上期国内は6%増、“ならでは”の新企画で(ジャルパック)

藤田克己社長
藤田克己社長

 ジャルパック(藤田克己社長)は2月2日、東京都内で2016年度上期の商品発表会見を開き、藤田社長は国内、海外ともに“JALパックならでは”の新企画を商品造成のポイントに据えたことなどを語った。上期の計画人数は国内旅行が前年同期比6%増の84万9千人、海外旅行が同3%減の10万1千人。

 冒頭、藤田社長は「インバウンドとアウトバウンドが逆転したエポック的な年」と昨年を振り返り、インバウンドの好調で国内はホテルの仕入れに苦戦したことや海外の不調などを語った。国内は東京ディズニーリゾート(TDR)やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などを中心に観光需要は堅調に推移したが、「国内の好調で海外の不調をカバーできるほどではなかった」と述べた。15年度下期の国内旅行は同9%増の81万人、海外旅行は同7%減の10万1千人の見込み。

 16年の見通しについては、国内は東京ディズニーシー(TDS)の15周年などが牽引し、引き続き好調とみる。北海道新幹線の開業は、「(飛行機と)競合するとは思っていない。相乗効果はある」と前向きに捉えた。一方、仕入環境については、インバウンドは予約が早く「昨年以上にひっ迫する。日本国内の予約の立ち上げを早くしないと埋まってしまう」と危機感を示した。対応として沖縄と北海道商品は「早決」の割引額を増額し、早期予約を強化していく。

 また、沖縄・奄美大島商品に「復路欠航お見舞金サービス」を導入。台風などの天候不良で復路の航空便が欠航になった場合に1人1万円ずつ見舞金を払い、ストレスを緩和する。このほか、JALパックならではの企画として、TDS15周年の新イベントを一般公開より前に楽しめるツアーなどを設定した。方面別の計画人数は北海道が2%増の13万6千人、関東が9%増の27万2千人など。沖縄は仕入れが厳しいため増減なしの15万5千人。

 海外旅行は、円安や人件費、地上費の高騰、インバウンド需要で日本発航空座席の確保困難、政情不安などマイナス要素が大きく「15年の傾向が続き環境は厳しい」とした。このなかで、大きなポイントとして「ハワイ強化」「ヨーロッパの復活」「アジアの開拓・増強」を挙げ、海外旅行の復活を念頭に取り組んでいく。しかし、ハワイはJAL機材の使用変更で計画人数は14%減の3万9千人と大幅減を見込む。このほか、ヨーロッパは4%増の1万3千人、アジアは10%増の1万5千人など。

20年連続で企画1位、古窯を100選特別表彰

石井社長(左)から佐藤社長(中央)へ表彰状を手渡した
石井社長(左)から佐藤社長(中央)へ表彰状を手渡した

 プロが選ぶ日本のホテル旅館100選を主催する旅行新聞新社(石井貞德社長)は2月9日、昨年12月の発表で、20年連続「企画部門1位」の偉業を成し遂げた日本の宿古窯(佐藤信幸社長、山形県かみのやま温泉)を訪れ、特別表彰を行った。

 石井社長が佐藤社長と佐藤洋詩恵女将に表彰状を手渡した。佐藤社長は「グループ客でも滞在中にひとりで過ごせる場をつくるなど、常に時代の少し前をいく演出を行いたい」と決意を新たにした。

 旅館100選の企画部門は「館内演出」や独自「商品開発」などが評価項目。同館は、同部門を創設した第4回(1979年)で1位に輝いたあとも常に上位を維持。97年以降、20年連続でトップの座を獲得している。

 石井社長は「昨年創刊30年を迎えた(館内新聞の)かわら版など、きめ細やかで温かいおもてなしを続けてきたことが、結果につながった」と評価。 佐藤女将は「宿を通じて、東北や日本の素晴らしさを伝え続けたい」と話した。

「かやぶきの郷薬師温泉 旅籠」、冬季限定「氷の祭典」「さげもん雛祭り」開催中

氷の祭典
氷の祭典

 群馬県の温泉旅館「かやぶきの郷薬師温泉 旅籠」では、冬季期間限定のイベント「氷の祭典」を2月21日まで開催中。見学時間は午前10時―午後5時まで(この期間だけ特別)。

 第27回全日本氷彫創美大会夏季全国展において最優秀賞に輝き、また、海外の国際展でも優勝した経歴を持つ職人、中野徳二氏が創り出す「氷の芸術品」を展示している。氷の彫刻、アイスキャンドル、雪像など、上州だからこそ出来る技の数々。溶け行く運命にある芸術作品の、一瞬の輝きをお見逃しなく。

