「日本博」 公式SNSを開設

2020年1月6日(月)配信

 日本が誇る様々な文化を多数のプログラムを通じて体系的に紹介するプロジェクト「日本博」の公式SNSがこのほど開設された。

 2019年から文化庁および日本芸術文化振興会が中心となり、総合テーマ「日本人と自然」の下、日本が誇る様々な文化、「日本の美」を体現する美術展・舞台芸術公演・文化芸術祭などを展開している。

 昨年12月25日(水)に、公式のTwitter、Facebookアカウントを開設した。今後、同アカウントで、「日本博」に登録している事業の開催情報に加え、その制作過程など、各事業に関する情報を随時発信していく。

アカウント情報

「日本博」公式Twitterアカウント

 アカウント名:Japan Cultural Expo|日本博
 ユーザーネーム:@JPNCulturalExpo
 

「日本博」公式Facebookアカウント

 アカウント名:Japan Cultural Expo|日本博
 ユーザーネーム:@JapanCulturalExpo
 

日本博とは

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機に、総合テーマ「日本人と自然」の下、日本全国で日本の文化芸術に流れる「日本の美」を国内外へ発信し、次世代に伝えることで更なる未来の創生を目指す文化芸術の祭典だ。文化庁と日本芸術文化振興会を中心に、関係府省庁や文化施設、地方自治体、民間団体などが連携し、取り組んでいる。

 基本コンセプト

 縄文時代から現代まで1万年以上もの間、私たちは大自然の多様性を尊重し、生きとし生けるもの全てに命が宿ると考えてきた。そして、それらを畏敬する「心」を文化芸術や日々の暮らしで表現してきた。

 縄文土器をはじめ、仏像のような彫刻、浮世絵や屏風といった絵画、漆器などの工芸、着物などの染織、能や歌舞伎で知られる伝統芸能、文芸、漫画・アニメなど含む様々な芸術分野も、この国の風土や日本人の自然観が反映されている。

 また、衣食住をはじめとする暮らし・生活様式等においても、人が自然に対して共鳴、共感する「心」を具現化し、その「美意識」を大切にしてきた。

 日本博は、「日本人と自然」という総合テーマのもと「美術・文化財」、「舞台芸術」、「メディア芸術」、「生活文化・文芸・音楽」、「食文化・自然」、「デザイン・ファッション」、「共生社会・多文化共生」、「被災地復興」という8つの分野にわたる「日本の美」を国内外へ発信し、次世代に伝えることで更なる未来の創生を目指す。

日本博 Japan Cultural Expo|縄文から現代まで続く「日本の美」
https://www.ntj.jac.go.jp/nihonhaku/
東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を契機に、政府、地方自治体、民間企業・団体等が連携して、「日本の美」を体現する美術展・舞台芸術公演・文化芸術祭等を、「日本人と自然」という総合テーマの下、四季折々・年間を通じて全国で展開します。

 

「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(108)お客様に覚えてもらいたいからまずは自分から「選んでもらったお礼の想い」

2019年1月5日(日) 配信

「分かってくれる人がいる」(画像はイメージ)

 冷たい雨の降る日、東京駅のタクシー乗り場は長蛇の列でした。待ち合わせの時間を気にしながら、最後尾に並びましたが、一向に列は動きません。そこで、携帯電話のアプリからタクシー配車を依頼しましたが、到着したタクシーを見つけられませんでした。

 東京ステーションホテルの入り口前と配車場所を記入して、再度配車をお願いしました。東京駅に到着してから40分後、ようやく目的のホテルに到着しました。ホテルに着くとスタッフが出迎え、タクシーからフロントまで案内しながら「雨の中ありがとうございます」「タクシーはつかまりましたか」と案じてくれました。

 「分かってくれる人がいる」。その言葉がどれほどうれしかったか。ホテルに限らずレストランや旅行会社の店舗でも、お迎えの言葉をかけられる機会は多くあります。しかし、その機会を十分に活かせていないところが多いように思います。

 研修などで身に付けた接客力を披露するのが、サービス業の仕事ではありません。「ここに来てよかった」と、思ってもらえるような仕事が大切なのです。空調の効いた室内で仕事をしていると、お客様の心理を理解するのが難しくなります。

