美瑛・鎌倉・京都の課題をヒアリング 観光庁が施策の3柱示す(第2回オーバーツーリズム対策会議)

2023年10月2日(月) 配信

観光庁はこのほど、第2回オーバーツーリズム対策会議を開いた

 観光庁は9月29日(金)、第2回「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する関係省庁対策会議」を開いた。対策会議では、北海道・美瑛町、神奈川県鎌倉市、京都府京都市を招き、地域関係者としてヒアリングを行った。このほか、観光庁から施策の柱立てを示したうえで、関係省庁が施策案について意見を述べた。

 美瑛町は、観光客が景観の美しいスポットで写真撮影をしようと集中してしまい混雑する問題や、農地・私有地への立ち入りが問題となっていると発表した。

 鎌倉市は江ノ電をはじめとする交通混雑が課題となっている。対策として、大型連休の前に住民証明書を発行し、混雑する期間中に証明書を示すことで住民が優先的に改札を通れるなどの取り組みを行っている。

 また、従来からの課題となっているアニメ作品「スラムダンク」のオープニングで有名な踏切で、同じ角度で写真を撮りたい人が集中し混雑する問題も挙げられた。

 京都市では、マナー・混雑・交通機関への集中などさまざまな課題がある。そこで、観光客向けに「京都モラル」として積極的にマナー啓発を行うほか、市民にも観光の良さと課題を周知する活動を行っている。

 観光庁は、①マナー違反行為の防止②混雑の抑制・緩和③地域住民と協働した観光振興──など施策の類型を示した。

 このなかで、混雑の抑制・緩和において、「受入環境の整備・増強」「需要の適切な管理」「需要の分散・平準化」と細分化した。

 具体例として、観光客集中地域でのゴミ箱設置促進や、観光客向け乗合タクシーなど新輸送サービスの検討、入域料の導入、混雑度やサービスレベルに応じた料金設定、特定エリアに入域する際にガイドを同伴することを義務化する、デジタルクーポンで空いている場所・時間帯へ誘導する──などを挙げた。

 これらを踏まえて、関係省庁から出された案をもとに検討を進める。10月中に具体的な対策を示すことを目指している。

ガイド人材不足解決へ 第1回「ガイド人材の活性化に係る検討会」開く

2023年10月2日(月) 配信

検討会のようす

 観光庁は9月29日(金)、第1回「ガイド人材の活性化に係る検討会(仮称)」を開いた。インバウンドが復活し、回復する訪日外国人旅行者に対して、ガイド人材の不足などの課題が顕在化した。有識者を含めた検討会を実施し、ガイド人材の活性化や通訳案内士試験制度などについて議論を行う。

 委員長には明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部ホスピタリティ・ツーリズム学科教授の上杉恵美氏が選任された。

上杉恵美委員長

 上杉氏は冒頭あいさつで、「急激に回復しているインバウンドに対応するべく、コロナ前からの課題やコロナ禍で見つかった課題、また、この検討会のテーマでもある人材不足について、いち早く対応しなければならない。本検討会がこの道筋の第一歩となるよう、皆様にご協力いただきながら進めていく」と意気込みを話した。

 観光庁国際観光部長の星野光明氏は、「インバウンドが回復する一方で、現場の声を聞くとガイド不足が課題となっている。持続可能な観光やアクティビティなど、注目が集まるコンテンツを楽しむには、やはり言葉が分からなければ理解が深まらない。こういった視点でも、ガイド人材は不可欠だ」とし、「通訳案内士・ボランティアも含めて、ガイド人材について幅広い議論を行う。インバウンドで日本に来られる人に満足していただけるようなカタチを目指す」と述べた。

 第2回は11月下旬ごろに開く予定。

 検討会の委員は次の各氏。

上杉恵美(明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部ホスピタリティ・ツーリズム学科教授)

山田桂一郎(JTIC SWISS代表)

高島美江(早稲田大学日本語教育センター講師、東洋大学国際観光学部国際観光学科非常勤講師)

伊藤淳子(日本観光通訳協会会長)

松本美江(全日本通訳案内士連盟理事長)

ランデル洋子(通訳ガイド・コミュニケーションスキル研究会理事長)

米原亮三(日本文化体験交流塾理事長)

山田和夫(日本旅行業協会訪日旅行推進部部長)

齊藤利治(JTBグローバルマーケティング&トラベル仕入商品企画部オペレーション一課課長)

