回復傾向も25%減、9月の訪日外客数

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)が発表した2011年9月の訪日外客数推計値は、前年同月比24・9%減の53万9千人。東日本大震災の発生後4月を底に、減少幅は徐々に縮小している。

 各市場の動向をみると、韓国は同36・9減の12万2400人。9月には福島県以外への渡航自粛勧告が全面解除され、報道も徐々に沈静化し、減少幅は縮小傾向にある。

 3―8月まで前年同月比4割台の減少が続いた中国は、同18・0%減の11万2600人と1割台の減少まで回復。新聞や雑誌、主要検索サイト上で日本の特集記事が掲載され、日本各地のようすや放射能測定器で各地の放射性物質の値を計った動画などを中国版ツイッター「微博」で発信された。また、9月1日に中国人個人観光査証の発給要件が緩和され、さらに訪日旅行需要が喚起された。

 台湾は、9月までに福島県以外からの退避や渡航自粛の勧告が全面解除され、同17・5%減の8万4800人となった。北海道・大阪・福岡・沖縄への旅行は8割から前年並みにまで回復。

 香港は2万8500人と、同15・6%減にまで回復。被災地から離れた沖縄へのツアーは好調で、訪日旅行需要の回復にプラスに作用。7月から再開された東北へのツアーにより、日本の安全性などに関する口コミ情報が発信され、訪日への安心感醸成につながっている。

 ビジットジャパン緊急事業で広告掲載や訪日旅行に関するテレビ番組が複数放送されたタイは同7・2%増の1万3700人、インドは同9・4%増の5900人と震災後初めてプラスに転じた。

 そのほかでは、依然として欧米を中心に2―4割の減少が継続。しかし、ともに4割以上の減少だったフランス、ドイツでは10ポイント以上の回復をみせ、それぞれ26・8%減、32・4%減まで持ち直してきた。

 なお、出国日本人数は、前年同月比6・7%増の164万5千人で、3カ月連続の増加となった。 

被災地の修旅を招待、補助金で10校、交流も

  愛媛県は全国で初の試みとして、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島県の高校の修学旅行の費用を一部支援し招待する事業をスタートさせた。10月29日から来年3月まで10校1250人を受け入れる。

 震災直後の4月8日に「えひめ愛顔(えがお)の助け合い基金」が設立。県が2千万円を拠出し、企業や団体など民間から約1億9200万円の寄付金が集まり、合計で2億円を超えた。有識者らで構成される基金運営委員会の提言のもと、被災者などのニーズに即した支援、愛媛らしい“思いやりあふれる”支援に活用しようと検討した結果、メイン事業として1億1250万円を「被災地学校修学旅行支援事業」に投入することが決まった。

 愛媛県に宿泊する場合、1人1泊7万円、2泊以上の場合、上限9万円を助成する。これにより、宿泊費や往復の交通費のほとんどをカバーすることができる。

 愛媛県東京事務所・観光物産振興課の幸原健太郎課長は「多くの学校で修学旅行を諦めていた。福島県の南相馬市や浪江町、双葉町などの学校では、原発事故で各地にバラバラになっており、『クラスメートが修学旅行で顔を合わせることができる』と喜んでもらっている」と語る。

 プログラムとしては、地元の高校との交流をすべての学校に組み込んだ。「地元の高校生にとっても、人を支えることの尊さを学ぶ貴重な機会となることを期待している」と幸原課長は話す。そのほか、みかん狩りや砥部焼きなどの体験学習も予定している。

 10月29日には、岩手県の大槌高校が第1陣として到着し、中村時広知事も歓迎セレモニーに出席する予定という。

観光庁は26億4600万円、震災後の国内復興を軸に

 このほど閣議決定された2011年度の第3次補正予算によると、観光庁関係は合計で26億4600万円。震災後の国内全般の復興を軸に、国内観光活性化緊急対策に6億5千万円、外客誘致緊急対策に13億8900万円、広域連携観光復興対策(東北観光博)に5億5千万円、地域再生のための観光業支援に5700万円を投じる。

 10月21日に開いた専門紙との会見で、観光庁の溝畑宏長官は震災後の国内観光について「ゴールデンウイークと夏休みは我われが思った以上に回復したが、被災された東北や北関東に加え、インバウンドの影響を受けた国内の各地は、現状認識としてまだ厳しい状況にある」と述べ、今回の補正の主旨を語った。