 来店されるお客様は、たまたまの来店かもしれません。しかし、間違いなく同業他社ではなく、自社を選んでいただいたのですから、最幸のサービスを実行するのは当たり前です。もし足りないものがあるならば、選んでもらったお客様へのお礼の想いです。

 タクシーの降車時に出迎えたホテルスタッフの言葉に、その想いが感じられます。雨の日はタクシーを捕まえることが難しいということを分かっているから、「そんな中を来ていただいた」ということへの感謝の想いです。

 チェックインを済ますと、スタッフが声をかけ「西川様、明日の朝にも雨は残ると思いますが、タクシーは利用されますか」と、翌日の心配までしてくれました。

 さらに翌朝にも、チェックアウトをする私に気づいて前日のスタッフが駆け寄り「西川様、おはようございます。昨夜はゆっくりとお休みいただけましたか」「今の時間なら、タクシーがたくさん待機していますので、ご安心ください」と気遣ってくれました。

 チェックアウト後に私の名前を呼んだのは、前日のフロントでの会話を聞いていたのだと思います。翌朝まで覚えていたことに感動しました。

 聞いてみると「お客様に私を覚えていただきたい。そのためにはまず私からお名前を覚えるようにしています。翌朝、お会いできないことも多いですが、お顔を見つけると思わず駆け寄ってしまいます」。こんなスタッフに迎えられたら、ファンになってしまいます。

コラムニスト紹介

西川丈次氏

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。

「街のデッサン(225)」遠きにありて思うもの 行けなかった旅も、また“うら楽しい”

2020年1月4日(土) 配信

ヴァンドーム広場の静寂な飾りが懐かしい

 大学の勤めをリタイアしてから、時間の束縛から解放された。教師稼業は個人経営の小商いだから、会社勤めからすればかなり自在で、それでも週の何日間かは大学に出て授業やゼミ、教授会をクリアしなければならない。研究室や家に居ても、専門分野の研究・発表を義務付けられ、試験の採点など雑務も多い。私などは四六時中、頭の中で思念しているから、考え方によっては24時間束縛されているともいえる。

 しかし、どこに居ても思念は可能で空間的制約は少ない。私が大学人を選んだのは、そんな理由で旅やフィールドワークが気軽だったことだ。それも大学を退任すれば本当に自由人だ。

 自由人とは、私にとって自在な旅人になることだ。そうなってみて最初に考えたことは、フレンチセオリーと呼ばれる近代哲学の揺籃の地であるパリで、気ままな暮らしをすることであった。深く影響を受けたベンヤミンの都市研究のコアとなったパッサージュが今も20カ所ほど残り、毎年何週間はどこか小さなアパルトマンに錨を下ろす。それは観光旅行を超えて、いわば「閑恒旅行」とでも。

 すなわち、ただただ暇を持て余すように近所のカフェで時間を潰し、セーヌの河岸や近隣公園を散歩する。週の決められた曜日に開かれる路上のマルシェで買い物し、持ってきた本を読み、時に駄文をしたためるという暮らしである。要するに、パリに滞在しているからといって、東京の暮らしとさほど変わらない時間を過ごすことが楽しいのだ。

 今年(令和元年)も12月初旬から2週間、エッフェル塔の近くに小さなアパルトマンを借りて、暮れのひと時を過ごすことにしていた。ところが、夏から秋にかけて少々仕事が立て込み体調を壊してしまった。齢も齢だから、直行便でも10時間を超える旅は身体にきつい。妻の調子もいまいちということで、残念にも回復を待つことにした。

 丁度パリでは、12月5日から近年に無かった規模で、年金改革へのストが始まった。報道では、スト参加者が全国で80万人に膨らみ、前年の「黄色いベスト」運動の20万人を上回った。パリでは地下鉄もバスもほとんど運休、シャンゼリゼのカフェでは観光客の姿はない、としている。マクロン政府はこの制度改革は今しかないと強気で、しばらくは止む気配はない。

 妻とは「行かなくてよかった」と話してはいるが、ヴァンドーム広場のクリスマスの飾り付けや街の暮れに向かう影絵模様が懐かしく、室生犀星の「遠きにありて」の一節を朗読したりしているのだ。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

