顧客からの信頼を、モバイルへの対応強化

牛場春夫氏
牛場春夫氏

牛場春夫氏「オンライン化対策」語る

 エース損害保険とエアプラスは3月14日、東京都内で旅行会社を対象に、「旅行市場のオンライン化対策セミナー」を開いた。そのなかで、フォーカスライトジャパン代表の牛場春夫氏が講演を行い、米国の旅行市場動向から日本市場の将来を予測した。牛場氏は米国市場から日本市場への示唆として、高くなるオンライン販売比率に向け、顧客からの信頼を得ることや、モバイルへの対応強化をあげた。
【飯塚 小牧】

 牛場氏は急増している米国のモバイル市場について「モバイルは検索とアクセスだけで商品購入にはつながらないといわれていたが、スマートフォンの普及が進み、倍々ゲームで増えている。フォーカスライトは2015年にはオンライン旅行販売の4分の1以上はモバイルになると予測している」とした。その動きに呼応して、米国では10年にホテルの間際予約に特化したモバイル専用旅行会社(モバイルトラベルエージェンシー・MTA)の「HotelTonight」が誕生。「調査によると、ホテルは当日予約が全体の30%あることから、まさにモバイルに相応しい」と語った。

 オンライン旅行会社(OTA)は米国では伸び代がなくなってきているため、海外での販売に注力。加えて、検索エンジンを買収することで、ツールとしての価値を上げるのが最新の状況だという。「資力のあるプライスラインがこうした戦術を取り、慌てたエクスペディアが追随している」。

 一方、既存の旅行会社をみると、店舗数は01年から13年の間に60%減と激減。「ただ、この数字に惑わされてはいけない」と述べ、店舗の減少に反し、同期間の国内外航空券の販売額合計は伸びていることを示した。「店舗の統合や買収などもあるが、大きな動きは在宅の旅行会社が増えていることだ。究極的にコスト構造を変えるため、リアルな店舗を廃止して在宅に変えている。また、雇用者を減らし、自分だけで仕事をするようになった。13年の資料によると既存旅行会社のうち、3分の1を在宅が占めている。なぜ独立して在宅でできるかというと、しっかり自分の顧客を持っているから。顧客からの信頼で商売ができているのがミソ」と強調した。

 注目すべき動きとしては、拡大する「共有型経済」だ。例えば、宿泊は個人が所有する不動産を貸し借りするインターネット上のプラットフォーム「Airbnb」が登場し、今や世界最大の施設件数になっている。「ホテルはさまざまな法を順守しているのに、網の目を潜って商売しているところもあり、訴訟問題にも発展している。今後、共有型経済は旅行業界にも影響を与えるだろう」と注意を促した。

 また、ソーシャルではグーグルが特定ジャンル別に絞り込んで表示する「バーティカル検索」を開始しており、とくに旅行分野に注力しているが、同様の動きをフェイスブックなどが始めており、米国の旅行会社は注視しているという。

 これらの動きを示したうえで、牛場氏は今後、旅行会社は旅行に関わる(1)インスピレーション(旅への誘い)(2)調査(情報収集)と旅行計画(3)予約手配(4)着地旅行ビジネス(5)レビューのシェア――の5つの全サイクルで商売をする必要があると提言。「予約手配はすべて機械化されると思うので、川上にのぼることが必要だ。旅行をしたいと思っても、半数の消費者は行き先が決まっていないので、そこへアプローチをすべき。また、現地でのオプショナルツアーやイベント参加など着地での旅行は大半が72時間前に予約をしているという結果が出ており、間際志向の典型例だ。これにはモバイル対応が必要で、ここまで手を出していかなければならない」と述べた。

外客2千万人新時代へ、VJ大使が課題検討

廣江真氏
廣江真氏

 国土交通省関東運輸局は4月25日、「VISITJAPAN大使シンポジウム」を、日光東照宮客殿(栃木県日光市)で開いた。ビジットジャパン(VJ)大使とは、外国人旅行者の訪日促進に向けて優れた取り組みを行っている民間人を、観光庁が任命しているもので、現在58人が任命されている。当日はインバウンド2千万人新時代を念頭に、14人のVJ大使が現状の課題や打開策を話し合った。

