最北の地から朝カフェ案内

 日本最北の地・稚内で、今夏も市内宿泊者限定の早朝ツアー「朝カフェ西海岸909」が実施される。稚内ホテル旅館業組合などの企画。地域の魅力を伝え、宿泊客増を狙う取り組みは3年目を迎える。

 市内中心部から約20キロ離れた「こうほねの家」が会場。テラス席からはスイレン科のコウホネが黄金色の花を咲かせるサロベツ原野、さらには日本海に浮かぶ利尻冨士が望める。ツアーは1日20組限定。バスの往復送迎、コーヒー、パン(2個)が付いて1人1500円。

 あいにくの天気で絶景が見られない日は「歓迎メッセージ」入りのコースターがそっと添えられるという。地元の人たちが、北海道らしい風景を最高の形で楽しんでもらおうとテーブルを用意する。企画は、その席への案内状のように思う。

【鈴木 克範】

佐藤女将ら20人受賞、17年観光功労者大臣表彰

 国土交通省はこのほど、2017年観光関係功労者国土交通大臣表彰受賞者20人を発表した。4月24日の表彰式(=写真)で石井啓一国土交通大臣は、受賞者に対し「今までの活躍への感謝と今後の活躍を期待する」とあいさつした。

 受賞者は次の各氏。

     ◇

 【ホテル業・経営者】
 林文昭(第一ホテル代表取締役社長)

 【ホテル業・従事者】
 岡田啓利(富士屋ホテル・霞ヶ関別亭桂料理長)▽坂本和俊(帝国ホテル・帝国ホテル東京調理部ペストリー課専門職課長)▽佐保寿博(プリンスホテル・箱根仙石原プリンスホテル洋食調理)▽野田明孝(ホテルオークラ・営業部担当部長)▽廣瀬典子(京王プラザホテル・宿泊部)▽南方幸藏(ロイヤルホテル・リーガロイヤルホテル〈大阪〉セールス統括部セールス担当支配人)▽下代仁志(倉敷国際ホテル・料飲部料飲サポート課主査)▽村中賢三(リーガロイヤルホテル広島・グループサービスチーム調査役)

 【旅館業・経営者】
 工藤冴子(矢野旅館代表取締役)▽齋藤厚志(日本旅館協会北陸信越支部連合会長野県支部副支部長、いづみや旅館代表取締役社長)▽小野善三(日本旅館協会関西支部連合会常任理事、綿善代表取締役)▽新山富左衛門(古湧園代表取締役)▽下竹原和尚(指宿白水館取締役会長)

 【旅館業・女将】
 佐藤幸子(旅館古窯大女将)▽松村美代子(萩本陣取締役、総女将)

 【旅館業・従事者】 
 村山邦雄(ホテル佐勘支配人)

 【旅行業・添乗員】
 百合道弘(ツーリストエキスパーツ添乗員)

 【観光レストラン業・経営者】
 小倉宏之(国際観光日本レストラン協会理事、小鯛雀鮨鮨萬代表取締役会長)

 【観光レストラン業・従事者】
 髙澤秀爾(安与商事・新宿京懐石柿傳調理長)

【JNTO・松山良一理事長インタビュー】“稼ぐ力”地域で高めたい、外客ニーズ親身に対応

JNTO・松山良一理事長

 海外PRやMICE誘致、訪日外国人旅行者の受入体制支援、市場分析など、多様な業務を担う日本政府観光局(JNTO)。各国・地域の海外事務所は日々、来訪者増を目指し、積極かつ戦略的なPRを行う。今回、松山良一理事長を訪ね、PR戦略や受入体制の整備支援を中心に話を聞いた。デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション(DMO)や、ホームシェアリング(民泊)に対する考えなど、海外経験豊富な同氏ならではの透徹したビジョンを示した。【謝 谷楓】