「味のある街」「ドルフィンソーダ」――ドルフィン(神奈川県横浜市)

2020年1月3日(金) 配信

ドルフィンの「ドルフィンソーダ」800円▽神奈川県横浜市中区根岸旭台16-1▽☎045(681)5796。
 先日、久しぶりに坂の途中にある横浜山手のドルフィンを訪ねた。「坂を上ってきょうも ひとり来てしまった山手のドルフィンは 静かなレストラン、晴れた午後には 遠く三浦岬もみえる」でお馴染みの、ゆかりのレストランだ。荒井由実のセカンドアルバム「ミスリム」(1974年)に収録の「海を見ていた午後」の一節である。
 
 「あの日に帰りたい」と願いつつ、この店を訪ねるユーミン(松任谷由美)ファンの聖地としても人気がある。当時はなかったテラス席が高台に増設され潮風を感じながら「海のある風景」を眺められるという最高のシチュエーションを体感できる。大学時代には週末のたびに車を走らせ、ユーミンの世界をたどったものだ。あれからどれだけの月日が流れただろうか。
 
 店のドアを押して中に入ると大きなガラス張りの海側には、かつてはなかったマンションが建っていて、窓一面に見える風景は変わっていた。
 
 NHK文化センター川越教室主催の「横浜山手の世界のXmas~テニス発祥記念館から山手西洋館めぐりとクラシカルな洋館馬車道十番館のお食事」という講座を企画し、講師として皆さんと横浜を満喫した帰りに、JR根岸駅を降り、坂を上ってたどり着いたというわけだ。
 
 夕方4時を少し回り、日が傾きかけていた。テラス席に出て暮れかかる景色をしばらく眺めていると30分ほどで日の入りの時刻を迎えた。その瞬間、オレンジ色に光る波の束と紫色に輝く貨物船が、滲むように見えた。「わぁ貨物船だ~」と。
 
 あれから45年が経つというのに今でも「ソーダ水の中を 貨物船がとおる」という歌詞の通り、行き交う船のようすがグラス越しに見えた。うれしくてユーミンの歌を口ずさみたくなった。
 
 小さな泡が口の中でシュワッシュワッとはじけては消え、消えては弾けていくのが分かる。その感触と海と眼下に広がる街の灯りをしばらく静かに眺めることに。
 
 店を出ると、すでにドルフィンの赤いネオンが、街を照らしはじめていた。
(トラベルキャスター)
 
 

コラムニスト紹介

津田 令子 氏

 社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。

「観光革命」地球規模の構造的変化(218)東京五輪と日本観光

2019年1月2日(木配信

観光産業は「フラジャイル(脆い、虚弱)」な産業(画像はイメージ)

 年末年始にはいつも過ぎ去った1年間を振り返ると共に、迎える年が良い年になることを願いながら、日本観光のことをさまざまに思い巡らしている。

 「米国ファースト」をスローガンにしているトランプ大統領が登場してから「自国第一主義」と「ポピュリズム(大衆迎合主義)」の台頭による衆愚政治が世界的に拡大している。トランプ大統領が引き起こした米中冷戦は世界経済に大きな影響を与えており、11月の米国大統領選挙が注目される。習近平国家主席は「一帯一路」構想に基づき覇権大国の確立を目指しているが、香港の民主化運動の行方や1月の台湾総統選挙の結果への対応も注目されている。

 韓国では文在寅大統領による反日政策によって日韓関係が最悪になっており、3月に実施される総選挙の結果が注目されている。北朝鮮も世界の批判を浴びながら、核ミサイル開発を推進しており、日本の安全保障を脅かし続けている。安倍晋三首相は憲政史上最長の首相在位を誇っているが、長期政権の驕りと弛緩によって、日本が抱えるさまざまな国家的課題に的確かつ十全に対応できない危うい国家運営を繰り返している。

 世界的に諸々の不安定要因があるなかで、今年7月24日に東京五輪が開会される。日本政府は東京オリパラを契機にして「2020年インバウンド4千万人と訪日外国人旅行消費額8兆円」という数値目標を掲げている。しかしこの数年にわたって6―9月に記録的猛暑や集中豪雨や洪水などが頻発しており、大きな被害が生じている。そのため東京オリパラ期間中に異常気象が発生しないことを祈っているが、どうなるだろうか?

