鴈治郎襲名披露公演、組織態勢の強化もはかる、四国こんぴら歌舞伎大芝居

協議会会長の小野正人琴平町長があいさつ
協議会会長の小野正人琴平町長があいさつ

 香川県琴平町の現存する日本最古の芝居小屋「旧金毘羅大芝居(金丸座)」で、来年4月9日に初日を迎える第32回四国こんぴら歌舞伎大芝居(琴平町、同推進協議会主催)の公演発表が11月9日、同町公会堂で行われた。

 今公演は、中村翫雀改め四代目中村鴈治郎襲名披露と銘打ち、今年1月に襲名披露した四代目中村鴈治郎のほか、座頭を務める人間国宝の坂田藤十郎、テレビなどでも活躍する片岡愛之助と市川中車ら豪華俳優陣が脇を固める。

 4月24日まで、午前と午後の1日2部公演。演目は第1部が「彦山権現誓助剱毛谷村」、「四代目中村鴈治郎襲名披露口上」、「幸助餅」、第2部が「あんまと泥棒」、「鷺娘」、「恋飛脚大和往来封印切」。幸助餅、あんまと泥棒、封印切の3つがこんぴら歌舞伎初披露となる。あんまと泥棒では片岡愛之助と市川中車が競演する。

 発表会で協議会会長の小野正人町長は、今公演をこんぴら歌舞伎の新たな元年と位置付け、組織態勢の強化をはかったことを報告し、「こんぴら歌舞伎を国内のみならず、海外にも広くPRしたい」と意気込みを述べた。

 組織強化では、裏千家第十五代家元の千玄室大宗匠、文学博士の中西進氏を「文化顧問」に迎え、東日本旅客鉄道の大塚陸毅相談役やJTBの田川博己会長ら7人が「顧問」に就任した。

 受入協議会の近兼孝休会長(琴平グランドホテル会長)は、顧問就任要請に東奔西走したエピソードを紹介したうえで、「(顧問という)大きな重しができた。これを生かしていくことが我われの使命。新しいこんぴら歌舞伎をつくっていきたい」と話した。

 協議会の顧問は次の各氏。

 【文化顧問】裏千家第十五代家元・千玄室大宗匠▽文学博士・中西進氏【顧問】東日本旅客鉄道・大塚陸毅相談役▽JTB・田川博己会長▽ANAホールディングス・竹村滋幸副社長▽自由民主党歌舞伎振興協議会・中曽根弘文会長▽日本政府観光局・松山良一理事長▽日本商工会議所・三村明夫会頭▽日本観光振興協会・山口範雄会長【相談役】元衆議院議員・森田一氏▽観光庁・田村明比古長官【最高顧問】金刀比羅宮・琴陵容世宮司【常任顧問】四国こんぴら歌舞伎大芝居受入協議会・近兼孝休会長

温泉入り、ご利益を、「三大祈願祭」を初開催(栃木・板室温泉)

古くから湯治客に親しまれる板室温泉
古くから湯治客に親しまれる板室温泉

 古くから「下野の薬湯」として全国から多くの湯治客が訪れる板室温泉(栃木県那須塩原市)の宿泊施設12軒は、来年1月1日から4月24日まで、湯口に御札を供えた温泉に入りご利益を得てもらう「板室温泉三大祈願祭」を初めて開く。

 実施期間は3期に分かれ、各施設の温泉湯口に、1月は関節炎・神経痛治癒にご利益がある「板室温泉神社」、2月は乳がん治癒にご利益がある「篭岩神社」、3―4月は子宝にご利益がある「木の俣地蔵」でそれぞれ祈願された御札が供えられる。同所は板室地域の三大パワースポットとしても知られ、担当者は「得たいご利益に合わせてお越しいただき、湯治の里として親しまれる板室温泉で心身を癒していただければ」と話す。