 イベント会場では、昼間は餅つき大会、甘酒サービス、雪のすべり台、旅籠スタッフ制作の雪像展示など、夜は氷像ライトアップ、アイスキャンドル点灯を実施している。

 また、開催期間1月31日―3月31日まで「さげもん雛祭り」も開催中。見学時間は午前10時―午後4時。

さげもん雛祭り
さげもん雛祭り

 さげもんとは旧柳川藩時代に端を発する女児のお祝いで、女の子が生まれると、親戚知人から送られた着物のはぎれで、その子の生涯の幸福を祈りつつ、一針一針縫い上げた布細工と伝統の柳川まりを、雛段の前に「さげもん」として飾る風習がある。つるし雛のようなものだ。山形県から移築した築140年の合掌入母屋造り「出羽の国紺野家」に展示されている。

* * *

 入郷料金は大人500円、小学生以下300円。

 郷内では日帰り入浴もでき、また手打ちの蕎麦処の用意もあるため、急な立ち寄りでも昼食利用が可能だ。

 問い合わせ=TEL:0279(69)2422。

6泊7日は1%程度、京都市が調査中間発表(民泊サービス検討会)

検討会のようす
検討会のようす

 京都府外の民泊運営者は約30%、最低宿泊日数を6泊7日に設定している施設が1%程度――。観光庁と厚生労働省は1月25日、5回目の「民泊サービス」のあり方に関する検討会を開き、京都市など、都市圏行政の観光・衛生担当者からヒアリングを行った。

 京都市が同日に発表した民泊調査の中間報告によると、京都市内で大手民泊仲介サイト「Airbnb」に登録する民泊施設は2542件で、下京区・中京区・東山区で半数以上の1379件を占める。集合住宅の割合が62・2%で戸建てが34・6%。集合住宅は区間の一戸貸しが約87%で、部屋の一部貸しは約12%だった。戸建てにおいては一棟貸しが約57%、部屋貸しが約40%。

 京都市の調査はAirbnb社のサイトに掲載している施設を中心に調査しており、ホストが常駐しているかどうかの判断はサイト上からはできなかったという。また、掲載2542件について、掲載情報から所在地が特定できたのは約4分の1の679件で、部屋番号まで判明した施設はさらに少なかった。

 運営ホストの住所地は京都府外が26%を占め、海外在住者も2%となり、約30%が京都府外からの運営者となる。京都府外者の傾向として、集合住宅で民泊施設を運営しているパターンが多く見られた。

 宿泊料金はビジネスホテルとほぼ同額で、6千―1万2千円台の価格設定が多かった。

 最低宿泊日数は、掲載全体の54・7%にあたる1390件が1泊を設定。国家戦略特区を活用した外国人滞在施設経営事業における最低宿泊日数の「6泊7日以上」を設定する民泊施設は1%に留まった。

No.422 ソフトバンクのインバウンド戦略、爆買い客帰国後のEC促進

ソフトバンクのインバウンド戦略
爆買い客帰国後のEC促進

 ソフトバンク(宮内謙社長)は国をまたがってインターネット上で買い物ができる「越境EC」(EC=電子商取引)に取り組んでいる。“爆買い”で注目を浴びる中国本土の観光客を狙ったEC戦略だ。同事業を統括する法人事業開発本部・デジタルマーケティング事業統括部・インバウンド事業推進部部長の加藤章弘氏は、越境ECで外国人が日本の商品を買い求めるようになるには、実際に日本を観光し、日本の良さを体験してもらうことが必要だと考える。同社が進めるインバウンド向けEC戦略の仕組みを聞いた。

【丁田 徹也】

 
 
 
 ――訪日観光事業の取り組みについて。

 訪日客の帰国後(旅あと)に、インターネットで日本の商品を購入する「越境EC」を活性化する取り組みを進めています。その一環で、旅行前(旅まえ)や旅行中(旅なか)からソフトバンクグループ内企業のIT技術を駆使し、旅あとの越境ECに向けて観光サービスやプロモーションを展開しています。現在のターゲットは“爆買い”で注目を浴びる中国本土の観光客です。

 具体的には(1)「旅まえ」で市場調査と認知度を上げるプロモーションを進め、(2)「旅なか」でアプリやWi―Fiなど当社が培ってきたICTを活用して日本の商品を購入してもらう仕組みを作り、(3)「旅あと」で越境ECからリピート購入していただき、購買客を定着させる――という一貫したコンセプトで越境ECをサポートします。これらのビジネスインフラ事業を中国・アリババグループやJTBと連携し、展開しています。

