観光・旅行の視点を、高速バスフォーラムに150人

成定竜一代表
成定竜一代表

 高速バスマーケティング研究所(成定竜一代表)は2月12日、東京都内で「高速バスマネジメントフォーラム」を開き、全国のバス事業者約150人が参加した。成定代表は、高速バス事業の伸び代は観光需要を中心に、大都市居住者や訪日外国人旅行者を地域に送客することだと主張。今後、「観光・旅行」の視点を持つことがより重要になると強調した。

 成定代表は「今後10年で移動に観光をトッピングした個人旅行商品が充実してくるだろう」と予測。一方、「高速バスが取り込んでいくべき観光の個人マーケットは、旅行業が存続をかけて取り組んでいるもの」とし、大手旅行会社やオンライントラベルエージェンシー(OTA)など、流通側とどう連携をするか、それぞれが考えていく必要があると語った。

 今回のフォーラムは、こうした観点から、バス業界と協業が期待できる事業者や先駆的な取り組みをしている事業者を講師陣に迎え、今後の可能性を模索した。

上山康博氏
上山康博氏

 情報通信技術(ICT)を利用し、旅行需要や交流人口の拡大事業を展開している百戦錬磨社長の上山康博氏は、バス業界の課題として他の運輸業界や宿泊業界と比較し、インターネット販売で最も遅れをとっていると指摘。「好き嫌いではなく、使わなくては生きていけない。どううまく使うかが重要な時代」と述べた。技術革新やサービス展開の変化が激しい特徴も示し、「我われの会社は3カ月に満たないうちに事業戦略を変えている。変化を躊躇した時点で負け。今後はますます加速するので、変化を先取りすることが大切だ」と語った。

 一方、インターネットは代理行為、仲介行為をなくすもので、将来的に残るのは「人とハード」と言及。「長期的にみると、バス事業者の皆さんが持っているような人とハードが大きな財産になるだろう」と予測した。

 また、Web上で旅の企画を紹介し、ユーザー同士で旅を作っていく「シェアトリップサービス」を展開するtrippiece(トリッピース)執行役員マーケティングマネージャーの吉田祐輔氏と全国でプレミアム・アウトレットを運営する三菱地所・サイモンの小竹賢氏が登壇。自社の事業紹介や今後のバス事業者との連携への期待を述べた。さらに、個人旅行を取り込んだ事例を関越交通の佐藤俊也社長が紹介した。

“1位は日本への評価”、世界都市1位で記念シンポ(京都市)

門川大作市長
門川大作市長

 京都府京都市(門川大作市長)は、米国の旅行雑誌「TRAVEL+LEISURE」の読者投票ランキング「ワールドベストシティ2014」で世界1位になったことを記念し、1月31日、東京都内で記念シンポジウムを開いた。このなかで、門川市長は1位になったことについて「世界の日本への評価だと受け止めている」と語った。

 基調講演を行った門川市長は、日本のインバウンド政策における京都の重要性、責務を認識したうえで、京都のキャッチコピー「そうだ京都へ行こう」を「そうだ日本へ行こう」に変えていきたいと意気込んだ。優れた文化の集積や都市としての多面性、高いおもてなし力などを武器に世界トップクラスの観光都市となる潜在力を有していることを示し、「日本に京都があってよかった」から「世界に京都があってよかった」と思ってもらうことを目指しているとした。そのため、2014年度から20年までの中長期計画「京都観光振興計画2020」を定め、25施策191の取り組みを推進している。

 一方、「おもてなしの最前線に立つ現場の人の非正規率が75%の現状では本物のおもてなしは難しい」と課題に言及。「観光産業が労働生産性の高い産業にならなければ、我が国が抱える人口減少などの問題に歯止めがかからないのではないか」と危惧した。

パネルディスカッションのようす
パネルディスカッションのようす

 門川市長も登壇したパネルディスカッション「訪日外国人旅行者2千万人時代の日本のおもてなし」は、首都大学東京教授で観光庁参与の本保芳明氏がコーディネーターを務め、パネリストに星野リゾート代表の星野佳路氏と婦人画報編集長の出口由美氏を迎えた。

