ユニーク三輪車で市内散策

 能登半島の付け根、石川県羽咋市にある「ちりはまホテルゆ華」では、昨年春に導入した「ウォーキングバイシクル」が人気を集めている。立った姿勢のまま、足を乗せたステップを左右交互に踏むことで前進するユニークな電動アシスト付き三輪自転車で、浴衣やロングスカートなど服装にとらわれずに利用できることも女性には好評だとか。

 すぐ近くには日本で唯一、車で走れる海岸「千里浜なぎさドライブウェイ」があり、三輪車で海岸を走る観光客も少なくない。同館では市内散策も楽しんでもらおうと、市内の観光施設や飲食店と連携し、各所をお得に利用できる観光手形も販売する。

 派手さはなくとも、ちょっとした居心地の良さが感じられるコトやモノ。それが本当のファンを生み出していく。

【塩野 俊誉】

キッズコースター導入、新キャラクターショーも(志摩スペイン村)

約1500人を先行招待
約1500人を先行招待

 志摩スペイン村は2月12日、マスコミなどを対象に今期の見どころを紹介する内覧会を開き、新たに導入したアトラクションやキャラクターショーなどを披露した。今回は、ネットで募集した一般客や地元の幼稚園児など、約1500人の招待客も参加し、一足早く新たな魅力を楽しんだ。

 新アトラクションは、以前から要望の多かった幼児でも乗れるジェットコースター「キディモンセラー」。バルセロナのアートな世界とモンセラー山を、精霊サラマンダーに乗って疾走する。3歳前後(身長90センチ以上)から乗車できるので、家族みんなで楽しむことができる。乗車時間は1分15秒。

 5年ぶりの新作となるキャラクターショー「ドンキホーテのアー・べー・セー・デー・エスパーニャ!」は、スペイン語のABCに合わせて、ドンキホーテたちがスペインの楽しさや情熱を唄とコミカルなダンスで紹介する約25分のミュージカルショー。11月30日まで1日2回上演する。

 今年のフラメンコショーは、フラメンコの本場、セビーリャの春をテーマにした「フィエスタ・デ・セビーリャ」を上演。スペイン三大祭りの一つである「春祭り」や闘牛、聖週間などを、情熱的な唄と踊りで表現する。上演時間は約25分。期間は11月30日まで。

 このほか、4月22日には「キッチン」「航海」「闘牛」をテーマにした3Dトリックアートが体験できる新アトラクション「3Dトリックツアー」も登場する。

 今期の営業期間は来年1月9日まで。ゴールデンウイークや夏休みはナイター営業を実施。6月27日から7月1日までは休園となる。

 また、今期から大人パスポートが5300円、小人パスポートが3500円になるなど、入園料金が一部改定した。

ウェブ小説で誘客、堀江氏ら著名人が執筆(福岡県)

著者と小川知事(前列右から2人目)
著者と小川知事(前列右から2人目)

 福岡県は2月12日、福岡県を舞台にしたウェブ小説「ぴりから」の配信を開始した。誘客促進を視野に、同県を愛する7人の著名人がリレー形式で執筆し、毎週金曜日に1作品ずつ配信していく。これに合わせて同日、東京都内で完成披露イベントが行われ、同県出身で起業家の堀江貴文さんや直木賞作家の東山彰良さんなど、7人の執筆者と小川洋知事が出席。企画の概要や小説のあらすじなどを紹介した。

 「ぴりから」というタイトルは、各小説に、名物の辛子明太子のように“ぴりから”な格言が込められていることから付けられた。物語には「大宰府天満宮」や「炊き餃子」をはじめ、実在の場所やグルメなどの観光情報が盛り込まれ、小説と連動した県発行の観光ガイドブック「ふくおか本」も製作・配布を開始した。小川知事は「ウェブ小説を読んだあとは、ガイドブックを手に、ぜひ物語の舞台・福岡県へお越しいただきたい」と話す。

 著者はほかに、放送作家の鈴木おさむさん、小説「ビリギャル」著者で塾講師の坪田信貴さん、フリーアナウンサーの小林麻耶さん、読者モデルの田中里奈さん、コピーライターの佐々木圭一さんの計7人。堀江さんと東山さん以外は他県の出身だが、福岡ファンとして観光誘客を応援する趣旨に賛同し、短編小説に挑んだという。

