旅行新聞から新たに書籍発行 ― 業界人の知恵や肉声、姿を残す使命

 今年7月初めに、旅行新聞新社から2冊の書籍を発行する予定だ。

 1冊は、本紙で毎月21日号に連載しているジャーナリスト・瀬戸川礼子氏の「女将のこえ」の原稿を加筆、修正してまとめたもので、「女将さんのこころ」というタイトルもこのほど決まった。今号12面にも「岩惣」の岩村玉希女将が登場しているが、約14年の間に162人もの女将を紙面で紹介したことになる。

 「女将さんのこころ」では、第1弾として55人の女将が登場する。第2弾も同様に55人の女将を掲載する計画だ。女将の人生観、そして、お客様に愛される宿への強い想いがぎっしりと詰まった内容になっている。

 もう1冊は、2012年3月から13年9月までの約1年半、旅行新聞の1面で「いい旅館にしよう!」プロジェクトとして、内藤耕氏と旅館経営者との対談シリーズだ。15人の個性的な経営者が、それぞれの宿の経営について語り合った企画で、読者からも大きな反響を呼んだプロジェクトだった。「ぜひ本にしてほしい」「スタッフにも読ませたい」など書籍化を望まれる声も多く、ようやく発行できる段階まできた。

 「女将さんのこころ」「いい旅館にしよう!プロジェクト~対談シリーズ」ともに、観光業界、とくに旅館業界の第一線で活躍されている経営者や女将、さらに、現場スタッフの方々の手にとってもらえると、本当にうれしく思う。

 情報発信の手段は進化と多様化が進む。新聞や雑誌、書籍に比べ、テレビやラジオ、インターネットの方が即時性やライブ感のある情報発信や収集に分があるが、それぞれの媒体やツールはその特性を生かし、補完し合いながら存続を続けていくはずである。

 また、近年の特徴として、何か一つの出来事やコメントが話題になると、ネット上ではリアルタイムでさまざまな批判や議論が起こる。国家の安全保障問題から芸能ゴシップまで、ありとあらゆる話題で論争が日常的に行われている。テレビやブログ、ツイッターなどの「ひとこと」が引き金となり、誰もが参入可能な投稿サイトで多種多様な意見が飛び交い、熱がまだ冷めぬうちに、また次のネタへと議論が移っていく。

 このような情報に溢れた環境の中で、本紙も10日ごとの発行スタイルで有益な情報を提供できるように、日々地道な取材活動を行っている。観光業界の専門紙として基本に立ち返ることが大切だと痛感する一方で、新たな試みも行っている。

 地球の歩き方T&Eの国内旅行情報サイト「日本の歩き方」に旅行新聞の掲載記事や、その他の最新観光情報などの提供を行っており、可能性の広がるパートナーとの連携も着々と進めている。また、最近はテレビなどのメディアが本紙に観光業界の情報を求める機会も増えており、専門紙だからこそ得られる貴重な情報を広く一般消費者に発信していくことも、もっと力を注いでいかなければならない課題の一つだと捉えている。

 今回2冊の書籍発行を目指しているが、ネット時代のなかでは、本があまり読まれなくなっているということもしばしば耳にするが、現在に生きる業界人の知恵や肉声、ありのままの姿を残しておくことも、業界専門紙としての重要な使命だと感じている。

(編集長・増田 剛)

No.371 ANAセールス・白水政治社長 - 組織力アップを目指す

ANAセールス・白水政治社長
組織力アップを目指す

 4月1日付でANAセールスの新社長に、全日本空輸(ANA)執行役員大阪支店長西地区担当だった白水政治氏が就任した。白水社長は、ANAの上席執行役員営業センター長を兼任する。4月1日の就任あいさつでは、ANAセールスを「家」だと思うよう社員に語りかけ、コミュニケーションを重視した組織力の向上を目指す。白水社長に、就任の抱負や今後の展望、国内旅行とインバウンドの動向、ANAワンダーアースなどについて聞いた。

【伊集院 悟】

 
 
