海の日 固定化に懸念、久保長官「観光需要に影響」

 観光庁の久保成人長官は11月19日の会見で、議論の起きている「海の日」の固定化について、「明らかに観光需要に影響が出る」と懸念を示した。

 国民の祝日の一部を月曜に固定し土・日曜日と3連休にするハッピーマンデー制度のもと、7月20日の海の日は2003年に、7月の第3月曜日へと変更された。久保長官は、ハッピーマンデー効果で鉄道や航空の輸送量、旅行需要が増加したことをあげ、固定化については、観光業や地域経済への影響を懸念。「さまざまな意見はあると思うが、観光需要への影響を踏まえて、丁寧に議論してほしい」と観光庁としての考えを示した。

 海事思想の普及や海事産業の振興については、「海から受ける恩恵など『海』について認識することはとても大切」とし、観光サイドとして「3連休でもっと『海』を訴えたり、旅行商品に組み込んだりしていってはどうか」と提案した。

好調なインバウンド、1300万人前後で着地

 10月の訪日外客数が、前年同月比37・0%増の127万1700人となり、1―10月累計で前年同期比27・1%増の1100万9千人と、すでに13年の年間過去最高値を上回ったことを受け、14年の訪日数の着地点を上方修正し、「1300万人前後では」と見通しを語った。

 好調なインバウンドの要因について久保長官は(1)アジアの経済成長や円安など、まわりの環境が整ってきたこと(2)東京五輪や富岡製糸場の世界遺産決定など、日本に注目が集まる機会が増えていること(3)ビザ要件の大幅緩和や免税拡充、CIQ体制の充実など、観光立国推進閣僚会議を立ち上げ、政府一丸となって取り組んでいること(4)観光庁とJNTOの的確な訪日プロモーション――などを挙げた。

 また、旅客船沈没事故の影響で船舶での訪日が大幅に落ち込んでいた韓国市場については、「九州への船舶での訪日が少しずつ戻ってきている」と現況を報告した。

大阪に新潟地酒の立ち飲みバル

 今年10月、大阪のビジネス街・天満橋に、地酒立ち飲みバル「新潟ぽんしゅバル・お越しや」が登場し、仕事帰りのビジネスマンらでにぎわっている。来年3月の北陸新幹線開業で、大阪から約3時間30分と近くなる新潟県をPRしようと、新潟県観光協会大阪観光センターがプロデュースした店舗。来年3月31日までの期間限定営業となる。

 ビルの地下1階に設けた、10人ほどでいっぱいになる小さな店舗には、新潟自慢の地酒が常時30種類ほどそろっており、1杯380円(税別)から楽しめる。約30種類ある料理メニューも、新潟伝統の家庭料理「のっぺ汁」、新ご当地グルメ「新潟メンチ」、新潟おでん、佐渡産「丸干しイカ」など、新潟の味覚がいっぱい。締めは、やっぱり新潟産コシヒカリのおにぎりで。

【塩野 俊誉】

ビッグホリデー50周年、1千人の関係者が祝う

会場には1000人を超える関係者が集った
会場には1000人を超える関係者が集った
岩崎安利社長
岩崎安利社長

 ビッグホリデー(岩崎安利社長、東京都文京区)は11月19日、東京都港区の東京プリンスホテルで創業50周年記念「感謝の集い」を開き、1千人を超える業界関係者が集まり盛大に祝った。

 岩崎社長は「50年前の1964年は東京オリンピックが開催され、新幹線や首都高速道路が開通した年。海外自由化や1ドル360円の時代でもあった。旅行についてはまだ黎明期であったが、冷蔵庫、テレビ、洗濯機などが飛ぶように売れたモノの時代。それだけに日本経済が大きく転換し『これからの日本は明るいなあ』と感じられた時代だった」と振り返った。「その後、70年代からは、モノから『こころの時代』と言われるようになり、当社も順風満帆に業績も伸び、やりがいもあった。それがバブル崩壊とともに世の中が大きく一変し、SARSや、鳥インフルエンザ、リーマン・ショック、東日本大震災などが発生し、残念ながら倒産した会社も多くあったが、当社は皆様のご支持もあり、なんとか切り抜けることができた」と謝辞を述べた。「涙が出るほどうれしいのは、『ビッグホリデーは俺が育てたんだ』と言ってくださる身内のような方々がたくさんいること。このような方々のためにも、恥じない会社になるように社員一同、頑張っていきたい」とあいさつした。

