「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(227)」鬼が仏になった里(大分県豊後高田市)

2023年12月24日(日) 配信

修正鬼会が開かれる天念寺講堂(豊後高田市)

 大分県豊後高田市といえば、真っ先に浮かぶのは「昭和の町」であろうか。

 豊後高田は、昭和40年代までは国東半島で最も栄えた商店街だったが、大型店の郊外出店や過疎化のため、一時は「犬と猫しか通らない」と言われるほど寂れた状態となっていた。この町で、2001年に始まった町おこしでは、衰退して建替えもままならない昭和30年代以前の古い町並みを逆手にとって、中心商店街の町並みを保存・再現、これを観光まちづくりの拠点にするという逆転の発想であった。

 しかし、今回の目的は、この昭和の町周辺に広がる田染荘や、国東半島全体に散らばる六郷満山と呼ばれる寺院群である。六郷とは両子山を中心とした山稜の間に開かれた6つの郷、満山はそこに築かれた寺院群を指し、古くから六郷満山文化と呼ばれる独特の山岳宗教文化が栄えた。

 豊後高田市と国東市の日本遺産ストーリー「鬼が仏になった里」は誠にユニークな物語である。鬼と言えば、恐ろしいものの象徴だが「くにさき」の鬼は人々に幸せを届けてくれる。おどろおどろしい岩峰の洞穴に棲む「鬼」は不思議な法力を持ち、鬼に憧れる僧侶たちによって「仏(不動明王)」と重ねられていった。火祭りの修正鬼会の晩、共に笑い、踊り、酒を酌み交わす。「くにさき」では人と鬼が長年の友のようにつながれる、といった物語である。

急峻な崖の上にある五辻不動(国東市)

 国東半島の溶解岩のゴツゴツとした地形は、誠に鬼たちが棲んでいそうな異界を思わせる。地域には、鬼たちが腕力で大岩を割り、その石を積んで一夜で石段を造ったなど、鬼にまつわる伝説も数多く残されている。その鬼に出会える夜が「修正鬼会」である。鬼たちは松明を持って暴れまわり、火の粉が舞って咽るような煙が充満する。鬼に松明で尻を叩かれる荒々しい「御加地」という神事があるが、寺の講堂では、悲鳴よりも村人たちの笑い声がよく響いている。

 そんな鬼たちに僧侶たちはむしろ憧れた。国東の6つの郷には、最大65カ所の寺院が開かれ「六郷満山」と呼ばれる仏の世界が創られた。平安時代、この地に密教文化が入ってくると鬼たちは不動明王に重ねられるようになる。国東では、不動明王は丸顔で優しい表情をした像が多い。怖い鬼も仏になって人々の願いをかなえてくれるという、誠に稀有な地域である。修正鬼会は、江戸時代まではすべての寺で行われていたが、現在も岩戸寺や天念寺などの寺院で受け継がれている。

 11月下旬、この豊後高田に九州・沖縄全域の15の日本遺産地域が集い、その相互交流と連携を目的とするキックオフシンポジウムが開かれた。誠に広域な連携で、その方向性は全くこれからだが、「九州沖縄大国」というメインビジュアルも完成、これからいくつかのテーマによる横串しを入れて、事業ベースの連携を進める意向である。新たな試みに期待したい。

「提言!これからの日本観光」 〝ライトレール〟

2023年12月23日(土) 配信

 直訳すれば「軽快鉄道」ということになるだろうが、要するに〝近代的〟路面電車のことを意味する新語である。

 かつて日本の大中都市には、ほとんど何等かのカタチで〝路面電車〟が運行し、「市電」などとも呼ばれる住民の身近な足として親しまれていた。

 しかし、路面の軌道上を多くの自動車が走るなど電車の走行環境が厳しくなり、定時運行の確保が難しくなってきたため、乗客離れを招き、次第に大都市の路面電車は廃止されていった。

 今では走行条件のよい道路の場合を除き路面電車の走る街は極めて少なくなった。有名な都電荒川線は都電とはいうものの、元私鉄だったため、ほとんどが専用軌道だったので、今も含め乗客の利用があって盛況である。

 一方、外国とくに欧州諸国では、路面電車が今も残る街が多い。それは多くの場合、路面電車と歩行者のためとして「車」の乗り入れが制限されている道が多いためである。路面電車が廃止されていったのは、路面電車の軌道上を多くの自動車が走り電車が交通渋滞に巻き込まれて定時運行ができなくなったからにほかならない。

 日本の多くの都市がそうであったように軌道敷内の自動車通行を認めたことがその原因の1つであった。路面電車と歩行者(自転車)の道路としている都市や、道路の幅が広く自動車が軌道上を走る必要のない都市では今も路面電車が健在なのはこのことを物語る。

