余暇市場2%減の71兆円、鉄道や遊園地、旅館は増 (レジャー白書2017)

 日本生産性本部(茂木友三郎会長)はこのほど、レジャー白書2017(2016年分)の概要を発表した。余暇市場全体の市場規模は前年比2・0%減の70兆9940億円だった。観光・行楽部門は同0・3%減の10兆5560億円。11年以来の減少となった。同部門は「自動車関連」と「国内観光・行楽」に細分されており、「国内観光・行楽」カテゴリーは同1・1%の増加。とくに、ホテルと遊園地・レジャーランド、鉄道が好調。旅館はそれらに続く同1・2%の増加だった。今後のキーワードとして、参加体験対応と個人別対応、外国人対応が挙げられた。

 インバウンドの増加にもかかわらず観光・行楽部門は減少に転じたが、調査分析を担当した桜美林大学の山口有次教授は、「伸び悩んだ国内航空や貸切バスなど、国内旅行に特化した分野についても今後は、インバウンドの取り込みに注力する傾向が強まるはずだ」と強調した。消費増加のためには、外国人の取り込み方法を工夫する必要があるとの見解だ。参加体験や個人別対応の具体策として、VR(仮想現実)を挙げた山口教授。都市型のエンターテインメントであるため、地域での普及は難しいものの、インバウンドの取り込み対策としては有効との考えを示した。

〝えこひいき〟で儲かる仕組み、熊本の食と観光を販売(くまもとDMC)

村田社長と浦上英樹専務(後段右)、外山由恵常務(同左)

 観光地域づくりの舵取りを担う日本版DMO(デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション)候補法人として、観光庁が今年1月に登録した「株式会社くまもとDMC」(村田信一社長、熊本県熊本市)に注目が集まっている。同社は地元の肥後銀行と同行、中小機構などが出資する熊本未来創生ファンドや熊本県の出資で昨年12月に設立された。県の出資比率も4%で、ほぼ民間の企業だ。

 DMCのCはCompany(会社)で、観光協会など一般や公益社団法人が多いほかの日本版DMOと比べ、利益重視の民間の強みを活かして、くまもとの「食」や「観光」のブランディングをはかり、ビジネスチャンス拡大で地域活性のリード役を目指す。

 同社の村田社長はOとCの違いを「OよりCの方が良い意味で〝えこひいき〟ができる」と表現。「行政主導の仕組みでは、プロモーションも公平さが求められ、着地型旅行も補助金がなくなれば継続できない。Cではやる気のあるところと儲かる方向で進められる」とメリットを強調する。ただ、「どこで利益を上げるか」は模索中だ。

 事業概要をみると、調査・マーケティングやDMO設立支援、Webメディア「おるとくまもと」運営、着地型旅行商品や特産品の開発・販売、インバウンドの受入環境整備など多岐にわたる。

 そのなかで、柱の1つがビッグデータなどを活用したマーケティング事業。例えば物産販売は、売れ筋商品や付加価値、最適ターゲット地などを調査・分析し、販路拡大につなげていく。今後、具体的な結果を出すなかで、マーケティング手法も売りにしたい考え。

 2つ目が観光。メインは、雄大な阿蘇の自然を活かした体験型観光。バルーンやパラグライダーなど体験メニューの価値を高め、外国人観光客向けの高単価オプショナルツアーとして販売し、消費額アップをはかる。

 同社の調査では、ハワイの牧場1日アドベンチャーは日本円で1万5千円。バルーン体験は2万円だ。例えば上空でシャンパンを飲み、朝日を見ながら写真を撮る。この特別感が価格以上の価値を高めている。また、イタリアの1泊2日農業体験は1人2万円。

 こうした海外の成功事例を手本に、熊本での観光ビジネスに落とし込み、地域の活性化に活かす。これまでも天草のイルカウォッチングや人吉の球磨川ラフティングなどは成功事例の1つであり、さらに地域との連携で消費アップを目指す。