 本保氏は一昨年来、「おもてなし」の言葉が先行するなか、「世界のサービスとどこが違うのか、本当に日本のサービスレベルは高いのか。自己満足ではないかと疑問を持って立ち向かっている」と問題提起した。これを受け、門川市長は「京都は市民ぐるみでおもてなしをする」とし、例として20年までに、小中学生が華道と茶道、着物などの文化を英語で説明できるようにする取り組みなどを説明した。また、「おもてなしは“表裏なし”。お客様も従業員も大切にすること」と語った。

 他方、「伝統を守りながら、現代に合うように見えないところを変えることもある。分からない人には分からなくてもいい」や「ルールに従ってもらうことも必要で『一見さんお断り』もおもてなし」と京都流のもてなしも紹介した。

 星野氏は「おもてなしの定義は分かっていない」と前置きしたうえで、宿泊事業者の立場から持論を展開。自身の経験から、海外で日本のもてなしの優れた点を「親切」「気遣い」と挙げると「それなら外資系ホテルの方が上だ」と世界の論争に負けるため「日本のおもてなしはニーズに応えるマーケティングを捨てること」という結論を出したという。

 千利休が朝顔を眺めながらの茶会に豊臣秀吉を誘い、わざと朝顔を全部刈って一輪のみ茶室に活けて迎えたという逸話「朝顔の茶会」を原点とし、「伝えたいメッセージを持つことがおもてなし。例えば我われの宿にはテレビは置かない。それを嫌がる人もいるが、好きな人に訴えていくしか日本のおもてなしが世界で通用する道はない」と言及。世界のホテルマーケティングは行きつくところまでいき、あらゆるニーズに応えられるシステムを構築したためにどのホテルも特色がなく均質化するなか、「日本の旅館、ホテルは自分たちのこだわりを持ち、勇気を持って伝えていかなければならない。マーケティングを捨てることは外資には真似できない」と述べた。

40年連続総合トップ10、加賀屋を特別表彰(日本のホテル・旅館100選)

小田真弓女将(左)に表彰状
小田真弓女将(左)に表彰状

 「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」を主催する旅行新聞新社(石井貞德社長)は2月23日、今年1月に発表された第40回「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」において、40年連続総合トップ10入選の偉業を成し遂げた加賀屋(小田與之彦社長、石川県和倉温泉)を訪れ、特別表彰を行った。

 加賀屋の社員らが見守るなか、石井社長が小田真弓女将に表彰状を手渡した。小田女将は「今回の受賞は、先代の厳しい教えを守り、それを次世代につなげてきてくれた現場のスタッフたちが受け取ったようなもの。これまで支えてくれた方々に本当に感謝したい。今後も謙虚な気持ちを忘れず、母の教えをもとに、変えるべきものは変え、変えてはいけないものは守り続けながら、皆と一緒にがんばっていきたい」と受賞の喜びと今後の決意を語った。

 1976年の第1回から、40年連続で総合トップ10入選を果たしたのは、加賀屋と日本の宿古窯(山形県かみのやま温泉)の2館のみ。

 石井社長は「社員一人ひとりが、先代から引き継がれてきた“加賀屋イズム”を、しっかりと実践してきた結果が今につながっている。今後はインバウンドもさらに増えると思うが、スタッフ全員が良い意味で自信とプライドを持ち、世界から評価される宿へと発展させていってほしい」と祝辞を述べた。

外国人雇用で売上増、訪日外国人の行動分析を(HRソリューションズ)

会場には多くの経営者が集まった
会場には多くの経営者が集まった

 人材関連サービス開発や面接官のトレーニングなど採用支援事業を展開するHRソリューションズ(武井繋社長)は2月17日、セミナー「多言語対応、元年。訪日外国人で売り上げを2倍にする方法」を開き、訪日外国人の行動分析や外国人を雇用してインバウンドの売上実績を伸ばした事例などを発表した。

HRソリューションズ武井社長
HRソリューションズ武井社長

 講師に多言語対応のウェブ制作を得意とするシトラスジャパンから渡辺紀章執行役員、楽天のショップ・オブ・ザ・イヤー2014(SOY)で海外販売大賞を受賞した総合土産店「スカイショップ小笠原」を経営する山ト小笠原商店の小笠原航社長、HRソリューションズの武井社長が登壇した。