 
現場第一主義を徹底、国際線需要を商品造成に

 ――ANAセールス社長に就任されました。これまでの経歴と就任の抱負を教えてください。

 全日本空輸(ANA)に入社してから営業畑を歩み、沖縄支店に4年、名古屋に6年、大阪に7年、福岡に6年、大阪に戻って3年と、西日本を中心に支店を回りました。福岡支店では副支店長を、大阪支店では支店長を務め、今回ANAセールスの社長として初めて東京に来ました。

 昨年の4月にANAグループはホールディングス制に移行しました。ANAセールスはグループで唯一の営業がメインの事業会社で、国内地区での航空座席販売をすべて任されています。当社は販売事業本部と旅行商品事業部に大きく分かれ、販売事業本部では航空券や旅行商品の販売、旅行商品事業本部では国内・海外・訪日の仕入れや商品造成、Web販売などを行っています。

 ANAセールスは、ANA本体のマーケティング室と連携しながら営業を行う、エアラインセールスと旅行事業セールスの2つの性格を持っています。エアラインセールスと旅行会社としての営業収益を確保し、グループに貢献していかなければいけません。ANAセールスの社長に就任してからもANA本体の上席執行役員を兼務しているので、「二足の草鞋」を履いている感覚です。

 

※ 詳細は本紙1544号または5月22日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

宿の基本情報を一元化、各施設がHPで外国人に発信(観光庁)

 観光庁はこのほど、外国人旅行者に向けた宿泊施設の情報発信の現状と課題、今後の方向性について取りまとめた。日本政府観光局(JNTO)のホームページ上に、多様な宿泊施設の特徴やサービス内容の違いなどを案内する「窓口サイト」を設けることや、部屋の広さやWi―Fi環境など外国人旅行者が求める情報を一覧で分かりやすく同じフォーマットで発信する「ファクトシート」を作成し、各宿泊施設のHPに表示してもらうことなどが提案された。
【伊集院 悟】

JNTOに「窓口サイト」開設

 観光庁は13年4月にまとめた観光産業政策検討会の提言を受け、昨秋に宿泊産業研究会を発足。諸問題について議論を続け、今回、宿泊施設の情報提供の現状と課題、今後の方向性などについてまとめた。

 JNTOのHP上に「窓口サイト」を開設し、「旅館」「ホテル」「ビジネスホテル」「カプセルホテル」「ペンション」「民宿」「宿坊」など多様な宿泊施設の全体像を整理・一元化し、各施設の特徴や提供するサービス内容の違いなど基本情報を発信する。さらに、「窓口サイト」に宿泊業界団体や各地域とリンクを張り、最終的にはFIT層を、各個別の施設のHPでの予約に誘導するようにする。観光庁観光産業課の石原大課長は、「これまで宿泊施設は旅行会社に集客を頼ってきた部分が大きいが、これからは直販を増やす必要がある。自分たちの部屋を自分たちの手で売るのはすごく当たり前のこと」と説明した。今年度中には「窓口サイト」のイメージを固め、サイト公開は来年度以降になる模様。

 また、FITでは、数多くある宿泊施設の中から宿を選択する際に、各施設のHPでの情報発信がカギとなることから、宿泊施設の情報発信の強化を目指す。部屋の広さやWi―Fi環境など外国人旅行者にとって関心の高い情報を整理して発信するフォーマット「ファクトシート」を作成し、これに則った情報発信を、各宿泊施設のHP上に掲載してもらう。「ファクトシート」の作成は、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会や日本旅館協会などの宿泊業界団体に依頼するが、石原課長によると、「必要があれば観光庁もアドバイザー的な形で加わり、助力する」という。

 さらに、外国人の受け入れに積極的に取り組み、情報発信について先進的かつ効果的な取り組みを行っている施設や地域・団体のベストプラクティス集をまとめたり、表彰(アワード)を行うなど、取り組みへの関心を高めることも提案する。

