鶴雅グループ(大西雅之社長)は9月27日、阿寒湖温泉で休館している「ホテルエメラルド」(203室)をカラカミ観光から取得し、改装した上で来年の5月連休前に開業すると発表した。隣に立地するグループ旗艦店の「鶴雅」(233室)と渡り廊下でつなぎ、和を基本とした「温泉リゾート」として一体運営する。 ホテルエメラルドは7月から1年間の期限で休館を発表していた。早期再開を望む声に加え、休館が長引くことになれば温泉街が致命的なダメージを受けると判断し、協議を重ねてきた。
取得したのは、地上9階、地下1階建て、総客室数203、収容人数877のホテルと、社員寮として使っていた6階建ての建物。取得金額の2億2千万円を含め6億円を投じる。開業に合わせ、正社員35人、パート従業員15人を新規採用する。
新ホテルは、鶴雅より阿寒湖に面した部屋が多い特徴を生かしながら、レストランでは野菜を主としたブッフェを採用する。
大浴場も鶴雅にない魅力を取り入れ改装。それぞれの個性を打ち出し、今夏から力を入れている「長期滞在」需要に応えられる施設づくりを目指す。
200日ぶりに営業再開、蒼井優さんとしずちゃんもエール

常磐興産(斎藤一彦社長、福島県いわき市)が運営するスパリゾートハワイアンズが10月1日、震災以来200日ぶりに、宿泊や日帰り施設の一部で営業を再開した。当日開かれたセレモニーには、06年公開の映画「フラガール」に出演した女優の蒼井優さんと南海キャンディーズのしずちゃん(山崎静代さん)も駆けつけ、営業再開にエールを送った。
午前10時のオープンとともに、この日を待ちわびた全国のファンが続々と入場した。「待ってました」と声援を送られ、感極まる場面も。28人のフラガールが総出で迎え、来場者一人ひとりにレイをプレゼントした。
斎藤社長はセレモニーで、フラガールのきずなキャラバンで全国各地から支援を受けたことへの礼を述べるとともに、「今日から地域の皆様とともに新しい、楽しいハワイアンズを築きたい」とあいさつ。蒼井優さんは「福島は第2の地元。映画撮影時はこんな日が来るとは思ってもみなかったが、できる限り力になりたい」と再開へエールを送った。
部分開業したのは、日帰り施設のスプリングパーク(屋内スパ)、江戸情話与市(大露天風呂)、スパガーデンパレオ(屋外スパ)と、宿泊棟は「ウイルポート」、「ホテルハワイアンズ東館」。ドーム型のプールや新ホテル「モノリス・タワー」を含めたグランドオープンは来年1月を予定している。部分営業中の入場料は大人(中学生以上)1500円、子供(小学生以上)800円、幼児(3歳以上)500円と、規定の半額以下にした。
事業見通しについて斎藤社長は「年間宿泊38万人、日帰り150万人という震災前の水準に、今後3年かけて戻す」という。
<フラガール本拠地に>
10月の再開と同時に「きずなキャラバン」として全国公演を続けてきたフラガールも本拠地に戻り、ポリネシアンショーが復活した。チームリーダーのマルヒア由佳里さんは「この日を迎えることができた感謝を伝えたい」とステージ再開への思いを語った。

1月のグランドオープンまではスプリングパークプラザ内に会場を設け、1日3回、「全国きずなキャラバン」の再演や来場者が参加できるふれあいのステージなどを披露する。
フラガールの「きずなキャラバン」は5月3日にいわき市内避難所への慰問公演を皮切りに、全国各所で巡回公演を行い、10月1、2両日の「がんばっぺ!いわき復興祭」で最終公演を迎えた。その間の訪問先は26都道府県に韓国ソウル市を含め125カ所、公演回数は247回を数えた。
この功績が認められ、第3回観光庁長官表彰も受賞。震災後の活動は、ドキュメンタリー映画「がんばっぺフラガール!」(10月29日公開)や書籍「フラガール3・11」(仮題、11月4日講談社刊)でも取り上げられる。
坂元氏ら7人(団体)に、フラガールやガガも受賞

観光庁はこのほど、今年度の「観光庁長官表彰」の受賞者を決定し、10月3日に庁舎内で表彰式を開いた。今年度は、阿蘇地域振興デザインセンター事務局長の坂元英俊氏や福島県・スパリゾートハワイアンズのフラガールなど7個人・団体を表彰した。
