【特集No.344】 里海邸 大洗金波楼本邸 「本当にくつろげる宿」を求めて

2013年7月1日(月) 配信

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している旅館がある。なぜ支持されるのか、その理由を探っていく「いい旅館にしよう!」プロジェクトのシリーズ第13弾は、茨城県・大洗町で「あたらしいふるさと」をコンセプトに、保養を目的とした宿「里海邸 大洗金波楼本邸」の主人・石井盛志氏が登場。工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏との対談で、「本当にくつろげる宿」について語り合った。

【増田 剛】

 内藤:里海邸はもともと保養所からのスタートですよね。

 石井:里海邸の前身の金波楼ができたのは、1888(明治21)年のころです。明治の文明開化後期に海水浴ブームが起きて、茨城にも海水浴場を作ろうという動きがありました。当時の海水浴場は「潮湯治」というもので、体に良い刺激を与えるために波の荒いところを選定して、医師もビーチにいて予防医学的な活動を行ったのです。文献によると、当時は「海水浴客」ではなく、「患者さん」という呼び方をしていたみたいですね。それが次第に現代のようなレジャーに変わっていきました。

 海水や海の気候に囲まれた環境の中で運動などをしながら、ゆっくりと静養して体をメンテナンスしていく施設として金波楼は誕生したのです。

 この大洗も経済の成長と歩調を合わせて、次第に男性客中心の歓楽型の宿に変貌を遂げていきましたが、バブル経済が崩壊すると、大型団体の需要がなくなりました。

 私自身もどちらかといえば宴会客を受けるのが苦手で、この土地に合った海の持っている癒しの力で「本当にくつろげる宿を作りたい」と思いました。そして、過去とのつながりを意識しながら、120年前に創業した宿の原点に戻ろうと、2年前に全8室の宿にリニューアルしました。しかし、ただ単に創業時に戻すということではなく、今の時代に合った保養や癒しのかたちで、お客様が日々感じているストレスにも対応できる設備のあり方や、環境の取り込み方、快適性などを考えながら、少しずつ丁寧に積み上げてきました。テンションを上げる場所ではなく、むしろ別荘のように「心を鎮める場所」としての方向に向かっています。観光旅館ではなく保養のための宿ですね。

 内藤:そういう意味では、豪華な料理を出すとか、何かお客様の気持ちが盛り上がるように持っていくというのとはまったく逆の考え方ですね。

 石井:たとえば医師のように日々非常に忙しい方が1人で訪れ、「やっと自分の時間ができた」と、ゆっくりと海を見詰めたり、海辺を散歩したり、静かに読書や音楽を聴いたりして過ごし、リラックスして帰られる方が多いですね。食事も派手ではないですが、素材の良いものを洗練させてシンプルに提供しています。

 私たちは「あたらしいふるさと」と呼んでいますが、「ここに居心地の良い場所を一つ作ります」というのが宿のコンセプトです。つまり、「家」なのです。

 茨城県は、観光魅力ランキングでは全国で最下位に近いですが、「移住したいランキング」では結構高いのです。東京とのつながりを保ちながら、現実的に暮らせそうというイメージがあるのでしょう。首都圏の方々には「近距離で、ゆっくりとしたいニーズが結構あるのだな」と思いました。でも実際に別荘を建てるとなるとお金もかかるし、近所付き合いなども大変です。憧れと現実の落差は結構あります。だったら煩わしい部分をすべて引き受ける宿を作ろうと思いました。そこで「別荘宿」の考え方に辿り着いたのです。この考えにぴったりとはまったお客様は年に5―6回という頻度でリピートしていただいています。

 スタッフも価値観を共感していただける方が働いています。スタッフにとってやりがいのある職場でありたいと常に思っています。組織の動き方は、まだ完全ではないですが、ほぼサッカーチーム型です。一応、「こういう風にゲームするぞ」という共通認識のもと、お客様が訪れると、連絡を取り合いながらいい仕事をするために組織的に動きます。うちのスタッフは館内をよく歩き回っています。接客の技術は、基本的な情報伝達などの徹底はやりますが、個々のキャラクターにある程度は任せています。

