企業と自治体のつなぎ役、新プロジェクト始動

西村晃座長
西村晃座長

 GS(ゴールデンシックスティーズ)世代研究会(西村晃座長)は2月17日、東京都内で記者会見を開き、「地域活性化プロジェクト」「祭空間における販売プロジェクト」の新ビジネスプランを発表した。研究会は、大手企業、地方自治体を会員とする幹事団体、地方の中小企業などを中心とする一般団体により構成。GSは、ゴールデンシックスティーズの略で、参加企業と自治体が連携し、黄金の60代に向けた商品・サービスを研究する目的で昨年4月に発足した。現在、幹事団体は51、一般会員は160にまで広がっている。

 当日は、三越伊勢丹や、ヤマト運輸、クラブツーリズム、三重県松阪市などの幹事団体の代表者も出席した。西村座長は、「私たちは企業と地方自治体のつなぎ役。利用する人には利益はあるが、私たち自身は利益を目指す団体ではない。逆にいえば、だからこそ自治体も安心して参加できる」と説明した。順調に会員数が伸びていることについて「みんなが待ち望んでいた組織だったからではないか。企業、地方自治体、どちらにとってもプラスがあるウィンウィンの関係ができる」と自信を見せた。

 実際に松阪市では、企業と連携したプロジェクトが始まっている。「これから時代は、『明るい癒着』を進めていく必要があるのではないか。地域、行政、企業、それぞれが汗を流してまちづくりをしていく。そのモデルとしてGS研究会が広がっていくことを期待している」(山中光茂市長)。

幹事団体の代表も出席した
幹事団体の代表も出席した

 「地域活性化プロジェクト」は、(1)ヤマト運輸を中心とした「買い物支援事業」(2)クラブツーリズムやJAL、近鉄などによる「観光資源発掘、誘客支援事業」(3)「地元産品の流通促進事業」(4)「お年寄りのリハビリや生きがい創出事業」(5)「一人暮らしの安否確認サービス」(6)「商店街活性化事業」の6つのメニューを用意し、自治体に提案。合意でき次第、具体化していく。

 「祭空間における販売プロジェクト」は、ほしいものは「楽しい時間」というGS世代に対し、ショッピングセンターや、百貨店、スパーなどを舞台と見立てイベント販売を企画。単なる小売りの場ではなく、「お祭り空間」を創出する。クラブツーリズムや第一興商、小売施設、各自治体などを中心に準備を進め、順次スタートさせる予定。

VWを基幹事業に、2千万人推進室は廃止

 日本旅行業協会(JATA)は3月末で、これまでキャンペーン事業として行ってきたVWC2000万人推進室を廃止し、海外旅行業務部(4月から海外旅行推進部に名称変更)に組み込み、JATAの基幹事業として取り組んでいくことを決めた。

 過去4年間のVWC活動をフェーズ1として2011年度末で総括。12年度から始まるフェーズ2では新たにVWC活動をVisit World事業として発展させ、海外旅行者数2千万人を目指していく。VW事業では、(1)海外旅行需要喚起プロモーション(2)海外旅行環境整備活動(3)JATA国際観光フォーラム旅博の3本柱を重点に据え取り組んでいく。

 なお、海外旅行推進部の部長には、現海外旅行業務部長の重田俊明氏が残留する。 

天草で料理セミナー、女将や料理長ら約90人参加

料理セミナーの全体風景
料理セミナーの全体風景

 熊本県観光連盟は熊本県旅連女将の会と共催で3月6日、熊本県天草市のホテルアレグリアガーデンズ天草で「地元食材を使った料理セミナー」を開いた。辻調グループと旅行新聞新社が企画・協力し、辻調グループの講師が、天草産伊勢えびなどを使用した料理を実演で紹介した。セミナーには地元や県内の旅館・ホテルから女将、料理長ら約90人が参加した。

熊本県観光課の宮尾課長
熊本県観光課の宮尾課長

 冒頭、熊本県観光課の宮尾千加子課長は「新幹線開業から1年が経つが、昨年は関西方面からの集客が好調で、県全体でも数%のアップを見込んでいる。今年は2年目を迎え、難しい時期。東日本への注目が集まる今年は西日本にとって正念場だが、皆さんと一緒に気を引き締めて取り組みたい」とあいさつ。「また来たいと思っていただくには、おもてなしが重要。とくに料理は一番心に残ると思うので、セミナーで多くのヒントを持ち帰り、それぞれの立場で活用していただきたい」と語った。