 企画にも携わった佐々木さんは「観光動画ではない、ウェブを使った観光PRの新しい手法を目指した」とし、「小説を読み終えた人のみ、各著者のとっておきスポットが閲覧できる仕掛けも用意した。小説を楽しみ、実際に福岡を訪れてほしい」とアピールした。

大賞は「水戸芸術館」、イメージアップ大賞(茨城県)

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 茨城県のイメージアップにつながる活動や取り組みを表彰する「2015年度いばらきイメージアップ大賞」の表彰式が2月5日、東京都千代田区の都道府県会館で開かれた。今年度の大賞は「水戸芸術館」、特別賞の「ウラ大賞」には県非公認キャラクターの「ねば~る君」が選ばれた。

 水戸芸術館は昨年、開館から25周年の節目を迎え、同館長で世界的指揮者の小澤征爾氏をはじめ国内外で活躍する芸術家たちが活動を継続的に発信し続けている場となっている。また、子供たちへの教育プログラムや市民参加型プロジェクトなどの自主企画事業を積極的に実施しており、身近で多彩な芸術文化の発信基地として茨城のイメージアップに貢献している点が評価された。

 表彰式では水戸芸術館の小澤館長や、同館を運営する水戸市芸術振興財団理事長を務める世界的デザイナーの森英恵さんらが登壇。小澤館長は受賞のあいさつで、茨城とのゆかり話と感謝の言葉を述べた。受賞者には橋本昌茨城県知事から表彰プレートのほか、副賞の常陸牛、茨城県産のコシヒカリ、アクアワールド茨城県大洗水族館の招待券などが手渡された。

 大賞以外の表彰団体は次の通り。

 【奨励賞】2年連続どんぶり王座「友部サービスエリア(上り線)」▽ラムサール条約登録湿地「涸沼(ひぬま)」

5年かけ草創1300年祝う、西国三十三所が記念事業

厳かな読経が行われた
厳かな読経が行われた

 日本最古の巡礼所33寺院で構成する西国三十三所札所会(会長=鷲尾遍隆・石山寺座主)は1月26日、東京都台東区の浅草寺で会見を開き、2018年に草創1300年を迎えることを記念し今年から20年までの5年間、「西国三十三所草創1300年記念事業」と題し、特別行事を展開していくことを発表した。鷲尾会長は冒頭「1300年記念は奈良の長谷寺を開いた、徳道上人に由来したもの。石山寺での33年に1回の開白法要を事業の幕開けとし、5年間かけてお祀りしていく」とあいさつした。

 同事業は観音様の「慈悲の心」を多くの人に知ってもらうため、(1)慈悲の心を表したロゴマークの設定(2)各札所の特別拝観(3)月参り巡礼(4)徒歩巡礼(5)スイーツ巡礼(6)アメリカ人が巡る西国三十三所巡礼――の6つの柱を設定した。ロゴマークには「1300年前、観音菩薩が人々を救うために示した観音霊場」という西国三十三所独自のストーリーを具現化し、ハスの花に立つ観音菩薩が、三十三所のルートを身にまとい、人々を見守っているイメージをロゴマークに採用した。ロゴマークは、スイーツ巡礼に参加しているスイーツのパッケージに用いられるほか、旅行会社や各札所の名物菓子を製造販売している企業などにも無料で提供を行っている。

3番札所粉河寺の黒豆大福
3番札所粉河寺の黒豆大福

 女性や家族で楽しめる新しい巡礼の形として企画された「スイーツ巡礼」は、各札所で長年愛されている〝お寺スイーツ〟を食べ歩きながら、巡礼を楽しんでもらい、寺院を身近に感じてもらうために考案された。現在、各札所のスイーツ100種類以上が同巡礼に参加することが決定しており、今後さらに数を増やし、スイーツを通じた寺院への参拝のきっかけづくりを行っていく。

 会見当日は、僧侶33人による同事業の成功を祈念した読経も行われた。

観光業者がバス運行、限界集落の交通手段に(山梨・昇仙峡)

