国際化する国内観光地に変化 ― 日本のおもてなし文化が通用するか

 今年の9月のカレンダーを見ると、いつもの年と少し違う。19―23日は6年ぶりの5連休となり、シルバーウイークが真ん中に鎮座する。旅行業界も夏休みが終わったあとに、もう一つの大きな需要の山ができ、さまざまな旅行動向調査を見ても、好調な予約状況が発表されている。楽天トラベルがまとめたシルバーウイーク期間中の旅行動向では、海外旅行は東南アジアのリゾートが人気を集めているという。5連休という日程を考慮すると妙に納得する。

 一方、「この5日間を国内旅行で」と考えると、海外旅行と比較して金額的に、あるいは魅力度で競争力を保持できるだろうかと少し心配にもなる。現状では、日帰り旅行や、1泊2日が主流の国内旅行だが、シルバーウイーク期間中は高速道路の大渋滞が予想されるし、人気観光地はどこも混雑し、大型連休によって逆に旅行意欲が減退してしまう人も多くいるだろう。

 日本の休暇制度について、またの機会に述べたいと思うが、日本の観光地が海外の都市やリゾートと比較しても、遜色ないほど魅力的であってほしいと思う。そうでなければ、一見、インバウンド旅行客でにぎやかに映っている観光産業だが、やはり日本人自らが国内観光地に魅力を感じなければ、国内の観光産業は衰退してしまう。

 さて、インバウンド旅行客が増えて、日本の大都市圏や有名観光地も少しずつ変化が表れているようだ。国際化によって当然プラス面が大きいが、残念ながら悪い面も出てきてしまう。

 例えば、海外旅行先で買い物をしてクレジットカードで精算する際に、金額を1ケタ多く書かれたり、使用されていない紙幣や硬貨をお釣りで渡されたりすることがよくあると聞く。以前は「どうして海外から訪れてくれた“お客様”である旅行者を騙すようなことが平気でできるのだろう。日本人なら海外から来てくれた外国人旅行者を大切にして、騙すようなことはしないだろう」と思っていた。

 しかし、この1、2年で日本にも外国人観光客が急増し、これまであまり外国人観光客が来なかった店などにも足を踏み入れるようになった。“異邦人”の来客の想定をしていなかった裏通りの食堂などでは、日本人の店員が外国人の旅行者に店のシステムを説明しても言葉が通じないため、繁忙時間帯などでは、露骨に嫌な顔をするようなシーンにも幾つか出会った。

 日本は今後、観光地の国際化をさらに進めていかなくてはならないが、一方で、外国人旅行客が増えると、日本独自の奥ゆかしい“おもてなし”は、文化の違いもあって外国人にはまったく通じず、どうしてもサービスの現場が荒れてくる。世界のどこにでもある国際的な観光地のように、表面的にはきれいに飾った店で、その実、“ボッタクリ”のような店も現れてきて、もう二度と来ないだろうと思われる言葉の通じない外国人観光客へのサービスが荒れ、さらにあってはならないことだが、「どうせ日本の料理の味もわからないだろう」と、古くから通っていた日本人のお客には出さない、“最良でないもの”を出すことを許す心が芽生えないとも限らない。日本人は、「一期一会」という言葉を古くから大切にしてきたが、国際化するなかで、これまで日本人同士で交わされていたおもてなし文化がどの程度世界に通用するかが試される。

(編集長・増田 剛)

東北送客の取り組み強化、火山活動にも言及、久保長官

 観光庁の久保成人長官は8月19日の会見で、8月2日に宮城県で開かれた「東北観光復興加速化会議」の関連する事項と東北の今後の取り組みについて語り、実際に東北に送客する具体的な事業を強化する姿勢を示した。また、国内で引き続き火山活動の警戒が続く地域周辺についても言及した。

 久保長官は「加速化会議では、今年6月に認定した広域観光周遊ルートの東北ルート『日本の奥の院・東北探訪ルート』を実際に具現化するということが議論になったので、具体的に人を動かす仕組みや将来的に人が動いていくような取り組みを進めていく。東北観光客数の数字を少なくとも震災前の水準に戻したい」と述べた。

 その一例として、震災ボランティアで東北に訪れたことのある人に再訪を促す「送客1千名プロジェクト」や、震災の遺構や復興のようすを見て学ぶ「大人の教育旅行in東北」の第2弾の実施を挙げた。

 また、外国人を含め、東北の魅力が未だに十分に知れ渡っていないことに対し、岩手県・宮城県・福島県の東北3県沿岸の情報発信強化策として、風景・観光施設・地酒・祭りなど地域を代表するものを「東北三県見るもの・食べもの・買いもの100選」として選定する。久保長官は「とくに海外に対しては日本政府観光局(JNTO)から強力に発信する」と語った。

