国内事業を分社化、リスク負い、企画旅行に注力(JTB)

田川博己社長(中央)

JTB(田川博己社長)はこのほど、交流文化事業の完成を目指し、同社の国内商品事業本部を分社化し、主力商品のエースJTBをはじめとするJTBグループ全体の国内旅行に関する仕入・商品企画・商品造成を目的とする100%出資会社の「株式会社JTB国内旅行企画」を新たに設立することを発表した。運営開始は2014年4月1日。同社社長は現時点で未定だが、年内に決める方針だ。

JTB国内旅行会社を独立会社化することで意思決定の迅速化や財務基盤強化、販売拡大や事業領域を拡大し、国内旅行の新しい需要の創造と活性化、インバウンドや交流文化事業による国内旅行市場のさらなる拡大を目指す。新会社は売上高で2014年度目標3千億円を掲げる。社員数は約1千人。

10月15日の会見で田川社長は「06年に分社化を行ったが、今回、最後の砦である国内事業を外に出すことにした。これまでの分社化や改革のなかで最も大きな改革になる。国内売上高6千億円のうち、半分の3千億円を扱うので、失敗は許されない。覚悟を持って進む。2020年度には売上高5千億円を目指す」と語った。

海外旅行は宿泊や交通を買い取る企画旅行がほとんどだが、国内は宿泊や交通を手配するだけの手配旅行が多い。田川社長は「国内でもリスクを負い、積極的に企画商品を造成しなくてはいけない。手配旅行は安売り競争になり、ネットには勝てない」と説明。今後、JTB国内旅行企画では、企画旅行の商品造成に注力していく。

JTBグループは06年の分社化により、地域会社を設立。国内商品事業は大きく7部門あり、各地域会社に仕入れ造成が分散していたが、今年4月に国内商品事業部を発足し、全国の仕入れ造成を一本化。国内の構造改革が加速したことを受け、このタイミングでの分社化の決断に至った。田川社長は一本化について「例えば九州内で発と受を行うなら九州商品事業部でよいが、全国、そして世界に売っていくためには一本化した方がよい。地域の資源を掘り起こすのは地方だが、戦略論や方針論は先に中央で決める。中央で考え、地方で造る」と改めて同社の考え方を説明した。

訪日1千万人へ“正念場”、久保観光庁長官、韓国の伸び率鈍化を懸念

 久保成人観光庁長官の定例会見が10月23日に開かれ、今年の訪日外客数1千万人達成について、「このままで推移すると達成可能な数値だが、韓国の伸び率が鈍化するなかで、今が正念場」との考えを示した。日本政府観光局(JNTO)が発表した13年9月の訪日外客数は前年同月比31・7%増の86万7100人で9月の過去最高値を記録するなど好調が続いている。また、1―9月の累計は、前年同期比22・4%増の773万1400人と、1千万人到達可能な2割増のペースを続けている。一方で、汚染水問題を懸念する韓国の9月の訪日外客数は前年同月比12・9%増と、1―9月の前年同期比30・4%増のペースに比べ鈍化。JNTO事務所の調査では「10、11、12月も厳しい」との情報も入っており、久保長官は「懸念材料が顕在化している」と述べた。これを踏まえ、主に中国市場などのビジットジャパン事業の前倒しに加え、「旅行会社や航空会社と一致団結して1千万人達成に向けさまざまな協力をお願いもしている」と話した。

 海外が懸念する汚染水問題については、観光庁として「海産物や農産物の安全性について、科学的な根拠に基づいた正確な情報発信を今後も続けていく」とし、韓国については「韓国の当局を通じて旅行会社などに正確な情報を伝えてもらうように求めている」と語った。

≪精力的に議論し、年度内にまとめ、旅行産業研究会≫

 9月30日に開かれた第1回旅行産業研究会に対しては、現在の旅行業の制度がネット取引の普及や、海外OTA(オンライン旅行会社)との競争に対応できていない点や、旅行会社と消費者の関係が旅行市場が成熟するなかで標準約款として一律に規制する必要はないのではないかなどの意見や、日本の旅行業制度が現状と合っていない部分の指摘もあり、第2回会合を10月30日に開く。今後の進め方について、久保長官は「精力的に検討、議論を深め、今年度中にとりまとめをしていきたい」と話した。 

