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旅のプロ ― 意識的に「リスク」を回避している

2016年4月1日
編集部

 旅慣れた人――と言えば、故・森本剛史氏を思い浮かべる。

 森本氏とは、マレーシア・ボルネオ島のキナバル山(4095メートル)に登ったときに出会った。「ちょっとコンビニに行ってくる」ような格好の私とは違い、森本氏はすでにキナバル山への登山の経験もあり、登山靴を履き、メンバーが疲労したときに配る甘いお菓子やレインコート、登山酸素吸入器も準備していた。ずぶの素人である私は無事登頂できたものの、「登山自体をナメていた」ので、相当に危険な目にも遭った。   

 登山前夜、松明の焚かれたリゾートホテルで登山隊のメンバーである旅行会社の社員や、カメラマン、私のような旅行関連メディアらが夕食を囲み、明日登るキナバル山の話に花が咲いた。スタンド・マイクで女性ボーカリストがカーペンターズの「マスカレード」を気怠るく歌い、夜は更けていった。自然なかたちで話の輪の中心には、誰よりも旅慣れた森本氏がいた。

 キナバル山の登山から2週間ほど経ってから、再びそのメンバーが東京・新橋の酒場に集まった。声を掛けたのは、やはり森本氏だった。多くの写真を見せ合い、思い出話で盛り上がった。旅の楽しみの一つに、酒を飲みながら思い出を共有することもあるのだなと、感じた。

 その酒場で、森本氏がこれまで巡った世界各地の写真を見せてくれた。陰鬱な感じの街並み、青い海、祭りなどさまざまな写真があった。そして、メンバーの女性の1人が森本氏に「世界中でどこの海が一番綺麗でしたか?」と聞いた。

 森本氏は間髪入れずに「沖縄」と答えた。

 私はそれ以来、世界一綺麗な海は沖縄だと信じている。未だ多くの美しい海を見ていない私にとって、世界中の海を見てきた、信頼できる旅人が、「沖縄!」と断言したからだ。私もそれから何度も沖縄を訪れたが、「世界一綺麗な」という目で沖縄の海を見ている。晩年代官山蔦屋書店で旅行書のコンシェルジュをされていた森本氏は14年9月22日に亡くなった。会いに行こうと思った矢先だった。

 航空機事故や、海外でトラブルに巻き込まれたというニュースを見ていると、「初めての海外旅行で……」「飛行機は滅多に乗らないのに……」など耳にすることがある。一方、毎日のように世界中を飛び回るビジネスマンなのに大きなトラブルとは縁がないように見える人もいる。運命の不公平を感じるが、これは実力の差である。旅慣れた人たちは、ちゃんと意識的にリスクを回避しているのだ。経験上「嫌な予感のする航空会社や航空便には乗らない」「今はこのエリアのホテルはやめよう」など磨かれた直観や情報管理によって行動する。私のように「ちょっとコンビニまで……」のような格好で4千メートル級の登山をする輩は、たまたま無事生還したものの、自らリスクを呼び寄せているようなものだ。

 JATAなどが主催した「テロ遭遇時の旅行会社の対応」セミナーで、越智良典理事・事務局長は、テロが発生して危険だからとツアーを避けていては、一般のお客様と同じ。「旅のプロ」である旅行会社は徹底した情報管理によってリスクを下げることが仕事だと言い切った。不安定な国際社会のなか、旅慣れた「旅のプロ」である旅行会社は今こそ「本来の力を発揮できる環境になった」と考えるべきだ。

(編集長・増田 剛)

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