同賞は国際競争力のある魅力ある観光地づくりや外国人に対する日本の魅力の発信など観光の振興、発展に寄与した個人や団体を表彰するもので、今回が3回目。
表彰に先立ち、観光庁の溝畑宏長官は「共通するのは東日本大震災の厳しいなか、いち早く心を持って、世界に日本の元気を示していただいたこと。皆さんには重要な役割を担っていただいた」と感謝と祝辞を述べた。
博覧会形式の広域連携プロジェクト「阿蘇ゆるっと博」を開くなど、地域づくりと観光を統合化した滞在型の観光戦略で九州の観光振興に寄与した功績が表彰された坂元氏は、「地域の人たちや行政、団体、県と皆でがんばった結果。8年間、積み上げてきた取り組みだが、九州新幹線が全線開業した今年が阿蘇全域で滞在型観光を推進するスタートの年。今後も少しずつ密度を高め、地域がつながっていく取り組みにしていきたい」と喜びを語った。
また、歌手のレディー・ガガさんからは受賞にあたり「勇気の真の意味を教えてくれた日本のために、この地球の一員として引き続き戦い、また支援を行っていきます」というコメントが寄せられたという。
受賞者は次の通り。
【国内観光振興】坂元英俊(阿蘇地域振興デザインセンター事務局長)▽境港市(鳥取県)▽桝田知身(境港市観光協会会長)▽フラガール(スパリゾートハワイアンズ・ダンシングチーム)【国際観光振興】袁文英(東瀛遊旅行社有限公司社長)▽アン・テフォ(ミシュラン・グリーンガイド編集長)▽レディー・ガガ(歌手)
“人と金の規模足りない”、松山新理事長が会見

日本政府観光局(JNTO)の新理事長に就任した松山良一氏は10月3日に会見を開き、日本の観光の問題点を指摘。諸外国と比較し「人と予算の規模がまったく足りていない」と語り、ビジットブリテンキャンペーンが成功している英国や、観光に力を入れ急成長しているマレーシアを例にあげ、「研究してヒントを得たい」と語った。
松山理事長は3つの抱負として(1)安全・安心の情報発信による訪日への信頼回復(2)観光振興による雇用の造成と地域の活性化(3)観光庁や地方自治体、民間企業、業界団体などとの連携をあげた。また、「選択と集中」の重要性を強調し、「民間企業では必ずボトムラインがあり、伸びそうなところに資源を集中する。観光も、より効果が高まるよう『選択と集中』で全力投球したい」と語った。まずは中国・韓国の国慶節と春節など、重点を絞ったキャンペーンを観光庁と取り組んでいくという。
中長期的な展望として、日本のブランド戦略の見直しをあげる。外国での日本のイメージが、トヨタやパナソニックなどに代表される「低コストでハイクオリティな製品を作る」という80年代の「ものづくり」のイメージに終始していることを紹介し「新しい日本のイメージを打ち出したい」と話した。「夜に外へ出て安全なのは日本だけではないか? 日本の安全性やおもてなし、日本人の思いやりの心など、ソフト面のイメージをもっと打ち出したい」と展望を述べ、「世界では観光客を呼び込むため熾烈な競争となっている。日本に来たいとどう思わせるか、しっかり対策を練りたい」とした。
また、現在13カ所にある海外事務所の拡大については「現状を把握して検討したい」としつつも、他国の海外事務所の多さに触れ「数が多いことは力。海外事務所を増やしていきたいという強い希望を持っている。予算を国交省と相談しながら、観光の世界大戦争に参加したい」と結んだ。
風評跳ね返す勢いを、秋保で復興支援会議開く

全国旅行業協会(ANTA、二階俊博会長)は9月26、27日、宮城県・秋保温泉の「篝火の湯緑水亭」で全国の支部長が集まり東日本復興支援会議を開いた。引き続き被災地向けの復興支援ツアーや被災地での支部研修会の実施に努めることなどを確認した。