 100選は自治体や観光協会、メーカーなどから公募し、一般投票を行ったうえで選考委員の審査を経て決定する。分野別に100ずつ選定するのではなく、各部門をすべて合わせて東北の代表を100決めるというかたちを想定している。

火山活動地域について

 火山活動周辺地域の観光状況については、「箱根に行ったときに改めて認識されていないと感じたのは火山警戒レベルについてだ」とし、「警戒レベルが2から3に上がると、想定される火山活動が活発化するわけではない。周辺に居住地域や施設がなければ、大きな火山活動が想定されても警戒レベルは上がらない。大涌谷(神奈川県箱根町)は近くに観光関係施設があるので警戒レベルが上がったが、想定域から1キロ外は気象庁自身が特別な警戒を要しないと公式に見解しているし、観光関係施設や交通機関などは通常通り稼働している」と述べ、正確な情報の収集を呼びかけた。訪日観光客への影響に関しては「インバウンドの影響は出ていないと地元の声を聞く。外国人観光客は正確な情報のもとに動いていているようだ」と述べた。

 桜島(鹿児島県鹿児島市)に関しても「状況が変わったばかりだが、我われは正確な情報発信を続け、問題ない地域についてはしっかりと問題ないと発信する」と語った。

国宝・松江城を城攻め

 天守が国宝に指定されたばかりの松江城(島根県松江市)で11月14日、約1千人の参加者が甲冑姿になり、再現された戦国の門を突き破ったり、スポンジ製の矢をよけながら石垣を登ったり、敵味方別れてのチャンバラ戦を楽しむという、“リアル城攻め”イベントが行われる。「実際に城を攻める」という体験を通して、城の随所に見られる先人の知恵や工夫を楽しみながら学べるというもの。当日は城下町や堀川遊覧船も巻き込みイベントを盛り上げる。

 同市とアニメ制作会社「ディー・エル・イー」(東京都)がタッグを組んだ、新しいまちおこしの提案だ。見たり聞いたりしてわかったつもりになっていても、実体験して初めて気付くことは多く、こうした新しい体験型イベントは面白い。

【土橋 孝秀】

海外イベントなども、活用事例を紹介 、経産省の補助金

今年の鳥取ブース
今年の鳥取ブース

 経済産業省が14年度補正予算で約60億円を投じた補助金事業「J‐LOP+」(事務局=映像産業振興機構・VIPO)――。これまで補助金の仕組みについて2回にわたり説明してきた。最終回の3回目は、補助金を活用して海外展開した事業者を紹介する。

 自治体・団体活用事例

 フランスのパリで開かれるジャパンエキスポ(今年は7月2―5日開催)は来場者20万人規模を誇る日本文化の祭典。同イベントに出展した鳥取県観光交流局まんが王国官房(まんが王国とっとり)は、鳥取県に関連するマンガ・アニメコンテンツを活用した観光PRで補助金を獲得。フランスでも人気のクールジャパンをフックに観光情報発信や物産品販売を行った。14年出展時(前事業の「J‐LOP」助成金を活用)の経費は約800万円で、約半分が助成金の対象となった。(補助対象項目については第2回を参照)

今年の京都ブース
今年の京都ブース

 同じく補助金を活用し、ジャパンエキスポに出展した京都文化交流コンベンションビューローは、京都が舞台となった映画やマンガ・アニメを紹介。そのほか、背景が京都の風景になる写真合成システムを会場に導入し、着物を着用して京都を疑似的に楽しめる体験型ブースを出展した。14年出展時(「J‐LOP」)は、助成対象コンテンツとなった映画「舞妓はレディ」から主演女優と舞妓を派遣し、ブースで舞を披露した。

 旅行会社活用事例

 JTBチャイナグループの上海佳途国際旅行社有限公司は、同社を含む日系会社主催のオールジャパンイベント「ジャパンブランド」を開いている。今年3月に大連で開催した同イベントには「J‐LOP」を活用し、日本のアイドルやアニメキャラクターを招致。アイドルステージでは1千人を動員し、アニメキャラクターは子供を中心に大きな反響を得た。

 海外TVCM出稿事例

 「日本の情報を流す海外テレビ番組」にCM出稿する際にも補助金を活用できる。西武ホールディングスは、アジア16カ国・地域に日本の情報を発信する「Channel JAPAN」に英語・現地語化対応した自社CMを出稿。四季の魅力と同グループの宿泊・観光施設や交通機関を組み合わせたCMを放送し、日本への関心や好感度アップをはかっている。日本を紹介する番組へのCM出稿は日本のコンテンツ発信の一助となることから、補助対象となる。 