 日本で長く路面電車を維持してきた例として長崎市と広島市が挙げられるが、長崎は前者の広島は後者の例といえよう。両市では今も路面電車が市民の重要な足であり続けている。しかも、路面電車の存続している都市が少なくなったその都市にとって路面電車は街の大きい観光資源とさえなっていることは、感慨深い。

 路面電車が多く残る欧州諸国では、道路が狭いこともあって電車軌道には自動車の乗り入れを認めない街さえ存在する。路面電車は、道路から極端な場合家の玄関先から気軽に乗車できる市民に身近な足として、その役割を果たしていることも多い。

 また自動車に比べはるかに収容人数も多く、今なお都市の確実かつ重要な交通手段である。路面電車をこれからも市民の足として守っていくためには、道路条件にもよるが電車道は電車と歩行者(自転車)道路とし、自動車との分離交通をはかるべきではないだろうか。

 欧州の大都市で今も路面電車が大きい役割を果たしているのは、このような交通調整(道路との役割分担)に成功したからではないかと考えられる。排気ガスのないクリーンでエネルギー効率の高い路面電車の見直しが求められるようになった。そのためには、道路の効率的な利用方法の確立も前提となる。

 

 

須田 寛

 

日本商工会議所 観光専門委員会 委員

 
須田 寬 氏
 
 
 
 

広島駅・みどりの窓口の混雑状況を見える化 混雑情報プラットフォーム「VACAN」導入(JR西日本)

2023年12月22日(金) 配信

みどりの窓口の待ち時間がモバイルページやデジタルサイネージで確認できる

 西日本旅客鉄道(JR西日本)はこのほど、JR西日本広島駅に、バカン(河野剛進代表、東京都千代田区)が提供する混雑情報配信プラットフォーム「VACAN」を導入する。同駅のみどりの窓口の混雑抑制や、待ち時間の短縮につなげ、利用者の満足度・利便性向上を目指す。

 空きや混雑状況を検知し配信する機能を持つ同サービスのなかで、今回はAIカメラで可視化する「VACAN AIS」と立札式のセンサーを用いて、みどりの窓口の混雑状況や待ち時間を自動で判定し、配信する。

 この取り組みでは、AIカメラで窓口の行列を検知し、立札式センサーから稼働している窓口をそれぞれ検知する。これらのデータを組み合わせることで、リアルタイムに待ち時間を知らせる。利用者は、窓口前に設置されたデジタルサイネージや、モバイルページなどから待ち時間を確認できる。

九州産業交通HD、BYDのEVフォークリフト販売 熊本のカーボンニュートラル実現へ

2023年12月22日(金) 配信

販売するフォークリフト

 エイチ・アイ・エス(HIS)グループの九州産業交通ホールディングス(岩間雄⼆社長、熊本県熊本市)はこのほど、中国の自動車メーカーBYD製のフォークリフトの販売・整備などを⾏うBYD FORKLIFT JAPAN(髙草⽊健⼀社長、群馬県館林市)と正規販売店契約を結んだ。BYDのリチウムイオンバッテリー搭載電動フォークリフトの販売することで、熊本のカーボンニュートラルの実現に貢献する。

 同フォークリフトは国内の既存のエンジン車両に劣らない高出力で動く。また、10年間のトータルコストを内燃式や鉛電池式に⽐べ低減することができる。メンテナンスは九州産交のグループ会社が担う。部品は国内に用意する。

  BYDはこれまで、世界約 30 カ国の物流倉庫や製紙、⾷品、機械・製造業界など 1000以上の事業者に利用されてきた。1.6㌧から8㌧までの最大荷重となる⾞両を展開しているのは、BYD FORKLIFT JAPAN のみだという。

JTB、長野県で3カ所目 安曇野市に「旅先納税®」導入

2023年12月22日(金) 配信

電子商品券「あづみのギフト」を返礼品に

 JTB(山北栄二郎社長)は12月22日(金)、ギフティ(太田睦・鈴木達哉社長、東京都品川区)と連携し、長野県安曇野市でふるさと納税として電子商品券を返礼品とする「旅先納税®」を始めた。長野県では、軽井沢町、山ノ内町に続いて3カ所目となる。

 ギフティが提供する「旅先納税®」は、旅行・出張などで訪れた自治体にスマートフォンでふるさと納税ができる取り組み。返礼品として、安曇野市内の加盟店である宿泊施設や飲食店、レジャー施設、土産物店などで使える電子商品券「あづみのギフト」が受け取れる。寄附はスマホで簡単にでき、電子商品券はその場で発行され、旅先ですぐに使用できる。