「板室温泉神社」
「板室温泉神社」

 4月24日には供えた御札をすべて焚き上げる「三大祈願御焚き上げ」が行われ、当日は餅つきなどの催しも企画する。今後も同祈願祭は、冬の恒例イベントとして毎年実施する予定で、湯治による長期滞在客などを視野に、板室温泉のリピーター獲得につなげていきたい考えだ。

 合わせて冬の宿泊プランとして、市内の塩原温泉とともに「ぽかぽか冬の旅プラン」も発売する。24施設が参画し、地産食材を使った鍋料理などの「各宿自慢のあったか料理」、熱燗やホットミルクなどの「温かいワンドリンク」、暖かい部屋で楽しむ「アイスクリーム」が付く限定プランとなっている。設定期間は、12月1日から来年2月29日(12月31日―1月3日除く)宿泊分まで。

 問い合わせ=那須塩原市観光局 電話:0287(46)5326。

被災地を訪れて ― 教育旅行でも“ガイドなし”の現場

 先日、岩手県陸前高田市と宮古市田老の被災地を訪れた。現地ガイドさんの案内で、東日本大震災を体験したうえで、防災意識を強く持つことの大切さや、その防災意識を今後も薄れさせないための努力、また、復興に向けたまちづくりの課題などについて深い話も聞けた。

 近く本紙で記事として紹介する予定だが、そのときに少しショックな場面に出会ってしまった。

 陸前高田市の震災遺構「道の駅高田松原」の前で、現地のガイドさんから案内を受けていたときに、1台の大型貸切バスが到着した。ガイドさんは案内する次の団体客のバスかと思い、近づいて行くと、約束していた団体とは違うバスだった。

 停車したバスから大学生たちが30―40人降りてきた。若い学生たちは大津波によって破損したままの道の駅の前に佇み、写真を撮ったり、眺めたりしていた。

 道の駅の外壁には、津波が到達した高さ14・5メートルの印がつけられている。すぐ近くに建てられた「陸前高田復興まちづくり情報館」では震災の状況や復興に向けての取り組みなどもパネルで紹介されているのだが、学生たちは震災遺構の前で何の説明もなく佇むだけだった。

 見かねたガイドさんが、学生たちに話しかけると、ガイドも何もないのだという。そこでガイドさんは約束している団体のバスが到着するまでのわずかな時間、学生たちのために、ミニガイドを始めた。すると、あっという間に地元ガイドさんの周りに学生たちの輪ができ、説明を聞きながら被災地を、さっきとは違った目で見渡していた。

 被災地を学びに訪れた学生の団体に、現地ガイドを付けないというのは、どういうことだろうと、考えた。もちろん、被災地を自分の目で見て、何かを感じ、そして自分で考え、疑問に感じたことをさらに自分で調べるというのが学習であるという考え方もある。しかし、実際に災害を体験した現地の人たちの声を聞き、その場で疑問を投げかけ、それに対する答えについて再度考えていくといった他人との「対話」がなければ、より深く考えることは難しい。

 所詮、人間個人の考えなんて多寡が知れている。自分の価値観を壊されるような強烈な体験こそが、価値ある体験であり、語り部による震災学習には、その可能性が埋まっている。

 最近は、学校の教育旅行でもバスガイドを付けないケースが多いと聞く。貸切バスの新運賃・料金制度に移行して以降、ツアー料金が値上がりしたため、教育旅行の現場でも、バスガイドをやむなく諦めざるを得ないという現象が起こっている。

 今回の東北の震災被災地を訪れた取材旅行では、何人かの現地ガイドさんに話を伺う機会を得た。震災からまもなく5年を迎えようとするなかで、ガイドとしてどのように伝えたらいいのか、古文書で地元の歴史を調べたり、地質学者に直接取材をしたり、記憶が薄れる前に被災者の声を収集してまわったり、日々考え続けられていた。