西武ホールディングスCM一部
西武ホールディングスCM一部

 補助金申請期限(推奨)は16年1月31日だが、補助金総額約60億円がなくなり次第終了。8月15日時点での申請状況は、申請595件に対し採択462件。交付決定金額は37億5487万3千円。

51%増の191万8千人、1―7月は1105万人に(7月の訪日外客数)

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 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)がこのほど発表した7月の訪日外客推計値によると、7月の訪日外客総数は前年同月比51・0%増の191万8400人となり、年間を通じた単月としての過去最高を記録した。1―7月までの累計では、早くも1千万人を突破し、1105万8300人となった。

 7月の市場別では、中国が全市場を通じ単月として過去最高を更新。台湾、香港、インドネシアが単月として過去最高、中国、台湾、香港、インドネシア、ロシアを除く15市場がいずれも2ケタ増で7月として過去最高を更新した。

 7月の重点市場の動向をみると、韓国は同37・1%増の34万3800人と7月の数値として過去最高を記録。一部減便などの措置が取られていた航空路線も、順次通常運航に戻り、MERSの影響はほぼ払しょくされたとみられる。

 中国は同105・1%増の57万6900人と全市場を通じて初となる単月50万人台を記録。さらに1―7月の累計は275万5500人で2014年の総計240万9158人をも上回った。

 台湾は、同29・5%増の36万1700人で、単月として過去最高を記録した。5月に高雄と台北で開かれた旅行博で販促活動を行い、7月中旬発までの訪日商品の売り上げが好調だったことが要因。香港は、同74・0%増の15万8700人と単月過去最高を更新。ピーク時にあわせた多数の航空路線の増便や、旅行博「ITE」に出展した際、四国の観光の魅力やウェディングツーリズムのPRに努めたことも需要増加に貢献した。

 そのほか、東南アジア諸国の好調な伸びが継続し、タイは同21・0%増、シンガポールは同31・8%増、ベトナムは同40・3%増、インドは同14・7%増など。ベトナムは7月として過去最高を記録。SNSによる情報発信や旅行会社との共同広告など、訪日プロモーションの相乗効果が需要を大きく押し上げた。

 なお、出国日本人数は同6・7%減の132万人となった。

シルバーウイーク動向、海外は東南アジアが人気(楽天トラベル調べ)

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 楽天トラベルはこのほど、シルバーウイーク期間中における「人気急上昇エリアランキング」を発表した。2015年のシルバーウイーク旅行動向は、国内旅行が前年同期比200・8%増、海外旅行が同99・3%増となり国内外ともに高い伸び率を示した。国内は半年以上前の予約が同373・2%増と飛躍的に伸び、早期予約が好調。海外は燃油サーチャージの値下がりや円安に加え、比較的物価が安いことから東南アジアリゾートへの旅行が増えた。

 国内の旅行先ランキング1位は前年同期比615・8%増で和歌山県が1位となった。同県は高野山が今年で開創1200年。また来年の大河ドラマ「真田丸」の舞台になるなど、今後もさらなる旅行需要の高まりが予想されている。2位は「井伊直弼公生誕200年祭」などで盛り上がる滋賀県、3位には来年伊勢志摩サミット開催により観光需要が高まった三重県がランクインした。

 海外は前年同期比738・7%増でマレーシアが1位。9月に全日本空輸(ANA)の成田―クアラルンプール線が就航することで直行便が増加し、日本人観光客が訪れやすくなることから人気が上昇した。2位は反政府デモが終息し、日本人観光客の復調が顕著になったタイがランクイン。さらに、同272・0%増と高い伸びを示したインドネシアは3位となった。

出願者数が過去最高、15年度の通訳案内士試験

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)はこのほど、2015年度通訳案内士試験の出願状況をまとめ、出願者数は前年度比51・4%増の1万2168人になったことを発表。1949年から実施している同試験で過去最高の出願者数となった。

 今回の出願者数増加の要因は、急増する訪日外国人客への対応を念頭に資格取得を目指す人が増えたことや、20年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、通訳案内士としての活躍を見込む人が増えたことなどがあげられる。また、14年度から導入された、TOEICの高得点取得者への筆記試験の英語科目免除制度が、広く定着したことも今回の増加につながった。

 今後の予定は、11月19日に筆記試験合格発表、12月13日に口述(第2次)試験を行い、翌年2月10日に合格発表を行う。

強い宿づくりを学ぶ、ゆのくに天祥事例に(リョケン旅館大学セミナー)

全国の旅館経営者ら約110人が出席
全国の旅館経営者ら約110人が出席

 リョケン(佐野洋一社長)は7月13、14日の2日間、石川県山代温泉のゆのくに天祥(新滝英樹社長)で旅館大学セミナーを開いた。今回が通算155回目。全国の旅館経営者ら約110人が参加した。

