『サービス産業労働生産性の革新 理論と実務』

サービス産業労働生産性の革新 理論と実務

『サービス産業労働生産性の革新 理論と実務』

著 者:内藤耕
定 価:1冊 1,320円(税込)
送 料:実費(1部320円)
販売元:(株)旅行新聞新社
仕 様:新書判 218ページ
発売日:2015年10月1日 初版発行


<内容紹介>
 本書は、旅館やホテルなどを中心に、サービス産業の労働生産性の“第一人者”である内藤耕氏が「革新に向けた方法論」を章ごとにわかりやすく解説している。
 内藤氏が数多くのフィールドワークによって得た先進的な取り組みをモデル化し、これまでになかった「方法論」と、それを支える「ツール」を提示した画期的な書。
 2011年から旬刊旅行新聞で掲載してきた記事をまとめたもので、幅広い分野で今も大反響を呼んでいる。

<目 次>
「序 章」 作業プロセスの改革―旅館経営の近代化
「第1章」 集合モデルを現場に導入―「サービス・キネティクス原則」を提案
「第2章」 作業の流れをつくる現場―「リアルタイム・サービス法」を提案
「第3章」 生産性を上げる集客―「集客器理論」を提案
「第4章」 お客様との多様な情報交換―「おもてなしピラミッド」を提案
「第5章」 働き方のルールブック―「戦略的就業規則」の提案
「第6章」 現実の実態に合った労務管理―「稼働対応労働時間制」を提案
「第7章」 現場を会計的に“見える化”―サービス産業の「管理会計」を提案

<著者について>
内藤 耕(ないとう・こう)
工学博士、一般社団法人サービス産業革新推進機構代表理事
金属鉱業事業団(現在の石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、世界銀行グループ、産業技術総合研究所を経て現職。主な著書に『サービス工学入門』(編著、2009・東京大学出版会)、『いい旅館にしよう!』(編著、2014・旅行新聞新社)など多数。


No.460 エアビーアンドビー田邉代表に聞く、新しい“旅”の創造、市場拡大へ

エアビーアンドビー田邉代表に聞く
新しい“旅”の創造、市場拡大へ

 エアビーアンドビーを訪れ、日本法人代表の田邉泰之氏に話を聞いた。3月に閣議決定された住宅宿泊事業法案(民泊新法)について、改めてプラットフォーマーとしての見解を示した同氏。昨年から開始した、体験とユーザーをマッチングする“トリップ”事業も順調だという。今後は、出会いの“場”を提供するプラットフォーマーとして、旅行会社をはじめ、各企業やホテル・旅館、行政自治体と連携をはかり、新しい“旅”の創造と、関連する市場の拡大に注力する。

【謝 谷楓】

 
 
 ――昨年11月から、 “トリップ”事業(サービス)をスタートしました。ターゲットや、旅行会社との関わりについて教えてください。

 “トリップ”事業では宿泊の枠を超え、ゲストと体験までをつなぎます。私たちは、趣味や仕事に対する情熱や知見を伝えたいホストと、興味あることについて教えてほしいゲストがマッチングする“場”を、提供しているのです。サービスを利用すれば、趣味をめぐる知見を個人間で、ダイレクトに共有できます。ゲストにとって独学では学びづらいことも、体験を通じ習得できます。

 私も“トリップ”を通じ、盆栽や料理に関する体験を行ったのですが、ホストとの交流や、その情熱に触れることで瞬く間にのめり込んでしまいました。今では自分にとって大切な趣味となっています。

 私たちエアビーアンドビーのサービスを利用する多くの方が、“ヘビートラベラー”です。日本をはじめ各国・地域のカルチャーに対する知識欲が高く、高収入高学歴の方が多いのも特徴です。“トリップ”ではとくに、この方たちをターゲットとして捉えています。