 同社は旅行業も取得。Webメディア「おるとくまもと」を通じて、着地型商品や宿泊、物産の販売を行う。観光と食の結びつきも強化する。香港では肥後銀行が出資のファンドが4月にレストランを開業。熊本県の食材を使った日本料理を提供している。同社の初年度の売上目標は3億円。1つずつ結果を出しながら、黒字化を目指す。

Webメディア「おるとくまもと」

【山と渓谷社 広告部 斉藤克己氏に聞く】「山の日」2年目、山を観光資源に

山と渓谷社 広告部
斉藤克己氏

 「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことを趣旨に、国民の祝日「山の日」は制定された。実施2年目となる今年。「山」を観光につなげる取り組みも加速中だ。

 山と渓谷社(川崎深雪社長)では、山を観光資源として捉え、「トレッキングツーリズム」の提案に注力している。来訪者や登山後の宿泊増加を通じ、地域での消費促進を目指す。インタビューで、同社広告部の斉藤克己氏は「宿泊をともなう登山者による山旅の回数は、年間約3・6回。一般旅行者の3倍以上旅をしている。ヘビーな旅行者でもある登山者に対し、観光スポットやお土産などを積極的にアプローチするべきだ」と力を込める。

 「トレッキングツーリズム」の狙いは(1)地域に訪れる登山者を増やす(2)地域を訪れた登山者に旅行者になってもらう(3)インバウンド対策――の3つ。ビギナー層を取り込むためにも、適切なプロモーションが必要だ。消費増加につながる宿泊については、下山後の過ごし方を提案するなど登山者の行動パターンに基づく施策が効果的だという。

 「富士登山者に占める外国人旅行者の割合は約3割。日本の自然に興味を持つ方も多く、地域の山々での登山者増も十分期待できる」と続ける。昨年、飛騨県事務所(岐阜県)のインバウンド事業に協力。台湾人観光客をターゲットにしたモニター企画を実施し、山麓の観光とグルメ情報を発信した。

 自治体と提携し、登山や自然愛好者向けの移住定住イベントも開催する同社。昨年は、長野県大町市と福島県の自治体担当者による相談会も実施。参加者のほとんどは移住相談会に初めて参加した人たちで、自治体担当者も驚くほど熱心な質問が飛び交った。集客には、同社が運営する登山情報サイト「ヤマケイオンライン」を活用した。

 移住定住は、一時的な滞在である旅行の延長線上に位置するもの。山を軸に据えた誘致活動は、ターゲットを限定する分、期待できる成果も大きい。

 今後も、山岳情報誌ならではのブランド力で、地域への貢献を果たす構えだ。

【謝 谷楓】

地域活性化事業など学ぶ、8月18日まで参加者募集

飛騨高山観光大学、8月30、31日開く

 観光政策や地域経済の活性化につながる事業などについて学ぶ「第34回飛騨高山観光大学」が8月30、31日、岐阜県高山市のひだホテルプラザで開かれる。対象者は全国の地方自治体や観光協会職員に加えて、観光関連学部の大学生など。運営事務局は8月18日まで、参加者を募集している。

 30日は午後1時から、高山市経済観光アドバイザーの吉澤保幸氏が「地域創生と観光のあり方~場所、時間、ひとの魅力~」について、基調講演を行う。このほか、観光コンサルティング会社である美ら地球(ちゅらぼし)の山田拓代表取締役が「高山周辺の農村風景で思い出深い経験を―SATOYAMA EXPERIENCEの現場より―」を、岐阜県畜産研究所で飛騨牛研究部長を務める向島幸司氏が「飛騨牛の現状と特徴について」の事例報告を発表する。

 特別講演には、東北福祉大学特任教授・県立広島大学客員教授の福岡政行氏が「ジリ貧大国日本の明日―安倍政権はどうなる!?―」をテーマに語る。さらに、午後6時10分から同ホテルを会場に交流会も行う。

 31日は、JA飛騨ミートや飛騨牛記念館を見学する「飛騨牛の理解を深めるコース」、タカネコーン収穫体験や石仏を見学する「高根町の食と文化満喫コース」の各2ルートで市内を視察する。

