外国人の雇用拡大へ、生産性向上・人材確保が鍵(田村長官)

 田村明比古観光庁長官は8月17日に開いた会見で、「外国人スタッフの雇用拡大に向けて人材確保と生産性向上を我われ観光庁もしっかり検討し、バックアップしていきたい」との見解を示した。

 田村長官は、外国人技能実習制度に関し「専門知識を必要としない、単純労働のための受け入れではなく、日本でしか得られない技能を習得してほしい。実習生が帰国したあとで、その技能を活かしてもらうことが制度の目的」と説明し、そのための受入体制を宿泊業界がつくらないといけないと語った。

 また制度の活用に向けては「体制整備を業界で検討することに対して、観光庁も支援をしていく」とした。

 人材確保のためには、観光産業が女性や高齢者を含め、さまざまな人が働く魅力的な産業になる必要があると述べ、そのために、ICTや、オートメーション技術なども含めた、生産性向上の努力も必要になると改めて強調した。

 また田村長官は「人材確保に関しては観光庁だけではなく、各省庁と連携をはかりながら、生産性向上の努力に対する、予算や融資、税制面などへの来年度要求も含めた支援も検討していきたい。観光庁としても人材確保や生産性向上についてしっかりと検討し、バックアップしていきたい」と語った。

生産性向上へ ネット講座、10月開講、講師は内藤耕氏(観光庁)

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内藤耕氏
内藤耕氏

 観光庁は、宿泊業や観光関連のサービス業の生産性向上をはかるため、昨年度に引き続きインターネットを利用したオンライン講座を開講する。現在受講登録を受け付けており、10月19日から4週にわたって、宿泊、運輸、小売などの事業者の先進事例を映像によって紹介し、講師による解説を行っていく。講師は、本紙の人気対談シリーズ「いい旅館にしよう!」などにも登場する、サービス産業革新推進機構代表理事で、工学博士の内藤耕氏。

 講義は、大規模公開オンライン講座(MOOC)サイト「gacco」上で行う。

 「gacco」とは、Web上で誰もが無料で参加し、学べる大学講座で、受講登録を行えば、パソコンのみならず、スマートフォンやタブレットからでも好きな時間に受講することができる。

 また、掲示板で同講座を受講する仲間たちと、意見交換することもできるため、最後までモチベーションを高く保つことができる。

 各週の講義内容は、1週目が「『サービス労働生産性』とは これからのサービス産業/科学的アプローチの導入」、2週目が「『早くやる』から『すぐできる』へ オーダーへの対応/実践:出来立て料理の提供」、3週目が「『できる』から『必要』だからへ 顧客理解と労働生産性/観察(えちぜん鉄道)」、4週目が「労働生産性の見える化 財務会計の基本(経費と投資、発生主義会計)/損益計算書と貸借対照表」。

 講義はネットで受講しやすいよう1本あたり10分程度にまとめられており、各週10講座分の動画が公開され、講座回数は計40講座となる。

 なお、規定の修了条件を満たした受講者には、観光庁長官名の同講座の修了証が授与される。

 昨年度のオンライン講座は「旅館経営教室」として開講。旅館の生産性向上や、収益力の強化などをテーマに前編・後編の2部構成で全20本の動画を公開した。

 実際に講座を受講した受講者からは、「働き方改革を行ったことで、週休2日制を導入することができた」、「部下を指導する際に、自分の発言に自信を持てるようになった」などの意見が挙がった。最終的に受講者は他業種にわたり3200人に上った。

 同講座の受講登録は、観光庁オンライン講座ページ(http://gacco.org/kankocho/slp)から。

「ふるさとオンリーワンのまち」第7号認定、嬬恋村の“キャベツ”と観光

嬬恋村の熊川栄村長(右)と、津田令子理事長(嬬恋村役場)
嬬恋村の熊川栄村長(右)と、津田令子理事長(嬬恋村役場)

 NPO法人ふるさとオンリーワンのまち(津田令子理事長)は2011年の発足以来、独特の風土や伝統文化、産物、無形のおもてなしなどユニークな観光資源を、「ふるさとオンリーワンのまち」として認定している。7月29日には、群馬県吾妻郡嬬恋村(熊川栄村長)を訪れ、「嬬恋村におけるキャベツを活かした農業と観光の共存によるコミュニティづくり」の取り組みを第7号認定とし、津田理事長が熊川村長に認定証を授与した。