 ANAホールディングスの伊東信一郎社長は「1977年の全日本空輸航空券の販売代理店認可取得から、37年の長いおつきあい。良い時も、厳しい時も我われの営業にとって盟友であり、戦友。常に新しいマーケット、需要を見て行動に移されてきたのは、岩崎社長のチャレンジ精神の表れだと思う」と語った。

 東日本旅客鉄道の原口宰常務は「JR東日本と委託販売契約を結んだのは1998年と、そんなに昔の話ではない。ただ、我われの旅行商品『びゅう』を厳しく、優しく育ててくれたのは、類まれな人脈と信頼、人間力を持つ岩崎社長で、心から感謝申し上げたい」と述べた。

 03年に同社とテーマパークの予約券取扱契約を結んだオリエンタルランドの加賀見俊夫会長は「岩崎社長とは仕事よりも個人的なつきあいの方が長い。決断力、行動力、お人柄に深くはまっていった。50周年は通過点で今後さらに発展するためのスタートラインであり、今日はキッフオフの日だ」と祝辞を述べた。

 当日、会場に歌手の堀内孝雄さんが友情出演したり、グループ社員総出演のビデオ「LOVEマシーン」を上映するなど和やかな雰囲気に包まれた。

 ビッグホリデーは1964年4月に東京都板橋区大山で「北日本ツーリスト・ビューロー」として創業。69年9月にブルーバス(現・千葉中央バス)と販売提携し「東京ブルー観光」に社名変更。79年2月にブランド名を「ビッグホリデー」に決定。85年7月には社名を「ビッグホリデー」に変更した。14年4月に創業50周年を迎えた。

外国人に人気の宿発表、日本らしい“趣”が人気(トリップアドバイザー)

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 トリップアドバイザーはこのほど、「外国人に人気の日本の旅館2014」「外国人に人気の日本のホテル2014」を発表した。ランクインした施設は、細やかなサービスを高く評価する口コミが多く寄せられ、旅館では露天風呂や部屋食のスタイル、畳の間など日本らしい趣が人気となった。

 13年10月から14年9月までの1年間に、日本のホテル・旅館に投稿された日本語以外の口コミを、5段階評価の平均、口コミ投稿数などをもとに独自のアルゴリズムで集計した。

 旅館のトップは「料理旅館 白梅」(京都府京都市)。次いでベスト10には、「澤の屋旅館」(東京都台東区)、「一茶のこみち 美湯の宿」(長野県山ノ内町)、「ファミリーイン西向」(東京都豊島区)、「山の茶屋」(神奈川県箱根町)、「志美津旅館」(大分県由布市)、「湯田中温泉 清風荘」(長野県山ノ内町)、「洗心館松屋」(長野県山ノ内町)、「元奈古」(京都府京都市)、「強羅花壇」(神奈川県箱根町)と続いた。

 ベスト20のうち、長野県山ノ内町が4軒、京都府京都市が4軒、東京都が3軒、神奈川県箱根町と熊本県南小国町が2軒ずつランクインし、特定の地域に偏る結果となった。

1―10月で1100万人、17市場で過去最高(10月訪日数)

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 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)がこのほど発表した10月の訪日外客数は、前年同月比37・0%増の127万1700人と、10月としてだけでなく、年間を通じた単月としても過去最高を記録した。1―10月累計では前年同期比27・1%増の1100万9千人。13年に記録した年間の過去最高値の1036万人をすでに上回り、14年累計は1300万人前後となる見込みだ。

