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民泊の規制を緩和する前に、広島修道大学商学部・富川久美子教授(観光学博士)

2015年11月21日
編集部

 民泊の法的問題が議論されるなか、規制を緩和する自治体が現れた。この背景には、登録件数が全国で1万1千件とされ、法的にはグレーゾーンにあるとされる「Airbnb」の広がりがある。折しも国内の宿泊事情は、供給不足にあり、オリンピックを控えてさらなる需要増加も見込まれる。さらに、増加する空き家の利活用や地方創生など、民泊の推進要素が多くあり、現状ではその是非が充分に議論されないまま規制緩和が進行する恐れがある。今後の日本の方向性を問うなかで示唆を与えるのが民泊利用の旅行が急増した欧米の先進事例である。

 民泊を利用しながらの旅行は「カウチサーフィン」と言われ、2004年にインターネット上に公開されたグローバル・コミュニティ「Couchsurfing」が元になっている。その後、急成長したのが08年に設立された「Airbnb」である。登録物件数は、15年4月1日現在、パリに約4 万件(前年比58%増)、ロンドンに約2万5千件(同65%増)、ローマに約1万5千件(同70%増)と、その規模と成長ぶりは日本とは比較にならない。

 欧米では民泊利用が広がったことで、さまざまな苦情や事件、訴訟が増え、また民泊は日本と同様、多くの自治体で法的にもグレーゾーンにあるとされていた。しかし近年、「Airbnb」を想定した自宅やアパートの賃貸の対策に取り組む国や地域が増えた。ヨーロッパでは規制を強化し、新たな税制や罰金制度を導入する傾向があり、アメリカでは規制緩和を進め、より多くの税収をはかる傾向にある。このような違いは、国や地域の事情によっても異なり、ヨーロッパでも、負の効果より正の効果を強調するところもある。とくに「Airbnb」の客はホテルより滞在期間が長く、観光地以外の地方にも泊まり、低所得者層のホストには所得の増加につながるためである。

 民泊の規制は、強化するにしても緩和するにしてもさまざまな条件設定が考えられる。地方創生の政策や宿泊施設の保護などを念頭に、それぞれの地域の実情に即した独自の施策に取り組むことが望まれる。

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 富川久美子 立教大学大学院観光学研究科博士後期課程修了。JTBトラベランド興業、ニュージーランド政府観光省、ドイツ・バイロイト大学研究員などを経て、2010年から現職。研究テーマは地域活性化政策と観光、農村・島嶼観光など。著書に「ドイツにおける農村政策と農家民宿」(農林統計協会)。

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