 内藤:落ち着かせるための設計にも、宿主の考え方が細部に現れています。

 石井:人間は、洞穴のような安全なところにいて、外敵や自然を見ているのが心理的に落ち着く性質を持っています。このため、客室には奥行きを持たせて、一番奥に安らぐ空間を作りました。お客様は海に面したところに行ったり、奥の空間で安らいだり、客室の中で何度も移動を繰り返します。宿側の都合によってお客様を動かすようなことはせず、個々の心身のコンディションで、自由に動けるようにしようというのが基本的な考え方です。

 海や川、滝といった自然は頭の中のざわめきを消してくれるので落ち着きます。しかし、同時に人間は自然の中では非常に緊張しているのです。「癒しを求めて来られるお客様に対してどうすればよいか」を一番に考えました。

 内藤:おっしゃるように、ベッドは客室の一番奥にありますね。

 石井:私は海側にベッドを置くのは良いとは思わないのです。実はこの建物も以前は海側にベッドを置いていたのですが、最初は波音が聴こえ、頭がすっきりして気持ちいいのですが、さあ安心感を持ってゆっくりしようと思うと、今度は波の音が不安で眠れなくなってしまうという意見が多かったのです。

 私たちの宿では3ゾーンのレイアウトにして、最も非日常的な部分にテラスを付けて、一番静かなところに寝室を作り、その間にリビングルームを配しました。また、木の温もりなどによって普段の住宅とかけ離れたものではない感覚を大切にしました。

 私の経験から、旅館に泊まって朝早く目が覚めたときに、周りが寝ていると居場所がない。また、夜遅くまで起きていたいと思っても周りの人が寝始めたら寝るしかない。このため、里海邸では客室の中を3つ以上にきちっと区切り、完全に寝る場所、コミュニケーションを取ったり、くつろぐ場所、そして、非日常的な空気にどっぷりと浸かれる場所の3つの空間を作りました。部屋の中を移動しながらお客様が最も心地よい場所を見つけることが一番負担の少ない過ごし方だと思います。

 露天風呂付き客室というのも人気が出ましたが、冬は寒いですよね。コンコンとお風呂が湧いているのなら別ですが、窓がないお風呂は、とくに年配の方は辛いと思います。私は冬にもお客様に来てほしいと考えていますので、浴室には窓を付けています。浴室の作りはシンプルな石の風呂と、木の風呂だけです。洗い場には鏡もありません。何もない分、前面に広がる自然の海のエネルギーをしっかりと受け取って、「頭の中を空っぽにしてほしい」との思いから基本的には何にもないお風呂にしました。入浴後には、木の素材をたっぷりと使ったイスに腰掛けて、少しお酒を飲んでアンビエントミュージックなどを聴いていると眠くなってきます。そして「こんなに自分は疲れていたんだ……」と強く実感されるのです。日ごろは緊張しているので自分の疲れを実感できないのですが、何か大きな仕事が終わったときに体に大きな疲れがドーンと出ますが、あれと同じような働きが起きるのです。

 内藤:お風呂に鏡を付けていないのはどうしてなのですか。

 石井:海に近い野趣な環境のなかで、自然と一体となって体を浄化していく作業を、最大限に効果を高めるために配慮しました。ひげも剃れなくて不便なのですが、鏡がないことで苦情を言われたことはないですね。

 内藤:鏡があると現実に戻されてしまうからですか。

 石井:そうですね。自然を受け入れるという流れを大切にしています。

 それと、里海邸では宿を家のように感じていただくために、玄関の表札は小さくしています。初めて訪れるお客様は気づかれず、よく通り過ぎて行かれます。館内には一切、どこに何があるというサインがありません。商業施設ではなく、自宅にいるような気持ちになれるように、エレベーターの中にも何も書いていません。スタッフが客室に入るときにはチャイムを鳴らします。しっかりと説明はしていますが、お風呂がどこか分からなくてときどき聞かれることがありますが、お客様とスタッフとの会話のきっかけになればいいと思っています。「付かず離れずの関係」とお客様に褒められたこともありますが、実はお客様がスタッフに聞かざるを得ない状況をあえて作っています。これが付かず離れずに見えるのでしょう。お客様が困ったようすにあれば、こちらからお声をお掛けします。