 第1部では渡辺氏が日本人と訪日外国人の考え方と行動について紹介。「日本人は海外旅行で工場見学に行くことはあまりないが外国人は日本のテクノロジーに関心が高く、自動車工場見学などに行く」「桜は海外に意外と多く、外国人が日本の桜を見るのは昼間から大人が酔っぱらっている牧歌的な雰囲気を楽しみ、自分も混ざりたいから」「むしろ花よりも、真っ赤に染まる紅葉が珍しく人気」など事例を挙げ、訪日外国人の本当に求めるものを間違えないように、まずは相手を知ることの必要性を説いた。

 また、国の違いで観光対象や購買商品が違うことも強調した。長い歴史がない国の観光客は歴史や景観に興味を持つ傾向にあるが、長い歴史を持ち、母国との違いを感じない国の観光客にとっては歴史や景観が観光対象にはならないという事例を挙げ、訪日外国人をひとくくりに「外国人ターゲット」とまとめることの危険性を強調した。

 第2部では小笠原氏がインバウンド消費をとらえて成長した成功事例を発表。同氏が事業を展開する北海道では免税店が急増しており「札幌でも旭川でもこぞって外国人観光客に向かっており、免税の許可を取る事業者が増えた」と語った。また、「東京で北海道の商品を販売した際も、有名店の生チョコをまとめ買いする人の大半は日本語が通じない」と述べた。昨年の免税制度の変更以降、訪日客の購入者が一段と増えたという。

 新千歳空港の国際線に構える店舗では和雑貨を中心に販売しており、最も購入されているのは南部鉄器。50万円の鉄瓶が訪日観光客に売れることもあるほどの人気だが、「外国人スタッフが鉄器の歴史や価値を細かく説明できるから購入者も安心して購入していく」と外国人を採用するメリットを語った。「はじめは外国人スタッフ採用で文化による考え方の違いなど不安もあったが、コミュニケーションをとってみると文化が原因の齟齬は感じなかった」と述べた。

 第3部は武井社長が、増加する訪日外国人客の対応に向け、外国人スタッフ活用の可能性を語った。

 外国人の採用については「ホスピタリティやコミュニケーション能力など『絶対に必要なスキル』と後天的に身に着く語学力や実務経験など『あれば良いスキル』を整理することで求める資質がみえてくる」と分析。そのうえで「コミュニケーションがとれるか、人材が定着するかなどの相談が多いが、1億2千万人いる日本人ですら性格は千差万別。何億人と人口を抱える外国に至ってはさらにいろいろなタイプの人がいる」と述べ、日本におけるサービス、おもてなしの適正がわかる性格診断テストの自社開発などの取り組みを紹介した。

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事業創造部プロデューサー 井上 隆二氏に聞く

 訪日外国人の集客に注目した経緯やHRソリューションズの取り組み施策について、同社事業創造部プロデューサーの井上隆二氏に聞いた。
【丁田 徹也】

 ――これまで開催してきた人材支援関連のセミナーではなく、訪日外国人旅行客の集客をテーマに据えたのはなぜでしょうか。

 現在、訪日観光客の受け入れを希望する企業や外国人従業員を検討している採用担当者が増えており、また採用方法やコミュニケーションについての相談が増えていることから、訪日外国人観光客に関連するセミナーを開いた。

 ――外国人従業員向けにおもてなし力を測るシステムを開発しているようですが、詳細を教えてください。

 クイズゲーム形式で、出題内容から自分に一番合う選択肢を回答するSPI試験のような適性検査を開発中だ。通常の適性検査と違い、接客・サービスシーンに特化した質問を用意している。

 ――具体的におもてなしをどのように測るのでしょうか。

 おもてなしには「これをやれば間違いない」という判断基準は存在しないので、直接おもてなしを測ることは難しい。そこでおもてなしが試される接客・サービス関連問題で性格を診断する。「柔軟さ」「フレンドリー」など複数の尺度で診断し、適性を段階別に分けることで、おもてなし力が測れると考えている。

