全旅連の「観光元年」に~全旅連・多田計介会長インタビュー

2018年6月4日(月)配信 

全旅連・多田計介会長

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(多田計介会長)は6月6日、福岡県福岡市内で第96回全国大会を開く。多田会長は就任1年を振り返り、「初年度は民泊に尽きる1年だった」と語る。住宅宿泊事業法(民泊新法)が6月15日に施行されるが、行政や宿泊4団体、メディアなどとの連携を重視し、「違法民泊」への監視を強めていく考えを示した。人手不足や風営法の規制など、直面する課題にも積極的に取り組んでいく姿勢だ。

【聞き手=本紙社長・石井 貞德、構成=増田 剛】

 ――全旅連会長に就任して1年間。振り返って、現在の心境や、今後注力すべき活動について伺いたいと思います。

 初年度は、民泊に尽きる1年でした。北原前会長が一生懸命に民泊の問題に取り組まれていました。しかし、残念なことにどこかでボタンの掛け違いが生じてしまい、全旅連の主張が、官邸の進める施策の「反対勢力」に映り、自民党本部とも溝が広がってきました。

 そこで、我われも「民泊反対ありきではない」と主張し、決められたことは受け入れる姿勢を示しながら、運用の内容が粗すぎる点を指摘しました。人命を預かったり、地域の安全・安心を守る法令を順守してきた宿泊業の長い歴史のなかで、とくに安全性などの面で、今回の民泊を取り巻く動きに大きなギャップを感じたからです。

 住宅を宿泊事業に転用するといっても、最終的な目的は、我われ旅館ホテル業とまったく同じです。「民泊は住宅地域でも営業可能」というのはいかがなものかと、観光庁にも我われの立場を何度も説明しました。

 17年12月に策定された住宅宿泊事業法のガイドラインは、運用面の管理などの規制が予想以上に厳しいために、事業者の申請数は少ない状況のようですが、6月15日の施行後にどのように動くか、注視していかなくてはなりません。ただ、我われの主張がある程度通用して、民泊が新しいビジネスとして、〝境目なく爆発的に”広がっていくことがなくなったのは、一つの成果だと捉えています。「地域住民らの行動で自分たちの街を守れる」という流れが成立したのだと思っています。

 昨年8月23―24日の2日間、全国47都道府県の理事長が東京に一堂に集結し、「全旅連常務理事・理事研修会」を実施しました。私は「地域住民や利用者が安心安全に暮らし、施設利用ができる環境整備を、我われがリーダーとなって進めていこう」と呼び掛けました。そして、本部の提案を各地域の理事長が中心となって運動していただきました。

 今だから言えますが、当初「民泊に関する条例に関しては30%の都道府県に動きがあれば評価していいのではないか」とも考えていました。結果的には約68%の都道府県が、保健所を有する市町村などの首長の発言によって新たに条例が定められたり、検討がなされたりしています。全国の理事長を先頭に、組合員の皆様が汗をかいた運動が実った結果だと思っています。私は2000年3月に撤廃された「特別地方消費税」の“撤廃運動”以来の大きなうねりを感じました。

 今回の運動は中央ではなく、地方で拡散し、各地で〝運動”が行われたことが大きな特徴です。大所帯の全旅連組織が、全身を駆使して1つの目的に向かってがんばった〝一体感”を得られたことが、47都道府県の理事長の1人として、この1年間で最も大きな成果だと思います。

 ――6月15日の住宅宿泊事業法施行後については。

 例えば私の地元・石川県金沢市では、行政の立場から保健所の中に指導的な窓口が設置されています。3年後に見直しもあるので、行政や民間機関と協力し、地方の皆様方としっかりと連絡を取りながら、注視していきたいと思っています。

 6月15日以降は、アンダーグラウンドに潜る民泊事業者がかなり出ることが予想されます。

 地域住民の皆さんは元より、日本旅館協会や日本ホテル協会、全日本シティホテル連盟など宿泊4団体が連携し、「違法民泊はダメ」というメッセージを発信する。法治国家である日本の法律に従って「治安維持にも協力していく」ように、旅行会社やOTA(オンライン旅行会社)、メディアなども巻き込むことが大事です。しっかりとコミュニケーションを取って対処していきたいと思っています。

