東京都、災害時の対応力向上のため観光事業者にセミナー開く

2021年3月3日(水)配信

基調講演を行うマージョリー・L・デューイ氏

 東京都は2月26日(金)、都内の観光関連事業者を対象に、災害発生時の対応力向上を目的としたオンラインセミナーを開いた。セミナーの運営事務局は、市場調査会社のサーベイリサーチセンターが担当。風水害や地震など、さまざまな災害リスクを想定した対応力向上の取り組みが求められているなか、旅行者の安全・安心の強化を目指す。

 同セミナー冒頭、東京都産業労働局観光部受入環境課長の板倉広泰氏があいさつを行った。2月13日(土)に発生した福島県沖地震に触れ、「都内でも複数の地域で震度4を観測。改めて東京がさまざまな災害リスクを抱えていると認識した。新型コロナウイルス感染症や地震のほか、大型台風やゲリラ豪雨などのリスクも想定される。旅行者に安心して観光を楽しんいただくためには、観光業に携わる皆様の対応力の向上が重要」と強調した。

 基調講演では、コネクトワールドワイド・ジャパン代表のマージョリー・L・デューイ氏が、「アメリカ人から見た訪日観光旅行への期待と不安 外国人の防災意識」と題した講演を行った。

 マージョリー氏は、訪日外国人が日本特有の観光地やまち、自然、食べ物、おもてなしなどに期待して旅行に来ていると説明。一方、訪日外国人が一番不安に感じていることは、未だに“言葉”であると伝えた。「今はスマートフォンの地図アプリを利用して簡単にまわれるが、何か質問があるときに言葉がわかる人がいるか不安。地図があっても、地下鉄はとても複雑で心配になる」と吐露した。なお、「この1年間は病気になったときにどうすべきか、言葉よりも不安だったかもしれない」と振り返った。

 もう1つの不安は、訪日旅行中にやりたいことが全部できないことと、ある意味で良い不安を抱えていると伝えた。これら不安について、マージョリー氏は「災害の心配などがまったく入っていない」と指摘。「普通の観光客は前もって災害の準備を行わず、観光に来ているときに大きな地震が来ないと思っている人がほとんど」と、旅行時は防災意識が低下している傾向があると述べた。

 もしも地震が起きたときに一番必要とされるものは、“正しい情報”であるとマージョリー氏は語る。「災害時はすべての情報が正しいとは限らない。疑問が飛び交って不安が増すこともある」と、情報発信の際に起きる危険な一面を紹介。訪日観光旅行者にとって、災害時のフロントライン(最前線)は観光事業者になると伝え、正しい情報を伝える責任があると話し、前もって準備を行って欲しいと促した。

 最後に、マージョリー氏は「日本人の考え方ではなく海外の立場で考えてほしい。(彼らは)情報がまったくないと言って良い。正しい情報をどう伝えれば良いかの準備を」とまとめた。

 講義では、「災害時における訪日外国人対応時の『やさしい日本語』活用術」と題し、一橋大学国際教育交流センター教授の庵功雄氏が講演を行った。庵氏は「これからの日本社会を考えるうえで、外国人の受け入れは不可避」と述べ、外国人の受け入れに関わるさまざまな問題を、言葉の観点から考えて伝えた。

売上高34%減の904億円 大幅減収も黒字確保 アパグループ20年11月期連結決算

2021年3月2日(火) 配信

アパグループはこのほど2020年11月期連結決算を発表した

 アパグループ(元谷外志雄代表、東京都港区)がこのほど発表した2020年11月期連結決算によると、グループ連結売上高は前期比34・1%減の904億3200万円、経常利益は同97・0%減の10億900万円と、大幅な減収減益となった。営業利益は同94・3%減の20億4400万円、当期純利益は同95・5%減の9億4900万円。

 新型コロナウイルス禍により20年2月以降は訪日外国人客が激減したことに加え、4月には緊急事態宣言が発令されたことで、稼働率、宿泊単価共に大幅に低下したことが原因。

 大幅な減収となったものの、業務の見直しや同社サイトへの誘導を進めるなどコスト削減に努めることで、同社は「厳しい経営環境のなかでも黒字を確保することができた」と振り返る。

 21年11月期も、ホテルの開発は計画通りに進め、24棟5007室の開業を予定している。

大学生とのコラボ企画! 山口健美祢市で周遊デジタルスタンプラリー『#みねきゅん』スタート

2021年3月2日(火)配信

 山口大学国際総合科学部の学生が、秋吉台地域のコロナ禍における誘客や滞在時間の延長による消費拡大を目的に、美祢市内の「きゅん」と感動したスポットを集めたデジタルスタンプラリーを企画した。美祢市観光振興課の主催で2021年3月1日(月)~26日(金)まで実施している。

