VR産業に熱視線、経産省らがセミナー開く

2018年2月20日(火) 配信 

VRコンテンツセミナーを開催、多くの参加者が集まった

 

VR(仮想現実)などの先進技術を使ったコンテンツ産業に熱視線が集まっている。訪日外国人のコンテンツ関連消費額は右肩上がりで、12年に76億円だったのに対し、16年には529億円まで増加。453億円増の6・92倍と驚異的な伸びを示している。政府もVR関連施策や予算組みに着手し始めた。

 経済産業省が主催し、文化庁と共同で2月20日(火)に「VRコンテンツセミナー」を開いた。経産省を始め、関係省庁らのVR関連政策や予算を説明。コンテンツ産業の現状のほか、今後の方向性を語った。

 国内コンテンツ市場規模は09年から12兆円でほぼ横ばい。海外は14年に67・7兆円だったが、20年までに84・9兆円と、市場の沃野は広がりをみせる。同省が行う過去5年間のコンテンツ海外展開支援事業(J-LOP事業)は、海外における認知度向上、日本ブーム創出に一定程度成功。同事業は13年に開始したが、これまで採択件数は5623件で、海外売上増加額は1916億円と拡大している。

 ただ課題はある。中長期的な課題としては競争の激化と投資不足だ。グローバル化に伴い、国内消費者も海外コンテンツへのアクセスは容易化。需要の取りこぼしが懸念材料となる。クリエーター育成や視野拡大を始めとしたコンテンツ産業全体への投資も不足し、人材を育てる素地が整っていない。

 「今後の方向性としては稼ぐ力の向上とコンテンツ産業の競争力強化を念頭に置く。VR/ARなどの新技術の取り組みを積極的に支援していく」。経産省商務情報政策局コンテンツ産業課山田仁課長は、コンテンツ産業の底上げを支援すると強調した。このほか文化庁、農林水産省、観光庁らも異口同音に「VR関連事業などを促進していく」と話した。各省庁は今後、VR関連予算を組み込み、VR関連施策を加速。VRなどの最新技術を使ったコンテンツ作りをサポートし、新たなにぎわいを創出していく考えだ。

〈旬刊旅行新聞2月21日号コラム〉“シンプル”ゆえの心地よさ 宿とお客が過剰に求め過ぎない関係

2018年2月20日(火) 配信

清潔でシンプルな客室に好感を抱く(イメージ)

 2月中旬に熊本県の上天草市を取材で訪れた。私は同市がすすめる「複合型スポーツ&ヘルスツーリズム事業」の一環で、上天草総合病院で人間ドックを受けたり、タラソテラピーを体験したりと、次号で詳しく紹介するが、生まれて初めての体験が続いた。

 2泊3日の日程の中で、上天草市と長崎県南島原市の間に浮かぶ有明海の小島「湯島」に定期船で向かった。湯島は、「談合島」の異名を持つ。これは「島原・天草の乱」で天草と島原両軍がしばしば会議を開いたために、そう呼ばれている。さらに、この島は猫の島としての顔も持っている。定期船が港に着くと、猫たちが出迎えに来てくれる。長閑な島で人懐っこくて、愛らしい猫たちと触れ合い、癒された時間だった。

 上天草市で2泊した宿は、16畳分の和室だった。トイレと、広縁も備えられていた。やわらかい障子で仕切られた和室はテーブルとエアコン、テレビ以外は何もない、潔いまでにシンプルな部屋だった。畳一面の空間は柔道場のようだった。部屋の中央には白いシーツに包まれた布団が敷かれていた。料理は一転して豪華で、新鮮な海の幸が振る舞われた。

 近年は海外の富裕層などをターゲットにしたラグジュアリー旅館が各地に増えてきた。1泊1人4―5万円するカテゴリーだ。ベッドや布団、アメニティーも高級素材をそろえている。あらゆる局面で一分の隙も見せぬほど「極上の快適さ」を提供する姿勢だ。お客からの要望があれば標準装備としてすべて取り入れていく。必然的に価格は少しずつ上がっていく。

