津田令子の「味のある街」「古印最中」――香雲堂本店(栃木県足利市)

2021年4月04日(日) 配信

 
 先日、「おもてなし研修会の講師に」と観光協会のお招きで、栃木県足利市を訪ねた。生涯学習センターでの研修会を終え、校庭に引いてあるグラウンドを走っていると、二宮尊徳の銅像の近くで桜の花が満開を迎えていた。桜の木の下で「走る」ことが、どれほど気持ちのよいことか体感することができた。

 
 足利といえば、国の史跡にも指定されている「史跡足利学校」や「国宝鑁阿寺」が有名だ。そちらを見学してから向かったのが「太平記館」。観光パンフレットが並び、リーズナブルな価格で楽しめるカフェもある。嬉しいのは、ほとんどの足利名物がここで手に入るのだ。

 
 足利市観光協会の吉田雅裕事務局長は、「古印最中や栗蒸し羊羹は人気ですね。他にも足利には美味しいものがたくさんあります」とおっしゃる。土曜日ということもあり栗蒸し羊羹は、すでに売り切れていた。おすすめの古印最中を、手に取った。足利銘菓古印最中とあざやかなオレンジ色の包装紙が、こちらを見ている。「これだ」と思い、友人や隣家へのお土産も含め5箱購入する。

 
 今、我が家のテーブルに古印最中の箱がある。ふたを開けると最中の皮の匂いがほどよく辺りを包み込む。まず、香雲堂のご主人のあいさつ文が書かれた白い紙が目に入る。「ひとつのことでもなかなか思うようにはならぬものですだからわたしはひとつのことを一生けんめいやっているのです 香雲堂主人」と記されている。

 
 栞には、足利の歴史を銘菓にこめて……とある。創業百余年の香雲堂が自信をもって素材を吟味し「これなら美味しい」とほめていただけるものをと種々苦心考察し、さらには足利学校や鑁阿寺などに取材する中で生まれた1品であるということが記されている。

 
 さて、箱に5つ並んでいるうち細長い最中を選び、薄紙を剥ぐ。一気に口に入れてみる。国産の小豆と砂糖などで作ったという餡が、ぎっしり入っている。最中の皮との相性も抜群だ。

 
 「足利に銘菓あり」とうなずきながら濃い目の緑茶で2つ目をいただいている。

(トラベルキャスター)

 

津田 令子 氏

 社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。

 

「観光革命」地球規模の構造的変化(233)  コロナ禍と地方の頑張り

2021年4月3日(土) 配信

 東京五輪の聖火リレーが3月25日(木)に福島県からスタートした。五輪の象徴である聖火は121日かけて全国を巡り、7月23日(金)の開会式で東京・国立競技場の聖火台にともされる。聖火リレー開始はめでたいが、一方で東京五輪・パラリンピックで海外からの一般観客の受け入れ断念が既に正式決定されている。コロナウイルスは変異株出現などで厳しい感染状況が続いており、今夏に海外から日本への自由な入国は困難と判断された。

 菅政権は東京オリパラを契機に、訪日観光立国を軌道に乗せて経済再生をはかろうとしたため、海外観客見送りは大きな痛手だ。長引くコロナ禍に苦しむ旅行業・観光業・飲食業などへの影響は大きく、五輪特需が失われ、倒産・廃業に拍車が掛かり、失業者の増加が危惧されている。

 政府は感染拡大を危惧して「Go To トラベル」事業再開に及び腰であるが、地方の自治体は独自の施策で旅行・観光事業への支援を行っている。鳥取、島根の両県は共同キャンペーン「#WeLove山陰キャンペーン」を実施し、両県民が域内対象施設を利用する場合に費用を割り引く。新潟県は県民向けの「泊まっ得! にいがた県民割キャンペーン」を開始し、県内施設対象で宿泊割引を行う。