「春蘭の宿 さかえや」優勝、経営者・従業員評価高く(第2回旅館甲子園)

長野県・渋温泉の「さかえや」が優勝
長野県・渋温泉の「さかえや」が優勝

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)の加盟施設がエントリーする第2回旅館甲子園(大会会長=山口敦史全旅連青年部長)の決勝戦が2月18日、東京・有明の東京ビッグサイトで開かれた。多くの来場者が見守るなか、北関東甲信越ブロックの「春蘭の宿 さかえや」(長野県・渋温泉)が優勝に輝いた。

 山口敦史会長は開会あいさつで「登壇する素晴らしい旅館経営者や光り輝くスタッフの夢を共有し、業界全体のモチベーションアップにつなげたい。来場した皆さんには仲間の取り組みやおもてなしを持ち帰ってほしい」と述べた。

 決勝戦まで勝ち残り、ファイナリストに選ばれたのは「青根温泉 山景の宿 流辿」(宮城県)、「やすらぎに舞う 夢の館 土佐御苑」(高知県)、「伊香保温泉 ホテル松本楼」(群馬県)、「峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか」(徳島県)、「渋温泉 春蘭の宿 さかえや」(長野県)――の5館。

 決勝戦は前回と同様、全国から選び抜かれた5施設の旅館経営者とスタッフがプレゼンテーション形式で経営者のビジョンやスタッフ教育、地域への貢献などを発表。決勝審査員10人による審査と来場者による投票で優勝施設を決めた。

 審査委員長の佐藤信幸全旅連会長は「一人ひとりの力の弱さを皆が協力してひとつになり、お客様のために乗り越えてきた。我われは旅館を発展させるために、お客様のことは当然ながら、従業員についても考えていかなければならない」と総括した。

No.395 石川県・加賀市座談会、北陸新幹線金沢開業に向けて

石川県・加賀市座談会
北陸新幹線金沢開業に向けて

 3月14日の北陸新幹線金沢開業を目前に控え、石川県加賀市は観光客拡大に向け、「加賀ていねい」をキーワードにさまざまな取り組みをスタートさせた。首都圏へのトップセールスを積極的に展開する宮元陸市長をはじめ、山代温泉観光協会の萬谷正幸会長、山中温泉観光協会の上口昌徳会長、片山津温泉観光協会の鹿野祐司会長の4氏が出席して座談会を開き、加賀市への誘客の課題と今後の取り組みを熱く語り合った。

【司会進行=旅行新聞新社社長・石井 貞德、構成=増田 剛】

 
 
 

「加賀ていねい」首都圏に発信

 ――まもなく北陸新幹線金沢開業を迎えますが、加賀市の取り組みを教えてください。

 ■宮元:昨年、加賀市は1年かけて観光戦略プランを策定し、観光入込客数の具体的な目標数値も掲げました。観光戦略プランに基づいて首都圏ではすでに宣伝活動を始めていますが、現状の加賀市の観光入込客数約178万人から3年以内に20%の増客、つまり36万人増の214万人をできるだけ早期に達成し、観光消費額も現状の383億円から77億円増の460億円に向けて、さまざまな政策を今年に入って実行に移しています。

 市内の山代、山中、片山津の3温泉の入込客を地域別にみると、地元・北陸3県が最も多く33%。次いで関西圏が28%、中京圏が16%となっていますが、首都圏は大きな市場でありながら、1割にも満たない7%と非常にもの足りない状況となっています。

 加賀温泉郷はこれまで主に関西の奥座敷という位置付けで、関西圏のお客様によって栄えてきたこともあり、首都圏での認知度はあまり高くないと言われてきました。しかし、北陸新幹線が3月14日に金沢まで伸びて来ることになり、首都圏における認知度向上は必要不可欠になっています。このようななかで、どのように加賀市の素晴らしさを知っていただくかが今後の大きな課題でもあります。そこで北陸新幹線金沢開業を契機に、首都圏でのプロモーションを強化し、2014年の首都圏からの観光客数13万人を、15年は30万人まで拡大する目標を掲げています。…