 気がかりなのは、現代の多くの日本人が求める旅のスタイルとの心理的な乖離の広がりである。とくに若い世代では、旅先で利用する宿泊施設は旅館ではなく、ホテルでもなく、小グループで安く泊まれる民泊施設という傾向も耳にする。

 一部の富裕層と違い、多くの旅行者は、旅の予算が限られている。「美味しいものが食べたい」「記憶に残る体験がしたい」など多くの願いの中から、幾つかの贅沢を諦め、妥協していく。この過程で「ある程度の快適性は残しつつも、宿泊費をできるだけ安くしたい」「一点豪華主義でいい」というムードは強くなっている気がする。

 私の持つスマートフォンにはさまざまな機能が付いているが使わない機能も多い。このムダな部分が、常時微かな不快感を残している。自分が求めるものよりも過剰なサービスを提供される不快感も存在するのだ。クルマも家電製品も〝あれば便利〟と想定される機能を標準装備として付け足していく傾向がある。しかし、それは「私個人」ではなく、総体としての〝あれば便利〟である。そして、過剰装備と価格上昇が極限に達すると、今度はその反動として必要最低限なものを備えた、シンプルで手ごろな価格の製品やサービスを求めたくなる。

 宿も記念日などでなかったら、清潔に清掃された客室に、エアコンが効き、真っ白いシーツに包まれた布団が置かれた簡素な空間が、妙に居心地よく感じるときがある。必要最低限の装備であっても、良心的な価格と誠意を持ってサービスを提供すれば、ほぼ問題ない。

 宿とお客が互いを過剰に求め過ぎない関係がいい。その心地よさを再認識した上天草市の旅だった。

(編集長・増田 剛)

〈観光最前線〉瀬波温泉の新ご当地キャラ

2018年2月20日(火) 配信

瀬波温泉の新観光PRキャラクター「せなみん」

 新潟県村上市・瀬波温泉の大観荘せなみの湯で2月5日、瀬波温泉の新しい観光PRキャラクターのお披露目会を開催。一般公募311通の中から新キャラクターの名前を「せなみん」に決定した。

 胴体は瀬波温泉の一番の売りである真っ赤な夕陽が海に沈むようすと同時に、日本海を温泉に見立てて湯に浸かりまったりしている両方のイメージを表現した。性別不明、生誕地は瀬波温泉地内の某井戸、誕生日は4月9日(瀬波温泉の開湯記念日)、年齢は秘密、血液型は塩化ナトリウム物泉。趣味は夕陽鑑賞と温泉入浴、夢はNHK紅白歌合戦出場で親友はサケリン(今のところ片思い)だ。

 これから県内外を問わず各種イベントに参加していくため、もしも瀬波温泉をPRする姿を見掛けたらぜひ応援してほしい。

【長谷川 貴人】

農山漁村の活性化を 日本ファームステイ協会が設立

2018年2月20日(火) 配信

(左から4人目)平井会長、(右隣り)上山代表理事

 国内の農山漁村の所得向上や地域活性化を目指すため、2月7日に「一般社団法人日本ファームステイ協会」が設立した。平井伸治鳥取県知事が会長を務める。代表理事は百戦錬磨の上山康博社長が務めるほか、農協観光(藤本隆明社長)らが設立発起人に名を連ねている。協会は関係者の調整や品質保証制度の構築などを手掛けていく。

 政府は農林水産省を中心に「農泊」を推進しており、2020年までに農山漁村滞在型旅行をビジネスとして実施できる地域「農泊地域」を500地域創出する目標を掲げている。現在、実践地域として活動しているのは200地域。一方、さまざまな課題も浮き彫りになっており、それらに一元的に応える支援機能が求められてきた。こうしたことを受け、今回日本ファームステイ協会が設立。地域の課題や政府、利用者のニーズへの対応を行っていく。

 同日、東京都内で開いた会見で平井会長は「最近、増えているインバウンドのお客様は美しい日本に出会うのを楽しみにしている。海外では都会の喧騒は珍しくない。海外のお客様が日本に描くイメージや求めるものは富士山などの自然。東京や大阪以外の地方で農泊の推進をするべきだ」と主張した。