 基調講演は、日本コンベンションサービス・MICE都市研究所所長の廣江真氏が「次世代型のインバウンド」をテーマに行った。廣江氏は、観光と現在の製造業の姿を重ね、「かつて日本が得意とした高機能・高デザイン・高価格型は欧米へシフトし、日本製品は安価な方向へ流れている」と指摘。統合化や各所との連携を行いながら「まずは顧客となるターゲットを研究し、商品開発力を高めていくことが重要」と見解を述べた。

 パネルディスカッションでは、4人のVJ大使が登壇。大使の1人、秋葉原観光推進協会理事の泉登美雄氏は、電気街のイメージが強かった秋葉原を観光でまとめ、地域のブランド力向上に努めてきた。前職はメーカー勤務で、営業として全国を回った経験から「外から秋葉原を見る目」を養ったと語る。「中からは見えにくいオンリーワン、ナンバーワンになれる部分がわかった。地域や異業種と連携して取り組むことで、新たな展開も見えてくる」。

 また、交通機関の乗り放題チケットの海外展開に取り組んできた、元スルッとKANSAI副社長で大阪市交通局の横江友則氏は「移動手段と観光情報は密接に結びついている」としたうえで、「観光資源側から発信する情報と観光客のニーズに、ミスマッチが生じていることもある。今後はSNSで観光客から発信された観光情報を得て、別の観光客が追体験をしに来るという構図をより活かしていきたい」と構想を述べた。

 昨年、1年間の訪日外国人旅行者数は1千万人を突破し、観光庁は年間2千万人を次なる目標として掲げる。2020年東京五輪の開催決定も追い風に、関東圏はさらなる外客増加に期待がかかるが、「他エリアに比べ広域観光の意識が希薄」という課題も残る。

 又野己知関東運輸局長は「オリンピック時に東京だけが訪日客の受け皿になるのではなく、広域観光の連合体の制度設計をはかりながら、関東圏として受け入れ体制を整えていかなくてはならない」と言及する。

活動で得た知見をVJ大使が披露した
活動で得た知見をVJ大使が披露した

野口観光が開業50周年、野口秀夫社長に聞く

野口 秀夫社長
野口 秀夫社長

 野口観光(野口秀夫社長)は今春、開業50周年を迎えた。北海道・登別温泉から出発し、多店舗・多客層化へ展開した経緯や、先代の故・秀次氏からの学び、次の50年に向けての抱負を野口社長に聞いた。
(聞き手=本紙社長・石井 貞德、構成=鈴木 克範)

 
 
14年サイクルで転機

 1964年、北海道の登別温泉に43室の「登別プリンスホテル」を開業、今春50年の節目を迎えた。振り返ると、79年の「洞爺プリンスホテル」開業は多店舗展開の礎となった。92年には、最初の建物(登別プリンスホテル)を取り壊し、「石水亭」を新築。06年には高級宿「望楼」ブランドを新設した。

 14年ごとに転機を迎え、対応してきた。次は東京オリンピックが開かれる2020年。次世代が商売しやすいように、組織や考え方の整備が急務と考えている。

先代との仕事は幸運

 父であり先代・社長の秀次は、仕事において難しい言葉は1つもなかった。易しい表現だが、常に本質をついていた。いつも時代や環境に順応し、最後まで脱皮し続けた。

 99年にバトンを受け、社長に就いた。先代は代表権のある会長に。以後は経営の現場から一歩離れ、報告を聞く程度。「情報は提供するが、決めるのはお前の役目」と見守ってくれた。

 頭の柔らかい人だった。商売も好きだった。人間力もあった。あの経営者の下で仕事ができて幸運だった。

多店舗・多客層化推進

 さまざまな影響にも耐えうる企業体質を築くため、「多店舗化」(16施設)に続き、「多客層化」に力を入れている。これまでの主力だった値ごろ感のある宿に加え、高品質・高満足の「望楼」ブランド。さらにその中間、「乃の風リゾート」に代表されるアッパーミドルの展開だ。1地域に、複数施設で進出しているところはリーズナブルな2館から、1施設をアッパーミドルに改修するなど、差別化をはかりたい。今秋、着手する「湯元名水亭」のリニューアル(来春開業予定)もその一環だ。

