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〈旬刊旅行新聞2月1日号コラム〉観光振興には 地域の基礎力がなくては難しい

2019年2月1日
編集部:増田 剛

2019年2月1日(金) 配信

ものづくりの力の衰退を観光政策でカバーできない

 2018年の訪日外国人旅行者数は初めて3千万人を突破し、3119万人と過去最高を記録した。一方、日本人出国者数も1895万人と過去最高となった。20年に訪日客4千万人という大きな目標も射程圏内に入ってきた。

 観光立国に向けて、着々と前進しているように映るが、国の経済を支える基盤の1つである訪日外国人旅行者の消費額は約4・5兆円まで伸びたが、20年の目標額8兆円には遠く及ばない。「滞在中に、いかに楽しんでお金を落としてもらうか」が知恵の絞りどころであり、夜のエンターテインメントや飲食を楽しんでもらうナイトタイムエコノミーの促進や、地方への誘客が不可欠である。このようななか、観光公害などの現象も顕在化している。都市部や有名観光地などでは、「数」から「質」への転換に悩む地域も出てきているのが現状だ。

 「外国人観光客ばかりだった」という言葉を耳にすることが多くなった。これは外国人旅行者が急増したというだけではなく、日本人の旅行者が減っていることも意味している。

 数年前に訪れたときには、外国人旅行者の姿が珍しかった観光スポットも、今は「外国人の中に日本人が何人か混じっている」という逆転現象をしばしば目にするようになった。世界中の有名観光地は、大体似たような状況なのだろうが、地域の秩序やバランスが壊れると、荒廃した印象を与えることになる。

 静寂さや、落ち着きを好んで古くから訪れていた客が遠のき、まったく別の雰囲気に変わってしまった光景を目の当たりにすると、「後戻りできない道を進んでいるのではないか」と、心配になってしまう。

 観光立国が国の政策の柱となり、今や地方自治体も、観光立県、観光立市に向けた推進計画を策定している。人口減少時代に入り、全国レベルで過疎化や少子高齢化が進むなか、交流人口を増やそうと、観光客受け入れの整備を推進していくこと自体は、素晴らしいことである。しかし、観光産業を振興していくうえで土台となる地域の基礎力がなければ、なかなか難しいと考える。

 観光業をサービス業として捉えるならば、第3次産業に分類される。近年は、農業・林業・水産業など第1次産業と、鉱工業・製造業・建設業など第2次産業と掛け合わせて、6次産業の重要性なども語られているが、地域の地力は、ものづくりによって支えられている。ものづくりとは、文化の力である。

 このものづくりの力が弱体化している地域に、いくら観光の力で活性化しようと考えても、例外的に成功するケースもあるかもしれないが、足腰の衰弱を取り繕う感じが否めない。

 有名観光地には、雄大な自然を誇るスポットも多いが、日本では京都や奈良、世界を見てもエジプトのピラミッドやギリシャのパルテノン神殿、イタリアのローマなど、古代から中世、近代、現代に至るまで、文化の中心地に人々は引き寄せられてしまう。これらは観光地を作ろうとして観光地になったわけではない。現在、「どうしたら観光客が増えるか」と悩んでいる地域も多い。表層的な取り組みで「観光立市」などを標榜するよりも、堅実に、ものづくりのまちや、農業のまちを目指し、地道に豊かな文化を積み上げていく方が、観光振興には近道だと思う。

(編集長・増田 剛)

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