test

訪日外国人旅行者が急増 ― 受け入れる宿の方針を考える時期

2015年3月1日
編集部

 訪日外国人観光客の勢いが止まらない。昨年、1341万人と史上最高値を記録したかと思えば、日本政府観光局が発表した15年1月の推計値は、前年同月比29・1%増の121万8400人。しかも、昨年は中華系の旧正月の休暇が1月下旬からだったのに対し、今年は2月中旬から下旬であるにも関わらず、約3割増とは驚異的な数値だ。韓国は同40・1%増、中国は同45・4%増と、両国が牽引している。

 とりわけ、中国人観光客の“爆買い”が注目を浴び、百貨店などの売上も好調という。14年の日経MJヒット商品番付で「インバウンド消費」が東の横綱にランクされるなど、経済界全体が訪日外国人観光客の消費動向に目を光らせている。

 訪日外国人客を迎え入れる旅館・ホテルにも少なからず影響が出ているようだ。多くのエリアで外国人宿泊客が飛躍的に伸びているという話を耳にする。そして、最近、新たな流れとなって脚光を浴びているのが、海外の富裕層をターゲットとした1泊2食5万円以上の高級旅館や客室だ。

 外国人団体客が一挙に旅館に押し寄せる格安ツアーは、「忙しいばかりで利益はあまり出ない」が、富裕層の個人客の場合、旅館にとっては歓迎すべき客なのだろう。しかし、一方で「外国人観光客で満館になり、日本人がまったく入らない宿になってしまう」ことへの戸惑いを感じているご主人もいる。

 外国人観光客は、世界情勢や社会的な影響を大きく受けやすい。東日本大震災や原発事故のあと、訪日外国人観光客数は大きく減少した。また、近隣諸国と政治的な問題が発生した場合にも、人的交流に冷や水を浴びせ合う傾向が強まる。さらに、紛争、テロ、パンデミック、為替変動にも敏感に反応する。

 これに似た構図として、遠方から旅行者が宿泊する旅館が、災害や風評被害によって旅行者が訪れなくなったとき、「頼りになるのが地元の客だ」という話だ。

 急増する訪日外国人客と、最大市場である日本人の国内旅行の客との受け入れの重点をどのように配分いくか、宿の方針を考える時期でもある。

 前号で、東京・谷中の澤の屋旅館がまとめた「訪日外国人宿泊客調査」を取り上げた。同館のホームページにも掲載されているので、今後訪日外国人の宿泊客を受け入れようとする宿や、自治体、旅行会社の関係者にも参考になる部分がたくさんあるはずだ。館主の澤功さんは「外国人旅行者を受け入れようとされる宿など、少しでも多くの方にこの調査が参考になればうれしい」と話す。

 澤の屋旅館には、多くの外国人が宿泊する。これだけなら他にも同じような旅館やホテルはあるだろう。しかし、東日本大震災の後、多くの旅館が、外国人観光客が減少して苦しむなか、澤の屋旅館では世界中のリピーターが戻ってきて、驚くような早さで、震災前の稼働率に近づいていった。

 観光産業として世界中の外国人観光客に目を向け、迎え入れる姿勢は素晴らしい。しかし、外国人旅行者を一人の人間として深く付き合っていく覚悟があるだろうか。単に「インバウンド流行り」だからといって、何も考えず安易に流れに棹を差し移ろっていくのなら、旅館はかつて来た道を繰り返すかもしれない。

(編集長・増田 剛)

いいね・フォローして最新記事をチェック

PAGE
TOP

旅行新聞ホームページ掲載の記事・写真などのコンテンツ、出版物等の著作物の無断転載を禁じます。