【谷中散策ツアー同行】訪日客へ着地型提供、地域ならではの体験を

スタートはJR日暮里駅。一番左が、ガイドを務める野澤雅春氏

 2017年5月、訪日外国人旅行者(インバウンド)数は過去最速で1千万人を突破した。拡大が続くインバウンド市場ではどのようなビジネスが展開されているのか。着地型観光サービスを提供する、ベンチャー旅行会社、トリップデザイナー(坂元壮代表、東京都台東区)の「谷中散策ツアー」に同行。ツアー内容や造成理念といった、受入方法の具体例を紹介する。ツアー参加者は米国からの旅行者4人。通訳案内士である野澤雅春氏がガイドを務め、谷中と根津(ともに東京都台東区)を案内してくれた。
【謝 谷楓】

 ■コンテンツ重視のベンチャー旅行会社

 「手配をしているという意識はない」と力を込めるトリップデザイナーの坂元代表。インバウンドビジネス拡大に注力するやまとごころ(村山慶輔代表)主催のセミナーへの参加を重ね、2016年に同社を設立した。業務内容は、訪日旅行者向けの着地型観光サービス。地域を深く掘り下げるオプショナルツアーの造成と販売、ガイドを担う。約60人のガイドが全国でサービスを展開する。

 重視しているのは、地域ならではの体験と、日本特有の文化や歴史を感じられるコンテンツ。造成時には、海外で発行されるガイドブックを参考にするほか、ツアー参加者やSNS(交流サイト)での口コミも重視する。「外国人旅行者の気に入るポイントはどこかを意識するなど、工夫を欠かさないよう心がけている」と、坂元代表は強調する。販売は、自社Webサイト「OMAKASE」と、海外旅行代理店を通じて行う。

真剣な表情で聴き入る参加者

 ■ニーズに合ったコンテンツを用意

 同行した「谷中散策ツアー」の価格は約9千円。代理店経由でも価格はほとんど変わらない。午前9時に待ち合わせ場所・JR日暮里駅に向かうと、ガイドの野澤氏が笑顔で出迎えてくれた。英国駐在経歴を持つ同氏は、流麗なブリティッシュイングリッシュで、既着の参加者らと談話しているようす。業務時、大切にしていることはという質問に対し、「ともすると、一方的なレクチャーになりがち。参加者の性質を理解したうえで、質問のしやすい環境づくりが何よりも大切だ」と答える野澤氏。参加者の性格やニーズの把握も、談話を通じ行う。

 今回の参加者の特徴は、歴史と文化に関心が高い点。当日は、「谷中銀座」といった観光スポットと比べ、「谷中霊園」や「天王寺」「根津神社」といった日本の伝統・慣習に触れる機会の多いスポットでの滞在時間が長かった。野澤氏は、同じツアーコースを辿るにしても、参加者の趣味嗜好を把握したうえで、時間管理をすることが大切だと教えてくれた。「卒塔婆」や「神仏習合」「天皇退位」「鎖国」など、比較的ディープな話題を取り上げていたのが印象的。参加者の真剣な表情を見ると、一人ひとりのニーズを満たすガイドに徹していることが良く分かる。

根津神社では、手水舎にも立ち寄り、身を清めた

 ■受入体制の整備担う

 来訪先の国・地域によって、興味関心はさまざま。同社では研修会を開き、ニーズを受けとめるガイドテクニックのさらなる向上を目指す。

 20年の訪日客4千万人を目指し、海外での周知活動が加速するなか、国内での受入体制整備も疎かにできない。観光ガイドを担う同社は、具体的な受け皿のとして機能しており、存在感が高まりそうだ。

2018年の観光予算 ― 数値目標達成より難しい課題にも

 観光庁は2018年度予算の概算要求の概要を発表した。東北の復興(復興枠)を含めて、17年度予算比で16%増の298億円を要求する。次号で詳しく紹介するが、事業は主に3本の柱で構成されている。