 館内は木の素材を多く取り入れています。今の社会は視覚に訴えるもので多く構成されていますので、目と頭がやたら疲れていると思うのですが、ここでは、肌に触れる「温もり」を大切にしています。自然素材の木に触れる足裏もそうですが、机やイスにもわざわざアームを付けており、肌と自然素材との触れ合いによって、日ごろ感じている緊張感を和らげていただきたいと思っています。

 私たちは、大人が子供の心に戻るような宿を作りたいという思いがあります。大人は重い物を背負ったり、鎧を着ていたりします。時間も、急かされるように過ぎていきます。だけど、子供のころは時間が無限に長く感じられましたし、ゆっくり流れていきました。あの時間の感覚をどうやって作れるのだろうと考えました。そのためには海という環境の力を借りて、一度頭の中を空っぽにしてもらう。その後どうするかというのが我われの宿の仕事です。ゆっくりと時間を感じていただくために、たとえば、ラウンジのソファなどの家具は包むように作られています。家具作家にお願いしたのは「木に抱っこされるようなイスを作ってほしい」というようなことです。

 子供のころには自分を見守ってくれる親や大人たちがいて、その安心感こそがゆったりとした時間を感じさせる要因だったりしますが、大人になると全部自分でやらなければならない。でも、ここでは子供に戻ったように宿のスタッフが世話をしてくれるのです。実家に帰るというのは、親がいて少し甘えることができる心地よさがありますが、そういう安心感を建物としても工夫しています。ラウンジのテーブルは少し高めにしています。子供のころは、家具は大人用に設計されているのですべて大きく感じます。ここでは大人でも少し大きいなと感じられるように仕掛けをしています。こちらから説明はしませんが、とくに女性は「ゆったりして心地いい」という印象を持たれるのではないでしょうか。

 お客様はたっぷりある時間の中で本を読んだり、映画を観たり、海でただ風に吹かれていたり自由に過ごされますが、私たちは寝る空間以外にリビングルームを必ず作っていますので、会話の機会が少ないご夫婦が、そこでゆっくりとお話をされたり、普段の生活の中では話せなかったことや心に引っかかっていたものを解決できるようにしているんです。チェックアウト時間は正午まで提供しています。朝食もゆっくり食べていただくというのが前提になっていますので、9時過ぎから食事をされる方もいらっしゃいます。

 茨城で3万円の宿として始めたので不安もあったのですが、お客様は私たちのコンセプトをほぼ理解していただいています。豪華な牛肉や伊勢エビも出さないので、最初は色々と言われたこともありましたが、今は、むしろ料理のボリュームが多すぎると言われ、どんどん量も抑えています。

 私たちが提案しているのは、「こんな暮らしがしたい」というライフスタイルなのです。なかなかゴールがあるわけではないのですが、この時代の中で社会的な役割を少しでも果たせていけたらと思っています。

 内藤:料理長とはどのような議論をされているのですか。

 石井:「土地柄に合った料理を作らなければならない」ということですね。大洗の土地で京風懐石を出す必要はありません。それは京都に行ったときの楽しみですから、京都で食べればいいのです。では、茨城ではどのような食文化があるかと調べてみると、そんなに特別な料理を作っている食文化はない。それは茨城が産地県だからなのです。新鮮なものが手に入るので、そのまま食べるのが一番美味しいという意見が多いのです。地産地消は食材の購入にばらつきがあるため、メニューを固定すると達成が難しい。ですから里海邸では「メニューは基本的に宿にお任せ下さい」としています。その分、その日の新鮮な魚や野菜を用意できます。高級な食材よりも、地元の食材で丁寧に作ることを評価していただければいいと考えています。厨房のすぐ横にある海を望む食事処で、焼き魚や肉もお客様に提供するぎりぎり直前に調理しています。

 館内ではすべてにおいてテンションを上げないように配慮しているので、ゆっくりお風呂に入った後、懐石料理などを出すと急にチャンネルを変えられたような違和感が出てしまうので、落ち着いた食事が食べられるように気を配っています。ただ、退屈な時間にならないように素敵な器を使ったり、知的好奇心をある程度刺激する工夫も施しています。このように里海邸では、淡々と時間を流していくのです。