 「あづみのギフト」の受け取り・利用の際に、アプリのダウンロードは不要。「あづみのギフト」寄附サイトにアクセスして納税者情報を登録後、寄附金額を選び、クレジットカード決済で納税完了となる。利用する際は、サイト画面から電子商品券利用ページを通して店頭の二次元コードを読み取り、使いたい金額を入力し、店の人に支払い完了画面を見せて確認したうえで支払うことで完了する。

 返礼品券種は、寄附額1万円で「あづみのギフト」3000円分、2万円で同6000分、5万円で同1万5000分、10万円で同3万円分を付与する。利用期限は寄附した日から180日間。

イタリア政府観光局がサイト「イタリアの城」開設 城と要塞の魅力紹介

2023年12月22日(金) 配信

観光地として16州の城や要塞の魅力を紹介している

 イタリア政府観光局(ENIT)はこのほど、観光スポットとして城と要塞の魅力を紹介する特別サイト「イタリアの城」を開設した。サイト内やエリアページは英語となるが、日本語全訳のPDFをダウンロードできる。

 特別サイトは16州の協力で都市部から秘境の城や要塞を紹介している。イタリアは北から南まで個性的な城や要塞があり、歴史と文化の舞台になってきた。現在は博物館になっているものや、食事のできるレストラン、豪華な宿泊施設、結婚式場など幅広く利用されている。

 ロンバルディア州では、城を囲む城壁や難攻不落の要塞、街を見下ろす景色などが楽しめる。湖の絶景を望むシルミオーネのスカリジェーラ城砦、画家アンドレア・マンテーニャの絵画で埋め尽くされた部屋があるマントヴァのサン・ジョルジョ城など、宮廷生活を感じることができる。

エミリア・ロマーニャ州の城

 エミリア・ロマーニャ州の城ではおとぎ話のような体験ができるという。長い歴史を持つ土地のため、争いや愛憎、陰謀、征服を経験した城が点在。現在は州内約100の城が観光客を受け入れており、ルネッサンス時代のままの城に宿泊することもできる。

ユタカ交通、メタバース上で観光コンテンツ提供 国内外の若者との接点創出へ

2023年12月21日(木) 配信

ゲーム内に公開した和歌山城

 バスや旅行事業などを展開するユタカ交通(豊田英三社長、和歌山県和歌山市)は12月21日(木)、和歌山新城下町DMC(西平都紀子会長、和歌山県和歌山市)とメタバース和歌山実行委員会を立ち上げ、メタバース上で観光コンテンツを提供する観光DX事業「METAVERSE WAKAYAMA(メタバース和歌山)」を始めた。同事業の総投資額は約1億円。経済産業省の事業再構築補助金を活用した。

 VRやeスポーツなどのテクノロジーを活用し、国内外の若者世代との接点創出をはかる。

 第1弾として、同日現在ユーザー数が5億人を超えるオンラインゲーム「Fortnite(フォートナイト)」上に和歌山城のマップを公開する。ユーザーは、ゲーム内の同城でほかのプレイヤーと戦ったり、アイテムなどを収集することができる。これにより、同城の認知度や好感度につなげ、観光需要の創出をはかる。

 今後は地元企業と連携し、県を舞台にしたeスポーツ大会を実施する。このほか、特産品を購入できるECショップやVR観光ツアーなどを催行。和歌山城下町の事業者で30億円の新規の経済市場を目指す。また、将来的には同社でメタバースクリエイターを育成し、新たな雇用も創出も目指す。

「ONSEN・ガストロノミーツーリズムコラム」 地域一体で支笏湖を守り活用(北海道・支笏洞爺国立公園)

2023年12月21日(木) 配信

さまざまなアウトドアを楽しみに毎年多くの人が訪れる

 支笏洞爺国立公園の一部、日本トップクラスの水質を誇る支笏湖は、新千歳空港から車で約40分、札幌からも約1時間とアクセスしやすく、登山やキャンプ、カヌー・カヤックなどさまざまなアウトドアを楽しみに毎年多くの人が訪れます。

 多くの人が訪れる場所だからこそ、地域住民と関係機関とが協議し、支笏湖の利用に関する13の項目からなる「支笏湖ルール」を策定しました。地域や関係機関、賛同企業らが、清掃活動やパトロール、マナー啓発を実施するなど、「保護と活用」の取り組みを地域一丸となって進めているのも、この場所の特徴のひとつです。

 併せて、環境省が進めるアドベンチャートラベルを推進し、登山・トレッキング、カヌークルージングなどのコンテンツの高付加価値化にも取り組んでいます。 

 1年を通じて美しい景観を楽しめる支笏湖。冬の季節には、毎年開催するここならではのイベント、「千歳・支笏湖氷濤まつり」にもお越しいただきたいですね。

 来年は1月27日から2月25日までの開催で、高さ13㍍の巨大タワーや湖周辺の自然をモチーフにした氷山、湖の眺望が楽しめる展望台などが造られる予定です。また、昨年好評だった地元ガイドによる氷濤まつりや支笏湖の歴史、氷のオブジェが創られる過程などの解説ツアーも行います。

