“相互交流通じて学ぶ”、IT化戦略など業種超えて

内藤耕氏
内藤耕氏

サービス・イノベーターズ・フォーラム2015開く

 サービス産業革新推進機構(内藤耕代表理事)は15年11月27、28日の2日間、東京都・秋葉原で「サービス・イノベーターズ・フォーラム2015―21世紀に求められるサービス産業の像」を開いた。現場の改革を通じて、サービス・イノベーションを目指す企業の経営者や現場の実務者が相互交流と学びの場として毎年開催しているが、内藤氏は冒頭、「参加者同士の相互訪問や交流が活発化している。交流を通じて学んでいくことを大事にしていきたい」と強調した。

 今回は「中小サービス企業のサービス・プロセスの標準化とIT化戦略」をテーマに、医療法人北星会の島野雄実氏らが講演。島野氏は「医療業界では告知は可能だが、広告は不可など差別化が困難な状況にあるなか、サービスに特化した」とし、とくにIT化に力を入れ、インターネットでの診察時間の予約・問診を可能にするなど待ち時間を短縮させることで、小さな子供を持つ親などに好評を得ていった事例などを紹介した。一方、内藤氏は「ITの強みは情報のスピードと思われがちだが、最大の強みは情報が劣化しないこと」など、情報伝達の正確性などを指摘した。

 「これからのサービス企業経営の新潮流」では、酒商山田の山田淳仁氏や滋賀県・おごと温泉「湯元舘」の針谷了氏が講演。山田氏は日本酒の売り方として(1)売れ筋商品を売らない(2)価格競争をしない(3)小さな単位で売る(小口多数)――などと決め、お客や仕入先へのアドバイザーサービスで支持を得たことなどを紹介した。針谷氏は「現状の改革・改善を社風にしていくべき」とし、自館でのさまざまな現場の改善例を説明した。

 「サービス企業の仕組み化とグローバル展開」では、無印良品名誉顧問の松井忠三氏が「小さな改善の積み重ねしか進歩することができない」など、豊富な経験から得た経営哲学を語った。

NIPPON MONO ICHI

 「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」表彰式が1月22日に東京・新宿の京王プラザホテルで開かれる。

 表彰式に合わせて、旅館・ホテルの売場を見直し土産品の販売拡大を目指す「売場改革プロジェクト」の一環として、中小企業基盤整備機構が支援し開発された全国のモノづくり事業者の商品展示会「NIPPON MONO ICHI」を祝賀会場で実施する。

 販路開拓を支援する中小機構の地域活性化パートナー企業である旅行新聞新社が協力するもので、日本全国の地域の特色を活かした商品をこれまで取引がなかったホテル・旅館やドライブイン・観光施設などに紹介して、新しい売場改革や客室備品のヒントにしてもらうのが狙いだ。気になる商品が見つかれば、ぜひ一度試験的に導入してみてもらいたい。

【古沢 克昌】

野口冬人「温泉・山・旅」資料室、観音温泉に15年12月オープン

観音温泉の鈴木和江社長
観音温泉の鈴木和江社長

貴重な蔵書約3000点展示

 静岡県・観音温泉(鈴木和江社長)は15年12月13日、同温泉敷地内の正運館多目的コーナーの一角に、旅行作家・野口冬人氏が約60年にわたり蒐集してきた温泉や山岳、旅行、民俗などの蔵書約3千点を展示する「野口冬人『温泉・山・旅』資料室」をオープンさせた。鈴木社長は「長いお付き合いをさせていただいている野口先生には色々と教わりました。下田の文化をさらに深める一助になればうれしい」と話す。
【増田 剛】

 旅行作家の野口冬人氏の旅や温泉、山岳関係の資料室を観音温泉で開設する構想は3年前から練られていた。

 蔵書は野口氏が約60年をかけて旅と温泉、山などの取材、執筆で蒐集した各種資料3千点余りで、旅行業界の歴史そのものである。とくに長年の取材活動で集められた、年度別に色分けした約50冊に及ぶファイルに貼り込まれた全国の旅館・ホテル・各市町村発行のパンフレットは、その時代の旅行業界の動きを知る貴重な資料だ。