 内藤:新しいメニューを考える際にこだわるポイントはどこですか。

 石井:料理長がとくにこだわっているのは、食感を際立たせることです。一見素朴な家庭料理でありながら食べると、お客様が「あっ」と驚くポイントを、味付けや食感などで幾つか用意しています。たとえば「ゴボウってこんなに美味かったのか」と思わせるために、味を整えたり、食感を殺さずに調理をしていく過程に心血を注いでいます。

 内藤:食材の持っている元の味を出すには食感があった方がいいということですか。

 石井:そうですね。食材そのものの味、よく滋味などと言いますが、これらを引き出すには料理をしすぎないことです。実際はすごく手を入れているのだけれども、でき上がったものは食材で持っている性格を失わずに食べやすく提供する。これを考えるのが料理長の仕事です。素朴な料理を心地よく食を進めていくために、シャキシャキとする食感と対になるものを加えていったり、一見地味な料理でも、食欲を昂進していくように仕掛けていくことは常に意識しています。産地県ですから、野暮ったくならないセンスをいつも気にかけています。

 音楽にたとえると、何度も聴いているうちに「この部分を心地よく感じていたんだな」と気づく旋律があって、そういうものを潜ませたいという気持ちはあります。技術を細部に潜ませているのが料理長のこだわりだと思います。

 内藤:宿泊客の年齢層は高めですか。

 石井:セカンドライフ層を狙っていたので、基本的に高齢者がターゲットです。経営的にも平日の稼働率を上げなくてはならないので、シニアの方ですね。遠くの旅行に行くのに疲れた高齢者の方もいらっしゃいます。

 内藤:多くの旅館はインパクトを出すとか、料理を豪華にするということで集客する手法を取ってきましたが、若い世代は最初はこの宿の魅力を理解できないのではないでしょうか。そして、あえてそのようにしているのではないかという印象を受けました。

 また、これまでは若い女性をターゲットにしたマーケティングは何度も言われてきましたが、私はむしろ50―60代の男性を意識したサービスに大きなマーケットがあるのではないかと思っています。

 石井:おっしゃるように、確実にあると思います。一方で、ターゲットはもっと上なのですが、若い30代の現役バリバリのビジネスマンが忙しさを解消するために、クタクタになって来られるケースもみられます。

 内藤:多くの旅館は目先のお客を得るために特色を出そうとしますが、里海邸は徐々にお客を獲得し、リピーターによる高稼働の状態を数年かけて作り上げていくスタイルで、さまざまな工夫をされていますね。

 石井:年に何度も来られるお客様がいらっしゃいますので、演出性を持って迎えるのは止めて、「その日その日のベストな仕事を普通にやる『ノンフィクションでいこう』」という姿勢です。その部分で共感していただける方と付き合っていこうと思っています。

 内藤:大型鉄筋、部屋食、懐石料理、女将、着物という旅館のイメージはそんなに古いわけではなく高度成長期以降のことです。その前は民宿、湯治場などが主流で、バブル前後に大型化したわけです。旅館業界は短期間にものすごく大きく変化してきました。これまで大部分を占めていた宴会などによる収益構造が今後も安定的な経営のコアとして続くことはないだろうと皆が気が付いています。今主流になっているものが今後も主流であり続けることはとても難しい。これから10―20年はどのような宿が支持されるのか、今はその大きな転換期のような気がします。

 石井:新しい潮流といえば、大袈裟かもしれませんが、そのようなものを作っていきたいとは考えています。今は黎明期なのでしょうけど、それぞれの宿が各地で地域のローカリティーを追求しています。「田舎」というと、地域があって、その中に宿があるというイメージですが、それはあまりに壮大な話ですので、「宿に入ったら地域が広がっていく」方向に進めていきたいと思います。里海邸も都市との関係性や、心理的な距離感なども含めてこの地域らしさなどを追求しています。

※ 詳細は本紙1507号または7月5日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

進まぬ温泉地の長期滞在 ― 文化の薫りと憩いの空間

 温泉地における長期滞在が進んでいない。逆に日帰り化が加速している。滞在時間が短いというのは、温泉地自体や各旅館に、旅行者が「連泊しよう」という気分を湧き起こさせない何らかの障壁があるのではないか。夕方遅く到着して朝早く去っていく周遊型団体観光客を除けば、個人客はもっと温泉地に長期滞在してもいいはずだ。そもそも「温泉」にはゆったりと長期滞在客を受け入れる素地を充分に備え持っているのだから。