 認定式で津田理事長は「日本各地には、すばらしい観光資源があるが、まだまだ知られていないものもたくさんある。これらを発掘し、大いに広報していくことが私たちの大きな役割。個人的にも嬬恋村との付き合いは長く、『キャベツ大使』を務めていることもあり、100回以上通っている」とあいさつ。さらに、「嬬恋村は、広大な高原に広がる美しいキャベツ畑で、さまざまな観光との関わり合いのあるイベントを繰り広げ、地域おこしをされている。これほどまでに農産物(キャベツ)と観光が共存しているまちは全国にも珍しく、その取り組みはユニークかつ開明的」と語った。

 嬬恋村は、群馬県の西端、本白根山と四阿山、浅間山などの名峰に囲まれた337平方キロにおよぶ広大な高原に位置し、人口は約1万人。この冷涼な気候によって、豊かな高原野菜を産している。

広大な高原に延々と続くキャベツ畑
広大な高原に延々と続くキャベツ畑
全国的に有名な「嬬恋高原キャベツ」
全国的に有名な「嬬恋高原キャベツ」

 とりわけ有名なのは、「嬬恋高原キャベツ」で、夏秋期の京浜市場の占有率は70%を超え、名実ともに“日本一の生産地”である。

 水野洋蔵理事は第7号「ふるさとオンリーワンのまち」認定の理由として、「浅間山を背景とした一面のキャベツ畑は、緑のじゅうたんのように美しく、この景観はほかに類を見ない」と説明。さらに、「キャベツを中心とした地域おこしのイベントを盛んに実施されている点が高く評価された」と強調した。主なものに、今年9回目を迎えた「嬬恋高原キャベツマラソン」や、「キャべチュー」「嬬恋村キャベツラリー」などがある。

キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ“キャべチュー”の聖地「愛妻の丘」
キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ“キャべチュー”の聖地「愛妻の丘」

 愛妻家の聖地

 「嬬恋村」という美しい村名は、1889(明治22)年に村が発足した際に命名された。その由来は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東国征伐の折り、碓日坂(現・鳥居峠)で妻の弟橘姫(おとたちばなひめ)を追慕して「吾妻はや(わが妻よ)」と嘆いた故事に因んでいる。

 この妻恋いの故事を知った「日本愛妻家協会」が、キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ“キャべチュー”というイベントを発案し、毎年9月に実施している。国内だけでなく欧米のメディアも発信し、海外でも注目を集めている。「これらの活動は、熊川村長のリーダーシップが大きい。全国を飛び回って、嬬恋のキャベツをお土産に『いかに美味しく、健康に良いか』をPRし、嬬恋高原キャベツのブランド化に大きく貢献されている」と津田理事長は話す。

 今回の認定を受けて、熊川村長は「嬬恋村を代表して感謝とお礼を申し上げたい。嬬恋高原キャベツは毎年約2400万ケース分、売上ベースで約250億円まで成長した。生産者をはじめ、全村挙げて一致協力して、1つの村で、一つの品目を基幹産業として育て上げてきた」と報告。また、「『嬬恋村』という地名の由来を活かした、お金をかけない地域おこしにも取り組んできた。キャベツマラソンは人口1万人の村で500人以上がボランティアとして、ホスピタリティの精神で盛り上げている。参加者にはキャベツをプレゼントして、とても喜ばれている」と語った。「嬬恋村の原点は“キャベツ”。今後も観光とリンクしながら第一次産業をしっかりと育て、近隣市町村とも協力して広域観光を進めていきたい」と謝辞を述べた。

 認定式後、嬬恋郷土資料館や、同村内の人気観光スポット「嬬恋・鹿沢ゆり園」、「愛妻の丘」の視察も行った。

認定式後に記念撮影
認定式後に記念撮影

 「ふるさとオンリーワンのまち」の第1―6号認定は次の通り。

 【第1号】千葉県鎌ヶ谷市―「分水嶺モニュメント『雨の三叉路』」(2012年9月12日)
 【第2号】静岡県御前崎市観光協会―「地形を生かしたまちづくり~海と風と波と~」(13年11月9日)
 【第3号】「堂者引き」日光殿堂協同組合―「『堂者引き』世界遺産“日光の社寺”文化的景観の構成要素としての観光ガイド」(14年5月19日)
 【第4号】「界隈を勝手に応援する協議会」連合会―「『料亭・芸妓・日本食類』総合文化保護・育成」(14年5月29日)
 【第5号】長野県・飯島町観光協会―「『ふたつのアルプスが見えるまち』南信州・飯島町がもたらす自然の恵みを活かしたまちづくり」(14年11月9日)
 【第6号】NPO法人かやぶき集落荻ノ島(春日俊雄理事長)―「荻ノ島集落における茅葺集落の保存・活用のための取り組み」(15年9月4日)