 一方、「農泊のキャパシティはなかなか増えない」と課題も指摘。「体験交流型の民泊に光を当てることで、従来の旅館やホテル業の皆さんとは違う需要を開拓できるのではないか」と述べた。

 上山代表理事は農泊を推進するうえでの課題として、グリーンツーリズムなど教育旅行を中心に受け入れてきた経緯があり、現在ニーズが高まっている個人旅行や訪日旅行者の受入体制が整っていないことを言及。「宿泊施設として、衛生面など一定の品質を担保することが中長期的には非常に重要になる」と語った。また、これまではホームステイ型の農泊が主だったが、ヨーロッパ型の家主不在の別荘タイプの物件を増やすため、古民家活用なども必要になるとした。

 協会の活動としては(1)全国の実践地域の課題解決に向けたコンサルタントや人材マッチングなどの支援機能(2)利用者に安全・安心・満足を提供する「品質保証」の仕組み構築(3)利用者の多様なニーズに応える情報発信・プロモーション機能――の3つを柱に取り組む。まずは5月に予定するシンポジウムをキックオフイベントとして、会員の顔合わせを行う。

 会員は農泊実践者を正会員とし、このほか賛助会員や自治体会員などを設ける。英語名は「Japan Countryside Stay Association」。

 役員は次の各氏。

 【会長】平井伸治鳥取県知事【副会長】皆川芳嗣農林中金総合研究所理事長【代表理事】上山康博百戦錬磨社長【理事】岡崎浩巳地方公務員共済組合連合会理事長▽藤本隆明農協観光社長▽清水清男全国農協観光協会代表理事専務▽小松俊樹時事通信社常務取締役【顧問】久保成人日本観光振興協会理事長▽松山良一日本政府観光局理事長

【霧島PR課の取り組み紹介】オウンドメディアの創出 自発的な情報発信をサポート

2018年2月20日(火) 配信

 費用負担を低減し、スピード感あるPRを実行するために。霧島市(鹿児島県)では、〝キリシマイスター〟認定制度や、〝キリシマイチャンネル〟など、住民による自発的な情報発信のサポートに力を入れている。主体はあくまで住民の一人ひとり。市はそのために必要なメディアづくりに専念するべきという考え方だ。アナログとデジタルを問わず、オウンドメディアの創出に力を入れる霧島市商工観光部霧島PR課の取り組みに着目した。
【謝 谷楓】

美坂雅俊氏
(霧島市・霧島PR課、シティプロモーション担当)

 「もちろん、PR動画は地域を知ってもらうためには大切なツールです。一方、どうしても再生回数を求めてしまう傾向が強いことも否定できません。拡散も大切ですが、再生回数が多いというだけで観光客や移住者が増えるとは限りません。面白いといって、消費されて終わりだけではいけないはずです」と、霧島市(鹿児島県)で長年広報に携わってきた美坂雅俊氏は力を込める。広報に従事してきた美坂氏にとって、情報発信の大切さは重々承知のこと。それでも「面白いといって、消費されて終わりだけではいけない」と語るのには理由がある。

 「市の広報誌〝広報きりしま〟の制作に長年携わってきました。読者からのお便りを掲載するスペースがあるのですが、市民の投稿が、子育てや認知症患者を支援する仕組みが整うきっかけとなったのです。広報誌は、住民の思いを実現する役割をも担うメディアなのだと気が付き、その成果をもっと広げるためにはどうすればよいのかと考えるに至りました。広報誌やPR動画といったオウンドメディアの役割を、情報拡散に限定することはとてももったいないことです」。

 地域の良さを再発見し、もっと好きになってもらう。霧島市のファンを作るためのツールとして、オウンドメディアを活用することが必要だという。

 「市では2016年から〝キリシマイスター〟認定制度を設けました。自慢したくなる施設や場所、人など、自分のお気に入りを称賛し、〝マイスター〟に認定するというとてもシンプルな仕組みとなっています。市内のお店の店主らが〝マイスター〟として認定されることもあります。市では名前や施設名を記入できるキリシマイスター認定カードを発行し、思いをカタチにする手伝いをしています」。