 ――「旅まえ」の取り組みを教えてください。

 中国本土の人々の志向を把握するための市場調査を進めながらプロモーションをかけています。

 中国からの訪日旅行に特化した旅行販売専用サイト「日本汐留旅行旗艦店」も昨年11月11日、アリババグループのOTA部門「アリトリップ」内にオープンしました。年間利用目標は600万人です。時期は未定ですが、これからは提携するJTBのホテルが商品にラインナップされていきます。高級志向や強いこだわりなど「とんがった部分」を持つ宿泊施設も掲載していきたいですね。アリババグループ側も魅力に感じているのが富裕層向けの高級旅館です。掲載宿泊施設へのWi―Fi設置や商品クーポンの付与などの準備も進めています。

 ――アリババグループやJTBと観光事業で提携することになったきっかけは。

 アリババグループとは…

 

※ 詳細は本紙1618号または2月17日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

泡沫的な様相も ― “眩しい”東京五輪が閉幕した後は…

 あとになって気づくことばかりである。私なんぞはその最たるもので、毎度事が起こってから後悔三昧の日々である。さらに残念なことに私の倅たちは輪をかけて愚かである。ちょっといいことがあるとすぐ浮かれてはしゃぎ、その勢いで頭をぶっつけたり、外で遊んで骨折して帰って来たりする。それで、あるとき、倅に「お前、心が風船のように浮ついているから正座して漢字を書け!」と命じた。つまらなそうに漢字を書く倅の姿を見ながら、そういえば自分が小学生のときも常に心が浮ついており、忘れ物が多いとか、クラスのブスな女子たちから「スカートをめくった」のなんのかのと集中砲火を浴び、担任のおっかない女の教師に毎日居残りで漢字を書かされていたことを思い出した。放課後ガランとした教室で、効率的にニンベンやサンズイばかりを一列書いて、そのあと右側の部位を付け足していくスタイルのため、漢字がまったく身に付かなかったのだから、情けない話だ。

 さて、日本では1985年のプラザ合意後にバブル経済が発生した。私の一学年上の世代は就職活動の際、内定者が他社に移らないようにフェラーリを貸し出したり、南の島のリゾートに軟禁したり、なんかオカシイナと違和感を覚えつつも、何しろバブル経済は初体験であったため、なんとはなしに受け流し、後になってバブルとやらが弾けたことを知った。

 90年代後半にはインターネット・バブルが起こった。世間ではIT関連企業が躍進し、一部の方々の間で狂想曲の様相を呈していたが、私などはまったくの蚊帳の外で、こんな冷え冷えとした世の中にバブル経済を謳歌している人がバーチャルではなく、リアルに存在していることが不思議でならなかった。

 それから今、インバウンド消費バブルである。「バブル」ではなく、「トレンド」と見る向きもある。確かに大きなトレンドではあることは間違いないが、泡沫的な様相も見過ごしてはならない。閑古鳥が鳴いていた宿に、突如予約が面白いように埋まっていくこと自体、きっとどこかで自分の実力を超えた大きな力が働いていると思った方がいい。中国の“爆買い”現象はいつまで続くのか。円高でも外国人観光客は今と変わらず訪れるのか。予測はできるが、すべて、一寸先は闇である。

 停滞する国内観光には「好調なインバウンド」、不安な未来には「東京オリンピック」に視点を誘導されやすい昨今だが、むしろ“眩しい”東京五輪があるがために、五輪が閉幕した後の日本の国家未来像が明確に描けないのが、マズイ。多くの経営者は冷静に市場を眺めているはずだが、好機と見るや「我こそ乗り遅れまい」と無反省に時流に乗ろうとする勢力がある。これが狂想曲を生む。都市部にはホテルが続々と開発され、本紙でも記事が追いつかないくらいだ。現在「民泊問題」で政府は規制緩和の方向に大きく舵を切ろうとしている。かつてのバブル崩壊後のように傷を大きくしなければいいが、と思う。

 一方、従来の旅館業法の枠に当てはまらない宿泊形態へのニーズが現れているのも確かである。頑なに現状にしがみついていては、気づいたときには、時代に取り残されていたということになりかねない。何事もそうだが、時流に乗りながらも、冷静な目を持つことが大事なのだろう。

(編集長・増田 剛)

「16年は海旅復活の年」、髙橋社長、新春経営講演で(JTB)