石勝線廃線、夕張市がJR北に提案、持続可能な交通体系整備へ

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 北海道旅客鉄道(JR北海道)は8月17日、石勝線(新夕張―夕張間)の鉄道事業廃止を発表した。今回の廃止は、夕張市側から要望されたもので、同市の提案が、JR北海道の「各々の地域に合った交通体系を相談したい」という考えと合致。社内検討の結果、今回の結論に至った。なお、廃線の時期は未定。夕張市としては急な会談だったため、地元住民の理解を得ることが大きな課題になる。

 夕張市の鈴木直道市長は8月8日、札幌市内のJR北海道本社で、同社の島田修社長に「JR北海道とともに、知恵を出し合いながら、地域公共交通のモデルをつくりたい」と、石勝線の廃線を提案・要請した。そのなかで鈴木市長は、(1)市の進める複合施設や交通結節点整備への協力(2)JR北海道が所有する施設の使用協力(3)JR北海道社員の夕張派遣――を求めた。その後の会見で廃線の時期に関して、「市の複合施設使用開始の2019年になるのではないか」との見解を示した。

 石勝線は、1892年に夕張炭山で産出される石炭の輸送を担うために開業した。室蘭港への石炭輸送により活況を呈したが、石炭産業の衰退などにより、鉄道需要が減少。その後もモータリゼーションの進展や、高校の閉校など線区を取り巻く環境の変化から、利用者が減少を続け、地域における鉄道の利用も限られたものとなった。

 また同線区には使用開始から100年近く経過した橋梁とトンネルがある。現状では列車の運行に支障はないが、運行維持のためには、これら土木構造物の老朽更新などの対策に大きな費用がかかる。

 JR北海道が発足した1987年度の輸送密度は1129人だったが、2015年度には10分の1の118人に減少。14年度の収支状況も、営業収入1400万円に対し、経費が約2億円、差し引き年間約1億8千万円の赤字になっている。また、当線区には路線バスが並行して走っており、鉄道が1日上下10本に対し、路線バスは、新夕張―南清水沢間で上下11本、南清水沢―夕張間で上下20本運行と、路線バスが重要な生活の足となっている。

 市長は会見の中で、「自治体がJRの動きを待ち、JRはなかなか方針を出さない。北海道もJRがどう動くのか、自治体とどう協議するのか、傍観している。時だけが過ぎるなかで、1番大変な想いをするのは市民であり、道民である」との思いから、「交通手段を守るためには、具体的にどうしていくのかということを、みんながそれぞれ知恵を出して考えなければならない」と述べた。

 12月には留萌線の廃止も予定されている。今回の決定が市民であり、道民の交通手段を守るための先例になることを期待したい。

【後藤 文昭】

半世紀ぶりの飛行、水陸両用機で地域活性化(せとうちSEAPLANES)

瀬戸内を飛ぶ水陸両用機
瀬戸内を飛ぶ水陸両用機

 せとうちSEAPLANES(須田聡社長、広島県尾道市)は8月10日、水陸両用機による遊覧、チャーター飛行業務を含む、航空運送事業を始めた。同事業は、日本で半世紀ぶりとなる。今後、水陸両用機で多くの人が満足できる新しい価値と、瀬戸内の魅力を発信していく。さらに、パイオニア企業として、新しい交通手段としての活用と、地域活性化、観光振興への貢献など、さまざまな可能性も追求していく。

 遊覧飛行では、オノミチフローティングポート(尾道市)を出発し、尾道水道を通り、大三島や能島、因島などの瀬戸内海の島々を巡る。瀬戸内海は、古代から海上交通の要衝で、能島や因島は村上水軍の拠点としても有名。また、2016年には“日本最大の海賊”の本拠地:芸予諸島―よみがえる村上海賊“Murakami KAIZOKU”の記憶―で、これらの島々も日本遺産認定を受けた。遊覧飛行では、日本遺産でもある瀬戸内の島々を上空から巡り、美しい景観を堪能できる。