旅行業界の歴史や動きを知ることができる貴重な資料がずらり
旅行業界の歴史や動きを知ることができる貴重な資料がずらり

 観音温泉の鈴木社長は、「父がこの地に温泉を掘ってから、半世紀になります。野口冬人先生と、竹村節子先生がリュックサックを背負って来られたのは、私が娘をおんぶしているころでした。それから、長いお付き合いが始まりました」と振り返る。「私が野口先生の言葉で一番感動したのは、『伊豆急行線は単線で不便でしょう?』と聞いたときに、野口先生は『それが旅なんですよ。利便性は旅ではない』とおっしゃいました。

 その言葉を受けて、旅をして自分を切り替えるのは時間なのだと気づきました。それに加えて、伊豆の空気や豊かな自然を求めて観音温泉に来て下さる方々の思いに私たちは応えていかなければならないと思いました」と語る。「観音温泉はただの山でしたが、野口先生と長いお付き合いをさせていただくなかで、色々と勉強をさせてもらい、ここまで皆さんに愛される旅館になれたと感謝しています」。

 さらに鈴木社長は、「下田は“黒船来航”の地であり、歴史的にも文化豊かな土地。この地にある観音温泉で、野口冬人『温泉・旅・山』資料室を開設することによって、文化をさらに深める一助になれたらうれしいですね」と話す。

 同資料室がオープンした昨年12月13、14日は野口氏も加盟している日本山岳文化学会・文献分科会(中岡久会長)の会合が観音温泉で開かれた。同会は全国の山の図書館や博物館などの探訪を重ね、「岳書のたより」などに10数年にわたり報告や発表を重ねており、各方面から高い評価を受けている。当日は資料室オープンを記念して、野口氏の講演も予定していたが、急きょ体調不良により本人は参加できなかった。

 野口氏は「すべての蔵書は展示できないが、今後機会を見て入れ替えなどをしていきたい」と語り、「このようなかたちで資料館を設置していただいた観音温泉の鈴木社長には大変感謝している」と話している。

日本山岳文化学会・文献分科会の会合(12月13日)
日本山岳文化学会・文献分科会の会合(12月13日)

DVD「日本でいちばん美しい町並」、関東・甲信越編を刊行(工学院大学)

「関東編」と「甲信越編」
「関東編」と「甲信越編」

 工学院大学(東京都新宿区)の伝統的建造物群アーカイブ実行委員会は昨年12月1日、地域観光活性化のツールとしてDVD「日本でいちばん美しい町並」シリーズ第3巻「関東編」、第4巻「甲信越編」をリリースした。

 同DVDシリーズは全国100カ所を超える国選定重要伝統的建造物群(重伝建)を観光資源として映像化。江戸時代から保存されてきた我が国独自の日本建築と美しい町並をハイビジョンで紹介する。今年度は東建コーポレーション(愛知県名古屋市)の協賛を得て、産学連携プロジェクトで制作した。同実行委員会は「2020年東京オリンピックを目指して、国内観光客だけでなく、外国人観光客誘致のためのイベントや、旅行事業者のツアー企画にも活用してほしい」としている。なお、頒布金の一部は東日本大震災の被災地復興に役立てる。

 既刊の第1・2巻は近畿編。これに加え、第3巻の関東編では、蔵の町埼玉県川越市、小野川の流れに沿って白壁が映える千葉県香取市佐原の商家町、例幣使街道が日光東照宮に通じる栃木県栃木市、絹織物が築いた群馬県桐生市の町並、筑波山の裾野に開けた茨城県真壁、養蚕集落の名残を残す群馬県中之条町など6地区。