 清風苑(大正洞)や景清洞、秋吉台サファリランドなどを巡る「いやいや行き過ぎやろ!体持たんぞコース」やローカルグルメを思う存分味わう「今日ぐらい食べていいやろコース」など、学生たちが考案した一押しのモデルコースを紹介している。スタンプラリーへの参加はスマートフォンにARアプリ「COCOAR」をダウンロード。アプリを起動して、各スポットにあるマーカーをスキャンし、スタンプを獲得していく。スタンプを5個貯めて応募すると市の特産品をプレゼントするほか、15カ所すべてのスタンプを集めると、秋吉台オリジナル「ポケットステンボトル」をもれなくプレゼントする。スタンプラリーに合わせて、「#みねきゅん」インスタフォトコンテストも開催する。

東洋大学の観光プロフェッショナル・コース、長期就労体験の成果発表 産学で社会ニーズに合う人材育てる 

2021年3月1日(月) 配信

徳江順一郎准教授。「世界でも類例のない長期インターンで成果を残せた」と強調した

 東洋大学国際観光学部の広報委員会と観光プロフェッショナル・コースは1月25日(月)、オンラインで「第4回東洋大学観光教育研究大会―高大連携・産学連携の成果」を開いた。同大学は2017年4月に、国際地域学部国際観光学科から国際観光学部に改組した。同コースの1~3年生は、午前中にインターンシップを行い、午後に授業を受ける。3月に第1期生が卒業することに合わせ、4年間の成果のほか、高大連携の活動を報告した。

 コース長の徳江順一郎准教授は「訪日客の多国籍化への対応や、日本の各地域を訪れてもらえる施策を考えられるなど、社会のニーズに合った教育を行っている。世界的にも類例がない3年間の長期インターンシップと、理論の両方から学んだ学生の成長を感じてほしい」と語った。

 3年間のインターンシップの成果発表で登壇した4年生のAさんは1―2年生のとき、ホテル雅叙園東京(東京都目黒区)のほぼすべての部署でインターンシップを実施した。3年生のときには、インターンシップを同社と相談のうえで中断し、カナダへ語学留学した。

 これらの経験から、1年生で350点だったTOEICが、4年生のときには830点まで伸びたという。

 就職活動ではホテル雅叙園東京にエントリーした。インターンシップで人間関係や仕事内容に違和感がなかったことや、英語を生かした海外進出に関われる可能性があることなどが応募の決め手となった。

 結果、同社への内定が決まった。Aさんはインターンシップでの仕事ぶりと英語能力が評価されたと考えている。

 「長期間のインターシップは、ほかの大学や学部では行わないことを学べ、内定にもつながった。(同じコースに在籍する)高い志の学生と切磋琢磨したことは、自身の成長になった」と4年間を振り返った。

 新型コロナウイルス感染症の影響で20年度のインターンシップは中止になった。これを受けて、観光教育などを行う高校と連携し、地域の魅力の創出などを行った。

 飯嶋好彦学部長は「互いに学び合える環境を創り、同じ学校では知りえなかったアイデアを見つけてほしい」と連携の狙いを説明した。

飯嶋好彦学部長。高大連携では同じ学校の学生同士で知りえないことを見つけてほしい考えだ

 取組報告では屋久島高校(鹿児島県・屋久島)が、徳江准教授と大学生に地元の飲食店を紹介するツイッターのフォローワー数が少ない悩みを交流会で相談した。検索されやすいハッシュタグや「屋久島」をツイッター名に入れることなどをアドバイスされた。

 屋久島高校2年生のBさんは「連携のメリットを実感できた」とアピールした。

 総括で佐野浩洋広報委員長は「コロナ禍で授業とインターンが中断したなかでの成果は、観光教育の誇りとなった。今後も連携による産学発展の機運を高めたい」とまとめた。

佐野浩洋広報部長。「コロナ禍でも観光教育に希望を持てた」と振り返った

 徳江准教授は「高大連携と産学連携で、さまざまな成果を残せたと自負している。今後も連携の強化や企業・学校を増やしたい」と意気込みを述べた。

日観振が「日本の観光再生宣言」 地域経済を支える観光産業の重要性を発信

2021年3月1日(月) 配信

日本の観光再生宣言を手にする山西会長(中央)

