2018年7月22日(日)配信
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この夏も訪日外国人客数が3千万人突破確実と業界はインバウンドの話題でかまびすしいが、翻って考えてみたい。「それで本当に国民は豊かになった実感を持てているのだろうか?」と。
以下は、若干、憎まれ口になることを承知の上での論議になるのだが、僕はどれだけインバウンドが増えていても、それが国民一人ひとりの生活実感としての豊かさにつながらなければ「立国」と喜んではいけないという主義だ。立国というのは、それによって「国が立つ」ということだが、それは抽象的な国というより、日本国民一人ひとりが生活がよくなったなあ、と実感があって、立国したという定義だ。
だとすると、この数年インバウンドはものすごい勢いで伸びたのは事実だけれど、国民1人当たりのGDP(国内総生産)ランキングが下がる一方。2017年は25位まで落ちた。20年前は数百万人レベルのインバウンドしかなかったけれど、GDPは世界第3位の位置を保っていたのである。もちろん、GDPだけが豊かさの尺度ではないけれど、国民が押し寄せる中国人観光客を目の前にして、それが自分の生活向上に結び付いている実感はないだろう。
一方、1世紀以上観光立国で頑張っているスイスはというと、もう数十年、この指標でいうとベスト3の座から去ったことはない。まさに観光なくしてスイスなし、というくらいで、ここまでいかないと「立国」じゃないと思う。でも、スイスほど物価の高い国はない。数年前、チューリッヒを訪れ、ドイツ人と街中でタクシーを走らせたら、あまりにメーターがぐるぐる回るので「強風の中の風車みたいだ!」とその相方が叫んだくらいだ。ホテルも外食も高い、高い。
それでも、スイス観光は今でも健在だ。冬のスキーリゾートは相変わらず相当早めに予約しなければならない。「高い」ことは欧州の人は百も承知、千も納得なのに、やはりスイスに行くのは、ここがそれだけの価値があるということだろう。
景観の保全はとくに素晴らしい。個人の荷物の移動などもスムーズ、要するに「物価は高くてもいい国」、観光を付加価値の高い産業としてきちんと訴えている。
翻って、日本は「安くてうまい国」になり過ぎていないか?
どーんと観光客が押し寄せるのはいいけど、その「安さ」が実現できても、ホスピタリティビジネスの現場は人手不足で荒れ放題。賃金上がらずで「立国」はいかがなものか。観光客がもたらすごみ問題、落書き問題など観光公害も云々される事態も一方にある。
いい加減、人数という量中心の思想から脱却しないと、立国どころか観光「傾国」(けいこく)になるよ、と言いたい。
(跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 松坂 健)
コラムニスト紹介

跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 松坂 健 氏
1949年東京・浅草生まれ。1971年、74年にそれぞれ慶應義塾大学の法学部・文学部を卒業。柴田書店入社、月刊食堂副編集長を経て、84年から93年まで月刊ホテル旅館編集長。01年~03年長崎国際大学、03年~15年西武文理大学教授。16年から跡見学園女子大学教授、現職。著書に『ホスピタリティ進化論』など。ミステリ評論も継続中。












旅行新聞新社が昨年度から開始した「プロが選ぶ水上観光船30選」の初代1位に山形県最上郡戸沢村の「最上峡芭蕉ライン観光」が輝いた。同社の水上観光は、松尾芭蕉が詠んだ句「五月雨を あつめて早し 最上川」でも有名な、日本三大急流の1つ「最上川」を舞台にした舟下りだ。最上川は同一都道府県内を流れる河川としては国内最長で、山形県内では「母なる川」と呼ばれている。魅力について鈴木富士雄代表取締役社長・CEOに話を聞いた。 【飯塚 小牧】