2025年7月12日(土) 配信
第2次トランプ政権発足後、世界的に自国第一主義やポピュリズムの台頭などによって民主主義の危機が深刻化している。危機の打破のためには「地域社会」の復権が必要不可欠であり、日本においてもそれぞれの地域なりに「民産官学の協働」によって地域資源をより良く活用しながら地域活性化をはかることが求められている。
北海道では20年前の2005年から「シーニックバイウェイ北海道」事業が展開されている。シーニック(scenic)は「景色のよい」、バイウェイ(byway)は「わき道」の意。道をきっかけにして、地域に暮らす人が主体になり、企業や行政と連携・協働しながら、美しい景観づくり、活力ある地域づくり、魅力ある観光空間づくりを行う取り組みだ。現在全道くまなく15の指定ルート、2つの候補ルートがあり、約500団体が活動している。
シーニックバイウェイ北海道事業は、これまでの20年間の内に、多様な効果を挙げている。①地域への愛着・誇りの醸成②旅の快適性の向上・ストレスの少ないツーリング環境の形成③地域ブランドの形成④交流人口の拡大⑤地域産業の振興⑥地域における雇用の拡大――などだ。
21年からは各地域が厳選した「秀逸な道」のプロモーションが行われている。例えば「支笏湖ブルーに出逢う道」、「樹海に佇む天空の道」、「汐風薫るいにしえの道」、「一面の流氷が織りなすグレートネイチャーを体感する道」など、一度はツーリングしておく価値のある「秀逸な道」だ。
北海道はシーニックバイウェイに象徴されるツーリングに最適の秀逸な道が数多く存在すると共に、一方では歩いて楽しむフットパスも数多く存在している。現在の北海道には29のフットパスが整備されており、歩いて自然や景観や生き物たちとの出会いを楽しみながら、センス・オブ・ワンダーを感じることができる。北海道ではアイヌ語の「歩く」を意味する「アプカシ」を用いて、フットパスのプロモーションを行う動きも生じている。
北海道旅行においては、ツーリングとウォーキングをうまく組み合わせることによってゲスト(旅人・観光客)の楽しみを倍増させることが可能になり、ホスト(地域住民)の側の魅力ある観光空間づくりや活力ある地域づくりへの貢献も期待できる。

北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。