 (1)訪日プロモーションの抜本改革と観光産業の基幹産業化(2)「楽しい国 日本」の実現に向けた観光資源の開拓・魅力向上(3)世界最高水準の快適な旅行環境の実現――で、簡単に言えば、「誘客」「魅力向上」「快適な環境整備」事業に分類される。

 03年に小泉純一郎首相が「観光立国懇談会」を主宰し、訪日旅行を促進するビジット・ジャパン事業がスタート。06年12月に観光立国推進基本法が成立し、08年10月に観光庁が設置された。日本の観光政策が大きく動き出した時期だ。その当時と比べ、現在の観光振興政策は大きく前進した。自治体の首長の多くも、観光政策の重要性に言及するようになった。

 観光立国の大きな柱である訪日外国人客数も03年には521万人だったが、16年には2404万人へと飛躍的に増加している。今後も2020年に4千万人という目標に向け、誘客プロモーションと、観光資源の開発・魅力向上、快適な旅行環境の整備に取り組んでいくことになる。

 しかし、数値目標達成に向けた努力が成果を上げる一方で、さまざまな新しい課題も表面化してきている。

 とくに、人気観光地においては、世界各地で収容力を超える観光客が押し寄せてくることによって、地元住民らの生活に支障をきたし、「もうこれ以上観光客に来てほしくない」と願う現象も生じている。日本でも一部の人気観光地ではそのような現象がみられる。

 例えば、首都圏や関西圏などの宿泊施設の不足を理由に、住宅宿泊事業法という新たな法律を制定。「民泊」という宿泊スタイルを推進していく流れも本格化する。大きなニーズがあるから、それに対応した施設が生まれ、産業として成長していくのは自然な流れであるが、経済効果が見込まれるからといって、門戸を開けすぎて、それが地域住民のストレスになるようでは、観光立国のあるべき姿からは遠ざかってしまう。

 18年度概算要求の事業内容を改めて見ると、それぞれの事業は、(1)とくに外国人観光客がどうしたら日本に関心を持ってもらえるか。(2)日本にはすぐれた観光魅力があるので、もっと発見して磨きあげよう。そして、③せっかく訪れていただいた観光客が、言葉が通じなかったり、案内不足のためにストレスを感じたり、不便に思うことがないように整備しようというのが大きな柱となっている。

 とりわけ3つ目のような心配りは、日本人の美徳である。観光立国を目指し始めて日が浅い日本は、まだまだ至らない部分が多い。せっかく遠くから来ていただいた外国人観光客にストレスを感じるようでは申し訳ないと、急ピッチで改善していくのはいいが、“やり過ぎてしまう”傾向もある。

 東京五輪開催まで3年を切った。16年の訪日外客数2400万人の1・6倍以上の4千万人が数年後に訪れるようになると、さらに多くの混乱や軋みが生まれることが予想される。数値目標達成よりも難しい、規制や需要の平準化などの課題にも真剣に対応していく時期にきている。

(編集長・増田 剛)

業界に大きな影響なし、自治体ツアー「業法適用外」(田村長官)

 観光庁は、自治体が行うキャンプツアーや、ボランティア団体による被災地へのバスツアーについて、一定の要件のもとでは、「旅行業法の適用外とする」と通知。これによる旅行業界や地域の旅行会社への影響について、田村明比古長官は8月16日の会見で「いわゆる〝空白地帯〟だった部分で、旅行業界には大きな影響は与えないと考えている」と述べた。「とくにボランティアツアーは緊急性や、公益性といった観点で、空白の部分を埋めてもらう役割がある。ボランティア団体にも、役割を果たしてもらいたい」との考えを示した。

 観光庁は7月28日に2つ通知を出した。1つ目の自治体が行うキャンプツアーなどへの通知は、「旅行業法上の取り扱いの解釈を明確にしたのがポイント」と話した。これまで問題なく行われてきたツアーが、「旅行業法違反ではないか」という一部の指摘を受けて、「自治体が解釈に迷って自粛してしまうという動きがあった」として、田村長官は「営利性、事業性がなく、日常的に反復、継続して行われるものではないものについては、もともと旅行業法違反ではないと示した」と説明。