和食文化の継承・促進へ、顧問・指南役に道場氏など(日本旅館協会)

顧問・指南役へ委嘱状を

 日本旅館協会(近兼孝休会長)はこのほど、全国各地での日本料理の開発研究・継承を後押しするため、6人の著名な料理人に「日本料理指南役」を委嘱し、同協会会員が気軽に相談できる体制を整備した。さらに、日本料理の第1人者である道場六三郎氏と大田忠道氏に「日本料理顧問」を委嘱し、日本料理・和食文化の継承について指導を受ける。

 ユネスコの事前審査を経て、日本食文化は「和食 日本人の伝統的な食文化」と題して世界無形文化遺産へ登録される見通しとなった。すでに登録されているのは、「フランスの美食術」「地中海料理」「メキシコの伝統料理」「トルコのケシケキの伝統」の4つ。日本旅館協会ではこの機会を捉え、さらなる日本料理・和食文化の国内外への発信強化を目指す。

 指南役への無料相談に加え、旅費などの負担はあるが指南役による現地指導も可能。また、顧問などによる料理講習会なども計画する。会員が日本料理に関して気軽に相談できる体制を整備することで、各会員施設のサービス向上と人材育成をはかっていく。

 10月15日に行われた指南役と顧問への委嘱状交付で、近兼会長は「観光庁や文化庁とも協力して日本料理を世界へ発信していきたい」と語り、観光庁の清水一郎観光戦略課長は「訪日外客数の拡大には、日本料理の力が大きい。和食には日本のおもてなしが詰まっており、日本文化の心。観光庁も発信に注力していきたい」とバックアップを約束した。

 また、道場日本料理顧問は「おもてなしは旅館が原点」と旅館の魅力を語り、「食材の旬を知る人が少なくなっている。食材そのものの味を生かす日本料理を継承していきたい」と意気込みを語った。

 日本料理顧問と日本料理指南役は次の各氏。

 【日本料理顧問】道場六三郎(懐食みちば主人)▽大田忠道(天地の宿奥の細道館主)

 【日本料理指南役】藤井修一(定山渓温泉章月グランドホテル総料理長兼白浜温泉白良荘グランドホテル総料理長)▽隈本辰利(穴原温泉吉川屋料理長)▽原口義昭(マホロバマインズ三浦料理長)▽井上明彦(湯村温泉佳泉卿井づつや料理長)▽梶本剛史(湯田温泉松田屋ホテル料理長)▽佐藤文昭(ダイニングすずしろ料理長)

No.355 今季のスキー商品 - 利便性向上やサービス強化

今季のスキー商品
利便性向上やサービス強化

 レジャー白書2013によると、スキー・スノーボードの参加人口計は2010年が970万人、11年同、2012年790万人と減少傾向だ。そこで近年、将来的に人口を増やすための取り組みとして19歳リフト券無料や子供レッスン無料など、スキー場を中心にさまざまな施策を講じている。また、減少傾向にはあるが、昨年はJRのスキーCMの復活など一部盛り返す動きもあった。今年のスキー商品の特徴や近年の動きを、バスツアーを得意とするビッグホリデーと航空機を使ったロング商品を展開するジャルパックに聞いた。

【増田 剛、飯塚 小牧】

≪お客様の利便性を最優先、横浜、千葉、埼玉から直行バス≫

 ――2014年冬スキー商品の特徴は。

 お客様に対して「さらなる利便の増進」という部分に力を入れる。とくに、お客様の自宅近くからスキー場まで「なるべく手間をかけずに行ける」ということに重点を置いた。

 昨シーズンまでと同様に、スキー場に向かうバスの出発地である東京・池袋のサンシャインに、首都圏のさまざまなエリアから無料の連絡バスを結んでいるが、それ以外に、横浜・町田、千葉・津田沼などから都心には入らずにスキー場に直接行くバス(スノーライナー)を多く設定するなど強化している。さらに、今年からは、大宮や川越など埼玉から直接スキー場に向かうバスもスタートさせる。

