〈旬刊旅行新聞6月11・21日合併号コラム〉―大分、熊本へ 梅雨時期の大自然に触れる九州の旅

2023年6月20日(火) 配信

 梅雨時の九州は緑が深く、自然がとても美しい。今回は大分、熊本を中心に旅をしようと、福岡県の北九州から、大分県中津市の耶馬渓に向かった。

 

 いたずら盛りの子供時代、紅葉時期の耶馬渓には何度も連れて来られたが、「楽しい」という印象はあまりない。それもそのはず、「耶馬渓の本当の魅力は大人にならなければ分からないものだ」と、再認識した。

 

 耶馬渓には特別なものがあるわけではない。むしろ、よくある観光地の「俗」な感じは希薄だ。禅海和尚が手彫りで掘った青の洞門は有名だが、さらにその奥に入り込んでいくと深耶馬渓に辿り着く。流れる水の透明感、ほどよい湿気を含んだ森林と岩肌。「九州の秘められた場所にいる」という気分になる。

 

 その先には、大分県・九重町の宝泉寺温泉が、ひっそりとある。まさに「隠れ世」と呼びたい世界が佇む。夜、この場所で緑色の流れる蛍の光を見たら、きっと闇に浮かぶ妖しい美に眩惑されるだろうと思った。

 

 

 その先を進むと、大分県・玖珠町の伐株山(きりかぶさん)が姿を現す。切り株のような、プリンのような形で、愛らしい。HONDAのバイク「カブ」に乗っている人たちの聖地となっている。伐株山の近くまで行くと、海抜685・5㍍の山頂まで車で行けることを示す小さな看板を発見。細い道を苦労しながら登って行った。頂上はなだらかな草原が広がり、牧歌的な雰囲気を醸し出していた。よく晴れた日で、青い空と眼下の田園風景や町並みが一望できた。

 

 

 やがて熊本県に入り、黒川温泉を目指した。私の実家と黒川温泉まで100㌔ほどしか離れていない。別府の方面からだと少し遠いイメージがあったが、「耶馬渓の方面から行くと近いな」と改めて感じた。

 

 黒川温泉街には、ほのかに硫黄の香りが漂う。黒川温泉といえば「入湯手形」だ。1300円(大人)を払うと、旅館27カ所の露天風呂の中から好きな3カ所の温泉を選んで入浴することができる。「どこにしようか」と迷ったが、「山の宿新明館」の洞窟風呂と、「ふもと旅館」を順に入った。身も心もほぐれると、急に空腹を覚えた。ふもと旅館の近くにあるカフェレストラン「わろく屋」で、あか牛のカレーライスを食べた。そして、残りの1つは少し離れた「山みず木」に決めた。

 

 個性あふれる3つの温泉を順に入り、美味しいあか牛も食べ、ソフトクリームとレモンスカッシュも補給し、大分県豊後大野市の「東洋のナイアガラ」と称される、原尻の滝を目指して再びエンジンをかけた。

 

 

 原尻の滝に向かう途中に、断崖絶壁の地に、天高く聳え立つ高石垣の岡城跡があったので、立ち寄った。少年時代を大分県竹田市で過ごした瀧廉太郎は、岡城をモデルにして名曲「荒城の月」を作曲したと言われている。入場料金300円を支払って、階段を一段ずつ踏みしめて登った。何せ、黒川温泉で3つの温泉に入った後なので、本丸跡まで登るのは結構きつかったが、登り切った瞬間の爽快感は格別であった。この荒城で、青白い月を眺めたらどんな気分だろうと、想像してみた。

 

 原尻の滝はスケールこそ小さいが、訪れる価値はアリだ。1人旅だったので、あちこちと気の向くままに立ち寄ることができ、楽しい九州での1日を過ごせた。

(編集長・増田 剛)

第1回JATA SDGsアワード、HISが大賞に カンボジアへのスタディツアー実施

2023年6月19日(月) 配信

日本旅行業協会はこのほど、第1回JATA SDGsアワードの各賞を決定した

 日本旅行業協会(JATA、髙橋広行会長)は6月15日(木)、第1回JATA SDGsアワードを発表した。大賞は、エイチ・アイ・エス(HIS、矢田素史社長)の「旅を通じて、カンボジアの子どもたちに学びの機会と楽しさを届ける」が選ばれた。応募件数は26社75件。このうち、大賞を含む39件を表彰した。