 参加費は1人6千円(高山市民は無料、交流会参加者は別途3千円)で、2日目の市内視察は飛騨牛コースが2千円、高根町コースが2500円。定員は各25人まで。

 申し込み・問い合わせ=飛騨高山観光大学実行委員会事務局(高山市商工観光部観光課内) 電話:0577(35)3145。

個人客志向へ転換、サービスを劇的に変化

リョケンセミナー 浜の湯で開催

浜の湯・鈴木良成社長

 リョケン(佐野洋一社長)は7月10―11日に静岡県・伊豆稲取温泉で、2017年第1回(通算159回)旅館大学セミナーを行った。1日目は「食べるお宿 浜の湯」の鈴木良成社長が「成長を続ける『浜の湯』の経営戦略」と題し講演。計145人の旅館経営者らが集まった。「浜の湯の『個人客志向』をぜひ学んでほしい」(佐野社長)。浜の湯は完全担当制と部屋出しを徹底し、リピーターを取り込んでいる。個人客旅館を追求するなかで、これまでの変遷を語った。 【平綿 裕一】

 転機は02年の設備投資。「個人客志向へと高質化の転換期だった」(鈴木社長)。昨年の第5期設備投資まで、施設の個人客化をリピーター向けに進めてきた。第5期ではバーラウンジを新設。夕食までの間は3回以上来館して、宿に直接予約した客だけが入室可能。アルコール類を無償で提供し、リピーターにこだわった空間にした。

佐野洋一社長

 ただハード面の施設は個人客・高質化したが、ソフト面のサービス強化が遅れていた。サービスを劇的に変えるため、4年制大学に絞った新卒採用を始めた。

 鈴木社長が会社説明から最終選考まで一貫して行う。学生には選考過程で宿の考え方や方向性を理解してもらい、共有する。「何度も話したうえで、最後まで残ってくれる。だから絶大な信頼がある」。徐々に新卒採用が増え、現在客室係は若年層が半数以上を占める。「これでサービスレベルが大きく上がった」と振り返る。

 さらに「今の時代はいかにリピーターに合うパーソナルサービスをするかが勝負だ」と強調。とくに力を入れるのが顧客カルテだ。来館のたびに新たな顧客情報を追加する。些細な会話から、料理の好みや写真撮影は必要かなど多岐にわたる。情報を元に浜の湯だけのパーソナルサービスを積み重ねていき、リピーターを囲い込んでいく。

 これらを追求するため「完全担当制」「部屋出し」を徹底。客に密接に関わる機会が多く、細かい情報を仕入れることが可能だ。「ものをいうのは情報量。完全担当制と部屋出しはつぶれるまでやっていく」とこだわりを見せた。

 このほか独自の宿泊プラン造成や、団体向けの料理を一品出しへ段階的に変えるなど、間断なく手を打ってきた。宿泊単価は年に1500円ほど上げて、今の平均宿泊単価は3万円を超える。直販の客は7割。繁忙期に全体の3分の1がリピーターという状況だ。「これまでリピーターを少しずつ増やしてきた。徐々に高単価の部屋に宿泊して下さるリピーターが増えた結果、現在に至る」と述べ「まだ成長していきたい」と締めくくった。

 講演後は浜の湯の館内で、参加者はリニューアル後の客室やバーなどを視察。個人客化の変遷を肌で感じていた。


新設のバーラウンジを見学
一圓泰成社長
井口智裕社長

 2日目は彦根キャッスル リゾート&スパ(一圓泰成社長)、越後湯澤HATAGO井仙(井口智裕社長)の代表と社員が講演。「若手社員が主役『私はこんなに旅館が楽しい!』」と題し、社員の業務や働く目的、考え方を発表した。

 次回は12月12―13日、千葉県・木更津三日月温泉「龍宮城スパ・ホテル三日月」を予定。
 
 

託児所委託契約を締結、女性が働きやすい環境を(RAKO華乃井)

白鳥和美社長

 長野県・上諏訪温泉のRAKO華乃井ホテル(白鳥和美社長)はこのほど、諏訪市内にある託児所「ももいろのきりん」と、地域初となる外部託児所の委託契約を締結した。同施設で働く子育て世代の女性スタッフが働きやすい環境を整えるため、託児料金の一部を補助。託児所は優先的に受け入れ、要望により営業時間外の託児も行う。