(ビッグホリデー  商品企画部スポーツ企画センター センター長・細木 聡氏)

≪今季の取扱目標は5万人、北海道とファミリーに注力≫

 ――昨年はスキー市場が盛り上がったとみられていますが、近年のスキー商品の取扱人員の動きを教えて下さい。

 総数でみるとやはり縮小傾向にある。

 スキーマーケットの動きは「パッケージで飛行機を使って北海道に行く」というカテゴリーを注視しているが、これは年ごとに他社と抜いた、抜かれた、という競争を繰り返している。そのため、縮小と言っても例えば当社の2009年取り扱いが多かったら、10年が少し減り、また11年で盛り返して……というような具合だ。

(ジャルパック  国内商品企画第1部北海道・東北・北陸グループ  統括マネージャー・中川 明子氏)

 

※ 詳細は本紙1523号または11月7日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

メニュー偽装問題 ― 料理人と客は信じ合う関係

 1年のうちに何回か、近所の弁当の宅配サービスを利用することがあった。メニュー片手に電話すると、指定した時間に、バイクで持って来てくれる。ピザ宅配サービスの弁当版だ。派手なチラシのメニューの中から、私たち家族はその日、自分の好きな弁当を選んだ。

 時間通り、若いバイトのお兄さんが弁当を持って来てくれた。鳥唐揚げや、海老フライ、ハンバーグなどの弁当が食卓に広げられた。それら弁当のうち、息子が選んだ明太子弁当を開けて驚いた。そこには明らかに明太子ではない、何らかの代用品が盛られていたからだ。

 私は福岡県出身で、明太子は福岡のソウルフードでもある。いや、そんなことはどうでもいい。誰が見ても明太子ではない、「何か他の代物」がご飯の上にびっしりと播かれ、その上に海苔が覆っていた。

 私が驚いたのは、弁当の名称そのものである主役の食材が、堂々と別のものになっていたことだった。脇役ならまだしも、メインの食材を、かくも悪びれず、異なる食材を使う業者であるのならば、もっと判別が難しい米や肉といった食材についても、到底信用できないと感じた。それ以来、この宅配業者は利用しないことにした。

 最近、大阪の高級ホテルでのメニュー偽装問題が騒がれている。何年か前には、同じ大阪の老舗料亭が客に出した料理の使い回しが世間を騒がせた。

 残念なことに、安く食べられることで庶民に人気の回転ずしチェーン業界でも、絶えず「偽装魚」の存在が噂されている。

 だが、常識では考えられない安い食材や料理に対しては消費者は疑いを持つ。「安いからには、それなりの理由があるはずだ」と警戒する。そして、安い料理を食すからには、ある程度の危険を覚悟しているのだ。

 一方で、世の中には高級店と呼ばれる店がある。社会的に高い信頼を得ており、それゆえに高い料金をお客から取る。一流と名の付く料亭やレストラン、ホテルは、このカテゴリーに当てはまる。

 さて、旅館料理はどうだろうか。地方にある旅館の料理は、東京や大阪の高級ホテルやレストランと比べると、よりローカルな食材が求められる傾向が強いのではないか。

 夕食や朝食の際に、手書きの献立表を配り、料理人や女将、仲居さんがお客に一品一品説明してくれる宿も増えてきた。

 古今東西、料理人と客との関係は、信じ合う関係である。これ以外に何もありはしない。味への信頼も大切だが、客に対して食材で嘘を付かないという、言葉にするまでもない信頼が、両者の根底には貫かれている。気候の変動、豊作不作の年もあり、名物の食材がたまたま入手しづらい状況にあるかもしれない。だからといって料理人が食材を偽装してしまったら、客との信頼関係は終わってしまう。