 第4巻の甲信越編では、千曲川の流域にタイムスリップしたように残された長野県東御市海野宿、漆器の町長野県木曽平沢、海抜1250メートルの高地で繁栄した長野県奈良井宿、住民が守り続けた長野県南木曽町妻籠宿、北アルプスを望むお伽の里を思わせる青鬼村、日蓮宗の総本山身延山の天空に栄えた山梨県早川町赤沢の講中宿、千石船が築いた栄華の跡新潟県佐渡市宿根木など7地区が収録されている。

 1・2巻セット、3・4巻セットいずれも5400円(税込、送料別途)、1―4巻セットは1万800円(同)。詳しくは専用HP(http://kogakuin-denken.com)まで。

 問い合わせ=電話:0120(04)3737。

観光地名が交差点名に、ロゴなども標識に付記(国交省)

国土交通省HPから
国土交通省HPから

 国土交通省は2015年12月15日、対象となる交差点で、地点名を表示する標識(交差点名標識)に観光地の名称を表示することを決めた。ロゴマークなども標識に付記される。

 先行例として、昨年7月に「明治日本の産業革命遺産」として世界文化遺産に登録された「旧集成館」(鹿児島県鹿児島市)に隣接する交差点名標識を11月24日に変更した。「磯交番前」から「旧集成館前」に変更したほか、産業遺産ロゴを標識に付記している。

 表示名称は地域の意見を参考に、関係者や自治体と連携し、道路標識適正化委員会で決定する。
 
 
 
 
 
 

22人のガイド華やかに、はとバス恒例の成人式

22人のガイドが成人式
22人のガイドが成人式

 はとバス(中村靖社長)は1月8日、毎年恒例の一足早いバスガイドの成人式を行った。22人の新成人が華やかな衣装をまとい、明治神宮を参拝した。同イベントは今年で55回目を数える。

 ガイド2年目の石澤真紀さん(鹿児島県出身)は、「明治神宮では健康はもちろん、しっかりとした大人になれるよう祈願しました。私はなんでも前向きに考える性格なので、皆さんを笑顔にできるガイドになりたいです」とこれからの意気込みを語った。

 明治神宮から日の出桟橋に移動すると、熊本県の人気キャラクター「くまモン」がサプライズゲストで登場し、新成人を祝った。

東京五輪に忍者を(1面の続き)

日本忍者協議会 立石 邦博氏
日本忍者協議会
立石 邦博氏

 昨年10月9日、世界的にも人気が高い「忍者」に関連する団体を一元化する組織として「日本忍者協議会」が設立された。今回、同協議会事務局長で、伊賀上野観光協会東京オフィス忍者コンテンツ開発センター部長の立石邦博氏に、東京オリンピック・パラリンピックを見据えた「忍者コンテンツ」のあり方などを伺った。
【松本 彩】

 ――日本忍者協議会について。

 日本忍者協議会の発起人としては、5県5市1観光団体だったのですが、現在は愛知県・和歌山市・長野市が新たに加盟しました。主な活動としては、昨年交付金をいただき、3月8日に設立準備会を設立させ、そこから活動をスタートさせました。今では月に1回、各県の担当の方に東京に来ていただき定例会議を行っています。

 ――今年、伊勢志摩サミットが開催されますが、「忍者サミット」なども計画していますか。

 まだ決まってはいませんが、やろうという動きはあります。今年7月に、「忍者展(仮)」が東京・お台場にて開催されますので、それに合わせて忍者フェスティバルなどを東京で行いたいなと思っています。

 ――今まで、海外に向けて発信してきた忍者コンテンツについて。

 具体的に海外に向けてというのは項目としてはないのですが、昨年3月8日に行った、設立準備会などの記者発表を含めて、海外の新聞やネット・ニュースに多数取り上げてもらえたので、そこは海外に向けた情報発信として大きかったのではないかと思っています。記事としては、「忍者を使った観光戦略スタート」などと紹介されていたようです。