 セミナーは辻調グループ・西洋料理教授の杉本昌宏氏が「地元食材を使ったフランス料理の実演」をテーマにフランス料理から2品を紹介。試食も配布するなど、参加者に好評を得た。

 
 

モニター旅行に注力、“連合体”の強み軸に

平森良典会長
平森良典会長

 バリアフリー旅行ネットワーク(平森良典会長、96会員)は2月29日、東京都内で2012年度の定例総会を開いた。12年度は観光庁のユニバーサル観光促進事業でバリアフリーモニターツアーが各地で実施されることなども踏まえ、同会でも引き続きモニターツアーに注力。旅行会社や宿泊、運輸などすべての関係者が参加することで今後の受け入れに生かしていく。

 観光庁のユニバーサルツーリズム検討会の委員も務める平森会長は、「各団体が素晴らしい活動をしているが、バリアフリー旅行ネットワークの立ち位置として何ができるか。我われの強みは旅行業や宿泊業、運輸業、福祉教育関係者、個人でUDに携わる人たちの連合体という点だ。12年度はこの連合体を軸に事業を進めたい」と意気込みを語った。

 11年度の事業は研修会や意見交換会などの実施、ホームページやメールマガジンなどの多様な情報発信を展開。また、個人会員制度の「サポーター会員」の設置や全国旅行業協会(ANTA)の機関紙「ANTAニュース」で連載を開始したことなどで新規会員が大幅に増加した。一方、会員のアンケート調査の収集が不十分で観光庁に提出できなかった点などを反省材料にあげた。

 12年度の事業は「誰もが安心して旅行を楽しむ実践」をスローガンに、ユニバーサルツーリズム先進事例のモデル化と移動制約者のニーズを踏まえた観光地の環境改善を掲げる。意見交換会やモニターツアーなどの実施で、発地域と着地域を結んで観光ユニバーサル社会の構築をはかる。また、そのためにも旅行会社会員をすべての都道府県に拡大することを目指す。さらに、旅行業部会や運輸業部会、宿泊業部会の各部会のパートナーシップを強化し、意識の共有や情報共有をはかっていく。

 総会後は平森会長が登壇して講義を実施。そのなかでバリアフリー旅行推進のために、宿泊施設に求めることとして、トイレや入浴施設など必要な設備の情報公開をあげた。「設備は今あるものを詳細に教えてほしい。車イスが通れる幅なのか、手すりはあるのかなど確認事項は多い。ただ、ハード面はソフトでカバーできることもあるので、意欲がある施設は相談してほしい」と呼び掛けた。

 さらに、その後は全国から集まったさまざまな事業者の会員が2グループに分かれて、バリアフリー旅行の推進や同会の方向性などについて率直な意見を交わした。

アフリカ人がもてなし学ぶ、竹村、石井両氏が講演

竹村節子氏
竹村節子氏

 独立行政法人国際協力機構(JICA)は2月19日―3月10日に、アフリカ諸国で観光セクターに関連する公的機関や教育機関で業務に従事する9人を集め、世界から高い評価を受けている「おもてなし」という日本の伝統的ホスピタリティ文化を学び、自国の観光サービスの質の向上、持続可能な観光開発を目指す研修を行った。

 2月28日には、宿泊施設の評価におけるホスピタリティの役割の事例として、旅行作家で現代旅行研究所専務の竹村節子氏が「日本人が思ういい旅館」について、旅行新聞新社の石井貞徳社長が37年続く旅行会社の投票で決まる「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」と旅館の歴史について講義した。

 竹村氏は日本で戦後に旅行文化が形成された歴史や、旅館とホテルの違い、温泉文化、もてなしなどについて説明。もてなしについては「初めは海外のホテルを目標にサービスを学んだ日本のもてなしの歴史はせいぜい50年くらい。日本旅館のサービスの質が上がったのは、客の要望がオーナーの耳に直接届いたから」と紹介した。また、四季の移ろいが詰まった旅館文化について「日本人は四季の移り変わりを楽しむ。旅館には、着物から料理、部屋に活ける花などまで、四季の移り変わりが楽しめるように工夫されている」と語った。

石井貞徳氏
石井貞徳氏

 石井社長はもてなし、料理、施設、企画の各項目で旅行会社が投票し決定する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」の仕組みと成り立ちを紹介。日本の旅行システムについて「食事とルームチャージがセットになっているのが日本の旅行スタイル。これにより旅行会社が力を持つようになった」と説明した。また最近の傾向で、小さな旅館「小宿」が女性を中心にトレンドとなっていることなどを紹介した。