 目当ての食材がどうしても出せなければ、「違う食材を使って新しいメニューを作ってみました」と、正直に理由を説明してくれた方がうれしい。「今度、食材が入ったら教えてください」と客も答えるのではないか。せっかく遠方まで足を運んでいただいたお客様に対して申し訳ない、という気持ちがそれでもあるならば、地の食材で作った、手の込んだ小鉢を1品でもサービスすればいい。たったそれだけのことで、客はその宿を信頼しファンになるかもしれない。

(編集長・増田 剛)

11月13日ピンクリボンデー開催 <元湯鷹泉閣岩松旅館>

 ピンクリボンのお宿ネットワーク(事務局=旅行新聞新社)に加盟する「元湯鷹泉閣岩松旅館」(宮城県・作並温泉)は、11月13日に第2回ピンクリボンデーを開催する。

 同日は、周りを気にせず温泉でゆっくりくつろげるよう、乳がん手術を受けた人、および乳がん治療中の人の限定宿となる。食事は養生に配慮した料理を提供するほか、温泉三昧できるようバスタオル、フェイスタオル、浴衣を各2枚ずつ用意する。特別講演会として「女性の健康的な生き方をサポート」をテーマにした女性医師との対談も行う。

 なお岩松旅館では、全館貸切ピンクリボンデーを、春と秋の年2回実施している。

 問い合わせ=元湯鷹泉閣岩松旅館 ☎022(395)2211。

“元気です京都”CP、台風被害からの復旧アピール

門川京都市長(中央)と 京都五花街の舞妓らがアピール

 京都府京都市と京都伝統伎芸振興財団は10月4日、台風被害からの復旧をアピールするため、東京都八重洲の京都館で「元気です京都キャンペーンin東京」を開いた。

 9月に発生した台風18号で豪雨に見舞われた京都市では、代表的観光地の嵐山地区などで浸水被害が発生し、市役所や観光案内所へ状況を問い合わせる電話が急増していた。キャンペーンには、復旧した京都をアピールしようと、嵐山地区の観光関連団体の代表者や京都五花街の舞妓らが参加した。

 冒頭のあいさつで門川大作京都市長は「このたびの台風で、世界の多くの方にご心配をかけた。多くのご支援をいただいた」と感謝するとともに、「渡月橋が濁流に飲まれそうになっている報道の印象があり、大丈夫かとの声もあったが、関係者の懸命の努力で京都は元気になった」と、ほぼ復旧作業が終わったことを報告した。また、「観光おもてなし課長」の設置や、市内の景観を美化するための看板撤去の取り組みを紹介し、「美しさにさらに磨きをかけた京都にお越しいただきたい」と呼びかけた。

 会場では市長と舞妓による観光パンフレットの配布も実施。京都五花街の舞妓が一堂に会することは地元京都でもめったにないとあって、多くの通行人が足をとめ、舞妓と記念撮影する姿なども見られた。

国交大臣賞は阪急、ツアーグランプリ2013(JATA)

©一般社団法人日本旅行業協会

 日本旅行業協会(JATA)は9月14日、JATA旅博2013内で「ツアーグランプリ2013」の発表と表彰式を行った。大賞の国土交通大臣賞には阪急交通社の「アメリカ大陸横断バスと列車の旅15日間(南周りルート)」が輝いた。

 同賞は旅行業の企画力やマーケティング力の向上などを目的に海外旅行、国内旅行で最も優れた企画旅行(募集型・受注型)に対し、表彰を行うもの。今回は12年7月―13年6月までに催行された企画を対象に募集し、審査委員会(兼高かおる委員長)が企画の独創性などを基準に審査を行った。