 認定カードは切手を貼ればハガキにもなる。〝マイスター〟に認定された施設や人は、受け取ったカードを掲示することで活動や商いの周知を期待できる。

 「認定カードはキッカケづくりの道具に過ぎません。ここのお店が美味しいや、この施設の取り組みがユニークというように、良い面を市民自らに発信してもらうことが真の目的なのです。フェイスブックやツイッター、インスタグラムといった、SNS(交流サイト)上でも行ってほしいと考えています。関わる一人ひとりが共感し、感動できる地域へと霧島市を磨き上げることが重要です。閲覧やクリック数といった情報の拡散を求めるだけでは得られない成果だと捉えています」。

 〝キリシマイスター〟は市民を対象とした取り組みだが、自慢したいという思いや対象があれば観光客でも構わない。霧島市で働き頑張る人や店舗、施設を褒め、発信したいという人が多くなればなるほど、市の魅力は高まるからだ。

 「究極の目標は、行政がPR施策を行わなくても良くなることです。約12万人の市民一人ひとりが、霧島市の良さを発信するのだという意識を持てば、効果は絶大です。PRに掛かる予算の削減や、実行までのスピードアップも期待できます。個々人による口コミ情報は信頼性が高いとも言われていますから、観光客や移住者誘致にも力を発揮していくと考えています」。

 霧島市を訪れる観光客数は年間約700万人。近年増加傾向が続く。昨年12月には「日当山西郷どん村」をオープンした。NHK大河ドラマ「西郷どん」を通じた来訪者の取り込みにも積極的だ。

 「大河ドラマや2020年に開催予定の国民体育大会(国体)による来訪者をターゲットとしたリピーターづくりに活用してほしいですね。昨年12月には、〝ソーシャル日記システム(Social Nikki System)〟をスタートさせました。認定カードを日記帳に変えた取り組みで、日記帳は全部で1600冊(1冊79頁)。市の人口分だけ頁を用意しました。誰もが参加ができる交換日記とすることで、市民同士のコミュニケーションと〝キリシマイスター〟認定制度の浸透をはかります」。

 今年2月には、インスタグラム上で〝キリシマイチャンネル〟を立ち上げ、市民参加型の情報発信を実現した。カードや日記帳、SNSというようにアナログからデジタルまで、さまざまな媒体を取り入れることで、幅広い年齢層の参加を促す。

 「次世代を担う子供たちが、市の魅力を発見・発信できる取り組みにも注力しています。昨年9月には、市の小学生が熊本市内で霧島市をPRするチラシを配布しました。総合学習や修学旅行の一環でしたが、自身らの興味関心に基づき調べた市の情報をまとめ配布することで、市外からの関心と地元愛双方を高められたと考えています。近隣地域からの移住や、成人後のUターン増にもつながる取り組みです。地道ですが、一歩一歩着実に進めて行きます」。

 

維新博第二幕、4月開幕 龍馬記念館リニューアル(高知県)

2018年2月20日(火) 配信

観光説明会のようす

 高知県は1月30日、大阪市内のホテルで旅行会社や報道関係者を集め、観光説明会を開いた。

 同県では歴史観光をテーマにした博覧会「志国高知幕末維新博」を昨年3月から開催中。今年4月21日から来年3月31日まで(予定)を、「第二幕」と位置づけ、県内25会場を設定し、県内周遊をPRする。

 第二幕の目玉となるのが、高知市桂浜に建つ「高知県立坂本龍馬記念館」。リニューアルのため休館していたが第二幕開幕日となる4月21日にグランドオープンする。

 リニューアルでは新館増築と既存館(本館)改修を実施。本館と渡り廊下でつながる新館は地上2階・地下1階の鉄筋コンクリート造りで、延べ床面積は1947平方㍍。坂本龍馬の生涯をたどる常設展示をはじめ、さまざまなテーマで龍馬や幕末維新期に迫る企画展を開催する。

