規制緩和 ― “素人”はボランティアに徹すべき

 現在、「2020年の東京オリンピックに向けて訪日外国人観光客の増加に備えて……」という切り口から、ホテルの客室不足などを理由に「民泊」サービスなど、さまざまな規制緩和が行われているが、現状の訪日外国人の増加と、東京五輪はそこまで大きくリンクしているわけではない。むしろ、円安やビザの緩和などによって海外から訪れやすくなったことの方が大きい。もちろん、2020年のオリンピック開催期間前後は、一時的に大幅にインバウンドが拡大するだろうが、すべての目標や計画を、「2020年」に焦点を定めるのは、あまりに危険な気がする。

 確かに、「オリンピック」は多くの人を熱狂させる“夢のある”一大イベントである。しかし、だからといって「東京五輪に向けた取り組み」ならば、なんとなく素通りが許される空気に、少し違和感を覚える。

 さて、民泊もそうだが、米国の配車サービス最大手ウーバー・テクノロジーズは、トヨタ自動車との提携に加え、フィアット・クライスラー・オートモービルズとの提携交渉を進めているとの報道があった。

 6月10日の朝日新聞の記事では、今後、ライドシェアが進めば自動車業界はクルマが売れなくなるため、「運転手にトヨタのクルマをリース形式で貸す」など、市場動向を先回りした動きが活発化している。また、米国の小売り最大手のウォルマート・ストアーズは、ウーバーの運転手に、食料品や日用品を運んでもらう配送面での提携を行うという。規制緩和されても、強者は先手を打ち、独占化を進める構図が一層際立っている。

 「シェアリング・エコノミー」(共有型経済)の考え方が、世界的な流れとして間もなく日本にも本格導入され、浸透していくだろう。「他人に料理を作ってあげたい人」と「食べたい人」をマッチングする「キッチハイク」というサービスも現れた。「自慢の料理でお金が稼げる」という謳い文句だ。

 宿泊業や運送業、そして料理業界までも、素人であっても利益を得て、商売ができるという仕組みになる。通訳案内士の規制緩和も決まり、観光業界はこれまでに経験したことのない、未知の社会構造へと進んでいくことになる。

 そうなれば、これまでさまざまな規制を受けてきた“プロ”は当然、納得するわけがない。

 シェアリング・エコノミーの社会が本格化しても、旅館やホテル、タクシー、レストランの業態は存在し続ける。では、素人が提供する有償のマッチングサービスと、既存のプロのサービスとの二者択一の際、何を選択の基準とするだろうか。

 例えば、素人だが高い評価を受けて料理を提供する人は、もはや“素人のスターシェフ”である。おかしな感じだが、そうなる。また、規制緩和される通訳案内士の資格を持っているガイドよりも、一生懸命努力している素人のガイドの方が「レベルが高い」ケースも、なかには出てくるかもしれない。

 プロと素人の差は、なにか。仕事に対する責任と覚悟だ。素人のアイドルもいるが、私は素人が醸し出す“ユルさ”にお金を出す気になれない。「素人はお金を取るべきではない」と本心では思っている。「ボランティアに徹しろ」である。プロの凛々しい「覚悟」にお金を払いたい。その意味でも法整備が必要だ。

(編集長・増田 剛)

“民泊”最終段階へ、次回、最終取りまとめ

第12回検討会のようす
第12回検討会のようす

 次回、最終報告書取りまとめへ――。厚生労働省と観光庁は6月10日に12回目の「民泊サービス」のあり方に関する検討会を開いた。今回の検討会では、6月2日に閣議決定された「規制改革実施計画」について事務局側から説明があり、それらを踏まえたうえで、次回の検討会において最終報告書の取りまとめを行う予定であることが明らかになった。今年度中の法案提出に向け、最終段階に入った〝民泊〟。検討課題も多いなか、今後どこまで既存の旅館・ホテルとの調和がはかられるのだろうか。
【松本 彩】

 6月2日の閣議決定を受けて、今回新たに「民泊サービスの制度設計(案)」に所管行政庁に関する項目が追加された。事務局側からの説明によると、現段階では正式な所管行政庁は決定していないが、「住宅を活用した宿泊の提供という位置づけであること」、「感染症の発生時等における対応が必要であること」などを鑑みた場合、国レベルでは国土交通省と、厚生労働省の共管となる可能性が高く、また地方レベルにおいても関係部局が複数にまたがることが想定されるとし、今後関係部局間で、情報連携がはかられるよう整理していく旨を伝えた。