 3月から8カ月連続で月間の訪日客数100万人を突破中。消費税免税制度の拡充や大型クルーズ船の寄港、各市場において紅葉の魅力を集中的に発信したことが増加につながった。主要18市場すべてで前年同月比2ケタ増の好調な伸びとなり、ロシアを除く17市場が10月として過去最高を記録した。ドイツは単月としても過去最高を更新。中国、ベトナムに続き、1月から10月までの累計で、台湾、タイ、マレーシアがすでに年間の過去最高を上回った。

 重点市場の動向をみると、10月の訪日数が一番多かった台湾は同21・9%増の26万300人で、13年2月から21カ月連続で各月の過去最高を記録。宿泊施設やバスの手配価格、航空券価格の高騰などでツアー価格が値上がりしたが、東北方面への紅葉観賞を目的とした旅行商品は早期に完売するなど、販売状況は好調だった。

 韓国は同57・7%増の24万9600人と、10月の過去最高を記録。釜山と大阪を結ぶフェリーを利用した高校生の修学旅行が5カ月ぶりに再開した。

 中国は国慶節休暇の訪日が増加したほか、休暇後も需要が継続し、同84・0%増の22万3300人となった。

 香港は、同23・8%増の7万7300人となり、13年2月から21カ月連続で各月の過去最高を記録している。

 そのほか、フィリピンが同78・4%増、マレーシアが同35・1%増、ベトナムが同34・6%増となるなど東南アジアも好調に推移。タイが31カ月連続、ベトナムが34カ月連続で各月の過去最高を記録中だ。

 なお、出国日本人数は同5・3%減の141万7千人と、5カ月連続でマイナスとなった。

海外からアニメ聖地へ、メディア・ブロガー招請(関東運輸局)

コトブキヤで説明を受ける訪日メディア(手前)
コトブキヤで説明を受ける訪日メディア(手前)

 関東運輸局は11月17―21日に、地方自治体や民間企業と連携した海外観光プロモーション(ビジット・ジャパン地方連携事業)の一環で、関東でアニメの舞台になった地域や施設に台湾と香港のメディアやブロガーを招請するファムトリップを実施した。17日には東京都立川市で、立川商工会議所の案内でアニメの舞台視察と立川市内にあるプラモデル・フィギュアメーカー「壽屋(コトブキヤ)」を訪問した。

 舞台視察では、アニメ舞台になった場所や、アニメと連携した地域の商店などを訪問した。訪日メディアは、舞台となった立川駅前の交差点で、ガイドブックと景色を照らし合わせる、写真を撮るなど、いわゆる日本の「アニメ聖地巡礼」を行った。

 ツアーに参加した香港からのトラベルライター兼ブロガーのペース・チェンさんは「香港では日本のアニメは人気なので、日本に行ってアニメの舞台を見に行く人もいます」と話した。

 プラモデル・フィギュアメーカーの「コトブキヤ」では、同社の清水浩代副社長と戦略開発部戦略開発課の比留間誠課長が同社の歴史や地域振興をするに至った経緯を紹介した。

 比留間課長は「日本のお箸のデザインにスターウォーズのライトセイバーを採用するなど、クールジャパンを意識し、日本文化に合わせた商材も作っている」と語った。国内向けのフィギュアもアジア圏を中心に現在人気という。

 訪日メディアからは「台湾でフィギュアイベントはあるのか」「海外ホラー映画のキャラクターを美少女アニメ風にさせるのはなぜか」など、日本のフィギュア文化にも関心を見せるなど、活発な情報交換の場となった。

 18日以降は、埼玉県秩父市や茨城県大洗町など、現在人気のアニメ聖地の舞台視察に向かった。同事業は広域の地方連携事業で、実施主体は関東運輸局のほかに、埼玉県、秩父市、大洗町商工会、久喜市商工会、立川市商工会議所、東武鉄道、西武鉄道、時代村と多岐に渡る。