 受賞商品は次の通り。

 【国土交通大臣賞 日本・アメリカ観光交流年特別賞】アメリカ大陸横断バスと列車の旅15日間(阪急交通社)【観光庁長官賞】パッケージ旅行部門 ANAワンダーアース(ANAセールス)▽南九州の口蹄疫・新燃岳噴火による被害からの継続した復興支援(読売旅行)【審査員特別賞】地獄の門と奇跡の大地9日間・12日間(西遊旅行)▽ルックJTB「世界の花」(JTBワールドバケーションズ)▽8Days 6Nights Fly&Drive Hokkaido Shiretoko Course(ANAセールス)【市場拡大貢献部門】「わいわいファミリー グアム・サイパン」でのベネッセコーポレーション企画監修イベント「海賊とわくわくEnglish Night!」企画【デスティネーション開発部門】~ゆったりとした時が流れる癒しの国へ~チャーター直行便利用 ラオス6日間(ジャンボツアーズ)【SIT部門】チュニジア ラクダと歩く砂漠旅(道祖神)【パッケージ旅行部門(国内)】琉球王国 激動の歴史とロマンに迫る3日間(三越伊勢丹)

「ふろモ課」を設立、温泉を全国に向け発信(熊本県)

「くまもと・ふろモーション課」の発表会見

 熊本県と県観光連盟は10月2日、熊本市内のホテルで、熊本観光の強みである「温泉」を全国に向けて発信する特命チーム「くまもと・ふろモーション課(通称ふろモ課)」の設立を発表した。

 蒲島郁夫熊本県知事や県宣伝部長でタレントのスザンヌさん、営業部長のくまモンら5人が記者会見にのぞみ、熊本県が提唱する2つの温泉効果などをアピールした。

 熊本県の源泉数は全国第5位で、県内では多くの市町村で温泉入浴が楽しめる。県が調べた温泉分析では、その特徴は美肌効果のある「美人の湯」とストレス解消効果のある「癒しの湯」、保温効果のある「子宝の湯」の3つに大別されるという。

 県では今後、ふろモ課を通じて、熊本の温泉に入れば、心身ともに熱くなる「のぼせモン効果」と美しくなる「美肌モン効果」を訴え、90の協賛宿泊施設の宿泊者に、ほかの施設入浴が1カ所無料になる「くまもと湯巡り手形」を提供する。

 さらに箱蒸し湯・湯治で知られる県北の「杖立温泉」では、美容・癒し・リラクゼーション効果を実感できる旅のプログラム「Neo湯治」を11月から開発する。

 このほか温泉効果を解説した「くまもとおふろ読本」を10万部発行。特設Webサイトで発信する。九州新幹線を最大限に活用し、平日の午後から休暇をとってお風呂を楽しむ「平日ふろグラム」も開発・提案する。

観光立国への“舵取り役”

 清水 一郎氏(しみず・いちろう)
1967年11月生まれ。愛媛県松山市出身。東京大学法学部卒業後、1990年運輸省(現国土交通省)入省。英国ケンブリッジ大学大学院修了、大臣官房総務課企画専門官、在英日本大使館参事官、航空局総務課企画室長、四国運輸局企画観光部長、大臣官房参事官(海事局)などを経て、13年7月から現職。

≪観光庁観光戦略課 清水 一郎課長、「日本人よ、旅行をしようよ!」≫

 今年7月1日、観光庁に「観光戦略課」が新設された。「観光立国」実現に向けた観光戦略の要に位置し、安倍内閣が進める成長戦略の柱の1つである観光行政の「舵取り役」として期待されている。初代課長に就任した清水一郎氏に、今後の重点施策や、7年後に開催が決まった東京オリンピックまでに取り組むべき課題、地域活性化などについて聞いた。
【増田 剛】

 ◇

 ――観光庁に新設された「観光戦略課」の役割は。

 今年6月11日に観光立国推進閣僚会議で決定された「観光立国実現に向けたアクションプログラム」と、閣議決定された「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」において、観光は安倍内閣の成長戦略の柱の1つとして、明確に位置付けられました。つまり、観光は日本経済の成長戦略のエンジンであり、これを確実に前進させるために、「観光戦略課」が設置されたわけです。

 とくに、2013年は、観光立国の実現に向けた取り組みを本格化した小泉政権のビジットジャパン事業のスタートから10年、観光庁の発足から5年という「節目の年」に当たります。この節目の年に大きな数値目標を掲げました。訪日外客数1千万人を史上初めて本年達成すること、そして、2千万人の高みを目指していきたいと考えています。

