の旅3日間(西京銀行、広島経済大学)▽山頂cafeプロジェクト~後世に伝えたい山旅がある~(山頂cafe~ビギナーのための登山サークル~)▽農都交流プロジェクトin飯豊町(JTBコーポレートセールス)
【東北ブロック賞】スポーツYUKIYOSE(特定非営利活動法人トップスポーツコンソーシアム秋田)
【関東ブロック】LunchTrip(LunchTrip)
【北陸信越ブロック賞】大学ゼミ合宿誘致・コーディネート事業(特定非営利活動法人金沢観光創造会議)
【近畿ブロック賞】さんふらわあ若者船旅推進プロジェクト(フェリーさんふらわあ)
【中国ブロック】スポーツによる地域活性化プロジェクト(広島経済大学興動館 スポーツによる地域活性化プロジェクト)
【審査員特別賞】サムライカレープロジェクト(サムライインターナショナル)

宿泊販売4千億円へ、「人財育成」など3本柱(JTB旅ホ連)

福田朋英会長
福田朋英会長

 JTB協定旅館ホテル連盟(福田朋英会長、3962会員)は6月11日、東京都内で2014年度の通常総会を開いた。JTB国内旅行企画とグループの旅行事業本部と三位一体で宿泊販売4千億円を目指し、「宿泊増売」「人財育成」「組織強化」の3本柱で推進することを決めた。13年度の販売実績は12年度比9・3%増の3851億円。

 4千億円の達成に向けては、JTBセレクト参画率70%以上やお客様紹介運動に協力し、支部が主体となって宿泊増売を推進する。

 また、次世代経営者層の育成、リスクマネージメントセミナーなど研修の充実をはかり、人財育成に力を入れる。さらに3カ年の中期課題検討推進プロジェクトの集大成「支部による改革」の成果を宿泊事業につなげ、収支改善の成果で財務基盤の安定をはかる組織強化の3本柱を支部活動が原点であるという認識のもとに進めていく。