 ――旅行会社も民泊の販売へと動いています。

 消費者は旅館やホテルと、民泊を使い分け、ときには「価格を重視することもある」との理解も必要でしょう。

 一方、我われ旅館やホテルは、自分たちのおもてなしのサービスをもう一度見直し、良質なサービスをこれまで以上に磨き、価値を高めていくべきです。

 ――人手不足も宿泊業界では大きな課題となっています。

 全旅連は7割の組合員が小規模旅館。労働力の要求も、地域や規模によって異なります。アンケート調査をすると、外国人労働者へのニーズは千差万別です。中・大規模は「とにかく労働力がほしい」という回答が多くあります。組合員に役に立ち、モデルになるような取り組みや、考え方などの情報を本部が吸い上げて、広く伝えていくことが大きな役目だと思っています。

 ――宿泊業4団体で構成する「宿泊業外国人労働者雇用促進協議会」では、外国人技能実習制度の活用も検討されています。外国人労働者についての考え方は。

 「外国人の労働力は不可欠」というのが大前提です。押し寄せる波には勝てず、変わっていく部分もあるかと思いますが、都心の有名ホテルもベッドメーキングなどは多くの外国人労働者が担っています。

 一方、お客様との接点が多い部署では、文化の大きく違う地域の外国人の雇用は、難しい部分もあるのではないかと考えます。

 このため、「即戦力」的な教育システムが必要だと思っています。働く外国人も歓迎され、お客様からも感謝される「三方良し」の枠組みができないか。学校のような仕組みをつくり、一定のレベルに達した者には認定証などを発行するのも一つのアイデアだと思います。宿泊4団体で連携して考えていきたいと思います。

 全国の旅館やホテルでは、「1日2時間のみ」「週に3日」など多様な就業形態も進んでいます。私の宿でもある職場では、漁師さんがスタッフの半数を占める日があります。悪天候が続く時期などは漁に出られないため、不漁のシーズンなどは、若い漁師さんが当館のバックヤードでお手伝いに来てくれたりもしています。これらも面白い人材発掘の一例だと思っています。

 人手不足の解消には、考え方や着眼点を変えていくことがポイントになります。「たすき掛け」シフトによる労働管理など、これまでの慣習に固執しないことも大事です。

 「お客様をお出迎えした客室係が翌朝のお見送りをする」――このことにこだわると、どうしても長時間労働となります。しかし、こだわっているのは我われ旅館側だけで、実はお客様はそこまで期待していないことも多々あります。

 ――全旅連という組織も大きく変わろうとしています。

 そうですね。今年の総会で定款の一部を変更します。

 定款の第一条に「観光立国の実現推進」、第五条には「観光立国推進に関する観光関係団体との連絡調整」などを追加する予定です。

 観光立国に向けて宿泊業4団体の連携強化や、大手旅行会社などとのビジネス面での連携事業も、大きな可能性を持つことになります。

 全旅連は公衆衛生に関しては、長い歴史を通じて一つひとつ積み上げてきましたが、本格的な観光への取り組みについては、今年が“スタートの年”であり、「全旅連の観光元年」だと認識しています。

 ――旅館文化が正しく理解されることも大切ですね。

 おっしゃるとおりです。例えば、旅館の宴会場は畳が大部分です。このため、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の規制の対象となっています。

 一方、ホテルの宴会場は絨毯のため、対象外です。「お酌」の文化は〝風俗営業”という江戸時代的な時代錯誤な捉え方があるのも事実です。日本文化を代表する旅館の畳文化が差別されるようではいけません。警察と協力しながら、旅館業の社会的な評価、存在意義を高めるために、新しい枠組みづくりにも取り組んでいきたいと思います。

 ――熊本地震から2年余りが経ちました。今回は熊本市で理事会・総会を開き、福岡市で全国大会を開催されます。

 我われ全旅連の仲間である熊本や大分、九州全体が苦労したなかで、井上善博九州ブロック会長とも話し合い、理事会・総会は熊本で開くことが決まりました。全国の都道府県を代表する理事長が熊本を訪れ、危機管理なども学んでいただきたいと思っています。このため、熊本をよく見ていただけるスケジュールを組みました。その後、全国大会の会場である福岡に集結する流れです。