中山理映子(日本政府観光局理事)

阿久澤達也(東京都産業労働局観光部地域振興担当課長)

小池修司(畑法律事務所所属弁護士)

廣岡伸雄(日本観光振興協会調査研究部門国際業務部長兼観光地域づくり・人材育成部門観光地域マネジメント部長)

水谷浩(中国語通訳案内士協会副会長理事)

HIS、全国なまずサミット開催 吉川市の業務委託で世界へ魅力発信

2023年10月2日(月) 配信

今回は初めて海外からのオンライン中継を行う

 エイチ・アイ・エス(HIS、矢田素史社長)は10月15日(日)、埼玉県吉川市の市民交流センターおあしすで、「全国なまずサミット2023 inよしかわ」を開く。同市からの業務委託を受け、産品「なまず」の魅力を世界へ発信する。

 吉川市は、川に挟まれた地形となっていることから、「なまず」料理が盛んな地域。子供が用水路や小川でなまず捕りをして遊ぶなど、普段の生活となまずが密接している。

 「なまずサミット」は2017年にスタート。今回は初めて海外からオンライン中継を行う。現地のレストランからのリポートのほか、日本食にも造詣が深いシェフがタイのなまず料理の紹介や食レポ、タイにおける捕まえ方、日本との文化的な違いなどを紹介する。

 さらに、さいたま水族館の協力で生きたなまずの展示や、水族館職員による講義、同サミット用に特別にアレンジした世界のなまずグルメを販売する。

川崎キングスカイフロント東急REIホテルで、吉田栄作さんの俳優デビュー35周年記念ミニライブ開く

2023年10月2日(月) 配信

吉田栄作さんミニライブのようす

 川崎キングスカイフロント東急REIホテル(岡部久子総支配人、神奈川県川崎市)は10月1日(日)、俳優・歌手の吉田栄作さんの俳優デビュー35周年と、同ホテルの開業5周年を記念したコラボイベントとして、ミニライブを行った。

 館内1階のカフェ「The WAREHOUSE BUSINESS LOUNGE&CAFE」を会場に、午後1時からと3時からの2公演を実施。爽やかな秋の午後のひとときを、アコースティックギターとともに、吉田さんの歌声を楽しんだ。

 酒とコーヒーが好きな吉田さんが考案したオリジナルカクテルとコーヒーも当日限定で販売したほか、ライブ後にはチェキ会(写真撮影会)やCDの即売会も実施した。

 同ホテルの岡部総支配人は「1階カフェのスペースを活用して沖縄のエイサー公演を実施したことはあったが、今回のミニライブで、もっと色々なイベントがやれる手ごたえを感じた」と話し、「今後もアイデアをかたちにしながら当ホテルの認知度を上げていきたい」と語る。

 同ホテルは羽田空港にも近く、5階のレストランや客室からも飛行機や空港を眺めることができる。また、目に前には多摩川の遊歩道、隣接地には公園もあり、ライフスタイル型のホテルとしてのポテンシャルが高いのも特徴だ。

NAA、2020年1月以来の300万人超え 韓国や台湾などアジア圏好調で

2023年10月2日(月) 配信

田村明比古社長

 成田国際空港(NAA、田村明比古社長)が9月28日(木)に発表した2023年3月の総旅客数は前年同月比91%増の321万1175人と20年1月以来、300万人を超えた。韓国や台湾、香港などアジア圏からの外国人旅客数が好調だったことが主な要因。

 国際線の国際線の外国人旅客数は同519%増の139万8104人。コロナ禍前の19年同月比では同5%減。日本人旅客数は前年同月比126%増の77万99人。

 国内線旅客数は同9%増の79万7096人と過去最高となった。コロナ禍前の19年同月比で2%増だった。

 総発着回数は前年同月比%24増の1万8854回。国際線旅客便は同78%増の1万1389回。国内線は同7%減4870回だった。

 田村社長は、外国人旅客数がコロナ禍前の19年同月比で同5%減となる一方で、発着回数は同24%減となっていることから、「各便の搭乗率が高くなっている。このため、予約が取りづらく、運賃も高額になっている」と指摘。「円安などの影響も受けて、海外旅行費用が高額になっており、国内が注目されている」との考えを示した。