 ――忍者はアジア地域よりも欧米地域に人気が高いのですか。

 現在グーグルと組んで取り組みを行っているのですが、グーグルが行った調査によると、「忍者」というキーワード検索は年々増加してきています。国ごとで見ると1位がアメリカで、2位がインドネシアになっています。この両国が圧倒的多数を占め、そのあとにタイや台湾、南米のコロンビアなどが続きます。ですから、忍者は国や地域による偏りがなく、世界的に人気が高いです。

 ――やはり忍者人気の火付け役はアニメによるものですか。

 インドでは、「忍者ハットリくん」が圧倒的な人気を誇っています。アメリカでは「NARUTO」の影響もありますが、それ以前に例えば「キル・ビル」のような忍者を連想させる映画が数多く作られています。本当に国によって忍者の捉え方はさまざまで、アメリカ人が好む忍者はどちらかというと、アクションなど戦う忍者のイメージ。一方で、フランスやスペインでは、歴史のなかで忍者がどのような役割をしていたかなど歴史的な部分に興味を示します。

 訪日観光客が増えているなかで、今まで「忍者」の情報が散逸していて、さまざまな自治体が個々で活動しており、連携があまり進んでいませんでした。私たちがこれからの活動として取り組もうとしていることは、しっかりとした連携を築き、海外に向けて、もっと忍者を発信していきたいと思っています。

 ――国ごとにPR方法も変えていきますか。

 変えていくことが重要だと感じています。例えば、伊賀上野観光協会は、タイや台湾で積極的にプロモーション活動を行ったことによって、自身が運営している伊賀流忍者博物館の外国人比率は4年くらい前までは3%だったのに対し、現在は5%以上まで伸びています。きちんとそれぞれの国の事情にあったプロモーションを行っていければ、今すぐにというわけではないですが、忍者というコンテンツで、外国人観光客を呼び込むことは可能だと思います。

 ――2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた取り組みについて。

 東京オリンピックに向けての取り組みは、私たちが協議会を立ち上げた1つの目的でもあります。東京オリンピックの開会式のアトラクションのなかに、忍者を登場させることは、成し遂げなくてはいけない使命だと感じています。それに向けた活動はすでに行っています。それがどこまで叶うかは分かりませんが、その活動によって、さまざまな人たちに忍者を認知してもらうことが重要だと思っています。まだまだ、オリンピックへのハードルは高いですね。

 今年で言えば、5月に行われる伊勢志摩サミットに忍者を登場させようとの動きがあり、現在交渉を行っています。今後どのように進むかはまだ分かりませんが、このことが国や県の人たちが、「忍者は外国の人たちにウケる!」と感じてもらえるきっかけになればと思っています。

 ――男性と女性、どちらに忍者は人気ですか。

 これは非常に難しいことなのですが、私が3年ほど前に忍者検定を実施した際には、5千円以上の受験料を支払い、試験を受けに来ている約8割の人は女性でした。とくに30代前半くらいの若い女性が多かったですね。私自身、男性がほとんどだろうと思っていたので、とても驚きました。それと同時に、国内の忍者マーケットには、私が思っているものとは違うマーケットが存在していることに気づけた機会でもありました。

 女性の忍者好きが増えた1つの要因にアニメ「忍たま乱太郎」があります。このアニメはとくに若い女性からの支持率が高く、このことからも、女性は漫画やアニメによって忍者に興味を持つ人が多いです。

 ――今後の取り組みについて。

 地域経済の活性化に向け、いろいろと国と連携して各自治体に忍者を活用してもらえるよう提案を進めています。今まで各自治体が、自分たちのできる範囲で活動を行ってきました。

 今回協議会を立ち上げたことによって、やりたくてもできなかった広告宣伝などのバックアップをすることで、広域観光連携など今までになかったマーケットを創出することができるのではないかと感じています。私たちの役割は、各自治体が個々でやってきたことをどのようにサポートしていけるかだと思っています。

 そのためにはSNSによる情報発信も積極的に行っていきます。現在、日本忍者協議会のホームページは日本語がメインですが、2年後の18年までには、8対2くらいの割合で外国人比率を上げようと考えており、早急に英語対応を行っていく予定で動いています。2年後にはホームページのメインが日本語から、英語に変わっていると思います。