 これは被災地に限ったことではない。その地を初めて訪れる旅行者や、より深く知りたいと思う人々に対して、まちの案内役となるガイドの役割は大きい。旅行会社も料金交渉ばかりのツアー造成では味気ない。できる企画マンは、良い現地ガイドや、バスガイドさんを知っている。

(編集長・増田 剛)

旅館軒数4万1899軒、ピーク時の半数近くに(15年3月時点)

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 旅館軒数ピークの約半数に――。厚生労働省が11月5日に発表した2014年度「衛生行政報告」によると、14年度末現在の旅館営業件数は前年度比3・4%減の4万1899軒と1年間で1464軒減少し、1980年代に8万3226軒でピークとなった旅館軒数から半数近く減少した。一方、ホテル営業軒数は同0・7%増の9879軒と、70軒の増加となった。宿泊軒数(簡易宿泊施設、下宿含む)は前年度に比べ、621軒減少し7万8898軒だった。

 「旅館減少・ホテル増加」が叫ばれるなか、今回の調査でもホテルは70軒増加した。一方、旅館軒数は前回の1381軒減少に対し、今回は1464軒の減少と、減少幅はさらに大きくなり、旅館減少の流れに歯止めがかからない状態だ。

 客室数でみると、旅館は前年度比2万5252室減の71万19室となった。ホテルは同7377室増の83万4588室となり、ホテルと旅館の客室数の差は12万5千室近くと、依然としてその差は広がり続けている。

 山小屋やユースホステル、カプセルホテルなどの簡易宿所は2万6349軒と前年度の2万5560軒から789軒増加した。下宿は771軒で前年度の787軒から16軒減少した。

 都道府県別にみた旅館軒数は、静岡県が2857軒で最も多く、以下は(2)長野県(2426軒)(3)北海道(2391軒)(4)新潟県(2002軒)(5)三重県(1510軒)(6)福島県(1401軒)(7)山梨県(1298軒)(8)栃木県(1297軒)(9)千葉県(1203軒)(10)東京都(1194軒)。前年10位だった兵庫県に変わり、東京都が新たに10位となった。

 トップ10位は前年度比ですべてマイナスとなった。一方、ホテル軒数の上位は(1)北海道(689軒)(2)東京都(675軒)(3)長野県(520軒)(4)兵庫県(421軒)(5)福岡県(393軒)(6)静岡県(376軒)(7)大阪府(371軒)(8)沖縄県(363軒)(9)埼玉県(362軒)(10)神奈川県(331軒)の順となった。

 前年8位の沖縄県と9位の埼玉県の順位が入れ替わったほか、トップ10は東京都、静岡県、大阪府を除き増加した。

 政令指定都市の旅館軒数は、京都市が380軒と最も多く、以下は(2)大阪市(377軒)(3)名古屋市(251軒)(4)熊本市(188軒)(5)浜松市(179軒)。

 一方ホテル軒数は、(1)大阪市(297軒)(2)札幌市(174軒)(3)福岡市(167軒)(4)京都市(162軒)(5)仙台市・横浜市(134軒)の順となった。

No.418 「民泊」をめぐる問題、多角的な視点で考える

「民泊」をめぐる問題
多角的な視点で考える

 インバウンドが急増するなか、首都圏や関西圏など都市部を中心にホテル不足が深刻化している。一方、米国発のAirbnb(エアビーアンドビー)など、ネット上で旅行者と、マンションや一軒家を貸したい人を仲介するサービスが進出し、旅館業の営業許可を得ずに外国人旅行者を宿泊させる“ヤミ民泊”問題も大きな課題となっている。国家戦略特区として大阪府は条例可決し、東京都大田区も一定条件のもと規制が緩和される見通しだ。民泊問題についてさまざまな立場から、多角的に意見を集めた。(14面に続く、3面に関連)
【編集部】
 