 日本観光振興協会(山西健一郎会長)は3月1日、東京都内で会見を開き、「日本の観光再生宣言」を発した。新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、需要の蒸発が続くなか、観光産業が日本の経済に果たす役割の重要性を産業全体で再認識するのが狙い。また、日観振は地方自治体も会員となっていることから、地域でも周知をはかり、国民にも広く理解を求めていく。

 観光宣言では、すそ野が広い観光産業がいかに日本経済へ貢献しているか数字を挙げて示し、現在の苦境を訴えた。一方、「命と経済活動の対立となってはいけない」とし、今後も国民の不安を払拭するために「これまで以上に感染防止対策に力を入れる覚悟だ」と強調した。そのうえで、緊急事態宣言が解除され、感染状況が一定程度収まったのちは、「可能な県内からでもGo Toトラベルの再開を期待する」とした。

 また、①今を乗り越えるために~観光の灯を消さない~②観光の再生とレジリエンスを高めるために~観光産業の生産性向上~③地域社会の発展に貢献するために~観光のプレゼンス向上~――の3項目を挙げ、新しい時代に即した観光のあり方やデジタル化の推進など、具体的な取り組みを盛り込んだ。

 宣言を発した山西会長は「地域経済を支える基幹産業の観光は、厳しい状況が続いている。だからこそ、観光産業が地域と一丸となり危機を乗り越えて、持続可能な地域社会を実現していくことが大変重要だ。自らの役割を改めて自覚するとともに、広く発信し、多くの人のご支持を得たい」と意義を語った。

 髙橋広行(JTB会長)副会長は「これ以上問題が長期化すると、観光を支えるインフラが失われてしまう。市場の需要が回復したときに、観光が成り立たなくなる」と危機感を露わにした。ただGo To再開については「やみくもに再開すべきではない」と述べ、有益性や感染への影響について、科学的データに基づいた分析の必要性を強調した。そのうえで、感染防止と経済のバランスを両立させる難題に立ち向かうことを表明した。

 また、日本旅館協会の浜野浩二会長(日観振副会長団体)は、宿泊施設のみならず、「取引先の数万社も厳しい状況だ」とし、需要回復に向けて、感染防止対策のさらなる徹底や、客室内完結型商品の開発、旅館・ホテルが進めるデジタル化の例などを紹介した。

NAA、再拡大で1月の発着・旅客数減少に転じる 総旅客数は過去最低に

2020年3月1日(月) 配信

田村明比古社長。「緊急事態宣言が解除されれば回復する」との認識を示した

 成田国際空港(NAA、田村明比古社長)が2月26日(金)に発表した2020年1月の総発着回数は、前年同月比58%減の9518回と、回復傾向だった昨年12月の同48%よりも減少幅は拡大した。総旅客数も同93%減の27万1286人と過去最低となった。日本国内の新型コロナウイルスの再拡大による緊急事態宣言の発令などが主な要因。

 国内線の発着回数は67%減の1580回。旅客数も同78%減の13万7779人と、いずれも昨年12月よりも減少幅が広がった。

 一方、国際線貨物便の発着回数は同138%増の4028回で、貨物量は32%増の19万2277㌧と過去最高だった。旅客便の減便で運べる貨物量が減り、需要が貨物便に代替した。このほか、コロナ禍での通販需要の拡大で海上貨物コンテナが不足していることが原因。

 同日に発表された2月1(月)~20日(土)までの国際線発着回数は前年同期比76・8%減の2170回。出国旅客数は同96・8%減の2万4300人。

 国内線の発着回数は同86・0%減の417回だった。

 田村社長は「1~2月の発着・旅客数は顕著に落ちた。緊急事態宣言が解除されれば回復する」との認識を示した。

減免措置など延長 総額756億円規模に

 同社は今年4月分までとしていた着陸料やカウンター使用料、店舗のテナント料などの減免・猶予措置を10月分まで延長する。今回の措置では約250億円規模の措置を行う。4月から実施してきた同措置は累計756億円になった。