 HISでは、2017年にカンボジアへ公立小学校を建設したことから、NPO団体の活動に協力しながら、スタディツアーを造成した。

 個人旅行営業本部専門店エリアスタディツアーデスク所長代理の行廣彩夏氏は、「SDGsが日本で浸透しきっていないのは、『自分事』の意識が薄いため。自分のこととして考えるときに、旅はとても良いきっかけになる。旅先での経験が、お客様と現地の子供たち双方の『気付き』と『学び』になれば」と想いを語った。

 このほか、各部門の優秀賞には、JTBコミュニケーションデザインの「観光業界におけるCO2排出量削減を目指す『CO2ゼロMICE®』『CO2ゼロSTAY』」(経済・産業部門)、クラブツーリズムの「『YAMA LIFE CAMPUS』を通じた登山道整備プロジェクト」(地球環境部門)、楽天グループの「宿泊施設の取り組みを旅行者にわかりやすく紹介し、サステナブルな旅行を推進」(共創部門)が選出された。

 坂元隆委員長(JATA理事、読売旅行会長)は「SDGsは世界全体の共通の目的となってきている。SDGsアワードをジャンピングボードとして、取り組みが遅れている観光業界のなかでも積極的に推進していきたい」と目的を語った。

 また、「まずは既に取り組みを行っている大手の施策を表彰することで、JATA全体でSDGsへの理解を深め、表彰事例を参考に施策や商品の造成につなげてもらう」と話した。

 表彰式は7月13日を予定する。

「GIONプロジェクト2023」 伝統文化の維持・継承を持続可能に(京都市観光協会)

2023年6月19日(月) 配信

祇園祭プレミアム観覧席(イメージ)

 京都市観光協会はこのほど、京都の文化的、歴史的価値を国内外に広く発信し、観光による伝統文化の維持・継承を持続可能なものにするために、「GIONプロジェクト2023」を実施する。このPJでは、祇園祭が開催される7月を中心に、祇園祭や世界遺産の社寺に関わる高付加価値な体験を提供する。

 事業は「祇園高付加価値体験」「世界遺産社寺特別体験」「夜観光推進」の3つ。歴史や伝統文化、食、夜観光などをテーマとした企画を、おもに訪日外国人観光客に体験してもらい、京都の伝統文化の価値に対する理解を深める狙い。

 「祇園高付加価値体験」では、祇園祭プレミアム観覧席を設置する。畳や座椅子、座布団を使用した特別席を84席設置。日よけパラソルを備え、京都ならではの飲料やおばんざいを提供する。また、イヤホンガイドでの外国語による巡行の解説を聞くことができる。

 実施日は7月17日(月)。料金は1人1席40万円。

 また、「世界遺産社寺特別体験」では、教王護国寺(東寺)や賀茂御祖神社(下鴨神社)、西本願寺などで、歴史や伝統芸能に触れる特別体験を提供する。特別拝観や京料理を楽しむことができる。

 定員は20~30人。料金は1人当たり10~20万円。

 「夜観光推進」は世界遺産である賀茂別雷神社(上賀茂神社)で、「NAKED夕涼み2023 世界遺産・上賀茂神社」を行う。通常は夜間に立ち入ることができない境内で、ネイキッドによるライトアップで演出された境内を回遊できる。また、期間中毎日3回、特別に奉納される巫女舞を観賞できる。

 期間は7月7(金)~17日(月)。料金は1人当たり(小学生以上)2500円。

どらなびEXPO2023春、バス運転手を目指す 2会場で総数374人が来場

2023年6月19日(月) 配信

現役バス運転手によるトークセッションのようす(東京会場)

 バス運転手専門の就職イベント「どらなびEXPO2023春」が5月27日(土)に関西会場(大阪・梅田ハービスホール)、6月10日(土)に東京会場(東京・新宿エルタワー)で行われた。主催は、バス運転手専門の求人サイト「バスドライバーnavi(どらなび)」を運営するリッツMC(中嶋美恵社長、東京都港区)。バス運転手への就職・転職希望者が集まり、関西会場152人、東京会場222人の来場者総数374人が参加した。

 各会場では、多数の大手・優良バス会社が出展し、来場者は採用情報や勤務体系、転居支援などを直接聞ける場として活用された。当日は、人事担当者・現役バス運転手によるトークセッションや業界初心者向けの特別講座を行う特設ステージ、就職相談コーナーなども設置。今後のイベント運営のために来場者アンケートも行った。

出展したバス会社が来場者の質問や相談に対応した(東京会場)

 主催が調査した2会場の来場者アンケートによると、来場者のうち男性は349人、女性25人。年齢層は50代が137人と最も多く、次いで40代の94人、30代が52人、20代が50人と年齢問わず多くの来場者が参加した。

