宿や街のデザイン ― つくり過ぎず、どこか懐かしい

 オートバイにはさまざまな呼び名がある。オートバイと呼ぶ人もいれば、バイクと呼ぶ人もいる。でも、私が好きな呼び名は「単車」である。まったく個人的な印象だが、バイクという呼び方は、語感的にファッション性を含んだ少しお洒落な感じがする。オートバイはもう少し“野性的なイメージ”を連想させる。そして、「単車」はチャラチャラした装飾的なものを一切排除した、無骨に鈍く光る、黒い鉄の塊りが思い浮かぶ。

 私が生まれた街は、九州の小さな海辺の工業地帯。幼い私はセメント工場で働く母方の祖父の黒い単車に乗るのが好きだった。鉄パイプがむき出しになった埃舞う工場群や、工業用のダムに単車で連れて行ってもらった。父の単車にもよく乗せてもらい、海岸線を走った記憶がある。高校生になった私は父に黒い単車を買ってもらい、山の上の高校まで単車で通った。

 祖父や父はオートバイを「単車」と呼んだ。華美さの欠片もない北九州に生まれ育った男たちの「単車」という呼び方は、妙にしっくりくるのだ。このような経験があるからか、ときどき「単車」が無性に欲しくなるときがある。

 クルマやオートバイを選ぶ際、デザインは重要な要素である。そしてデザインを目にするとき、人は各々が経験してきた過去の記憶と無関係ではない。

 モーターショーに出展される「コンセプトカー」は、未来だけを見据え、実験的に機能やデザインが作られているので、どこか地に足が付いていない印象を受けるし、そのまま街を走ったら目立つだろうが、現実感がなく存在が浮いてしまう。

 過去を切り捨てた極端な未来的なデザインは、記憶の切断であり、目新しくはあるが、その代償として空虚さが生まれる。そして未来的なデザインは、基本的に流線形であり、フェイスの尖り具合など、どこか杓子定規的であり、多様性よりも、同質的な匂いが強いのである。私が思う優れたデザインは、曲線や直線の中に言葉では説明できない、少し感傷的な、懐古的な幸せな記憶が隠されている。ほどよいセンチメンタリズムの母体に包まれながら、近未来の“謎に満ちた”未知なる世界に突き進むスリル感に、少なくともオトコたちは、胸を躍らせ、のめり込んでいくのだ。

 都市もそうである。レトロ感にあふれるパリの街並みは、完成された華やかな芸術作品のように美しいが、しばらくそこにいると、私なぞは少し息苦しさを感じる。抑制美が効いたロンドンやニューヨークの方が落ち着く。懐古調と未来志向の調和によって心地よい気分になるのだ。

 一方、ガラス張りの高層ビルが歴史のない場所に忽然と現れた未来志向の街並みは、少し歩くと疲れて飽きてしまう。

 旅館も、さまざまなコンセプトを前面に出すのはいいのだが、「つくり過ぎる」と逆に落ち着かない。「もう少しデザインが抑制されていればいいのに」と思うことがある。有名建築家や、流行りの建築デザイナーが手掛けると、自己主張を垣間見せ、それが少し鼻に突く。宮大工のように、いい仕事をしながら、妙な個性を主張したりしない職人が作る世界の方が好きだ。新しいのにどこか懐かしい。そして、つくり過ぎず、抑制の効いた街並みや宿が、多くの人々を永続的に魅了するのだろう。

(編集長・増田 剛)

No.361 「ピンクリボンのお宿」シンポin指宿 - 安心して宿に泊まれるように

「ピンクリボンのお宿」シンポin指宿
安心して宿に泊まれるように

 ピンクリボンのお宿ネットワーク(会長=畠ひで子・福島県穴原温泉 匠のこころ吉川屋女将、事務局=旅行新聞新社)は2013年12月16日、鹿児島県指宿市の「ホテル秀水園」で第2回ピンクリボンのお宿シンポジウムを開いた。NPO法人HOPEプロジェクト理事長の桜井なおみさんの基調講演や会員の大正浪漫の宿京都屋(佐賀県・武雄温泉)の女将・前田明子さんの活動報告、4氏が登壇したパネルディスカッションを行い、各温泉地での取り組みや、行政などとの連携の必要性について意見を交わした。