 ――JNTOのPR戦略について

 PR戦略としては、まずビッグデータの活用や、デジタルマーケティングの推進など、データに基づく確かな市場分析を心がけています。

 国内では、地域の新聞社と連携した訪日外国人旅行者受け入れのシンポジウムなどを開いています。“地方への誘客”を掲げ、観光による恩恵を地域に広げる取り組みに力を注いでいます。

 JNTOでは、商談会を主催するなど、海外のバイヤーと国内セラーをマッチングさせる役割も担っています。消費の底上げのために、欧米豪や富裕層向けのPR強化も行っています。リピーター獲得のため、受け入れの“質の向上”も大切な要素です。

 ――PR事業でとくに気をつけていることは。

 世界各国・地域の市場によって異なるニーズに、きめ細やかに応えることが大切です。一例を挙げると、アジアは買い物が、欧米は体験がしたいというように、来訪者のニーズの違いが顕著です。訪日外国人旅行者の“目線”に立ったPR戦略を立案実行することで、取り込み拡大に寄与しています。数多くある魅力の中から、ポイントを絞り込んだPRをすることも大切です。

 ――需要把握の方法について。

 受入体制整備の重要性を発信することも、JNTOの役目です。訪日外国人旅行者や、対応する旅行会社の声を集めるために、アンケート調査を行い、訪日外国人旅行者からの要求など、事例収集もしています。

 例えば、無線LAN(Wi―Fi)アクセスポイントや海外発行カード対応のATM増加、キャッシュレス環境の改善に関しても、官民連携で取り組みを強化しています。

 ――DMOへの期待について。

 せとうち観光推進機構(せとうちDMO)や北海道観光振興機構(北海道DMO)など、成功事例が増えています。地域事業者の主体性を引き出す取りまとめ役の存在が、成功の秘訣のようです。地域一体となった取り組みを可能にする“核”が求められているのです。来訪者のターゲティングも、成功につながる要素だとされます。

 今後も、これら事例を全国に向け発信し、成功事例を1つでも多く増やしたいと考えています。

 ――せとうちDMOは2月に部会(せとうちDMOメンバーズ)を立ち上げました。地域事業者の“稼ぐ力”を促進する活動が、一層本格化しています。
 成功事例が増えるなか、“強いところをより強くする”ことが必要です。DMOが、地域を売り込む受け皿として機能したら、連携してPR活動を行っていきます。

 世界では現在、商談を中心としたビジネスマッチングが活発です。

 JNTOが行う商談会ではこれまでも、ホテル・旅館といった事業者が、自治体とともに参加してきました。DMOなら、セラーとして地域の情報発信だけでなく商談に特化した対話が可能です。今後、DMOの数が増えれば、世界の潮流に適した商談会の実現も期待できるのです。

 ――3月に住宅宿泊事業法案が閣議決定されました。民泊の可能性は。

 地域にある空き家の活用や、訪日外国人旅行者の宿泊対策など、プラットフォーマーをはじめ、民泊に取り組む事業者への期待はとても大きい。

 一方、公正な競争が可能となる仕組みづくりを実現していかなくてはなりません。例えば、旅館業法では、食事や消防の面で細かい規定が多くありますが、民泊に関しては未だ十分ではありません。騒音やゴミ出しの時間といった近隣住民とのトラブル対策についても法律での規制が進められている最中です。この2点が実現される前提で、推進していくのが良いのではないでしょうか。

 ――松山理事長は夕食後のレジャー不足を課題として捉えてきました。

 既存のコンテンツを、夕食後にも楽しめるよう工夫する必要があります。例えば、博物館や美術館は開館時間を延ばし、歌舞伎や文楽などは夜8時以降も観劇できる仕組みづくりができるはずです。明治座(三田芳裕社長、東京・日本橋)では昨年から試験的に、ナイトプログラムとして“SAKURA -JAPAN IN THE BOX-”を上演しています。こういった仕組みが整えば、訪日外国人旅行者により余裕を持って日本食を堪能してもらえます。消費増加も望めるはずです。

