蔵書数約6万冊、旅の図書館がリニューアル(東京・南青山)

志賀典人会長
志賀典人会長

 日本交通公社(志賀典人会長)は10月3日に、東京・南青山の日本交通公社ビル内に「旅の図書館」(久保田美穂子館長)をリニューアルオープンした。旅の図書館は、同財団の長期経営計画「22ビジョン」に基づいて進められてきたもので、今後は同財団の調査研究部門とともに、専門性を高めた新たな機能の発揮に取り組んでいく。なお蔵書規模は、調査研究部門が活動のなかで収集してきた統計や、公開可能な調査研究報告書などを含め、約6万冊。

 「22ビジョン」とは、同財団が実践的な学術研究機関として、観光に貢献していくことを目的に定められたもの。9月15日に行われた、同図書館の内覧会で志賀会長は「今年5月に我われ財団は、文部科学省から学術研究機関の指定を受けることができた。この施設を実践的な学術研究の場として利活用していきたい」と語った。

 同図書館は1978(昭和53)年に「テーマのある旅を応援する図書館」として東京・八重洲にオープンし、昨年10月から移転のために一時的に閉館していた。今回のリニューアルにあたり新たに設定したコンセプトは〝観光の研究や実務に役立つ図書館”。観光分野の専門図書館としてより専門性を高め、観光を研究している人や学んでいる人、観光政策の立案、観光産業や観光地の経営実務に携わる人たちなどに、広く観光関連の情報が収集できる場として活用してもらいたいという想いが込められている。

館内のようす
館内のようす

 また、同図書館の特徴として(1)独自の図書分類の構築と専門性・希少性の高い蔵書の公開(2)知見やネットワークを共有する観光の研究・情報プラットフォーム――の2点が挙げられる。なかでも独自の図書分類では、収蔵資料の特徴や観光分野の専門性に対応するため、観光研究資料(T分類)、財団コレクション資料(F分類)、基礎文献(NDC分類)の3つの分類法を導入した。

 さらに、同施設ビル内に100人規模のシンポジウムが可能な、「ライブラリーホール」を設立。図書のある空間の魅力を活かした取り組みとして、研究会やシンポジウム、2014年から〝図書空間でつなぐ&楽しむ研究交流〟を合言葉に、ゲストスピーカーと参加者が気軽に語り合える場として行われている「たびとしょCafe」など、さまざまなイベントを通して、人々の交流を創出していく。

 同図書館の開館時間は月―金曜日の午前10時30分―午後5時。休館日は、土・日・祝日のほかに、毎月第4水曜日と年末年始となっている。

階段横にも多くの資料を配置
階段横にも多くの資料を配置

千葉を楽しむお得な旅、県と京成グループが協力

酒々井飯沼本家 まがり家
酒々井飯沼本家 まがり家

 京成トラベルサービス(山田耕司社長)はこのほど、モニターツアー「ちばの旅」を発売した。千葉県と協力した取り組みで、千葉県地方創生加速化交付金事業の1つ。全10コースが用意され、千葉県を多くの方に楽しんでもらおうと、カップルやファミリー層、シニア層と幅広いターゲットの取り込みを狙う。乗車賃から施設入場料まで、まるごと含んだお得なコース料金が大きな魅力だ。

【謝 谷楓】

 アンデルセン公園をめぐるコースでは、11月からはじまる紅葉シーズンを目一杯楽しむことができる。

 梨とぶどう狩り、さつまいもと落花生掘りを体験する、千葉県ならではのコースも豊富に用意されている。狩った梨とぶどうは、食べ放題で時間制限もない。指定された時間内であれば、満足するまで果実を頬張ることができる。さつまいもと落花生掘りのコースでは、武家屋敷や旧堀田邸、佐倉順天堂といった話題の日本遺産にも触れられるのが嬉しい。

 「成田山新勝寺と酒蔵めぐり」では、タクシー代込みの料金設定となっているため、シニア層も安心して旅を楽しめる。訪れる鍋店神崎酒造蔵や酒々井(しすい)飯沼本家・まがり家では、酒蔵見学だけでなく、試飲をすることも可能だ。