【市沢 美智子】

 
ピンクリボンのお宿ネットワーク・畠ひで子会長
「期待の大きさを感じている」

ピンクリボンのお宿ネットワークの会員数は現在、宿泊施設90、団体会員7、企業会員15、個人2の計114会員。

 シンポジウムの冒頭で、畠ひで子会長は「2012年7月の設立以来、会員数は設立当時から倍以上になり、昨年の10月に発行された2014年版のピンクリボンの冊子が13年版に比べページ数が増えた」とし、「期待の大きさを感じている」と思いを新たにした。さらに、「12年12月には、新潟県・瀬波温泉の夕映えの宿汐美荘で第1回シンポジウムを開催。13年7月3日には東京で総会を開き、長野県・渋温泉の湯本旅館の湯本英里女将などの事例発表を聞き、自らが、がんを体験し、それでも生き生きと前向きに女将業をしている姿に、勇気をいただいた」と振り返った。

 

※ 詳細は本紙1533号または2月6日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

観光立国加速へ首相が指示、「行動計画」の6月改定へ(観光立国推進閣僚会議)

第4回国交省観光立国推進本部
第4回国交省観光立国推進本部

 安倍晋三首相が主宰する観光立国推進閣僚会議の第3回が1月17日に開かれ、安倍首相から、各省の大臣・副大臣・政務官へ、「2020年に向けて訪日外国人数2千万人の高みを目指す」ことや、外国人旅行者に不便な規制や障害の洗い出し、施策の速やかな実行、「アクション・プログラム」の改定など、政府一丸となって観光立国を加速するよう指示が出た。

観光立国実現へ力を込める太田昭宏国交大臣
観光立国実現へ力を込める
太田昭宏国交大臣

 今後は、関係省庁の副大臣や政務官レベルで構成される「観光立国推進ワーキングチーム」での検討を直ちに開始。5月まで有識者の意見も聞きながら検討し、6月の「アクション・プログラム」改定を目指す。太田昭宏国土交通大臣は改定内容について、2020年東京五輪を見据えて(1)ビザ要件のさらなる緩和(2)災害時の外国人旅行者の安全確保(3)多言語表示(4)無料公衆無線LAN環境の整備(5)出入国手続きの迅速化と円滑化――などの施策を挙げ、関係閣僚に協力を呼びかけた。

 そのほか、各省庁からも発言があり、谷垣禎一法務大臣はクルーズ船審査の一層の合理化など出入国管理法改正の次期通常国会提出への検討について触れ、岸田文雄外務大臣はさらなるビザの要件緩和や魅力ある日本の発信の重要性を強調した。甘利明内閣府特命担当大臣は1月中にまとめられる成長戦略関連施策の実行計画や今後の検討方針に、観光関連も位置づける意向を語り、稲田朋美内閣府特命担当大臣は京都が皮切りの「地方版クールジャパン推進会議」を開始したことを報告した。江藤拓農林水産副大臣は食文化発信への尽力を語り、上野通子文部科学大臣政務官は東京五輪に向けて全国各地で文化芸術の交流イベントを開き、日本を「文化芸術立国」として発信していくことを紹介した。

 その後に開かれた第4回国土交通省観光立国推進本部で太田国交大臣は「東京五輪はインバウンド推進の強力な追い風。この機を逃さずに、今年を2千万人の高みを目指す新たなスタートの年としたい」と力を込め、観光立国が国交省の最重要課題の1つと認識し、施策を速やかに実行するよう指示した。高木毅副大臣は航空環境の充実や入国手続きの円滑化、訪日外国人の延べ滞在日数の長期化などの課題を挙げ、「外国人観光客にたくさん日本でお金を使ってもらい、それを日本の成長につなげなくてはいけない」と語り、「東京だけでなく、全国各地で外国人観光客の恩恵を受けられるような仕掛けが必要」と問題提起した。

農観連携の協定結ぶ、観光庁と農林水産省

農村振興局・小林次長(左)と久保長官
農村振興局・小林次長(左)と久保長官

 観光庁は1月17日、農林水産省と「農観連携の推進協定」を結んだ。農山漁村の魅力と観光需要を結びつける取り組みを推進し、農山漁村の活性化と観光立国の実現をはかるのが狙い。推進協定は農林水産省農村振興局の三浦進局長と観光庁の久保成人長官名で交わした。

 これまでも両者はさまざまな連携をしてきたが、和食の文化遺産登録や2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催決定で日本への注目が集まるなか、訪日外国人2千万人に向け、日本ブランドの確立を目指して協定を締結した。