 国内のホテルで、国際放送が見られる環境が、もっと普及できたら良いと思います。工夫1つで、訪日外国人旅行者の需要に応えられますから、決して難しいことではありません。

 ――ツーリズムEXPOジャパン2017では、主催者となりますが。

 国内と海外、訪日旅行の関係者が“三位一体”となって顔をそろえる同EXPOは、とても良い方向に進んでいると思います。今後は連携をより深める必要があります。

 先程取り上げましたが、海外バイヤーと国内セラーのマッチングによる訪日旅行の商談会促進は、同EXPOでJNTOが担う大切な役割の1つです。

 ワールド・トラベル・マーケット(WTM、英国・ロンドン)やITB BERLIN(独・ベルリン)といった、欧州の見本市はまさに、この商談会が中心となっています。ITBは、メディア関係者が5千人、業界関係者だけで約11万人が集まる大型イベントです。大臣など各国の観光リーダーが一堂に会するため、注目度がとても高く、ビジネスの“場”として世界で広く認知されています。

 観光産業を育て、地域の“稼ぐ力”を高めていかなくてはなりません。基幹産業にしていくためにも、同EXPOを、世界から注目される“場”とすることが必要です。

 日本観光振興協会や、日本旅行業協会(JATA)とも相談を重ねながら、働きかけていきたいです。

 ――ありがとうございました。

ビールで地域創生、キリンが食と体験を発信

古田氏(左)と地域のプロデューサー(中央3人)、
林田氏(右)
い手を育て全国でつなぐ「キリン地域創生トレーニングセンタープロジェクト」はこのほど、ビアツーリズムを始めた。食を通じた地域体験と、昨年キリンビールが売り出した「47都道府県の一番搾り」を組み合わせた。ビールを共通項に各地域の食の魅力を伝える。1つの基準で求心力を強めて全国展開し、新たな商機を探る。

 具体的なビアツーリズムの受付や販売を行う事務局は丸の内トラベルラボだ。今年1月にウィラーが開設した。食・旅・地域を研究して、統合的な支援を行う機関となる。今回は地域が考えるコンテンツをプロの目線でサポートし、実際の商品へと作り上げる。地域までの交通はウィラーが提供する。

 ウィラーとラボは、コンテンツの作成から情報発信、2次交通、フォローアップまで総合的に行う。一貫したプラットフォームで支援する仕組みづくりをはかった。

 「これまで地域からの発信は弱かったが、ビアツーリズムを通して全国に届けられる。さらに今回はキリンさんのチャネルで告知も可能だ」。同プロジェクトを運営するumariの古田秘馬代表は3月24日の会見で、新たな仕掛けに期待を示した。 

 そもそもキリンが行う同プロジェクトの根幹に、2011年の東日本大震災がある。

 同社は仙台工場が被災し、同7月から「復興支援 キリン絆プロジェクト」を開始。さまざまな支援を行ってきた。

 その後「東北復興・農業トレーニングセンター」を13年から始めた。東京からの人的支援と農業者をつなぎ、関係を構築してきた。とくに農業経営者の育成支援に力を入れた。

 この経験を生かし全国で広めるため、昨年4月に同プロジェクトを実施。食文化から新たな価値を創造する地域の「プロデューサー」を、これまで100人ほど輩出した。

 ビアツーリズムはこれらの活動の中で自然と持ち上がってきたという。

 キリン執行役員CSV本部CSV推進部長の林田昌也氏は「我われがつくるビールを通じて、地域を元気にしていきたい」と想いを語った。

 今回のビアツーリズム第1弾で、全国8カ所のツアーを造成した。同日の会見で3人のプロデューサーがツアーを紹介。新潟県・長岡から来た食文化プロデューサーの鈴木将氏は「ビアツーリズムで外から人を呼び込めれば、地元の人が元気になる」と期待を寄せた。