韓国19年比34%増 「処理水の影響ない」

 9月1(金)~23日(土)までの国際線出国旅客数は前年同期比257%増の70万3500人。

 このうち、韓国線は同497%増の13万7900人。19年同期比では34%増。台湾線は前年同期比2892%増の7万5300人。19年同期比では14%減だった。

 田村社長はALPS処理水の海洋放出について触れ、「(中国からの渡航者数は)現在、大きな影響を受けていない。今後も大幅に減少しないだろう」とした。

JTB、「鬼滅の刃 湯めぐりの旅」 湯河原・伊香保で開催

2023年10月2日(月) 配信

「鬼滅の刃 湯めぐりの旅」キービジュアル

 JTB(山北栄二郎社長)はこのほど、「テレビアニメ『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編」が全国の温泉街とコラボレーションする体験型イベント「鬼滅の刃 湯めぐりの旅」の開催を決めた。11月11日(土)~2024年2月12日(月・祝)まで、神奈川県・湯河原温泉、群馬県・伊香保温泉の2カ所で同時開催。旅行を楽しみながら、アニメ「鬼滅の刃」の世界観に没入できるコンテンツを幅広く展開する。

 イベントでは、スタンプを集めると温泉に入れる「入湯手形」や、現実世界に仮想世界の音が混ざり合う新感覚の音響体験を楽しめるアプリ「Locatone(ロケトーン)」を使用。物語を楽しめる音声スポットやフォトスポットを巡ることで、温泉街にアニメ「鬼滅の刃」の世界が広がる湯巡りを楽しめる。

 さらに、街中の装飾や、地元飲食店とのコラボメニュー、宿泊施設での特別プラン、特別なクラフト体験、オリジナルグッズストアなど、多種多様なコンテンツを温泉街全体で展開する。このほかの詳細については、「鬼滅の刃 湯めぐりの旅」公式サイトなどで順次発信していくという。

 なお、同イベントは、今後も国内の温泉街で開催する予定としている。

全国大会が終了へ フィナーレと感謝の会開く 地域伝統芸能活用センター

2023年10月2日(月) 配信

名誉総裁の高円宮妃久子殿下

 地域伝統芸能活用センター(中村徹会長)は9月9日(土)、東京プリンスホテルで、地域伝統芸能全国大会のフィナーレと感謝の会を高円宮妃久子殿下ご臨席のもとで開いた。

 同センターは、地域伝統芸能を活用した観光および地域商工業の振興をはかる目的で、30年にわたり「地域伝統芸能全国大会」と「顕彰事業」を実施してきたが、今年度で終了する。中村会長は、「全国大会が地域の発展に貢献したと自負している」とし、両事業への理解と協力に感謝を表した。

 名誉総裁でもある高円宮妃殿下は「1993年に石川大会が開催されて以来、途中コロナ感染症などで中止が余儀なくされましたが、毎回参加し各地域の芸能を楽しく拝見し、幸せを感じました。これからも、多くの人々に伝統文化が受け継がれていくことを願っております」と語った。

 来賓として、髙橋一郎観光庁長官と森田健太郎経済産業省商務サービス政策統括調整官が出席し、祝辞を述べた。

 これまでの功績に対し三隅治雄氏(元日本伝統工芸センター顕彰事業選考委員長)と星野紘氏(同)に中村徹会長から感謝状が、高円宮妃殿下より記念メダルが授与された。また、中村会長と棚橋祐治副会長に高円宮妃殿下から記念メダルが授与された。

 式典に先立ち、過去に受章した「銚子はね太鼓」(銚子はね太鼓保存会)、「鶴見の田祭り」(鶴見田祭り保存会)、鷺流狂言清水(山口鷺流狂言保存会)、「香川良子の篠笛演奏と寿獅子舞・香川社中」(香川良子と香川社中)、「奄美の島唄」(川畑さおり)、「阿波おどり」(東京高円寺阿波おどり振興協会)が記念公演を行い、フィナーレに彩りを添えた。

クラブツーリズム、Xアカウント開設 米沢牛が当たるCPも

2023年10月2日(月) 配信

応募期間は10月1日(日)~31日(火)まで

 クラブツーリズム(酒井博社長、東京都江東区)は10月1日(日)~31日(火)まで、X(旧ツイッター)公式アカウントの開設を記念したプレゼントキャンペーンを行っている。20~40代に広く利用されているX公式アカウントの開設により、サービスの認知向上を目指す。