 今回の託児所委託契約について白鳥社長は「女性が働き続けられる企業にしたい。結婚出産を機会に退社を選択させてしまうことにずっと心を痛めていました」と語る。サービス業は女性スタッフに支えられていると言っても過言ではない。人をもてなすことができるサービス業が好きで、生涯の仕事にしたいと願う女性も少なくないという。「しかしながら、当社のような宿泊業では土・日曜が休みでなく、シフト制で不規則な業種(労務体制)なため、出産後は非常に働きづらい環境となります」。

 子育てをする女性の一番の悩みは「子供を家で1人にできないこと」だ。その悩みを解決するため諏訪市内にある公共的な託児所の利用などを検討したが、延長託児の時間にも限界があり、また週末や年末年始などの多忙期には開所しないなど、実動に添った体制ではなかった。「社内託児所も検討しましたが、中小企業の当社では運営が難しいため、断念しました」と話す。

 そのような苦悩が続くなか、2つの機会が同社に訪れる。1つは産休後、苦労しても正社員として復職したいと申し出た女性スタッフが数人いたこと。そして同社の勤務形態にも対応してくれる託児所に出会えたことだ。「さっそく託児施設代表の平田由喜美さんにお会いして悩みを打ち明けたところ、共感していただけ、まずは復職する女性スタッフのために2人で準備を進めてきました。ようやくその仕組みができ、同施設との外部託児所の委託契約が締結し、スタッフが安心して子育てをしながら復職できる環境が整いました。これにより宿泊業でキャリアアップを諦めていたスタッフが仕事を継続できる仕組みの第1歩が踏み出せました」と白鳥さんは語る。

 「当社で働く子育てと仕事に頑張る女性スタッフが働きやすいようにしたい」という思いから、今回の支援内容は正社員に限らず、短時間労働契約者(週30時間以上)も対象とした。

 「人財確保が難しいと、企業が嘆いてばかりではいけないと思います。人財育成をすべての企業が最重要項目として取り上げている延長線に、育てた人財を活かすべく企業が従業員に寄り添う時代が来ています。今回地域でも初となる託児所と当社との契約がきっかけとなり、諏訪地域が女性スタッフがより働きやすい優しい企業が集積する地域に向かっていくことが私の喜びです。ぜひ我が社がモデル社となり、多くの中小企業がこの仕組みを使って『子育てをガンバル女性に優しい諏訪市』が今以上に広がっていくことを願っています」と力を込めた。

 託児所「ももいろのきりん」は、0―9歳児を対象に開業。働く女性が利用しやすいよう営業時間が自由にできる認可外をあえて選択している(許認可の要件はそろっているがあえて認可にしていない)。営業時間は午前8時―午後10時(最大翌日2時)まで。お盆、年末年始を除いて無休。相談すれば時間外も対応している。所在地は長野県諏訪市四賀赤沼1676―2。

地元産品の再建支援、新事業創生と販路拡大へ、ふくしまみらいチャレンジPJ

テスト販売も実施

 「ふくしまみらいチャレンジプロジェクト」は6月に2年目を迎えた。同事業は2011年の東日本大震災以降に、避難指示などの対象となった同県被災12市町村の事業者を支援するもの。地元で親しまれる産品や伝統工芸品の再建を後押し、新たなビジネスの創出と、販路拡大をはかる。1年目は52事業者を支援。2年目は倍増の100以上の事業者を目指す。^t【平綿 裕一】

 福島相双復興官民合同チームと連携し、経済産業省の委託事業「17年度地域経済産業活性化対策委託費(6次産業化等へ向けた事業者間マッチング等支援事業)」の取り組みとして、ジェイアール東日本企画が受託し運営している。

 対象は(1)田村市(2)南相馬市(3)川俣町(4)広野町(5)楢葉町(6)富岡町(7)川内村(8)大熊町(9)双葉町(10)浪江町(11)葛尾村(12)飯舘村――の被災12市町村。地域の持続的な経営確立・産業創出を目指し、まちの復興をサポートする目的がある。