 今後は第2弾が続けて発表される見通し。一過性で終わらないために「地域が稼げる仕組みをつくる」(古田氏)ことが課題となる。

クルーズ事業を柱に、18年GW、2隻同時チャーター(阪急交通社)

(左から)NCLのフェリックス・チャン氏、MSCクルーズジャパンのオリビエロ・モレリ氏、横浜市港湾局の伊東慎介氏、阪急交通社の松田誠司氏、平藤実氏

 阪急交通社(松田誠司社長)は、2018年のゴールデンウイーク期間(4月28日―5月6日)に、日本初就航となるMSCクルーズの「MSCスプレンディダ」とノルウェージャン・クルーズライン(NCL)の「ノルウェージャン・ジュエル」の2隻を同時チャーター。合計9日間の横浜港発着クルーズを2本同時に行うことを発表した。

 4月10日に東京都内で行われた会見で松田社長は、同社の中期経営計画において、主力である募集型企画旅行を持続的に成長させるために、クルーズ事業を大きな柱として位置づけていることを報告。「新たな時代を迎え、急成長が見込めるクルーズ事業を重要な柱として押し進め、クルーズ業界のリーディングカンパニーを目指していきたい」と意気込みを語った。同社は今後、国土交通省が掲げる「2020年に訪日クルーズ旅客500万人」という目標達成のため、インバウンドに向けたクルーズ事業への取り組みも強化する。

 MSCスプレンディダは全長約333メートル、最大乗員数は4363人と、その大きさは東京タワーを横にしたサイズに匹敵する。同船にはドレスコードがあり、船内では高級感漂うイタリア風の雰囲気を感じることができる。

 同船を利用した「桜舞い踊る春色クルーズ」では、9日間の日程で青森・釜山・福岡・神戸に訪れ、GW期間中最も注目される2大祭り「弘前さくらまつり」と「博多どんたく」を楽しむことができる。船内には日本人対応の専用デスクを設置。MSCクルーズの日本語スタッフや100人を超える阪急交通社日本人スタッフも乗船するため、言葉の心配なくクルーズを楽しむことができる。

 航海中はイタリア船ならではのオペラやクラッシックコンサート、イタリア語講座など、あらゆる世代や旅のスタイルに合わせたイベントを計画している。

 ノルウェージャン・ジュエルは全長294㍍、最大乗員数は2878人で、その大きさは横浜のランドマークタワーを横にしたサイズとほぼ同じである。同船は自由で陽気な雰囲気が特徴のクルーズ船で、ドレスコードや食事のときの座席指定などがないため、好きな時間に気軽に食事を楽しむことができる。

 同船利用の「南国の楽園夏色クルーズ」は、春色クルーズ同様9日間の日程で、高知・那覇・石垣島・台湾(基隆)を巡る。坂本龍馬の故郷である高知では、日本を代表する清流・四万十川を訪れるほか、高知市内ではご当地グルメの数々を堪能する。同船も日本人対応の専用デスクなどが設置されるため、言葉の心配はない。

 クルーズ中は、那覇から石垣島の区間で阪急交通社オリジナルイベントとして、夏川りみさんによるスペシャルコンサートを行うほか、船上夏色運動会なども実施する予定。

 旅行代金は、MSCスプレンディダが「内側ベッラ」を2人1室利用で大人1人9万9800円。ノルウェージャン・ジュエルは「内側キャビン」を2人1室利用で大人1人11万9800円。なお、大人2人と同室利用の場合、13歳未満の子供は2人まで無料となる。

 同日の会見には、MSCクルーズジャパンのオリビエロ・モレリ社長、NCLでアジアセールス担当のフェリックス・チャンヴァイスプレジデントも出席。今後も日本人顧客に対し、クルーズによる最高の旅を提供することを伝えた。