 “トリップ”を通じ、ユーザーは宿泊だけでなく、地域の皆さんと交流を果たすこともできます。地域ならではのアクティビティに参加するなど、経済効果も期待できます。

 地域ヘの関心の高いこれらユーザーの移動をサポートし、日本各地を好きになってもらうことが、“トリップ”事業の目的でもあります。旅行会社とは、連携による新しい相乗効果が生まれるはずです。現在、旅行比較サイトを運営する、オープンドア(関根大介社長)とベンチャーリパブリック(柴田啓社長)の2社と提携しています。選択肢を広げることで、市場全体の拡大に微力ながら貢献したいです。

 1月には、東京大学との“共同研究”を始めました。ホームシェアリング(民泊)の定義の明確化や活用方法、経済効果の予測研究を行っています。このなかで、幅広い業種の皆さんと、意見交換を続けています。IT企業や金融機関、建設、不動産、鉄道関連の企業などが含まれます。

 ――ユーザーの安全安心を守るための取り組みについて。

 私たちのブランドコンセプトは“Belong Anywhere”。世界中のどこを訪れても、暮らすように旅をすることが事業理念です。ゲストとホストは、1つの“コミュニティ”に含まれる仲間なのです。

 レビュー機能では、双方が対等の立場に立って評価し合えるため、悪質なユーザーが排除される仕組みを整えています。セキュリティ対策など、システム面でのサポートも万全を期しています。

 ホスト保証のほか、ホスト補償保険も導入していますから、ホームシェアリング時の怪我など、ゲストの安全安心にも配慮しています。

 ――旅行会社との連携の現状について詳しく。

 旅行会社や航空会社の皆さんとの連携を強く望んでいます。旅行業ビジネスの枠内と枠外、両面での連携が可能だと考えています。パートナーとなるかもしれない企業の皆さんとの対話を深めていかなくてはなりません。プラットフォーマーという業態に関する私たちの説明も、十分とは考えていませんから、引き続き努力を続けます。

 ――ほかの民泊プラットフォーマーとの差別化について。

 私たちの目標は、旅をもっと“リッチ”にすることです。プランニングから予約や移動、体験、帰路まで、旅に関わる事柄すべてを、より豊かにしていきたいと考えているのです。新規サービスについても、ユーザーの困りごとを想像し、試行錯誤を繰り返しながらつくりこんでいます。

 “トリップ”に着手するなど、事業領域は宿泊のマッチングに留まりません。便利でスムーズな、楽しい旅ができる入口として、ユーザーに選ばれるプラットフォームを目指しているのです。

 ――国内での展開は。

 グローバルで拡大してきたサービスを、国内で受け入れられる、日本らしいカタチにしていくことが、日本法人の目標の1つです。国の定めるルールについても、日本に適したものがあるべきだと考えています。

 当社はあくまで、ホストとゲストが直接契約できる“場”を提供するプラットフォーマーです。宿泊施設の運営は一切行っていません。

 企業らと連携することで、エアビーアンドビーは多様なサービスに通じるプラットフォームと化していきます。教育機関や各企業との“共同研究”を行う目的もここにあります。

 当社がユーザーにとって、旅を上手に楽しめるプラットフォームをつくりこめたなら、移動や飲食、体験など関連ビジネスが生まれ、育つことも期待できます。…

 

※ 詳細は本紙1669号または5月8日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

考え続けること ― 「自分だけと付き合う濃密な時間」

 サッカーをする1人の少年を眺めていた。その子はまだ小学校の低学年。チームメイトからパスを受けるたびに、目を引いた。ショートパスを受けるときは小さな足先で、ロングパスは小さな胸で受け止めて、ポトリと足元の絶妙な位置に落し、瞬時にシュートを打っていた。まだ10歳にもならない少年の何気ない一つひとつのプレイが光って見えた。

 多くの子供たちは一流選手の真似から始めるが、華麗な技の習得はそう簡単ではない。

 高度な技術は、地道な基礎練習が必要だ。上手になりたい、という一心で、同じ訓練を積み重ねていくしかない。私が見た少年もまた、何度も、何度も同じことを繰り返す反復練習を、誰も見ていない場所でしているのだろう。少年の積み重ねてきた鍛錬の時間を想像した。