 支援はヒアリング後に事業者ごとに方針を検討・決定し、具体策を講じる。例えば昨年度は専門コンサルタントを派遣することで、商品力強化をはかった。

 既存商品の名称やパッケージデザイン、キャッチコピーなどを改良。マーケティングやブランディングも見直した。首都圏などで「ふくしまみらいチャレンジキャラバン」の特設コーナーを設置。支援を通じて開発・改良された商品を中心にテスト販売を実施した。

 一方、伝統工芸品の存続にも力を入れた。「大堀相馬焼」は避難先で原料入手が困難となった。派遣した専門家は「新しい大堀相馬焼」を提案。現在入手可能な原料の使用や、現代のライフスタイルに合わせた新作開発をアドバイスした。

 この取り組みで生まれた「新たな大堀相馬焼」は、全国規模の「テーブルウェアフェスティバル」に出展するまでに至った。このほか事業者間のマッチング交流会も開くなど、昨年度はさまざまな手を打って出た。

 被災から6年経ったが、帰還や移転後の事業再開は難しさが残る。引き続き被災12市町村のより多くの事業者を積極的に後押しして、再起をはかる。

No.467 インスタグラム×お祭り×アナリティクス、地域へ集客、ベンチャーが実現

インスタグラム×お祭り×アナリティクス
地域へ集客、ベンチャーが実現

独自の発想と高い技術力で、自治体といった大組織では着手し難い分野にチャレンジするベンチャー企業。IT(情報技術)化とグローバル化が加速するなか、集客力や競争力を高めるためにも、ベンチャーの持つ創造性は味方に付けたいところ。今回、SNSの活用から、お祭りを通じた地域活性、位置情報解析まで、集客に直結する分野で活躍するベンチャー企業が集まり、地域を盛り上げる施策や、連携の可能性を語り合った。ベンチャーならではの発想を取り込むキッカケにしてほしい。

【司会進行・構成=謝 谷楓】

 

【座談会参加者】
石川 豊 社長 ナイトレイ
加藤 優子 代表 オマツリジャパン
松重 秀平 執行役員 テテマーチ

※順不同

 ――SNS(交流サイト)の活用を通じて期待できる成果について。

松重:テテマーチは、SNSのなかでもとくに、インスタグラムに特化したサービスを提供しています。インターネット上で写真コンテストを開くことのできるキャンペーンCMS(コンテンツ管理システム)「CAMPiN」を提供し、主に地域の観光協会が利用しています。
自治体が指定したハッシュタグを付ければ、誰でも気軽に地域の景色やお祭りのようすを発信し、写真コンテストに参加できます。閲覧者の共感を誘い、訪れたいと思ってもらえるキッカケとなるため、来訪者の増加を期待できます。
一例ですが、栃木DC(デスティネーション・キャンペーン)県央地域分科会の場合、写真コンテストに地域住民も参加してもらえる工夫をしました。その結果、地域の魅力を再発見することができました。例えば、地域の養蜂園で販売しているジェラートの写真が投稿され、インスタグラムで共感を呼んだことがありました。地域住民が、ガイドブックにも載っていないコンテンツを見つけて発信し、知名度や集客アップに貢献できたのです。

加藤:インスタグラムでの投稿を促す秘訣はありますか。
実は以前、インスタグラムを利用し、お祭りの写真コンテストを行ったことがあったのですが、投稿数が思うように伸びなかったことがありました。

松重:ポスターやフライヤーを利用してPRする自治体もありますが、“フォトジェニック”な場所など、環境づくりから始めることが大切です。写真コンテストでは、優勝者に特産品をプレゼントするなど、インセンティブを通した投稿喚起も必要です。撮りためた写真を眠らせている方の投稿を誘うことにもつながります。

 ――共感を通じて来訪を募る取り組みと、位置情報の解析は相性が良いと思います。ナイトレイとの連携の可能性について教えてください。

石川:2社の連携は十分可能です。例えばキャンペーンを行う際、企画理由の裏付けとして、ナイトレイの位置情報解析データを活用できるのではないでしょうか。
ナイトレイが提供する「インバウンド インサイト」では、訪日外国人旅行者の位置情報にフォーカスし、国籍のほか、口コミや写真といったSNSの内容から、旅行者がどこで何に興味を持っているのかを把握できます。データに基づいた、地域ごとの滞在人数の推移や、来訪者数の予測も行うことが可能です。