 

※ 詳細は本紙1578号または3月5日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

訪日外国人旅行者が急増 ― 受け入れる宿の方針を考える時期

 訪日外国人観光客の勢いが止まらない。昨年、1341万人と史上最高値を記録したかと思えば、日本政府観光局が発表した15年1月の推計値は、前年同月比29・1%増の121万8400人。しかも、昨年は中華系の旧正月の休暇が1月下旬からだったのに対し、今年は2月中旬から下旬であるにも関わらず、約3割増とは驚異的な数値だ。韓国は同40・1%増、中国は同45・4%増と、両国が牽引している。

 とりわけ、中国人観光客の“爆買い”が注目を浴び、百貨店などの売上も好調という。14年の日経MJヒット商品番付で「インバウンド消費」が東の横綱にランクされるなど、経済界全体が訪日外国人観光客の消費動向に目を光らせている。

 訪日外国人客を迎え入れる旅館・ホテルにも少なからず影響が出ているようだ。多くのエリアで外国人宿泊客が飛躍的に伸びているという話を耳にする。そして、最近、新たな流れとなって脚光を浴びているのが、海外の富裕層をターゲットとした1泊2食5万円以上の高級旅館や客室だ。

 外国人団体客が一挙に旅館に押し寄せる格安ツアーは、「忙しいばかりで利益はあまり出ない」が、富裕層の個人客の場合、旅館にとっては歓迎すべき客なのだろう。しかし、一方で「外国人観光客で満館になり、日本人がまったく入らない宿になってしまう」ことへの戸惑いを感じているご主人もいる。

 外国人観光客は、世界情勢や社会的な影響を大きく受けやすい。東日本大震災や原発事故のあと、訪日外国人観光客数は大きく減少した。また、近隣諸国と政治的な問題が発生した場合にも、人的交流に冷や水を浴びせ合う傾向が強まる。さらに、紛争、テロ、パンデミック、為替変動にも敏感に反応する。

 これに似た構図として、遠方から旅行者が宿泊する旅館が、災害や風評被害によって旅行者が訪れなくなったとき、「頼りになるのが地元の客だ」という話だ。

 急増する訪日外国人客と、最大市場である日本人の国内旅行の客との受け入れの重点をどのように配分いくか、宿の方針を考える時期でもある。

 前号で、東京・谷中の澤の屋旅館がまとめた「訪日外国人宿泊客調査」を取り上げた。同館のホームページにも掲載されているので、今後訪日外国人の宿泊客を受け入れようとする宿や、自治体、旅行会社の関係者にも参考になる部分がたくさんあるはずだ。館主の澤功さんは「外国人旅行者を受け入れようとされる宿など、少しでも多くの方にこの調査が参考になればうれしい」と話す。

 澤の屋旅館には、多くの外国人が宿泊する。これだけなら他にも同じような旅館やホテルはあるだろう。しかし、東日本大震災の後、多くの旅館が、外国人観光客が減少して苦しむなか、澤の屋旅館では世界中のリピーターが戻ってきて、驚くような早さで、震災前の稼働率に近づいていった。

 観光産業として世界中の外国人観光客に目を向け、迎え入れる姿勢は素晴らしい。しかし、外国人旅行者を一人の人間として深く付き合っていく覚悟があるだろうか。単に「インバウンド流行り」だからといって、何も考えず安易に流れに棹を差し移ろっていくのなら、旅館はかつて来た道を繰り返すかもしれない。

(編集長・増田 剛)

旅行業が輝く未来へ、“観光大国向け安定経営を ”(JATA・経営セミナー)

田川博己会長
田川博己会長

 日本旅行業協会(JATA)は2月18日、東京都内で「旅行業が輝く未来へ―これからの旅行業経営を考える―」をメインテーマに「経営フォーラム2015」を開き、会員108社・276人が参加した。田川博己会長は「観光大国への発展には旅行産業の安定した経営が必要不可欠。今回は、原点に返ったプログラムとした」と述べた。