 常設展示室では、龍馬の誕生から江戸での修行時代、脱藩、勝海舟との出会い、薩長同盟、そして大政奉還にいたるまでを貴重な実物資料とともに時系列に沿って紹介する。

 説明会で同県観光振興部の吉村大副部長は、4月20日まで実施中の第一幕の状況について、維新博23会場合計で140万人超(1月25日時点)と、目標を大幅に上回る入り込みがあると報告。「維新博終了後も、魅力ある観光地づくりを進めていく」と強調した。

 説明会終了後は旅行会社と高知県側関係者との個別商談会も行われた。

九州とタイ 観光促進へ タイ観光庁と趣意書締結(九観機構)

2018年2月20日(火) 配信

タイ国政府観光庁と九州観光推進機構が観光促進で調印

 九州とタイ国の観光分野における相互交流の拡大をはかるため、九州観光推進機構とタイ国政府観光庁が観光促進に関する趣意書を締結。2月8日に同機構の石原進会長とタイ国政府観光庁のユッタサック・スパソーン総裁が、タイ国のソムキット・チャトゥシーピタック副首相立ち合いのもと、福岡市内のホテルで署名を交わした。

 同国によると、2017年に日本からタイを訪れた観光客は、過去最高の154万人を記録し、このうち10%が九州からという。

 ユッタサック総裁は「九州市場を重要視して、本気でアプローチしていきたい」と話し、「九州の経済力、人口規模、観光トレンドなど考えたうえで、もう一度福岡事務所を開設したい」と表明。開設時期は、8月1日からスタッフを常駐させ、業務を開始する予定を明らかにした。

 九州観光推進機構の石原会長は「昨年の日本のインバウンドは2869万人で、九州には約500万人が訪れた」と説明。「九州とタイ国が連携して観光交流が一層盛んになるようにしたい」と意欲を示した。

 調印式後には、タイ国政府観光庁の新しいマーケティング・コンセプト「Open to the New Shades」を発表。日本から20―30代女性の市場拡大など、その狙いを説明した。

【元湯 陣屋に学ぶ―(後編)】どうすればシステム化は浸透するのか 幸せに働く旅館になるために

2018年2月20日(火) 配信

庭園を望むレストラン。昼・夜ともに一般客も利用可
【陣屋】神奈川県秦野市鶴巻北2-8-24▽20室▽1918年創業▽1泊2食付き3万5000円~。▽スタッフ40人(正社員25人)▽月曜はランチまでの半日営業、火・水曜日は定休日の週休2.5日制。スタッフ平均年齢33歳で、平均年収398万円。離職3%、有休取得率100%。

 10億円の負債を抱えた2009年に、青天の霹靂から後継を決めた宮崎富夫氏と知子氏。早々にシステムの自社開発を始め、仕事と情報の見える化と効率化を促進。また、ブライダルやレストランから客単価を上げていき、高収益体制へ。3年後からは週休2日制を導入。これがさらなる活気を生み、やる気・人気・業績ともに高い、選ばれる旅館へと変貌した。後編では、最も難しいとされる働く人々の意識改革と、それを促すための具体的な教育を中心に紹介しよう。
【取材・文=ジャーナリスト・瀬戸川 礼子】

 陣屋がシステム化に注力した理由は言うまでもない。旅館の真髄はおもてなしにあり、それを行うのは人間だが、一人ひとりが持つ時間や精神力を含めた能力には限界がある。よって、「人間ならではのおもてなしに力を入れるには、余計な無駄を省くためのシステムが必要」(富夫氏)だからだ。

