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「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(153)」UNWTO賞と産業観光の意義(全国産業観光推進協議会)

2017年10月22日
編集部

2017年10月22日(日) 配信

世界初のアーチ型鋳鉄橋「アイアンブリッジ」(世界遺産)

 近代社会は、別名、工業化社会とも呼ばれてきた。従来のモノづくりが飛躍的に大型化・高速化され、先進工業国を中心に世界中に工業製品が溢れた。

 翻って、観光の語源は国の「光」を観ることといわれる(「易経」)。それぞれの国・地域の誇り・威光が観光の対象になるという意味である。だとすれば、工業(産業)は近代社会の「光」(観光対象)ということになる。実際、世界で最も早く産業革命を迎えたイギリスでは、高炉による鉄とガラスなどの先端素材が観光の対象となった。すでに18世紀初頭1706年には、コークスを用いた世界初の近代高炉が完成したが、その鉄でつくった鋳鉄製アーチ橋・アイアンブリッジは、ユネスコ世界遺産のシンボルともなった。

 イギリスが1851年に開催したロンドン万博では、鉄とガラスのパビリオン「クリスタル・パレス」という先端工業の粋を集めた建物が、世界中に喧伝された。その約150年後、愛知県名古屋市で開催された「愛・地球博」(2005年)は、日本における産業観光発展の大きな引き金となった。世界中の人々が集まる愛知県には、名古屋城など一部の資源以外に見るべき観光資源がないと言われてきた。しかし、自動車工業をはじめ、我が国の工業生産をリードしてきたこの地域には、実に多様な工場と世界的水準の産業ミュージアムが多数存在していた。愛・地球博開催の準備と並行して、1990年代以降、これらの資源をテーマ別にネットワーク化することで、中部地域の産業観光がスタートした。以来、食品、飲料など身近な消費財工場やミュージアムなどには、大勢の観光客が大型バスで訪れるようになった。

 こうしたなかで、工場・工房の中には、単に工場を見せるというより、ご覧いただくための工場として投資し収益を得る「ファクトリー・バーク」なども新たな形態も出現した。また、フランスなど欧州諸国が先行したように、我が国でも、先端産業の貿易振興やビジネス客の来訪など海外客の受入体制が整備されつつある。いわゆるMICE戦略である。オリンピックを直前に控えた現在、多くの企業が海外マーケット戦略の一環として産業観光に注目している。さらには、シルクやコットンのように一旦は衰退した地場産業を産業観光によって再生しようという新たな動きも現れている。

全国産業観光推進協議会
須田寛副会長(写真中央)

 こうした活動が評価され、今年の世界観光機構(UNWTO)部門賞に、全国の産業観光のプラットフォームともいうべき「全国産業観光推進協議会」が選ばれた。

 産業観光は観光の一形態ではあるが、我が国の先端技術や産業資源を海外にアピールし、新たな産業を創出し、世界のビジネス客を引き付ける広い役割と意義を持っている。「産業が観光になる」時代、産業観光は、次の新たな観光戦略の一つとしてさらに注目されよう。

(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)

 

 

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