 CP期間中、クラブツーリズムX公式アカウント(@ct_official_jp)をフォローし、CP投稿をリポストした人から抽選で21人に賞品が当たる。賞品は、A賞の「米沢牛焼肉360㌘食べ比べセット」が1人、B賞の「クラブツーリズムの旅行予約に使えるWebクーポン1万円分」が20人。抽選結果は、当選者にのみ11月15日(水)までにDMで連絡が送られる。

 詳細はクラブツーリズムのWebサイトから。

【特集No.644】「北前船寄港地フォーラム」in岡山に向けて 新時代の地域間交流・連携探る

2023年10月2日(月) 配信

 江戸、明治期に日本の交易を担った「北前船」の歴史を紐解き、新しい地域間連携のあり方を探ろうと「北前船交流拡大機構」(濵田健一郎理事長)は今年10月5―6日、岡山県岡山市で「第33回北前船寄港地フォーラム」を開催する。開催地を代表して岡山市長の大森雅夫氏、同フォーラム実行委員会会長の松田久氏(岡山商工会議所会頭)、秋田県大館市長の福原淳嗣氏が国内外の地域間交流の拡大などを語り合った。司会は内閣府地域活性化伝道師で地域連携、インバウンド戦略などが専門の跡見学園女子大学准教授の篠原靖氏が務めた。

【増田 剛】

 ――10月5―6日に、岡山市など5市で「第33回北前船寄港地フォーラム」が開催されます。

 大森:北前船は江戸時代から明治20―30年代まで、北海道、東北、北陸、瀬戸内、関西、九州などの地域を重要な物流ネットワークとして立派な経済圏を作っていました。こうして栄えてきた各寄港地を「点」から「面」に、そして、“回廊”としてつなげていこうという「コリドール構想」が、北前船交流拡大機構の根底にあります。
 第1回北前船寄港地フォーラムは2007年11月に山形県酒田市で開かれ、今回で33回目を迎えます。実は20回目となる17年7月に、岡山市は瀬戸内市、倉敷市、玉野市とともに同フォーラムを開催しています。
 そのときのノウハウを生かしながら、国内外を含めた「地域間交流の拡大につながる場」にしたいと考えています。
 テーマは「北前船と吉備の穴海~海と川が織りなした文化・産業~晴れの国・岡山から世界へ」。日本全国、海外からも計700人規模の参加者を予定しています。
 近年は広く活動が評価され、2年前に地域連携研究所が発足しました。寄港地ではない各自治体にも入会を呼び掛けており、北前船寄港地フォーラムと併催というかたちで、第4回地域連携研究所大会も開かれます。岡山市としても、当地で開催できることは名誉なことでありますし、大変意義深いイベントだと感じています。

 ――実行委員会会長を務められる、岡山商工会議所の松田会頭はどのように捉えていますか。

 松田:今回のフォーラムの大きな特徴は、岡山市をはじめ、瀬戸内海に面する倉敷市、玉野市、備前市、瀬戸内市の5市が初の試みとなる「分散型」で分科会を実施することです。
 それぞれの異なる文化や産業を紹介しながら、全国から参加される方々との交流と比較文化を通じて、各地域での観光振興のヒントを得ていただきたいと考えています。
 18年5月の中国・大連に続き、昨年10月には、フランス・パリで「日本の食文化を世界に」をテーマにフォーラムを開き、国際的なアピールに向けて大きく前進しました。
 この成果をさらに高めていこうと、岡山大会ではEU(欧州連合)諸国の大使など約20人の外交官を招待しています。東京だけではなく日本各地の独特の文化を広く知っていただく絶好の機会と捉え、国際的な文化交流を推進していきたいと準備を進めています。

 ――2年前に地域連携研究所が発足し、自治体会員制度の共同会長に大館市の福原市長と岡山市の大森市長が務められています。会員数はどのくらいですか。

 福原:現在40を超える勢いです。自分たちの文化、風土を愛している全国各地の自治体にはぜひ入会していただければと思っています。
 1年半前の22年3月に、秋田市で開催したフォーラムで、地域連携研究所の発足式がありました。そのときに、岡山商工会議所の松田会頭が岡山県・矢掛町の「まちごとホテル」について講演されました。素晴らしい取り組みだと感銘を受け、我が大館市のまちづくりにも「まちごとホテル」の考え方が組み入れられました。こういった出会いやご縁は、北前船寄港地フォーラムがなければできなったことです。