髙橋広行社長
髙橋広行社長

 JTB(髙橋広行社長)は1月21日、東京都内で2016年新春経営講演会を開いた。冒頭、2015年の観光情勢を振り返り、15年は大阪万博開催の1970年以来45年ぶりにインバウンドとアウトバウンドの数値が逆転したことなどを受け、髙橋社長は「斑模様の1年だった」と表現した。今年度の国内旅行は、3月の北海道新幹線の開通や、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンと東京ディズニーシーがともに開園15周年を迎えるなど、観光素材が多く堅調に推移する見込み。海外旅行については、今年度を“復活の年”とし、マイナスの流れに歯止めをかけるべく尽力していくことを伝えた。

 髙橋社長は、日本の観光立国実現に向け、同社グループでも、国内・海外・訪日による「三位一体」の取り組みを強化していくと報告。国内旅行については、14年に設立したJTB国内旅行企画を中心に、国内旅行の価値を高め、地域の魅力あるコンテンツを組み込んだ商品を展開していく。

 海外旅行は、ツーリズムEXPOなどにおいて、安心・安全な海外旅行についての情報を積極的に発信し、航空座席や客室の確保、チャーター便の確保などを行っていく。

 訪日旅行は、今夏のリオデジャネイロオリンピックの閉会式において、五輪旗が日本に手渡された瞬間から、日本への注目が一気に高まることを踏まえ、グループ本社に訪日専門の部署を設置し、訪日需要拡大に向け取り組んでいく。

 また、髙橋社長は市場別での三位一体の取り組み以外に、「MICE」「地方創生」「スポーツビジネス」に力を入れていくことを発表。4月に従業員数1千人規模の新会社「JTBコミュニケーションデザイン」を設立し、MICE誘致や、プロモーションなどにおける、トータルソリューションの提供を行っていくと述べた。

 経営戦略として、同社グループでは現在20年に向けた長期経営計画として、アジア市場における圧倒的な地位を確立し、取扱額2兆円、営業利益400億円を目指す、「2020年ビジョン」を掲げている。その実現に向け、今年4月から新たな中期経営計画「躍進2018計画」を開始する。髙橋社長は、同経営計画における同社グループの〝3本の矢〟として(1)仕入(2)訪日インバウンド(3)事業開発――の3つを挙げ、とくに仕入に関しては、「仕入を制する者が営業成績を制する」とし、提携企業との連携を大前提としたうえで、買取やチャーター便の確保などのリスクテイク型の仕入れの強化に努めると決意を述べた。

 講演には元総務大臣で慶應義塾大学法学部教授の片山善博氏を迎え、「真の『地方再生』と日本の将来」をテーマに、地域再生における観光振興の役割などについて解説した。

販路など課題を検討、着地型の事例報告会開く

着地型観光事例報告会のチラシ
着地型観光事例報告会のチラシ

3月16日、鹿児島市内

 全国旅行業協会(ANTA)は3月17日、鹿児島アリーナ(鹿児島市)で「第11回国内観光活性化フォーラムinかごしま」を開く。翌18日には㈱全旅による日本の祭りを一堂に集めた「第2回地旅博覧会inかごしま」が開かれるが、これらに先立って16日の午後2―4時まで、「第2回着地型観光事例報告会~着地型観光の多様性~」が実施される。

 同報告会には、ANTA会員を中心に、各自治体の観光担当者や、学識経験者らが参加を予定している。着地型観光のこれまでの取り組みを「事例報告」として発表するほか、現在の課題(会社・地域・販売手法など)についても自由討論の形式で議論する。前回の和歌山大会でも販路に悩む事業者が「全国の参加者とのディスカッションのなかで有益なヒントが得られた」などの声があり、今回も有意義な意見交換の場として期待されている。

 会場は、ホテルタイセイ2号館(鹿児島市西田1―4―23)。参加費は会議室、資料代として1人1千円。また、午後6時30分から同ホテルアネックス宴会場(鹿児島市中央町4―32)で懇親会(立食形式・飲み放題付き)も開かれる。会費は1人5千円。宿泊についてもシングル1泊朝食付きで6800円で受け付けている。なお、会場、宿泊の都合により、先着30人を予定している。申込み締切は2月末を予定。

 問い合わせ=ツアー・ステーション(加藤広明社長) 電話:0587(93)1128。

外客へのおもてなし学ぶ、原氏が講演、地元・旅館など(福山市)

原祥隆氏
原祥隆氏

 広島県・福山観光キャンペーン実行委員会(委員長=羽田皓・福山市長)は1月20日、同市鞆の浦で観光地域づくり・人材育成研修事業として「外国人観光客おもてなし研修会」を開いた。会場には鞆の浦の旅館関係者や福山市内の飲食店、ボランティアガイド、土産物施設の経営者ら約40人が参加。講師には、国際観光サービスセンター常務理事の原祥隆氏が登壇し、近年急増している訪日外国人観光客への接し方など、さまざまな事例をあげながら、参加者らと意見交換を行った。