 高知県は県在住者を対象に「高知でお泊まりキャンペーン」を実施し、静岡県は県民対象の「バイ・シズオカ~今こそしずおか元気旅」を再開し、県内対象宿泊施設の予約を県内旅行業者店舗で行った場合に宿泊割引を適用する。北海道は「新しい旅のスタイル」モデル事業への助成を検討し、「黙食・黙浴」を守る同意書の提出を条件にして道内6圏域の在住者に限定しての宿泊割引実施を想定している。

 自治体による独自の旅行・観光事業助成は評価できるが、それらの原資は昨年4月に政府の緊急経済対策で創設された「地方創生臨時交付金」で2020年度の補正予算で総額4兆5千億円が計上されている。

 臨時交付金は使い道が多様で、地域の実情に合った政策実現に活用し易い点は評価できるが、将来世代に大きな増税負担を掛けるので、地域の課題解決に向けて最も効果的な財源の使い道かどうかの判断が重要になる。コロナ禍を契機にして中央から地方への財源・権限移譲の本格化が必要になる。

 

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

新型 2 階建てオープントップバス「エクリプス ジェミニ 3」 4月3日運行開始(はとバス)

2021年4月2日(金) 配信

エクリプス ジェミニ 3

 はとバス(塩見清仁社長、東京都大田区)は4月3日(土)、新型 2 階建てオープントップバス「エクリプス ジェミニ 3」運行を開始する。

 2017年から欧州メーカー数社と交渉をはじめ、イギリスの「Bamford Bus Company」と日本仕様のオープントップバスを開発。「エクリプス ジェミニ3」の導入は、日本で初めて。

 雨天時対策の「幌」をコンパクトにたためるようにし視界を確保、従来のオープントップバスでは2階前方中央にあったガイド席を最後列にすることでバス正面の景色も楽しめるようにした。

車内
銀座の眺め

 新型コロナウイルス感染症の影響で減少している訪日外国人旅行者の需要回復を見込み、従来の2階建てオープントップバスに搭載している多言語自動ガイドシステムも搭載した。

 バスの走行に合わせリアルタイムで観光案内をするもので、英語や中国語、フランス語など8ヵ国の言語に対応。貸与される端末にはイラストでルート地図が表示され、バスがどこを走行しているかも一目でわかるようになっている。

貸与される端末の画面

 また同社では、保有する全ての2階建てオープントップバスの車体デザインを「'O Sola mio」 (オー・ソラ・ミオ)」から「Tokyo Open Top Tour」に変更し、訪日外国人旅行者にも東京観光のバスツアーであることをわかりやすくする。

 車両は、同日から4月29日までの土、日、祝日に催行する新コースでデビューする。なお、5月以降の運用は検討中。

 岡田美術館で特別展「東西の日本画 ―大観・春草・松園など―」  4月3日から

2021年4月2日(金 )配信

 

上村松園「汐くみ」(部分)昭和16(1941)年 岡田美術館蔵

 岡田美術館(神奈川県・箱根町)で4 月3日(土)~ 9 月26日(日)まで、特別展「東西の日本画 ―大観・春草・松園など―」 が開かれる。明治から昭和にかけて東京と京都を中心に活躍した画家に焦点を当て、同館が誇る 日本画コレクション約 45件を一挙に公開する。

 同館が収蔵する近現代の日本画コレクションをテーマとした展覧会は、2014年の「大観・春草・御舟と日本美術院の画家たち」以来、約 7 年ぶり。横山大観の大作「霊峰一文字」や、上村松園の代表作「汐くみ」など、珠玉の近代日本画が一堂に会す。

 担当者は「新たな日本画の表現を模索し、東西で花開いた日本画家たちの作品は、色とりどりの魅力に満ちています。 明治から大正、昭和にかけ、伝統と革新のはざまで挑戦し続けた画家たちの清新な日本画の数々をご堪能ください」とPRする。


菱田春草「旭光耀々」(部分)
明治時代 20世紀初頭
岡田美術館蔵

 