 ほとんどのコースには、新京成電鉄か北総鉄道の1日乗車券が付くほか、グループごとに沿線ガイドブックが配布されるという。コース料金は、大人1人あたり2千円未満のものが多くを占め、タクシーを利用するコースでも6千円ほど。

 12月25日まで実施予定で、コースによって異なる場合もある。問い合わせ=京成トラベルサービス本社営業所 電話:047(460)8260。

移住促進など情報発信、東京事務所がオープン(北九州市)

北橋健治市長
北橋健治市長

 福岡県北九州市(北橋健治市長)は10月3日、東京事務所(旧シティプロモーション首都圏本部)を千代田区有楽町の東京交通会館6階に移転オープンした。I・Uターンや、移住の促進などの情報発信を強化し、東京から北九州市への新しい人の流れを作ることが目的。交通利便性の高い有楽町に拠点を構え、「北九州市東京事務所」と改称した。

 7日には開所式を行い、北橋市長は「北九州市は国家戦略特区に選ばれ、シニアハローワークやウーマンワークカフェなど日本で初めての試みもスタートしている。少子高齢化で人口減少の課題先進地域ではあるが、このピンチをぜひともチャンスに変えたい」とあいさつ。さらに、「東京の拠点において情報を発信し、また、多くのふるさとを思う方々のために少しでも尽くしたい」と語った。

 来賓の山本幸三地方創生担当大臣は「地方をいかに元気にするかという任務に携わっている。毎週のように全国各地を訪れているが、北九州市には地方創生のモデル都市になってもらいたい」と期待を込めた。

 同事務所には、セミナーなども開催できる「ひまわりテラス」を設置しているほか、U・Iターン就職情報を充実させた。また、移住や就職に関わる専門相談員も配置。近隣16市町村の広域展示コーナーも設け、エリア全体の情報発信に努める。

開所式でテープカット
開所式でテープカット

 開所式では、地元・小倉南区在住のアーティスト、言葉人 詩太(ことばひと・うーた)さんが「ひまわり」をモチーフにした絵を描き、飾られた。その後、テープカットが行われた。

 新事務所の住所・電話番号などは次の通り。

 〒100―0006 東京都千代田区有楽町2―10―1 東京交通会館6階 電話:03(6213)0093、FAX03(6213)0090。

フットパス ― 旅の原点「歩く旅」でまちを知る

 「フットパス」に取り組む地域が増えているという。

 フットパスは森林や田園地帯、古い街並みなど、地域に昔からあるありのままの風景を、楽しみながら歩くこと「foot」ができる小径「path」のこと。発祥地は英国だ。「歩くことで地域ならではの風景が見えてくるし、地元の方との温かな触れ合いこそが、フットパスの楽しみ」なのだという。

 つい先日、福岡県中間市の観光政策を担当する芳賀麻里子係長と、西山千恵子さんが旅行新聞を訪れ、この「フットパス」の取り組みについて熱く語ってくれた。中間市は北九州市の南側に隣接し、人口約4万2千人の小さなまちである。2015年に、「遠賀川水源地ポンプ室」が明治日本の産業革命遺産の構成資産として、ユネスコの世界文化遺産に登録されたが、これによって全国から観光客が大挙して訪れたというわけでもない。いわば、多くの地域がそうであるように、町の名前を言っただけで、何かを連想させる強烈な観光資源があるわけでもない、普通のまちである。

 ただ、そのような小さなまちであったとしても、ちゃんと探せば色々と魅きつけられる話題があるものなのだ。

 例えば、俳優の高倉健さんは、この中間市の出身である。そして、小田宅子(おだ・いえこ)さんの生家跡も、このまちにある。この小田宅子さんは江戸時代の女性だが、53歳の時に仲間の女性とお伊勢参りをし、そのまま善光寺、日光、江戸を巡る約5カ月の旅をした。そして『東路日記』という紀行文も残している。作家・田辺聖子さんの小説『姥ざかり花の旅笠』のモデルにもなっている。

