5月に3千人訪中団、観光3団体連携で交流促進

観光業界トップ7人が共同会見
観光業界トップ7人が共同会見

 日本旅行業協会(JATA、田川博己会長)と全国旅行業協会(ANTA、二階俊博会長)、日本観光振興協会(山口範雄会長)の観光業界3団体はこのほど、日中の観光交流拡大への気運を盛り上げるため、「日中観光文化交流団実行委員会」を組織し、5月下旬に3千人規模の訪中団を送ることを発表した。

 同委員会の委員長はJATAの田川会長が務めるが、交流団の団長は現時点で未定。田川委員長によると、文化人を候補に検討しているという。日程は22―24日を予定。23日開催のメイン行事「日中観光交流の夕べ」(仮称)には日本側から訪中団3千人が参加し、両国要人による歓迎あいさつやエキシビションなどを行う。前日の22日には日本観光関係者と中国側旅行会社による商談会、23、24日には訪日トラベルフェアも予定する。詳細については3月20日に北京で開くJATAの役員会で詰めていくという。

 後援は観光庁、日本政府観光局(JNTO)、在中華人民共和国日本国大使館、日本経済団体連合会、中国国家旅遊局、中華人民共和国駐日本国大使館。

 2月25日にはANTAの二階会長、JATAの田川会長、日本観光振興協会の山口会長、観光庁の久保成人長官、JNTOの松山良一理事長、中国側から中国人民共和国駐日本国大使館の趙偉参事官、中国国家旅遊局日本代表処の張西龍主席代表の7人による共同記者会見を開いた。ANTAの二階会長は「2014年に中国からの訪日は急拡大したが、日本からの訪中は近年少しずつ減少しており、改善の糸口を探っていた。今回の訪中で意見交換をして、観光交流を拡大させたい」と訪中の意義を語った。

 日本から中国へのアウトバウンドは04年から300万人の大台に乗り、07年の397万人をピークに年々減少。13年には300万人を割り、14年は272万人となった。田川委員長は近年の減少について、「政治問題を抜きに」と前置きし「周遊型の中国観光はある程度一巡したのかもしれない。中国には多くの世界遺産もあり、まだまだ知らない土地が多くある。これからは都市観光や目的型観光などで中国を再発見していくことが求められる」と分析し、「民間から観光交流復活の気運を作りたい」と力を込めた。訪中に合わせたツアーでは23日の「日中観光交流の夕べ」以外は、前後幅を持たせた自由なコース設定を検討し、「北京以外も視察できるようにする」とした。3月20日の役員会訪中では中国の地方の観光関係者との打ち合わせも見通す。

 日本観光振興協会の山口会長は地方の観光交流に着目し、「好調なインバウンドを受け、地方間の交流を促進し、日本各地に中国人を誘致して、地方創生・地方活性化につなげたい」と話した。

新しい来客をお迎え ― 替えられない上等なクロスよりも…

 東京駅の新幹線ホームで、これから乗る車両のドアが開くまでの間、清掃中のようすを眺めることが多い。ごみを集め、座席の向きを変え、テーブルが汚れていれば拭き、ヘッドカバーを一枚ずつはがし、新しいカバーに掛け替える。私は、このヘッドカバーをすべて掛け替えるところに、乗客へのささやかな、しかし、大きな鉄道会社の心遣いを感じるのである。

 20代のころ、東京のシティホテルでアルバイトをしていたことがあった。宴会場に銀食器やグラスを並べたあと、それぞれが担当するテーブルのワイングラスやシャンパングラスなどを念入りに磨かせられた。私はこの作業が大好きだった。まだ客のいない大きな宴会場でさまざまなリハーサルが行われるなか、自分が担当する円卓の10人前後のグラスを一つひとつ磨きながら汚れが残っていないか確認する。どうしても落ちない汚れや、わずかに欠けたグラスがあれば、綺麗なものと取り換える。接客が始まると、ある意味で戦場の様相に一変するが、その前に精神を落ち着かせ、集中することができる時間だった。

 以前働いていた会社の上司が面白いことを言った。「友達の家でビールを飲んだときに、すごく美人な友人の奥さんが俺にグラスを差し出してくれた。でもそのグラス、水垢が全面にこびりついていたんだ。汚れたグラスをそのまま差し出されるのなら、紙コップの方がまだいいよ」というのである。