 ――ありがとうございました。

「日本版DMO」のあり方、「重層的連携」が必要

岡本淳芳氏
岡本淳芳氏

 展示会ブースの空間づくりなどを手掛ける「ムラヤマ」(日下部肇社長)は、経営理念「感動創造」の推進機関として「感動創造研究所」を2008年に設立。主な活動に、日光街道を軸とした広域連携事業「日光歴史街道活性化コンソーシアム」があり、事務局として活動を牽引する。同研究所プロジェクトマネージャーであり、「日光歴史街道活性化コンソーシアム」事務局長を務める岡本淳芳氏に、地域観光活性化の展望や、地域のマネジメントが期待される「日本版DMO」のあり方について聞いた。
【丁田 徹也】

 ――地域の課題は活性化に向けた意識の共有ができていないことだといわれますが。

 住民や関係者間での地域価値の共有なくしては協力体制が構築されず、中長期的な戦略が組めません。イベントや商品開発など単発事業を興すことはできますが、それは一時的なアクションに留まり、ブームが去ればそこで終わりです。

 地域価値を基軸とした取り組みを進めることで、それが地域の誇りを育てます。さらに次世代へも伝わることで、地域活性化には欠かすことのできない「持続性」が担保されるのだと思います。

 ――地域の価値をどのように共有し、それをどう活かすのか。

 私はまず地域の価値を意識・共有してもらうために、「魅力再発見」と銘打ったワークショップを開催しています。

 そのワークショップで地域を歩き、議論を重ねるなかで、当初は「うちの地域には何もない」という後ろ向きな世論でしたが、「あの神社は由緒正しいものだ」「あのお店の商品は子供のころ大好きだった」と、心の奥底に秘めたシビックプライドが呼び覚まされ、地域について関心と誇りを持つようになりました。小さなことからですが、そうした意識が徐々に波及し、地域の意識を変えていき、「地域をよくしたい」というムーブメントにつながっていくのです。

 また、こうしたワークショップを通じ、地域の方々と進めているのが「宿場巡りマップ」の作成です。基本デザインを全宿場で共通とし、宿場を巡る際のユーザビリティを高めるとともに、歌川広重の版画や、ワークショップで決めた地域のテーマカラーや植栽の柄をあしらい、地域性を出しています。

 このマップの良いところは、住民自らが来訪者にお勧めしてくださるところです。地域密着型で作ったからこその効果だと考えています。なお、現在このマップは、「五」の杉戸宿(埼玉県杉戸町)と「六」の幸手宿(埼玉県幸手市)の2宿をリリースしています。いずれは日光街道全21宿を作成し、より多くの方々に日光街道を巡っていただきたいですね。

ワークショップで作成したパンフレットの一部
ワークショップで作成したパンフレットの一部

 ――地域間の連携については。

 それぞれの地域で進む活性化の動きをどう束ねるべきか、行政連携がよいのか、観光協会、商工団体なのか。当然それぞれの組織それぞれに方向性や手法の違い、温度差があります。そうしたなかで生まれる連携は、ややもすれば「公約数的な連携」になりがちなところですが、それを「公倍数的な連携」にシフトさせることが重要です。

 それはすなわち、それぞれの地域に埋もれた資源を、他の地域の資源との相乗効果を戦略的に構築することで、それを広域にわたる「ストーリー」として紡いでいくのです。それには分野の垣根を越え、多面的にアプローチできうる主体が必要です。

 地域の課題と価値を理解し、セクショナリズムに縛られず、スピーディに動くことができる組織――。私は「民間団体」が最も近いと思います。

 各地域の民間団体が、行政や関連諸団体と密に関わりエリアマネジメント組織として機能し、それぞれの地域のエリアマネージャーが協議体を形成し、個々のまちづくりを全体で調和させ、新しい価値を生み出す仕組みを私は「重層的連携」と呼んでいますが、そうした体制づくりが地域間連携に必要だと思います。

