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〈旬刊旅行新聞7月11日号コラム〉観光から健康へ 温泉地滞在の新たな可能性が広がる

2019年7月11日
編集部:増田 剛

2019年7月11日(木) 配信

健康への意識を高めることで温泉地滞在の新たな可能性も(写真はイメージ)

  休日に宮ヶ瀬ダムや奥多摩湖などで、自転車に乗った人たちを多く目にする。長い、長い山道で、きっとキツイはずなのに辛そうなそぶりを見せない。彼(彼女)らの健康的で、ストイックな姿勢に感心してしまう。目的地に到着したときの達成感は容易に想像できる。帰路の山頂から続く、下り坂の爽快感は「頑張った自分への最高のご褒美であろう」と、オートバイで追い越しながら一人呟いた。

 
 そんな光景を見続けたせいか、先日、何年かぶりに自転車に乗った。「鈍った体を動かしたい」。潜在的な健康意識が自分の中でも高まっていたのだと思う。ハンドルを握り、ライディングポジションを確認し、力強くペダルを漕ぐと、自転車は下り坂を颯爽と走った。「こんなに自転車とは気持ちのいいものだったのか」と再認識した。

 
 しかし、心地よい下り坂はあっという間に終わった。平坦な道が続くと、使い慣れていなかった脚の筋肉は悲鳴を上げ、情けないが、次第に言うことを聞かなくなった。必然的に訪れる帰路の長い上り坂では、高齢者に抜かれてしまう始末。それでも「健全な疲れ」によって、その夜は深い眠りに落ちた。

 

 
 最近は夕方1時間ほど歩いたり、ビールではなくてノンカロリーコーラを飲んだり、健康に無頓着だった自分も少しずつ体のことを気にするようになってきた。プロスポーツ選手が自分の肉体を厳しく管理する姿には遠く及ばないが、「充実した旅を続けるには、最低限のメンテナンスが必要」な年齢に差し掛かってきたというのが実感だ。

 

 
 周囲を見渡すと、老若男女を問わず、健康意識の高まりを感じる。日常生活だけでなく、旅行中でもその姿勢は一貫している。リゾート地や出張先でも、ウォーキングやトレーニングルームで汗をかくことを欠かさない人も多い。男性客中心の歓楽型から脱却し、家族連れや女性客でにぎわう温泉地も増えている。個人客向けに少量でも美味しい、ヘルシーメニューを研究する宿も散見する。滞在中の過ごし方も時代とともに変化する。カラオケルームが並ぶ大型旅館も、最新器具を備えたトレーニングルームに改修すれば、新しい客層へのセールスポイントになるかもしれない。

 
 昭和的な、「温泉地でどんちゃん騒ぎ」というニーズは、これからも無くなりはしない。だが、長い湯治の歴史が物語っているように、温泉地こそ、健康や美容との相性が良い。

 

 
 温泉地が観光地化して以来、温泉旅館は今も1泊2食の滞在スタイルが主流である。だが、国内で「観光」を主目的に旅行者を長期滞在させることができる温泉地はそう多くない。だとしたら、「観光」から「健康」へと視点を移せば、新たな可能性が広がるのではないか。

 
 長期滞在客を受け入れるには温泉を中心に、周辺の湖、川、海、山など自然と触れ合える散策路や、空間の整備が不可欠だ。最先端のトレーニングジムやエステルームなどもあるといい。そこに良心的な料金設定で、美味しいレストランやカフェが根付き、趣味のいい小さな美術館や、独特な図書館などが木立の中にあれば、上質な客が集まってくる。こう書きながら、なんだか「大分県の由布院温泉のようだな」と思ってしまった。温泉地は、健康と美への意識を高めることが、滞在客を増やしていく最短の道筋だと思う。

 (編集長・増田 剛)

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