 同館では期間中、収蔵する菱田春草作品全7件も特別に展示する。21年が春草の没後110年になることから企画。

 春草が所属した美術団体「日本美術院」の代表画家たちによる名品を公開する。また、4階展示室では、特別展に合わせ、関連展示「近代×琳派」も行う。近代画家の多くが自己の様式を模索するなかで琳派に学び、創作の糧としたことから、江戸時代の琳派の画家、俵屋宗達や、酒井抱一らの作品とともに展示し、影響に注目する。

講演会

東西の美人画 清方と松園

日時:6月12日(土)、午後1:00~2:3 0

講師:小林忠(岡田美術館 館長)

大観・春草と栖鳳・華岳

日時:8月21日(土)、午後1:00~ 2:3 0

講師:小林忠(岡田美術館 館長)

関連講座

富士も美人も観音様も!―色とりどりの東西日本画―

日時:7月17日(土)、午後1:00~2:30

講師:稲墻 朋子(岡田美術館 学芸員)

特集展示スライドトーク

日本の漆蒔絵を中心に

日時:9月4日(土)、午後1:00~2:00

講師:塩谷尚子(岡田美術館 学芸員)

※申込不要

阪急21年度入社式 コロナ渦中入社の新入社員38人にエール送る(阪急交通社)

2021年4月2日(金) 配信

阪急交通社は4月1日(木)、2021年度入社式で新入社員38人を迎えた

 阪急交通社(酒井淳社長、大阪府大阪市)は4月1日(木)、大阪市のハービスホールを会場に2021年度の入社式を行った。酒井淳社長は新入社員38人に対し、エールを送った。以下、あいさつ全文を紹介する。

酒井淳社長のメッセージ

 皆さん、入社おめでとうございます。本日、このように内定時以来お一人も欠けることなく無事38人の皆さんを当社に迎えられたことは本当に喜ばしく、感慨深く思っております。

 恐らく今日を迎えるまで皆さんは、コロナ禍において旅行業界がいまだかつてない状況となり、様々な不安にさいなまれていたのではないかと推察します。

 そのようななか、当社で働く皆さんの先輩たちは、少しでも早く業績を回復できるよう常に前を見据え、今なすべきこと、出来ることに全力で取り組み会社を支えてくれています。そして、皆さんと同じ職場で一緒に働くことを心待ちにしています。

 明日からの一定期間、人事の研修が予定されていますが、社会人として 企業の一員としての心得をしっかりと学び、来るべき配属の為の準備をお願いしたいと思います。

 さて、皆さんはこれから旅行という形のない商品をつくり、販売し、あるいはそれをサポートする業務に携わっていきます。それらはすべて、当社を支持くださるお客様からの信頼や、商品づくりのパートナーである取引先との連携がなければ作り上げることができません。運送機関、宿泊・食事・観光施設など様々な取引先との連携を密にし、刻々と変化する情報をいち早くキャッチすることで、旅行を魅力ある商品へと肉付けしていくことができます。皆さんの先輩たちにも今季は積極的に下見に行くようお願いしていますので、皆さんもいずれ色々なところに赴き勉強してください。

 当社は「常に変化を求め、お客様の声に応える『旅』創出で、社会に必要とされる企業を目指す」を基本方針に掲げています。様々な変化にアンテナをはり、何事も深く考え、疑問に思ったことは積極的に質問してください。1年目から果敢にチャレンジし、仕事の面白味や充実感、達成感を味わっていただきたいと思います。

 皆さんの新鮮な感覚と若い力を存分に発揮していただくことを期待しています。

 今この時から約2700人の阪急交通社の一員となったことを自覚し、行動してください。

 新型コロナウイルスが感染拡大の様相にありますので、手洗い・消毒・マスクを徹底していただき、健康に留意してこれから一緒に頑張って行きましょう。

GWは家族で海外オンラインツアー 半額クーポンも配布中 JTB

2021年4月2日(金) 配信

各国・地域のオンラインツアーを展開する

 JTB(山北栄二郎社長)はこのほど、ゴールデンウイークに家族で楽しめる海外オンラインツアーを売り出した。映像だけでなく、クイズを通じて各国・地域のようすを学べるツアーや、環境問題を考えるきっかけ作りとなるツアーなど、子供の学びにつながるとともに、遠方の知人や親戚とも楽しめる機会を創出する。