 つまり、現在の「女子旅」の先駆的な存在として、今また脚光を浴びつつあるというのだ。

 さて、この小田宅子さんは、なんと高倉健さんの5代前の祖先にあたるそうだ。中間市にはいくつかフットパスのコースが整備されており、このようなストーリーを耳にすると、一見ありふれた長閑な町並みや、ボタ山のある風景でも、ゆっくりと歩いてみたくなるものである。

 自分たちのまちを知るには、まずは歩かないとわからない。そして、旅の基本は「歩く」ことだ。

 私も旅先では歩き回る。なぜ自分は旅先で足が棒のようになるまで歩くのだろうと考えたことがある。それは、やはりその土地の空気を吸いたいと思うからだ。

 クルマで旅をする時も、少し暑くても、また寒くてもエアコンではなく、窓を開けて運転をする。その土地の木々や植物の匂い、人家からの生活の匂いなどが、ハンドルを握るドライバーズシートにも流れ込み、ときどき胸を切なくさせる。

 旅は五感を鋭敏にさせる。その土地で見た風景や街並みの像はいずれ薄れていく。しかし、何気なく歩いて感じたその土地の空気の匂いは、意外に記憶に残っている。再訪した時に、視覚的なものよりも、むしろその土地の匂いによって、記憶が鮮明に蘇ってくることが多い。

 旅は“快適”の追求が大きな潮流となっている。全行程で不快な思いもせずに、長い旅もできるようになった。快適至上主義的な旅へのアンチテーゼとして、旅の原点である「歩く旅」の意義を、フットパスは小さな町から、静かに、やさしく、未来人にも教えてくれるかもしれない。

(編集長・増田 剛)

No.443 OTOA座談会、旅行業は“運命共同体”

OTOA座談会
旅行業は“運命共同体”

 海外旅行の黎明期から活躍するツアー(ランド)オペレーターの組織、日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA)に、旅行会社との関係やオンライン旅行会社(OTA)の台頭について話を聞いた。サステナビリティが大きな課題となりつつあるなかで、旅行会社からデスティネーションまで、業界全体の繁栄を目指した取り組みが期待されている。海外ホテルの仕入れなど、自ら黒衣に徹してきた自負を持つOTOAは、現状をどう見つめているのか。旅行業界の今を知るヒントが満載の座談会となった。

【司会進行・構成=謝 谷楓】

【参加者】
会長 大畑 貴彦 氏(サイトラベルサービス)
副会長 荒金 孝光 氏(メープルファンエンタープライズ)
副会長 ゲライント ホルト 氏(THE J TEAM)
専務理事 速水 邦勝 氏

 ――OTOAは会員各社と旅行会社の関係改善を訴えてきました。両者の関係について、あるべき姿とはどのようなものでしょうか。

■大畑:ツアーオペレーターの存在は日本特有のものです。海外ではツアーオペレーター=旅行会社というように1つの組織になっている方が多いようです。海外現地では、英語をはじめとする外国語を使わなくてはならないことが、日本特有の状況をつくりだしたといえます。
 近年、旅行会社からツアーオペレーターへという“縦の関係”は多少変化してきましたが、大切なのは、両者がそれぞれの役割を尊重したうえで仕事をしていくということです。そうすれば、ビジネスのうえでも建設的で公正な対話ができるようになると考えています。
 “縦の関係”の変化には、オンライン旅行会社(OTA)の台頭も関わっています。従来、直接お客様と接するのが旅行会社であり、現地の宿泊施設や車両などの手配(仕入れ)をするのがツアーオペレーターでした。旅行会社の持つお客様が、OTAへと流れているという事実が、両者の関係の変化に大きく影響しているのです。変化によって、旅行会社が、ツアーオペレーターを重視せざるを得ない状況になってきたと考えています。
 多くの旅行会社では、商品企画の段階からツアーオペレーターが深く関わっているため、我われの存在なしには仕事ができないのです。ツアーオペレーターほど世界各地を熟知している職業は多くありませんから。