 同日開いた共同会見で久保長官は「国として初めて『農観連携』という言葉を使ったが、農業と観光との連携が中央の役所だけではなく、日本の地域の隅々で当たり前のものになってほしいという願いを込めた」とし、「(協定の)かたちを取ることで恒久的な連携ができ、事務レベルなどさまざまな段階で場を設けることが可能になる。また、課題を明記することで、取り組む分野がはっきりする」と協定の目的や意義を説明した。一方、農水省農村振興局の小林祐一次長は「昨年12月、総理大臣を本部長とする農林水産業・地域の活力創造本部で、地域の活力創造プランが決定された。このなかで、美しく活力ある農山漁村の実現に向け、関係省庁が連携して取り組むためのグランドデザインが示された」と経緯を報告。「観光庁の目指す観光立国や農水省の目指す農山漁村の活性化はオールジャパンでの体制が必要。協定締結をキックオフとしてお互いに知恵を絞りたい」とし、協定が全国の関係者への大きなメッセージになると語った。

 推進協定では当面の課題として、農林漁業体験等のグリーン・ツーリズムと他の観光の組み合わせによる新たな観光需要の開拓や、訪日外国人旅行者を農山漁村へ呼び込むための地域資源の発掘・磨き上げと受入環境整備、プロモーションの推進など6項目をあげた。

憧れの海外旅行

 海外渡航自由化50年の今年、国産初の海外パッケージブランド「ジャルパック」も50年を迎えた。1965年に出発したヨーロッパツアーは、今の物価に換算すると約700万円と超高額。しかし、69年のデータによると、参加者の約40%が29歳以下だったという。資産家の令嬢や令息が多かったのだろうが、若者たちの海外への興味がとても強かったことがうかがえる。70年にはハネムーン専用商品もでき、若者はさらに海外への憧れを強くしただろう。時代は高度成長期。海外に行くことを目標にがむしゃらに働いた若者も少なくなかったかもしれない。

 ジャルパックは50周年で「世界一周」を企画する。価格は300万円から。中身はどこも行きたいところばかり、憧れそのものだ。今は少し頑張れば海外に行けるが、いつの時代も旅行会社のパッケージ商品は憧れを持てるものであってほしい。

【飯塚 小牧】

交通政基法に期待、日本バス協会が賀詞交歓会

高橋幹会長
高橋幹会長

 日本バス協会(高橋幹会長)は1月15日、東京都千代田区の経団連会館で2014年度新年賀詞交歓会を開き、交通政策基本計画に基づくバス事業の役割や、新高速乗合バスの今後の課題に取り組む決意を表明した。

 高橋会長はあいさつで、「昨年はバス業界の長年の悲願であった交通政策基本法が成立し、高速ツアーバスが新高速乗合バスに一本化されるなど、バス業界にとって大きく前進した年」とし、本年度の交通政策基本計画の策定について、「地方の路線バスは国や自治体の支援なくして維持していくことが大変困難になっている。地域の生活の足を確保していくために、バス事業の役割が明確化され、国や自治体の支援がさらに拡充されることを期待している」と強調した。

 高速乗合バスへの一本化については、「貸し切りバス事業の参入規制の見直し、新しい料金制度の構築、貸し切りバス事業の適正化などまだまだ山積している」と課題を語った。また、「消費税増税にともなう運賃改定の影響が懸念されるなど、見通しのつかないなかでのスタートとなるが、安全安心のバス輸送サービスを提供し、バス事業の発展を目指していく」と述べた。

 来賓の太田昭宏国土交通大臣は「人口減少のなかで地域の公共交通を確保しなければ日常生活でも災害時でも大変なことになる。だからこそ公共交通、バス路線は極めて重要。次の通常国会では交通を含めて地方自治体自体でどうまちを再編させるかということに寄与していく法律を提出することを目標にしている」と意気込みを語った。

事務用品を見直そう

 宿で使われている事務用品を目にして「おっ、これは」と思うことはあまりない。日本の文房具は、「外国人が萌える」といった雑誌特集が組まれるくらい、世界的に秀でているのにもったいない。無印良品は入手しやすく無難だが、さらに一歩踏み込むと新しい世界が広がっている。

 個人的なお気に入りは「クラフトデザインテクノロジー」というブランドだ。そのなかの1つ、日本の伝統色「白緑」(びゃくろく)を軸色に採用した鉛筆は「美しい」のひと言。アンケート記入用紙(用紙の色まで合わせると最高)と一緒に添えてあると素敵だ。

 これはほんの一例。工業デザインの形や色には理由がある。たまの休日、セレクトショップなどに出かけて、自館にあったものを探してみては。

【鈴木 克範】

第39回「100選」盛大に、来年40周年、「旅館アワード」創設(旅行新聞新社)