快眠枕を全客室導入、吉夢と日本橋西川が共同開発

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 千葉県鴨川市の小湊温泉「満ちてくる心の宿 吉夢」はこのほど、寝装寝具の日本橋西川とコラボレーションして、オリジナル仕様の快眠枕「4ウェイまくら」(製造=西川産業)を共同開発し、8月4日から全客室に導入した。

 これまで使用していた枕については経年劣化が見受けられ、昨年5月ごろに客室清掃担当者からも「へたれが酷い枕が相当数ある」ことを指摘され、また、そば殻枕に関しては、とくに修学旅行客のアレルギー対策で「そば殻以外の枕を用意して欲しい」という要望があり、他客室から枕をかき集めて交換対応していた時期もあった。

 今回のオリジナル枕の導入にあたり、田仲重郎経理部長は「各種素材・高い・低いなど各メーカーの枕を取り寄せて、実際に自分でも試してみて試行錯誤を繰り返しながら、ほぼ1年かかった」と話す。

 「枕検討時からのテーマで人によって硬いものを好む・柔らかいものを好む・高い方がよい・低い方がよい、と人それぞれに好みがあるなか、まさに枕は睡眠に直結する要素だと気づきました。本来であれば、お客様一人ひとりの頭の高さを計測して、お客様に合った枕を提供できるサービスがベストですが、客室が100室を超えるような大型宿泊施設にとっては現実問題としてそれもハードルが高かった」と田仲部長。

 なかなか理想の枕にめぐり会うことができず、時間だけが過ぎて行くなか、今年2月に開催された「国際ホテル・レストランショー」で西川産業の出展ブースに立ち寄ったところ、試作品段階の「4ウェイまくら」を発見した。

 「お客様が驚く今まであるようで無かった枕、快眠できる枕――これが探し求めていたものではないかとピンと来ました。すべての人には満足できなくても4パターンあることである程度の満足は得られ、納得して眠りにつけ、清々しい朝を迎えられるような、そんな枕を作っていただけませんか?とかなり無理な注文をいいました。そのなかでようやくでき上がったのが今回導入した枕です」とコメントした。

 「吉夢」という館名から、「快眠」には相当こだわりを持っているのだろうと考え、質問を投げかけると「吉夢はよい(吉日)夢をみていただけるようにとの思いも当然込められています。お客様がホテルにお越しいただき、料理・サービス・施設もそうですが、当館は快眠・熟睡、そして朝の目覚めというテーマもあります。過去には特別室にシモンズベッドを採用し、別亭改装時には日本橋西川にデュベを特別に発注しました。すべてはお客様の笑顔のためです」(田仲部長)と即答された。

 吉夢オリジナル仕様の「4ウェイまくら」については、製造元である西川産業・商品第2部まくら課の穴澤康二課長に話を聞いた。「枕の高さや硬さは人それぞれに好みはバラバラです。枕の両面と前後を使って4パターン選べる枕を開発しました」と話す。「4パターンの選び方は枕の横に付いているタグに表示し、誰でも一目でわかるように工夫しました。首と肩と後頭部の3つの部位の圧力バランスで心地よい睡眠をサポートする三点支持理論を実践した快眠枕で、今回の吉夢さんとの取り組みでは、より良いものを使いたいということで枕の中には極細0・8デニールのマイクロファイバーと、消臭効果が期待できるというフラボノイドを練り込んだパイプ素材を使用しました。市販している枕とは中身が違うので、吉夢さんだけのオリジナル仕様の快眠枕が誕生しました」と語った。
 商品に関する問い合わせ=日本橋西川・商事部 電話:03(3271)7575。

満ちてくる心の宿 吉夢の外観
満ちてくる心の宿 吉夢の外観

全国旅館おかみの集い『2016鳥羽 会場映像』を更新いたしました。

 
全国旅館おかみの集い『会場映像』を更新いたしました。

 今年で27回目を迎えた全国旅館おかみの集い(全国女将サミット2016鳥羽、中かほる運営委員長)の会場のようすを映像にして更新いたしました。

全国旅館おかみの集いについては、コチラから。
(弊社の『全国旅館おかみの集い』ページへリンクしています)

 
☆「全国旅館おかみの集い」とは☆
 全国の旅館・ホテルの女将が一堂に集まり、互いに悩みや課題を話し合い、各界著名人による講演、分科会を通じて学び、併せて女将のネットワークづくりのための懇親を深める場です。(通称:女将サミット)