■速水:そう思います。実のところ、お客様の要望の大部分に応えているのは、ツアーオペレーターなのです。極端な言い方ですが、我われがいなければ旅行会社は成り立たず、逆もまた真です。そのため、“協働”で仕事をしているのだということを理解しなければ、適切な関係は望めません。ドライな受注発注だけの関係は、とても歪なものだと思います。欧米をはじめ諸外国でのビジネス関係は「お互いフィフティ・フィフティ」というのが標準であり、それがあるべき姿ではないでしょうか。…

 

※ 詳細は本紙1646号または10月17日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

地方へインバウンドを呼び込むには―、「勇気を出す」ことがカギ、全旅連JKK

岡本尚子会長
岡本尚子会長

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の女性経営者の会(JKK、岡本尚子会長)は9月28日、インバウンド市場の実情や重要性を学ぶ機会として、滋賀県大津市内で「全旅連女性経営者の会オープンセミナーin滋賀」を開いた。当日はさまざまな立場でインバウンドと観光業に携わる講師が登壇。国や地方の取り組み、人気観光地の実情など、テーマは多岐にわたった。需要取り込みに関しては、「勇気を持ってやってみること」が重要と、強調された。
【後藤 文昭】

 岡本会長は2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを「おもてなしを生業とする日本中の宿の本領を発揮できる好機」と語った。そのうえで、1日でも早く、1軒でも多くの宿がインバウンドに興味を持ち、取り組みをスタートすることが「五輪後も観光業が発展する原動力になる」と強調した。

河原千晶氏
河原千晶氏

 パネルディスカッション「地方が主役~あなたの街にインバウンドを呼び込もう~」には、小俣緑氏(観光庁観光産業課係長)と、栗山圭子氏(京都新聞社編集局文化部長、生活学芸担当部長、論説委員)、南めぐみ氏(エクスペディアホールディングス大阪〈南エリア〉、奈良地区主任)、河原千晶氏(犬鳴山温泉不動口館代表)が登壇。稲熊真佐子氏(豊田プレステージホテル代表)がコーディネーターを務めた。

 大阪府泉佐野市の宿で訪日外国人客を受け入れている河原氏は「バラバラに地元をアピールしている人をまとめることが大切」とし、「古民家を活用し、侍体験や書道体験などができるまちを目指している」と地元での取り組みを紹介した。

 

南めぐみ氏
南めぐみ氏

 一方、訪日外国人の送客に携わる南氏は、宿が気づいていない魅力が発信できるかは、「柔軟性」がポイントだと答えた。「例えば多くの旅館が採用する1泊2食付のシステムは、海外では認知されにくく、また料金が高くなってしまい、来てもらえないケースもある」と一般的な外国人観光客の心理面を紹介。周りに飲食店が無い宿が素泊まりプランを販売し、客が食事したいといったときに、オプションとして食事を提供することで、収益を確保した例などを挙げた。

 京都の文化や観光を取材している栗山氏は、インバウンドの急増で「今後文化的すれ違いが際立つのではないか」と述べた。「地元京都では、外国人の行動で地域住民が日常生活に圧迫感を感じており、日本人旅行者の満足度も下がっている」と指摘し、「リピーターになってくれる日本人を大切にするための対応を考えるべき」と語った。

小俣緑氏
小俣緑氏

 小俣氏は、観光庁で人材育成に関わる立場から「国の宿泊業への期待は高い」とコメント。地域雇用の創出と経済波及効果の高さを理由に挙げ、旅館が1軒潰れると、その地域に与えるダメージは大きいと強調した。そのうえで、経営ノウハウを学ぶ場やさまざまな助成制度があると紹介し、「宿泊業界の人には誇りを持ってほしい」とメッセージを送った。