 一方、緊急時におけるボランティア団体による被災地へのバスツアーに関しては、「大勢のボランティアが被災地に行って復興支援をするというニーズがある。この部分を旅行会社がすべて対応できたかと言えば、そうではない」とし、「旅行会社にも引き続き役割を果たしてもらいながら、ボランティア団体などによるバスツアーも役割を果たすことが重要」との考えを示した。さらに、「旅行業界の方々とも十分に議論してきたが、『民業圧迫だから反対』という話はなかったと認識している」と述べた。今後、分かりやすくQ&Aを作成し、観光庁のホームページにも掲載。自治体にも提示していくと語った。 

弁済制度引き上げ、8月にとりまとめ

 「てるみくらぶ」問題の再発防止策として弁済制度の負担金の引き上げを検討していることには、「8月中には最終的な対策をとりまとめていきたい」と語った。

 また、北朝鮮問題を受け、グアムへの旅行の影響については「特段際立った影響が出ているとは聞いてない」と報告した。

 さらに、観光庁の組織拡充を受けて18年度予算は、「政策の大きな柱について相応の拡充はしたいと思っている」と意気込みを語った。

 観光立国に向けた、新たな財源確保に向けた出国税に関しては、「幅広い選択肢を検討している状況」と述べるにとどまった。

No.470 福祉×経営課題、障害者支援が宿を助ける

福祉×経営課題
障害者支援が宿を助ける

「障害者差別解消法」の施行に伴い、受入体制の確立を目指す宿は多い。一方、ハンディキャップを持つ人の就労支援に着目した活動は未だ珍しい。就労継続支援B型事業所「愛’s」と連携し、「人件費削減と人材不足の解消」を果たした割烹旅館「清都」(千葉県南房総市)の清都みちる女将を訪ねた。今年、第20回「人に優しい地域の宿づくり賞」(主催=全旅連)で厚生労働大臣賞を受賞した同館。「愛’s」管理者の小宮庸宏氏との対談のなかで、活動について語ってくれた。

【謝 谷楓】

 

 ――就労継続支援B型事業の目的は、「雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会を提供」すること。割烹旅館清都では昨年から、就労継続支援B型事業所「愛’s」と提携し、人材不足や人件費削減といった課題を解決してきました。

清都:ボランティアイベントでの出会いがきっかけとなって、障害を持つ「愛’s」利用者らの就労受け入れ活動に取り組んでいます。

これまで、全盲になった親友との交流や、特別支援学校との関わりなど、障害を持つ方と接する機会は多くありました。専務である息子も、ブラインドサッカーの運営経験を持っています。試合では、選手らが勇気と感動を与えてくれます。ハンディキャップの有無は関係ありません。

目が見えないからできない、障害を持っているからできないと考えるのではありません。各々ができることを行い、障害者と健常者が協力し合うことで、チームワークは生まれます。仕事でも同じです。

〝障害=個性〟であり、障害者と健常者が同じフィールドに立つノーマライゼーションの必要性も理解しています。

小宮:「清都」では、指導員による引率のもと、3人1チームとなって清掃の仕事に臨んでいます。女将や専務、社長をはじめ、宿スタッフとの関係も良好だと聞いています。

健常者と同様に扱ってもらえる。難しいことですが、「清都」は実現してくれました。

清都:経営者と労働者、障害者と健常者、それぞれ双方が互いを尊重し合う関係が信頼につながります。障害者と健常者にかかわらず、「使ってやっている」という考えを、経営者に持ってほしくありません。