 ツアーの一例として、ニュージーランドの国と見どころを学べる「わくわくニュージーランド ~ニュージーランドの動物、不思議、文化を楽しく学ぼう!~」は、ニュージーランドの基本情報のほか、オセアニアで見られる「青く光る土ボタル」の紹介、農場体験のようすなどを紹介する。

 実施日は、4月29日(木)と5月1~4日で、参加費用は1端末あたり2199円(税込)となっている。

 また、タイでトマト農園を始めた日本起業家に話を聞くオンライン講座(4月25日、5月16日、1端末1770円)、インドネシア・バリ島の文化を学ぶオンラインツアー(5月1、2、8、9日、1端末3237円)などもある。

 なお、4月24日(土)~5月9日(日)の参加に利用できる半額クーポンを4月1日(木)から配布している。

インスタライブで宿泊プランの魅力紹介 「TabiMUSE STAY」本格始動へ 

2021年4月2日(金) 配信

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 バリーズ(野々村菜美社長、東京都渋谷区)が運営する、宿泊施設に特化したライブ配信型OTA「TabiMUSE STAY(タビミューズステイ)」は4月4日(日)午後9時から、オリジナルの宿泊プランを売り出す。東京・竹芝のラグジュアリーホテル「メズム東京」とコラボしたプランを全30室販売するとともに、同日午後9時30分からインスタライブを通じて、メズム東京の魅力を紹介する。

 4月から本格始動するTabiMUSE STAYは、国内ホテルの「特別な滞在プラン」を限定販売するサイトで、インスタライブを通じてホテルの魅力を紹介する。第1弾となる今回の「メズム東京」のプランは、編集部のスタッフが実際に試泊し、ホテルスタッフと話し合いを重ねて作り上げた。

 予約の取れないアフタヌーンティーや、エグゼクティブフロア・スイートルーム宿泊者専用ラウンジ「クラブメズム」への入室・閉店後の貸切など、同プランならではの内容が盛り込まれている。

 部屋は、バルコニー付きのツイン・ガーデンビュー(40平方㍍)に宿泊し、朝食はルームサービスとなっている。料金は、1室あたり9万9826円(税・サ込)。

 設定日は、5月14日(金)泊、5月21日(金)泊、5月28日(金)泊で、各日10室限定の販売となる。

 なお、配信は、TabiMUSEの公式インスタグラムのインスタライブで行う。

宿泊予約後のキャンセル、最大100%補償 トラベルキャンセル保険(日本旅行)

2021年4月2日(金) 配信

日本旅行リテイリングはこのほど、「トラベルキャンセル保険」の提供を始めた

 日本旅行リテイリング(大槻厚社長、東京都中央区)は3月30日(火)から、旅行予約をキャンセルしたときにかかるキャンセル料を補償する「トラベルキャンセル保険」の提供を始めた。国内宿泊、国内ツアー、日帰りツアー、航空券予約が対象で、最大100%のキャンセル料補償を行う。

 急な出張やイベントの中止、急病、天災による警報、交通機関の停止、外出自粛要請などといったさまざまな理由で旅行のキャンセルを余儀なくされた場合など幅広く補償するのが特徴。

 また、予約者本人だけではなく、旅行に同行する家族や友人も補償対象に含まれ、同行者のトラブルによるキャンセルも適用の範囲内となる。

 支払い保険料の例として、宿泊人数3人で予約代金が2万5000円の宿泊予約をした場合、保険金額は2万5000円で保険料は640円。

 同商品は、電話予約の「いい旅予約センター」や各支店店頭のほか、Web上でも手続きができる。

4月1日から社名を「宿研」(やどけん)に 宿泊予約経営研究所

2021年4月2日(金) 配信

宿研の新ロゴ

 宿泊予約経営研究所(矢津達彦社長、神奈川県横浜市)は4月1日(木)に社名を「宿研」(やどけん)に変更した。

 宿研は、宿泊施設専門のWeb集客パートナーとして、2004年9月に設立。「日本中の宿屋を元気にする」を経営理念に掲げ、Web集客ツールの運用サポートや、コンサルティング、ブランド構築などを行い、累積契約実績は4700軒を超える。今後は事業をさらに発展させ、「経営パートナー」として宿泊施設を支援していく。