 支笏湖の透明度の高い湖水で造る氷のオブジェは昼には息をのむほど美しい氷の造形を、夜はライトアップされ幻想的な風景で、来場者を楽しませてくれます。

【千歳観光連盟 観光部担当部長 佐々木 智秀】

「地方部には限りない可能性がある」 24年は地方中心の訪日誘客に注力(髙橋観光庁長官)

2023年12月21日(木) 配信 

髙橋一郎長官

 観光庁の髙橋一郎長官は12月20日(水)の会見で、2023年を通して「水際対策の緩和や全国旅行支援など、新型コロナ禍の復活から持続可能な観光の実現に向けて、大きな歩みを進めた1年だった」と振り返った。24年の抱負として、「日本の地方部は限りない可能性を持っている。全国津々浦々、あまねく観光客を迎えていくにあたり、地方を中心としたインバウンド誘客を戦略的に行っていく」と意気込みを述べた。

 3大都市圏の外国人のべ宿泊者数は、2023年5月に19年水準を超え、9月は回復率132・9%となった。

 髙橋長官は、「観光立国の復活に向けた取り組みを、観光関係者の皆様と全力で進めて行った結果、国内外の観光需要が確実に回復してきている」との受け止めを示した。

 一方で、地方部では90・7%の回復率に留まっており、「宿泊先の地域によって、観光需要の回復は偏在傾向にある。インバウンドの地方誘客を力強く推進していく」と力を込めた。

 訪日外国人旅行消費額は、23年1~9月累計で3兆6000億円となった。観光庁は、「この勢いが維持できれば、政府目標である年5兆円も期待できる」としている。また、国内旅行消費額においても、1~9月累計で16兆1591億円となり、政府目標の年20兆円達成を視野に入れている。

 回復が遅れている海外旅行については、「双方向交流が国際間交流の本質。引き続きアウトバウンド回復に向けて取り組みを進めていく」とした。

 24年は、業界の構造的な課題である収益性・生産性の低さがコロナ禍で顕在化したことを受け、観光産業を「稼げる産業」「持続可能な産業」に変革し、日本の基幹産業へ育てていく方針を示した。

 また、人材不足については、「待遇面や働き方を含め、観光業が魅力ある産業として、持続可能なカタチで発展する基幹産業になることが貴重な人材を確保していくことにつながる」として、取り組みを進めていく。

 観光需要増に伴って、政府は10月末、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を策定した。

 北海道・ニセコエリアではオーバーツーリズムが例年冬季に発生している。これに伴い、北海道運輸局は、シャトルバスや周遊バスの運行、他地域からタクシー車両と人員を派遣するなどの取り組みを行っている。オーバーツーリズム抑制のため、観光客、地域住民、従業員が円滑に移動できる交通手段の確保を行う。

コンプライアンス問題 業界の信頼回復求める

 23年11月、大手旅行会社5社による談合疑いで、公正取引委員会による立ち入り検査が行われた。度重なる不正事案発生について、観光庁は11月16日(木)、日本旅行業協会に(JATA)対し、再度の全会員の受託業務の総点検と、コンプライアンス向上に向けた検討を指示した。

 髙橋長官は、「業界の自助努力だけでは限界があると判断し、外部有識者を踏まえた委員会の設置を指示した。外部の専門的な知見に基づき、原因究明を徹底的に行って、再発防止策の策定・実行を踏まえ、クリーンな業界に生まれ変わってもらいたい」と話した。

全旅連青年部、2月14~15日宿フェス2024開催 日本経済牽引する業界へ決意示す

2023年12月21日(木) 配信

宿フェス―2024 Ryokan Festival in Tokyoのロゴ

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部(塚島英太部長)は2024年2月14(水)~15日(木)、東京ビッグサイト(東京都江東区)で国際ホテル・レストランショーと併催し、宿観光旅博覧会「宿フェス―2024 Ryokan Festival in Tokyo」を開く。旅の魅力の紹介で、2030年度の訪日外国人旅行者6000万人の達成に寄与し、観光宿泊産業が日本経済を牽引する業界になることへの決意を示す。

 宿フェスはコロナ禍からの宿泊業界の反転攻勢の狼煙と位置づけ、22年2月7~8日に初めて開催。2日間に約3万人が来場した。

 会場では、全国47都道府県の青年部員や旅行会社、輸送機関、行政などがブースを出展。日本文化の体験のほか、日本の食と酒の魅力を紹介するイベントなど行う。インバウンド旅行市場のさらなる活性化、需要の最大化を目指すため新たな企画の立案も予定している。