対策の遅れを指摘、セキュリティに問題意識を、観光庁第2回情報共有会議

多くの関係者が参加
多くの関係者が参加

 観光庁は7月28日、第2回「情報共有会議」を東海大学校友会館(東京都千代田区)で開き、「旅行業界情報流失事案検討会 中間とりまとめ」の報告を行った。観光庁の蝦名邦晴次長は、旅行業者が多くの個人情報を有し、昨今インターネットによる商取引も多くなってきていることを踏まえ、旅行産業が他産業に比べ、サイバーセキュリティ対策が遅れていることを指摘。そのうえで、「サイバーセキュリティは直ちに経営に直結する。もっと問題意識をもつ必要がある」と強調した。 

 旅行会社が早急にとるべき対応は、「情報セキュリティ最高責任者(CISO)の任命やサイバーセキュリティ対策部署(CSIRT)の設置、個人情報サーバーとインターネットを使用するシステムを物理的に分けるなど、今回の事案を踏まえた措置を講じること」などさまざまな面での提言がなされた。

 中堅・小規模旅行業者がとるべき対応としては、ウイルスソフトなどを常に最新のものに更新するなどセキュリティ上の脆弱性対策に関わる基本的な対策を行うとともに、「社外のシステムや体制を見直すなど情報セキュリティへの意識を高めることが必要」、大規模旅行業者のような対策が難しい場合は、「事業者団体として会員企業を対象として、相談窓口の設置と緊急支援CSIRTを設置するなど、業界団体として検討を始めるべき」など対応策が示された。

 観光庁には「『情報共有会議』を旅行業者の自主的な情報セキュリティに係る情報交換の場として発展させるよう支援する」ことが求められた。また情報セキュリティの問題に対しては、災害などの非常時と同様の対応を行うことなども、改めて確認された。

 今後検討すべき事項には、「旅行業界のシステムに対応したガイドラインの策定」や「各社情報セキュリティ担当者間の情報共有のためのメーリングリスト整備と会員クローズドのポータルサイを業界で設置すること」などが提言された。

 観光庁は各取り組みへの支援や協力のほかに、業界団体と、旅行業各社の情報セキュリティ担当者と密接な情報共有が行えるよう、体制の整備を行うことも求められた。

 また会議後半にはANAシステムズ 品質・セキュリティ監理室ANAグループ情報セキュリティセンターASY―CSIRTエグゼクティブマネージャーの阿部恭一氏が、「一般企業におけるインシデント対応に必要な人材の配置と育成 インシデント対応の勘所」をと題した講演を行った。

No.438 オーダーメイドの哲学、高崎だるま、観光への提言

オーダーメイドの哲学
高崎だるま、観光への提言

 インバウンド増加や、観光大国への官民挙げての取り組みなど、観光にまつわる話題は事欠かない。変革期のなか、今後どのような姿勢で商いに臨めばよいのか。読者の疑問に答えるべく、群馬県高崎市の観光産業に大きく貢献し、6月には日本観光振興協会から「観光振興事業功労者」として表彰された中田純一氏(大門屋物産代表取締役)に話を聞いた。台湾から3000人以上の誘客を果たし、経営者と職人、2つの顔を併せ持つ中田氏からの提言に注目したい。

【謝 谷楓】

 
 
 ――大門屋の絵付け体験のプロセスを教えてください。

 絵付け体験では、実際に筆を持ち、お客様自身が達磨の髭などを描くことになります。そして、“誰のために、絵付けをするのか”という問いかけから、大門屋の絵付け体験ははじまるのです。

 団体旅行のお客様のなかには、大門屋の玄関をくぐるまで、自分がこれから何をするのか分からない方も多いのですが、「絵付け体験=達磨に絵を描くだけ」という意識では絵付け体験の意義を理解することはできません。なぜなら、達磨の絵付けは、絵を描く作業ではないからです。単に絵を描くだけならば、達磨を汚す必要はありません。禅宗の開祖と言われる達磨大師の座禅姿を模り、願いを叶える縁起物として日本人の心に根づく達磨に、絵付けすることの意義をしっかりと理解していただいたうえで、体験してもらわなければ、お客様にも申し訳ないと考えています。