 しかし、これは誰でも分かっている。問題なのは、分かっていながらシステムを導入できない、または導入しているのに使いこなせないことだ。

 これについてまず肝心なのは、なぜシステムが必要なのかを、幹部からアルバイトまでもれなく伝えることだ。100回は言う覚悟を持とう。

 スタッフ側からすれば、システムが使えるようになったからといって、すぐに休みが増えるわけでも、給料が増えるわけでもなく、面倒が増えるだけだ。

 使ってよかったと実感できるまでには数カ月から数年の時差があり、その間のやる気をできるだけ落としたくない。

 そこで、システム導入の目的を分かりやすく示し、会社のためだけではなく、スタッフにとっても意味のあることだと、事あるごとに説明する必要が出てくる。

 「私もそうしましたが、経営者が率先して使う姿を見せるといいですよね。そうしないと、スタッフはやらされ感が増しておもてなしにつながりませんし、強制されていると思われてしまうと、意見も出なくなります」と富夫氏は注意を喚起する。IT化と教育は2つで1セットなのだ。

情報共有でチームのおもてなし力高まる

 陣屋もすぐにIT化が浸透したわけではない。スタッフ全員にパソコンやiPadを支給するも、使いたがらない人がいた。そこで、システムにログインしなければ給料申請できないなど、使わざるを得ないように知恵を絞った。

 また、日々のさまざまな情報を、部門を越えて全員と共有するために、知子さんは何か会話するたびに言った。「いまのことSNSに投稿しておいてね」、「必ずアップしてね。私も後でコメント出すから」。何回も、何回も、何回も、ひたすら言い続けた。

 「2人で済んだ話も、絶対に投稿してもらうんです。その投稿に対して、私やほかの人がコメントを出し、『見ていますよ』とアピールする。習慣化するには、繰り返し続けるしかありません」

 やがて、スタッフは主体的になり、「〇〇様が客室の懐紙にメッセージを残してくれました」と、写真を添えてアップされたり、「レストラン利用時に、お子さまへのこういうサービスをしたらこんな風に喜んでくれました」ということが、随時、投稿されるようになっていった。すると、「ああ、こういうことをしてあげていいんだ」、「自分もやってあげたい」と、周りが考え出す。

 社内の雰囲気に皆が感化され、部門が協力し合う陣屋チーム全体のおもてなし力も徐々に高まっていった。

 知子さんは言う。「若いスタッフが自分で選んだお皿に、自分でお客さまの誕生日祝いをチョコペンで書き、『これにケーキを盛り付けてください』と、厨房に持って来たりします。うちの厨房は嫌がりません。情報共有のお陰で、みんなでお客さまを笑顔にしようと思えるからです」

 毎日全員が、おもてなし事例のシャワーを浴びていれば、実際の行動が起こしやすく、社風にもなりやすいのだ。

 SNSに投稿することで、たまたまその場にいた人だけではなく、部門の異なる全員が、逐一、同じ情報を得られる。これは前編に記した、言った言わないの水掛け論をなくす以上の効果を生む。前述のおもてなし事例もそうであるし、「こういうことがこう加味されて、こういう結論になった」と、物事のプロセス全体を知ることができるため、思考力の育成にもなるのだ。

 万が一、スタッフの行動が逸脱しそうなときは、富夫氏や知子氏が軌道修正をはかる。これもまた判断材料としてデータ蓄積されていく。

女将の宮崎知子氏。二児の母でもある

木曜の午前中は毎週全体研修会

 月曜日の午後から水曜日いっぱいまで、週休2・5日の陣屋では、まだ顧客がいない木曜日の午前中を毎週、全体研修に当てることができる。午前8―9時はPDCA報告会、9―10時はサービス研修だ。1年間で約50回。何の研修もなかった頃と比べ、明らかな質的成長が見られるという。

 PDCA報告会は、個々の社員が複数ずつ持つ目標に対し、先週1週間、どのように「プラン(Plan)→行動(Do)→確認(Check)→改善(Action)」したかを発表する。時間配分は1人5分(発表3分、ディスカッション2分)で、12―13人が担当。正社員25人の発表が隔週で回ってくる配分だ。

 例えばある社員は、「客室の湯のみの洗い方の改善」を掲げた。陣屋は導線が長いので、洗い場から離れた客室の湯のみをその都度、漂白しては非効率だ。そこで、洗い場が遠い客室の汚れの強い湯のみは、月曜にまとめて漂白するよう合理化した。このように、目標達成に向けてさまざまなPDCAが何十個も考えられていく。