昇仙峡地域でバス運行を 始める村松資夫社長
昇仙峡地域でバス運行を
始める村松資夫社長

 山梨県甲府市北部の奥昇仙峡・黒平地区とその周辺で4月から、地元の観光業者による循環乗合バスの運行が始まる。同地域はシーズンには観光客でにぎわう一方、利用者の減少を背景に、冬季の路線バス運行が約2年前から一部区間で廃止。車を持たない高齢者などの地域住民や観光客などから、交通手段の利便性向上を求める声が上がっていたという。

 これを受け、昇仙峡で観光施設などを経営する「さわらびグループ」の村松資夫社長が一昨年、バス運行会社「昇仙峡渓谷オムニバス」を設立。住民など利用者からの電話予約を受け、バスを運行させる。高齢化や過疎化により社会的な生活インフラの維持が困難となる“限界集落”地域の交通手段を支える、新たなモデルケースとしても注目が集まっている。

 バスの運行ルートは、県営グリーンライン駐車場を起点に、北部の金櫻神社や荒川ダム駐車場などを結ぶ。冬季(12―3月)には、路線バスが運休となる南部の千代田小学校方面にも立ち寄る。14人乗りのマイクロバス(車種NV350)4台体制で対応し、専用の運転手も雇用する。乗車料は1区間当たり300円、4枚綴りのチケット利用で250円。

 ただ、ほぼ実費という乗車料収入だけでは事業の継続は難しく、村松社長は「市の地域公共交通会議の場でも、収支に対する声が多かった」と話す。そこで考えたのが、観光客にもバスを利用してもらう仕組み作りだ。

 昇仙峡は秩父多摩甲斐国立公園にあり、新緑の時期など、渓流沿いでハイキングを楽しむ観光客が多く訪れる。バスの利用料は同じく1区間300円、チケット利用で250円に設定。村松社長は「バスだからこそ行ける、黄金色の桜が咲く金櫻神社や紅葉や新緑がすばらしい野猿谷、秘境といわれる板敷渓谷など、まだあまり知られていないスポットにも案内できる」といい、徒歩でまわる散策コースにバスを組み合わせた、周遊観光の提案を目指す。

 バス運営費用の直接支援も募る。1口1万円で、支援者には御礼として、地元住民が作ったマタタビ酒や日本蜂蜜、新鮮な山菜、刺身こんにゃくなど季節の品が送られる。村松社長は「高齢者が多い地域住民の仕事の支援にもつなげていきたい」とし、「バスの運行が昇仙峡の新しい魅力を知ってもらう一つのきっかけになれば」と話す。

 問い合わせ=電話:055(251)8899。

ふくしま産業賞受賞、地産地消や保育園開設で(ホテル華の湯)

昨年7月に企業内保育園を開設
昨年7月に企業内保育園を開設

 第1回ふくしま経済・産業・ものづくり賞(ふくしま産業賞、主催=福島民報社)の福島民報社賞に福島県磐梯熱海温泉の栄楽館・ホテル華の湯(菅野豊社長)が選ばれた。地産地消の推進や県内の旅館として初めて企業内保育園を開設したことなどが評価された。

 同賞は福島の産業や雇用の創出、伝統工芸の発展など、県内の活力を高める業績や活動を顕彰しようと創設された。今回は県内89社・団体の応募を選考委員会で評価し、最高賞の知事賞(大七酒造)など25社・団体を選んだ。

 宿泊業としての受賞は栄楽館・ホテル華の湯が唯一。福島民報賞は知事賞に次ぐ表彰。食の地産地消を進め、県内食材の安全性、魅力を発信し復興に貢献したことや、企業内保育園を開設し女性の活躍を推進、人材確保の先進的な取り組みに力を入れていることなどから受賞が決まった。

No.423 第15回訪日フォーラム開く、拡大成長の4市場に着目

第15回訪日フォーラム開く
拡大成長の4市場に着目

 2015年の訪日外客数は1973万7000人と過去最高を記録。2000万人突破を目前に控え、日本政府は次なる目標として3000万人突破を打ち出した。日本政府観光局(JNTO)は1月27、28日に第15回「インバウンド旅行振興フォーラム」を開き、海外15事務所の所長らが東京に集まった。15年の最大訪日市場となった中国、釜山市場の成長が著しい韓国、中期戦略に癒しの旅を掲げた香港、LCC増便によりFIT層が増加した台湾(3面)の4市場の動向を紹介する。

【松本 彩】

 
 