 しかしながら、旅館も長期滞在客の扱いを持て余している。その象徴的なものは料理だ。一般的な大型旅館では、量が多く、見た目は豪華という、画一的な料理が提供される。そもそも長期滞在の客を前提にして作られていないし、「長期滞在されると、3日目には出す料理に困る」という悩みをよく耳にする。しかし、宿の都合をお客に押しつけるスタイルはもはや支持されない。1泊客とは別に、連泊客には体に負担にならない、ヘルシーで心のこもったメニューの研究や開発など、柔軟な対応が求められる。

 温泉地では、旅行者がくつろげる空間をたくさん作ってあげることも重要である。シンボル的な共同湯の周りや、土産物店が並ぶ温泉街、川べりなど静かな自然空間には、雰囲気の良いベンチを設置し、自分の好きな憩いの空間を作ってあげることが大切だ。四阿やベンチはいくらあっても多すぎることはない。そのうちに景観への美意識も高まり、地元の青年部などがゴミを清掃したり、寂びた看板などを撤去していくだろう。

 そして、温泉地には、小さな図書館があればいい。大規模な必要はない。長期滞在に取り組む大分県の長湯温泉には旅行作家・野口冬人氏が蒐集した山岳書を収めた「小さな図書館」が林の中にひっそりと在り、長湯温泉全体の文化度を高めている。洋の東西を問わず、温泉地は文化人に愛されてきた。文化の薫りのしない温泉地は、人を惹きつける力が弱い。私も「ここはいい旅館だな」と感じる宿には趣のある図書室や、本棚がさりげなくある。宿主のセンスが感じられる知的な空間を備えている。1面に登場した里海邸の石井盛志氏が築く「保養の宿」にも、そのような空間があり共感した。里海邸のようにリピーターが頻繁に訪れるというのも、一つの長期滞在のあり方だろう。

(編集長・増田 剛) 

今年度300会員目指す、今秋にも日本観光施設協会へ(日本ドライブイン協会)

西山健司会長

 日本ドライブイン協会(西山健司会長、230会員)は6月4日、京都府京都市のリーガロイヤルホテル京都で2013年度通常総会を開いた。今秋にも一般社団法人日本観光施設協会への移行を目指しており、新組織のスタートと合わせて、今年度は会員増強に取り組む。目標会員数を300会員に設定した。

 西山会長は「今年度は、内閣府直属の一般社団法人日本観光施設協会としての発足を目指している。事業の拡大をはかりながら社会貢献にも取り組んでいきたい。そのためには、多くの仲間が必要。会員増強への協力をお願いしたい」と語った。また、会員数が12年4月1日時点で90会員だったのが230会員に増加したことを受け、年会費を従来の店舗の売上高別の4ランクの会費から一律1万2千円に改定した。今年度は会員拡大運動に加え、高齢者・身体弱者に適応した施設改善としてバリアフリー化や、AEDの設置推進に取り組む。防災訓練も実施する。

 役員選任では、新組織移行を見据えた体制を整えた。

 主な役員は次の各氏。

 【顧問】鈴木克彦(ザ・フィッシュ)【代表理事会長】西山健司(西の屋グループ)【業務執行理事副会長】中村健治(喜撰茶屋)▽市川忠幸(水戸ドライブイン水戸インター店)【業務執行専務理事】中野吉貫(ナカノヤグループ)【業務執行常務理事】井上喜昭(万寿庵)▽佐藤正男(ゴールドハウス目黒)

取引の改善に努力を、「勇気ある行動」呼び掛け(OTOA)

三役と事務局(中央が大畑会長)

 日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA、大畑貴彦会長、142会員)は6月5日、東京都内で2013年度通常総会を開いた。そのなかで、大畑会長は、4月下旬に公正取引委員会が下請法違反で大手旅行会社に勧告を出した件に触れ、旅行会社との取引の改善に向けて、地道に努力を続けることを強調した。