 観光業界にとって災害は他人事ではありません。

 私も07年3月に発生した能登半島地震の際、半年間お客様が来ないことも経験しました。全旅連の仲間が経験したことから多くを学びたいと思っております。

 ――ありがとうございました。

 

 

「観光革命」地球規模の構造的変化(199)「感幸の時代」への期待

2018年6月4日(月) 配信

ホストとゲストの双方が幸せを感じられる「感幸」の創出へ

内閣府が5月中旬に発表した今年1月から3月期の国内総生産(GDP)速報値は、年率換算で0・6%減であった。マイナス成長は2年ぶりのことで、日本経済の先行きへの不透明感が強まっている。今回マイナス成長に転落した最大の要因は、内需の柱である個人消費の落ち込みだ。その影響は当然、旅行消費の伸び悩みにつながる。

 国連は2013年から毎年「世界幸福度ランキング」を発表している。幸福の追求は人間の営みの核心であり、充実した生活を送ることは全世界の人々の共通の望みだ。幸福追求のためには物質的な経済成長ではなく、より公平でバランスのとれた成長が必要として「国民総生産(GNP)よりも国民総幸福(GNH)こそが重要」と主張するブータンによる提唱が全世界で認められたわけだ。

 国連の幸福度ランキングは世界156カ国の各国それぞれ約3千人を対象にして行った「ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)」に関するアンケート調査にもとづいている。人生に「幸せ」を感じる度合いと「不幸せ」を感じる度合いについて6つの指標で分析している。6指標は、①1人当たり国内総生産(GDP)②社会的支援の有無③健康寿命④人生選択の自由度(生き方を自由に選択でき、満足しているか)⑤寛容さ(過去1カ月間に慈善事業に寄附したか)⑥腐敗認知――。 

 18年の幸福度ランキングのトップ10は、①フィンランド②ノルウェー③デンマーク④アイスランド⑤スイス⑥オランダ⑦カナダ⑧ニュージーランド⑨スウェーデン⑩豪州――の順。北欧5カ国がトップ10入りしているのは、社会的支援の充実、人生選択の自由度、社会腐敗の少なさ、寛容さなどが実現されているためだ。一方、日本は54位で、世界第3位の経済大国ではあるが、幸福度の低さは残念である。 

 日本でも90年代初頭にバブル経済が崩壊してから観光のあり方が見直され「観光」に代わって、新たに「感幸」というコンセプトが提唱され、さまざまに議論された。その要点は、観光という営みにおいてホストとゲストの双方が「幸せ」を感じることのできる在り方(感幸)の創出であった。 

 今後、「感幸の時代」の到来が期待されている。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森 秀三)

コラムニスト紹介

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

エアトリの予約サービスがさらに充実 (エボラブルアジア)

2018年6月4日(月) 配信

エアトリの予約サービスがさらに充実。新幹線などの予約もスタート

会員規模が250万人規模となり、勢いに乗るオンライン旅行予約サイト「エアトリ」(運営=エボラブルアジア)。得意とする国内航空券分野外のサービス拡充にも力を入れ始めた。このほどトップ画面に、新たなカテゴリーとして「新幹線」や「高級旅館」、「レンタカー」、「アクティビティ」を追加。総合オンライン旅行会社として、利用者数のさらなる取り込み増を目指す。

 エアトリは昨年、お笑いコンビオリエンタルラジオを起用したテレビCM放映後、知名度が急上昇した。創業以来、旅行会社を含む国内大手企業に対し、オンライン旅行予約サイトのOEM提供に注力してきた同社。提供数は500社を上回る規模で、大手航空会社傘下のエージェントや、信販会社らに対しサービスを提供してきた。昨年3月には、東京証券取引所マザーズ市場から同取引所市場第1部に、1年を待たず鞍替えし、急成長を遂げた。

 オンライン旅行事業を通じ、BtoBビジネスで成果を出してきたこともあり、各関連企業とのつながりも深い。今回、新たなカテゴリーにとして登録された「新幹線」の予約手配では、OEM提供先のナビタイムジャパンとの連携によって実現した。「高級旅館」については、同社傘下のやらくだ倶楽部の資源を有効活用した格好だ。