 
【中国】

 中国訪日市場は、2015年の訪日旅行者数が499万3800人と、14年の240万9千人から倍増以上の伸びを示している。昨年の流行語大賞に「爆買い」が選ばれたように、中国国内からの訪日者数は年々増加傾向にあり、中国の旧正月である春節(2月7―13日)前後の大型連休に合せた訪日がすでにピークを迎えている。昨年、訪日中国人旅行者による爆買いによって人気が高まり、グーグルの「15年に世界で最も検索された日本の地名ランキング」で2位となった銀座では、今年も「爆買い」が繰り広げられそうである。

 昨年、訪日中国人旅行者が最も訪れた時期は、7―8月の夏季休暇時期。とくに昨年は8月単月で訪日者数が59万人と、非常に多くの人が日本を訪れている。夏期休暇以外に訪日者数が多かった時期は、3―4月の花見シーズンで、日本の桜の魅力が中国人のなかで浸透してきていることが伺える。…

 

※ 詳細は本紙1619号または2月26日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

“多様化で世界取り込め”、急増する国際観光人口、デービッド・アトキンソン氏

デービッド・アトキンソン氏
デービッド・アトキンソン氏

 世界観光機関(UNWTO)によると、2015年の国際観光客到達数は14年から5千万人増の11億8400万人となった。「新・観光立国論」の著者、デービッド・アトキンソン氏は、急増する世界の観光市場のなかで、訪日観光客は2030年までに8200万人に到達できる潜在能力があると評価する。一方で、観光の「多様性の実現」が進まず、世界の旅行者を取り込めていないとも指摘する。1月26日、東京都内で開かれた同書の山本七平賞受賞を記念した同氏の講演の内容を紹介する。
【丁田 徹也】

 デービッド・アトキンソン氏は「日本の観光の潜在能力について分析したところ、2020年に5600万人、30年に8200万人が訪れるだけの力を秘めていることがわかった」とし、「世界の観光人口は約11億3300万人(14年)で、このうちの5%弱の市場が取れる計算だ。UNWTOは30年までに世界の観光客が18億人に増えると試算しており、現在その予測を上回るペースで増加している」と語った。

 8200万人の潜在能力は「シェアが5%弱から4・5%まで下がると仮定したうえでの分析で、極めて保守的な数字」としている。15年に訪日外国人1973万人を達成したばかりだが、「伸び代はまだ充分にあり、日本の観光で取り組めていない『多様性の実現』でさらに上のステージに進める」と強調した。

 まず取り掛かるべき多様化は「国」とした。14年の国際観光客11億3300万人のうち、最も大きな市場は欧州で、5億7500万人を占める。次いでアジアが2億6800万人、米州の1億9千万人と続く。アジア2億6800万人市場のうち、日本のシェアは4・2%の1113万人を占めるが、訪日客のうち中国・韓国・台湾の3カ国が60%以上を占めており、「多様性が実現できているとは言えない」と指摘し、これから狙うべきは最も大きな市場の欧州とした。「国際観光市場の半分が欧州でありながら、日本には欧州から108万人しか来ていないところを見ると、最大のチャンスは欧州にある。海外市場はインバウンドの半分が近隣諸国から来ているので、8200万人の訪日客のうち4千万人をアジアの近隣国から、残り半分を欧州から来てもらうとバランスが良い」と語る。

 米州については、「日本は割とフォーカスしてきたが、市場が1億9千万人と欧州に比べて小さく、南米から米国への観光など内部での移動が多いため、外部への移動が約9千万人しかない。米国はパスポート取得が先進国のなかでも少ないということも関係しているだろう」と分析する。

 「国の多様化」が実現すると、次は「目的の多様化」の段階に移る。訪日観光は現在“買い物”が象徴的だが、観光は“スポーツ”や“文化”“農業”など多くの楽しみ方があり、「東京や大阪に買い物客が集中しているが『目的の多様化』が実現されると、例えば“文化”面で京都や奈良、和歌山などに観光の可能性が広がる」と強調した。

 「ハード・ソフトとその価格の多様化も重要」と語る。「欧州の文化財は平均入場料1980円だが、日本は平均で593円。1980円に慣れている欧州の観光客を取り込むならば、価格設定を考え直すと良い。イギリス・バッキンガム宮殿は約3千―6700円と幅のある入場料を5種設定しており、料金が高くなると説明のグレードも上がりガイドも付く」というものだ。