 同件は、公正取引委員会が4月26日、日本旅行に対し、下請法違反で社名を公表して再発防止を勧告したもの。公正取引委員会によると、同社は海外旅行で宿泊施設や交通機関、食事などの手配を委託している下請事業者18社に対し、11年2月―12年8月までに計約3千万円を負担させていた。なお、同社は昨年11月に減額した金額を返還しているという。

 大畑会長は「会社名を公表しての旅行会社への勧告は業界初で、前代未聞のことだが、この件に関する業界からの反応はほとんどない」と厳しく言及。「社名こそ公表されていないが、何度か行政指導を受けたケースもある。これは氷山の一角に過ぎないことは我われが一番よく知っている」と語り、旅行会社から理不尽な要求があった場合は、公正取引委員会や中小企業庁に相談するなど、「勇気ある行動を」と会員に呼び掛けた。

 総会では、一般社団法人移行1年目の今年度の事業として、新たに訪日旅行事業の取り組みを開始することを確認。すでに、6月1日にインバウンド委員会を設置しており、訪日事業を行っている会員や意向のある会員のニーズを把握することから取り組みを開始する。昨年の勉強会で要望の多かったインバウンド保険の開発は、OTOAサービス保険参画損保会社と検討を始めており、先行して進めていく。

 また、任期満了にともなう役員改選では大畑会長を再任した。副会長は立身政廣氏と荒金孝光氏。専務理事は引き続き速水邦勝氏が務める。なお、6月1日付で事務局次長の岩崎宏幸氏が事務局長に就任したことも合わせて報告した。

使用料は6%に設定、宿泊施設に新システム説明(ジャルパック)

説明後は個別相談も実施

 ジャルパックは5月31日、東京・お台場のホテル日航東京で、10月から販売を開始する新しいダイナミックパッケージ(DP)と仕入れシステムについて、宿泊施設向けの説明会を開いた。そのなかで、同社の仕入れシステム「ジャルパックeエントリーシステム」の使用料は販売額の6%と発表。他社サイトと比べて最低値の使用料を設定し、施設にコスト削減メリットをアピールした。

 同日午後の説明会は都内の宿泊施設を中心に55施設が参加。集まった施設を前に、同社の平塚和利執行役員は、同社DPが2012年度は前年比120%と伸びていることや、同社国内旅行シェアの38―40%を占めていることなどを報告。13年度も同130%と好調なスタートを切っており、「重要な商品と位置付けている」と語った。

 そのため、これまでのじゃらんなどと連携して販売しているものに加え、日本航空(JAL)を利用するJALマイレージバンク会員に向けたDP「JALダイナミックパッケージ」を展開することで、さらなる拡大を目指していく。

 今回発表した新システムはDPのほか、JALホームページで展開する宿泊のみの予約サイト「JALイージーホテル」にも適用。新システムは自社仕入れのため、宿泊施設との契約は一新する。システムの初期導入費用は無料で、各サイトコントローラと接続する。また、使用料が半額になる導入キャンペーンを展開。9月15日までに、DPとイージーホテルのプランを各20以上登録すると、システム使用料が3%になる。さらに、追加マイルプランを5プラン以上登録すると使用料は2%になる。キャンペーンの対象期間は販売開始から13年12月31日の予約受付分で、14年5月6日チェックイン分まで。

初の90万人台突破、アジアは軒並み2ケタ増(JNTO4月訪日外客数)

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)が発表した4月の訪日外客数推計値は、前年同月比18・1%増の92万3千人となった。単月として初の90万人台に乗り、過去最高を記録した。

 1―4月の訪日外客数累計は前年同期比18・0%増の317万8100人。観光庁の井手憲文長官は5月22日の会見で、「2012年の訪日外客数837万人に18%分を足しても980万人台にしかならず、13年目標の1千万人には足りない。さらに増やし維持し続けなければならず、楽観視はできない」と語った。

 桜シーズンの訪日旅行需要の拡大に加え、円高の是正による割安感の浸透、航空座席供給量の拡大、成長著しい東南アジアの需要増で大きく伸長。市場別では、中国を除くアジアを中心に2ケタ台の伸びを見せ、台湾、タイ、ベトナム、フランス、ロシアが単月として過去最高を記録したほか、韓国、香港、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、豪州が4月として過去最高を記録した。