7月29日からひまわりまつり開催 広島・世羅高原農場

2023年6月19日(月) 配信

360度ひまわりに囲まれる体験を

 4つの観光農園を運営する世羅高原農場(吉宗誠也代表、広島県・世羅町)は7月29日(土)から、同農場(広島県世羅郡世羅町別迫1124-11)で、「ひまわりまつり」を開く。6万5千平方メートルの畑に約60品種のひまわりが咲き誇る。

8月は、同農場を埋め尽くすほど一面のひまわりが楽しめる。王道のひまわりから白ひまわり、1株から100輪もの花が咲く「サンフィニティ」など、珍しい品種も植栽している。

 園内には子供からカップル、夫婦など幅広い年代に合わせたフォトブースを多数設ける。人が畑の中に入らない、ゴールデンフォトタイムも設定。開催日はSNSなどで発信する。

 見ごろは8月上旬から8月中旬で、まつりの期間は8月20日(日)まで。営業時間は午前9時~午後6時まで。入園料は開花状況による変動制で、大人は700~1200円、子供(4歳~小学生)は300~600円。

7月23、24日に「客船フェスタ2023」を開催 神戸観光局

2023年6月19日(月) 配信

クルーズ客船に親しみを

 神戸観光局(兵庫県神戸市)は7月23(日)と24日(月)の2日間、ポートターミナルで外国客船の入港に合わせて「客船フェスタ2023」を開く。一般市民にクルーズ客船や港に親しみを持ってもらうのが狙い。両日とも午前11時~午後4時。

 今回のイベントは、各種PRブースや子供が参加できるワークショップなど、大人から子供まで幅広く楽しめる内容を企画。2日目は外国クルーズ客船「ダイヤモンド・プリンセス」と「パシフィック・ワールド」の2隻が入港を予定しており、間近で豪華客船を眺められる。

 なお、客船フェスタ関連イベントとして、市民に客船に親しんでもらうため「飛鳥Ⅱ」の市民船内見学会を8月27日(日)に実施する。客船フェスタでのイベントに参加すると応募できるという。

年間宿泊客130万人へ 下呂温泉観光協会が総会開く

2023年6月19日(月) 配信

あいさつする瀧康洋会長

 岐阜県下呂市の下呂温泉観光協会(瀧康洋会長、357 会員)は5月25日(木)、第77回通常総会を水明館で開き、市内への年間宿泊客数130万人とするスローガン達成に向け、今年度事業計画などを全会一致で可決した。

 議事では所定の議案を審議し、すべて可決承認した。昨年度の下呂温泉の宿泊客数は93万1432人(前年比59・9%増)。コロナ禍前(19年度)の9割まで回復するなか、今年度は下呂市内への宿泊客数130万人(うち下呂温泉で120万人)をスローガンに掲げている。これを実現するため①国の「先駆的DMO」として客観的データに基づいた地域マーケティングや地域マネジメントの強化②DX推進や着地型体験促進による消費の拡大――などに注力する。

 あいさつに立った瀧会長は、「先駆的DMOに選ばれるなか、新たなステージを目指す」としたうえで、エコツーリズムの理念をDMOにプラスした「E-DMO」など、これまでの取り組みを紹介。「世界一観光の力を生かして、発展している温泉地を創造する」と結んだ。

 総会終了後はランドスケープアンドパートナーシップの中西佳代子社長が、「地域資源を『面』で活かすまちづくり」と題して講演した。自身が10年来かかわってきた神奈川県湯河原温泉の事例に触れ、「家並みや文化など、その地域であることを証明する『アイデンティティ』が増えるとリピーターや移住者増につながる」と伝えた。

鴨川館、大人のラウンジ「風光」を新設 貴賓室もリニューアル

2023年6月19日(月) 配信

有料ラウンジ「風光」

 千葉県・鴨川温泉郷の鴨川館は今春、有料のテラスリビング「風光(かぜひかる)」を新設、貴賓室もフルリニューアルし、プレミアムなゲストルーム「特福室」が誕生した。

 テラスリビング「風光」は、宿を取り囲む松原と一体になれるテラスの開放感とリビングのような寛ぎ感が同居するエグゼクティブなラウンジ。素敵な時間をゆったり過ごすことを提案するため、小学生以下は利用できない。ここでセレクトしたクラフトビールや千葉の地酒、ワイン、コーヒー、紅茶、風光限定の「ベジブロススープ」などを優雅に味わう。利用料金は1人1泊ごとに3300円だが、現在オープン特別価格の2200円。

 特福室は最上階の8階の角部屋。部屋を囲む大きな窓からは太平洋の大海原の絶景が楽しめる。この景色は温泉半露天風呂からも堪能できる。大きな浴室には2人でゆったり入れるスチームサウナもある。また、幅2㍍のゆったりサイズの天蓋付きデイベッド屋」、大きなハンキングチェア、寝室のベッドはシモンズ製など寛ぎの時間を演出するアイテムがたくさん。