 「『発信の多様化』も求められるようになる」という。「日本の海外PRは日本人目線のアピールが多く、文化に頼りすぎる傾向があった。よく桜をPRしているが、1週間も咲くかわからない桜を全面的に出すことで『桜が咲く期間以外は見どころが無い』というメッセージを間接的に送っている危険性もある」とした。「春夏秋冬・東西南北の魅力についても考えるべきで、食べ物についても“和食”だけでなくさまざまな日本の食があることに留意すべき。世界72億人の属性の数だけ発信すべき情報はあるのに、あまりに文化に偏っていると、文化が好きな観光客しか来なくなる」。

 最後に「日本はいい国ですよと抽象的なPRをするのではなく、国・所属・趣味・目的・滞在期間・費用を分析し、より専門的にビジネスの感覚を取り入れることでPRの効果が高く表れる」と語った。

人と会う旅 ― 日々、心に響く旅を創り出している

 ドラマチックな旅とはどのような旅だろう。

 もちろん、人によって異なることは百も承知であるが、旅を考える場合、誰もが心のどこかにドラマチックな何かを求めているはずだ。いうまでもないが、ドラマチックでない旅は、憂鬱なだけだからだ。

 ちょっと想像すれば、旅は憂鬱になることばかりだ。出発の朝は大抵いつもよりも早く起きなければならない。荷物もやたら多く、そのうえ重い。目的地までに多くの交通機関に乗り換えなければならないし、足が棒になるほど歩くこともザラだ。身体は疲れるし、出費も半端ではない。新幹線チケットや、航空券、パスポートなどの事前の準備も面倒くさい。

 家で柿ピーを食べながら安ワインを飲むよりも多くの苦難が予想されるのに、「旅に出たい」と思ってしまう。なぜか?

 理由は一つしかない。それら苦難を凌駕するほどの楽しみや価値があると信じ、期待するからだ。

 ある人は、壮麗な世界文化遺産や雄大な自然に触れることを希求したり、美術館めぐりや、演劇やコンサートなどエンターテイメントを楽しんだりする。美味しい料理や、お洒落な店でのショッピングが目的の場合もある。世界的に有名なホテルで優雅な時を過ごす自分を夢見ることもあるだろう。いずれもワクワクさせる要素が満載だ。

 しかし、不思議なのは、これら素晴らしい景色も、美味しい料理も気が合わない人と一緒では、気分は高揚しない。一方、ありふれた観光地や、何度も行ったことがある目新しさのない場所であっても、好きな人との旅行となれば、料理も美味しく感じるし、見慣れた海や山も輝いて見える。旅の成否は、どこに行くかという「場所」よりも、誰と行くかという「人」の方に、より大きく関わっていることが分かる。

 初めて訪れた街は、よほど嫌な思いをしない限り、美しい思い出として胸に描かれる。だから、そこに再訪したいと考える。けれど、そのような楽しい思い出が詰まった旅先に再び1人で訪れるとき、言い知れぬ寂しさを感じてしまう。

 街や風景はそのままなのに、自分の心が以前とは変わっている。1人での再訪の旅で味わう、少し切なくなる瞬間だ。その場所に誰か知り合いがいれば、思い出を分かち合うことができるし、新たな思い出を作ることができる。そしてそのことこそが、旅の醍醐味である。

 旅先に「会いたい人がいる」というのは、幸せなことだと思う。さらに、「人と会うこと」が旅の目的であるならば、何とドラマチックな旅であろうか。

 久しぶりに会う旧知の友人と、美味しいレストランで一緒に食事をしてお互いの近況を語り合う。ディナーまでの空いた時間に、再会するシーンを想像しながら街を観光する。また、もし友人の自宅に招かれたりすることがあれば、それは最も素晴らしい旅の瞬間である。

 観光客誘致に向けて多くの地域が工夫をしている。そのなかで「優れた観光資源がない」「まったく知名度がない」などの悩みをしばしば耳にする。しかし、その街の住民たちは日々遠方の友人と小さなドラマチックな出会いをしているかもしれない。だとしたら、知らないうちに観光名所を眺めるより、もっと心に響く旅を創り出しているのだ。

(編集長・増田 剛)