愛され、感謝と惜別。、野口冬人さん偲ぶ会に160人

野口さんとの思い出を語る文殊荘の幾世淳紀氏

 旅行作家・野口冬人さんを偲ぶ会が4月24日、東京・池袋のホテルメトロポリタンで行われた。野口さんと親交の深かった約160人が献花し、思い出を語り合った。瀧多賀男氏(水明館)、首藤勝次氏(大丸旅館)、佐藤好億氏(大丸あすなろ荘)、佐藤洋詩恵氏(日本の宿古窯)、幾世淳紀氏(文殊荘)が出席者を代表して感謝の言葉を述べ、別れを惜しんだ。

 また、旅行新聞新社の石井貞徳社長が、野口さんの長女・鈴木ふじ代さんに「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」の選考審査委員を野口さんが長年務められたことに対して謝辞を述べ、感謝状を贈呈した。

 野口冬人さんは、昨年12月13日に、前立腺がんにより死去。享年83歳。旅行作家の草分け的な存在であり、第一人者だった。謙虚な姿勢と人柄によって多くの山岳、温泉、旅行関係者に愛され、親しまれた。

 なお、現代旅行研究所が発行する「旅行作家『旅の眼』125号」で野口さんの追悼特集をしている。

 問い合わせ=電話:03(3362)9752。

旅行作家の草分け的存在だった野口冬人さん
石井貞徳本紙社長(左)から長女・ふじ代さんに感謝状

「ふるさとオンリーワンのまち」第9号認定、館山市の“多様性”が魅力(NPO法人ふるさとオンリーワンのまち)

津田令子理事長(左)と小金晴男会長(認定式で)
金丸謙一市長

NPO法人ふるさとオンリーワンのまち(津田令子理事長)は、独特の風土や伝統文化、産物、無形のおもてなしなどユニークな観光資源を、「ふるさとオンリーワンのまち」と認定している。3月29日には、館山市観光協会(千葉県)を第9号に認定。同市は「まるごと博物館・まるごと観光地」をコンセプトに、滞在型の観光地に取り組む。“多様な楽しみ方が一つに集う館山”を理由に、津田理事長が同市観光協会の小金晴男会長(当時)に認定書を授与した。

館山市は房総半島の南端に位置し、内房に面している。人口は約4万7千人。豊かな食材に恵まれ、ポピーをはじめ1年中、多様な花がまちを彩る。「南総里見八犬伝」の舞台になるなど、歴史的遺産や神社仏閣も散在している。

パネルディスカッションでは「館山市のこれから」が語られた

認定式で津田理事長は「私たちが地域の宝を発掘し、認定を始めて約5年。現在は約40人のメンバーが在籍している」とNPOの活動を紹介。「館山市観光協会にはこの認定をきっかけにして、より大きく羽ばたいてほしい」とあいさつした。小金会長は「素晴らしい認定書をいただき、感動とともに重みも感じている。すでに認定されている8件の地域の先輩方を見習いながら、ネットワークの一員として一生懸命勉強し、『オンリーワンのまちづくり』に努めていきたい」と謝辞を述べた。

金丸謙一市長も出席し、「館山の美味しい食べ物など、多様性を認めていただいたことはとてもうれしい」と述べ、「なんでもある館山市の総合力が認められたのだと思う」と語った。

認定式終了後には「これからの館山の観光振興」をテーマに、パネルディスカッションが行われた。同観光協会の小金会長と、観光まちづくりセンターの木村義雄室長(観光アドバイザー)、館山市経済観光部の上野学部長、NPOからは松陰大学観光メディア文化学部の古賀学教授、旅行新聞新社の増田剛編集長の両理事が登壇。コーディネーターは津田理事長が務めた。津田氏は「館山市には25年以上足繁く通っているが、何度訪れても同じ表情はない」と四季によって多様な姿を見せる同市の魅力を語った。

小金氏は「館山では観光は基幹産業。観光の必要性を市民にもしっかりと伝え、観光客にも伝わる“住民パワー”でお迎えしたい」と力説した。

同市に移住している木村氏は「多様性のある地元の食を『食のデパート』としてPRするなど、もう一度原点に戻って見つめ直すことが大事だと最近感じている」と話した。同市の上野氏は「34・3㌔続く海から見える富士山や夕日は、観光客だけではなく、市民の誇り」とし、海を活用したさまざまなスポーツイベントなどを紹介。市では移住定住にも力を入れており、海とともに滞在して過ごす「館山スタイル」も提案した。