 国内観光活性化緊急対策事業のうち、環境整備には1億5千万円。休暇取得と外出・旅行促進に向けて企業に働きかけをする「ポジティブ・オフ運動」を実施する。このほか、機運醸成は2億円、需要創出は3億円。需要創出はモニターツアー事業を実施する。詳細は未定としつつも、「着地型に取り組んでいる地域や台風の被害を受けた地域などを重点的に行いたい」と意向を述べた。

 外客誘致緊急対策事業は10月から再開した15市場へのプロモーションをより本格化するため、5大市場(韓国・中国・台湾・米国・香港)に集中して展開する。プロモーション、旅行会社・メディア招請事業は5億6100万円、国際会議等のキャンセル防止事業は2800万円を計上。要望の高い言語バリアフリー事業などの受入環境整備事業は8億円をあて、全国26拠点で実施する。

 広域連携観光復興対策事業は、東北観光の復興のため、東北地方全体を博覧会場に見立てた「東北観光博」を実施する。溝畑長官は「東北観光は地域によって格差が出ている。また、冬は東北にとって厳しい時期になるので、効果的な集客を実現したい。今回の補正と、現在要望中の来年度予算が通れば丸1年間取り組みが実現できる」とし、「東北に行こうと言い続けることが大切だ」と力を込めた。

 さらに、「地域再生のための観光業支援事業」は被災3県(岩手・宮城・福島)と風評被害が認められる北関東(群馬・栃木・茨城)で、観光業が中心となる地区の再生を目的に、観光地域づくりのための専門家などを派遣する。 

野田首相に観光復興要請、東北の女将12人が直談判

東北女将12人が野田首相を囲んで
東北女将12人が野田首相を囲んで

 東北6県の旅館女将12人は10月21日、首相官邸を訪れ、野田佳彦首相に元気な東北をアピールするとともに、東日本大震災以降入込みが落ち込んだ観光客の回復に向け、国の支援をお願いした。また、東北観光推進機構からは推進本部長の齋藤幹治氏、副本部長の三浦丈志氏らも女将と同行した。

 メンバーを代表して福島県穴原温泉の畠ひで子吉川屋女将は「旅行の自粛ムード、風評被害で福島県はもとより、東北全体の観光客が戻っていない。ぜひ、東北の観光復興へ全力をあげていただきたい」と要請した。

畠女将が代表して訴える
畠女将が代表して訴える

 これを受けて野田首相は「東北で国際会議などを積極的に開催したい」と語った。

 同日、国土交通大臣政務官の津島恭一氏、室井邦彦氏のほか、観光庁の溝畑宏長官も訪問し、東北の観光支援を訴えた。

 今回参加した女将は次の12人。(敬称略)

 【青森県】石澤照代(花禅の庄/黒石市)▽中山瑶和子(青森国際ホテル/青森市)【岩手県】大澤幸子(ホテル対滝閣/湯本温泉)▽平栗カヨ子(松川荘/松川温泉)【秋田県】佐藤京子(妙乃湯/乳頭温泉)▽池田佳子(黒湯温泉/乳頭温泉)【宮城県】磯田悠子(ホテル松島大観荘/松島町)▽高橋知子(篝火の湯緑水亭/秋保温泉)【山形県】佐藤洋詩恵(日本の宿 古窯/かみのやま温泉)▽佐藤まり(桜桃の花 湯坊 いちらく/天童温泉)【福島県】畠ひで子(匠のこころ吉川屋・穴原温泉)▽片桐栄子(ホテル華の湯/磐梯熱海温泉)

溝畑観光庁長官に東北観光の現状を報告
溝畑観光庁長官に東北観光の現状を報告

No.294 何が仕事や就活に生きる? - 大学で観光を学んだ若手

大学で観光を学んだ若手
何が仕事や就活に生きる?

 民間企業が求めている人材像と、高等教育で教える学問としての「観光」のズレが指摘されて久しい。観光系大学を卒業し、業界に就職する割合は2割程度という数字も発表されているが、裏を返せば2割の人が業界で活躍していることになる。そこで、大学で観光やまちづくりを学び旅行会社や宿泊施設などで働く20―30代にスポットをあて、大学での学びの何が現在の仕事や、就職活動に生きたか聞いた。

【飯塚 小牧、沖永 篤郎】

 

 

<在学中に資格の取得を 業界の課題や裏事情ほしい>

   ―日本旅行・土谷 政樹さん

 

<海外インターンで奮起 何か1つやり遂げる経験を>

   ―ホテルオークラ東京・長屋 美穂さん

 