二階会長は「我われは風評被害を跳ね返す勢いを持たなければいけない。先般、紀伊半島も台風12号の甚大な被害を受けたが、和歌山県の選挙区を回り、我われは自力で立ち上がることが大事だと伝えた。その頑張りが東北の被災地と共鳴し合い、1日も早い復興につながる」と話した。また、橋梁が破損するなど大きな被害を受けた紀勢線の今後の運行計画をあげ「串本―紀伊勝浦間は開通。新宮までは年内復旧の目途がついた。まずは応急復旧でいい。いつ開通するかわからないのとでは意気込みが違う」と語った。観光による復興支援については「我われは観光の専門家として、地域にある物語を掘り起こし盛り上げていくのが使命。一層の奮起を」と呼び掛けた。
若生正博宮城県副知事は同県の復興状況について、交通インフラは完全復旧したとしたうえで「今回の被害の特徴は海沿い地域の地盤沈下だった。平均で60―70㌢沈下した。現在、減災の思想で地域づくりをしている。防波堤の高さは抑え、高台移転や、道路や線路の多重防御で対応。避難タワーや避難ビルも建設する。復旧に3年とみている」と説明した。「今とくに助かっているのはボランティアツアー。延べ30万人を超え、1泊は温泉に泊まっていただいている。震災に絡んでこうした新たな旅行商品が必要。旅行のプロとして皆さんから、いろいろなアイディアをいただきたい」と話した。
溝畑宏観光庁長官は「震災から6カ月がたち、少しずつ復興支援の動きが弱くなっているなか、『頑張れ東日本』と声高らかにこのような会を開いていただくのはありがたい」とし、「皆さんの要望をお聞きし、国内観光活性のために積極的な仕掛けをしていきたい」と述べた。
また、被災地7県の各支部長から、経過報告が行われた。福島県の小林次郎支部長は、東京電力の補償請求の手続きをあげ「始めから損害の20%は、原発が原因ではないとし、残りの80%が補償されるわけでもない。損害額算出の数式は複雑怪奇で、数字を当てはめることすらできない。支部の会員110社は疲弊し、資金も底をつこうとしている。近く説明会があるが、東電に怒りが向かなければいいが」と思いを語った。一方で「県をあげて28億円の補正予算をつけていただいた。これを活用した福島っ子体験補助事業で助かっている。夏休みに外で思い切り遊べない福島の子供たちに、旅行業者を経由して、他県で体験活動をしてもらうもの。保険も手厚くカバーできる。この事業でいささか息をついている状況」と報告した。
同協会がまとめた各支部の活動によると、14支部が見舞金・寄付活動を行い、研修旅行や支援・義捐金ツアーは20支部が実施。6月には各支部からの義損金747万8千円、および災害見舞金を、各支部を通じて被災した会員148社に支給した。
No.292 大館グリーンツーリズム - 農業の魅力を若い世代へ
大館グリーンツーリズム
農業の魅力を若い世代へ
秋田県大館市のグリーンツーリズムを推進する、大館市まるごと体験推進協議会。地域ごとにばらばらだった受け入れ窓口を一本化するとともに、体験メニューのレベルアップをはかる。修学旅行生の誘客強化だけでなく、都会に住む大人の潜在的なニーズも見込む。グリーンツーリズムはあくまできっかけ。農業体験を通じて同市に興味を持ってもらい、交流が活発化すれば、その波及効果は農業、観光業だけにとどまらない。9月下旬に行われたモニターツアーに参加した。
【沖永 篤郎】
<受け入れ窓口を一本化
まるごと体験推進協議会>
秋田市から奥羽本線で約1時間40分、秋田県大館市は、県北部を流れる米代川に沿い、開けた大館盆地に位置する。青森県との県境は世界遺産、白神山地。市街地にある温泉から山奥の秘湯まで市内には温泉が豊富にあり、市民は日常生活で湯巡りを楽しんでいるという。また、忠犬ハチ公のふるさと、きりたんぽ発祥の地、地鶏のトップブランド「比内地鶏」の産地としても知られる。 同市は、「あきたこまち」に代表される稲作が盛んな地だが、近年全国の地方と同じく過疎化・高齢化が進み、農業の担い手不足という問題を抱えている。地域が元気を取り戻すには、主産業である農業の魅力を若い世代に伝え、後継者を増やしていくしかない。
※ 詳細は本紙1437号または日経テレコン21でお読みいただけます。