 “誰のために、絵付けをするのか”という問いかけによって、「願いをかなえる」ための達磨をつくるのだという、絵付け体験の意義に改めて気づくことができます。願望が先に来ては仕方がありません。誰のための達磨かもはっきりしないのに、願い事を叶えてほしいというのでは虫が良すぎるのです。自分や家族、大切な人の願いが叶うよう、想いを込めてつくらなくてはならないと気がついたときに初めて、真剣に、集中して取り組む姿勢を持つことができます。そのような姿勢こそ、重要なのです。

 ――体験者はどのような反応を示すのでしょうか。

 職人のデモンストレーションを参考に、絵付けをしていただきますが、多くのお客様が「見るのとやるのではまるで違う」、「実際に絵付けをしてみるとこんな酷い達磨になってしまった」と落胆してしまいます。

 そのようなお客様に対しては、「日本の寺院に鎮座する仏像のなかには、荒ぶりでユニークな姿勢のものも多いけれど、手を合わせずにいられないのは、つくった仏師の意図が反映され、気持ちがこめられているから」だと伝えます。そうすると、「そうだ。自分も一生懸命描いたのだから、これでいいのだ」と納得できるのです。…

 

※ 詳細は本紙1638号または8月23日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

夏の北海道 ― 孤独な“ストレスフリー”の1人旅

 小樽を訪れた。このところ、日本中どこに行っても夏は暑すぎるので、とうとう国内の最後の砦である北海道を選んでしまった。

 さすがの小樽も昼間は暑かったが、呑みに出歩いた夜道は海風が坂を抜けていき、涼しげな運河の灯りと相俟って、「北海道に来てよかった」と感じた。

 海外旅行も楽しいが、国内にも海外に負けない魅力的な土地がたくさんある。小樽もその1つだ。まず、海の幸も少し高いのが気になるが、ちゃんと探せばまずまずの料金で新鮮なウニやイクラやホタテが食べられる。スイーツも美味しいし、地ビールもいける。

 この規模の街で、いずれ再訪したくなる街を探している。

 その小樽で、運河に近いホテルに宿泊したのだが、チェックインのときに、60代の男が1人でオートバイに乗ってきた。トライアンフボンネビルT100だった。受付担当のスタッフは、そのソロツーリングで宿を訪れた男を丁重に扱い、ボンネビルT100を玄関脇のスペースに駐車させた。

 北海道旅行の醍醐味は、もちろん美味しい食や、涼しい夏など数え上げるときりがないが、広大な土地と、人口密度の低さによる交通量の圧倒的な少なさも大きな魅力である。ストレスフリーである。北海道を横断するなかで、「自分が大地を独占している」と錯覚するほど、クルマが一切走っていない直線道路が多く存在した。オートバイでのツーリングには、最適な地なのだろうなと感じた。

 能取湖の畔では、愛知県や岡山県のナンバーを付けた孤独な旅人の姿を見かけた。私はまだ、長いソロツーリングの経験はない。だからこそ、大きな荷物を積んだオートバイで、孤独な旅を続ける旅人たちの気持ちを知りたいと思った。そして、小樽のホテルにボンネビルT100で乗り付けた60代の男の旅のことも考えた。

 小樽のホテルは、男の乗って来たオートバイを玄関脇に置いたために、私は何度も眺めることができた。そして、いつか、この男のように、北の街をオートバイに乗って、1人でホテルの玄関でエンジンを止める自分の姿を想像した。

 サロマ湖近くの道の駅では、50代の男女がライダースーツでランチを食べていた。夫婦だろうが、楽しそうな旅に見えた。無言の父と息子の2人旅とも出会った。親子はタンクの上に地図を広げ、静かに目的地を探していた。

 瀬戸川礼子氏の『おもてなしの原点 女将さんのこころ―その2』(旅行新聞新社)に紹介されている長野県・中棚温泉「中棚荘」の富岡洋子女将は、「同年代の女性のお客さまにライダーがいらして、生き生きした姿に触発されました」と、お客の影響で50歳を過ぎてから大型二輪の免許を取得し、カワサキW650に乗っている。今は全国のライダーたちから愛される宿として名を馳せる。ビール片手に自分たちが乗ってきた愛車や同宿する別の旅人のオートバイを眺めることができるように、広いガレージを備えている宿も各地にある。昔で言えば、旅人が命の次に大切にする愛馬を休ませる場所でもある。

 小樽に遠方から辿り着いたボンネビルT100の男。この男に対するホテルスタッフが見せた対応の丁重さに、旅人への敬意を感じ、すがすがしい気分になった。

(編集長・増田 剛)