人件費と人材不足の課題解決を果たせたのは、清掃作業に取り組む「愛’s」利用者のおかげです。助けてもらっているのだということを常に意識しています。

小宮:人件費や人材不足など、就労継続支援B型事業所と手を組むことで解決できる課題は少なくありません。そのことに、経営者が気づきつつある印象を受けています。

 ――詳しく教えてください。

小宮:「清都」の場合、障害を持つ「愛’s」利用者が受け取る作業費は、1人1時間で250円。健常者の最低賃金は842円(千葉県、2016年10月発行)ですから、企業の負担は3分の1以下で済みます。個人差や得手不得手があるため、生産性では健常者に敵わない場合もありますが、人数を多く導入すれば解決できることです。

「清都」のように、健常者である指導員のもと3人が1チームとなって作業に当たれば、企業が負担する人件費は、県が定める健常者の最低賃金を少し下回ります。

賃金ベースで考えれば、企業は生産性を上げることが可能なのです。

清都:客室とお風呂の清掃を任せていますが、とても丁寧で行き届いた仕事は、お客様からも好評です。…

 

※ 詳細は本紙1681号または9月7日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

来年1月4日に施行、ランオペに登録を義務化(改正通訳案内士法)

 6月2日に公布された通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律が、18年1月4日に施行される。これにより、資格の有無にかかわらず、報酬を得て通訳案内ができるように緩和される。一方で国家資格を有する通訳案内士は、「全国通訳案内士」と「地域通訳案内士」の名称を独占し、定期的な研修を受けることが義務づけられ、無資格者との差別化をはかる。

 また、旅行の安全や取引の公正を確保するため、ランドオペレーター(旅行サービス手配業者)の登録制度を創設し、観光庁への登録が義務づけられる。

 8月15日に閣議決定された政令では、「全国通訳案内士」が、定期的に受講する研修の実施機関の登録有効期間を3年に定めた。なお、案内士の研修は、必ず5年に1度は行うこととする見通し。

 ランドオペレーターの登録制度では、ランドオペレーターの主たる営業所を管轄する都道府県知事が事務を担う。一方、報告徴収・立入検査は、観光庁長官も行うことができる。

 田村明比古観光庁長官は16日の会見で、「施行に向けて準備を加速していく」とし、新設される「地域通訳案内士」などの説明会は、8月から運輸局単位で実施すると述べた。創設されるランドオペレーター登録制度への申請受付については「各都道府県の準備ができ次第開始する」予定だ。

「安心してグアムへ」、北朝鮮問題で〝安全〟強調、、グアム政観局長が来日

ジョン・ネイサン・デナイト局長

 グアム政府観光局(ジョン・ネイサン・デナイト局長兼CEO)は8月21日、北朝鮮問題について、正確な情報を発信するため東京都内で会見を開いた。デナイト局長は「警戒レベルは平常から上がっておらず、グアムは安全。現地は日常の生活を送っている」と強調。安心してグアムへの旅行を楽しんでほしいと呼び掛けた。

 グアムへの観光客は日本人が最多で45%を占める。2016年の全体の訪問者数は153万5410人で、このうち日本人は74万5691人だった。また、8月はグアムにとって繁忙期で、16年8月の全体訪問者数は14万4758人と過去最高を記録した。今年は北朝鮮問題があるなか、8月1―15日の訪問者数は前年同期比約3%増で推移。短期的に大きな影響は出ていないという。

 一方、秋は修学旅行の時期を迎えることなどから今後の影響を考慮し、来日して安全性をアピールした。デナイト局長は「国土安全保障・市民防衛室によると危険性は0・00001%」と言及。準州知事室や国土安全保障・市民防衛室は米軍から毎日情報提供を受けているほか、万が一の脅威に対しては、何層もの防御システムが整っていること、日本や韓国のパートナーシップがあることを安全性の根拠にあげた。

 同日は、レイモンド・テノリオ準州副知事も来日し、ドナルド・トランプ大統領から知事へ「ホワイトハウスが北朝鮮を厳重に監視しており、グアムは十分に保護されている」と連絡があったことなどを紹介した。