 ――地域のマーケティングやマネジメントを先導することが期待される「日本版DMO」に求められることは。

 DMO組織が「新たな価値を創出する」というポジションに立つことが必要です。現在の観光地連携、あるいは観光行政そのものには「連携により新しい価値を創る」視点が希薄に感じますが、地域に眠るさまざまな地域価値を、観光商品としての商品価値に押し上げなければ人を惹きつけるものになりません。

 DMO組織には、地域の持つ可能性と市場が求めるものを的確に認識し、そこから新たな地域価値を創出する機能が求められると考えています。

 ――「日本版DMO」がそうした機能を担ううえで重要なことは何か。

 事業のとりまとめや企画立案、主体間調整など、観光地域づくりを進めるうえではさまざまなポジションが求められます。

 私はコンサルタントとして、日光街道に関わるさまざまな地域プロジェクトに参画し、取り組みを進めています。そのなかで、「志を同じくする人に出会い、人をつなぎ、地域をつなげる」という、まさに接着剤として機能することが、私が果たすべき最大の役割だと考えています。

 「最大の地域資源は『人』だ」といわれます。DMOにおいても、究極的には人材がキーワードになると考えます。地域の人材と巡り会い、新しいムーブメントが興り、それが人を育てて新たな取り組みとして昇華されていく――。そうした好循環を生み出す受け皿こそがこの「日本版DMO」ではないでしょうか。

 ――ありがとうございました。

No.420 国・旅行業・大学の視点で考察、これからの国内観光のあり方

国・旅行業・大学の視点で考察
これからの国内観光のあり方

 インバウンドの好調が社会的に認知され、次なる観光のキーワードとして「地方分散」「地域資源の磨き上げ」などが注目されている。今後は訪日客の受入体制を構築しながら、さらに旅行者に楽しみ方を提案することが求められる。観光庁観光地域振興部観光資源課長の長﨑敏志氏、日本旅行業協会(JATA)部長の興津泰則氏、跡見学園女子大学准教授の篠原靖氏の3氏が、今後の訪日対応や観光資源の活用など、国内観光のこれからについて熱く語った。
【聞き手=増田 剛編集長、構成=丁田 徹也】
 

 
 
 長﨑:観光庁が2008年に発足して以来、世の中に「観光振興が地域を変える」というイメージがついたと思います。これまでの観光振興は「レジャー」の印象が強かったのですが、「地域経済に貢献する観光」という産業論としての理解が深まってきたようです。
 最近では、14年に訪日旅行消費額が2兆円を超えるなど、訪日旅行が一層の注目を集めています。一方で、日本人による国内旅行消費額は14年で18・5兆円あり、旅行市場に大きな影響を与えているのは国内旅行だということがわかります。
 その国内旅行が現在深刻な状況にあります。訪日客の旅行消費額はこの10年で約1・2兆円増加しましたが、日本人の国内消費額は8・3兆円も減額していて、日本の旅行市場全体は大きく縮小しているのです。

 興津:従来は海外が伸びないときに国内需要が大きく伸びるという相対関係にありましたが、11年の東日本大震災以降、国内旅行需要全体はさまざまな要因で冷え込み、海外旅行も円安の影響で伸びていません。
 14年あたりからようやく国内需要が伸び、15年も春先から大手旅行会社を中心に数字の伸びが見られます。北陸新幹線の需要やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などの影響が大きかったようです。