 会場からは「若者に旅館を知ってもらうために、宿泊業界はどうするべきか」という質問も出た。小俣氏は全旅連青年部が17年2月22日に行う「第3回旅館甲子園」を、「外に広く発信する場所にしてはどうか」と桑田雅之部長に提案したことを報告。また、「観光に関わる学部、学科の学生にも参加してもらえるよう、積極的に行動する」と語った。

栗山圭子氏
栗山圭子氏

 パネルディスカッションに先だって、アレックス・カー氏(NPO法人ち庵トラスト理事長)が「地域におけるインバウンドの取り組み」と題し、講演を行った。
 
 
 
 
 
 
 

宿や特典がさらに充実、17年版「ピンクリボンのお宿」冊子

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 「ピンクリボンのお宿ネットワーク」(畠ひで子会長、事務局=旅行新聞新社)は10月1日、加盟する宿泊施設のお風呂情報などをまとめたフリーペーパー「2017年版ピンクリボンのお宿」を発行した。毎年10月に発行しており、今年で5冊目となる。

 1人でも多くの方に旅とお風呂を楽しんでもらおうと、今年は、会員宿が増え、特典クポーンもますます充実した。お得なプランなど、お出かけ前にチェックしておきたい情報などが満載となっている。

 「入浴着をレンタルできる」や、「大浴場の洗い場に間仕切りがある」といった、乳がん患者・体験者が求めるお風呂情報を網羅。禁煙ルームや食事への配慮を求める声にも、細かく対応しているため、全国の医療施設からの問い合わせも多い。

 同冊子は、宿泊やお風呂の情報だけでなく、各施設の取り組みを、1人でも多くの方に知ってもらうために、フリーペーパーとして配布している。

 仕様はA5判フルカラー、80ページ。発行部数は10万部。原則、無料で発送を行っている。

 問い合わせ=ピンクリボンのお宿ネットワーク事務局(旅行新聞新社内) 電話:03(3834)2718。

【ぐるなび執行役員・杉山尚美氏に聞く】 視座の高い使命感を

杉山 尚美氏
杉山 尚美氏

 情報通信技術(ICT)を活用し、飲食店の経営サポートに取り組んできたぐるなび(滝久雄会長)は近年、“LIVE JAPAN”や“ぐるたび”など、観光客を対象としたサービスにも尽力している。今回、インバウンド事業を中心に、同社執行役員の杉山尚美氏に話を聞いた。スピーディーかつ丁寧な事業展開に注目したい。
【謝 谷楓】

 ――力を入れているインバウンドについて、始めたキッカケや、ぐるなびの役割について教えてください。

 ぐるなびは、2013年にインバウンド室を創設し、本格的な活動をはじめました。一方、その前年には、ぐるなびの関連会社のぐるなび総研でインバウンド研究会を立ち上げており、知見を深めていました。13年は、富士山と和食がユネスコの文化遺産と無形文化遺産となり、オリンピック・パラリンピック東京大会が決定した年で、インバウンドブームよりも一足早く準備を進めることができました。
 ぐるなびの役割は、サポーターとして、加盟店をはじめとした飲食店の継続経営を手助けすることです。インバウンドの取り込みは、国内消費が減少しているなか、外食産業活性化のために必要不可欠だと考えています。
 インバウンド室を設立した年から、加盟店向けのインバウンドセミナーを行ってきました。当初は、「本当に必要なのか」といった声も上がりました。しかし今では、年間で331回(15年実績)のセミナーを開催するまでになりました。とくに昨年は、外食チェーン各社を含め、多くの加盟店が、「インバウンドの取り込みをやらなくてはならない」という意識を持つに至った、機運の年だったと思います。

 ――流れが大きく変わっていったのですね。具体的に行っている取り組みは。

 外国人が日本に来る大きな理由の1つに、日本の“食”があります。それを楽しめる環境を目指して、15年1月に、ぐるなび外国語版サイトをリニューアルしました。
 多言語での情報発信は、04年から行っていますが、これを機にメニュー名だけでなく、食材や調理方法、調味料、アルコールの度数などといったお酒の情報も多言語で発信できるようにしました。多言語化は、コース料理やメニュー数にもおよぶため、リニューアルしたWebサイトは、飲食店が発信する情報すべてを網羅したことになります。