 世界気象機関(WMO)は、日本を襲った記録的豪雨や猛暑などの異常気象が温暖化に伴う気候変動の影響でより極端になった可能性に言及し、気候変動の加速で強烈な異常気象の発生頻度がさらに増えると警告している。観光産業は「フラジャイル(脆い、虚弱)」な産業であり、異常気象だけでなく、地震、戦争、テロ、流行病、政治的混乱、経済的不況などの諸々の変化の影響を受け易い産業であり、不測の事態に対して的確に即応することが不可欠だ。諸々の不確定要素があるが、今年が日本観光にとって「飛躍の年」になることを願っている。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

「トラベルスクエア」上級志向より上質志向

2020年1月1日(水) 配信

上級志向より上質志向で(写真はイメージ)

 年末近くになって、菅官房長官が熊本で語った「日本にあと50軒くらいは超高級ホテルを」という発言は、さすがに我が業界でも不協和音を巻き起こした。

 
 たしかに、スーパーラグジャリーな富裕層は世界中にいるし、もともと日本にはそれを十分受け入れられる高級ホテルの数が少なすぎる、という外国人の観光立国論に影響されての発言かとも思われるが、高い固定資産税を払い、人手不足に悩まされ、毎日の集客に汗水たらしながら何とか観光客の皆さんに喜んでもらおうという努力を続けている経営者にはまったくもってのがっかり発言だ。そんな高級ホテル誘致する余裕があるなら、一所懸命やってきた私たちを守って、というのはすこぶる自然なことだ。

 
 お金持ちをいっぱい呼んでお金を使ってもらおうなんて、日本はいつからそんなさもしい感じの国になってしまったのだろう。カジノのことだって、「お金を落としてもらうためには」なんて失礼極まりない。お金は落としたものを拾い上げるものではなく、きちんとした商品(有形、無形の)を提供して、胸を張っていただくものだ。
 
 2019年の裏版流行語大賞は「上級国民」だろう。春に池袋で起きた熟年ドライバーが引き起こした死亡交通事故をめぐって、加害者が元官僚トップのエリートで「上級国民」だから氏名も公開されず、逮捕もされない特権があると噂されてしまった。そして、文部科学大臣の英語入試をめぐっての「身の丈」発言。何を考えているのだろう。今の政治はこんなにも「上級」がお好きなのだろうか。
 
 「上級」を作るのは簡単なことだ。上級の概念を満たす定義を考えるより、中級、下級を作ってしまい、上から目線で語りかけてれば、いつしか上級が自動的に作られてしまう。「桜を見る会」が危険なのも、この会が当初の親睦の意味を離れ、会に招かれることが下級・中級ではない証明だと利用されてしまうことなのだと思う。事実、そういう「上級」幻想を悪用しようという曲がった根性の商売人も出てくる。
 
 いま、真剣に考えなければいけないのは、「上級国民・下級国民」の別ではなく「上質国民」たろうとする誇りと矜恃ではないだろうか?
 
 上級と上質は違う。お金などなくても上質になれる。お宿だって上級顧客狙いなんてマーケティング策にのってしまうと、鼻持ちならない金ぴか趣味のものになるよ、と警告しておきたい。
 
 そんなことより、普通の市民が、あ~、これは居心地がいいな、楽しいな、いつもとは異なる質の時間が流れているな、と実感できるような旅館やホテルを作り上げてもらいたい。上級志向より上質志向。これを合言葉にしよう。
 
 

コラムニスト紹介

松坂健氏

オフィス アト・ランダム 代表 松坂 健 氏
1949年東京・浅草生まれ。1971年、74年にそれぞれ慶應義塾大学の法学部・文学部を卒業。柴田書店入社、月刊食堂副編集長を経て、84年から93年まで月刊ホテル旅館編集長。01年~03年長崎国際大学、03年~15年西武文理大学教授。16年~19年3月まで跡見学園女子大学教授。著書に『ホスピタリティ進化論』など。ミステリ評論も継続中。