 活気のない組織では、これ以上、自分の仕事を増やさないために改善提案の口をつぐむが、陣屋は逆だ。知子氏は、「うちは遊んでいる時間はないので、言っても言わなくても大変です。どうせやるなら、希望のあるしんどさのほうがいいですよね」と笑う。

 物事を自分の頭で考え、発言(宣言)し、行動する習慣を育んでいけば、たとえ新人でも「こうしたほうがいい」と意見を言うようになる。その環境づくり自体が仕事そのものと言っても過言ではない。

 さて、9時からはサービス研修だ。新人チームとそれ以外の2チームに分かれるが、時間割は共に、座学20分、ロールプレイング30分、まとめ10分とメリハリをつけている。

 ある日の新人チームは、顧客を客室に案内するロープレを行った。具体的な日々の仕事に生きる研修である。

「陣屋コネクト」に1人20グループ参加

 スタッフ全員が毎日、幾度となく目を通す独自システム「陣屋コネクト」。業務プロセスの道具であるだけではなく、仕事ごと、プロジェクトごと、勉強ごとなど、いくつものグループがあって連絡を取り合っている。1人当たり20ほどのグループに参加しているという。

 例えば、「メール添削グループ」がある。新人向けで、謙譲語の使い方から、交渉事まで、メールの手ほどを受ける。

 「1度、イエスと言ったことを、後からノーとは言えませんから、『最初からこういう表現をしておきましょう』、『お客さまへのお願いごとは、やんわり表現しつつも明確に伝わるようにこのように書きましょう』など、具体的に教えます」と知子氏。添削記録は保存され、同僚や次の世代も参考にできる。

 旅館業界の「暗黙の了解」を「明白な規定」としているのも陣屋の特徴だ。ノーショーやキャンセル時の料金規定はホームページに提示し、実際にそれを守っている。

 高齢者から「具合が悪くて行けない」と当日に連絡があった場合でも、事情に共感しつつ、キャンセル料100%の請求書を送付する。

 「個別の事情ごとにキャンセル料をもらったり、もらわなかったりするのではなく、規定通りにします。『私たちはあなたをお待ちしていました』との思いを明確に示したいのです。ただ、電話でキャンセル料のことを伝えますと、8割は『じゃあ行きます』と、おっしゃいます。また、レストラン利用の場合は、特別献立ではない場合に限り、別の日をご予約いただければキャンセル料はいただきません」

 旅館の真髄はおもてなしと先述したが、顧客の都合で泣き寝入りすることは、おもてなしとは違う。キャンセル料については、明るく平然と言うのがコツで、そうした言い回しも、あらかじめロールプレイングで練習しておくという。

■  □

 陣屋では将来、部屋割りをAI(人工知能)に任せたいとしている。AIが土台を作り、知子氏やほかのリーダーが最終判断することで、時短と精度を両立させる。そして、空いた時間で、心のゆとりを得たり、人間にしかできない新しい仕事をしていく。

 前編・後編で紹介してきた、陣屋の「幸せに働くための取り組み」は、近年広く知られるようになり、3人の新卒採用枠に前回は20人の応募があったそうだ。

 辛い仕事を顧客の喜びで解消するマイナスありきではなく、喜びの上にさらに喜びを重ねるプラスありきの場であることが、未来にのぞまれる旅館像ではなかろうか。

将棋対局の場にもなる貴賓室「松風」

 

【特集 No.484】第13回国内観光活性化フォーラム 四国で初開催、約1200人が集う

2018年2月20日(火) 配信

 全国旅行業協会(ANTA、二階俊博会長)は2月14日に、高知県・高知県立県民文化ホールで「第13回国内観光活性化フォーラムinこうち」を開いた。四国地方では初めての開催で、全国47都道府県から約1200人が集った。基調講演のほか、石川県送客キャンペーンと学生による高知県の着地型商品プランコンテストの表彰式を行った。フォーラム終了後には懇親交流会が開かれ、多数の来賓も参加し、盛会裡に終了した。
【平綿 裕一】