 DeNAトラベルの子会社化で取扱高は1400億円となったことから、TTA(既存旅行会社)とOTA(オンライン旅行会社)問わず、業界内での存在感が一層高まった。近年、旅行系ベンチャー企業のなかでも大きな成功を果たしているだけに、動向に注目が集まっている。

貨物線を走る列車で味わう夜景 クラツー、人気企画の夜バージョン売り出す

2018年6月4日(水) 配信

お座敷列車「華」(画像提供:JR東日本)

クラブツーリズムはこのほど、新たなオリジナルルートを採用した「お座敷列車で行く特別ルート 夜の貨物線日帰りの旅」を売り出した。

 今回は利用客の期待に応え、貨物線を走行するオリジナルルートを変更したほか、シリーズで初めて夜に走行するコースを設定した。東海道線から見える夕焼けや、高島貨物線で通る真っ暗な倉庫街など、夜ならではの車窓からの風景を貸し切りお座敷列車で存分に堪能できる。参加者には、装い新たにしたクラブツーリズムオリジナルの夜版特製サボ(行先標)と、オリジナルタオルをプレゼントする。

お座敷列車・華・宴で行く特別ルート 新・夜の貨物線日帰りの旅 概要

出発日:8月11日(土)、「華」利用。8月18日(土)・「宴」利用

旅行代金:大人1万8千円。子供は3千円引き。

募集人員:各日150人限定

オリジナルルート:

新宿発(午後6:00ごろ)=(東海道貨物線)=新鶴見信号所 =(東海道本線)= 根府川折返し(扉は開かない)= 大船(根岸線)=〈高島貨物線〉= 新鶴見信号所 = 品川着(午後9:40ごろ)

夜の貨物線の旅は、神奈川県がメインの新ルート

※やむを得ない事由により時刻が変更になる場合がある。

JTBが北海道・阿寒アドベンチャーツーリズムへ追加出資

2018年6月4日(月) 配信

JTB(東京都品川区)は、阿寒アドベンチャーツーリズム(北海道釧路市)に対し、5月末に追加出資を行った。

 これまで、阿寒観光協会まちづくり推進機構(北海道釧路市)が地域 DMOとして観光地づくりの全体管理を行うなかで、JTB 総合研究所(東京都港区)とともに、2016 年から DMO(注1) の戦略策定をはじめ、新たな事業の創出や観光コンテンツの開発、プロモーションなどの運営支援を行ってきた。地域づくりの新たな事業を創出し持続的に運営を行う DMC(注2)として 2018 年 4 月に設立された阿寒アドベンチャーツーリズムに出資した。

 JTB は、同社が取り組む(1)国立公園内の夜の森を舞台にした、アイヌ民族の文化・神話をモチーフに阿寒の自然や動植物との共生の世界を演出する体感型デジタルアートの展開や、(2)阿寒の豊富な観光資源(自然・アクティビティ・アイヌ文化)を活かしたアドベンチャーツーリズム事業の本格的稼働に資するべく、5月末に追加出資を行った。JTB を含む金融機関や道内外の民間企業・団体からの同社への出資総額は 4 億円になる。

 これにより、同エリアの持続的発展につなげていくとともに、国の「国立公園満喫プロジェクト」や「観光立国ショーケース」の目標達成に貢献していく。

 今回の追加出資を通して、JTB は阿寒湖温泉およびその周辺地域に対し、「地域交流事業」のノウハウを活かして各種事業を推進することで「稼げる地域」を実現する取り組みに貢献するとともに、今回の一連の取り組みを日本における先駆的なモデルとして位置付け、日本全国各地の地方創生の実現を目指していく。

(注1)DMO(Destination Management / Marketing Organization)・・・観光地経営の視点に立ち、地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと。

(注2)DMC(Destination Management Company)・・・豊富な地域の知恵、専門性、資源を所有しイベント、ツアー、地域交流や地域活性化を企画提案する会社を指す。

阿寒アドベンチャーツーリズムの組織概要

(1) 名 称:阿寒アドベンチャーツーリズム株式会社

(2) 代表取締役:大西 雅之(おおにし まさゆき)