旅館で全国初耐震改修、中原別荘

耐震工事を完了したホテル正面外観
耐震工事を完了したホテル正面外観

10月完成、安心・安全で差別化

中原明男専務
中原明男専務

 建物の耐震化を義務づける「改正耐震改修促進法」が昨年11月25日に施行されて全国の旅館で初めて、鹿児島県鹿児島市の中原別荘(中原国男社長)が全面的な耐震工事を行い、10月20日から営業を開始した。

 同ホテルは1963年築の4階建て、67年築の6階建て、72年築の7階建て、そして2階建てレストランの4棟がつながる形で構成されており、「今後営業継続するなかで、改築より耐久を目指した工事を2012年から計画し、約800万円をかけて独自に耐震診断を行った」(中原明男専務)。

 結果、「補強すれば大丈夫」という診断を受け、動き出そうとした矢先、昨年5月に耐震法が閣議決定。11月に法律が施行されたなかで、改めて国の認定を受けるため2回目の耐震診断を受けた。

 ただ、中原専務は「耐震補強をしても、現在の耐震基準に沿った強度が出るかを一番心配した」という。診断の結果、同ホテルのコンクリートの状態は良好と判断され、これで計画が前に進んだ。

 中原専務は「銀行からは25年で融資を受けたが、借金の返済が終了したときが建物の寿命だと思っている。25年後が次の事業を考えるとき」と割り切る。とくに今回の工事では、耐震補強と合わせ、今年4月に改正された消防の表示制度への対応も重視した。

 工事では構造計算をあい設計、施工を竹中工務店、建築事務所はDAI建築デザインに依頼した。工事費は7億5千万円となった。国の補助は約3千万円だ。

 工事期間は5月30日から8月26日までの3カ月間、全館休業して耐震工事を行い、10月20日に完成した。社員は6割の休業補償を支払い、完成後には全員が復帰した。

 工事は複合型で強度を出すことが大きなポイント。ホテルの外側は学校などに使われるブレースのピタコラム工法にした。通常は鉄骨のブレースだけだが、鉄筋を入れコンクリートでかぶせて、さらに強度を高めさせた。

食事会場
食事会場
客室内部の耐震補強
客室内部の耐震補強

 柱は強固にするため繊維巻きにし、食事場所は柱の芯を太くするため土台をコンクリートで分厚くした。さらに耐震壁を7階まで設け、客室の一部にはブレースをはっている。

 また、耐震改修に合わせ、全館禁煙にも踏み切った。

 中原専務は「年間1万人の教育旅行を受けているが、東日本大震災以降、耐震改修済みや、基準を満たすホテルを希望する学校が増えた」と話し、「生徒の安全、保護者の安心に応えられることが、ほかとの差別化にもなる」と自信を見せる。

 今回の改修を機に、社名も「温泉ホテル中原別荘(全館禁煙、耐震改修済)」として、耐震に向けた決意を看板にも掲げた。

佐賀の“美味しい”に出会う、呼子のイカ、佐賀牛、佐賀海苔など

甘みと鮮度が抜群の呼子のイカ
甘みと鮮度が抜群の呼子のイカ

佐賀を知り、食べつくす旅

 佐賀県流通課は11月13、14日の2日間、「生産者と県産品、両方に出会う! 佐賀を知り、食べつくす旅」をテーマにプレスツアーを実施した。呼子のイカや佐賀牛、佐賀海苔、さがほのか(イチゴ)、さがみかん、佐賀のお酒、うれしの茶など、佐賀を代表する“食”にスポットを当て、生産現場を訪ねながら、高い品質や、こだわりの栽培方法など県産品の「ブランド化」を強化している佐賀の「食」の魅力を探った。
【増田 剛】

 佐賀県は北に玄界灘、南には日本最大の干潟・有明海に面し、豊かな自然に囲まれている。

 呼子のイカは、剣先イカと呼ばれる種類で、甘みの強さと食味の良さが特徴。全国的にも知名度が高く、呼子のイカを目当てに佐賀を訪れる人は多い。地元の漁師が丁寧に釣り上げ、鮮度維持にも心がけている。透明度の高い刺身は絶品。天ぷらや塩焼き、煮付けなどさまざまな料理に活用されている。