 絡み合った関係性を完全に切り離した時間を持つこと、そして、その時間を自己の訓練のために没頭することは、現代人にとって、とても難しい環境になりつつある。

 私はプロボクサーが縄跳びをする姿が好きだ。鍛錬の度合いが常人とは一線を画していることを、一瞬にして理解させる。

 ピアニストが演奏前に鍵盤を叩きながらその感触や、音の具合を確かめる。不規則な鍵盤操作がしばらく続き、あるときいきなり美しい旋律を奏で出す瞬間も、たまらなく好きだ。

 何かを極めるには、社会との関係を切断した「自分だけと付き合う濃密な時間」が必要なのだ。

 先日、スマートフォンが突然壊れた。新しい機種の初期設定に戸惑い、3日間ほど使えない状態になった。

 スマホがない数日間は、視界が晴れた。自分が日々どれだけ多くの時間、スマホを見ていたかを把握できた。そして、いつの間にか、じっくりと考えるための膨大な時間が奪われていたことに気づかされ、大きなショックを受けた。

 世の中がリアルタイムでどう動いているか、わずかな暇ができると、ネットニュースを探してしまう毎日だ。手元の小さなスマホには、国内ニュースや、国際情勢、スポーツの結果、芸能人のゴシップネタ、凶悪犯罪事件の続報などが刻一刻、切れ目なくアップされてくる。どうでもいい情報もインプットしてしまう。日中だけではない。夜中にふと目覚めると、暗闇の中でスマホに手を伸ばし、何か新しい出来事が起こっていないかと調べたり、SNS(交流サイト)をチェックしたりして、眠れなくなることも稀ではない。

 さまざまな方々にインタビューでお話を伺う機会がある。取材中、あらゆる質問を投げかけるが、どのような問いにも深い言葉で返される方がいる。日々考え続け、考え抜いて生きてきたからだと思う。どのような立場にあろうと、それは同じだ。プロボクサーの縄跳びのように、あるいはピアニストの指先と同じように、対話の中で、鍛えられた思考力に圧倒されることがある。考え続けることの“凄み”を感じる瞬間だ。

 スマホは便利であり、高度な情報化社会において、もはや必需品となっている。しかし、自らの技術を磨く時間や、思考し続ける意志が、気づかぬうちに削られているのなら、それは脳の退化でしかない。あのサッカー少年のように、人知れずボールを蹴り続ける姿を忘れまいと思う。

(編集長・増田 剛)

国がWGを設置へ、てるみくらぶ経営破綻受け(田村長官)

 てるみくらぶの経営破綻を受け、今国会に提出中の旅行業法の一部改正案について検討する「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」内に、経営ガバナンスワーキンググループを設置する。田村明比古観光庁長官は4月19日に開いた会見で、明らかにした。

 ワーキンググループでは、弁済業務保証金制度のあり方のみならず、オンライン時代のビジネス展開方法や、企業の監査体制、営業状態に関するガバナンスなどについて、有識者らと幅広くかつ速やかに検討する。

 田村長官は、弁済業務保証金制度の見直しについて「バランスが非常に大事である」と述べたうえで、単に現在の制度を見直すだけでは、根本的な解決には至らないと言及した。

 また旅行市場は、オンライン旅行会社(OTA)の急速な成長により、実力に関係なく容易に旅行取引額を拡大することができる時代へと変化してきている。このような変化に対し田村長官は、「弁済業務保証金制度額を引き上げる前に、やはり各旅行会社がまともな経営をすることが先決である」とまとめ、近日中に設置するワーキンググループ内で、時代の流れに合った旅行取引の仕方についても議論の必要があると語った。

 なお同ワーキンググループは、学識経験者らに加え、日本旅行業協会、全国旅行業協会などの業界団体からも数人が参加する見込みだ。

西村体制が始動へ、「社会を変える気概を」(全旅連青年部)