 ――日々忙しい加盟店にとって、日本語のメニュー名を外国語に翻訳してもらえることは、とても便利で助かることだと思います。

 日本語のメニュー名はとても複雑なため、直訳しただけでは、外国人観光客に理解してもらえません。また、加盟店にとっても、自店のメニュー名がどのように翻訳されているのかということはとても気にかかることです。
 ぐるなびには、20年間培ってきたビッグデータがあり、それを活用することで、意味や言い回しが似たものを整理することができました。その結果、900万もあった日本語のメニュー名を、現在では2800の名で表現できるようになりました。翻訳をするうえで、担保となるメニュー名ができたのです。これは、加盟店であれば利用できるオリジナル辞書変換システムとして、Webサイトに搭載しています。加盟店が、日本語の操作だけで、自店のメニュー名から食材や調理方法、調味料などを多言語で情報発信できるインフラを整えたのです。

 ――多言語での情報発信は、どれくらいの加盟店で行われていますか。

 開始してから1年半経った現在、2万店以上の加盟店が行っています。

 ――取り組みのスピードがとても速いと思います。ビジネスにおいて、常にそのようなスピード感を重視しているのでしょうか。

 現在の状況は、私たちがぐるなびを立ち上げたときにとても良く似ています。1996年当時、インターネットはあまり普及しておらず、「なぜインターネットなのか」と考える飲食店も多くあり、そのような状況下で、活動していました。インバウンドの時代がすでにやって来た現在、19年のラグビーワールドカップや、20年のオリンピック・パラリンピック大会などを考えれば、一刻も早く準備をしていかなくてはなりません。スピードの速さは、加盟店をはじめとした飲食店の売上や利益につながるものを、どこよりも早くつくっていかなくてはならないという使命感の結果なのです。
 “食”が、外国人観光客にとって、日本を訪れる目的であるなか、飲食店自らが情報発信するすべを持たないことは、リピーター獲得の大きな機会を失うことを意味します。日本の、四季ごとの旬な食材を使ったメニューを各店からリアルタイムに発信できれば、自然と正しい情報が海外に伝わり、「今回は春に訪れたけど、次は秋に訪れてみよう」という“食”を通じたリピーターづくりが期待できます。また、全国の各地域に根付いた郷土料理を発信できれば、「今回は北海道で、次回は愛媛県に行こう」という“食”を通じた地方誘客もできるのです。

 ――ぐるなびは、加盟店自身が主体的に情報発信できる環境を用意しているのですね。環境を提供する側として、加盟店に求めることは。

 インバウンドで言えば、国籍でお客様を選ばず、“インバウンド、歓迎”の意識をつくってほしいという想いがあります。外国語を話せる以上に、受け入れる気持ちをしっかり持つことの方が重要なのです。あとは、ぐるなびのWebサイトを使った英語のメニューづくりや、よくあるトラブルの対応といった準備をすれば十分ではないでしょうか。

 ――13年当時、インバウンドへの関心は今ほど高くありませんでした。“食”を通じてインバウンドに取り組む発想の原点とは何ですか。

 03年にはビジット・ジャパン・キャンペーンが始まっており、06年の観光立国推進基本法制定や、それから2年後の観光庁設立というように、観光に対する政府の考え方は一貫しています。日本の産業が発展していくためには、観光が必要だということは既知の事実だったと思います。その当時から、外国人観光客の主な訪日目的は“食”にありましたから、先んじて準備をしていくという考え方がぐるなびにはありました。そのことが、発想の原点だと思います。