 とても小さなことであるけれども、すごく重要なことのようにも思える。私は潔癖症ではない。それどころか、自分の身の回りの整理整頓すらできない、筋金入りの無頓着者である。でも、この上司の何気ない言葉に共感するところもあった。

 たまに行くレストランがあるのだが、味は絶品。ホールスタッフの愛嬌もいい。でも、最近は足が遠のいている。というのも、そのレストランの美しいテーブルクロスの汚れを見たくないからだ。白い布に角度を違え、ミッドナイトブルーや臙脂色の上等なクロスを掛けるのはいいが、次の客が座るまでの間にテーブルクロスを掛け替えるほど徹底した店ではないので、しばしば前客のソースやスープのこぼれた跡が残っている。「替えられない上等なクロスよりも、綺麗に拭かれた剥き出しのテーブルの方がいい」と残念に思う。美味しいが、誰かを誘ってその店に入ることはなくなってしまった。

 高級旅館やホテルでは、高級ベッドにまっさらな白いシーツが敷かれ、お客を待っている。しかし、私が泊まるような庶民的な宿は、布団も決して新しいわけではない。おそらく何百人もの旅人を包み込んだ“くたびれた”布団だろう。しかし、自分が支払っている宿代と照らし合わせると、文句を言えた義理じゃないし、根が無頓着であるから、あまり気にはしない。

 けれど、夕食から部屋に戻って来たとき、しっかりと洗濯されているとわかる真っ白な布団カバーやシーツで包まれた寝床がセットされていたら、その宿の心映えに、感動してしまう。

 高級素材や、新しいものをすべてのグレードの宿が提供できるわけではないし、同じようにすべての客がそれを望んでいるわけでもない。ただ、望んでいるのは、「前の客の痕跡を残さず新しい来客をお迎えする」という、ささやかな心遣いだけである。

(編集長・増田 剛)

No.396 震災から復興へ、新たな“人と人との結びつき”

震災から復興へ
新たな“人と人との結びつき”

 東日本大震災から丸4年が経つ。4年で、日本も大きく変わった。東京オリンピック開催や、訪日外国人客の急増……などに人々の関心が向かっているが、被災地も立ち止まっているわけではない。震災を経験したからこそ、”人と人との結びつき”を大切にしたネットワークが広がり、新たな気づきや、価値観が生まれた。今号は、「いわて復興ツーリズム推進協議会」と「福島ひまわり里親プロジェクト」の取り組みを紹介する。

【増田 剛、飯塚 小牧】

 
 
 
 
 

岩手県北バス東京営業所 宮城  和朋さん
岩手県北バス東京営業所
宮城 和朋さん

いわて復興ツーリズム推進協議会

 岩手県北バスは震災で社員にも犠牲者が出た被災企業の一つだ。しかし、地域の足を担うバス会社として、「少しでも早く本来の事業を回復することを最優先に」と、盛岡市と宮古市を結ぶ路線バスの復旧を急ぎ、震災から1週間程度で再開させた。あわせて現地の復旧には人手が足りず、首都圏からボランティアを募り、5月からボランティアツアーを開始。以降、これまで月1回程度のペースで継続してきた。

 ボランティアツアーの参加者からは復旧復興の作業に関わり、貢献できたことへの満足感もある一方で、「現地を見ることで、改めて当たり前にある生活の幸せを痛感し、現地の人たちがお互いに助け合いながら困難を乗り越えている姿から逆に勇気をもらった。自分たちの方が気づきや学びを得て持ち帰ることが多かった」などの感想が多く寄せられた。これらの声を受け、岩手県北バスが中心となり、「来訪者に“学びの価値”を提供できる質の高い研修プログラムを構築しよう」と、2013年9月に「いわて復興ツーリズム推進協議会」を発足させた。…

チームふくしま 理事長 半田  真仁さん
チームふくしま 理事長
半田 真仁さん

福島ひまわり里親プロジェクト

 2011年5月にスタートした「福島ひまわり里親プロジェクト」。福島県内の若手経営者を中心に構成する「チームふくしま」が立ち上げた同プロジェクトは、「福島県に復興のシンボルとしてひまわりを植えよう」という活動。賛同する全国の“里親”が同プロジェクトからひまわりの種を購入し、自らの地域に植えて花を咲かせる。取れた種を福島に送り返し、翌年はその種から福島の各地にひまわりの花が咲く仕組みで、福島と全国の絆を結ぶ。種は1サイクルだが、福島で取れた種から油を取り、車の燃料などに活用する。今年の春からは、福島交通がバスの燃料として使用する予定だ。1年目は全国46都道府県から約3㌧の種が送られた。…