東北のたからもの

 池田修三さんをご存知ですか――。

 1922年に秋田県・象潟町(今のにかほ市)で生まれ、子供たちの情景などを木版画として残した池田さんは、「東北のたからもの」と言われることも。作品は安く、志は高く。そんな姿勢が秋田の人たちに、芸術を贈りあう文化を根づかせたという。知るほどに、人も作品も好きになっていった。

 8月、仙台で開かれた展覧会へ出かけた。間近に見られて撮影自由な会場に、今も受け継がれる池田さんの意志を感じた。そしてゆっくり鑑賞。伏し目がちに微笑む姿が印象的な「花のかんざし」を、お気に入りの1点に選んだ。

 同時期古里では、市民が所蔵する作品を公開し、思い出とともに紹介する「まちびと美術館」も開かれた。訪れてみたい催しだ。

【鈴木 克範】

【八幡屋・渡邉 武嗣社長に聞く】日々の〝信頼関係〟大事に、「また来たい」宿を目指す

里山に囲まれ、自然豊かな八幡屋の外観
渡邉武嗣社長

 福島県・母畑温泉の八幡屋(渡邉武嗣社長)は昨年9月に事業継承を行い、新体制となった。「自分たちが宿を守る」と、チームで経営している意識が強い企業風土はいかにして生まれたのか。現在進めている投資計画では、町全体を巻き込みながら、時代に合った湯治スタイルも追求している。「心とけあう、くつろぎの宿」をテーマに、里山の自然を生かした滞在型の宿づくりや、人材育成など、渡邉社長に幅広く話を聞いた。
【増田 剛、鈴木 克範】

 今年は、創業から138年目になります。宿屋としてはもっと以前から営んでいたと思うのですが、初代が湯治旅館として営業を始めた1880(明治13)年を起点として数えています。

 私は八幡屋の創業100年目に生まれ、昨年(2016年)9月に代表取締役社長に就任しました。先代は代表取締役会長となり、共同代表という体制です。運営面に関しては、全般的に任されています。

湯治宿から観光旅館へ

 母畑温泉で湯治宿をずっとやってきて、現会長が社長だった1983(昭和58)年に、観光旅館へと大きく舵を切りました。これが第1期の投資となります。90(平成2)年に第2期、95(平成7)年に第3期と、トータルで100億円ほど投資しています。

 宿が現在のかたちになったのは95年の第3期の投資からです。その後も、01年に岩盤浴を造り、13年にコンベンションホールの改装を行いました。

 今回の代替わりに合わせて、今年6月には最上階の10部屋を、和・洋室にリニューアルしたほか、全室に大型テレビを導入し、Wi―Fiにも対応できるように整備しました。さらに洋室17部屋を改装し、個別空調化も進めています。

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 観光旅館へと移行した83年当時の年商は2億円ほどでしたが、10億円の設備投資をしました。

 そのときに、スタッフが主体的に営業に回り、一方でお越しいただいたお客様を丁寧にもてなすという、八幡屋の企業風土が生まれ、現在まで受け継がれています。

 「自分たちが旅館を守る」という〝チームで経営している意識〟が強いことが特徴です。

 当時は、大手旅行会社もあまり相手にしてくれず、こんな田舎に大規模な旅館を建てたので、日ごろからお付き合いのあるバス会社や案内所、小さな旅行会社さんが地元のお客様を送客してくれました。 

 また、東日本大震災後には8月まで、被災者や復興支援者を受け入れていましたが、中小旅行会社さんとのつながりが強かったので、「大変だね」と、バスで復興支援のお客様を送客してくれました。目頭が熱くなるようなストーリーもありました。

 お客様に喜んでもらうということは、旅館として当たり前ですが、「こんなに多くのお客様を送客していただき、支えてくれているのは誰のおかげか」ということを常に考え、旅行会社、バス会社さんとのお付き合いもお客様と同じように大切にして接してきました。