 リョケンの佐野社長は「今回のテーマは強い旅館づくりの方法。ゆのくに天祥さんは全156室だが、毎年のように改装に取り組み、お客を楽しませる要素を随所にちりばめている。客室タイプが26種類あるのも大きなポイントだ。強い宿は、どうありたいかという強い思いを持ち、それを実現していくための地道な努力を怠らない。今回は、アイデアやネタを持ち帰るのはもちろんだが、経営とはどうあるべきかをもう一度考える機会にしてほしい」とあいさつした。

 セミナーでは、新滝社長が「強い旅館づくり―その戦略と経営の舵取りとは」と題して、同じく新滝顕人常務が「個人客から団体客まで取り組む営業戦略」について、それぞれ講演を行った。

 新滝社長は、品質重視への経営転換を行った背景について「マーケットが供給過剰になり、お客様に選択される個性や特徴が重要となるなか、今のハードを生かしながら、どうサービスをマッチさせるかを考えた結果、グループやファミリーに特化していくことにした。何より『消耗戦的経営』から脱却することが最大のテーマだった」と振り返った。

 また、「企業経営における唯一絶対はなく、継続的な見直しが必要」として「生産性や効率性は大切だが、エラーの除去ばかりに目を向けていては駄目。そこに、まったく新しいものをつくる創造性(エラーの注入)も取り入れていかないと、どんどんと陳腐化していってしまう」と述べた。

 新滝常務は、北陸新幹線が開業した今年の状況について、「関東圏のお客様の割合が昨年の7%から19%にまで増えている」と報告。そのうえで「今後は関東のお客のニーズを見据えながら、甘エビやブリ、カニなど、北陸のさまざまな海の幸を使った料理チョイスプランなども検証し、単価アップをはかっていきたい」とした。

 さらに、誘客で心掛けている基本方針として、(1)お客様満足度を高め総合力で誘客(2)品質重視への転換(3)総合満足度をベースとした団体セールス(4)集客と売上のバランス――の4つを挙げた。

 2日目は、コストダウンをはかりながら収益性を維持し、10年連続黒字経営を続ける金太郎温泉(富山県魚津市)など、パターンの異なる3つの宿についての事例も紹介された。

2施設の支援を開始、経営の安定化などはかる(アゴーラ・ホスピタリティーズ)

浪漫の宿 井筒楼
浪漫の宿 井筒楼

 アゴーラ・ホスピタリティーズ(浅生亜也社長)はこのほど、新たに2つの宿泊施設の運営支援を開始。これによりアゴーラ・ホテルアライアンスは、国内12施設882室となった。支援を受けるのは、愛知県渥美半島の「和味の宿 角上楼」と「浪漫の宿 井筒楼」。同社は2施設に業務支援サービスを導入し、キャッシュフローの改善による経営の安定化などをはかっていく。

 同社は、加盟施設が必要とする業務サービスを個別に選び、利用することができる「カフェテリア方式」でサービスを提供。各分野のプロフェッショナルたちが、施設現場のさまざまな課題の解決を支援する。今回2施設が導入する同社のサービスは、商品企画や造成業務の「オペレーション企画」、広報代行業務の「広報サービス」、販促ツール、広告宣伝ツールのデザイン、製作業務の「クリエイティブ」、自社サイト構築、インターネット販売管理業務の「E―コマース」、セールスイベントの計画、エージェントセールス代行業務の「エージェントセールス」の5つ。

和味の宿 角上楼
和味の宿 角上楼

スヌーピーミュージアム、16年3月、六本木に誕生

スヌーピーミュージアム(イメージパース)
スヌーピーミュージアム(イメージパース)

 シュルツ美術館(米カリフォルニア州サンタローザ)と「PEANUTS」(以下ピーナッツ)の日本国内エージェントのソニー・クリエイティブプロダクツ(東京都千代田区)は、2016年3月に「スヌーピーミュージアム」を東京・六本木に開館する。

 スヌーピーファンの聖地と言われるシュルツ美術館の世界初のサテライト(分館)となる本ミュージアムでは、スヌーピーたちが活躍するコミック「ピーナッツ」の原画をはじめ、作者チャールズ・M・シュルツ氏の初期の作品、貴重なヴィンテージグッズや資料などを6カ月ごとに入れ替えて紹介する。

 敷地内にはモニュメントや楽しい仕掛けを配し、ハロウィンやクリスマスなど季節に応じた多彩なイベントを開催。ミュージアムショップでは限定品やオリジナルグッズを販売するほか、カフェでは「ピーナッツ」にちなんだスペシャルメニューを提供する。

 なお、本ミュージアムは期間限定で16年3月―18年9月までの開館を予定している。入場券の販売方法や展示内容の詳細については、 15年12月に発表する予定という。