 
 
 
 
 

※ 詳細は本紙1579号または3月17日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

ライバル視より協力を

 先日開かれた「第1回世界に誇れる広域観光周遊ルート検討委員会」では、多数の委員から地域連携の重要性が指摘され、それを担う自治体の連携が最大の課題として挙がった。しかし、隣の観光地ではなく自分の街に来てほしいというのが自治体の本音で、近隣と手を組むのはなかなかに難しい。

 東京・新宿では昨年、外国人観光客を呼び込むため「新宿ショッピングキャンペーン」を開き、百貨店や大型商業施設、量販店などが共同で販促を行った。各店舗紹介やエリアマップ、外国人観光客向けのサービスを掲載した買物ガイドブックを、英語、中国語、韓国語、タイ語の4種類作成し、配布。各店舗間での相互送客にも力を入れた。参加7社のなかにはターゲット層が似通った同業他社もあったが、客の奪い合いよりも、協力を選んだということか。自治体の連携は上手く行くのだろうか。

【伊集院 悟】

Wi-Fiマーク導入、訪日外客へ情報発信強化(観光庁)

無料公衆無線LAN環境の共通シンボルマーク
無料公衆無線LAN環境の共通シンボルマーク

 観光庁はこのほど、訪日外国人旅行者が無料で公衆無線LAN環境を利用できるスポットの外国人旅行者への「見える化」をはかるため、共通シンボルマーク「Japan Free Wi-Fi」を導入することを発表した。また、利用場所のマップ表示や検索機能のあるウェブサイトの作成など海外への情報発信に力を入れる。

 総務省と観光庁は昨年8月に、訪日外国人旅行者向けの無料公衆無線LAN環境の整備促進と、利用場所の周知、利用円滑化に向けた各種取り組みを推進するため、「無料公衆無線LAN整備促進協議会」を設置。このなかで、海外への情報発信強化や、外国人旅行者にわかりやすい共通シンボルマークの導入による「見える化」の推進を決めた。

 共通シンボルマーク掲出基準は、利用手続きを含めて無料であることと、初期画面や同意画面などで多言語案内があり、訪日外国人旅行者が容易に利用できること。なお、接続時は無料で、一定期間過ぎると有料の契約を促すものも認める。4月1日から開始する。

 また、無料公衆無線LAN環境などの情報を幅広く周知・広報するため、利用場所のマップ表示や検索機能を備えたウェブサイトを4月に開設予定。官民連携によるホームページなどの広報媒体への掲出も行っていく。

人材の宝庫・郡山

 福島県郡山市には、40年も続くタウン誌「街こおりやま」がある。歴史や文化を地元の人たちが熱心に語る誌面を見るたび、「この街は人材の宝庫」と感じていた。

 2月末に参加した視察旅行で一端を垣間見た。鯉の養殖に情熱を注ぐ廣瀬剛さん。見学後の試食で鯉料理を前に、「1匹から5グラムしかとれません」。どの部位かと質問されると、(まだ開発中なので)「分からないんです」。こんなやんちゃなやり取りも「人柄」と許せるから不思議。

 深く残った声もいくつか。デコ屋敷の橋本広司さんはひょっとこ踊りの名人。「からっぽにして」踊ったら「清らかになるね」。ブランド野菜の生産に力を入れる藤田浩志さんの言葉は「代わりのきかないいいもの」を作りたい。市の魅力紹介は近号で。

【鈴木 克範】

訪日客とスマホ戦略、ITセミナー開く(日本旅館協会)

会員81人が聴講
会員81人が聴講

 2月17―20日に東京ビッグサイトで開かれた宿泊・レジャー・外食(中食)・給食産業向け合同専門展示会「HCJ2015」のなかで、日本旅館協会(針谷了会長)は18日、ITセミナー「インバウンド集客の要点とスマホ戦略」を開き、会員81人が集まった。