乳がん患者も温泉に ― 照明落とすだけでも……(10/11付)
10月は乳がんの早期検診などを啓発する「ピンクリボン運動月間」だ。現在、日本では年間約5万人の女性が乳がんを患い、40万―60万人が手術によって乳房を切除しているとも言われている。 患者の多くは、以前と同じように旅行を楽しみ、家族や友人たちと温泉に入ることをすごく楽しみにしているが、現実は、母親や娘、孫と一緒に温泉に入ることは難しいと感じている。「傷跡を見せて家族を悲しませたくない」という感情がどうしても働いてしまうのだという。
彼女たちの家族や友人を含めると、200万人以上の近しい人たちが温泉旅行に行きたいのに行けないという、潜在需要の機会逸失が虚しく横たわる。
全国の温泉旅館の経営者や女将さんにぜひお願いしたいのは、更衣室では隅の方に幾つかでいい、簡易な仕切り板を備えたり、ロッカー式で扉を開けることによって、体を隠すことができるような工夫をしていただきたいということ。また、照明を少し落とすだけでも、体に傷がある人にとっては、とても優しい空間になるはずだ。
今では増えてきたが、体を洗う場所も、隣との仕切り板があるだけで乳がん患者さんにとっては救われる気持になるのだという。ロビーや客室、レストランのリニューアルには莫大な費用がかかる。しかし、わずかな心の配慮だけで、〝女性に優しい宿〟に変身できるのだ。
人工乳房をつくる「池山メディカルジャパン」代表取締役の池山紀之氏は10月17日から「おっぱいリレー」を実施する。人工乳房を全国の温泉に浸けてもらい、成分的に問題がなければ「おっぱいフリー」(人工乳房安全)シールを贈呈し、施設リストに登録するという。池山氏の妹さんが乳がんを患い、家族で行った旅館で1人だけ温泉に入らなかったということを聞いて以来、乳がん患者など、女性が安心して温泉に入れるように一生懸命活動している。
女性だけでなく、男性だって火傷や手術によって温泉旅行を諦めている人がたくさんいるだずだ。温泉に入ってしまえば、首まで浸かるために体の傷は気にならない。更衣室や体を洗う場所の一部分を改良してくれる宿が1軒でも増えてほしい。宿は、閉ざされた患者の心を解放し幸せにしてあげることができるのだ。これほどの社会貢献はない。^t(編集長・増田 剛)
千葉県、旅館に助成金、復興企画などに30万円
千葉県はこのほど、宿泊客の増加などを目的とした事業を行う県内の宿泊施設に対し、経費の一部を支援する「千葉県がんばる宿泊施設応援助成金」を創設した。助成額は1事業者につき定額で30万円。11月末まで申請を受け付けている。
東日本大震災の影響で厳しい状況にある県内観光の復興を目指す。
対象となるのは、東日本大震災以降に千葉県制度融資(セーフティネット資金)の融資を受け、地域振興に貢献していると市町村長が認める旅館・ホテル。広報・宣伝や被災地応援宿泊プラン、施設改善などを通じて、宿泊客の増加、回復をはかる事業に対して助成する。
事業予算は4500万円で、申請期間中でも予算に達した段階で事業は終了する。
申請窓口は各市町村観光担当課。助成金交付申請書等に必要事項を記入のうえ、提出する。
問い合わせ=県観光課観光企画室 電話:043(223)2415。
紅葉の見ごろを予想、全国紅葉最前線で発表

日本観光振興協会はこのほど、協会ホームページのなかの「全国旅そうだん」サイト内に「2011全国紅葉最前線」(http://kouyou.nihon-kankou.or.jp/)を開設し、10月上旬に同サイト内で「全国の紅葉の見ごろ予想」を発表する。
従来は、関東地方のみだった見ごろ予想を、今年度から日本気象協会と連携して全国に拡大する。
紅葉最前線は、全国約700カ所の紅葉の名所スポットを写真入りで紹介するほか、12月上旬まで170カ所のスポットを対象に毎週木曜日、色づき情報を更新する。また、各地域のその週の見ごろ状況は、サイト上の日本地図で紅葉前線の南下を緑からオレンジ、赤色の色で表現して案内する。