 篠原:これから少子高齢化が進み、日本の人口が減少していくなかで、相対的に国内旅行人口も減少します。国策として国際観光を推進する以上、地方でもインバウンドの経済力を享受できる環境整備を進めなければなりません。
 世界一の観光大国であるフランスをはじめ、諸外国のほとんどは「観光=外貨を稼ぐための重要な産業」と位置づけられ、長年にわたりさまざまな工夫を凝らし、外国人観光客を獲得してきた歴史があります。対して日本の観光産業は、高度経済成長の波に乗り、国内旅行需要に支えられたことで大きく成長してきました。そんな日本がインバウンドに注目し始めたのは、今からたった10数年前のことなのです。
 しかし2014年度は、日本経済の失速のなかでついに国際旅行収支(訪日外国人の日本国内消費額から、日本人の海外消費額を差し引いた額)が55年ぶりに黒字化しました。観光そのものが「貿易黒字」となる時代が、日本の観光の収入構造の大転換期が、いよいよやってきたのです。…

 

※ 詳細は本紙1615号または1月15日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

サービス産業の休日・休暇 ― 書入れ時に休業する企業も出てきた

 一般企業だと、1月4、5日あたりから新年の業務がスタートする会社がほとんどだろう。でも、旅館・ホテルをはじめ、観光業界では年末年始は“書入れ時”で、超多忙な施設が多かったに違いない。新年のカウントダウンや、餅つき大会など、さまざまな節目のイベントの準備であっという間に新しい年が明け、気づいたら1月も中旬に近づいている、という感じではないかと思う。

 かくいう私は、のんびりとした年末年始を過ごした。レンタルDVDを7本借り、本を7冊買って、それにも飽き足らず酒をたくさん買い込んで休暇に突入した。DVDは7本全部観たが、本は中途半端に読み進んだままの状態が数冊あるだけ。酒はスコッチの「マッカラン」、菊正宗の超辛口、ボルドーやらブルゴーニュやら、チリ、イタリア、南アフリカ産など世界中のワインをしこたま飲んだ。

 旅には、どこにも行っていない。仕事と旅行の区切りが自分でも判別できなくなっているせいかもしれない。自分の真の休暇とは、家を出ずに、読書と映画鑑賞と、酒びたりと、際限のない惰眠にあると最近気づいた。そんな具合であるため、年始からフルスロットルで働いて来られた方々が妙に眩しく見え、それがゆえに自分の怠惰ぶりが一層引き立つ有様である。

 しかし、そんな体たらくの身でありながら、あろうことか、「年々正月が正月らしくなく感じる」などと書いてしまう。

 1月1日の夜、春の宵のように暖かく、とくに為すこともなかったので、ふらっと町中を歩いた。そんなに大きな町でもないのに多くの居酒屋さんが営業をしていた。店の中を覗くと、大学生風のグループが普段と変わらぬように飲んでいる。1時間ほど彷徨ったが、正月らしさを感じることはなかった。昭和時代は軒先に国旗を飾ったり、しめ飾りをつけた車が道路を走ったり、「ああ、正月だな」と感じ入ったものだったが、今はとくに都心ではそのような風情はほとんど見なくなった。街では365日通常営業というところが多く、社会全体にメリハリが無くなっている。

 年末に買い物に行った大型スーパーマーケットは「12月31日は夕方4時に閉店、新年は1月5日から営業開始」という貼り紙がしてあった。「随分思い切ったことをするなぁ」と感心した。多くのサービス産業が人手不足の状態にある理由の一端に、「年末年始などはゆっくりと過ごしたい」という思いがあるのも間違いないだろう。

 そのようなことを考えていたときに、三越伊勢丹が1月元日、2日を休業するというニュースを耳にして、こちらも驚いた。初売りセールで書入れ時に休業するのであるから、ライバル店に客を取られるし、売上の減少も覚悟のうえでの決断である。しかし、このニュースを聞いて感じるのは、「売上よりも従業員への思い」である。

 サービス業にとって、休日・休暇は重要な問題となっている。フランス・パリでは、多くの観光客でごった返す日曜日は基本的に休業で、ほとんどのスーパーが店を閉める。日本のサービス業は土日祝日、ゴールデンウイーク、年末年始などは休めない。けれど、例えば年間平均して高稼働率を保つ宿泊施設であれば、全館休業も実施可能かもしれない。新年だからこそ、思い切って「理想」を語ってみた。

(編集長・増田 剛)