高知県から飛躍を 二階会長「リーダーシップを期待」

 二階会長は冒頭、「四国開催は初となる。高知県は多くの偉人を生んだ日本の歴史にとって重要な地。観光旅行産業の発展は高知県から火をつければ、大きく飛躍できるはず。皆様の一層の協力、リーダーシップを期待したい」とあいさつ。

 続けて、昨今の自然災害などについて触れ「全国の魅力ある観光地を内外の旅行者に安心して訪れてもらうには、社会インフラの機能が重要。災害に強い国・地域づくりは、地域の観光振興政策の柱にしないといけない」と訴えた。

 来賓代表あいさつで観光庁の田村明比古長官が登壇。まず17年の訪日外国人旅行者数が2869万1千人、消費額は4兆4161億円で、いずれも過去最高だったと紹介。一方、観光産業の現状を「インバウンドは、需要の増大とともにFIT(個人旅行)化やコト消費化が進んでいる。とくに地方部の質・量両面での受入整備が急務となっている」と分析した。
 

石川県送客CPと学生のプランコンテスト表彰式

 
 昨年の送客キャンペーンは延べ6万人を超え、目標を達成した。最優秀会員賞はビーエス(秋田県)。優秀会員は福島ビーエス観光(福島県)で、準優秀会員は福島観光自動車(福島県)、北日本ビーエス観光(青森県)の2社となった。

 今年4―12月には高知県への送客キャンペーンを行う。目標は3万人。國谷一男副会長は「国内観光交流活性化のモデルケースとして、関係市町村との連携・協力のもと、高知県の魅力を全国に発信してほしい」と参加者に呼び掛けた。

 「学生がつくる高知県の着地型旅行プランコンテスト」では16作品26人の応募があった。最優秀賞は高知県立須崎高等学校3年の女子生徒の「ブラベル~手ぶらで須崎を満喫し、良縁祈願ツアー~」。総評では「自然体験を多く盛り込み、ターゲットも絞り込んでいた。すぐにでも実施できるのではないか」と賞賛が送られた。…

※詳細は本紙1703号または2月27日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

253万人で過去最高に 目標へ受入整備が急務 2017年訪日クルーズ訪客数

2018年2月20日(火) 配信

訪日クルーズ旅客数と対前年増減の推移

 国土交通省はこのほど、2017年の訪日クルーズ旅客数は前年同期比27・2%増の253万3千人で過去最高だったと発表した。クルーズ船は、寄港地を中心に1度で多くの観光客が訪れ、地域への消費額が増えるなど期待は大きい。20年の500万人達成に向け、受入環境の整備などが急務となる。

 クルーズ船寄港回数は前年比37・1%増の2765回で過去最多。このうち、外国船社が運航するクルーズ船寄港数も、2014回で過去最高を更新。要因として、同省は「中国からのクルーズ船の寄港が増えた」と推測する。港湾別では博多港が326回で3年連続1位となった。次いで長崎港(267回)、那覇港(193回)と続く。

 政府は受入環境の整備を促進している。昨年に地方自治体向けに、移動式の搭乗橋設置などに対し、経費の補助制度を創設。17年度で33港に計10億円以上を補助した。

 官民連携の動きも進んでいる。昨年に港湾法を一部改正。国が指定した港湾で、岸壁の優先予約を可能にした。これまで優先予約はできず、ツアー造成に支障があった。

 今後は港湾管理者が拠点の形成計画を作成したあとに、民間事業者と協定を締結。その後、船社に優先使用を認め、計画に沿って施設整備などを行ってもらう。

 20年の500万人達成には単純計算で、約83万人ずつ増えていけばいい。ただ直近3年間をみると、15年は前年比で約70万人増、16年は同87万6千人増、17年は同54万1千人増と、安定しない。

 近年10万トン級の大型客船の寄港も増えている。国内の港湾は旅客船専用岸壁が限られているなか、潜在的な需要の取りこぼしを無くせるかがカギとなりそうだ。