 日本旅館協会IT戦略委員会の小野誠委員長(長野県・よろづや旅館)は、14年11月に協会会員に取ったインバウンドとITに関するアンケートについて紹介。外国人客を受け入れているのは会員施設の95%に上るが、英語ホームページを開設しているのは39%、中国語や韓国語になると10%に満たない。小野委員長は「ITへの取り組みが我われの業界はまだまだ遅れている」と指摘した。また、スマートフォン(スマホ)については「予約全体の2割がスマホからといわれる時代になり、スマホ用のホームページの充実が欠かせなくなっている」と話し、同セミナーの意義を強調した。

 講演では、インバウンドにっぽん/実践!インバウンドの小野秀一郎代表が「急成長のネットFIT市場とインバウンド集客の要点」について話し、アビリティコンサルタントの水野真寿常務が「予約率アップ!! スマートフォン専用ページのポイント」と題して会員へレクチャーした。

自社の外国語HP重要、無料Wi―Fiの表示強調を、小野秀一郎氏

小野秀一郎氏
小野秀一郎氏

 全国の旅館・ホテルのインバウンドコンサルティングを行うインバウンドにっぽん/実践!インバウンドの小野秀一郎代表は2月18日、日本旅館協会主催のITセミナーのなかで、「急成長のネットFIT市場とインバウンド集客の要点」と題する講演を行った。参加した会員宿泊施設に対し、自社の外国語サイトの重要性を説き、トリップアドバイザーやSNSなどの活用についてもアドバイスした。

 小野氏はインバウンド集客のツールとして(1)自社の外国語サイト(2)スマートフォン(3)海外OTA(オンライン・トラベル・エージェント)(4)トリップアドバイザー(5)フェイスブックなどのSNS――をあげ、「バランスが重要」と話す。海外OTAでの評価やトリップアドバイザーでのランキングには着目するが、自社の外国語サイトの更新頻度や情報量などが不十分になりがちなことを指摘。海外の旅行者や旅行会社、メディアなどは海外OTAを見てから、自社サイトを検索するケースが多いため、「自社の外国語サイトの充実が重要」という。

 トリップアドバイザーの露出度を上げて予約率向上を狙うビジネスリスティングについては、特典掲載でアクセスは増えるが購入してランクが上がることはなく、「15位以内に上がってから使うのが理想。逆に1、2位なら購入する必要もない。まずは無料ツールを使いこなすことが大事」と助言した。無料で口コミ数を増やす方法として(1)フェイスブックページの開設(2)顧客とSNSでつながること(3)トリップアドバイザーのレビューエクスプレスの利用(4)外国人客への写メール送信――などをアドバイス。フェイスブックは英語や中国語など外国語併記でも構わない。レビューエクスプレスは、直近で利用した顧客に対し、トリップアドバイザーでの口コミ投稿を簡単に勧められる無料のマーケティングツールだ。

 自社の外国語サイトでの集客に関しては、(1)Wⅰ―Fⅰのわかりやすい表示(2)地元の観光協会や組合サイトへのリンク依頼(3)ハラルやベジタリアン対応可否の明記(4)土産物売り場の免税店申請とそのPR――などをあげる。「リンク数は少しでも増やした方がよく、ハラルやベジタリアン対応はオペレーションの効率化にもつながるので、できること・できないことをはっきりと明記することが大切」。また、外国人向けの消費税免税制度の改正により、消耗品も免税対象になったことを受け、土産物売り場を免税店として申請することを勧め、「免税店として安く買い物できることをアピールするのは効率的」とアドバイスした。

広域観光周遊ルート形成へ、地域連携の可否が最大の課題 (観光庁)

出席の検討委員
出席の検討委員

 観光庁は、複数の都道府県に跨るテーマ性・ストーリー性を持った魅力ある観光地による「広域観光周遊ルート」の形成を促進し、海外へ積極的に発信していく。2月19日には、広域観光周遊ルートに関する方針や計画を検討する「世界に誇れる広域観光周遊ルート検討委員会」の第1回を開催。地域連携の重要性とその難しさなどについて、多数の委員から課題提起された。
【伊集院 悟】

観光庁や関係省庁から要人が出席
観光庁や関係省庁から要人が出席

 広域観光周遊ルート形成に関する事業には14年度補正予算で2・5億円、15年度予算案では3億円強を計上。希望する広域地域はまず、都道府県や市町村、観光関係団体、経済団体、旅行会社、交通事業者などから成る協議会を設置し、管轄の地方運輸局からの助言を踏まえ、(1)計画策定とマーケティング(2)受入環境の整備と滞在コンテンツの充実(3)対象市場への情報発信とプロモーション――などの広域観光周遊ルート形成計画を策定する。検討委員会を踏まえた国による認定後、国が事業費用の一部を負担し、関係省庁や関係機関を交え、観光庁がパッケージ支援していく。