人を育てて次の50年を

 働く環境や評価について正当な仕組みをつくることで、優れた人材が集まるようになった。ここ数年は、研修など人材育成に注力している。続けることで、宿泊業界の社会的認知の向上にもつながると思う。これからは宿泊単価と人員の掛け算ではなく、品質を上げ、価格に満足いただけるよう努力する。

 コストパフォーマンスと経営。生き残りには双方が必要だ。50周年を機に、社是や経営理念の見直しもはかる。経営ができるグループをつくり、バトンをつなぎたい。

3年後に20万人送客を、4月に関東営業所開設

安吉  亮社長
安吉 亮社長

トップワールド、協力会総会

 ツーリストトップワールド(安吉亮社長、愛知県名古屋市)は5月8日、名古屋市の名鉄ニューグランドホテルで第3回協力会総会を開き、安吉社長は会員施設に向け、3年後には倍増となる20万人の送客を目指すと宣言した。

 総会では同社の担当者がシリーズ企画や謝恩企画について紹介し、会員施設との協力関係を確認した。

 その後行われた懇親会のあいさつで安吉社長は「消費税アップや、(制度変更により)観光バスの料金も上がっていくなかで、需要減少の流れを作らないよう、団体旅行の送客数を増やしていきたい」と今年度の方針を説明。さらに「現在、協力会の会員施設に年間約11万人を送客しているが、3年後には2倍の20万人送客を目標に据え、頑張っていく」と力強く語った。同社は4月に関東営業所を開設し、今年社員が9人入社しており、「5年度、10年後を見据え、質の高い人材の育成、確保にも取り組んでいきたい」と述べた。

 協力会会員を代表して、源泉湯の宿紫翠亭女将の上山典子氏は「お客様と、会員施設、ツーリストトップワールドの社員の笑顔がエンドレスに続くようにお互いが歩み寄りながら進んでいきたい」と語った。

「旅宿セレクション」提供開始、旅チャンネルが宿泊施設を紹介

 「旅チャンネル」を放送しているターナージャパンは4月18日から、公式WEBサイトで全国各地の宿泊施設を動画とともに紹介する「旅宿セレクション」(www.tabichan.jp/tabiyado)のサービスを提供している。

 PCやスマートフォン、タブレット端末に対応し、それぞれに適した表示で閲覧ができ、旅の情報収集から宿泊予約まで可能。また、旅への関心が高い「旅チャンネル」視聴者に対して旅の情報提供の拡充を目的としており、宿泊予約が成立した場合の手数料設定を行わず、今後、掲載宿泊施設数の増加を目指す。

 問い合わせ=電話:0570(03)6611。

3社のコラボ企画、プラレールカー7月登場(JR西日本)

プラレールカーのイメージ
プラレールカーのイメージ

 JR西日本は7月から、山陽新幹線の一部500系こだま号に、子供に人気の鉄道玩具「プラレール」の大型ジオラマなどを備えた特別車両「プラレールカー」を導入する。

 同社とプラレールを販売するタカラトミー、パナソニックの3社によるコラボレーション企画。来年3月まで、博多―新大阪間を毎日1往復する(除外日あり)。

 500系こだま号1編成の1号車を改造。車内には、パナソニックの乾電池「エボルタ」を使用したプラレールが走る1・8メートル×1・8メートルの大型ジオラマや、新幹線の運転体験が楽しめる子供向けの運転台などを設置。洗車機などをモチーフにしたクッション材の玩具などで自由に遊べるプレイゾーンでは、プラレールや絵本の無料貸し出しも行う。子供向けに制服のレンタルもあり、プラレールのキャラクター「てっちゃん」などを背景に記念撮影も楽しめる。

 専任のアテンダントも配し、ここでしか入手できないオリジナルプラレールやキャラクターステッカーなどの配布も予定する。車両側面には、プラレールをデザインしたラッピングを施すほか、隣の2号車には、多目的室や大型荷物置き場も用意する。

 対象列車は、博多駅を午前6時33分発のこだま730号(新大阪駅に同11時14分着)と、新大阪駅を午前11時30分発のこだま741号(博多駅に午後4時3分着)。自由席扱いとなり、特別な乗車切符や予約は必要ない。