 百戦錬磨の上山康博社長は10月28日、東京都内で開かれたライターズネットワークセミナーで講演。その内容の一部を紹介する。

 最近、「民泊」に対する関心が高まっています。今の日本で「旅館業法」をしっかりと理解して、ルールを守ろうとすると、民泊は法律違反になります。抜け道的な、“グレー”は“白”ではないので、「アウト」です。当社の旅行者と体験型の宿をマッチングする「とまりーな」に関しては、遵法精神に則り、現行法に沿って運営しています。

 東京や関西などの都市部では、ビジネスホテルの稼働率や、単価も高くなっています。年間の訪日観光客1900万人程度でこの状態で、2千万人、3千万人に拡大したらパンクしてしまいます。これに対応するためには、ホテルを新たに作るか、すごく遠いエリアに泊まっていただくか、もしくは今のストックで宿泊できるものに変えていく(コンバージョン)しかありません。…

 

※ 詳細は本紙1609号または11月26日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

規制や取締り徹底、観光庁に要望書を提出、JATAが民泊問題で

 日本旅行業協会(JATA、田川博己会長)は11月11日、民泊の規制緩和に対する考え方について、旅行業法に沿った仕組みの整備や違法民泊取り締まりの徹底を求める要望書を観光庁長官に提出した。

 JATAは「特定の地域(特区)」と「外国人限定」を前提とした民泊の取り扱いを行うことについては賛意を表するとし、これに関しては外国人旅行者の安心・安全の確保を最重要視することで旅行の質が担保され、リピーター増につながり、旅行会社としても旅行業法に沿った取り扱いを行うことができるとの考え方を示した。

 その一方で、特区外地域での違法民泊を防止する観点から、今後の海外取次斡旋業者の規制や、施設提供者の取り締まりの徹底も訴える。国内・訪日旅行推進部の興津泰則部長は12日の定例会見で「宿泊関係団体と我われは現在の観光産業を作ってきた関係。宿泊関係の皆様の大きな動きへの支援という意味も込めている」と述べた。

 以下、現在の特区に対する考え方と現状の民泊に対する対応を求める要望書の内容。

 【要望内容】

 1.旅行者の安心・安全を制度として確保することに加えて、旅行業者が旅行業法に則り取り扱いできる仕組みの整備

 (1)消防、食品衛生等、安心・安全を担保するルールの構築(2)国家戦略特区施行令及び内閣府・厚生労働省が通知した、「外国人滞在施設経営事業の円滑な実施を図るための留意事項」の周知徹底と遵守(3)消費者保護の観点から、滞在する施設の設置や管理に瑕疵(かし)があることによって外国人旅行者に損害が生じたときは、施設の提供者が賠償を確実に実施するルールの構築。

 2.地域住民(近隣住民)の理解を得るためのルール作り

 なお、事業用に供する施設を使用させる期間については、特区毎の地域の宿泊施設の状況を考慮して設定していただきますようお願い申し上げます。

 一方、特区以外の地域における違法な民泊を防止する観点から、海外取次斡旋業者の規制や、施設の提供者に対する取締りの徹底も大変重要なことであり、併せて要望させていただきます。

以上

 また、興津部長は「宿泊旅行はパッケージ商品として大変大きなウエイトを占める」と述べ、民泊の仕組みが旅行業界に与える影響についても言及した。「制度が無い状態の民泊と競合することを考えると、JATAとしてはしっかりした考え方を示していこうという話が出てきた。特区内の制度が今後の緩和策に最大の影響を与えると予測し、我われはまず、現在認可されている特区内だけでも旅行会社としてきっちり斡旋できるものを求めていく」と述べた。

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「全国拡大は反対」、健全な観光産業の発展を(JATA)

 民泊問題について、日本旅行業協会(JATA)の国内・訪日旅行推進部の興津泰則部長は、規制緩和へ「日本独特のビジネスモデルを崩す必要があるのか」と疑問視する。民泊への対応はJATA内で議論している最中(10月29日時点)だというが、根本にあるべきは「健全な観光産業の発展」とし、「特区における対応をしっかりしなければならない。全国に広げることは反対だ」と声をあげた。