 翌29日の実地研修では、東伊豆の稲取銀水荘に宿泊。初めてとなる浴衣や海鮮料理、温泉を経験した。講義時には熱い湯の温度や、裸での入浴など自国とのスタイルの違いに目を丸くさせていたが、季節を取りいれた館内ディスプレイや到着から出発までまったくよどみのないスタッフの対応に感銘を受けた。大浴場では他の宿泊客のおばあさんと言葉が通じなくても仲良くコミュニケーションし、「裸の付き合い」を学んだという。

アフリカ諸国から9人が来日
アフリカ諸国から9人が来日

 3月6日には、ホテル鐘山苑が「もてなしのシステム化」について講義。そのほかの日程では、JTBや国土交通省関東運輸局、はとバス、文教大学国際観光学科准教授などの講義で幅広い角度から観光について研修を行った。

稲取銀水荘で日本食を堪能
稲取銀水荘で日本食を堪能

被災地送客支援を、支部は本部と業務委託に

第149回理事会を開催
第149回理事会を開催

 全国旅行業協会(ANTA、二階俊博会長)は3月14日、ホテルラフォーレ東京(品川区)で第149回理事会を開き、2012年度事業計画や12年度収支予算案などを可決承認し、一般社団法人移行後の「支部」についての基本的な考え方などが報告された。

 徳永雅典副会長は冒頭、「東日本大震災から1年、紀伊半島の台風による大水害から半年が経った。今年度は国内では東北・東日本観光復興支援キャンペーンに重点を置き、海外では韓国での麗水世界博覧会や日中国交正常化40周年事業などに協力していく1年になる」とあいさつした。

 報告事項では、検討を重ねている一般社団法人移行後の体制について、現時点での「支部についての基本的な考え方」が示された。これまで各都道府県支部は法人格を持たない任意の組織として存在していたが、一般社団法人移行後は各支部の受皿組織が一般社団法人格を取得。名称も「一般社団法人○○県旅行業協会」に統一する。この受皿組織は本部と委託契約を結び、本部から支部業務を業務委託される形となる。また、県支部の協会会員の運営管理のため、現支部会費の一定額(1万円)を本部会費として徴収することなども検討されている。

 今年度の事業は試験事務代行事業や研修事業、苦情・弁済事業に加え、国内観光活性化フォーラム開催などの着地型旅行の推進、東日本大震災被災地と水害被害のあった紀伊半島地域への送客支援、日中国交正常化40周年事業や韓国の麗水世界博覧会などへの協力に尽力する。国内観光活性化フォーラム実行委員長の鈴木明治副会長は「全旅協として何ができるのか、強い意志を持って新しい全旅協を国内外にアピールしていきたい」と力を込めた。

 第9回国内観光活性化フォーラムin群馬は2013年1月23、24日前橋市グリーンドーム前橋で行われる。

東北観光博が開幕、「観光で東北復興支援を」

東北観光博ロゴマーク
東北観光博ロゴマーク

 観光庁は3月15日、マスコミ関係者を集めて「東北観光博」の事前説明会を行い、来年3月末まで続く「東北観光博」のPRを行った。

 観光庁の溝畑宏長官は「東北を28に分けたゾーンすべてが感動と交流の場となっている。東北の観光はまだまだ厳しい状況が続いているが、東北の復興が直接日本の元気につながると思うので、皆で東北を盛り上げていこう」と力を込めた。

 また、4月から岩手デスティネーションキャンペーンが始まるいわておかみ会(会長・大澤幸子=ホテル対滝閣)からは「世界遺産に登録された平泉を始め岩手・東北の観光地へ足を運んでほしい。日本中から来てもらうことが岩手・東北の復興につながる」とのビデオレターが特別に寄せられ、披露された。

 さらに、会場には東北観光博をサポートする応援団が集結。俳優の津川雅彦さんは「世界中を感動させた震災後の我慢と忍耐など、他人を思いやる東北人の美しい心や温かさが何よりの東北観光のおみやげでは」と語り、レージングドライバーの寺田陽次郎さんは「東北の芋煮がとてもおいしい」と食をPRした。元体操オリンピック選手の塚原光男さんは「四季の移ろいが美しい」と自然景観をあげ、トレイルランニングの日本の第一人者である鏑木毅さんは「全国の山を走ったが、東北は岩手山、八幡平、早池峰山、栗駒山、鳥海山など魅力ある山が多い」と絶賛。ロンドンオリンピックマラソン代表の藤原新さんは「東北を初めて訪れたのは岩手での高校インターハイ。おじいちゃん、おばあちゃんの応援がとても温かかった」と思い出を語り、「僕もこれまで、つらい時期があっても諦めず、より良い明日を信じがんばってきたので、そういったところも少しでも伝えられれば」と東北への思いを述べた。