そして、これらの積み重ねによる〝信頼関係〟を、大事にしてきました。

15歳で単身渡米へ、里山情緒を再認識

 私は中学を卒業後、15歳の時に単身で米国に渡り、25歳で帰国しました。その後、いくつかの企業で経験を重ね、八幡屋には2012年に戻ってきました。

 緑の多い田舎に育った私が米国・ラスベガスに留学して、砂漠の中の〝テーマパーク〟のような世界から、日本に戻って来たときに、「日本の里山情緒と、自然を生かした質の高い楽しみや、体験を提供していけばいいのではないか」という考えに至りました。これは、若い時期に海外を見てきたことが大きかったと思っています。

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 当館の年間宿泊客は約12万人で、このうち半分の6万人が県外のお客様です。今は、当館に宿泊したあと、いわき市に行って魚を買ったり、会津で歴史的な遺産を見て帰られたりするのがほとんどで、地元で過ごされることはあまり多くありません。

 地元・石川町は湯治場だった歴史もあり、いずれは長期滞在型で、ゆっくりと2―3日滞在していただけるように、地域のものづくりや、農作業などの体験もできるようにつなげていければいいなと思っています。

 とくに近年、滞在中は旅館内で完結するだけでなく、複合的に楽しんでいただく時代になってきたのを感じます。アンケートなどで宿泊客の声を聞いていると、自然環境や地域の歴史にも興味を持たれていることが分かりました。

 このため、お客様から要望があれば、まずは私が朝6時から、宿の周辺5―6㌔を約1時間30分お客様と一緒にウォーキングしながら、地域や八幡屋の歴史なども話しています。多い日には20人が参加することもあります。いずれ社員を巻き込み、最終的には町全体の運動にしていきたいと思っています。

 B級グルメや、ゆるキャラ、イベントなど一過性の取り組みは色々な地域でやられていますが、それだと、いずれ息切れしてしまいます。

 根本的に町全体の質を上げるには、植栽など身近なところからできる運動も、時間はかかりますが、一つのやり方だと思います。庭先や店の前に花を植えるだけで、訪れた人に地域のまとまりを感じていただける。駅を訪れた旅行者に積極的に声を掛けたりする空気感を、町全体で作り出していくことも大切だと思っています。

渡邉社長と歩くトレイルウォークの館内チラシ

社員教育の現場、大事なのは「今」

 社員教育で一番大事なことは「今」です。「昔はこうだった」と説明しても、「今はこうじゃないですか」という話になります。生え抜きのスタッフを取締役に就任させるなど、次代の経営層に育て上げる若手の幹部らと話し合いながら、現場の意見をくみ上げ、経営判断で改善していくスタイルを取っていきたいと考えています。

 私の社長就任は当館が企業として、実質初めて世代交代を迎えたことになります。〝第3の創業〟と謳い、「残すべきもの、変えるべきもの」を明確にして、良い企業風土、企業文化は残しつつ、商品づくりなどは時代によって変えていこうと考えています。

 八幡屋のモットーである「社員第一主義」「お客様第一主義」は、社員が体現してくれていたことを言葉にしただけのことです。

 都会の外資系ホテルのような洗練されたサービスなどはできないかもしれませんが、お客様にはとにかく明るく元気に、そして素直さと謙虚さを持って接し、社員同士でも優しさや気遣いを大事にしようと取り組んでいます。

 テクニカル、スキルの部分については、サービス接客のコンサルタントも入れて、最低限の作法の勉強もしています。最終的には、おもてなしの心の〝精神性〟の部分が一番大事だと思っています。

 具体的には、お客様が寒そうにしていればブランケットを持って行ったり、飲み物が空になっていれば注ぎ足したり、また、お客様とどのくらい会話ができるかなど、当たり前のことをどれだけ当たり前にできるかが、おもてなしにつながるのだと思っています。

団体旅行が主軸、個人客の対応も

 現在の145室という大型旅館の規模では、団体のお客様はありがたい存在です。今後も、基本的な営業スタンスとしては団体を受け入れるという主軸の部分は変わりません。

 一方で、個人のお客様が来られたときに、どれだけ満足していただけるかというところは、まだまだもの足りない部分があります。そこのニーズを拾い集めて、ベッドの部屋や、個人客に対応したワンランク上の食事処も、増築する必要があります。