発信元の「全国旅サイト」は、全国の観光名所など約15万件の観光情報をフリーワードや地域などから手軽に検索できる観光情報検索サイト。同協会が、各地の旬な情報を、地方自治体や各観光協会から収集して運営している。
今秋にサイトをリニューアルする予定で、より分かりやすい検索機能や情報の充実などをはかる。
〈会津復興ツアーレポート〉風評に向き合う会津の生産者
「安全とおいしさ届けたい」
風評被害で観光客が激減している福島県・会津17市町村で9月から、「会津復興キャンペーン」が始まった。極上の会津プロジェクト協議会(会長=室井照平会津若松市長)とNPO法人素材広場(横田純子理事長)の主催で12月末まで実施している。「食べて応援、泊まって応援」を合言葉に、キャンペーンに参加する宿の宿泊者に抽選で特産品をプレゼントするほか、SNS(交流サイト)で応援メッセージを発信する県外客に対して、お得な「500円チケット」を販売するなど、「会津の応援団を募る」ユニークな取り組みもある。9月17、18日の両日、キャンペーンの一環で開かれた「会津復興モニターツアー」に参加した。今回のテーマは「食」と「宿」。訪れた先々は、震災前と変わらず、おいしいもの、安全なものをつくり、届けたいという生産者のひたむきな姿勢があった。
【鈴木 克範】
◇
<新米送りだす努力>
観光バスが会津盆地に入ると、黄金色の稲穂が実る水田地帯が広がっていた。休耕田にソバを植えているところも多く、白い花との対比やその先に望む磐梯山の美しい景色に目を奪われる。聞けば「あと1週間ほどで稲刈りが始まる」という。いつも通りののどかな景色のなかでコメ生産者の佐藤貴光さん(会津坂下〈ばんげ〉町)が迎えてくれた。

津波被害や原発事故の影響で、今年は県下約1万5千ヘクタールの水田で作付けができなかった(JA全農福島)。これは約8万㌶の作付け面積(2010年東北農政局)を誇る福島の水田の2割に相当する。県産の新米収穫量が減るなか、「農協の仮払金(年間の価格変動を見越した一時買取価格)は高値の傾向にある」(佐藤さん)という。
「自分の育てたコメは一番うまいと思う。値があがるのは喜ばしい」。佐藤さんはそう打ち明ける一方、「価格高騰で消費者に届きにくくなるのは本末転倒。値下げの努力も必要」という。おいしいコメを大勢の方に食べてもらうことを第一に考えている。
新米のみずみずしさを保つ「籾殻(もみがら)保存」はその一例だ。この方法、かさばることに加え、生きた状態のため、そのままにしていると芽が出てしまう。いろいろ試したが、この難しい保管方法を採用した。
新米の安全性について県は、収穫前は放射性物質濃度の傾向を把握する「予備調査」を、収穫後は放射性物質濃度を測定し出荷制限の要否を判断する「本調査」を、2段階で実施している。国の暫定規制値以下のものだけが市場に流通し、消費者に届く。
出荷時期の早い「早場米」は安全が確認されすでに出回っているが、一般米も9月28日現在、会津坂下町など21市町村で出荷が認められた。10月上旬までにすべての市町村で検査を終える。
<給食「牛乳」も再開>
「会津べこの乳」のブランドで支持を集める会津中央乳業(会津坂下町、二瓶孝也社長)と酪農家の小池徳男さん(喜多方市)を訪ねた。
3月21日、政府は福島県全域の原乳(乳牛から搾乳したばかりの牛乳)の出荷停止を指示した。県内の一部地域で基準値を超える放射性物質が検出されたことへの措置だったが、広い福島県全体を出荷停止とした。なぜ県単位なのか。多くの酪農家が戸惑ったという。
会津地区はその後4回検査を実施。すべて規制値以下だったことから、4月8日に出荷制限が解除された。6月以降は、「原乳を生産する」県下すべての市町村で制限が解かれた。
だが、制限は県単位、解除は市町村単位で行ったことでの歪みも生まれている。原乳生産者がいない会津若松市などは、検査対象がなく、未だ出荷制限が解除されていない。「これでは風評を助長しかねない。原発被害に苦しむ酪農家や生産者の立場に立ったルール作りを」(二瓶社長)と訴える。