溝畑宏長官と東北応援団を交えて
溝畑宏長官と東北応援団を交えて

 東北観光博は3月18日に開幕し、2013年3月31日まで開催。テーマは「こころをむすび、出会いをつくる」。東北地域全体を博覧会に見立てて一体感を持たせる一方、28のゾーンに分け、歴史・風土に根差した多様な伝統芸能、郷土料理、風俗や風習など各地域の特集ある個性豊かな暮らしでもてなす。(1)ゾーンの入口で出迎え情報案内をする「旅のサロン」(2)各ゾーンでスタンプを集める「東北パスポート」(3)土地に詳しい案内人が待つ「旅の駅」(4)旬な情報をタイムリーに発信する「ポータルサイト」(5)東北の魅力あふれる情報が満載の「公式ガイドブック」――の5つのツールで東北へいざなう。

 ロゴマークは東北の豊かな森をイメージ。絆とふれあいを具体化し、笑顔を表現した。東北6県と観光客、合わせて7つが1つになり、東北に大きな虹をかける意味を込め、7色の虹色となっている。

JTB創立100周年、関係者1200人が盛大に祝う

<被災地支援は我が社の使命―佐々木会長>

<「温故創新」掲げ市場開拓へ―田川社長>

 JTB(田川博己社長)は3月12日、東京国際フォーラム(千代田区丸の内)で創立100周年を記念した式典とレセプションを行った。関係行政、各国在日公館、各国政府観光局、観光関連諸団体、運輸機関、宿泊機関、観光関係諸施設、報道関係など約600人と、JTBグループ関係者約600人の計約1200人が集まり、これまでの100年と新たに始まる100年へのスタートを祝った。

佐々木隆会長
佐々木隆会長

 主催者あいさつでJTBの佐々木隆会長は「1912年にジャパン・ツーリストビューローとしてスタートしてから100年を迎えた。東日本大震災から1年の追悼式の翌日なので開催を悩んだが、被災地の観光復興支援は我が社の使命と思い決断した。今日は100年の記念日ではなく、次の100年をスタートさせる日。観光による地域振興や地域・世界のツーリズム発展のため全力で取り組んでいく」と誓った。田川社長は「旅の力で日本を元気にするため、早期に高いレベルで活性化させることが今重要だ。日本を再生し成長を担うツーリズム産業の新しい形を作るスタートの日にしたい」と宣言。交流文化事業で社会貢献するため、「温故創新」を掲げ、原点回帰と新たなマーケットの開拓に力を入れることを語った。

 来賓の東日本旅客鉄道の清野智社長は「JTB抜きには日本の観光を語れない。たくましくチャレンジングに活躍する100年を期待したい」と祝った。同じく来賓のJTB協定旅館ホテル連盟の福田朋英会長は「昭和38年の株式会社化時には、3837会員がそれぞれ2万円ずつ出資し、10%の株主になった」とJTBとの歴史について話し、「今後もJTBと車の両輪のごとく手を携えて、地域の魅力作りや個性化、日本の観光振興に寄与したい」と語った。

田川博己社長
田川博己社長

 震災1年後の追悼式翌日ということを受け、東北復興応援プログラムを開催。東北観光推進機構の高橋宏明会長は震災後の被災地のようすや、今後の復興への課題、東北観光博のPRなどを話した。河北新報社の一力雅彦社長は「創造的な復興へ」と題する講演を行い、「1年経ってさまざまな人が被災の経験を語り始めているので、東北に来て話を聞いてほしい。被災地は忘れられることを一番恐れている。被災地を忘れないような仕組み作りが必要」と訴えた。また、被災地観光の成功例やモデルケースが求められているとし、被災地への(1)修学旅行(2)企業の新人研修(3)社員旅行を提案した。

 その後のレセプションでは、全国旅行業協会会長で衆議院議員の二階俊博氏と、日本観光振興協会の西田厚聰会長が来賓の祝辞を述べ、観光庁の溝畑宏長官が東北観光博のPRをした。