西村総一郎新会長

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部(桑田雅之部長、1283会員)は4月20日に東京都内で、2017年度「第49回定時総会」を開いた。任期満了による役員改選で西村総一郎氏(西村屋代表)を新会長に選出。新体制が始動した。西村新会長は「これからの社会は青年部世代が中心。社会をいい方向へと変えていく気概と覚悟を持って務める」とあいさつした。

 桑田前部長は「楽しかったが辛くもあった」と2年間を振り返り「問題はまだ多いが青年部は未来を見据えて頑張ってほしい」と新たな西村体制にエールを送った。

 来賓の全旅連次期会長予定者の多田計介副会長は「新しい西村体制で一致団結し、難しい時代を進んでいってもらいたい」と話した。

 西村体制は組織を9つで構成する。このうち2つの委員会を新設した。

全旅連の多田計介副会長

 1つ目の労務改革委員会は外国人労働者受入に関する事業を推進。このほか働き方改革で宿のモデル就業規則などを検討する。

 一方2つ目のITソリューション開発委員会で生産性を向上させる。宿泊業界・異業種のIT導入事例などを検証・報告していく。宿泊業界の「人手不足」「生産性向上」といった課題解決をはかる。

 総会後は県部長サミットを実施。日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏が講演を行った。「人口減少で必ず人手不足となる。対応できなければ生き残れない」と根拠となるデータを紹介。会員らに警鐘を鳴らした。

 誘客に地域独自の文化や景観が「ポイントになる」と指摘。「地元の当たり前が、観光客には不思議であり魅力でもある」と訴えかけた。

 懇親会では、自民党の観光産業振興議員連盟の細田博之会長をはじめ、多くの議員らが主席。西村新体制の門出を祝った。

法改正の理解深める、貸切バス関連で説明会(ANTA東京都支部)

会場のようす。会員らが理解深める

 全国旅行業協会(ANTA)の東京都支部、東京都旅行業協会(駒井輝男会長)は4月10日に東京都内で「貸切バスに関する関係法令などの改正」説明会を開いた。昨年1月15日の軽井沢スキーバス事故以降、政府は多くの法令を改正。旅行会社も理解を深める必要があるが内容は多岐にわたる。当日は関東運輸局の担当者らを招き、項目ごとに密な説明がなされた。
【平綿 裕一】

 政府は軽井沢スキーバス事故対策検討委員会で、昨年6月に総合的な対策を打ち出した。今回はこのうちの(1)許認可(2)運行管理(3)監査(4)観光――関係を解説した。

 道路運送法の一部改正で、事業許可の更新制を導入。5年ごとに確認する。さらに新規許可・更新許可申請時に「安全投資計画」「事業収支見積書」が必要になる。

 この2つで安全への投資や計画の裏付けとなる収支を確認できる。債務超過や赤字が続けば許可は下りない。

 監査機能向上もはかる。民間指定機関の巡回指導など行うため、負担金徴収制度を創設した。今年8月の運用を見通している。一方街頭監査では、違反があればその場で自動車の使用停止となる。

 一般監査も「輸送の安全確保に関わる重大な法令違反」があれば、即日全自動車の使用停止。安全の確保命令に従わなければ許可取消になる。

 法定刑を強化し、法人重科も創設した。これまで違反者と法人ともに100万円以下の罰金だった。改正後は(1)違反者が懲役1年・150万円以下の罰金(2)法人は1億円以下の罰金――と大幅な強化をはかった。

 貸切バスの運行管理関係では安全性を担保する。今年の12月から、ドライブレコーダーの映像記録・保存や、記録を活用した指導・監督を義務付ける。

 運行管理者の資格要件も厳しくする。これまで2通りあったが、試験合格者のみに限定した。必要選任数は30両に1人だったものを20両に1人にし、最低2人以上とした。

 観光関係ではランドペレーター関連法案を今通常国会に提出済み。登録制を創設し、管理者の選任、書面交付などを義務付ける。

最北の地から朝カフェ案内

 日本最北の地・稚内で、今夏も市内宿泊者限定の早朝ツアー「朝カフェ西海岸909」が実施される。稚内ホテル旅館業組合などの企画。地域の魅力を伝え、宿泊客増を狙う取り組みは3年目を迎える。