 さらに家主居住型の民泊サービスの提供において事務局側から、営業の自由や、インターネットやSNSでの募集展開などとの兼ね合いから、住宅提供者自らが利用者を募集する場合、仲介事業者を必ずしも利用しなくてもよいものとして取り扱ってはどうかという提案がなされた。

 この提案に対し構成員の中から、家主不在型に関しても同様の扱いとするのかという問いが投げかけられ、事務局側は「仲介事業者との関係においては同様の方向性もあり得る」との見解を示したが、構成員たちからは「家主不在型に関しては、管理規約に違反していないかなどを確認させる意味でも、仲介事業者の利用を義務付けるべき」との声が挙がった。

 そのほか、旅館業法の改正案について事務局側は、前回までの検討会での意見を踏まえ、近年旅館・ホテルの線引きが難しくなってきていることから〝営業許可の一本化〝を提案。構成員からは再度旅館業と賃貸業の区別を明確にしたうえで、時間をかけて話し合っていくべきとの意見が出された。

九州復興支援を一丸で、田川会長が決意表明(JATA)

田川博己会長
田川博己会長

 日本旅行業協会(JATA)は6月9日に、品川プリンスホテルで行われた日本観光振興協会の情報交換会で、九州観光復興支援の決意表明をした。同協会の田川博己会長が、日本政府観光局(JNTO)や旅行会社、航空会社、鉄道会社、施設運営者を代表するかたちで行い、復興に向け一丸となって取り組む姿勢だ。(関連7面)

 田川会長は「道路も含めた正確な情報を発信して、観光需要の早期回復をはかり、秋の行楽シーズンにつなげる」と語り、社会に向け冷静な対応をするよう求めた。また、インバウンドについても「観光業界が連携し、正確な情報発信と効果的な宣伝活動を行っていく」と熱く語った。
 
 
 

下呂温泉のポスター

 艶やかな女性とともに下呂温泉の名所が描かれた下呂温泉の観光PRポスターを知っているだろうか。下呂の温泉街のノスタルジックな雰囲気にピッタリなこのポスターに、今年大きな変化が起きた。

 ポスターは1984(昭和59)年から昨年までの31年間、某日本酒メーカーの「河童」のイラストなどで有名な漫画家・小島功氏が制作。昨年4月に87歳で亡くなり、今春を最後に、観光客をはじめ多くの人に愛された下呂温泉のポスターの歴史に幕が閉じた。

 そしてこのほど、新たな下呂温泉のポスターが発表された。制作はイラストレーター・カスヤナガト氏。色調は大きく変化したが、過去のポスターを踏襲したデザインが実に嬉しい。変化と歴史の両面を感じるポスターから、下呂温泉の今後の展開に注目したい。

【長谷川 貴人】

熱気球の街のスパイス

 毎年秋にアジア最大級の熱気球大会を開催する“熱気球の街”佐賀市に今年10月、熱気球のフライトシミュレーターなどが楽しめる「バルーンミュージアム」が誕生する。

 館内では、280インチの大画面で臨場感あふれる映像を放映するほか、日本国内における熱気球の歴史や競技の楽しみ方なども紹介。目玉となるフライトシミュレーターは、世界最高レベルのクオリティでパイロット気分が味わえるという。オリジナルグッズをそろえたショップや、地元の人気カフェも併設され、市内散策時の“ちょっと休憩”的利用も大歓迎だとか。

 佐賀では19年ぶりとなる熱気球世界選手権が10月28日に開幕するが、行かれる方はその前にちょっとミュージアムまで。そのひと手間が大会をより楽しくするスパイスとなるはず。

【塩野 俊誉】

名称独占のみを存続、制度設計や課題を議論(通訳案内士)

6月13日の検討会
6月13日の検討会

 観光庁は6月13日、東京都内で第14回「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」を開いた。「通訳案内士の業務独占規制を廃止し、名称独占のみ存続する」ということが、「規制改革会議」の答申を受け、6月2日に閣議決定された。これを踏まえ、同検討会は今までの議論から大きく舵を切り、今後の制度の方向性や制度設計、懸念される課題など議論した。