 旅行会社の立場として、顧客への安全が最も優先されるなかで、民泊は安全が担保されていないことや、ビジネスパートナーであり、法を遵守している地域の旅館・ホテルへの送客を重視したい意向だ。「東京のホテル不足は今だけの話で、そのために全国のビジネスモデルを崩すことはない。一極集中が問題で、地方旅館の稼働率は3割というところもある」と地域分散の必要性を訴えた。

 一方で、従来からの農村漁村への民泊や古民家、町家などへの宿泊は「切り離して考えるべき」と強調。「ホームステイの需要はある。これは単なる部屋貸しとは違う」と見解を示し、Airbnb(エアビーアンドビー)など、無人のマンションの1室などを個人が利益目的で貸し出す行為を問題視した。

生産者と消費者つなぐ、跡見女子大が着地型発信

メガホンを持ち「やな」を説明する学生(左側)
メガホンを持ち「やな」を説明する学生(左側)

 道の駅「もてぎ」(栃木県茂木町)と跡見学園女子大学(山田徹雄学長)はインターンシップ共同企画として、着地型観光「道の駅もてぎ×跡見学園女子大学 もてぎの里山 秋の味覚満喫ツアー」を10月24日に茂木町内で開催した。学生が地域の人々と共同で地元の隠れていた魅力を発掘・発信し、地元生産者と都会の消費者をつなげた。

町長自ら現場をトップセールス
町長自ら現場をトップセールス
右側が学生が考案したそば
右側が学生が考案したそば

 ツアーのテーマはサケの遡上と秋の味覚。参加者は「秋サケのチャンチャン焼き」や学生が考案した田舎そばなど、茂木町ならではの秋の味覚を楽しんだ。茂木町を流れる那珂川はサケの遡上シーズンで、川に設置する仕掛け「やな」に掛かるサケのようすも見られ、参加者は「やな」の仕掛けに実際に触れながら、学生の説明に耳を傾けた。古口達也茂木町長もツアーに同行し、地域資源や生産現場を紹介するなどトップセールスを行った。

 学生は今年6月から、茂木町の道の駅や生産現場を視察し、観光資源の発掘を行い、今回のツアー造成のほかにも地域商品の開発も手掛けている。
 
 
 
 
 
 
 
 

第3の居場所

 家でも職場でもない、心地よい居場所「サード・プレイス」。都市におけるカフェなどを指すことが多いが、1時間に1―2本の地方単線電車の「駅」が今、第3の居場所として注目を集めている。

 静岡・天竜浜名湖鉄道の中間程にある都田駅。薬局と待合室があるのみの築50年の無人駅舎だったが、薬局の閉店を機にリノベーション。地元の都田建設とコラボレーションし、今年5月「駅Cafe」が誕生した。待合室・プラットフォームと一体化したカフェのほか、地域住民の趣味サークルの拠点、シャワー施設を併設しサイクリストの拠点としても機能している。

 駅は、住む人と訪れる人をつなぐ、開かれた居場所なのかもしれない。一杯のコーヒーを楽しむため、電車を乗り継ぐ人も少なくないそうだ。

【森山 聡子】

民泊の規制を緩和する前に、広島修道大学商学部・富川久美子教授(観光学博士)

 民泊の法的問題が議論されるなか、規制を緩和する自治体が現れた。この背景には、登録件数が全国で1万1千件とされ、法的にはグレーゾーンにあるとされる「Airbnb」の広がりがある。折しも国内の宿泊事情は、供給不足にあり、オリンピックを控えてさらなる需要増加も見込まれる。さらに、増加する空き家の利活用や地方創生など、民泊の推進要素が多くあり、現状ではその是非が充分に議論されないまま規制緩和が進行する恐れがある。今後の日本の方向性を問うなかで示唆を与えるのが民泊利用の旅行が急増した欧米の先進事例である。