〈旬刊旅行新聞1月1日号コラム〉日本の最近の観光政策 高い目標達成へ「足りないもの」を投入

2019年12月31日(火) 配信

2020年の観光業界は東京オリンピック後に真価が問われる

 2013年9月7日に、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開かれたIOC(国際オリンピック委員会)の総会で、東京が20年夏季オリンピック開催都市に決まった。そのときは、「7年先なんて遠い未来の出来事」のように感じたが、あっという間に年月が流れた。13年といえば、訪日外国人旅行者数が1036万4千人と、初めて1千万人を突破した年だ。

 
 「2020東京五輪」は1つの国家的な目標として準備が進められてきた。今年は集大成の年となる。膨らみ続ける、莫大な予算をかけたプロジェクトの成功を祈るしかない。
 
 パラリンピックも開催されるため、東京だけでなく、日本各地で「ユニバーサルデザイン」の考え方が広く普及してほしいと願う。旅行者にも、そして住んでいる人たちにも心地よい空間が広がればいいと思う。
 
 年末の12月7日、菅義偉官房長官が訪日外国人旅行者の受入強化に向けて、新たな経済対策に盛り込んだ融資制度を活用して「世界レベルの高級ホテルを50カ所程度新設することを目指す」旨を発表した。
 
 訪日外国人の富裕層向けの“ラグジュアリーホテル”が日本には不足しているというのだ。これは国として、やや踏み込み過ぎではないかと感じた。
 
 20年までに訪日外国人旅行者数4千万人、訪日外国人による消費額8兆円が国の目標である。高めの目標値を達成するために、「現状では足りないもの」をどんどん投入していくという手法が、今の日本の観光政策だ。「地道にいいまちを作り上げていった結果、世界中の観光客を魅了していった」取り組みとは、プロセスが異なる。
 
 JTBがこのほど発表した「20年の旅行動向見通し」によると、19年の訪日外国人旅行者数は3180万人、20年は3430万人と試算している。国が目標とする4千万人には到底足りない数値だ。だからといって、なりふり構わずに「数値の目標達成第一主義」に邁進してほしくはない。
 
 4千万人を無理矢理に達成させようとすれば、時間をかけてまちを育てていく意識が低くなる。現場の軋みも大きくなる。13年に訪日外国人旅行者1千万人突破から、わずか7年で4倍の4千万人を受け入れるのは、性急過ぎる気がする。
 
 訪日外国人旅行者数の急成長と、消費額拡大を急ピッチで追いかける姿は、裏返してみると、相当に国内の旅行市場がやせ細り、衰退していることを証明している。いや、国内の旅行市場だけならいいが、地域を維持する力が予想を超えて低下しているのだと思う。
 
 今も都市部を中心に宿泊施設の新設ラッシュが続いている。夏には五輪は終わるが、訪日外国人旅行者を急激な右肩上がりで伸ばしていくことが、政府の目標である。10年後の30年には、現状の約2倍の6千万人の訪日外国人旅行者の受け入れを目指していく。先すぼみの国内旅行市場を育てるよりも、「裕福な外国人旅行者にお金を落としてもらう」ことを優先にする。手っ取り早く、即効性は期待できるかもしれないが、真の観光立国に育つことはないと危惧する。
 
 東京オリンピックが開催される夏は、日本中熱気に包まれるだろう。しかし、真価が問われるのは「祭りのあと」だ。冷静な目を失わないことが大事な年になる。
 (編集長・増田 剛)

〈観光最前線〉「彩浜」が屋外運動場デビュー

2019年12月30日(月) 配信

愛くるしい姿が人気

 アドベンチャーワールド(和歌山県白浜町)で2018年8月に誕生したメスのジャイアントパンダ「彩浜(さいひん)」が、19年11月から屋外運動場にデビューし、その愛嬌たっぷりの姿で、来場者の人気を集めている。

 「彩浜」は、同園で2000年に生まれたメス「良浜(らうひん)」と、中国生まれのオス「永明(えいめい)」の間に誕生。出生時の体重はわずか75㌘と、これまで同園で生まれた16頭のなかで最も小さかったが、19年10月には無事、母親から独り立ち。屋外運動場デビュー時には、全長約135㌢、体重約41㌔にまで成長した。