 原氏は、東京・浅草の蕎麦店のご主人がスペイン人のグループ客に写真入りのメニューを手渡し、日本語でも何の問題もなく注文を受けていた例などを紹介し、「楽しく接客するのが大事。堅苦しく考えず、自分から話しかけ、気楽に楽しみましょう」とアドバイスした。

 また、多言語化への対応についてさまざまな議論も起こるなか、原氏は「地図などに多くの言語を併記しても見づらく、地域性を壊す恐れもある」とし、多言語化表記よりもピクトグラムの積極的な活用を薦めた。

 また、英国政府観光庁が英国を訪れる外国人旅行者にホテルスタッフがどのように対応すべきか、旅行者の国・地域、文化別にアドバイスしている事例も紹介しながら、日本を訪れる主要国の文化や国民性、気質などを説明し、接し方の一例を示していった。講演後にも、参加者らは日々感じていた疑問を講師の原氏に投げかけては、熱心に耳を傾けていた。

観光の責任とは?、被災地観光シンポ開く(東洋大学)

登壇者は(左から)山田氏、赤沼氏、八重樫氏、島川氏
登壇者は(左から)山田氏、赤沼氏、八重樫氏、島川氏

 東洋大学国際地域学部国際観光学科は1月15日、東京海上日動銀座トラベルラウンジ(東京都中央区)で、産官学連携被災地観光シンポジウム「これからの観光2016―座談会」を開いた。同イベントは、経済産業省産学連携サービス経営人材育成事業支援プログラムの一環で、講師には、三陸鉄道営業部課長の赤沼喜典氏、岩手県北バス東京営業所所長の八重樫眞氏、岩手県沿岸広域振興局の山田恵氏の3氏が登壇。コーディネーターは東洋大学国際観光学科准教授の島川崇氏が務めた。

 島川氏は冒頭、サービス産業が日本のGDPの約7割を占めているなか、現状の人材育成はモノづくりなどに偏り、サービス産業の人材育成は取り組めていない現状を指摘。そのうえで、「経済産業省は全国の大学に対して人材育成のカリキュラムや専門の学部・学科の新設など、ムーブメントを起こしていこうと助成事業に取り組んでいる。そこに東洋大学の国際観光学科も応募し見事17大学の中に選ばれた」と述べ、同大学では17年度から国際観光学部に昇格させる計画も報告し、「近視眼的にならず、子や孫の世代までを見据えた観光の産業育成を考えていかなければならない」と語った。さらに、「昨年、東洋大学にUNWTO(国連世界観光機関)の理事を招いたときに一番大事なのは、レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)だと言われた。では、観光の責任とは何かを考えていったときに、被災地を支援する枠組みも一つのかたちではないか。多くの方々が犠牲になり、それに対して共感、共鳴しながら被災地の復興へ一緒になって支えて行ける枠組みを観光で築けないかと思った」と述べた。

 また、同シンポジウムには、リーダーシップの理論開発などの面でパートナーを組む松下政経塾塾長の佐野尚見氏も出席した。

 座談会では、岩手県職員の山田氏は「岩手県の観光入込客数は震災前の2010年度は延べ2787万1千人回から14年度には2919万7千人回と着実に回復に向かっているものの、沿岸局管内でみると、14年度の観光入込客数は10年度の83・4%と、完全な回復を遂げていない」と述べた。一方、教育旅行客の入込みについては、「震災以降、被災地ガイドを活用した被災地訪問が増加しており、震災前の水準に比べ約1・5倍も上回っている」状況を説明した。

 三陸鉄道の赤沼氏は「震災から5日後に電車を動かした時に家を流された沿線の住民が車両に向って手を大きく振ってくれた」と振り返り、「三陸鉄道は普段は空気のような存在だが、未曾有の震災の非日常のなかに空気の一部が戻って来たのがうれしかったのではないかと思う。その風景を見て車両の中のスタッフはみんな泣いていた。震災からまもなく5年になるが、風化が進まないように足掻いていきたい」と語った。

 岩手県北バスの八重樫氏は「震災後から語り部たちが自らの経験による教訓を伝え続ける“復興ツーリズム”に取り組んでいる。その大きな成果として、忘れられていた三陸を全国の方々に広く知ってもらえた」と強調。今後については「震災経験を伝えるだけでなく、被災者と訪れた人が共に“学び合う旅”へと発展させる空間づくりが必要」と未来を見据えて語った。

【増田 剛】