 検討委員会冒頭で、西村明宏国土交通副大臣は「国をあげて地方を元気にすることを掲げており、日本を訪れた観光客がゴールデンルート以外の地域にも訪れるようにしたい。点から線、面として捉え、各地の良さをつなぎ合わせて発信できるよう、委員の皆様の知恵を借りたい」と述べた。

 委員会では、多くの委員が地域間連携の重要性を強調する一方、その主体である自治体間の連携の難しさを指摘。日本旅行業協会会長の田川博己氏は、これまでの広域観光への取り組みから「点から線にはなるが、そこから面にするのが難しい。これまでは隣接県同士で議論する場もなかったので、地域連携がポイントになる」と地域連携の重要性を強調した。ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長の嶋津昭氏も「自治体間の壁」を指摘し、「観光は自分の所を売ろうとするもので、自治体間の壁を超えるのは非常に難しい。消費者目線を大切にして、いかに自治体間で連携できるかが鍵になる」と述べた。

 これに対し、旅行ガイド出版社社長の石井至氏は「自治体間の壁を超えるには、横断的な上位組織の存在が必要になる」と、地方運輸局の活用をポイントに挙げた。観光庁の久保成人長官も、「これまでは隣接する自治体や知事同士が連携に前向きではなかった」とし、委員や自治体の協力を促す。

 では、どのような周遊ルートが望ましいのか――。日本観光振興協会会長の山口範雄氏は(1)日本を表象するテーマ性とそのターゲット(2)連携したアクセスの設定(3)市町村間の横断的な連携(4)観光人材の育成(5)事前情報の発信と訪日後の情報伝達の仕組み――などを具備する要件として挙げた。

 田川氏はさらに、海外旅行商品において周遊ルート造成を50年間続けてきた旅行会社などの海外旅行商品造成の知見の取り込みも提案。トリップアドバイザー代表の原田劉静織氏は日本人と外国人、アジア人と欧米人の視点の違いを意識したうえでの広域ルートづくりを説いた。

 そのほか、インバウンド先進国との比較のなかでの国際競争力を持つことの難しさも指摘され、母国語で発信できる親日的な留学生や外国人英語教師、外国人就労者の活用なども提案された。

 久保長官によると、補正予算分で地域の実情や訪日外国人のニーズなどの基礎調査を行い、15年度事業へつなげていくという。今後は3月末の委員会で基本方針を固め、4月からの公募開始を目指す。

 世界に誇れる広域観光周遊ルート検討委員会の委員は次の各氏。

【座長】小林栄三・日本貿易会会長
【副座長】石田東生・筑波大学システム情報系社会工学域教授
【委員】石井至・石井兄弟社(旅行ガイド出版社)社長▽岩沙弘道・東日本高速道路会長▽太下義之・三菱UFJリサーチ&コンサルティング芸術・文化政策センター長▽大塚陸毅・日本経済団体連合会副会長観光委員長▽篠原文也・政治解説者/ジャーナリスト▽篠辺修・定期航空協会会長▽嶋津昭・ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長▽田川博己・日本旅行業協会会長▽豊田三佳・立教大学観光学部交流文化学科准教授▽原田劉静織・トリップアドバイザー代表▽矢ケ崎紀子・東洋大学国際地域学部国際観光学科准教授▽山口範雄・日本観光振興協会会長

旅行をより安全に、対策、対応の見直しを(旅行安全マネジメント)

多くの旅行会社が参加した
多くの旅行会社が参加した

 観光庁は2月24日、東京都内で「旅行安全マネジメント普及セミナー」を開き、旅行業関係者を対象に旅行先での事故防止策や事故対応の見直しを促した。

 「旅行安全マネジメント」は旅行者の安全を確保するために、2013年12月に日本旅行業協会(JATA)が運輸安全マネジメント制度を参考に策定したもので、事件・事故を起こさせない仕組みや起きた場合の被害を最小限に抑えるための対応を提言している。セミナー当日は、「旅行安全マネジメント」に同庁が補足を足した冊子「旅行業界のための旅行安全マネジメントのすすめ」を配布。冊子には安全管理責任者の設置や連絡体制の構築などが記載されている。