 田川会長は昨年、訪日外国人観光客が1341万人を記録したことに触れ「海外旅行2千万人、訪日2千万人の双方向交流4千万人時代へのカウントダウンが始まった」と語った。一方、海外旅行者数は減少傾向で、イスラム国の動きなどさまざまな世界情勢もあるなか、「リスクを十分理解したうえでのツアー催行をすると同時に、旅行会社のネットワークを駆使し、正確な情報を発信して風評被害の拡大を防ぐことも旅行会社の使命ではないか」と述べた。

 全体プログラムの基調講演は、経済同友会代表幹事で武田薬品工業代表取締役会長兼CEOの長谷川閑史氏が「持続的経済成長に向けた日本の課題」をテーマに、日本再生に必要な取り組みなどを語った。

長谷川閑史氏
長谷川閑史氏

 長谷川氏は「日本は課題先進国ともいわれ、国の岐路に立っている。ここ数年の対応が将来を左右するギリギリのターニングポイント」と指摘。日本再生に必要な取り組みは「何といっても経済成長」と述べた。経済成長に必要なことは労働力の増加と資本の投下、生産性の向上を列挙。資本の投下については「海外からの投資、対内直接投資がGDPに占める割合が指標になるが、日本は4%と極めて低い。先進国の平均は30%」と増加の余地を示した。

 また、環境変化がますます加速するなか、企業にも国にも強力なリーダーシップが必要と言及。「この時代に何もしないことは最大の罪。リーダーたるもの現実を冷静に見つめ、不都合な真実から目を逸らさず将来を予測すること。組織が生き残り繁栄するため、今できる改革を、いかに痛みをともなおうとも実行する覚悟と勇気が必要だ」と強調した。

 基調講演後は5つのテーマでセミナーを開いたほか、宇宙飛行士・山崎直子氏による特別講演を行った。

もう一度、北陸へ

 北陸新幹線が金沢まで開業する。メディアの露出も著しい。その影響か、友人は開業前の金沢へ旅行しているようすをSNSでアップしていた。

 この仕事をするまで、あまり北陸という土地を意識することはなかった。若かったこともあるが、正直、旅行先の選択肢には入らなかった。しかし、考えてみると、仕事も含めて3県にはすべて行ったことがあると気付いた。

 個人的に福井、石川に出掛けたのは22歳のとき。家族旅行だった。当時、私は人生の岐路に立っていた。築き上げてきたものがすべて壊れ、今後どう生きていいかさえよく分からなかった。それを見かねた両親が妹も誘って、車で連れていってくれたのだ。

 皮肉にも、当時と同じような心境の今、新幹線が開業する。地元の高崎からも直結する。もう一度、家族で北陸特有のゆったりとした時間と空間に癒されに出掛けたい。

【飯塚 小牧】

事業者名など明示を、サイト表示について討議(第2回OTAガイドライン委)

 観光庁は2月23日、海外のオンライン旅行会社(OTA)に提示していくためのガイドラインについて検討を行うOTAガイドライン策定検討委員会の第2回を東京都内で開いた。インターネットサイト上での事業者表示の明確化をはじめとしたオンライン取引上で必要とされる表示方法について、専門家や国内OTA事業者などで形成する策定委員が討議した。

 まず、消費者が予約サイトを見てから完了するまでのステップを時系列で分け、(1)トップ画面(2)予約画面(3)予約確認画面(4)予約完了の確認メール――のそれぞれの画面で必要と思われる表示を話し合った。海外OTAは日本の旅行業法が適応されないため、(1)トップ画面の段階で事業者名を明示し、所在を明らかにする必用性を指摘する意見や言語の対応や連絡先の明示が必要であるという意見が挙がった。(2)予約画面では、準拠法の関係から旅行契約先がどこにあるのか明示することを要求した。

 観光庁観光産業課の石原大課長は「ガイドラインに権限があるわけではないが、日本法人のある海外OTAとも話し合い、協力を要請していく」と述べた。今後はガイドラインを受け入れる海外OTAを観光庁ホームページに掲示し、消費者の目安にするなどの取り組みも検討するとした。

 今後はガイドラインの周知についての話し合いも進める。次回で最終回となり、3月下旬を予定。その後は協議の結果をまとめ、最終的なガイドラインを発表する。