 同園には現在、「彩浜」含め6頭ものパンダが暮らしている。ちょっと疲れたかな、と思う方はぜひ。東京からも飛行機を使えばすぐですよ。

【塩野 俊誉】

【2020年開幕】あけましておめでとうございます 旅行新聞新社 社員一同

2019年12月29日(日) 配信

 2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される。メイン会場となる新国立競技場も完成した。東京をはじめ、日本各地で新しい施設が続々と誕生する。ホテルの新設ラッシュも止まらない。まるでバブル期の様相だ。一方で、20年は訪日外国人旅行者数4000万人の目標達成を目指しているが、伸び率は鈍化している。国際情勢も不安定だ。観光業界の我われは、“冷静な目”で、現状や将来を予想していかなければならない。本紙は新しい情報を提供しながら、奥深い本質を探る紙面を作っていきたい。本年もよろしくお願いいたします。

【編集部】

 

【全文は、本紙1782号または2020年1月8日(水)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】

 

出国者は2000万人達成か、訪客3000万人達成も伸び悩む

2019年12月28日(土)配信

12月18日に会見が開かれた

 観光庁は12月18日に会見を開き、2019年1~11月累計の出国日本人数が1836万8300人だったと発表した。年内の出国者数2000万人達成を目指し、追い込みをかけている。一方、訪日外国人旅行者数は前年より9日早く3000万人を達成。前年に比べ伸び悩んでいるが、累計は前年を上回る見込みだ。世界の関心が日本に向かう2020年、訪日旅行者数4000万人などの目標達成へ、政府一丸、官民一体となって取り組む施策が本格化する。

 19年はラグビーワールドカップの日本開催で盛り上がりを見せたが、自然災害に加え、韓国からの訪日旅行控えの影響で伸びは鈍かった。他方で観光地・公共交通機関の多言語対応をはじめとした受入環境の整備、寺泊や城泊による歴史的資源の活用、VRなどの最新技術を用いた観光コンテンツの開発などに注力してきた。

 結果、日本政府観光局(JNTO)によると、1~11月の訪日旅行者数は前年同期比2・8%増、韓国を除くと10.7%増を記録。観光庁は、取り組みの効果は着実に表れているものと認識しているとした。

 出国日本人数も堅調な推移をみせている。JNTOによると、19年1~11月累計で前年同期比6.0%増の1836万8300人だった。12月の出国日本人数が昨年同様の162万9350人と同水準になった場合、19年中の2000万人達成には足りない。

 観光庁の田端浩長官は同日の会見で「欧州は堅調だが、韓国と香港への需要の落ち込みが影響している」と指摘した。冬ダイヤの航空便数が増加されていると伝え、「中国と東南アジアの便数が増えている。増便でどこまでプラスに持っていけるか。年末年始の連休前半に少し山ができるとありがたい」と述べた。出国者数2千万人は20年の目標数値だが、1年前倒しの19年中の達成に向けて期待感を示した。

 韓国関係については、JNTOが現地で旅行会社などに聞き取り調査を行ったと報告。旅行会社によっては、訪日旅行の予約が入り始めているという。田端長官は、11月以降は韓国の航空会社や旅行会社との共同広告を数多く行えるようになったなど、好転の兆しが出てきたと説明。「訪日旅行に対する雰囲気に変化が出てくることを期待する」と語った。

訪日客4000万人目指し、達成に向けた取組本格化

 観光庁は訪日客4千万人達成へ地域の観光資源を開花させる取り組みを関係省庁と連携して進める方針だ。全国10~15カ所でのスノーリゾート形成、外国人が楽しめるナイトコンテンツの充実、文化財を使った地域の博物館・美術館の観光活用などを進める。

 また、20年は東京五輪がある。これを絶好の機会と捉え、「地方への誘客」を実現するよう取り組みを行う。

 具体的には、観光庁とJNTOの「Your Japan 2020」キャンペーンを1月1日から始めた。雪や祭りなどの季節ごとのコンテンツ、20年を中心に開催する「日本博」を含むプログラムへの送客促進のため、地方への交通の割引などのCPを実施する。

 田端長官は「地域分散と時期分散が大事。産業界と一緒に総力を挙げて実施する。2020年限定の魅力ある訪日誘客プログラムも計画している」と力を入れる。