 

No.305 時音の宿 湯主一條 - 客室減らして客単価アップ

時音の宿 湯主一條
客室減らして客単価アップ

 厳しい市場環境にありながら、高品質のおもてなしサービスを提供しお客様を集客している旅館が多くある。このような旅館は従業員の職場環境を整え、お客様と真摯に向かい合える仕組みができている。今回からスタートする「いい旅館にしよう!」プロジェクトでは、先進的な取り組みをしている旅館経営者と、産業技術総合研究所の工学博士・内藤耕氏が「コストをかけない経営改革」について語り合う。第1回目は、客室を減らして、客単価を大幅にアップさせた、宮城県・鎌先温泉の時音の宿 湯主一條の一條達也社長だ。

【増田 剛】

 

≪「いい旅館にしよう!」プロジェクト≫ シリーズ(1)
― 時音の宿 湯主一條

【対談者】
一條 達也(いちじょう・たつや)氏
時音の宿 湯主一條代表取締役
×
内藤 耕(ないとう・こう)氏
産業技総合研究所サービス工学研究センター副研究センター長(工学博士)

 

一條 達也(いちじょう・たつや)氏

 

一條:私は2003年6月に20代目の社長に就任した。先代が亡くなり事業を継承したわけですが、初めて会社の内部事情と経営の大変さを知りました。

 当時は、観光客向けの旅館部の客室が26室、木造建ての湯治部の部屋が41部屋で計67部屋。勤めていた東京のホテルから帰ってきた1999年から社長になる03年までの4年間も、次第に客足は遠のいていった。湯治部はエアコンがないので、夏は暑いし冬は寒い。鍵はかからないし金庫もない。東京のホテルで普通にあるものがまるっきりなかった。自分の家よりも環境の悪いところにお客様がお金を出して泊まりたいわけがない。温泉を目的に来る人が減っているのに宿の考え方を変えられなかったのです。

 

内藤 耕(ないとう・こう)氏

 

※ 詳細は本紙1455号または3月27日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

手間こそが文化 ― 客に支持される喜びを(3/21付)

 日本の文化・経済の発展には、旅館ほど大きな貢献を果たした業種はない。お伊勢参りや、大名の参勤交代、庶民の巡礼の旅、行商たちの宿泊、そして湯治や団体慰安旅行にも活躍した。時代ごとに形態は変わっても、人々の経済活動や文化交流に重要な役割を果たしてきた旅館という存在意義を、もっと知ってもらいたいと思う。

 旅館は、手間をどれだけかけるかが勝負だ。旅人を笑顔で迎え、綺麗に清掃した客室に案内し、浴衣も、布団のシーツも折り目正しく清潔で、掛け軸や花も季節に合わせて設える。露天風呂や大浴場の湯加減を常に気にしながら、海の幸、山の幸を盛り込んだ料理の準備で厨房は大奮闘。冬には暖房、夏には冷房を完備し、客室の空調や電球が切れていないか隈なくチェックしていく。翌朝も早朝から朝食の準備をし、笑顔で旅人にお見送りをする。従業員教育の徹底や、出入りの業者さんとの打ち合わせなども忙しい。地域活性化に向けての会合もあるし、旅館が中心となって地域を引っ張り、雇用も守り続けていかなければならない。江戸時代の本陣、旅籠の時代から宿は決して儲かる商売ではないのである。だが、これだけの手間をかけられる“余裕”こそが文化なのである。「お金儲けだけ」をしたいのなら、もっと割のいい商売はいくらでもある。儲け以上に、遠方の人がわざわざ訪れてくれるという“支持される”ことの喜びがあるのだと思う。

 しかし、元気がない温泉地などを見るにつけ、現代社会の人々から、もはや旅館という存在はそれほど必要とされていないと、観光事業者自身も懐疑的にもなるかもしれない。

 だが、私は決してそんなことはないと考える。現代人の健康に対する意識はおそろしく高い。また、その地域独特の食文化に対する関心も極めて強い。自然志向や、癒しへの欲求の強さもハンパではない。需要は間違いなくある。この需要と旅館が提供しようとするものが上手く適合していないだけだ。

 もし、お客が来ないのであれば、やはりそれなりの理由があるのだと思う。今号からスタートした「いい旅館にしよう!」プロジェクトでは、厳しい環境にありながら、多くの支持者を持つ旅館経営者の取り組みにスポットを当てている。何かの“ヒント”になればいいと願っている。

(編集長・増田 剛)