 そのほか、外国人旅行者が宿泊施設に求めるニーズの把握や、外国人旅行者受け入れへの宿泊施設の意識向上、「旅館ブランド」の構築などを、取り組むべき課題として挙げている。

変革も視野 人材育成強化へ、加賀屋・小田與之彦(よしひこ)社長

小田  與之彦氏
小田 與之彦氏

 4月に石川県・和倉温泉の加賀屋の新社長に就任した小田與之彦氏が5月7日、本紙東京本社を訪れた。

 小田新社長は旅館を取り巻く環境がめまぐるしく変化していくなかで、「(加賀屋を)変革していかなくてはならないものと、変えてはならないものを見極めていきたい」とし、「来春の北陸新幹線開業や、来年3月からスタートするNHK朝の連続ドラマ小説に決まった『まれ』の舞台が輪島市であり、チャンスをしっかりと掴んでいきたい」と話した。

 加賀屋は今年4月に通常の2倍となる66人の新入社員を迎えており、「教育係がペアとなって新入社員に教えているが、いい意味での競争が生まれている。台湾やタイなど海外からの観光客も好調で、より一層の人材育成に力を入れていきたい」と語った。
 
 

組織の在り方

 ANAセールスの白水新社長は、就任あいさつで会社を「家」だと思うよう社員に呼び掛けたという。トラブルの元であるコミュニケーション不足を解消し、組織力の向上を狙う。福岡・大阪支店時代には毎年、チームワーク強化の一環として、北九州から別府を目指す「100キロウォーク」に支店をあげて参加していた。「つらく苦しいことも喜びも楽しみもあり、人生の縮図のよう」と、ともに参加することで絆が深まるという。

 JTB中部の社員が遠足のバス手配を忘れ、遠足を中止させようとした問題がテレビをにぎわした。「足りない部分は指摘し、良いところは褒める」。組織として当たり前のことが当たり前に行われていたなら、日ごろから上司と部下、社内全体でトラブル時に相談できるコミュニケーションがあったなら、今回の事件は起きなかったのではないかと思う。

【伊集院 悟】

ユニークナガノ

 長野県旅館ホテル組合会青年部会が今春、外国人観光客向けに英語サイト「ユニークナガノ」とスマホ用アプリを発表した。長野県で本物の日本文化や伝統が体験できる100を超えるアクティビィティが紹介されている。

 一例を挙げると、須坂市の田中本家博物館で日本庭園と再現した江戸弁当、長野市の戸隠堂で忍者修行体験、馬籠宿―妻籠宿の旧中山道ウォーク、諏訪市で日本酒「真澄」を試飲、栄村の切明温泉で手掘り温泉体験など盛り沢山。

 青年部会でインバウンド委員長を務める戸倉上山田温泉「亀清旅館」の青い目の若旦那、タイラー・リンチさんが中心となって約1年かけて自ら体験取材して集めた素材で「これは面白い!」と太鼓判を押したものを紹介している。外国人から見た長野県の魅力が満載だ。

【古沢 克昌】

グローバル戦略を重視、営業益3倍の100億円へ

4月25日の会見で(国交省)
4月25日の会見で(国交省)

JTB・高橋広行新社長 20年に向けて

 JTBは6月30日付で田川博己社長から高橋広行常務に社長交代する(既報)。4月25日には国土交通省で会見を開き、高橋新社長は、グローバル戦略を重視し、社員の海外派遣や担当要員の増強をはかり、2020年までにグローバル事業の営業利益目標を現在の3倍の100億円に定めた。国内は地域分社化の強みを駆使し、地域活性化面を強化する。
【丁田 徹也】

 田川社長は「2008年に社長に就任して、リーマンショックや東日本大震災など厳しい時期を経験したが、デスティネーションマネジメントや交流文化事業は順調で、06年からの分社化による構造改革も同時に進めてきた」と振り返った。会長就任については「今後は世界とのつながりのなかで政治的・経済的・戦略的関係を作ることが仕事だ」と述べた。また、高橋氏を後任に選んだ理由として「長期経営計画は順調に推移しているが、20年までに完成させるには相当な馬力が必要」とし、「(高橋氏は)旅行事業本部長として苦しかった11年を乗り切ってJTB西日本の社長に就任しており、徳島出身で地域も良く知り、交流文化事業やDMC(デスティネーションマネジメントマンパニー)の流れも充分に理解して進めてくれると確信している」と期待を語った。