(3) 所 在 地:北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉 2-6-20

(4) 払込出資金:4億円(本出資後)

(5) 出 資 者: JTB、阿寒湖旅館出資組合、阿寒観光協会まちづくり推進機構(地域 DMO)、日本航空、日本政策投資銀行、北洋銀行、北海道銀行を含む計 15 社(団体)

(6) 主な事業内容:旅行業法に基づく旅行業(観光情報の提供及びガイドツアーの企画、運営、実施。イベントの企画、運営、演出及び実施 ほか)

アドベンチャーツーリズムの定義  ※Adventure Travel Trade Association(ATTA)による定義・・・「アクティビティー」「自然」「異文化体験」の 3 要素のうち 2 つ以上で構成される旅行

「登録有形文化財 浪漫の宿めぐり(86)」(三重県松阪市)割烹旅館八千代≪松阪城下に料理と宿泊の2枚看板で100年続く≫

2018年6月3日(日)配信 

豪快な部材と精緻な細工が溶けあう大広間。床の間の大絵は伊勢の画家・川口呉川の作

 松阪城跡の東側、殿町周辺は江戸時代に武家屋敷が並んでいたところである。今も背の高い槇の生け垣が続き、敷地の広い家が並んで落ち着いた街並みを見せる。八千代はその一角にある料理旅館だ。

 創業は1921(大正10)年。松阪城の二の丸跡にある料亭を買い取ってのことだった。初代の主人は阪本菊次郎。それ以前から営業していたとの話もあるが、詳細は不明である。後に二の丸跡の建物が手狭になり、現在地へ移ったのが1929(昭和4)年。やはり以前からあった建物を買い取り、料亭に改築したのだ。もとの建物は伊勢の豪商である小津清左衛門家の分家の小津孝之助の屋敷だった。

 屋敷はみごとな数寄屋風の造りであり、菊次郎は2階を乗せるなどして拡張。翌年には大広間を新築した。「広い宴会場が欲しかったんでしょう」。4代目にあたる現会長の阪本陽一郎さんは言う。江戸期から商人の町として栄えた松阪には企業の本社や商工会議所などがあり、忘新年会や会議の後の宴会など需要が多かったからだ。

 建物はおおよそ当時のまま残る。中庭をコの字型に囲んで玄関棟と鶴亀棟、大広間棟があり、3棟がいずれも登録有形文化財。大広間を含めた客室は12あり、そのうち7室が宿泊用にあてられている。屋根は桟瓦葺き。阪本家の家紋は抱き茗荷(みょうが)だが、瓦に小津家の家紋である剣片喰(けんかたばみ)が多くみられるのも歴史を知る見どころだ。

 3棟のうちでもっとも古いのは鶴亀棟。明治末期の建築ではないかと考えられている。平屋建てで現在の中庭の北西にあったものを曳家して移動したという。鶴の間は一間の畳床に金箔張りの天袋を持つ床脇が付く。書院欄間には剣片喰の透かし彫りがあり、小津の商家のにおいが残るといえるだろう。

 玄関棟では曙の間が凝っている。竹垣を模した廊下から入ると、踏込は石敷きで一軒家の玄関風。本間は自然木を棹に使った網代組みの天井がしゃれている。床の間は畳と段差のない踏込床で、掛け込み天井の広縁には煤竹を使った下地窓がある。茶室風の軽みだ。隣室の若竹の間も中央が網代で四囲をヨシズ張りで囲った天井が面白い。

 一方、大広間は豪快だ。広さ110畳で、大きな床の間は幅が二間もあり、直径40㌢以上の床柱が畳から生えたように据えられる。天井は木目の美しい板をはめ込んだ折り上げ格天井。松、鶴、富士をかたどった透かし欄間と、麻の葉や青海波などをデザインした組子が宴席のめでたさを盛り上げる。

 そして八千代では料理も忘れられない。代々の主人はみな調理師免許を持ち、4代目の陽一郎さんが言うように「料理屋8割」の旅館なのだ。主人自ら市場へ買い出しに行き、魚介を中心とした旬の素材をおまかせ料理で提供。数寄屋の造りに似合うことだろう。