 市場別にみると、韓国は前年同月比33・7%増の20万4200人。円高の是正を追い風に、若い世代を中心に割安な商品への需要が広がり、4月として過去最高を記録した。

 中国は、日中関係の冷え込みの影響が続き同33・0%減の10万200人となり、井手長官も「不振が続いている」とコメントした。

 単月として過去最高を更新した台湾は、同42・5%増の19万7900人。正月変動があった本年1月を除き、12年7月以降、毎月過去最高を更新中だ。春の旅行シーズンの需要が拡大し、個人旅行の需要増にともない、個人旅行向け商品の取り扱いを始める旅行会社も増えているという。

 香港は、同24・3%増の5万5千人と、4月としての過去最高を更新。海外旅行をしやすい休日の日並びの良さが好影響となった。

 そのほかでは、タイが同46・9%増の6万200人と、12年4月以降、13カ月連続で毎月の過去最高を更新中。ベトナムも同85・6%増の1万2100人と、単月として過去最高を記録した。放射能の影響不安の強かったフランス、ドイツもそれぞれ同30・5%増、18・5%%増と好調だった。

 なお、出国日本人数は同12・3%減の123万7千人と、3カ月連続で前年同月を下回った。

サービス産業の高付加価値、三重県と鳥羽商工会議所が勉強会

(左から)小川氏、平田氏、楠氏、内藤氏

 三重県と鳥羽商工会議所が主催する「サービス産業の高付加価値化勉強会」が5月29日、鳥羽商工会議所会館かもめホールで開かれた。

 事例紹介として、神奈川県・箱根塔の沢「一の湯」社長の小川晴也氏、福島県・東山温泉「向瀧」社長の平田裕一氏、石川県・和倉温泉「加賀屋サービスアカデミー」の楠峰子氏が講演した。その後、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が統括講演を行った。

 小川氏は、一生懸命働いても利益が上がらない現実に直面した際、マネジメントの重要性に気づき、「人時生産性」を指標に生産性の向上に取り組んだ経験を語った。

 平田氏は、利益重視の姿勢ではなく、「お客様の満足度重視を徹底して追求することがいずれ利益を生む」という考え方を示した。

 楠氏は「加賀屋ではお客様に要望される前に、こちらから声を掛ける『半歩先を見た行動』を心掛けている」と紹介した。

 内藤氏は「スタッフは社長や上司に褒められるより、お客様に褒められるほうがうれしい。つまり、お客様の満足度を上げることが、従業員満足を上げる」とし、「スタッフが『お客様に何かをしてあげる』という、接客にエネルギーと時間を集中できるように、バックヤードの作業については、きっちりとマニュアル化し、指揮・命令・管理・監督で解決しなくてはならない」と述べた。

相互交流400万人へ、日台観光サミット開く

三重宣言に合意

 日本観光振興協会などが事務局を務める日台観光推進協議会(西田厚聰会長)は5月31日、三重県・合歓の郷ホテル&リゾートで、台湾側主催団体の台日観光推進協議会(賴瑟珍会長)と「2013日台観光サミットin三重」を開いた。両者は2016年までに、日本と台湾の相互交流人口400万人を目指すことなどを盛り込んだ「日台観光サミット三重宣言」に合意した。

 サミットには観光庁の井手憲文長官はじめ、日台から計212人が参加。双方が観光プロモーションの現状報告を行った。意見交換では共通テーマでの地域間交流の推進やスポーツ、文化、歴史などによる相互交流の推進などを話し合った。

 また、サミットを開始した2008年当初から、相互交流人口300万人を目標に据え、毎年サミットを開催してきたが、2012年は相互交流が過去最高の299万人を記録(台湾観光局発表)。300万人の実現が視野に入ったことから、今後はさらなる発展に向け、相互交流人口400万人を目指すこととした。

 来年のサミットは台湾の屏東市で開く予定。

第1期で23社認証、ツアーオペ品質認証制度(JATA)

 日本旅行業協会(JATA)はこのほど、訪日旅行事業に携わるツアーオペレーターの品質を認証する「ツアーオペレーター品質認証制度」の第1期申請で、23社を認証したと発表した。認証会社には認証登録証が交付され、認証マークの使用が可能になる。