とろけるように柔らかい佐賀牛
とろけるように柔らかい佐賀牛

 佐賀牛は、JAグループ佐賀の肥育農家、農場で飼育された黒毛和種のなかから、日本食肉格付協会の規格に定められた最高品質「5等級および4等級脂肪交雑(BMS・霜降り)No.7以上」に厳選したもので、数多い銘柄牛の中でもトップレベルの黒毛和牛として君臨している。きめ細やかで綺麗な霜降り肉は旨味、甘みがとろけ出すほど柔らかい。ジューシーなサシも特色だ。

支柱式栽培の佐賀海苔
支柱式栽培の佐賀海苔

 佐賀有明海は日本一の海苔の産地。最大6メートルの干満の差を利用した支柱式栽培で佐賀海苔を育てている。有明海には112の河川が流れ込み、豊富な栄養と適度な塩分濃度が美味しさの秘密でもある。佐賀海苔は「味・姿・育ち」が厳しく管理され、最高級品として高く評価されている。「味」では、うま味のもととなるタンパク質含有量が50%以上(乾海苔)、香りレベルが「優」以上、口どけが、食感測定値「45回以内」(焼き海苔)でやわらかく、美味しいものであることなど、「おいしい海苔」の評価基準をさらに厳しく数値化し、厳選した海苔としてブランド化に成功している。

うれしの茶の茶畑
うれしの茶の茶畑

 「うれしの茶」は昨年まで5年連続で農林水産大臣賞・産地賞を受賞するなど、全国的にその名は知れ渡る。佐賀県は「日本茶栽培発祥の地」といわれ、とくに県西部に位置する嬉野市は1日の気温差が大きく、水はけも良く、日本茶栽培に最適な気候が整っている。「うれしの茶」は茶葉がグリッと丸まった「グリ茶」(蒸し製玉緑茶)と呼ばれ、若い芽のようなさわやかな香りとコクのある旨味が見事に融和している。

 このほかにも、さがみかん、さがほのか(イチゴ)、アスパラガスなど「ブランド化」に取り組む特産品が佐賀県には数多く存在する。

ツアーステーション代表・加藤広明氏に聞く

ツアーステーションの加藤広明代表
ツアーステーションの
加藤広明代表

着地の客が発地につながる、情報共有で着地の活性化へ

 愛知県にある旅行会社ツアーステーション(加藤広明代表)は、「犬山おもてなし隊」として犬山城や城下町など犬山の魅力を紹介し、経済産業省の「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に選ばれ大臣から表彰を受けた。「着地型旅行」という言葉が先行し、採算や販売・集客の問題などでなかなか定着していかないなか、同社の加藤代表に、着地型旅行への積極的な取り組みや、販路・集客などについて聞いた。
【伊集院 悟】

 ――御社の着地型旅行への取り組みを教えてください。

 着地型旅行には2010年から取り組み、11年に「犬山おもてなし隊」を結成しました。

 まず、着地型旅行を考えるときに、観光協会などが行う着地型旅行と旅行会社が行う着地型旅行を分けて考える必要があります。観光協会などの場合は、地域に人を呼ぶことが大きな目的ですが、旅行会社の場合は民間会社のため、採算が取れるということが最低限必要になります。

 着地型旅行は、それだけで考えると採算は取れませんが、当社の場合は着地型旅行でお付き合いしたお客様が発地型旅行につながるという好循環が生まれています。着地型旅行の数千円ではほとんど利益は出ませんが、お客様もそのことを理解しているらしく「それなのにこんなに丁寧に対応してもらえる」と喜びの声をもらうことが多いです。着地型旅行の安い単価の旅行に参加されたお客様から、その後、当社の得意分野である高額のクルーズ商品(発地型旅行)に申し込みいただいたりしています。