ABCラジオにて「ピンクリボンのお宿ネットワーク」がご紹介されました

ピンクリボンのお宿ネットワーク『メディア掲載情報』を更新いたしました。

2014年5月3日放送 ABCラジオ
柴田博のほたるまる旅行社』にピンクリボンのお宿ネットワークをご紹介いただきました。

その他メディア掲載情報はコチラから!
(弊社の『ピンクリボンのお宿ネットワーク』ページへリンクしています)

 
☆ピンクリボンのお宿ネットワークとは☆
 乳ガンを患い、手術を受けて回復の道を歩みながらも、術後を気にして旅をあきらめてしまうという女性の方たちに、心ゆくまで旅館・ホテルでの入浴などを楽しんでいただきたいという目的で設立された団体です。

訪日促進効果が期待できる、10件の事業化を決定(観光庁)

14年度官民連携VJ事業

 観光庁はこのほど、14年度のビジット・ジャパン「官民連携事業」について、公募事業アイデア181件のうち、10件の具体的な事業化を決めた。

 観光庁では訪日外国人旅行者数2千万人の高みを目指すため、自治体や経済界、在外公館や海外進出企業などとの連携を強化し、オールジャパン体制でインバウンド(外国人観光客誘致)施策を推進している。今回初めて「官民連携事業」の事業アイデアを民間企業から広く公募したところ、合計118件のアイデアが集まった。そのうち、より海外ネットワークやブランド力・ノウハウなどを活用し訪日促進効果を期待できる10件の事業アイデアを14年度ビジット・ジャパン「官民連携事業」として事業化することを決めた。

 事業化が決定したアイデアは次の通り。

・多業種の日系企業が連携し、各企業のブランド力を結集して集中的に行う訪日旅行促進イベント・キャンペーン

・多言語の世界的な旅行サイトと連携し、各国向けWebページ上に、各国で人気のあるコンテンツを制作して魅力を発信。さらに、旅行サイトのユーザーデータ活用によりマーケティング分析を実施

・多数の国において放映されている国際的なチャンネルを活用するとともに、世界的に有名な日本食の料理人と連携し、無形文化遺産「和食」を中心に映像を活用して日本の魅力を発信

・訪日外国人向け免税制度改正を契機に、多業種の日系企業の海外ネットワークを活用した免税PRと、キャンペーンなどによるショッピングツーリズムの促進

・各国で広く利用される旅行商品予約サイトと、海外アニメファンなど向けのサイトが連携し、オタクカルチャーの魅力発信から訪日旅行商品購入までを一元化することによる訪日促進

・海外の放送局とネットワークを有する企業と連携し、中東など潜在的な需要が見込める市場での日本旅行番組制作と、映像やWeb活用による日本の魅力発信

・イスラム圏へ向けた、日本のハラル対応施設(ホテル・レストラン・観光地など)の紹介番組制作と当該映像の自由な使用を認める多面的な情報発信

・海外の大手トラベルガイドと連携し、多言語で日本の魅力を多数国に発信

・国内のユニークベニューで、外国人向けに開く伝統文化などのクールジャパンイベントを、日系企業の海外ネットワークを活用して海外へ情報発信

・14年FIFAワールドカップブラジル大会で、世界中から集まるサッカーファンとブラジル人向けに日本の魅力を発信

No.370 蛍雪の宿 尚文 - 「尺度のない接客」に努める宿

蛍雪の宿 尚文
「尺度のない接客」に努める宿

〈「21世紀の宿を考える」シリーズ(4)〉 蛍雪の宿 尚文

 旅館経営者へのインタビューシリーズ「21世紀の宿を考える」の第4弾は、群馬県・水上温泉の「蛍雪の宿 尚文」代表取締役の阿部尚樹氏が登場。宿の裏の畑でスタッフが育てた新鮮野菜や地元のお米などを提供する地産地消にこだわる。また、料理人で猟師の次男坊・達也氏が山で獲ってきた鹿肉や猪肉、熊肉などジビエ料理を振る舞う。「付かず離れず」の尺度のない接客に努め、居心地の良さを追求する宿でもある。現在、新たなコンセプトの宿を計画している阿部社長に話を聞いた。