 家族貸切風呂も、外湯を含め新たに4棟造る計画です。外国人旅行者や介助が必要なお客様、小さな子供がいる家族連れなど、あらゆる客層の需要にも対応していこうと考えています。

 さらに、「里山や田舎の情緒をより開放的に味わってほしい」との想いから、山の斜面の上の方に新たに大きなお風呂を造り、四季の鳥のさえずりや、植栽した花なども楽しめるようにしたいと考えています。日帰り入浴のお客様にも対応できればと思っています。

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 原点が湯治宿だったので、お客様には2―3泊滞在して、心も体もリフレッシュしていただけるような環境整備も必要です。ゆったり安らげるリゾート的な要素も取り入れながら、今の時代に合った湯治のスタイルが見つからないかと模索しているところです。「心とけあう、くつろぎの宿」が当館のテーマであり、いつの時代も、社員も、お客様も心がとけあえる宿が理想です。とがった宿ではなく、「なんか良かったね、また来ようね」と思ってもらえる宿を目指していきます。

“民泊新法”の対応合宿、各県理事長が行動方針確認(全旅連)

多田計介会長があいさつ
鈴木観光産業課長

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(多田計介会長)は8月23、24日の2日間、「住宅宿泊事業法対応合宿」を開いた。東京都内に常務理事(各都道府県理事長)・理事が一堂に集結した。

 今年6月16日に公布された住宅宿泊事業法(民泊新法)は都道府県や政令市などの条例で上乗せ規制が認められている。各自治体で年間180日以内とされる提供日数の上限などを条例で決めることも可能で、今後議論は地方に移っていく。多田会長は「地域住民や利用者が安心安全に暮らし、施設利用ができる環境整備を、我われがリーダーとなって進めていこう」と語った。

 

桑田対策委員長

 合宿には観光庁観光産業課の鈴木貴典課長が出席し、「住宅宿泊事業法」についての説明と質疑応答が行われた。住宅宿泊事業者(オーナー)を監督する都道府県知事と、エアビーアンドビーなど住宅宿泊仲介事業者を監督する観光庁長官、さらには消防庁や警察庁、国税庁、保健所まで一元的に情報共有できるシステムを構築する方向性や、観光庁が民泊コールセンター(民泊110番)を立ち上げることなどを説明した。また、無許可営業者に対する罰金の上限額を3万円から100万円への引き上げなどを盛り込んだ旅館業法の一部を改正する法律案は、前国会に提出。現在継続審議中だが、次期臨時国会での成立を目指していることも報告された。

 その後、条例が定められるまでの行動方針を桑田雅之対策委員長が説明し、確認した。

45セミナーを設定、業界日の登録スタート(ツーリズムEXPO)

 ツーリズムEXPOジャパン推進室は9月21―24日、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開くツーリズムEXPOジャパンの業界日、22日に実施する「ツーリズム・プロフェッショナル・セミナー」の登録を開始した。今回は45セミナーを設定。それぞれの職種や分野に応じた幅広い内容をそろえる。

 国内・訪日担当者向けの注目セミナーは、「貸切バスの運賃・料金制度等と国内募集型企画旅行における貸切バス会社名の表記に関する説明会」や、「新しい通訳案内士制度とランドオペレーター登録制度について」など。

 海外は、パラグアイやロシアなど各デスティネーションの魅力を紹介するセミナーが開かれる。さらに、顧客対応者や経理担当者向けのセミナーとして「苦情対応入門~クレームは怖くない~」や「元国税査察官が語る税務調査への対応」なども用意する。

 また、業界日には新たな試みとして、3―4千人いるエリア・スペシャリスト(旧デスティネーション・スペシャリスト)を対象にしたスタンプラリーを実施。東展示棟1―3ホールの海外出展エリアを回り、各クイズに回答すると抽選で国際航空券などの賞品が当たる。受付は午前10―11時まで。