 特福室をはじめ全客室に備えられているのが、毎年ゴールデンウイーク前に改訂している着地型ガイドブック「ぶらっとBoSo」(A4判、オールカラー72ページ)。房総半島に点在する観光スポット、食事処、土産物店58事業者を、1事業者1ページを使用し数点の写真と文章で紹介、翌日の立ち寄り場所を決める参考になる、と宿泊客にも好評だという。

 なお、このガイドブックは房総地域にある69軒の宿泊施設の客室にも置かれている。

愛車で韓国をサイクリング 関釜フェリー、3年ぶりにツアー実施

2023年6月19日(月) 配信

過去のツアーのようす

 関釜フェリー(山口県下関市)は10月13日(金)~16日(月)に、恒例の「韓国サイクリングツアー」を実施する。旅行企画実施はグループ会社のヴィーナストラベル(佐々木正美社長、大阪府大阪市)。3年ぶりの開催で、今年が13回目となる。

 本州最西端の街下関港を発着する関釜フェリーを利用した韓国サイクリングツアーは、愛用の自転車を輪行ではなく原型のまま海外へ持ち出すことができるなど、国際定期旅客フェリーならではの新たな観光需要を創出する。韓国の地方都市を結ぶサイクリングロードを走るため、観光マップにも載っていない絶景・隠れスポットを訪れることができると人気のツアー。

 今回のコースは、雄大な洛東江の流れに沿って緩やかな下り基調のサイクリング後、釜谷温泉に滞在。夕食はサムギョプサルで韓国料理も堪能する。翌朝は、過去開催時に好評だった「釜谷温泉早朝サイクリング」を希望者のみで実施。朝霧の幻想的な風景のなか、自転車で走る体験ができる。

 現地では2日間で113キロを走破するが、コースの95%以上の区間が整備された自転車専用道路となっており、安全性が高く快適なサイクリングが楽しめるという。平均車速は時速20~24キロ、1日当たりの走行距離は約60キロに抑え、サポートカーも帯同するので荷物は持たずにサイクリングが可能だ。

 基本旅行代金は2~3人1室で1人5万6800円(自転車手荷物代や港湾税など別途7000円必要)。募集開始は6月20日(火)から。

 

「観光革命」地球規模の構造的変化(259) グローバルサウスの底力

2023年6月18日(日) 配信

 広島市で開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)が無事に終了した。第1回目の先進国サミットは米英仏独伊日の首脳が参加して1975年にフランスで開催され、その後にカナダが加わったG7サミットが毎年開催されてきた。

 G7諸国は長らく世界の国内総生産(GDP)の6割以上を占めてきたが、21世紀に入ってから比率が低下している。そのため99年からG20首脳サミットが開催されている。G7諸国のほかに、中国とロシア、インド、ブラジルなど新興国首脳の参加によるサミットだ。

 今回のG7サミットにはウクライナのゼレンスキー大統領が対面参加して各国首脳と面談し話題になった。一方で今回のサミットを通して、国際社会で重要性を増している「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国の底力を思い知らされることになった。今回はインドとブラジル、インドネシア、ベトナム、コモロ、クック諸島などのグローバルサウスの首脳が招待されていた。

 グローバルサウスの代表格インドは今年1月に「グローバルサウスの声サミット」をオンラインで開催し、125カ国が参加した。グローバルサウスの多くの国々は西側諸国の対ロシア経済制裁に参加しておらず、ロシアとも中国とも友好関係を維持している。米欧と中露のいずれの勢力にも肩入れをせずに、双方から譲歩を引き出すという、したたかなバランス外交を展開する国々が多い。

 今回のサミットに招待されたインドは日米豪印の連携枠組み「クアッド」に加わりながら、中露主導の「上海協力機構」のメンバーでもある。インドのモディ首相はゼレンスキー大統領と会談してウクライナの窮状に理解を示す一方で、ロシアから安価な原油を輸入し続けると共に武器輸入も行って友好関係を維持している。

 今年9月上旬にはG20首脳サミットがインドのニューデリーで開催され、G7や中国、ロシア、グルーバルサウスの首脳が一堂に会する。議長を務めるモディ首相の力の見せ所になる。

 世界はすでに「Gゼロ(世界の政治経済を主導する国家が存在しない状態)」が現実化しており、今後はグローバルサウスの国々の動きに注目する必要がある。近未来において国際観光の面でもグローバルサウスの国々の役割が重要になるだろう。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。