 

コラムニスト紹介

旅のルポライター 土井 正和氏

旅のルポライター。全国各地を取材し、フリーで旅の雑誌や新聞、旅行図書などに執筆活動をする。温泉、町並み、食べもの、山歩きといった旅全般を紹介するが、とくに現代日本を作る力となった「近代化遺産」や、それらを保全した「登録有形文化財」に関心が強い。著書に「温泉名山1日トレッキング」ほか。

【「清都」の清都みちる女将に聞く】バリアフリーに注力 高齢者や障害者に優しく

2018年6月3日(日) 配信

割烹旅館「清都」 清都みちる女将

 千葉県旅館ホテル生活衛生同業組合「菜の花女将会」で会長を務めている割烹旅館「清都」の清都みちる女将に、活動の1つである「ハートフル事業」について話を聞いてみた。
【古沢 克昌】

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 割烹旅館「清都」では、昨年「人に優しい地域の宿づくり賞」(主催=全旅連)で「厚生労働大臣賞」を受賞するなど「人に優しい宿づくり」に積極的に取り組んでいる。女将会では10年ぐらい前から勉強会を続けている「ハートフル事業」において、とくにここ1、2年強化しているのが、高齢者や障害を持つ方を想定したお宿のバリアフリーチェックだ。もちろん、オリンピック・パラリンピック、その後の事も踏まえてのことである。

 清都女将は「県旅館組合では日本バリアフリー観光推進機構協力のもと実際に宿まで出向いて、段差や通路の幅、砂利道の有無などを計測して、車イスの人でも安心して利用できるかなど調べています。実際に車イスを利用している方も同行していますので、普段はなかなか気がつかない細かな点まで調査でき、チェックする側もされる側もたいへん勉強になっていると思います」と語る。

 「ご存知のとおり、バリアフリーは車イスの方だけなく、いろいろな障害をお持ちの方がいらっしゃいます。施設によっては車イス以外の、例えば介助犬の扱いに慣れている宿であるとか、車イスを利用していなくても足腰の弱い高齢者にも優しい宿であるとか、宿泊施設を選ぶ際の参考になったら良いですよね」(清都女将)と話す。

 こうした「ハートフル事業」の延長線上にあるのが、割烹旅館「清都」が現在も取り組んでいるハンディキャップを持つ人の就労支援に着目した活動だ。委託訓練校で勉強し、卒業した障害者を受け入れ、雇用機会を創出する。簡単にできるようで現実にはなかなかできない取り組みではないだろうか。

 続けて清都女将は「女将会でのハートフル事業の活動は今後も継続して行っていきます。しかし、バリアフリーだけでなく、南房総地域の活動などにも積極的に取り組みたい。なかでも毎年7月に開催している白浜海女まつりはここだけしかない伝統的なお祭りです。伝統を守り、新しい事を取り入れ、発信し、少しでも多くのお客様が千葉そして南房総にお越しいただけるようになると嬉しいですね」とコメントした。

「味のある街」「ベジタブルミートボールサンド」――ダブルサンドイッチ葉山店(神奈川県・葉山町)

2018年6月2日(土)配信 

ベジタブルミートボールサンド 930円(税抜き)▽ダブルサンドイッチ葉山店▽神奈川県三浦郡葉山町堀内997-20 MK SEA TERRACE。

 葉山は子供のころから何度も訪れているまちだ。先日も休みの日に葉山に行くことを、ふと思い立ち、早起きして車を走らせた。葉山にはモーニングを出す店が多くある。

 着いて、まずは森戸海岸を散歩することにした。海岸を南へと歩くと赤い橋があり、これを渡ったところに森戸神社(森戸大明神)がある。橋は「みそぎ橋」と呼ばれ、海岸と神社の間に架かる。森戸海岸は鎌倉時代に「七瀬祓(ななせのはらえ)」の霊所と定められ、海岸でお祓いやみそぎが行われてきたことに由来する名前だ。