 新型コロナウイルス感染症による日本をはじめとした世界各国の入国制限が続くなか、航空会社などの業績回復には時間が掛かると予測した。

 田村社長は「痛みを分かち合い、路線と店舗の維持に決死の思いで臨む。共にコロナ禍を乗り越えたい」と力を込めた。

マルチタスクでESとCSを同時に向上させる 山梨県・下部ホテル 宿泊業の生産性向上シンポジウム⑤

2021年3月1日(月) 配信

第5回シンポジウムでは下部ホテルがマルチタスクによる中抜け勤務の解消について講演した

 観光庁と日本生産性本部は2月中、宿泊事業者の生産性向上に向けての取り組み事例を紹介する「宿泊業の生産性向上シンポジウム」を計5回行った。2月18日(木)に開かれた第5回シンポジウムでは、下部温泉郷 下部ホテル(矢崎道紀代表、山梨県・身延町)が「マルチタスクによる中抜け勤務の解消」をテーマに講演を行った。

 マルチタスクの導入のきっかけとなったのは、人材の定着や労働環境、団体旅行の落ち込みによる売上低下などの問題点が浮上したことから。長時間労働や中抜け、タスキ掛けのシフトが組まれていたこともあり、生産性向上のために2013年に本格導入した。

 まず、全体のシフトを時間帯別に並べて、人員投入量を見える化した。これにより時間帯によって変わる重要な業務を整理して、マルチタスク化すべき業務のあたりをつけた。

 テーブルセットを行い席割りや食事時間を決める事前準備方式から、テーブルセットや席割りがない宿泊客に時間を任せたコース料理やブッフェスタイルに変更した。これにより、夕食会場の事前準備がほとんどなくなり、チェックインの時間帯には大勢のスタッフをロビーに配置できるようになった。また、料理を「好きな時間に好きなものを出来立てで食べられることで、お客様満足度が向上した」(矢崎氏)。下膳や食器洗浄、食器収納までが早くなり、業務終了時間が早まるなどのメリットもあった。

 マルチタスク導入の効果として、公休が85日から100日に増加し、労働時間の短縮や中抜け勤務の原則廃止によって人員の定着率がアップした。

 労働環境の改善でスタッフに余裕ができたことにより、「お客様へのお礼の手紙」や「朝食バイキングでのワゴンサービス」など、スタッフから自主的に良い取り組みが生まれるようになった。

 矢崎氏は、「シフトは『パズル』であり、どの部門にどの業務を割り当ててもいい。労働環境が改善し、余裕ができた時間でCS(顧客満足)向上につながる接客業務ができるので、ES(従業員満足)とCSの同時改善が叶う」と述べた。

 同ホテルではマルチタスクにITを活用している。新入社員がいつでもスマートフォンでマニュアルを視聴できるように動画マニュアルを導入した。また、ペーパーレス会議アプリでリアルタイムコミュニケーションを採用している。以前までは部屋割りなどを紙で共有していたが、アプリを介して新規予約や変更などの最新情報を素早く社内で共有できるようになった。

KNT中部、NEXCO中日本と協定締結 災害時の宿泊施設と移動手段確保 

2021年3月1日(月) 配信

宿泊施設確保の際のフロー

 近畿日本ツーリスト中部(KNT中部、髙川雄二社長)は2月26日(金)、中日本高速道路(NEXCO中日本、宮池克人社長・CEO)と「災害時における宿泊施設確保等の協力に関する協定」を結んだと発表した。締結日は2月24日(水)。

 今回の協定締結により、自然災害で高速道路が被災した場合、KNT中部はNEXCO中日本の要請により、道路利用者や復旧活動を行う応援派遣者の宿泊施設手配及び輸送手段の確保を迅速に行う。 

「津田令子のにっぽん風土記(70)」ふるさとへの想いとコロナ禍で思う事~ 東京都国立市編 ~

2021年2月28日(日) 配信

JR国立駅。国立市は東京郊外の文教都市として有名
NHK学園くにたちオープンスクール スクール長 池崎千鶴さん

 一橋大学や東京女子体育大学があり東京郊外の文教都市としても有名で、アニメ映画や小説の舞台にもなっている東京都国立市。国立駅から歩いて2分の地に、NHK学園くにたちオープンスクールでスクール長を務める池崎千鶴さんの勤務先はある。「教養や趣味を楽しみ仲間と出会える場として、文化や情報発信の一翼を担っています。教室での講座やトレッキング、街歩きなどの現地講座の開講も含め、私はスクールの運営のいわば舵取り役でしょうか」とおっしゃる。

 
 生まれは香川県坂出市。「香川といえばうどんを真っ先に思い浮かべる方も多いと思いますが、瀬戸内海に面していて穏やかな気候で遡ると崇徳上皇が島流しにされた悲しい歴史もあるんですよ」。

 
 坂出で暮らしていたのは、生まれてから3歳までと小学4年生から高校卒業まで。途中、父の転勤で岡山県や茨城県で過ごした時期も。大学入学以来、今に至るまで東京に居を構えているが、年に1度の坂出への帰省を欠かすことはない。

