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「観光革命」地球規模の構造的変化(193) アクセシブル・ツーリズムの時代

2017年12月2日(土) 配信

すべての人が参加可能な観光を

 昨年から今年にかけて、世界的にAccessible Tourism(アクセシブル・ツーリズム)が話題になった。UNWTO(世界観光機関)は毎年特定の年間テーマを設定し、世界各地で各種事業を展開している。UNWTOの昨年のテーマはTourism for All: Promoting Universal Accessibility(すべての人が参加可能な観光の促進)であり、障がい者や高齢者を含めた旅行者が快適に観光できる「アクセシブル・ツーリズム」の推進が取り上げられた。

 UNWTOはアクセシブル・ツーリズムを年間テーマに掲げていたが、今年6月に鹿児島県の奄美空港で不幸な出来事が起った。半身不随の男性が飛行機に搭乗する際に階段式タラップを1段ずつ腕ではって昇らされた、という出来事だった。車イスの男性(大阪府居住)は往路で関西空港から奄美空港にLCCバニラ・エアで向かったが、関空の搭乗カウンターで奄美空港には車イスで昇降できる設備がないという説明を受け、奄美空港到着時には友人が車イスごと持ち上げてタラップを降りた。復路でも同様に友人が車イスを持ち上げようとすると、業務受託の担当者は危険で規定違反なので自力で昇るように指示し、タラップに座るような姿勢で自力で17段昇らされた。そのような対応を疑問視した障がい者が国土交通省に連絡したためにバニラ・エアが当人に謝罪し、現在では奄美空港にも電動式階段昇降機が設置されている。

 世界的にすでにアクセシブル・ツーリズムの推進が重要課題になっており、日本でもバリアフリー・ツーリズムなどの名称で各種団体が創られ、高齢者や障がい者らが気軽に安心して旅を楽しめるようにハード面での整備とソフト面でのサービスが広がりつつある。

 日本ではすでに75歳以上の後期高齢者が1641万人、身体障がい者が393万人も存在するので、アクセシブル・ツーリズムの基盤づくりは不可欠だ。一般社団法人日本UD(ユニバーサルデザイン)観光協会は独自に「観光介助士」資格の認定を行っている。観光介助士は旅行観光サービスと介護福祉サービスに精通したプロフェッショナルとしての資格で、観光立国の本格化に伴うアクセシブル・ツーリズム推進に不可欠の人財である。今後の資格制度の進展に期待したい。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森 秀三)

コラムニスト紹介

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

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