 市内中心部から約20キロ離れた「こうほねの家」が会場。テラス席からはスイレン科のコウホネが黄金色の花を咲かせるサロベツ原野、さらには日本海に浮かぶ利尻冨士が望める。ツアーは1日20組限定。バスの往復送迎、コーヒー、パン(2個)が付いて1人1500円。

 あいにくの天気で絶景が見られない日は「歓迎メッセージ」入りのコースターがそっと添えられるという。地元の人たちが、北海道らしい風景を最高の形で楽しんでもらおうとテーブルを用意する。企画は、その席への案内状のように思う。

【鈴木 克範】

佐藤女将ら20人受賞、17年観光功労者大臣表彰

 国土交通省はこのほど、2017年観光関係功労者国土交通大臣表彰受賞者20人を発表した。4月24日の表彰式(=写真)で石井啓一国土交通大臣は、受賞者に対し「今までの活躍への感謝と今後の活躍を期待する」とあいさつした。

 受賞者は次の各氏。

     ◇

 【ホテル業・経営者】
 林文昭(第一ホテル代表取締役社長)

 【ホテル業・従事者】
 岡田啓利(富士屋ホテル・霞ヶ関別亭桂料理長)▽坂本和俊(帝国ホテル・帝国ホテル東京調理部ペストリー課専門職課長)▽佐保寿博(プリンスホテル・箱根仙石原プリンスホテル洋食調理)▽野田明孝(ホテルオークラ・営業部担当部長)▽廣瀬典子(京王プラザホテル・宿泊部)▽南方幸藏(ロイヤルホテル・リーガロイヤルホテル〈大阪〉セールス統括部セールス担当支配人)▽下代仁志(倉敷国際ホテル・料飲部料飲サポート課主査)▽村中賢三(リーガロイヤルホテル広島・グループサービスチーム調査役)

 【旅館業・経営者】
 工藤冴子(矢野旅館代表取締役)▽齋藤厚志(日本旅館協会北陸信越支部連合会長野県支部副支部長、いづみや旅館代表取締役社長)▽小野善三(日本旅館協会関西支部連合会常任理事、綿善代表取締役)▽新山富左衛門(古湧園代表取締役)▽下竹原和尚(指宿白水館取締役会長)

 【旅館業・女将】
 佐藤幸子(旅館古窯大女将)▽松村美代子(萩本陣取締役、総女将)

 【旅館業・従事者】 
 村山邦雄(ホテル佐勘支配人)

 【旅行業・添乗員】
 百合道弘(ツーリストエキスパーツ添乗員)

 【観光レストラン業・経営者】
 小倉宏之(国際観光日本レストラン協会理事、小鯛雀鮨鮨萬代表取締役会長)

 【観光レストラン業・従事者】
 髙澤秀爾(安与商事・新宿京懐石柿傳調理長)

【JNTO・松山良一理事長インタビュー】“稼ぐ力”地域で高めたい、外客ニーズ親身に対応

JNTO・松山良一理事長

 海外PRやMICE誘致、訪日外国人旅行者の受入体制支援、市場分析など、多様な業務を担う日本政府観光局(JNTO)。各国・地域の海外事務所は日々、来訪者増を目指し、積極かつ戦略的なPRを行う。今回、松山良一理事長を訪ね、PR戦略や受入体制の整備支援を中心に話を聞いた。デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション(DMO)や、ホームシェアリング(民泊)に対する考えなど、海外経験豊富な同氏ならではの透徹したビジョンを示した。【謝 谷楓】