 ――活用事例を教えてください。

石川:自治体のインバウンド担当者だけでなく、イベントやキャンペーンの企画を提案する広告会社の方々が利用する機会が多いですね。客観的なデータに基づく解析結果を知ることができるため、企画内容をもう一歩引いた視点で俯瞰できるのです。企画したキャンペーン設計自体をブラッシュアップすることも期待できます。

 ――お祭りを主催する際、ターゲットの設定時に利用できそうですが。

加藤:ターゲットの選定について、意識する方としない方がいて、地域によって温度差があるようです。さまざまな施策を行い、チャレンジを続けるなかで、次の一手が分からないという自治体がとくに興味を持つのではないでしょうか。
外国人に対し、ブランドを訴求したいと考える企業は多いため、「欧米系/30歳代男性が集まる地域はどこか」を知りたいという需要は高いはずです。ナイトレイが行う解析結果を伝えることで、企業と自治体の連携をサポートできるのではないでしょうか。

――自治体と企業をつなぐ役割も、オマツリジャパンは果たしているようです。

加藤:オマツリジャパンではほかにも、企画運営といったお祭りのプロデュースや、訪日外国人旅行者向けの、お祭りを楽しむツアーを催しています。青森県のねぶた祭りに参加してもらうなど、地域の方々との交流を通じ、日本の“粋”を体感してもらうよう努めています。…

 

※ 詳細は本紙1678号または7月27日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

民泊 ― 見知らぬ個人が予め善意を期待する

 福岡県福岡市で民泊を利用した外国人女性に乱暴し、強制性交等致傷の疑いで貸主の男が容疑者として逮捕される事件が発生した。「住宅宿泊事業法」(民泊新法)が今年6月9日に成立し、来年初めにも施行されるなかでの事件となった。

 被害を受けた女性は、容疑者が民泊施設として提供したワンルームマンションをインターネットで予約していたという。

 民泊を考えるとき、まず頭に浮かぶのが、やはり安全性についてだ。今回のようなケースでは貸す側、借りる側の双方にリスクが生じる。また、出火の危険性や騒音、近隣のルールに従わないゴミ出しの問題もこれまで数多くの事例として紹介されている。多くの民泊仲介サイトでは貸主と借り手を相互評価するレビュー制度を設けており、安全対策としてかなり有効に機能していると、一定の評価も受けていた。

 しかし、今回の事件は、民泊が内包する〝闇〟の部分が改めて強調された。

 旅は基本的に「危険なもの」である。旅館やホテルであっても、さまざまなトラブルに巻き込まれる可能性は否定できない。初対面の一般の個人を信頼して宿泊する民泊は、旅のリスクがさらに上がる。

 旅館やホテルと同じように、民泊施設の提供者も旅行者を宿泊させることができる。だが、旅館・ホテルと民泊は明らかに違う。

 旅館・ホテルは旅行者を宿泊させるためにさまざまな法律の遵守が義務付けられ、長い歴史を築いてきた。一方、民泊は「空いたスペースを有効活用する」という経済効率的な観点が優先され、ようやくできた法律がさまざまな犯罪やトラブルを後追いしている状態だ。

 この事件が生じたから、「民泊は危険極まりない」と声高に叫ぶつもりはない。もちろん、良心的に施設を提供している貸主はたくさんいる。しかしながら、民泊には危険も潜んでいるという、当たり前の認識を旅行者がしっかりと持つことが大事だと思う。

 民泊は見知らぬ者同士の善意に基づいている。旅館業、ホテル業という宿泊を生業とするプロ集団ではなく、未知の個人と個人の信頼に基づいたマッチングに委ねる。予め一度も会ったことがない見知らぬ人の善意に期待し、依拠しながらの旅は、脆く、どこか居心地の悪さを感じさせるのだ。一般的に、個人間の信頼というのは長年の付き合いのなかで生まれるもの。そして、信頼関係は人間のウェットな部分だ。そのウェットな部分に頼りながら、初対面というドライな関係。そこに少し違和感を覚えてしまう。