 ――スピーディーに情報をキャッチしているのですね。アジアなど積極的に展開していますが、今後の展望は。

 現在、ぐるなびはシンガポールと台湾、香港、上海の4地域に拠点を構えています。今後は、ぐるなびが海外レストランを組織化して、インバウンドの取り込みと食材輸出の促進に貢献できるのではないかと考えています。
 農林水産省の発表によれば、世界には9万店の和食レストランがあります。インバウンドの取り込みの点では、現地のレストランや料理人を組織化することで、レストランを媒体とした訪日プロモーションの可能性に注目しています。組織化はすでに行っており、例えば、10月18―31日間に、台湾で東北推進機構(清野智会長)と連携したイベントを開催する予定で、現地和食レストランを通して、東北食材のPRや東北へのインバウンド増加を促します。
 また、和食レストランにかぎらず、日本の食材に興味を持つ料理人は多いため、海外のレストランは、日本の食材の輸出先になると考えています。
 観光と食材の輸出は必ずつながっているものです。例えば、海外のレストランで東北の食材に興味を持った方は、東北にも訪れたいと思うはずですから、双方向でシナジーを生むことができるのです。

 ――加盟店と食材生産者をつなぐからこそできることだと思います。旅館など宿泊施設へのアドバイスがあれば教えてください。

 加盟店には、日本と地域の食文化を発信するのだという視座の高い使命感を持ってほしいということを伝えています。ぜひ宿泊施設にも、このような使命感を持ってほしいと思います。とくに旅館は、日本の文化や考え方、感じ方を伝えるといった使命も持っているのではないでしょうか。

 ――ぐるなびでは、“食”と旅行をつなぐサービスが充実しています。今後の活躍にも期待がかかります。ありがとうございました。

佐賀の夜は県庁で

 近年、全国各地でプロジェクションマッピングを使った演出やイベントが盛んだが、佐賀県では今年7月から、全国でも珍しい県庁の展望ホールを会場にしたプロジェクションマッピングを実施し、注目を集めている。

 佐賀県が、新たな夜の楽しみを創出しようと、東京駅やあべのハルカス、名古屋テレビ塔など、数々のプロジェクションマッピングを手がけてきたクリエーター集団「ネイキッド」とコラボして制作したもの。ガラス窓をスクリーンにして、太古から現在に至る佐賀の街の変遷を約10分の映像で映し出す。上映後は、佐賀市内のリアルな夜景が眼前に広がるという演出だ。

 入場は無料。来年3月31日まで、毎日午後6時30分から10時まで実施する(日・祝日は同9時まで)。佐賀に訪れた際はぜひ。

【塩野 俊誉】

予約からナビまで、ナビタイムトラベル開始

(左から)「スポットリスト」と「タイムライン」、地図が1つの画面のなかに並ぶ
(左から)「スポットリスト」と「タイムライン」、地図が1つの画面のなかに並ぶ

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 ナビタイムジャパン(大西啓介代表、東京都港区)は10月5日、Webサイト「NAVITIMEトラベル」をオープンした。航空券や宿泊施設の予約だけでなく、旅行プランの作成もできるのが魅力。予約からナビゲーションまで、ルート検索で培ってきた技術を活かした利便性の高いサービスとなっている。

 同サイトでは、地図と「スポットリスト」、「タイムライン」3つの要素を1つの画面上に併記。「スポットリスト」には地域の観光スポットが、「タイムライン」には時間帯が表示される。好みの時間帯に、行きたいスポットを選択してドロップすれば、オリジナルの旅行プランができるという仕組み。地図でルート情報を確認することもできる。

 「タイムライン」では移動にかかる時間を自動で計算するため、利用者は無理のない計画を立てることができる。営業時間外のスポットを、「タイムライン」にドロップできない仕様となっているため、利用者は検索の手間を省ける。また、総合ナビゲーションサービス「NAVITIME」の検索ログを用いたリコメンド機能も用意されている。

 第2種旅行業を取得しており、同サイトでは、国内ダイナミックパッケージの販売なども行う。全日本空輸(ANA)だけでなく、ジェットスター・ジャパンなどLCCにも対応。往復それぞれで異なる航空会社を選択することが可能だ。

 対応する航空会社は、国内旅行商品では12社、海外旅行商品では日本の空港に乗り入れる約200社となっている。