 これに対し、高橋新社長は「営業部門・管理部門・現場、地方・東京都と幅広い経験が私の財産で、これを活かした経営をしていきたい。佐々木会長と田川社長の経営理念とグループビジョンを踏襲し、策定段階から関わっている2020年ビジョンの道筋を確固たるものにすることが最大の使命」と意気込みを語った。

 高橋新社長は「今後は日本を起点とした2国間取引の『ツーウェイ』から、拠点を各国に置いて多国間の取引を対象にした世界発―世界着の『マルチウェイ』にシフトする」と述べ、「グローバル人材の育成が急務で、16年までに200人の現役社員を在外拠点に派遣して育成する。また、20年までにグローバルの担当要員を現在の4700人に対し、さらに3500人を上積みし、グローバル事業の営業利益ベースを現在の3倍の100億円にする」と目標を語った。

 新社長の経営戦略

 高橋新社長は経営戦略について(1)事業戦略(2)組織戦略(3)グローバル戦略(4)都市戦略――に分類。

 事業戦略は「交流文化事業を強力に進め、20年までに完成形を目指す」と述べ、事業領域の拡大として、「旅行業の枠組みを超え、人やモノの『交流』を切り口にしたビジネスモデルへの転換をはかる」方針だ。

 組織戦略では分社体制を維持し、「求心力と遠心力をコントロールしながらグループ経営体制の進化形を目指す」とした。例として、全国に分散する仕入れ造成部門を統合し、4月に事業会社化したJTB国内旅行企画を挙げた。求心機能の一方で、地域密着や独自性の強化のための遠心力と見極めながら組織力を強化する。

 グローバル戦略では、2020年ビジョン達成の鍵を握るアジアを中心とした市場に取り組む。これまで国内で取引していた企業が海外展開をしたことで流出した需要を取り込むことや、アジアの今後の需要を補足するためにアジア市場に打って出る方針を強調した。

 都市戦略は、グローバル戦略やWeb事業、差別化戦略を強化するために積極的に取り組む。

 これまでとの大きな違いに、旅行市場を「国内市場」と「グローバル市場」に2分割し、各事業の方向性を明確化させて展開することを挙げた。

 国内市場はさらに成熟し、人口も縮小するため、シェア拡大や事業の創造など質の転換をはかる。また、都道府県と一体化して地域に埋もれている資源を磨き上げ、地域活性化に取り組む。

 グローバル市場は、取扱量の拡大を目指し営業拠点を整備・拡充する。現地企業とも業務・資本提携し、市場の特性に柔軟に応じていく。急速な拡大が予想されるアジアからの訪日インバウンドに対しては、国内の受入体制や在外拠点の販売ネットワークの整備を進める。

顧客からの信頼を、モバイルへの対応強化

牛場春夫氏
牛場春夫氏

牛場春夫氏「オンライン化対策」語る

 エース損害保険とエアプラスは3月14日、東京都内で旅行会社を対象に、「旅行市場のオンライン化対策セミナー」を開いた。そのなかで、フォーカスライトジャパン代表の牛場春夫氏が講演を行い、米国の旅行市場動向から日本市場の将来を予測した。牛場氏は米国市場から日本市場への示唆として、高くなるオンライン販売比率に向け、顧客からの信頼を得ることや、モバイルへの対応強化をあげた。
【飯塚 小牧】

 牛場氏は急増している米国のモバイル市場について「モバイルは検索とアクセスだけで商品購入にはつながらないといわれていたが、スマートフォンの普及が進み、倍々ゲームで増えている。フォーカスライトは2015年にはオンライン旅行販売の4分の1以上はモバイルになると予測している」とした。その動きに呼応して、米国では10年にホテルの間際予約に特化したモバイル専用旅行会社(モバイルトラベルエージェンシー・MTA)の「HotelTonight」が誕生。「調査によると、ホテルは当日予約が全体の30%あることから、まさにモバイルに相応しい」と語った。