 その森戸海岸のそばにあるのが「ダブルサンドイッチ葉山店」だ。外から見るだけでも、海沿いの雰囲気を取り入れたお洒落な空間が作られているのが分かる。

 人気のパン店から派生したプロジェクトの店として、2013年にオープンした。アメリカ西海岸のサンドイッチに影響を受けてつくられている。「ウマミチキンサンド」「ターキー&クランベリーサンド」などさまざまな味があるが、今回は野菜も肉も味わってみたいと思い、「ベジタブルミートボールサンド」を選んだ。

 一口いただくと、肉は少しぴりっと辛く野菜が新鮮。そこにマリナラソース(ハーブトマトソース)がかけられている。さまざまな材料が繊細に重ね合わされているのが感じられるもので、とてもおいしい。

 パンは表面がひび割れたような模様になっていて、その表面はかりっと、中はもちっとしている。このパンは「ダッチクランチロール」といい、トラの模様に似ていることから「タイガースブレッド」と呼ばれることもあるものだ。この店では、水溶きの米粉を塗って焼くことでひび割れを作りだしている。パン店から始まったプロジェクトならではのこだわりが伺える。

 ランチの時間帯にはいつも混雑していると聞く店だが、さすがに月曜の朝は落ち着いていて、サンドイッチとコーヒーをいただきながらゆっくりと過ごすことができた。よく行くまちも、行く時間帯を変えることで、別の顔に出会うことができそうだ。

(トラベルキャスター)

コラムニスト紹介

トラベルキャスター 津田令子氏

社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。

神社を巡る旅 「学びながらの旅こそ面白い」

2018年6月2日(土)配信

秦まゆなさん(左)と一糸恭良さん
秦まゆなさん(左)と一糸恭良さん

 
日本文化案内人で文筆家の秦まゆなさんと、古代文字ホツマツタヱ研究者の一糸恭良さんが5月7日、本紙を訪れた。古代史に魅せられた2人はそれぞれ、全国の神社を巡る旅を続けている。「日本の神話と神様手帖」を著した秦さんは、旅先の神社を訪れると、地元の人から土地の独特の文化や古代史の話を聞くこともあるという。「ブームに流される旅ではない、自分で興味を持って学びながらの旅こそ面白い」と話す。

 一糸さんは「地域の食や文化などすべては歴史につながっている。歴史を知ることで、旅の醍醐味を味わえる」と語った。

 

一般社団法人に移行へ 日本版DMO登録目指す(四国ツーリズム創造機構)

2018年6月2日(土) 配信

あいさつする四ツ創の松田清宏会長

 四国4県とJR四国などで組織する「四国ツーリズム創造機構」(会長=松田清宏・四国旅客鉄道〈JR四国〉相談役、147会員)は5月10日、高松市内のホテルで2018年度総会を開き、来年1月に一般社団法人に移行し、今年度内に観光庁が取り組む「日本版DMO」への登録手続きを行うことを決定した。

 法人化後も現行の体制を維持し、会員からの負担金および会費収入を主な財源とする。DMOになれば「旅行業者」登録で着地型旅行商品の販売など収益事業も行えるが、実施しないとした。

 冒頭あいさつで松田会長は「昨年の四国DCは大成功を収め、107億円という経済効果を残すことができた。インバウンドが順調に伸びている。『四国に行ってみたい』という海外の声が多いことを実感している」と話した。

 第3次四国観光交流戦略の3年度目(最終年度)となる今年度は、同戦略の目標である四国外から訪れる延べ宿泊者数1068万人泊(18年度)、四国に訪れる外国人延べ宿泊者数65万5千人泊(同)の達成に向け、各種取り組みを加速させる。

 国内誘客では、4―9月の半年間、「しあわせぐるり、しこくるり。」観光キャンペーンを展開するほか、JRグループや航空会社との連携を引き続き強化。西日本高速道路や四国4県などと連携し、四国内の高速道路が乗り降り自由な「四国まるごとドライブパス!2018」も6月11日から12月16日まで継続実施する。

 インバウンド戦略では、国土交通大臣の認定を受ける広域観光周遊ルート形成計画事業「スピリチュアルな島~四国遍路~」を柱と位置付け、国別にテーマを設定した事業を展開する。販売が好調に推移している「ALL SHIKOKU Rail Pass」を引き続きPRし、四国周遊旅行を促す。