 観光庁は制度見直し後の論点として(1)国家資格としての品質の確保(2)有資格者と無資格者の差別化――の2つを挙げた。このなかで、現実の業務に即していない資格試験の変更や一定期間ごとの更新制と研修の導入などが、今後の検討の方向性として提示された。

 一方、全国通訳案内士団体からは制度に関する要望書が提出され、同団体も品質の確保と差別化を要望し、さらに具体的に、グレード制の創設やスキルアップの支援策を講じるなどの意見があった。そのほか、悪質なガイドや業者に対する対策の強化などが要望された。今後も議論を重ね、今年度の通常国会までに法案をまとめ提出する。

 通訳案内士制度は創設から60年以上が経過した。現行の案内士の4分の3は大都市部に集中し、3分の2は英語でのガイドに限られるという2つの偏在がある。また全国で1万9千人を超える登録者のうち、定期的に活動しているのは1割弱といわれる。このような状況で、訪日客の増加およびガイドニーズの多様化に対応するためにも、今後の検討会で議論される一つひとつが重要となってくる。

外部から不正侵入、個人情報流出の可能性(JTB)

会見に臨む髙橋社長(中央)
会見に臨む髙橋社長(中央)

 JTBは6月14日に、記者会見を開き、子会社であるi.JTBのサーバーへの外部からの不正アクセスが発生、最大約793万件の個人情報が流出した可能性があると発表した。髙橋広行社長は陳謝するとともに、「今は、二次被害の拡大を防止すべく、あらゆる手立てを講じることが責任だ」と語り、解決に向けた強い決意を示した。

 流出した情報は、2007年9月28日から16年3月21日まで「JTBホームページ」と「るるぶトラベル」、「JAPANican」のほか、オンライン販売提携先サイトから旅行商品を予約した利用者のもの。氏名や住所などのほか、パスポート番号も、一部には含まれている。

 海外からの「標的型メール」を受け、子会社社員が添付ファイルを開封したことに起因した流出。今後、同社は髙橋社長をトップに事故対策本部を設置し対応にあたる。現在、情報の悪用など、被害報告は届いていない。

広報センター開設、ブランドイメージ確立へ(九州観光推進機構)

正確な情報を発信
正確な情報を発信

 九州観光推進機構(石原進会長)は6月1日、九州ブランドイメージ確立のため、機構内(福岡市中央区)に広報、マーケティング、戦略構築を担当する「九州観光広報センター」を開設。同日に石原会長らが出席して開所式が行われた。

 センター長には機構副本部長の村岡修治氏が兼任。海外担当の若林宗男副センター長などスタッフは4人でスタートし、7月から5人体制となる。

 石原会長は「2005年に機構が発足し、九州一体で観光振興に取り組み12年目になるが、戦略的機能やメディア広報機能が足りない。沖縄や北海道と比べブランドイメージの確立が出来ていない」と課題を指摘。「総力を挙げてブランドイメージ確立に注力し、観光戦略を強力に推進するため、マーケティングや7県観光情報の支援化を進めていきたい」と広報センター設立の意義を強調した。

 また、村岡センター長は「震災でやるべきことが明確になった。正確な情報と元気な姿を発信していく」と意気込みを語り、「データに基づいたマーケティングと戦略の構築が使命」と抱負を述べた。

 センターでは、ITを活用した発信として「九州観光復興ポータルサイト」を立ち上げ、震災後の観光地の元気なようすを発信していく。

 コンテンツ第1弾として各県のイベント情報、震災関連情報、交通復旧情報など伝える「九州の観光掲示板」。旅館の女将やボランティアガイドなどの「人」に焦点を当てた「頑張ってます、九州」、物産を販売する各県サイトと繋ぐ「物産サイトバナー」で構成する。

世界基準へ、一段と、旅行会社と関係強化・改善(OTOA)

(左から)速水氏、ホルト氏、大畑氏、荒金氏
(左から)速水氏、ホルト氏、大畑氏、荒金氏

 日本海外ツアーオペレーター(OTOA、大畑貴彦会長、147会員)は6月8日、2016年度通常総会を霞が関ビルディング(東京都・千代田区)で行った。今年度は、セミナーを通じての法令順守の徹底や会員への新着情報の発信を重視。ツイッターを活用し、ツアーオペレーターの認知向上もはかる。各旅行会社との関係については、グローバルスタンダードを標語に、強化と改善に一段と力を入れる。