会津中央乳業は、会津地区で唯一の乳業工場だ。昔は15社ほどあったが今は孤軍奮闘している。通常、原乳は酪農家から、タンクローリーでクーラーステーションと呼ばれる集乳施設に集められ、工場に運ばれるが、同社には酪農家から直接原乳が運ばれる。どの牧場の原乳か、生産者を追跡できる仕組みを採用している。
看板ブランドの「べこの乳」(牛乳)は、生乳本来の風味や甘みを生かすため、一般的な超高温殺菌(130度、2秒間)ではなく、85度15分間という殺菌方法を採用している。二瓶社長は「なべで沸かして飲んだ懐かしい味」と表現した。
原乳が出荷制限された時、生産も危惧された。だが、病院などで牛乳の需要はあった。急きょ岩手県から原乳を調達し、ブランド名を外し、供給を続けたという。原乳の出荷制限が解かれ「べこの乳」の生産は再開したが、未だに都内小売店で販売自粛が続いている。
ただ、明るい材料もある。学校給食には同社の牛乳が並ぶようになった。地域需要に即応する企業努力は住民に伝わっている。
小池徳男さんは、会津中央乳業へ原乳を届ける生産者の1人。牛舎には35頭の乳牛と18頭の育成牛(子牛)がいる。乳牛は、放っておくと乳房に炎症を起こすため、毎日の搾乳が欠かせない。出荷停止後は、原乳を捨てる日が続いたという。それでも「会津は早期に制限が解除された方」と県下の酪農仲間を気遣う。
取材当日は30度を超える夏の暑さ。「牛たちは暑さが苦手」と常に牛舎に気を配る姿が印象的だった。
<農家ごはんで一息>
風評被害に立ち向かう生産者の現実を取材する合間、会津若松市内の簗田(やなだ)麻子さんのモモ畑で、農家の朝ごはんを頂いた。
簗田さんの自宅から、モモ畑へは水田や畑のなかを歩いて10分程度。会津ならでは清々しい朝の散歩だ。簗田さんは夫とおばあちゃんの3人でトマトやキュウリ、ナシ、スイカ、コメなどを育てている。そんなにたくさんと聞くと「それぞれに得意、不得意があります」と笑う。
モモの木の下には、おにぎりやキュウリの一本漬など、シンプルな料理が並ぶ。育てた本人と一緒に囲む、贅沢な食卓だ。
<食と漆器の饗宴提案>
1日目の夕食は東山温泉の原瀧が会場。「食と器の饗宴」と題した提案を行った。各所で眠っていた会津漆器を会場に持ち寄り、創作料理の器として活用。黒や赤を基調とした会津漆器が、料理に彩りを添えた。
会津漆器は木地(素地)、塗、加飾(蒔絵や沈金)というそれぞれの生産工程で専門の職人がいる。生活様式の変化に伴い、生産量は減少しているが、「会津の漆器は生活漆器」(丸祐製作所の荒井勝祐さん)、土産物だけでなく、会津旅行のなかで漆器に触れてもらおうと、新しい宴席スタイルを提案した。

料理を担当したのは山際食彩工房代表の山際博美さん。素材広場の立ち上げ時のメンバーで、農林水産省の地産地消の仕事人にも選ばれている。会津地鳥のゆったり蒸しや磐梯鱒のマリネ、枝豆の掻き揚げなど、会津地区17市町村の食材を使った創作料理を披露した。
<信頼や興味が動機に>
福島県では、ホームページで、観光地ごとの放射線量(http://www.tif.ne.jp/senryo/)や農産物のモニタリング情報(http://www.new-fukushima.jp/monitoring.php/)を分りやすく公開している。国の基準に対して、県下はどうなのか。消費者が知りたい情報を簡単に検索できるようにした。
今回の1泊2日のモニターツアーで活躍したのは内閣府の「地域密着型インターンシップ研修」事業で素材広場に集まった12人の研修生たちだ。愛媛や新潟、京都、大阪、愛知など、県外から学生たちが会津に集まり、生産者や宿泊施設という現業を通して地域活性化を学んでいる。
「我われは普段通りの生活をしている。本音を言えば復興や支援ではなく、会津の魅力を伝えて大勢の方にお越しいただきたい」。行程中そんな声も聞いた。ツアーでは、生産者の取り組みを通じて、現状を伝えるとともに、伝統工芸を生かした新しい提案もあった。インターンシップ生の例など、生産者への信頼や、新しいもの、取り組みへの興味が会津をはじめ福島県へ出向く動機になればと思う。