 第1部のセミナーは、JATAの越智良典事務局長が旅行安全マネジメントの取り組み例として、PDCAサイクルを基準にした「安全管理責任者の設置」や「自主点検チェックの実施」などを説明したほか、最近問題となっているテロ関連にも触れ、外務省発表の渡航危険情報で、危険度を示す4段階の下から2番目「渡航の是非を検討してください」以上の地域でのツアー催行には、旅行会社の慎重な判断を求めた。「他社が当該地域でツアーを催行しているから自社でもできるという判断は危ない。自社にリスク処理能力がない場合は、事件が起きた場合に間違いなく会社が潰れる」と強調した。

 第2部では海外での重大事故支援やリスクマネジメントなどを取り扱う日本アイラックの国原秀則社長が近年発生した事件・事案の対応事例を紹介し、旅行会社としての事故への適切な対策・対応例を説明。「保険に入っていない渡航者は意外と多く、事故発生後には必ずといっていいほどクレームがくる。対策として事前に保険の加入意思がないことを確認するチェック欄をツアー申込用紙に追加することをすすめる」と語った。事故が発生した際のマスコミ対応についても触れ、「マスコミ対応する場所を用意せずに社内にマスコミを入れ込むと、事故処理に支障が出るほか、社内情報が漏れる可能性もある」と述べ、事故発生時の準備の必要性も訴えた。また、「最近では、ツアーの途中から行方不明になる人が多く、無事発見されるまでに大きな問題になっている」と事故データ上には出ていない事項にも注意を促した。

 セミナーに参加した旅行会社勤務の欧米方面手配責任者は「当社にも対策マニュアルは存在するが、行方不明者にフォーカスした内容はなかった。これからマニュアルの見直しや社内でケーススタディを進めていきたい」と語った。

観光・旅行の視点を、高速バスフォーラムに150人

成定竜一代表
成定竜一代表

 高速バスマーケティング研究所(成定竜一代表)は2月12日、東京都内で「高速バスマネジメントフォーラム」を開き、全国のバス事業者約150人が参加した。成定代表は、高速バス事業の伸び代は観光需要を中心に、大都市居住者や訪日外国人旅行者を地域に送客することだと主張。今後、「観光・旅行」の視点を持つことがより重要になると強調した。

 成定代表は「今後10年で移動に観光をトッピングした個人旅行商品が充実してくるだろう」と予測。一方、「高速バスが取り込んでいくべき観光の個人マーケットは、旅行業が存続をかけて取り組んでいるもの」とし、大手旅行会社やオンライントラベルエージェンシー(OTA)など、流通側とどう連携をするか、それぞれが考えていく必要があると語った。

 今回のフォーラムは、こうした観点から、バス業界と協業が期待できる事業者や先駆的な取り組みをしている事業者を講師陣に迎え、今後の可能性を模索した。

上山康博氏
上山康博氏

 情報通信技術(ICT)を利用し、旅行需要や交流人口の拡大事業を展開している百戦錬磨社長の上山康博氏は、バス業界の課題として他の運輸業界や宿泊業界と比較し、インターネット販売で最も遅れをとっていると指摘。「好き嫌いではなく、使わなくては生きていけない。どううまく使うかが重要な時代」と述べた。技術革新やサービス展開の変化が激しい特徴も示し、「我われの会社は3カ月に満たないうちに事業戦略を変えている。変化を躊躇した時点で負け。今後はますます加速するので、変化を先取りすることが大切だ」と語った。

 一方、インターネットは代理行為、仲介行為をなくすもので、将来的に残るのは「人とハード」と言及。「長期的にみると、バス事業者の皆さんが持っているような人とハードが大きな財産になるだろう」と予測した。

 また、Web上で旅の企画を紹介し、ユーザー同士で旅を作っていく「シェアトリップサービス」を展開するtrippiece(トリッピース)執行役員マーケティングマネージャーの吉田祐輔氏と全国でプレミアム・アウトレットを運営する三菱地所・サイモンの小竹賢氏が登壇。自社の事業紹介や今後のバス事業者との連携への期待を述べた。さらに、個人旅行を取り込んだ事例を関越交通の佐藤俊也社長が紹介した。