 ――JNTOのPR戦略について

 PR戦略としては、まずビッグデータの活用や、デジタルマーケティングの推進など、データに基づく確かな市場分析を心がけています。

 国内では、地域の新聞社と連携した訪日外国人旅行者受け入れのシンポジウムなどを開いています。“地方への誘客”を掲げ、観光による恩恵を地域に広げる取り組みに力を注いでいます。

 JNTOでは、商談会を主催するなど、海外のバイヤーと国内セラーをマッチングさせる役割も担っています。消費の底上げのために、欧米豪や富裕層向けのPR強化も行っています。リピーター獲得のため、受け入れの“質の向上”も大切な要素です。

 ――PR事業でとくに気をつけていることは。

 世界各国・地域の市場によって異なるニーズに、きめ細やかに応えることが大切です。一例を挙げると、アジアは買い物が、欧米は体験がしたいというように、来訪者のニーズの違いが顕著です。訪日外国人旅行者の“目線”に立ったPR戦略を立案実行することで、取り込み拡大に寄与しています。数多くある魅力の中から、ポイントを絞り込んだPRをすることも大切です。

 ――需要把握の方法について。

 受入体制整備の重要性を発信することも、JNTOの役目です。訪日外国人旅行者や、対応する旅行会社の声を集めるために、アンケート調査を行い、訪日外国人旅行者からの要求など、事例収集もしています。

 例えば、無線LAN(Wi―Fi)アクセスポイントや海外発行カード対応のATM増加、キャッシュレス環境の改善に関しても、官民連携で取り組みを強化しています。

 ――DMOへの期待について。

 せとうち観光推進機構(せとうちDMO)や北海道観光振興機構(北海道DMO)など、成功事例が増えています。地域事業者の主体性を引き出す取りまとめ役の存在が、成功の秘訣のようです。地域一体となった取り組みを可能にする“核”が求められているのです。来訪者のターゲティングも、成功につながる要素だとされます。

 今後も、これら事例を全国に向け発信し、成功事例を1つでも多く増やしたいと考えています。

 ――せとうちDMOは2月に部会(せとうちDMOメンバーズ)を立ち上げました。地域事業者の“稼ぐ力”を促進する活動が、一層本格化しています。
 成功事例が増えるなか、“強いところをより強くする”ことが必要です。DMOが、地域を売り込む受け皿として機能したら、連携してPR活動を行っていきます。

 世界では現在、商談を中心としたビジネスマッチングが活発です。

 JNTOが行う商談会ではこれまでも、ホテル・旅館といった事業者が、自治体とともに参加してきました。DMOなら、セラーとして地域の情報発信だけでなく商談に特化した対話が可能です。今後、DMOの数が増えれば、世界の潮流に適した商談会の実現も期待できるのです。

 ――3月に住宅宿泊事業法案が閣議決定されました。民泊の可能性は。

 地域にある空き家の活用や、訪日外国人旅行者の宿泊対策など、プラットフォーマーをはじめ、民泊に取り組む事業者への期待はとても大きい。

 一方、公正な競争が可能となる仕組みづくりを実現していかなくてはなりません。例えば、旅館業法では、食事や消防の面で細かい規定が多くありますが、民泊に関しては未だ十分ではありません。騒音やゴミ出しの時間といった近隣住民とのトラブル対策についても法律での規制が進められている最中です。この2点が実現される前提で、推進していくのが良いのではないでしょうか。

 ――松山理事長は夕食後のレジャー不足を課題として捉えてきました。

 既存のコンテンツを、夕食後にも楽しめるよう工夫する必要があります。例えば、博物館や美術館は開館時間を延ばし、歌舞伎や文楽などは夜8時以降も観劇できる仕組みづくりができるはずです。明治座(三田芳裕社長、東京・日本橋)では昨年から試験的に、ナイトプログラムとして“SAKURA -JAPAN IN THE BOX-”を上演しています。こういった仕組みが整えば、訪日外国人旅行者により余裕を持って日本食を堪能してもらえます。消費増加も望めるはずです。