 ――福原市長はパリでのフォーラムにも参加されました。パリでの印象は。

 福原:驚いたのは、パリも舟運でできたまちで、市庁舎もドックの場所に建てられているなど大変勉強になりました。
 「秋田犬と一緒に世界自然遺産白神山地を歩きたい」「北海道北東北の縄文遺跡群を歩いて周遊したい」など現地の生の声を聞くことができたのは大きな収穫でした。また、比内地鶏で作った鶏めしをパリで販売したところ大変好評で、「コース料理で食べたい」という感想も新鮮でした。大館曲げわっぱも「10万円、30万円で欲しい」など、自分たちの何気ない伝統文化や食文化も、フランス人にとってはとても価値を感じていただいていることに、誇りと確かな手ごたえを感じる機会になりました。

 ――北前船交流拡大機構の大きな特徴はJAL、ANA、JRなど大手の輸送機関や民間企業も数多く加盟されていることです。

 大森:大都市部から……

【全文は、本紙1916号または10月5日(木)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】

ホンダが電動推進船の実証実験 島根県松江市の堀川遊覧船と連携

2023年10月2日(月) 配信

電動推進機プロトタイプを搭載した遊覧船

 本田技研工業(三部敏宏社長、東京都港区、以下ホンダ)は、開発を進める小型船舶用の電動推進機プロトタイプ(試作品)を用いた実証実験を島根県松江市で行っている。松江城の堀で堀川遊覧船を運航する同市観光振興公社と連携し、実際の船に取り付けた周回運航を今夏から行い、商品化に向け改良を重ねている。

 ホンダは2050年にすべての製品と企業活動を通じてカーボンニュートラルを目指すという高い目標を掲げ、二輪や四輪のモビリティにとどまらず、水上でのカーボンニュートラルにも挑戦している。

 2021年11月に電動推進機のコンセプトモデルを発表した際、松江市が「堀川遊覧船で使えないか」と手をあげたところ、ホンダ側が反応し今回の実証実験に至った。同市も環境省の脱炭素先行地域に選定され、「カーボンニュートラル観光」を掲げることから、双方の環境への思いは一致している。

 堀川遊覧船は1週約3・7㌔を約50分かけてめぐる。国宝に指定される松江城の天守閣や武家屋敷が並ぶ町並みの風情が味わえる人気観光メニューだ。本紙主催の「プロが選ぶ水上観光船30選」では創設した2018年から6年連続でトップ10入りを果たしている。

 1997年の開業から船外機はホンダ製ガソリンエンジンを採用し、現在保有する42隻もほぼすべて同社の機種を導入している。

 実証実験で使用する電動推進機プロトタイプは、ホンダとトーハツ(日向勇美社長、東京都板橋区)が共同開発した。低騒音・低振動、二酸化炭素排出ゼロ、余裕ある動力性能などが特徴で、バッテリー交換も容易という。仮に堀川遊覧船の全船を電動化した場合、現在のCO2年間総排出量47㌧がゼロになる計算だ。

 報道陣や行政関係者を対象にした試乗会は7月下旬から始め、これまで計9回開いた。10月22日(日)、29日(日)には関係者以外に初めて門戸を広げ、松江市民を対象にした無料試乗会を開く予定だ。

 電動推進機は船体を改修せずに搭載可能だが、使い勝手をよくするために一部改修を施した。最大の特徴は静粛性だ。ガソリンエンジンでは聞こえづらかった川面の波立つ音や虫の鳴き声など、自然の音がクリアに聞こえる。船頭さんは通常、マイクとスピーカーでガイドを行うが、生声でも可能なほど。試乗会ではこれまで見られなかった乗船客と船頭さんの会話やコミュニケーションが活発に行われたという。

 バッテリーは脱着容易なモバイルパワーパックを2本搭載し、満充電の場合、2周は余裕を持って遊覧できるという。ただし、バッテリー1本の重量は約10㌔。脱着自体は容易だが、シニア層が多い船頭さんが船から陸の整備室に引き上げる作業に負荷がかからないようにするのが課題だ。

 堀川遊覧船の担当者は「ホンダさんが製品化したあと実際の運用に向け協議することは多い」としたうえで、「静粛性を生かし、貸切船として会合などで利用してもらったり、『読書船』として運航したりと、これまでにない付加価値が提供できる可能性がある」と話す。