 総会冒頭、大畑会長は近ごろの事故やインバウンド状況に触れ、「一部の悪質な業者の行為によって会員は大変迷惑している。今後、協会会員は、安全管理の徹底をはかり、質の高いサービスの提供に努める必要がある」と述べるとともに、「観光産業を支えるのは、多くの業種による協働である。そのことを、関係者すべてに訴えていく」と強調し、社会における協会会員の地位と認知のさらなる向上をはかる考え。

 これを受け、来賓の西海重和観光庁観光産業課長は、「ツアーオペレーターの認定制度に関する議論もあるなか、今後、協会会員の活躍の場について、法整備を含め真剣に考えていきたい。ぜひ、皆様の強いネットワークを活かして、インバウンドなど新しい分野にも取り組んでほしい」と激励した。

 総会後のプレスインタビューには、大畑会長、荒金孝光副会長、ゲライント・ホルト副会長、速水邦勝専務理事の4人と媒体各社が参加。

 長年、協会会員と各旅行会社との間にある温度差を埋める努力を重ねてきたOTOA。「近年の感触など、具体的な変化はあるのか」という記者からの質問に対し、荒金副会長は、「中国人観光客が全世界に及ぶなか、旅行会社側が、ツアーオペレーターの要望に耳を傾けざるをえないことも多くなってきたことは確かだ」と述べ、世界的な旅行潮流を受け、現地オペレーターの意見が尊重されはじめたとの認識を示した。

 大畑会長は、「取り引きに関して言えば、我われ自身が襟を正さなくてはならない部分もある」と述べ、問題に対して主体的に向き合うことで改善できる部分はあるとの考えを示すとともに、「小規模で運営する協会会員も多く、その場合に関しては、旅行会社の方から歩み寄るかたちで、取り引き慣習などを改善すべき」ときっぱり語った。

 速水専務理事は、「大部分の旅行会社とは良好な関係を築いている。一方、そうではない会社も存在する」と述べつつ、「今年度は、協会から講師を派遣するJATAのニューデスティネーションセミナーで、海外旅行を復活させられるような新しい切り口を持った企画を、プランナーに提案していきたい」と語り、JATAや旅行会社と協力し、魅力的な商品造成に、率先して役割を果たしていく構えだ。

 ホルト副会長は、「10年前と違い、今は完全に個人の力だけで旅行ができてしまう」と語り、ビジネスの大きな変化に注目。世界基準の達成には、観光業界の一致団結が不可欠という認識。

横須賀、呉、佐世保、舞鶴、日本遺産活用へ協議会設立(旧軍港市)

多々見良三会長
多々見良三会長

 神奈川県横須賀市と広島県呉市、長崎県佐世保市、京都府舞鶴市は各市の観光協会、商工会議所などと連合し、「旧軍港市日本遺産活用推進協議会」を6月7日設立した。あわせて規約、会長の承認が行われ、舞鶴市長の多々見良三氏が会長に就任した。

 横須賀市と呉市、佐世保市、舞鶴市には旧帝国海軍の鎮守府が置かれ、日本の海の護りを担うとともに、軍港都市として発展、各市では多くの文化財が保存、利用されている。また4月21日には「鎮守府横須賀・呉・佐世保・舞鶴~日本近代化の躍動を体感できるまち~」として、4市は日本遺産に認定された。

 設立総会で会長に就任した多々見氏は同会で、「今後旧軍港4市が日本遺産ブランドを活かしたさまざまな観光プロモーション事業を行う組織として、旧軍港市日本遺産活用推進協議会を設立した」と設立趣旨を説明し、「日本の近代化の象徴ともいうべき建造物や構造物、水道施設や鉄道などの都市インフラが今なお数多く残り、その一部は今でも現役で活躍している」と述べた。そのうえで「日本近代化の歴史を体験できるホンモノの資産を持つまちとして日本遺産に認定されたことは、まちの成り立ち、歴史そのものが日本遺産として唯一のものであると認められたことで、将来インバウンド観光の候補地として選ばれる観光地として大きなアドバンテージになると期待している」と語った。また「4市の観光振興において何よりも大切なのは4市の住民が自分たちのまちの魅力を見直し、誇りを持って観光客魅力を語ること」だと強調した。

関係者の集合写真
関係者の集合写真

 同協議会では今後、ガイドブックの作製や10月末予定の現地見学会、11月開催予定の首都圏フェステバルなどの活動を行い、4市のPRを行っていく予定だ。