古賀氏は「房総半島はサイクリングで1周できる」と説明し、「今後は2次交通として自転車で回れる起点づくりが大事」とアドバイス。増田氏は「館山はもともと別荘も多く滞在型観光地へのポテンシャルが高い」とし、「滞在客に安心感のあるまちづくりを目指してほしい」と語った。

当日、NPO一行は館山城(八犬伝博物館)や、ポピーの里館山ファミリーパーク、みなとオアシス“渚の駅”たてやまなどを視察し、館山の名物「炙り海鮮丼」も堪能した。

ポピーの里館山ファミリーパーク
館山名物の人気「館山炙り海鮮丼」

18年4月、15社を再統合、3つの事業ユニット設置へ(JTBグループ)

 JTB(髙橋広行社長)は18年4月にグループ会社15社を本社に再統合する。06年の分社化から11年。新統合会社では、新たに「国内個人」「国内法人」「グローバル」の3つの事業ビジネスユニット(BU)を設置。各事業会社がそれぞれのBUに所属し、各事業戦略の策定・推進を行う。オンライン旅行会社(OTA)の成長により激変する市場で、リアルエージェントとしての価値を提供する。【松本 彩】

 来年4月に再統合されるのは、JTB北海道、JTB東北、JTB関東、JTB首都圏、JTB中部、JTB東海、JTB西日本、JTB関西、JTB中国四国、JTB九州、JTBコーポレートセールス、i.JTB、JTB熊本リレーションセンター、JTB国内旅行企画、JTBワールドバケーションズの15社。再統合後の新統合会社では「個人」と「法人」の2つを軸にした事業単位の経営体制に切り替え、顧客ニーズに迅速に対応していく。

 新統合会社では、全社経営戦略・全社ガバナンスの責任を担うグループコーポレート機能に加え、事業戦略推進機能を担う(1)国内個人(2)国内法人(3)グローバル――の3つのビジネスユニット(BU)が設置される。国内個人BUにはPTS、エイ・ビー・アイ、JTB京阪トラベル、JTBメディアリテーリング、JTBグランドツアー&サービス、トラベルプラザインターナショナル、朝日旅行、JTBガイアレック、JTBサンアンドサン西日本が所属。

 国内法人BUには、JTBビジネストラベルソリューションズ、JTBコミュニケーションデザイン、JTBベネフィットが組み込まれ、グローバルBUはグローバル事業各社が入る。なお、現時点では対象会社が再統合後に法人格として事業を推進していくかは未定だが、来年4月の再統合までには体制を整えるという。

 現在の事業会社の営業所は「法人事業個所」と「個人事業個所」に分離し、それぞれのBUに所属する。また、国内・海外仕入造成会社などは、国内個人BUへの所属となる。髙橋社長が掲げる「仕入れを制する者が、営業を制する」という目標を達成すべく、製販一体体制を構築し、商品計画機能を強化していく。

 今回の経営体制の再編は、髙橋社長が新春あいさつで述べた「黄金の時間の果実を得る」ための〝仕掛けと変革〟として捉えることができる。昨今のFIT化やOTAとの競争激化によって、低価格のパッケージツアー商品の造成が難しくなるなど、リアルエージェントはさまざまな岐路に立たされている。来年4月の再統合化は同社が「リアルエージェントにしかできない〝ならではの価値〟を提供する」ための狙いもあると考えられる。

 同社は再統合化によって「深い感動と共感をいただける〝JTBファン(お客様)〟の拡大を目指す」ことを1つの目標として掲げている。同社の黄金の時間の果実を得るための仕掛けが、今後の旅行市場や、そのほかのリアルエージェントにどのような影響をもたらすのか、旅行業界全体の変革に向けた取り組みが始動した。