 観光行政は、出入国審査やビザの問題ひとつとってもさまざまな省庁に関わり、観光庁だけで対応できるものではありません。国土交通省内の各局、さらには各省庁、民間や自治体など多くの関係者が、それぞれが主体的に取り組んでいただくことが大事です。観光戦略課は「どの項目をいつまでに」「誰が実施するのか」といった行程表を作成し、うまくベクトルをそろえて、前に進めていく「舵取り役」だと認識しています。柔軟性とスピード感を持って取り組んでいきたいと思っています。

 ――「アクション・プログラム」について。

 観光立国実現に向けたアクション・プログラムの施策は、約90項目におよび、実に多岐にわたっており、(1)日本ブランドの作り上げと発信(2)ビザ要件の緩和等による訪日旅行の促進(3)外国人旅行者の受入れの改善(4)国際会議等(MICE)の誘致や投資の促進――の4つの重点分野を強化・促進していきます。

 「日本ブランドの作り上げと発信」では、ビジットジャパン、クールジャパンなどの取り組みを政府全体で計画を作成し、オールジャパンでの情報発信が必要です。また、海外のテレビ番組枠の確保などによって、日本のコンテンツを継続的に海外に発信していきます。訪日誘客のためのプロモーションも、外国人目線に立ったコンテンツの展開を強化、拡大していく予定です。

 「ビザ要件の緩和」については、今年7月からタイやマレーシア向けのビザを免除したほか、ベトナムやフィリピン向けのビザを数次ビザに、インドネシアの数次ビザに関わる滞在期間の延長も実施しました。ビザの緩和は即効性があり、実績を見ても、大きな効果が表れています。

 「受入れの改善」では、外国人旅行者を受け入れる際に、空港や港の玄関口での出入国手続きの円滑化は、日本を訪れた最初の印象に関わってくる問題として、とても大事だと思っています。そして、多言語による外国語表記の案内も、道路標識だけでなく、美術館や博物館、自然公園、観光地などの充実化が必要です。

 また、Wi―Fiを整備することにより、外国人旅行客に便利と感じてもらえる「旅行しやすい環境」に改善していきたいと思います。これらも“おもてなし”の重要な要素の一つだと思っています。

 「MICE」については、海外のキーパーソンを日本に呼び込むことで、専門家による知見を活用した潜在需要の掘り起こしとともに、誘致ポテンシャルの高い都市として、世界トップレベルの国際会議都市へと育成していかなければなりません。このような4本柱の施策の推進を通して、目標の達成に向け、観光戦略課として全力で取り組んでいきたいと思っています。

 ――2020年に東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まりましたが、日本の観光にどのような影響がありますか。

 オリンピック開催地決定のテレビ中継を見ていて、IOCのロゲ会長が「TOKYO」と読み上げた瞬間、7年後に「日本を元気にする」一大イベントが日本で開かれることに感動し、大きな感銘を受けました。今後さらに世界の関心が日本に集まることで外国人観光客が増えることが予想され、観光にとって非常に大きな追い風、チャンスになると感じています。

 「7年後」というのは長いようで結構短い。五輪が東京で開かれるからこそできる観光戦略があると思いますので、しっかり取り組んでいきたいと思います。

 ――清水課長は、在英日本大使館や英国留学など、英国での経験が豊富です。ロンドンは昨年五輪を成功させました。7年後の東京五輪に向けての準備に当たり、参考になることはありますか。

 私は3年前まで英国の大使館に赴任していましたので、ロンドンが五輪の準備をしている姿を見ていました。そのなかで一つ印象的だったのが、ロンドンのボリス・ジョンソン市長が、ロンドンを自転車に乗りやすい街にしようと、「サイクリングレボリューション(自転車革命)」を実行したことです。ロンドン市内に綺麗なブルーのレンタサイクルをそろえ、観光客も乗り捨てで使いやすいように整備しました。車道にもブルーの自転車専用レーンを整備し、五輪開催に間に合わせたのです。ちなみに、ロンドンでは、自転車は車道を走ります。歩道を走ることはありません。