<まちづくり見学で感動 人間としての感受性向上を>

   ―ピース・佐藤 擁さん

 

※ 詳細は本紙1440号または日経テレコン21でお読みいただけます。

「手段」か「目的」か ― 「血の通った」一途さを(11/1付)

 東京の表通りを歩くと、ファーストフードや、牛丼チェーン、居酒屋チェーン店が看板を連ねている。ある程度の商圏を持つ目抜き通りは全国どこでも同じようなチェーン店が並んでいるのではないだろうか。チェーン化できるということは、多くの庶民の胃袋やお財布を満足させている“通知表”なのだろう。過酷な競争の中で利益を出す経営手腕やコストを徹底的に削減する情熱に敬服してしまう。ほとんどのチェーン店は格安で、味だって悪くない。「本当にこれで経営できるの?」と心配になるほどだ。それでも利益を出し続け成長を続けている。外食サービス産業も「やり方によっては儲かるのだ」ということを証明している。

 一方、長年おじいさんやおばあさんがやっている店がある。決して看板が煌びやかではなく、建物も前世紀的である。おそらく、飲食店を始めるようになってから「全国チェーン展開をしよう」などと夢にも思ってこなかったような外観。店内はおじいさんが厨房で、おばあさんが接客をしているような食堂である。宣伝もしないので、来たお客さんを笑顔で迎えるだけだ。愚鈍に感じることもある。だが、チェーン店が並ぶ大通りを歩くたびに、何かひっかかるものがある。半分素人のような店員でも調理できる料理。もし、その料理の状態がおかしい場合でも、ちゃんと確認できるだろうか。客に出す料理に対して全責任を負うことができるだろうか。少し前に焼き肉チェーン店で食中毒を出して社会的な問題となったが、急成長と引き換えに何かを犠牲にしなければ、莫大な利益が出ないように感じるのは気のせいだろうか。

 「食堂のおじいさん」と比べて経営的なセンスがケタ外れに優れているがために、自社のチェーン展開の拡大が最大の命題となり、ライバル店が10円下げれば、こちらが20円下げる。あっちの店が2店出店すれば、こっちは4店出店する……と血眼になってしまわないか。

 お客にごはんを作ることは、「手段」なのか、「目的」なのか。同じ食べ物屋なら、経営センスが抜群な男や女が出す料理よりも、千年一日のごとく、金儲けなど考えたこともない、一途なおじいさんやおばあさん、にいちゃんが作った「血の通った」料理を迷わずに選ぶ。理由は、お金と仕事の優先順位の違いだ。

(編集長・増田 剛) 

ミシュランガイド関西版、新たに奈良の25軒が星獲得

奈良の星獲得25軒
奈良の星獲得25軒

 日本ミシュランタイヤ(ベルナール・デルマス社長)は10月18日、レストランや宿泊施設の格付け本「ミシュランガイド京都・大阪・神戸・奈良2012」の内容を発表した。「関西版」の出版は今回で3回目で、新たに対象都市となった奈良県から最高評価の三つ星が1軒、二つ星が2軒、一つ星が21軒選ばれた。

 今回掲載される385軒のうち、レストランは296軒、ホテルは48軒、旅館は41軒。新たに3軒のレストランが三つ星を獲得し、奈良エリアから日本料理の「和 やまむら」(奈良市)、大阪エリアから日本料理の「弧柳」(大阪市)とフュージョン料理の「Fujiya1935」(大阪市)が昨年の二つ星から三つ星に昇格した。

 関西全体の三つ星獲得店は京都7軒、大阪5軒、神戸2軒、奈良1軒で、世界の三つ星レストラン101軒のうち15軒が関西のレストランとなった。

 二つ星はレストラン59軒と京都の旅館「要庵西富家」「美山荘」が選ばれた。一つ星はレストラン222軒と、京都の旅館「柊家」、有馬温泉の旅館「欽山」の2軒が選ばれた。

 また新カテゴリーに韓国料理が加わり、韓国料理店「ほうば」(大阪市)が一つ星を獲得した。

 奈良県新公会堂で開かれた出版記念会見でベルナール・デルマス社長は「1300年余りの歴史がある古都・奈良は、京都、大阪、神戸と同じように素晴らしい食の街。まさに『奈良に旨いものあり』です」と述べ、会場は拍手に包まれた。

 ガイドは10月21日発売で日本語と英語版を発行。価格は2520円。

東京都内で初認定、貸切バス安全性評価(はとバス)