No.459 白玉の湯 華鳳・別邸越の里、社員が皆、同じ「型」を持つ宿に

白玉の湯 華鳳・別邸越の里
社員が皆、同じ「型」を持つ宿に

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が、その理由を探っていく人気シリーズ「いい旅館にしよう!Ⅱ」の第12回は、新潟県・月岡温泉「白玉の湯 華鳳・別邸越の里」の飯田美紀子女将が登場。「宿に定まった型があるからこそ、お客の動きが見えてくる」と内藤氏が語ると、飯田女将も「社員が皆、同じ型を持つことが大事」と応じるなど話題は多岐にわたった。

【増田 剛】

 
 

〈「いい旅館にしよう!」プロジェクトⅡシリーズ(12)〉
白玉の湯 華鳳・別邸越の里

内藤:創業されたのはいつですか。

飯田:1967(昭和42)年に、木造2階建ての客室8室と、中広間1室で開業しました。その後、75年に法人組織「ホテル泉慶」としました。
 開業当時はまったくお客様がいない状況で、先代の実母(橋本キヨ女将)は新潟市内のタクシー会社を回りました。当時、タクシーの運転手は夜遅くお客様を乗せても泊めてくれる宿がほとんどない状況でした。深夜だと新潟市内から約30分で月岡温泉まで来られるので、「おひとりでも連れて来てください」と頼み込み、タクシー会社に手数料も払ったと思います。
 母は夜中に到着されるお客様にも対応できるように、いつも洋服を着て寝ていました。「夜遅く来たのに、女将におにぎりを握ってもらった」とお客様に感謝され、次にお越しになられるときには早い時間にいらしていただけるようになり、お客様が次第に増えていきました。
 もともと月岡温泉の多くの宿は湯治の自炊旅館でした。82年に上越新幹線が新潟まで開業し、85年に関越自動車道がつながったことで、当館も増築と改築を繰り返しました。バス・トイレ付の客室は月岡温泉で最初に作りました。今でいうVIPルームです。
 90年に約3万坪の土地を買い、新館「華鳳」を97年に開業しました。オープン後、バブル崩壊によってどんどん景気は悪くなっていましたが、華鳳の開業人気に支えられて不景気の影響はあまり感じませんでした。しかし、01―02年ごろから売上も落ち、流れが悪くなってきました。面積も、人件費も2倍になったにも関わらず、売上は半分ほどに減少しました。厳しい経営状況のなかで02―04年の間に両親が亡くなりました。

 ――泉慶の姉妹館「華鳳」、さらに「別邸越の里」はどのような理由で建てられたのですか。

飯田:母はお客様に喜ばれようと、工事を繰り返していました。泉慶は増築、改築を繰り返したため、眺めのいい部屋や、古い部屋などが混在し、旅行会社にとっては団体客の部屋割が大変でした。大きな団体のお客様が来られても「同じような客室を提供できるように」と華鳳を作ったのです。
 そのうち、「華鳳はいつ行っても、団体客のように同じ部屋ばかりで面白くない」というリピーターのお客様も増えてきました。このため、07年には全20室がそれぞれ趣の異なるプライベートスイートの「別邸越の里」を開業しました。

内藤:先代からは、どのようなことを伝えられたのですか。

飯田:とにかく「お客様が第一」ということが根底にありました。
 「どんなことをしてでもお客様の要求を叶えてあげましょう」と母から教えられてきました。どうしたらお客様が喜び、感動され、笑顔になっていただけるか。感謝をいただくには私たちがどのような振る舞いで接するべきか――といったことです。
 とくに、お辞儀の仕方は細かく教わりました。お客様をお出迎えするときは、「あまり深く頭を下げ過ぎないように。初対面のお客様に頭を下げ過ぎてしまうと、あなたのお顔が見えないから、ちょっと横を向いて、笑顔を見せてね」と。
 また、お見送りのときは、「必ず笑顔で、しっかりと頭を下げて」と言われました。
 母は私たちの前では社員を叱りませんでした。どこで叱ったのかわかりません。おそらく役員室にコーヒーなどを持って来てもらったりしたときに、時間をつくって会話を交わしていたのだと思います。皆の前ではなく、社員と向かい合って「どうだったの?」と話を聞いてあげていたのではないかと思います。私自身もあまり叱られた記憶がありません。でも、今から考えると、しっかりと教えを受けているのです。…