 クルーズ客船の「飛鳥Ⅱ」が名古屋港に寄港した際のエクスカーションを受け、犬山を案内していますが、「犬山おもてなし隊」が港まで行きお見送りをしています。ほかのエクスカーションで見送りをしているところはなく、「エクスカーションでこんなにもてなされたのは初めて」とお客様が船上で感動され、ほかのエクスカーション参加者にも口コミが広がり、クルーズ会社から感謝の電話をもらい、次もまた依頼を受けました。エクスカーション参加のお客様や口コミで広がった方たちからも、今度は発地型の旅行に申し込みいただいています。

名鉄犬山ホテルで犬山の文化・伝統を案内
名鉄犬山ホテルで犬山の文化・伝統を案内

 また、地元の名鉄犬山ホテルと連携し、夕食後の手持ち無沙汰な宿泊客に、ユネスコ世界遺産登録を控えた犬山祭の魅力紹介やからくり人形の披露など、無料で犬山の文化や伝統を案内しています。

 私たちには「犬山もてなし隊」を知ってもらえる機会になり、ホテルには時間を持て余すお客様へのおもてなしになり、「犬山おもてなし隊」、宿泊客、ホテルの三方にとってプラスになっています。その場で着地型旅行の申し込みをいただくこともあり、そういったお客様はその後のリピート率が高いです。

 当社では必ずお礼の手紙を出しています。着地型旅行では、ツアーの終わり方がとても大切で、単価の安い旅行商品であっても、お客様と密な関係を築き人間関係を強固に築いておくことで、その後、当社の得意なクルーズ企画(発地型旅行)へつなげることができます。

 また、直接地域住民から学び体験する城下町再発見の着地型旅行では、地元を丁寧に案内することにより、地元の方からお礼の意味も込めて「旅行はツアーステーションに頼もう」と発地型旅行の申し込みをいただくことも多いです。

 旅行会社の場合、着地型旅行を発地型旅行と分けて考えがちですが、2つをトータルで捉えるのが大切だと思います。着地型旅行で知り合ったお客様を利益の出やすい発地型旅行へつなげるべきです。

 観光協会や宿泊施設なども第3種旅行業を取り着地型旅行に取り組み始めていますが、この発地と着地をトータルで捉え実践できるのは、着地と発地両方を行っている「旅行会社」ならではの強みだと思います。

 ――着地型旅行の販路や集客についてはどう考えていますか。

 当社は㈱全旅主催の地旅博覧会の第3回地旅大賞で優秀賞をいただきましたが、過去の受賞社の半分以上が現在、着地型旅行をやっていないのが現状です。それは販路がなく、集客が困難だからです。このままでは、本当に着地型旅行が名ばかりになり、誰も取り組まなくなってしまうと、大変危惧しています。

 ㈱全旅では「地旅」のホームページを作っていますが、残念ながら当社も含め、着地型旅行を扱う会員に聞いても、㈱全旅HPからの申し込みはほとんどないというのが現状です。

 せっかくあれほどのコンテンツがそろっているのにもったいないです。まずは、㈱全旅HPに着地型旅行商品を掲載する会員に、現状どの程度のアクセスがあり、成約に至っているのかアンケートを取って、どういうHP運営がより良いのか検討してはどうかと思います。着地型旅行は今はまだ小さな市場ですが、WebやSNSをもっと活用すれば、必ずや化ける市場だと思います。

 ――今年2月には、着地型旅行の企画造成に取り組む旅行会社有志の「着地型旅行活性化会議」を開いたそうですね。

 旅行業界にはさまざまな団体がありますが、事例報告や課題などを横断的に議論している組織がないのが現状です。そこで、「着地型旅行活性化会議」を「国内観光活性化フォーラムin和歌山」に合わせて前日に開催。約20人が集まり、着地型旅行の課題や解決策を議論し、成功事例などを情報共有しました。

 当社はたまたま着地型旅行と発地型旅行が好循環を生んでいますが、その成功事例を秘密にする気はありません。同じ㈱全旅の会員で着地型旅行に取り組んでいる人、またこれから取り組みたいと考えている人には、積極的に情報を公開して、皆で共有していきたいと思っています。