「100選」表彰式で各賞(部門)1位の受賞を喜ぶ
「100選」表彰式で各賞(部門)1位の受賞を喜ぶ

 旅行新聞新社が主催する「第39回プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」と「第34回プロが選ぶ観光・食事、土産物施設100選」「第23回プロが選ぶ優良観光バス30選」の表彰式と新春祝賀パーティーが1月24日、京王プラザホテル(東京都)で盛大に開かれ、観光関係者約650人が集い新年の飛躍を誓った。

 主催者の石井貞徳社長は「皆様のおかげで、観光業界から一般の方まで発表を待ち望む大きなイベントへと育った」と謝意を述べた。また、「1976年にスタートして以来、来年40回という大きな節目を迎えるが、『旅館アワード』(仮称)の創設を企画している。観光業界発展のため、手足となり盛り上げていきたい」と語った。34年連続でホテル・旅館の総合1位に輝いた加賀屋(和倉温泉)をはじめ、各部門のトップに表彰状と記念の楯が贈られた。

 「優秀バスガイド」「優秀バスドライバー」「もてなしの達人」の表彰式は2月14日、東京都港区の世界貿易センタービル内・浜松町東京會舘で午後1時から開く。

ミャンマーに数次ビザ、要件緩和拡大働きかける

 外務省はこのほど、ミャンマーに対し短期滞在数字ビザの発給を開始した。

 2014年は日・ミャンマー外交関係樹立60周年にあたり、年初からの数次ビザ解禁で訪日観光客の増加、ビジネス面での利便性向上などを狙う。

 滞在日数は15日で、有効期間は最大3年間。同国内に居住する国民(一般旅券所持者)であることが条件となる。

 久保成人観光庁長官は1月17日の会見で、今回のミャンマーへの要件緩和により、ASEAN各国への訪日ビザ要件緩和が一区切りついたことを報告。「次のステップへ進み、引き続き別国への要件緩和拡大を働きかけていく」と語った。訪日外客数増加へ向けて、今後は東南アジア以外への要件緩和に期待がかかる。

24%増の1036万人、東南アジアも100万人突破(13年訪日外客数)

2013年12月訪日外客数

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)がこのほど発表した2013年12月の訪日外客数推計値は、前年同月比25・4%増の86万4600人。これまで12月の過去最高だった12年を17万5千人上回った。1―12月の累計は前年同期比24・0%増の1036万3900人と、悲願の1千万人を達成した。

 13年を振り返ると、円高是正による訪日旅行の割安感の浸透や、東南アジア諸国のビザ緩和、継続的な訪日プロモーションの効果、LCCなどの新規就航による航空座席供給量の増加などが、訪日客増加を後押し。台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、インド、豪州、フランスが年間累計で過去最高を記録した。

 全体の4分の1を占める市場の韓国は13年累計で同20・2%増の245万6100人。07年の260万694人に次ぐ、過去2番目の人数となった。月別では3、4、6月で過去最高を記録。上期は、若年層需要の高まりなどで、同38・4%増と好調に推移したが、8月以降は原発汚染水問題の報道の影響や日韓関係の冷え込みにより、伸び率が減速、下期は同4・3%増と伸び悩んだ。

 台湾の13年累計は同50・8%増の221万800人と過去最高を記録。月別では、旧正月時期の変動により減少した1月を除き、毎月の訪日旅行者数は11カ月連続で過去最高を記録している。LCCの新規就航による座席供給量の拡大、円高是正によるショッピング旅行需要の増大などで訪日数が大幅に拡大した。

 中国の13年累計は同7・8%減の131万4500人と、12年、10年に次ぐ過去3番目の人数となった。月別では9―12月の4カ月で過去最高を記録。日中関係が冷え込んだあと、8月までは前年同月比で平均28%の減少が続いたが、9月以降は日本への忌避感が薄れ、前年同月比でプラスに転じた。

 香港の13年累計は同54・8%増の74万5800人と、08年の55万190人を大きく上回り、過去最高を記録。月別では、旧正月時期の変動により減少した1月を除き、毎月の訪日旅行者数は11カ月連続で過去最高を記録している。主要市場のなかではタイに次いで2番目の伸び率となった。

 そのほか、東南アジア諸国は、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムの6カ国の合計で、13年累計が同48・3%増の114万8800人と、100万人の大台を突破。ビザの要件緩和や、経済発展にともなう海外旅行市場の拡大などが追い風となった。とくに7月からビザが免除されたタイとマレーシアは下期の合計がそれぞれ同96・1%増、52・6%増と高い伸びを示した。

 なお、出国日本人数の13累計は同5・5%減の1747万3千人。