 6月5日の会見で国内・訪日旅行推進部の興津泰則部長は、「品質向上によって訪日旅行を拡大することが最大の目的」と改めて、同制度の意義を説明。「認証をして終わりではダメ。質の向上に向けて支援していく。いかに制度を広めて、周知していくかが最大のミッションだ」と語った。

 認証の条件には旅行業登録や、プライバシーマーク(Pマーク)取得済などがあるが、それについては「インバウンド専業の会社は国内で認知度がないので、Pマークなどの資格を持っていることで一定の判断ができる」と考えを述べた。

 今回の認証会社の内訳は、JATAの第1種旅行会社が主だが、インバウンド専業会社も5社あり、会員以外の会社も含まれている。今後はこうした会員外の専業会社からも申請が増える可能性があり、審査委員会では会社の信頼性の検証を必要とする声もあるという。

 一方、今回の認証ではPマークを取得していない会社も含まれているが、1年以内の取得を前提に認証。万が一、取得できない場合は認証も取消となる。

 なお、第2期の申請受け付けは7月1―31日まで。

     ◇

 第1期認証会社は次の通り(登録順)。

 日本旅行▽阪急交通社▽名鉄観光サービス▽ジャパングレーライン▽ANAセールス▽JTB▽東日観光▽トップツアー▽JTBグローバルマーケティング&トラベル▽近畿日本ツーリスト▽中青旅日本▽トラベルイノベーションジャパン▽JTB西日本▽JTB九州▽JTB沖縄▽ジャパンホリデーサービス▽びゅうトラベルサービス▽JTB首都圏▽JTB中部▽トライアングル▽南海国際旅行▽エイチ・アイ・エス▽JTB関東 

東南アジアのビザ緩和決定、首相、訪日2千万人へ言及

 政府は6月11日、安倍晋三首相をトップとする「観光立国推進閣僚会議」の第2回会議で、東南アジア向けの訪日観光ビザの発給要件を大幅に緩和することを決めた。今夏までに実施する。

 現在、期限内に何度でも入国できる「数次ビザ」を認めているタイとマレーシアを「ビザ免除」に、現在「1次ビザ」のベトナムとフィリピンを「数次ビザ」に、それぞれ1段階要件を緩和。さらに、現在「数次ビザ」のインドネシアは滞在可能日数を延長する。これらは第2回観光立国推進閣僚会議で決定したアクション・プログラムに盛り込まれたもので、一定の要件を満たした外国人の長期滞在を可能にする制度の導入についても触れている。

 安倍首相は会議を踏まえ「夏までに東南アジア諸国からの観光ビザを一気に緩和することを決めた。史上初の訪日外客数1千万人を達成し、さらに2千万人を目指すため、このアクション・プログラムを直ちに実行していく」と力を込めた。

 アクション・プログラムは(1)日本ブランドの作り上げと発信(2)ビザ要件の緩和などによる訪日旅行の促進(3)外国人旅行者の受入改善(4)MICEの誘致や投資の促進――の4項目で構成。「日本ブランドの作り上げと発信」では、オールジャパン体制での連携強化などをうたい、新たに「国際広報強化連絡会議」を官邸で開き、各府省庁の広報機会やコンテンツなどを共有し、政府一体となり訪日の魅力を海外に発信していく。

 「ビザ要件の緩和などによる訪日旅行の促進」では、ビザ要件緩和のほか、3月にまとめられた観光産業政策検討会提言でも掲げられた、外国人旅行者にホテル・旅館の設備やサービスの有無などを情報提供する仕組みの導入についても盛り込まれ、今年度内に具体的方針を決め、情報提供を促進していく。また、クルーズ船の寄港促進やオープンスカイの戦略的な推進なども掲げる。

 「外国人旅行者の受入改善」のなかでは、訪日外国人旅行者に宿泊施設や食事、交通機関などの手配を行うツアーオペレーターの認証制度の導入と定着を強調。また、ムスリム旅行者への対応についても盛り込まれた。インバウンドで急成長を遂げる東南アジア市場にはムスリムも多く、その受入には食事や礼拝など宗教上の配慮が必要となる。受入環境の整備へモデル事業も実施していくという。