 12月12、13日には、観光庁の「観光地ビジネス創出の総合支援」の支援を受けた「観光ビジネス創出 交流会 in知多半島――着地型旅行活性化をめざして」が愛知県半田市で開かれます。後援には、観光庁以外にも、日本旅行業協会(JATA)や全国旅行業協会(ANTA)なども。着地型旅行の成功事例報告と、分科会では「地域に適した着地型旅行商品の販売方法」について議論します。私も参加しますので、皆さんと情報共有していきたいと思います。

 ――ありがとうございました。

交通網が整備 ― 「つながる」「外れる」ときの対応は?

 2027年にリニア中央新幹線東京―名古屋間が約40分、45年には東京―大阪間が約67分で結ばれる計画という。首都圏と中部圏、関西圏が約1時間でつながり、世界に類を見ない巨大な経済圏の誕生を目指している。国際間で激化する都市競争を見据えた場合に、リニアは大きな武器になるだろう。しかし、交通網が整備され便利になる度に「都市間の激しい生き残りトーナメントの様相」のようだと思う。たとえ1回戦で隣町に勝っても、2回戦、3回戦と勝ち組同士が結びつく生き残り戦のどこかの段階で敗退していく。敗れたときどうするかがあまり考えられていない。

 日本各地に高速道路が整備されるなかで、各県庁所在地クラスの都市間の移動は便利になった。一方で、古くからの街道が寂れ、小規模で知名度の高くない市町村は素通りされるようになった。勝ち組になったはずの地方中核都市もその後、札幌、仙台、名古屋、新潟、金沢、京都、大阪、神戸、広島、福岡など各ブロックの大都市に若者が吸い取られ、人口減少や地域経済の停滞という流れができている。今後、北陸新幹線金沢延伸や北海道新幹線の開業によって、観光業界では新たな人の流れが生まれることが期待されているが、より大規模な勝ち組の都市に一方的に吸収されていくストロー現象が起こらないことを願うばかりだ。

 来るべきリニア時代には、首都圏、中部圏、関西圏の3つの大都市エリアに人や文化、資本が集中することが予想されるし、最終的には東京一極集中化がさらに加速しそうである。唯一、日本の勝ち組である東京ですら、世界的な都市間競争や、ネットワークの中心から外れる危機感を抱いているのも皮肉である。もちろん、国際的な大都市同士の競争には洗練度を上げ、勝たなければならない。しかし、高度な交通網から外れ、早々と敗退してしまったエリアはどのようにまちを維持し、発展していけばいいのか。勝ち残ることばかりを考えてきたので、一度交通ネットワークから外れてしまうと、一瞬思考停止状態になる。しかし、これら地域が今後取り組むべき最重要課題は、二次交通の整備だ。

 旅行には交通費の占める割合が大きい。LCCの参入により、空の旅は価格帯の選択肢が広がった。陸の旅では高速バスがその役割を果たしている。では、レンタカーを含め、個人のクルマ旅はどうだろうか。交通費が節約できれば、旅先で美味しいものを食べ、土産物を買う余裕も生まれ、地方にお金が落ちる。旅行回数も宿泊数も思うように伸びていないのは、交通費が高いことも大きな原因の一つと考えて間違いない。なかでも高速道路がつながることは地域の人たちにとって利便性が高まるが、果たして大都市圏から地方へ人の移動が行われているだろうか。さまざまな高速道路を走ってきたが、「もしかしたらこの世からすべての人や車が消えてしまったのかもしれない」と不安になるほど通行量が少ない高速道路もある。道路は走るために作られる。都市部から訪れないのなら、あまり意味がない。むしろ地方から都市部への移動に使われ、過疎化が進む結果になるのなら、地域活性化とは逆行する。

 地方創生は双方向の人的交流が不可欠である。衆議院が解散する。地方活性化へ高速道路の低料金化は論点にはならないだろうか。

(編集長・増田 剛)