5月1日号から新連載「精神性の高い旅」スタート プロローグ~精神性の高い旅へのいざない 失ったからこそ見えてくるもの 島川崇氏

2021年4月2日(金) 配信

島川崇氏(左)と石井亜由美氏(旬刊旅行新聞2021年3月11日号掲載) 5月1日号から島川氏と石井氏が交互に精神性の高い旅を紹介していく

 ~ただ見たいものがあるんだ~

 この言葉は、生涯をかけて曼荼羅と仏画に挑んだ孤高の画家小倉尚人が、妻から絵を描く理由を問われたときの答えである。この言葉で小倉が言いたかったことは、見たこともない珍しいものを見たがっているということではない。見えない真理を見たい、その想いに小倉は突き動かされていた。

 
 小倉は、金剛界曼荼羅9作品を描きあげたタイミングでこの言葉を発した。一般的には曼荼羅画といえば諸尊の身像の集合をイメージするが、小倉の曼荼羅画は、それとは異なり抽象的である。宇宙の深淵を見るような不思議な印象だ。死へ向かっているようで、それでいて生へのエネルギーがほとばしっているような、今までにはない気持ちを内面から湧き立たせてくれる画である。

 
 小倉は、名利を一切求めず、生涯画を描くことで仏道を求めた。その求道者としての小倉の眼を通して、私たち凡人は、仏の道とはこのような心持ちなのかと想像を膨らませることができる。

 
 ここで、最近の観光を取り巻く環境を考えてみると、「フォトジェニック」「インスタ映え」といった言葉に象徴されるように、目に見えるものの美しさ、煌びやかさ、印象深さばかりが注目されている。

 
 その一方で、旅に精神性を求める人も存在する。最近では、御朱印帳を片手に寺社巡りをする人々も多く見かけるようになり、パワースポットと紹介された場所は活況を呈している。ただ、このパワースポットとは何かを知るために、雑誌Hanakoの寺社特集の直近4冊でパワースポットとして紹介されていたところを列挙していくと、樹木24%、石・岩19%、仏像・動物の像14%、本殿・本堂・門等の建造物も14%と、すべて「モノ」であり、見えないものがパワースポットとして紹介されている項目はなかった。精神性を求めているように見えて、現実はすべて目の前にあり、見える印象的なものを求めて旅をしているに過ぎない。

 
 西行は伊勢神宮を訪れたときに、「何事のおわしますかは知らねどもかたじけなさに涙こぼるる」と詠んだ。目の前の社殿そのものではなく、見えないものを感じたわけである。出口王仁三郎は「耳で見て目で聞き鼻でものくうて口で嗅がねば神は判らず」と表現した。出口の表現には感性を研ぎ澄ますヒントがある。耳で見てみよう、そして、目で聞いてみよう。そうすると、現代社会において私たちは視覚にいかに左右されているかということがわかるはずだ。

 
 それは音に関しても同じだ。旅に出て、敢えて眼を閉じてみよう。旅の途中同行者とぺちゃくちゃおしゃべりするのではなく、しいんとした静寂に身を置いてみよう。そうすることで、今まで見過ごしていた小さな気配を感じ、それが思いがけない出会いにつながって、自分はひとりぼっちではないということを実感できるのだ。

 
 コロナ禍で私たちは多くのものを失った。でも、失ったものそのものやその代わりとなるものを得ようとするのではなく、失ったからこそ見えてくるものを感じる旅をしてみませんか。

 
 そのような「精神性の高い旅」を石井亜由美さんと私でそれぞれの感覚を頼りに1人旅し、それを隔月で連載したいと思います。ご期待ください。

【島川 崇】

 

コラムニスト紹介 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。日本国際観光学会会長。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。