 国内のホテルで、国際放送が見られる環境が、もっと普及できたら良いと思います。工夫1つで、訪日外国人旅行者の需要に応えられますから、決して難しいことではありません。

 ――ツーリズムEXPOジャパン2017では、主催者となりますが。

 国内と海外、訪日旅行の関係者が“三位一体”となって顔をそろえる同EXPOは、とても良い方向に進んでいると思います。今後は連携をより深める必要があります。

 先程取り上げましたが、海外バイヤーと国内セラーのマッチングによる訪日旅行の商談会促進は、同EXPOでJNTOが担う大切な役割の1つです。

 ワールド・トラベル・マーケット(WTM、英国・ロンドン)やITB BERLIN(独・ベルリン)といった、欧州の見本市はまさに、この商談会が中心となっています。ITBは、メディア関係者が5千人、業界関係者だけで約11万人が集まる大型イベントです。大臣など各国の観光リーダーが一堂に会するため、注目度がとても高く、ビジネスの“場”として世界で広く認知されています。

 観光産業を育て、地域の“稼ぐ力”を高めていかなくてはなりません。基幹産業にしていくためにも、同EXPOを、世界から注目される“場”とすることが必要です。

 日本観光振興協会や、日本旅行業協会(JATA)とも相談を重ねながら、働きかけていきたいです。

 ――ありがとうございました。

ビールで地域創生、キリンが食と体験を発信

古田氏(左)と地域のプロデューサー(中央3人)、
林田氏(右)
い手を育て全国でつなぐ「キリン地域創生トレーニングセンタープロジェクト」はこのほど、ビアツーリズムを始めた。食を通じた地域体験と、昨年キリンビールが売り出した「47都道府県の一番搾り」を組み合わせた。ビールを共通項に各地域の食の魅力を伝える。1つの基準で求心力を強めて全国展開し、新たな商機を探る。

 具体的なビアツーリズムの受付や販売を行う事務局は丸の内トラベルラボだ。今年1月にウィラーが開設した。食・旅・地域を研究して、統合的な支援を行う機関となる。今回は地域が考えるコンテンツをプロの目線でサポートし、実際の商品へと作り上げる。地域までの交通はウィラーが提供する。

 ウィラーとラボは、コンテンツの作成から情報発信、2次交通、フォローアップまで総合的に行う。一貫したプラットフォームで支援する仕組みづくりをはかった。

 「これまで地域からの発信は弱かったが、ビアツーリズムを通して全国に届けられる。さらに今回はキリンさんのチャネルで告知も可能だ」。同プロジェクトを運営するumariの古田秘馬代表は3月24日の会見で、新たな仕掛けに期待を示した。 

 そもそもキリンが行う同プロジェクトの根幹に、2011年の東日本大震災がある。

 同社は仙台工場が被災し、同7月から「復興支援 キリン絆プロジェクト」を開始。さまざまな支援を行ってきた。

 その後「東北復興・農業トレーニングセンター」を13年から始めた。東京からの人的支援と農業者をつなぎ、関係を構築してきた。とくに農業経営者の育成支援に力を入れた。

 この経験を生かし全国で広めるため、昨年4月に同プロジェクトを実施。食文化から新たな価値を創造する地域の「プロデューサー」を、これまで100人ほど輩出した。

 ビアツーリズムはこれらの活動の中で自然と持ち上がってきたという。

 キリン執行役員CSV本部CSV推進部長の林田昌也氏は「我われがつくるビールを通じて、地域を元気にしていきたい」と想いを語った。

 今回のビアツーリズム第1弾で、全国8カ所のツアーを造成した。同日の会見で3人のプロデューサーがツアーを紹介。新潟県・長岡から来た食文化プロデューサーの鈴木将氏は「ビアツーリズムで外から人を呼び込めれば、地元の人が元気になる」と期待を寄せた。

 今後は第2弾が続けて発表される見通し。一過性で終わらないために「地域が稼げる仕組みをつくる」(古田氏)ことが課題となる。