 

※ 詳細は本紙1668号または4月27日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

2泊3日の旅 ― 「旅人に居場所をつくってあげる」

 旅とひと言でいっても、半日程度の小さな旅から、2―3週間の長い旅もある。どの旅にもそれぞれ魅力的な部分があるが、私は個人的に2泊3日の旅が気に入っている。2泊3日での旅となれば、現実的に国内各地、あるいは近隣のアジア諸国がその範疇に含まれる。沖縄や北海道、台湾や香港などに行くなら、現地での滞在をより満喫したいため、早朝に空港に向かう。少し眠いが早朝であるからこそ、これから始まる旅への期待がより高まっていく。

 2泊3日の醍醐味の1つは、旅の舞台となる滞在するホテルや旅館に連泊できることだ。 

 旅は、巡り合わせ、縁である。地球の反対側を旅して、名も知らないホテルに宿泊し、小さな街のレストランで食事をする。2度と訪れることがないだろう、と考えながら「いや、再びここを訪れる縁を築きたい」と思うことがある。街で一番の外資系ホテルに比べると見劣りがするが、滞在することで次第に心地よさを感じてくるホテル。言葉が通じないが何度か通ううちに、自分の店の客と認識してくれる店主。旅人は旅先では居場所がない。しかし、滞在するホテルや、通い続けるレストランは、寄る辺ない旅人にわずかな居場所を与えてくれる。

 1泊するだけでも、旅人にとって宿泊したホテルや歩いた街とは大きな縁になるが、2泊、3泊と滞在することで、より強固なつながりへと変わる。

 「日常的なしがらみから解放されて、どこかに旅したい」と感じることがあるが、潜在的に「未知なる旅先で新たな接点をつくりたい」という欲求があるのだろう。

 私自身、長期間をかけて地球の裏側に行くような大旅行をいつも夢見ているが、現実は、近くの海に行こうとオートバイに乗るが、途中で予測不能な雨が降り出してUターンしてくるといった、旅にもならない旅ばかりである。国内の温泉旅館に1泊2日の旅をすることもあるが、予定調和的にすべての物事が流れるために、心が高揚することは、もうほとんどなく、リラックスするというよりも、退屈してしまうのである。

 リラックスと退屈はどこが違うか。リラックスは何もしたくなるくらい心地よさを感じることだが、退屈は何かしたいのだが、何もすることがない状態だ。

 リゾートホテルの場合、2泊3日では短いと感じる。一方、多くの旅館は1泊2日がまだまだ主流であり、滞在する客のことを想定したつくりになっていない。滞在中に客に退屈させないために、面白いショーをやったり、雰囲気のあるバーを作ったり、体験プログラムを用意するのも1つの手段かもしれない。

 だが、それ以上に大事にしなければならないものは、「旅人に居場所をつくってあげる」という意志である。

 例えば、温泉旅館の岩風呂に入る場合、岩の組み合わせ具合が絶妙なポジションを探す。しかし、そのような場所は1カ所か2カ所で、あとは背中に突き出た岩があったり、頭の置き場がなかったりと長時間のんびりできない。また、浅すぎたり、逆に座ると鼻まで浸かるようなところもある。客室前の廊下に椅子を置いている宿もあるが、そんなところでくつろげるはずもない。まずは、2泊3日の旅で滞在したいと思える宿が日本にも増えてくることを期待したい。

(編集長・増田 剛)