【増田 剛】

地元の新鮮食材にこだわる

≪スタッフが裏の畑で野菜を育て、猟師兼料理人がジビエを提供≫

 1972年に定年を迎えた祖父が、うちの近くのスキー場「奥利根スキーパーク」が開業したのを機に民宿業を始めたのです。宿名の「尚文」は祖父の名前です。周辺も一斉にスキー民宿を始め、現在は12―13軒まで減りましたが、最盛期には30軒ほどスキー民宿がありました。

 その当時は、4部屋に分けられる40畳ほどの大広間と、2部屋の計6部屋だったと思いますが、畑仕事の傍ら、冬にはスキー客を受け入れるスタイルでした。

 その後祖父が亡くなり、さまざまな家庭的な事情も重なって、22歳だった私が突然宿の経営を一身に背負わざるを得なくなりました。子供のころから宿の手伝いをしていましたが、料理を本格的に習ったわけでもなく、1人で宿を取り仕切るのは本当に大変でした。

 冬はスキー合宿、春休みや夏休みにはバレーボールなどの合宿、お盆の時期には実業団などが来ていました。

 

※ 詳細は本紙1543号または5月8日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

旅客船事故 ― 安全性は長い歴史の中で一歩ずつ

 韓国で痛ましい旅客船事故が発生してしまった。

 離れ小島のひっそりとした宿を探し求める旅をしている私は近年、大小の旅客船に乗る機会が増えていたこともあり、事故の衝撃は大きかった。

 生まれた場所が港町だったので、「さんふらわあ号」をはじめ、「ペガサス号」など大型フェリーを間近に見ながら育った。学校のスケッチ大会では皆で港に行って、配られた画用紙いっぱいに「さんふらわあ号」を描いた記憶がある。大きな船が大好きだったし、誇りに感じた。夜、フェリーが出港するとき、船の汽笛が潮風に乗って聞こえたのは懐かしい。

 大人になってからも船好きは変わらず、あちこちの船に乗りまくっている。昨夏には、博多港から釜山港まで高速船で旅行をしたばかりでもあった。

 だが、振り返ってみると、これまでさまざまな船に乗ってきたが、救命胴衣が船のどこに格納されているのか確認したことはなかった。

 この春に離れ小島の宿に向かう送迎船に乗った。これは韓国の旅客船事故の直前のことだった。100人も乗れないような小さな送迎ボートであったが、下船するときに、ふと目に止まった貼り紙があった。

 正確な文言は覚えていないが、そこには「当船はお客様の生命を守りますので、非常時の際には必ず船長の指示に従ってください」と、決意表明のような力強い文字に出会った。私はこの文字に感動したのだ。おそらく会社の上層部が考案し、船に貼り紙をしたのだろう。しかし、何と自分たちの社員である船長を信頼した文面であろうか。

 今の時代、さまざまな訴訟が増えたこともあり、世の中のあらゆる文面はどこか逃げ道を作った物言いが多く、奥歯に物が挟まった表現が溢れるなか、「お客様の生命を守る」と言い切る潔さと、その貼り紙の文字の堂々たる大きさに私の足が止まったのだった。

 それから1カ月も経たずに、隣国で大惨事が起こってしまった。韓国ではフェリー事故を受け、修学旅行の全面禁止などの動きもある。また、船を利用した旅行のキャンセルも多く出ているようだ。

 日本では近年、クルーズ旅行に注目が集まっており、フェリーを利用した旅も見直されてきている。今回の事故を他国の出来事とは捉えずに、運航会社、そして私のような乗客も安全性に対して謙虚に再確認しなければならない。そうでなければ、修学旅行生をはじめ、多くの貴重な命が失われた犠牲者は報われない。そして、長い歴史のなかで、多くの犠牲のうえに一歩一歩、安全性が向上してきたことも忘れてはならない。

 一方、時を同じくして、日本のLCC(ロー・コスト・キャリア)で機長が集まらず、運航計画を大幅に見直さざるを得ないというニュースが流れた。

 前号でも働く者の「誇り」について記したが、社員に誇りを与えられない会社、それも人命を預かる会社に、私は目に見えぬ恐ろしさを感じてしまう。韓国の旅客船事故の船長が契約社員だったという報道もある。

 ちょうど2年前に、関越自動車道高速バス事故が発生し、安全な運行に向けて制度が変わった。今年もゴールデンウイークに突入するが、もう一度、乗客の安全性について再確認してほしい。

(編集長・増田 剛)