 旅館やホテルは宿泊客を守る法律でしばられている。玄関付近にフロントのカウンターがあり、宿泊者以外の不審者にも目を光らせる。旅館では、女将さんや支配人が笑顔で声を掛ける。仲居さんやフロアスタッフらが常に館内を歩きまわり、また宿泊者同士でも監視の目が働いている。私は、スタッフが働くなかで宿泊する安心感を、いつも肌で感じている。

 旅館やホテルはもっと民泊との違いをアピールすればいいと思う。朝に食事処で炊き立てのご飯や地元の新鮮野菜、採れ立ての魚を出す努力。また、宿を出るときに、玄関でずっと手を振りながらお見送りする。愚直だが、旅館の存在証明としては強烈だ。

(編集長・増田 剛)

米メタサーチ大手、本格参入、日本に人員を配置、投資も(カヤック)

デビー・スー氏(左)、山下雅弘氏

 世界大手のメタサーチ(旅行横断検索エンジン)、KYAK(カヤック)が日本に本格参入へ――。米国・プライスライングループのカヤックは2014年に日本語サイトを開設し、法人を設立した。一方、人員は配置していなかったが、今年の4月、日本カントリーマネージャーとして山下雅弘氏を起用した。今後、マーケティング予算の増額など投資を行い、日本市場へ本格的に乗り出していく。
【飯塚 小牧】

 カヤックはOTA(オンライン旅行会社)や航空会社など数百の旅行サイトなどを横断検索し、ウェブサイトやモバイルアプリで、希望に沿った航空券やホテル、レンタカー、航空券とホテルのパッケージ商品の情報を提供している。04年に米国で設立して以降、世界40の国・地域で20言語に対応したサービスを展開。世界で毎年15億回の検索を処理し、アプリは6千万回ダウンロードされている。ビジネスモデルとしては、広告やクリック数、サイトを通した予約数で収益を上げている。

 価格比較サイトにとどまらず、旅行者に便利なツールを用意しているのが特徴で、価格の最新情報を配信するプライスアラートや料金予測、旅程管理機能などがある。とくに、旅程管理機能の「トリップス」は、検索保存から予約管理、旅行プランの作成まで1つで行える無料ツール。他社サイトで予約したものもメールで送信すると取り込むことができる。空港までのリムジンバスの予約内容や航空券の座席番号、現地でタクシードライバーに表示できるホテルの住所など、旅行者が求めるものを備える。

 7月11日、東京都内で開いた会見で、同社シニアバイスプレジデントのデビー・スー氏は今回の参入について「日本市場は航空会社などプレイヤーが多く難しいが、重要な市場だと捉えているので本格的なマーケティングを行う」と語った。これまで日本語サイトはとくにPRはしていなかったが、毎月ユーザーは伸びている状況で、勝機はあるという。「日本ではまだ小規模なプレイヤーだが、我われはグローバル企業なので、提携先も世界ベースで有しているのが強み」と、他社との違いを示した。

 また、日本やアジアは欧米と違い、モバイルからのアクセスがパソコンよりも多く、近距離ではモバイルで検索から予約まで完了する傾向がある。今後は日本人が好むホノルルや台湾、バンコクなど近距離の目的地のデータ発信などにも注力していく考えだ。「日本ではメタサーチやOTAの違いなどの教示も必要だと思う。より多くの人に活用してもらえるよう発信していきたい」。

 日本カントリーマネージャーの山下氏は国内でのブランド事業展開と運営を担う。現在、日本のOTAや航空会社との提携を進めており、大手OTAやLCC(格安航空会社)は概ね契約に至っている。今後の課題は国内では欠かせない鉄道。「旅行者が検索したときに求める情報があるようなサイトにしなければならない」と意気込んだ。

 一方、民泊は今後注力して伸ばしていく分野だと捉えている。民泊予約サイトのホームアウェイとは提携しており、米国ではすでに物件が表示されているが、今後、日本でも公開を検討する。

「トリップス」のモデル画面