 
 「私にとって、ふるさとは、東京駅を出発するところから始まります。今でも懐かしく思い出すのは、東京―高松(香川)間を運行する寝台特急『サンライズ瀬戸』で帰省したときのこと」と目を輝かす。10年前、入院中の母の看護のため仕事の合間を縫って週末ごとに東京と坂出を行き来することになった際に、頻繁に寝台特急を利用したという。  

 
 「当時はカーテンで区切られただけの1畳分の座席を利用していました。あの時に感じた列車の揺れや、車窓から見える静まり返った街の明かりとともに、心細さと母への心配の入り混じった、じれったいような気持ちまで甦ります」。池崎さんは「朝早く坂出駅に降り立ったときの、ふるさとに帰ったというあの安堵はいまだに忘れることはないですね」と感慨深げに語る。

 
 オフシーズンの伊豆に惹かれるという池崎さん。「閑散期の観光地ならではの町の静かな雰囲気と、ゆったりとした時間の流れに心が洗われます」。

 
 「コロナ禍では、不要不急という言葉が声高に論じられることが多くなり、改めてカルチャースクールの持つ意義を見つめ直す1年でした」と振り返る。カルチャースクールは不要不急なのだろうかと自問自答が続いているという池崎さんは、「私たちが豊かに生きるために必要なものなのではないでしょうか。人が人らしく生きることを応援できる世の中に早く戻ってほしいと願っています」と話す。

 

津田 令子 氏

 社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。

 

「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(193)」 第4世代の「産業観光」(福井県鯖江市)

2021年2月27日(土) 配信

新作ショップを兼ねた「TSUGI」のオフィス

 福井県鯖江市といえば、多くの方はメガネ(眼鏡)をイメージされるだろう。国産フレームの全国シェア96%、事業所数530社、人口の6人に1人がメガネ産業従事者という、まさにメガネ大国である。

 しかし、この地域は昔から、越前漆器、越前和紙をはじめ、陶器、打刃物、繊維、箪笥などの優れた伝統産業が有名だ。わずか10㌔四方圏の狭い地域に集積する有数のものづくり産地である。

 残念ながらそれぞれの産地は孤立し、出荷額、従業員数ともに減少。零細事業所の多くは、高齢化と後継者難という悪循環に陥っていた。このようなことは、全国の産地の共通の悩みでもある。

 このようななか、長い歴史をもつ越前漆器の産地、河和田地区を中心に、2015年から「RENEW(リニュー)」というオープンファクトリーのイベントが始まった。各業種産地の工房・企業を一斉開放し、見学・ワークショップを通じて、作り手の想いや背景を伝え、技術を体験しながら商品購入などを楽しんでもらうイベントである。

 このイベントでは、全国各地のローカルプレーヤーが集うマーケット(まち/ひと/しごと)や、先輩移住者たちが語る「福井移住EXPO」などを通じて、この地域への若者たちの移住を促し、新しい産地づくりの原動力につなげようという狙いである。

「漆琳堂」内田さんの工房・ショップには漆塗自転車も

 仕掛け人の1人、新山直広さん本人も移住者の1人だった。大阪生まれで、行政職を経験し、2009年に移住した。15年から「TSUGI」というデザイン事務所を開設。TSUGIは、グラフィックデザインを武器に、産地を横断する斬新な商品開発と販路開拓を一貫して行っている。

 TSUGIの名称は、“次”の時代に土地の文化や技術を“継ぎ”、新たな関係性を“接ぐ”という思いが込められているという。現在8人いる職員の大半は移住者である。

 この試みは、ある意味、産業観光の先進的なモデルの1つとも言える。

 産業観光は、1960年代の工場開放(第1世代)、1980年代以降の大衆観光化(第2世代)を経てきた。2000年前後からは、企業広報やCSRを超えて事業自体が収益を得るという第3世代とも言うべき段階に入っている。

 さらに近年では、こうした個々の企業の収益・採算はもとより、地域全体の企業やホテル・飲食などのサービス業が参画して地域再生をはかる、「第4世代」とも言うべき新手の取り組みも始まった。

 新潟県・燕三条の「工場の祭典」や、東京都大田区の「おおたオープンファクトリー」などは既に定着しているが、TSUGIのような移住者たちが参画する産地横断型マネージメント組織の展開は、第4世代の産業観光の新たなモデルの1つとして大いに期待したい。

(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)