 オンライン旅行会社(OTA)は米国では伸び代がなくなってきているため、海外での販売に注力。加えて、検索エンジンを買収することで、ツールとしての価値を上げるのが最新の状況だという。「資力のあるプライスラインがこうした戦術を取り、慌てたエクスペディアが追随している」。

 一方、既存の旅行会社をみると、店舗数は01年から13年の間に60%減と激減。「ただ、この数字に惑わされてはいけない」と述べ、店舗の減少に反し、同期間の国内外航空券の販売額合計は伸びていることを示した。「店舗の統合や買収などもあるが、大きな動きは在宅の旅行会社が増えていることだ。究極的にコスト構造を変えるため、リアルな店舗を廃止して在宅に変えている。また、雇用者を減らし、自分だけで仕事をするようになった。13年の資料によると既存旅行会社のうち、3分の1を在宅が占めている。なぜ独立して在宅でできるかというと、しっかり自分の顧客を持っているから。顧客からの信頼で商売ができているのがミソ」と強調した。

 注目すべき動きとしては、拡大する「共有型経済」だ。例えば、宿泊は個人が所有する不動産を貸し借りするインターネット上のプラットフォーム「Airbnb」が登場し、今や世界最大の施設件数になっている。「ホテルはさまざまな法を順守しているのに、網の目を潜って商売しているところもあり、訴訟問題にも発展している。今後、共有型経済は旅行業界にも影響を与えるだろう」と注意を促した。

 また、ソーシャルではグーグルが特定ジャンル別に絞り込んで表示する「バーティカル検索」を開始しており、とくに旅行分野に注力しているが、同様の動きをフェイスブックなどが始めており、米国の旅行会社は注視しているという。

 これらの動きを示したうえで、牛場氏は今後、旅行会社は旅行に関わる(1)インスピレーション(旅への誘い)(2)調査(情報収集)と旅行計画(3)予約手配(4)着地旅行ビジネス(5)レビューのシェア――の5つの全サイクルで商売をする必要があると提言。「予約手配はすべて機械化されると思うので、川上にのぼることが必要だ。旅行をしたいと思っても、半数の消費者は行き先が決まっていないので、そこへアプローチをすべき。また、現地でのオプショナルツアーやイベント参加など着地での旅行は大半が72時間前に予約をしているという結果が出ており、間際志向の典型例だ。これにはモバイル対応が必要で、ここまで手を出していかなければならない」と述べた。

外客2千万人新時代へ、VJ大使が課題検討

廣江真氏
廣江真氏

 国土交通省関東運輸局は4月25日、「VISITJAPAN大使シンポジウム」を、日光東照宮客殿(栃木県日光市)で開いた。ビジットジャパン(VJ)大使とは、外国人旅行者の訪日促進に向けて優れた取り組みを行っている民間人を、観光庁が任命しているもので、現在58人が任命されている。当日はインバウンド2千万人新時代を念頭に、14人のVJ大使が現状の課題や打開策を話し合った。

 基調講演は、日本コンベンションサービス・MICE都市研究所所長の廣江真氏が「次世代型のインバウンド」をテーマに行った。廣江氏は、観光と現在の製造業の姿を重ね、「かつて日本が得意とした高機能・高デザイン・高価格型は欧米へシフトし、日本製品は安価な方向へ流れている」と指摘。統合化や各所との連携を行いながら「まずは顧客となるターゲットを研究し、商品開発力を高めていくことが重要」と見解を述べた。

 パネルディスカッションでは、4人のVJ大使が登壇。大使の1人、秋葉原観光推進協会理事の泉登美雄氏は、電気街のイメージが強かった秋葉原を観光でまとめ、地域のブランド力向上に努めてきた。前職はメーカー勤務で、営業として全国を回った経験から「外から秋葉原を見る目」を養ったと語る。「中からは見えにくいオンリーワン、ナンバーワンになれる部分がわかった。地域や異業種と連携して取り組むことで、新たな展開も見えてくる」。