坂口 哲也 団体営業部部長
坂口 哲也 団体営業部部長

<利用者の指標に>

 はとバス(東京都大田区)は8月19日、日本バス協会の貸切バス事業者安全性評価認定を受けた。第1次の認定事業者21社のうち、東京都内では初となる。今年度から運用が始まった安全性評価認定制度は、安全確保への取り組み状況が優良なバス事業者を認定。利用者に対して事業者の安全性を「見える化」することにより、選択する際の指標となることを目指す。

 同社は、ハード・ソフトの両面から安全性に対する取り組みを徹底している。ハード面の取り組みの1つが運転士のアルコールチェック。始業時および終業点呼時には必ず実施し、宿泊業務など遠隔地においてもモバイル型の装置で同様のチェックができる。バスの整備はすべて自社工場で行う。法律で定められた基準を上回る独自の整備基準を設定し、24時間体制で整備にあたる。

 ソフト面においては、安全運行のための講習会や接遇研修などを定期的に実施。また、国土交通省が定める「運輸安全マネジメント」に基づいて独自の安全基準を制定し、これに沿った取り組みを行っている。乗務員、バスガイドはすべて自社で養成した社員というのも強みだ。

 同社の観光バス事業本部団体営業部の坂口哲也部長は、「これまでお客様からは、どのバス会社が本当に安全なのかをはかる基準がなかった。今回の安全性評価認定制度は安全を求めるお客様のバス会社選定の基本的な目安となる」と話す。すでに安全性評価認定の効果は現れ始めている。貸切バスの需要が多い九州からの教育旅行では、現地の旅行会社が「生徒の安全を確保できる安心・安全なバス会社」を売りに、呼び込みに活用している。

 日本バス協会は、安全性評価認定制度の運用について、貸切バス事業者の安全性向上に資するとともに、貸切バスの健全な発展をはかることも目的とする。とくに2000年2月に実施された貸切バス事業の規制緩和以降、新規参入する事業者が増加。なかにはずさんな安全管理から、死傷事故など重大な事故につながるケースも出てきていた。安全対策の充実は業界全体の課題だった。坂口部長は「都内では初の認定をいただいた。業界をリードできるように安全を積み重ねていきたい」と話す。

 安全性評価認定制度の評価項目は、安全性に対する取り組み状況、事故や行政処分の状況、運輸安全マネジメントの取り組み状況など。申請にあたっては、事業許可取得後3年以上経過していることや、法令の順守、過去2年に死傷事故、過去1年に転覆などの事故、悪質違反による事故が発生していないことなどの条件を満たさなければならない。8月22日時点で236社の申請があり、バス協会は、順次審査・認定を行っている。

 認定を受けた貸切バス事業者は、バス車両貼り付用の「SAFETY BUS」シンボルマークのステッカーが交付される。初認定で1つ星。2年ごとに更新申請し、取組み状況により星が追加され、最高は3つ星となる。

「100選」の中間集計 2回目

  「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」。37回目の投票が今年も10月1日から始まった。締め切りは10月末日。全国の旅行会社からの投票に基づき、「ホテル・旅館100選」と「観光・食事、土産物施設100選」および「優良観光バス30選」をそれぞれ選出する。「ホテル・旅館100選」の中間集計の2回目を紹介する。(順不同)
※本紙10月21日号に掲載

「地球まるごと私の仕事場!」、ツアコンの専門性紹介

 日本添乗サービス協会(TCSA)はこのほど、協会設立25周年を記念して、専門職ツアーコンダクターの仕事をアピールする書籍「地球まるごと私の仕事場!」を発行した。TCSA会員一押しの20人のツアーコンダクターへの詳細なインタビューで、添乗の仕事の魅力や裏の苦労話、人生観までを紹介している。

 TCSAは「ツアーコンダクターが一般的にお世話係的イメージを持たれているのは大変残念。日ごろは黒子に徹しているツアーコンダクターに光を当て、リアルな姿やより高い専門性を理解してほしい」と同書への思いを込める。

 インタビューのほか、現役のツアーコンダクター400人に聞いたアンケートから「とっておきの旅のスポット」なども紹介。「一生に一度は行ってみたい国は」などのテーマ別でそれぞれのベスト5をランキングしている。海外添乗を主とするツアーコンダクターもいるなか、一番好きな国のアンケートのトップが「日本」になるなど興味深い結果も掲載している。業界を目指す人だけでなく旅好きの人にもおすすめの一冊。

 「地球まるごと私の仕事場!」枻出版社、監修・芦原伸(定価本体1200円+税)。