 外国人観光客は日本を訪れるとき、「安全・安心」であることを期待しますが、日本に来てみると、歩道を走る自転車に対しては、「危険を感じる」という声もあります。観光庁だけでできることではありませんが、東京で五輪が開かれる7年後に向けて、議論の1つになるのではないかと思います。また、「安全・安心」と言えば、ロンドン名物のパブの中が禁煙になったというのも象徴的なできごとでした。

 また、ロンドンでは赤い2階建てバスや、ブラックキャブなどの車両が美しい街の風景に溶け込み、絵はがきになるほど有名です。バスやタクシーなど公共交通の車両そのものが世界中の人にロンドンを想起させる「街の顔」になっています。

 東京のバスやタクシーはどうでしょうか。公共交通は、単に目的地に着けばよいというだけではなく、「街の顔」を作っているという発想が大事だと思います。都内のバスやタクシーの色に統一感を持たせるだけでも、街の印象は変わります。ニューヨークはイエローキャブ、ロンドンはブラックキャブ。東京は何色だろう、と言うように。そうすることで、ロンドンの2階建てバスのように外国人観光客も「一度は乗ってみたい」と思うのではないでしょうか。

 ――地方の活性化について、どのようにお考えですか。

 五輪開催は、東京だけではなく、地方をいかに盛り上げるかが大事な点です。ある意味、五輪は地方にとっても、「大きなチャンス」だと思います。開催効果はオリンピック期間中だけではなくて、すでに五輪開催が決定した瞬間から、日本は世界で注目され始めています。五輪に関わることだけを見ても、事前合宿やプレイベントも行われます。東京が注目されるということは日本全体が注目されることであり、東京五輪を地方が利用する絶好のチャンスだと思います。

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 英国人は田舎が好きで、ロンドンの都会で働く人も、週末になると美しい田舎でくつろぐ文化があります。海外から訪れた観光客もロンドンだけを観光するのではなく、趣のある田園風景が印象的なコッツウォルズのような地方を訪れることが多い。英国では田舎で生活する人たちのプライドが高く、生きがいや喜びを感じながら豊かな生活を送っています。そういう文化を根付かせている英国の文化の奥深さを感じます。

 日本は、インバウンド1千万人を目指すことはもちろん大事なのですが、そのためには、日本人がもっともっと国内旅行をして、日本の魅力を知り、日本自慢をすることが結局インバウンド拡大にもつながると思います。日本人が海外旅行をするからこそ、航空路線も拡充され、それがインバウンドにもつながると思います。

 私は「日本人よ、旅行をしようよ!」というメッセージを強力に発信したいと思います。とくに、シニア世代には、タンス預金をするのではなく、旅行を通じて元気になっていただきたい。それが日本の元気にもつながっていきます。また、海外に対して日本に来てくださいというだけでなく、日本人自らも外国に積極的に訪れるという「双方向」の関係が大事だと思います。

 私は愛媛県松山市の出身で、昨秋まで1年半ほど四国運輸局にいました。瀬戸内海の景色は、ずっと地元にいると、その良さに気づかないのですが、東京から久しぶりに戻ってみると、素晴らしさに驚きます。瀬戸内海のきらきらした海と多島美はエーゲ海よりも美しいと思っています。いわゆるゴールデンルートに次ぐ「エメラルドルート」と言っても良いのではないでしょうか。

 「しまなみ海道サイクリング」という「海の上を走るサイクリング」が10月20日に行われ、さらに来年秋には、外国人を含めて1万人規模の大会として行われる予定です。世界にも例を見ないイベントで、海外からも注目されています。

 来年2014年は、四国八十八カ所の弘法大師空海による霊場開創から1200周年、さらに、道後温泉本館開館から120周年、瀬戸内海国立公園80周年など、四国にとってメモリアルな年です。

 四国ひとつとっても「ラストミステリー」があります。日本のどの地域にも、これまで気づかなかった新しい魅力の発見があるはずです。日本各地にある魅力を“ブランド”として作り上げ、広く発信していくことが、これからの日本観光にとって大切なことだと思います。