 民泊を利用しながらの旅行は「カウチサーフィン」と言われ、2004年にインターネット上に公開されたグローバル・コミュニティ「Couchsurfing」が元になっている。その後、急成長したのが08年に設立された「Airbnb」である。登録物件数は、15年4月1日現在、パリに約4 万件(前年比58%増)、ロンドンに約2万5千件(同65%増)、ローマに約1万5千件(同70%増)と、その規模と成長ぶりは日本とは比較にならない。

 欧米では民泊利用が広がったことで、さまざまな苦情や事件、訴訟が増え、また民泊は日本と同様、多くの自治体で法的にもグレーゾーンにあるとされていた。しかし近年、「Airbnb」を想定した自宅やアパートの賃貸の対策に取り組む国や地域が増えた。ヨーロッパでは規制を強化し、新たな税制や罰金制度を導入する傾向があり、アメリカでは規制緩和を進め、より多くの税収をはかる傾向にある。このような違いは、国や地域の事情によっても異なり、ヨーロッパでも、負の効果より正の効果を強調するところもある。とくに「Airbnb」の客はホテルより滞在期間が長く、観光地以外の地方にも泊まり、低所得者層のホストには所得の増加につながるためである。

 民泊の規制は、強化するにしても緩和するにしてもさまざまな条件設定が考えられる。地方創生の政策や宿泊施設の保護などを念頭に、それぞれの地域の実情に即した独自の施策に取り組むことが望まれる。

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 富川久美子 立教大学大学院観光学研究科博士後期課程修了。JTBトラベランド興業、ニュージーランド政府観光省、ドイツ・バイロイト大学研究員などを経て、2010年から現職。研究テーマは地域活性化政策と観光、農村・島嶼観光など。著書に「ドイツにおける農村政策と農家民宿」(農林統計協会)。

訪日旅行の促進へ、中国旅行社と合弁会社(HIS)

平林社長(左)と呉社長
平林社長(左)と呉社長

 エイチ・アイ・エス(HIS、平林朗社長)と同程国際旅行社(LY.com、呉志祥社長、中国江蘇省)は11月4日、訪日旅行のさらなる促進に向けて、新たに合弁会社を設立することで基本合意書を締結した。両社は日本に新会社を設立することで日本の豊富な観光素材の仕入れを強化。24時間運営のコールセンターも設置し、中国の顧客のニーズに対応したスピーディなサービスの提供、今後の訪日中国人旅行者のシェア拡大を目指す。

 LY.comは中国のレジャー旅行のオンラインサービスをリードする旅行会社で、「レジャー旅行ナンバーワン」を戦略目標に近年急成長を遂げている。同社の携帯アプリ「同程旅游」のインストール件数は8億件を突破しており、今後さらなる成長が期待されている。同社の呉社長は、今回の締結について「HISは日本のみならず世界中の旅行商品やサービスを提供している。私たちはHISの胸を借りながら、国際的なサービスの質を高めていきたい」と語った。さらに、HISの平林社長はLY.comの近年の成長率を称え「今回提携を組むことで、中国人のお客様を満足させられるようなサービスを一刻も早く作っていきたい」と意気込んだ。

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 新会社設立に当たりHISは62カ国に展開する海外現地法人のインバウンド観光商材を新会社に提供し、LY.comのサイトを通じ中国発の海外旅行として販売。そのほか、同社グループの1つで、中国からの訪日客実績トップクラスのジャパンホリデートラベルが、日本の観光素材を提供し、ホテル事業、テーマパーク事業など、同社グループが持つ観光素材を新会社とLY.comを通じて中国市場に向けて販売する。また、日本人の中国行き旅行においては、LY.comが独自に仕入れる観光素材、中国高速鉄道、ホテルなどをHISの販売網を通じ日本の旅行者に向けて提供。相互の強みを存分に活用するとともに、顧客満足を追求しウイン―ウインの関係を築いていく。

 新会社の営業開始日は11月中を予定している。