 また、交通機関の乗り放題チケットの海外展開に取り組んできた、元スルッとKANSAI副社長で大阪市交通局の横江友則氏は「移動手段と観光情報は密接に結びついている」としたうえで、「観光資源側から発信する情報と観光客のニーズに、ミスマッチが生じていることもある。今後はSNSで観光客から発信された観光情報を得て、別の観光客が追体験をしに来るという構図をより活かしていきたい」と構想を述べた。

 昨年、1年間の訪日外国人旅行者数は1千万人を突破し、観光庁は年間2千万人を次なる目標として掲げる。2020年東京五輪の開催決定も追い風に、関東圏はさらなる外客増加に期待がかかるが、「他エリアに比べ広域観光の意識が希薄」という課題も残る。

 又野己知関東運輸局長は「オリンピック時に東京だけが訪日客の受け皿になるのではなく、広域観光の連合体の制度設計をはかりながら、関東圏として受け入れ体制を整えていかなくてはならない」と言及する。

活動で得た知見をVJ大使が披露した
活動で得た知見をVJ大使が披露した

野口観光が開業50周年、野口秀夫社長に聞く

野口 秀夫社長
野口 秀夫社長

 野口観光(野口秀夫社長)は今春、開業50周年を迎えた。北海道・登別温泉から出発し、多店舗・多客層化へ展開した経緯や、先代の故・秀次氏からの学び、次の50年に向けての抱負を野口社長に聞いた。
(聞き手=本紙社長・石井 貞德、構成=鈴木 克範)

 
 
14年サイクルで転機

 1964年、北海道の登別温泉に43室の「登別プリンスホテル」を開業、今春50年の節目を迎えた。振り返ると、79年の「洞爺プリンスホテル」開業は多店舗展開の礎となった。92年には、最初の建物(登別プリンスホテル)を取り壊し、「石水亭」を新築。06年には高級宿「望楼」ブランドを新設した。

 14年ごとに転機を迎え、対応してきた。次は東京オリンピックが開かれる2020年。次世代が商売しやすいように、組織や考え方の整備が急務と考えている。

先代との仕事は幸運

 父であり先代・社長の秀次は、仕事において難しい言葉は1つもなかった。易しい表現だが、常に本質をついていた。いつも時代や環境に順応し、最後まで脱皮し続けた。

 99年にバトンを受け、社長に就いた。先代は代表権のある会長に。以後は経営の現場から一歩離れ、報告を聞く程度。「情報は提供するが、決めるのはお前の役目」と見守ってくれた。

 頭の柔らかい人だった。商売も好きだった。人間力もあった。あの経営者の下で仕事ができて幸運だった。

多店舗・多客層化推進

 さまざまな影響にも耐えうる企業体質を築くため、「多店舗化」(16施設)に続き、「多客層化」に力を入れている。これまでの主力だった値ごろ感のある宿に加え、高品質・高満足の「望楼」ブランド。さらにその中間、「乃の風リゾート」に代表されるアッパーミドルの展開だ。1地域に、複数施設で進出しているところはリーズナブルな2館から、1施設をアッパーミドルに改修するなど、差別化をはかりたい。今秋、着手する「湯元名水亭」のリニューアル(来春開業予定)もその一環だ。

人を育てて次の50年を

 働く環境や評価について正当な仕組みをつくることで、優れた人材が集まるようになった。ここ数年は、研修など人材育成に注力している。続けることで、宿泊業界の社会的認知の向上にもつながると思う。これからは宿泊単価と人員の掛け算ではなく、品質を上げ、価格に満足いただけるよう努力する。

 コストパフォーマンスと経営。生き残りには双方が必要だ。50周年を機に、社是や経営理念の見直しもはかる。経営ができるグループをつくり、バトンをつなぎたい。